サブタイに深い意味はありません。たぶん、きっと……
さてさて、ここは銀河帝国イゼルローン方面最前線、アルテナ星系に浮かぶ人工天体、銀河帝国の知恵と技術と血税の結晶、天上天下唯我独尊ついでに東西南北不敗、難攻不落に関して世に並ぶ物なしな無敵無双の巨大要塞、”イゼルローン要塞”である。
まあ、正確にはその内部にある贅を尽くした豪華な内装と充実のアメニティが自慢の貴族専用サロン、平たく言えば大きな娯楽室なのだが今は……
「諸君! 今こそ我々は神聖なる帝国貴族の使命を果たし、皇帝陛下の
どうやら、貴族限定の決起集会場になっているようだ。
まあ、一皮むけば野心、あるいは欲に満ちたいきりたった顔をしていた。
まあ、無理もない。
今、イゼルローン要塞の中は『フェザーンより
曰く、『叛徒共が生意気にも帝国領たるヴァンフリートに基地を建設しようとしてる』
曰く、『しかもその基地は、事もあろうか我らが帝国の威の象徴たるイゼルローン要塞の監視を行うものである』
曰く、『更にその基地の建設資材を運ぶ船団を率いてるのは、我ら由緒正しき帝国貴族の顔に泥を塗った罪人、”エル・ファシルの三悪人”の一人、ヤン・ウェンリー!』
「なれば、復讐するは
「皇帝陛下! どうか我らが奮戦、御照覧くださいませっ!!
もし、この場に自由惑星同盟の人間がいたら、そのあまりに身勝手で自己中心的なな言い分に怒る前に呆れ果てるだろうこと請け合いだ。
そもそも、
……なんて事を気にする者が貴族の中にいるわけはない。いたとしても極めて少数派だろう。
☆☆☆
だが、幸か不幸かこのサロンにはその
「フン……俗物共が鼻息ばかり荒立てて。とても見れたものではないな」
そう元気いっぱいに戦意を湧きあがらせる貴族たちを、離れた席からグラス片手に冷めた目で毒づく
「”マールバッハ伯爵”、士気高きは結構なことではありませんか? 少なくとも
微笑みに同じく毒を混入させながら返すのは、華がある見るからに『絵に描いたような青年貴族』の優男。
「”ランズベルク
あえて爵位ではなく階級を強調して、未だに重い愛を注ぐ母から帝国開闢以来の名門の血を、実は血のつながらない、そしてそれを生涯知ることがなかった父より膨大な財産を継承する事を約束された銀河帝国の超サラブレッド”オスカー・ロイエンタール・フォン・マールバッハ”伯爵少将は応える。
そして、機嫌が悪そうな
「我が友オスカー、君は少々軍務に厳格過ぎるよ。平均的な貴族には、君の高い矜持は理解できないさ」
少し芝居がかった仕草と言いまわしのランズベルクだったが、
「矜持? そんな高尚なものじゃない、それ以前の問題だ。あのなぁアルフレット、我々は貴族であり軍人だ。二重の意味でその役割を果たせねばならん。それこそが『皇帝陛下より与えられた恩寵』、特権の対価と言うものだろう?」
驚くべきことに、”
いや、おかしいのはそれだけじゃない。
どうも言動やら雰囲気から察するに、帝国の誇る若い”戦争貴族”の中でも文字通りの若手トップを走るロイエンタールと、同じくトップクラスの実力者ランズベルクは、原作と比べてもかなりタイプが違うようだ。
ロイエンタールは、露悪趣味はなんとなくありそうだが……その卓越した戦闘センスは努力型の秀才タイプ、しかも性格は皮肉屋の側面はあれど質実剛健。おまけに母の愛と教育のせいで身持ちは固い。というか別にトラウマがないので女に飢えてないし、特に潜在的破滅願望もない。
その黒髪美しい整った外見と細身の長身が合わさって、『理想的な貴族軍人』の様相を呈していた。
一方、華やかな外見からどうにも軍人ぽくない……放蕩貴族が遊びで軍服を着てるかのような印象を与えるランズベルクは、逆に天才とまでは言わない物の芸術家らしく感覚タイプ、しかも割と陰謀とか暗躍に理解があり、「目的のためには
こんな正反対の二人だからこそ、この世界線では妙に馬が合うのかもしれない。
「それになアルフレット、俺はあいつらの言葉が白々くて好かん。何が帝国の藩屏だ。考えているのは自己の立身出世だけだろうに」
「それは致し方無いんじゃないかな? 彼らはこのままいけば、貴族とは名ばかりの末路しかないのだから」
これは少し説明が必要だろう。
