そして、またしても新キャラが……
さて、公式名称では”YS11特務護衛船団”という味気の無いナンバーと名が振り分けられただけのヤン・ウェンリー中佐率いる合計26隻の護衛船団……同盟マスコミで最近使われるようになった”ヴァンフリート急行”が、5度目のワープ・アウトを行った時のことだった。
「ヤン中佐、各艦のワープ機関/通常空間機関に異常なし。以後、ワープ機関冷却とチャージ/航行通常メンテのため、24時間通常空間航行とする。以上」
まじめな性格のこの男らしく、口調こそ上官に対するそれとしては崩れているが、船団副司令としての役割をきっちりこなすラップ。
最初、ラップはせめて任務中くらいは普通の上官と同じように敬語で対応しようとしたが、その肝心のヤンが上官権限を振りかざし……『命令する。気持ち悪いからやめてくれ』と止めさせた。
ヤンが命令の使い方をまた一つ覚えたのは喜ばしいことであろう。多分。
ついでに説明しておくと、ワープ航法は便利だが距離には限界がある。更にその次元跳躍距離は機関出力の関係で一番跳躍距離が短い駆逐艦に合わせねばならないし、何より一回の跳躍でかかるワープ機関への負荷が大きい為、冷却とメンテやチェックは欠かせない。
という訳で連続使用はできないのだ。
同盟軍のマニュアルではよほどの緊急事態でない限り、安全マージン24時間のワープ使用間隔を艦種に関わらず推奨している。
安全第一、人命第一、人と宇宙に優しい軍隊を目指しています。
以上、自由惑星同盟軍広報よりのお知らせでした。
「なあ、ラップ」
「ここはブリッジだぞ? 今は任務中であり勤務中だ」
「上官命令。この任務限定で私が部下を呼ぶときは階級を省略する」
「こ、コノヤロウ……」
軽く拳を握るラップだが、その拳が飛んでこないことを確認したヤンは、
「アーネスト・ヘミングウェイ著の”老人と海”って古典文学は知ってるかい?」
「? いや、知らないが……」
「あれはとある老漁師が、苦労の果てに仕留めたカジキを巡ってサメと戦う話なんだけどね……ふと思ったけど、釣りなんて渋い趣味は、私のような若造の青二才より、人生経験豊富な老人の方が釣り糸を垂らす姿が絵になるとは思わないかい?」
よくわからない話題を振ってくるヤンにラップは困惑顔だが、
「……ヤン、その口ぶりだと根回し済みだね?」
と首席参謀のワイドボーンが童顔を向ける。
ヤンは何食わぬ顔で、
「まあ、それなりにね。という訳でワイドボーン、”エル・ファシル駐留艦隊”にこれから指定する暗号文を指向性
「アイアイ・サー」
委細承知とおどけた様子で敬礼を返すワイドボーンに、アッテンボローは不思議そうな顔で、
「えっ? ”エル・ファシル特別防衛任務群”じゃなくて……ですか?」
するとキュピィーンと閃いたのが、ブリッジに報告に来ていたフォークで、
「アッテンボロー、ヤン先輩は”老人と
フォークは純粋すぎて逆に心配になる瞳をヤンに向け、
「アレクサンドル・ビュコック少将?」
「正解。まあ、保険みたいなものだけどね」
ヤンは小さく笑い、
「それに何も釣り師の数を絞る必要はないだろ? なんせ……」
『今回は思いの外、大漁が期待できるかもしれない』とヤンは締めくくった。
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さて、ここはエル・ファシルの静止衛星軌道上、そこに坐する軍用宇宙ステーションを母港とする、かつての3倍の登録艦数3000隻を数える”エル・ファシル駐留艦隊”……
その中心に居座り圧倒的な存在感を示すのが、艦隊旗艦である”リオ・グランデ”だ。
アキレウス級旗艦戦艦の標準型に比べ100mほども長い、亜空間スタビライザーを含め全長1260mを誇る同盟/帝国合わせて現在最長の堂々たる大戦艦である。
