金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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この世界線のヤン、結構性格悪いです(^^
アンネローゼは……何も言うまい。




第064話:”ヤン・ザ・ブラック(初級編) ネタ晴らしにアンネローゼを添えて”

 

 

 

「人を騙すコツっていうのはね、”99の嘘の中にたった1つの真実を混ぜる”か、あるいは”99の真実の中にたった1つの嘘を混ぜる”なんだよね」

 

ハイネセンを出港した護衛船団が、最初の超光速(ワープ)航法に入るなり、ワイドボーンやラップら同じ巡航艦”バーミンガム”に乗り込む船団幕僚を()()()集め、お茶会の体を装いながら、ヤン・ウェンリーは楽しそうに切り出した。

怪訝な顔をする幕僚……後の(ヤン)家一門軍”、毎度おなじみヤン・ファミリーとも730年マフィアをもじって”ヤン・マフィア”とも呼ばれることになる集団の中核メンバーは、揃って怪訝な顔をした。

具体的には、『コイツ一体何言ってんだ?』と表情で無言の台詞を訴えていた。

 

「なに、我々の行動を四方八方にばらまいてくれるマスゴミ……失礼。マスコミの目もなくなったことだし、そろそろ今回の作戦、そのネタ晴らしでもしようかと思ってね」

 

ヤンはいつも通りブランデー入りの紅茶、比率的にはブランデーの紅茶割で喉を潤しながら小さく笑う。

 

「結論から先に言えば、今回の積み荷の9割はアスターテで降ろすよ

 

「「「「はっ?」」」」

 

今回の欺瞞工作、その片棒を担がされた……というより、腐れ鬼畜上司(グリーンヒル)から無期限無条件貸出され、散々こき使われ、その日々を思い出し死んだ目になってるバグダッシュを除き、益々『何言ってんだ?』オーラが強くなった。

 

 

 

「そもそも今回の作戦は、今やアスターテ星系に本拠地を移しつつある”エル・ファシル特別防衛任務群”から発案された”イゼルローン要塞駐留艦隊の誘引作戦”から端を発してるんだ。原案では、情報操作でヴァンフリート星系の第4惑星第2衛星にイゼルローン要塞の大規模監視基地を作るって欺瞞情報を流し、誘い出す予定だったんだけどね……」

 

とヤンは一度言葉を切り、ブランデーの紅茶割を一口飲むと、

 

「だけど、それじゃあ私にはどうにも不十分に思えてね。だから、」

 

ヤンはニヤリと笑い、

 

「”嘘から出た実”、輸送艦を(しつら)えてペイロードの9割方を有人基地設営の資材で埋めたのさ。どうせ集めた資材で本当に基地を作るのか探る連中は出てくるだろうから。なら、」

 

ぺろりと舌を出した。

 

「本当にそういう資材を集めたのさ。どう探っても疑う余地のないようにね」

 

「ちょ、ちょっと待てヤン! まさか、今回の作戦を考えたのって……」

 

ラップの質問にヤンは小さくうなずき、

 

「当然、原案を作ったのは私だよ。ただし、形的には情報部の発案になってるし、表向きは特別防衛任務群からの要請で統合作戦本部が了承した輸送任務ってことになってるから、他言無用で頼むよ? まあ、私は情報部のエリートじゃないし、公的な身分は”ただの大学生”だからね」

 

『例え軍大学だとしても、お前のような大学生がいてたまるかっ!!』と全力でツッコミたいのを、下腹部に力を込めてグッと抑えるラップ。

この我慢強さは称賛に値する。まあ、本質的にはおっかないジェシカ・エドワーズを娶ろうとするなら、このくらいの胆力は必要だろうが。

 

ついでに言えば、パシ……手伝わされたバグダッシュは『ほとんど独力で計画書完成させたくせに……』と口の中でもごもごとつぶやいていた。

 

少しだけ誤解を解いておけば、ヤンは確かに肉体的な運動は寝技(意味深。まあ寝技に限らないが……)を除きかなり苦手だ。だが、首から上はガチの”超人級”だった。

要するに、頭脳労働に関しては人類規格外級の集中力と持続力、タフネスさを見せるのだ。

そして、今のヤンには原作ではエル・ファシルでガス欠を起こしたモチベーションもバイタリティーもある。

何しろ、朝にアンネローゼ謹製の朝食に舌鼓を打ち、軍大学にやってきて午前中を最大限に生かして計画を練り、昼にアンネローゼお手製の弁当をかっこみ、残った昼休み時間でタイマーをセットした大学備え付けのタンクベッドに潜り込み、無理矢理疲労を回復させると午後も計画練成にまっしぐら。