銀河帝国も我々が知る封建時代の貴族と同じく、爵位や所領を継げるのは長男だけだ。
つまり次男以降は自活の道を見つけるしかない。
だが、そこに一石を投じたのはご存知”豪腕帝”……全盛期のハルク・ホ○ガンが如き肉体美を未だに誇り、別の世界線ではラインハルトの天敵だった
この”
そして、その取り潰した非戦派貴族の領地を、その討伐で活躍した爵位を継げない貴族に男爵位(爵位の中では最下位)と、接収した領地を分割して与えた。
これが豪腕帝以外の二つ名、”男爵量産帝”の由来である。
まあ、このあたりの下りは『第044話:”戦争貴族”』でも触れた部分ではある。
ここまで書けばわかると思うが、今血気盛んな雄たけびを上げているのは、『帝国貴族に相応しい武威(=戦果)を上げ、男爵位と領地が欲しい貴族の子弟』が中心だ。
「あさましいことこの上ない」
そう断じるロイエンタールに、
「僕はむしろ憐れみを感じるけどね」
ヘラヘラと笑うランズベルク。
「連中、間違いなく出るだろうな。無理やりにでも」
「そりゃそうさ。せっかくの立身出世のチャンス、飢えてる彼らがみすみす見逃すはずないよ」
ランズベルクふと真顔になり、
「例え、見え透いた罠だとしてもね」
「……やはりお前もそう思うか?」
「当然じゃないか。今回の情報は整合性が取れすぎてる。ここまで信憑度が折り紙つきな上に揃いすぎた情報は、むしろ意図的に用意された可能性が高いよ。多分だけど、意図的な情報漏洩もありそうだ」
ランズベルクはふふんと笑い、
「まあ、今回の目的はヴァンフリートに基地を設営することじゃなくて、イゼルローン要塞の駐留艦隊の誘引ってところじゃないかな? どっかの”お馬鹿さん”が後先考えずに狩りゴッコになんて行くから、自由を愛する紳士諸兄は狩人ぶった巣穴に引きこもる害獣を間引きしようとでも思ったんだろうねえ」
「”自由を愛する紳士諸兄”? まあ、確か音楽はフリーダムだな」
苦笑するロイエンタールに、
「”のっぽのサリー”だっけ? オスカー、気に入ってたもんね」
「まあ、否定はせんよ」
今度、ロイエンタールを家に招待してフェザーンから取り寄せた秘蔵のミュージック・アーカイブを聴かせようかなーとか思いながらランズベルクは、
「それはともかく……実際、要塞の目と鼻の先なヴァンフリートに本当に監視基地を作られたら厄介だから、本当に輸送船団が来たら、例え罠だとわかっていても出撃するしかないんだけどね」
ロイエンタールは奇天烈なテンションで今にも出撃しそうな貴族集団に再び視線を向け、
「連中、それに気付けると思うか?」
「無理だね。彼らは古式ゆかしい帝国貴族らしく見たいものしか見ないし、信じたいものしか信じない……この作戦を立案したのが誰だか知らないけど、この反応もおそらく折込済みだろうから」
「今のうちに本国……交流のある連中に打診しとくか。俺の権限が及ぶ範囲で”出征の準備しとけ”とな」
まだ実害が出てない以上、帝国軍の正規ルートでの増援要請は要塞司令官ではない以上無理だが、親交ある貴族ルートで予備命令くらいはかまわんだろうと思うロイエンタールに、
、
「それはいいアイデアだ♪ 少なくとも自ら死地へ飛び込みたがってる輩を止めるより、よっぽど建設的だね」
(僕の方も手を打っておくか。イゼルローン要塞をスカスカにするわけにはいかないもんねぇ)
「オスカー、呼ぶなら可なるべく大勢に声をかけておいた方がいいよ? 僕もそうする」
「ほう?」
ランズベルクは未だに興奮してる集団を見ながら、小さくため息をつき……
「この調子じゃあ、随分と目減りするだろうからね」
読んでいただきありがとうございました。
この世界線では、ロイエンタールとランズベルクはかなり仲が良いです。
爵位が同じ伯爵で、非門閥だけど金や権力を持つ独立系非門閥、おまけに若い世代の”戦争貴族”の代表格と認識されてるなど、共通項が多いんで自然と友誼が生まれたようですよ?
個人的には、
ロイエンタール→キュア・ブラック
ランズベルク→キュア・ホワイト
だと思っています(えっ?
いや~、初代が始まってからもう15年以上経つんですねぇ~。
時がたつのは早いもんだ(^^
そして、二人そろってイキリ貴族を助ける気は皆無な模様(笑