アキレウス級の中でも、技術的な模索を行っていた時代に先行量産型とも言えるアイアース級(アイアース型とも言われる)の4番艦として建造されたこの船は、特に長射程砲撃を重視して設計された。
そう延長されたのは、艦首にある中性子ビーム砲の砲身長を標準型の倍近く取ろうとしたからだ。
ビーム砲の砲身とはまんま中性子の集束/加速器(中性子ビーム=集束中性子線)であり、同じ25cm口径中性子発生器でも砲身による集束率や射出速度が違えば、威力や射程は当然違ってくる。
まあ、原理は違うが同じ口径の火薬式大砲でも砲身長の長短で砲口初速が変わり、威力や射程が変わるのとイメージは近い。
要するに砲身が長いほうが威力も射程も上だ。
もっとも、火薬式で質量弾を撃つ大砲と違い、中性子ビーム砲のようなエネルギー兵器の場合、砲身長辺りの集束率や加速率を上げれば砲身が短くとも長砲身と同等の効果が得られる。
その特性を生かし、現在の同盟は”リオ・グランデ”で得られた長砲身中性子ビーム砲のデータを元に、威力や射程を落とさずよりコンパクト化する方向で開発が進められているようだ。
さて、原作世界同様に長間合いを武器とするこの船は、とある男……敵にすら『呼吸する軍事博物館』と称えられる名老将の乗艦だった。
「閣下、何を読んでらっしゃるのですか?」
その日、何故か楽しそうな表情で電文を眺める尊敬する上官を不思議に思った自由惑星同盟軍少佐、”アーノルド・フェイファル”はその理由を訪ねてみることにした。
軍の通信は通常、双方向リアルタイムの画像/音声の立体動画型だが、通信可能時間が短いとか通信容量が限られるとか、あるいは高い秘匿性を求められる場合などは、未だに電文形式の通信も割と使われる。
要するに軍用機密通信網のみで使われるEメールみたいな物だ。
だから、それ自体は不思議じゃないのだが……
「若い者からのお誘い、洒落た”釣りの招待状”じゃよ」
「”釣り”?」
二等兵からの叩き上げで閣下と呼ばれるまでに至った、戦場で人生の大半を過ごしたような”アレクサンドル・ビュコック”少将は、喉の奥でクックックッと笑い、
「”リオ・グランデ”を漁船代わりに銀河釣行と洒落こみませんか?とな。エサが良い分、随分と”大物釣り”になりそうじゃな。それとも漁船団を組んで大漁狙いと言った方が的確かのう?」
「は、はあ」
何を言われているのかよくわからずにリアクションに困るフェイファルに、
「フェイファル君、駐留艦隊3000隻の中から練度の低い船を、各艦種混合で1000隻ほど抽出しておいてくれ」
「了解しました。ですが、その……」
ビュコックは呵々大笑し、
「なに、ちょうど実戦演習をせねばならんと思っとったところじゃ。そろそろヒヨッ子共に戦場の空気を吸わせてやらねばのう」
ビュコックは発信者欄に生体認証済みのサインとヤン・ウェンリーの署名が入った電文と、その前に届いた統合作戦本部からではなくその裏口……情報部ルートから回ってきた高強度暗号文、ドワイト・グリーンヒル准将の署名入りの『イゼルローン回廊方面への訓練航海を促す』予備命令書を見比べてながら、
「既に必要な場所には根回し済みか。中々に頭の回る若者のようだのう。果たして何手先を読んでおることやら」
「閣下?」
「それにしても……
ヤンからの電文の最後は、こう締めくくられていた。
”豪腕帝により銀河帝国との戦争が激化する可能性が高まる中、名将の誉れ高きビュコック閣下はそろそろ中将に昇進し、正規艦隊を率いるに良い頃合いだと愚考いたします”
読んでいただきありがとうございました。
呼吸する軍事博物館ことビュコック爺様の初登場です(^^
名前は何度か作中に出てきましたが、いよいよ参戦みたいですよ?
ヤンらしい思考的やらしさや、腹黒さ(笑)とか出てれば嬉しいな~と。
次回あたりに、そろそろ合流するかな?