アンネローゼお手製の夕食に間に合う帰宅時間ぎりぎりまで作業を続け、周囲が驚くほど短期間で完成させたのが今回の作戦計画だった。

無論、同じくアンネローゼとの夜の営みにも不備はない。

というか、作戦作成にギリギリまで張り詰めたヤンのメンタルは、アンネローゼの乳房に吸い付く(オギャる)ことで、どうにか均衡を保っていた。

 

無論、その時のアンネローゼは別の世界(げんさく)で得られなかった幸せを取り戻すように、憂いという言葉がこの世に存在しないように慈母の笑みを浮かべながら、女の姉の母の雌の喜びと歓びと悦びを骨の髄まで味わっている。

すっかり骨抜きになり、依存心が極致に至り、三食に始まり洋服の着替えも何もかも私生活を一切合切自分に投げ捨てたこの駄目男(ヤン)が、アンネローゼは心から愛おしくてどうしようもない。

愛しさが体液となりあちこちから流れるくらいに。

 

 

 

「まあ、誰が立案したのかなんて些細な事さ。作戦の骨子は、『基地構築用の資材を満載』し、『ヴァンフリートへ向かう』ことだよ。だから積み荷の大半の降ろし場所が”ヴァンフリート()()()()”ってだけだ。これがさっきの”たった1つの嘘”って部分だね」

 

「だから待て。理解が追いつかないんだが……荷物はアスターテに置いていくんだよな? どうしてヴァンフリートへ向かう必要が? いや、囮になりに行くっていうのはわかるんだが……」

 

なんか釈然としないラップに、

 

「ラップ、正確には”積み荷の9割はアスターテに置いていく”だ。じゃあ、残り1割はなんだと思う?」

 

「えっ?」

 

ヤンは悪戯が成功したような顔で、

 

「答えは、『無人観測機材』だ。目標の上空から投下して、自立起動するタイプのね。まあ、これは最後の仕上げに使うものだから、別に実際に投下できなくても構わない。要はヴァンフリートへ向かう大義名分になればいいのさ」

 

 

 

「要するに、ただ囮に……”疑似餌(ルアー)”になるだけじゃ何とも無駄が多いし、更に空船を動かしたところで情報が洩れれば直ぐに怪しまれる。なら、私は考えたのさ」

 

ヤンは笑みに微かに黒いと評していい何かを混入させながら、

 

「この作戦、『護衛船団を動かす』って事象で、一体何が自由惑星同盟の利益に繋がるかってことをさ」

 

「ヤン、敵の誘引を第一優先事項(1st プライオリティ)とするのは変わらないんだろ?」

 

と質問するのは、士官学校では首席であり、ある意味性癖もぶっちぎりなペd……ワイドボーンだ。

 

「当然だね。だからこそ、ヴァンフリートくんだりまで向かうのさ」

 

そしてヤンはもう一度ブランデーの紅茶割で喉を湿らせ、

 

「いいかい? 今回の作戦の骨子は我々が敵を誘引するエサになることだけど、まずはアスターテの特別防衛任務群と合流する。そこで基地設営資材を降ろす。その目的は、『アスターテに本格的な恒久的艦隊駐留拠点』を構築する……実際には、今回だけの資材じゃ足りないからその下準備ってとこだね。リンチ中将の下には立派な工作部隊がいるそうだから、きっといい仕事してくれることだろう」

 

「それで?」

 

「リンチ中将から、護衛の増援を分けてもらうのさ。それも我々の船団の周囲には”襲おうと思えば襲えるけど、でも小艦隊では厳しい”程度のね。そうでもしないと、積み荷が『価値のあるもの』だと()()させられないからね」

 

「……小艦隊で襲ってくる者もいるだろうけど、それで歯が立たないなら当然……」

 

「相応の数の艦隊で来るだろうねえ。我々を護衛もろとも磨り潰せるくらいの」

 

むしろ気楽な調子で言うヤンに、

 

「先輩、そこで全滅したら意味が…」

 

アッテンボローの言葉に、ヤンは意味ありげな表情で笑う。

 

「アッテンボロー、我々は確かにエサだが、エサはエサでも”疑似餌(ルアー)”さ。大人しく食われたやるつもりはないよ?」

 

「???」

 

「さて、ここで問題だ。ルアーと釣り糸の先には、普通何が……誰がいる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

今回の話、要するに……

ヤン:「ただ輸送艦動かすだけじゃもったいないから、色々小細工することにした」

です(^^
もし、ヤン立案の作戦を予想していた方がいらっしゃるかもしれませんが、予想の斜め上を行けてたら嬉しいです♪

次回は、超久しぶりに帝国サイドの話でも入れようかな~と。


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