金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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いよいよノッてきたラインハルト様の演説後半戦と外堀埋め?




第007話:”炎舌(えんぜつ)”

 

 

 

Liberater(リベレーター)”……それは”解放者”という意味であると同時に、”アレイスター・ハイネセンの末裔”を自認する同盟市民が好んで自分達の呼称として使う言葉だ。

 

つまり、”同盟市民(リベレーター)”となる。

これは同時に自由惑星同盟、”Liberty(リバティ) Planets(プラネッツ) Alliance(アライアンス)”と対にして同根の言葉だ。

 

そしてこの世界線では、身分違いの恋を成就させるために同盟に亡命してきた両親から生まれ、育ちは完全に同盟のラインハルトは元々それを理解していたし、”異なる生き方をした自分”の記憶が流入し、融合したことでその事実をより客観的に、あるいは別の視点から見つめられるようになっていた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

同盟市民諸君(リベレーターズ)!! アレイスター・ハイネセンはオリオン・アームからの”ロンゲスト・マーチ”を敢行したとき、果たして屈辱を感じていただろうか? そんな筈はない! 彼は胸を張って長征を成し遂げただろう!!」

 

諸君!

先祖たちが経験した苦難に比べれば、今我々が追体験してる事柄など比べるのもおこがましいほどではないか?

 

リンチ少将は命を賭して我らが脱出するまでの時間を稼ぐと宣言した

そして我々は1万光年の1%も進まぬうちに、友軍の守る安全圏へと入れるのだ!

 

この程度、我ら同盟市民(リベレーターズ)にとり一体なんの試練になるというのだ?

 

だからこそ生き延びようぞ!

諸君にはリンチ少将がついている!

私もヤン中尉も、若輩ながら全力を尽くそう!

 

だが諸君! 自分の命を最後に守れるのは自分だということを忘れてはならぬ

そして今、すべきことは生存への努力だ

 

慌てる必要も怯える必要も焦る必要もない

粛々と淡々と、理路整然と迅速に脱出準備をすればよい

先祖達の苦難を思えば、なんと簡単なことか

 

同盟市民諸君(リベレーターズ)、心せよ!

一秒脱出までの時間が縮まれば、それだけ生存率が跳ね上がるのだ!

 

自由惑星同盟万歳(ハーレー・リバティ)!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

「いやはや大したもんだ。私ではああはいかない」

 

半ば呆れて苦笑するヤン。

無理もない。最後は集まった市民の自発的な「自由惑星同盟万歳(ハーレー・リバティ)!」の大合唱だ。

基本、同盟は名前からもわかるとおりドイツ語の亜流ともいえる帝国標準語より多くの言語形態を内包している。

 

ハイルと言わずに英語で同じく「万歳」を意味する”Hurray(ハーレー)”を使うあたり、意外とラインハルトも色々考えているようだ。

 

「フン……そこまで褒められたものじゃないさ」

 

そう照れ隠しに言ってしまうあたり、ツン乙なラインハルト様である。

 

「とにかくこれで脱出作戦は円滑に進められそうだろ?」

 

「ああ。おかげで逆に士気が上がりすぎて輸送船団(コンボイ)で敵艦隊の包囲網を強行突破しかねないほどさ」

 

「それは逆にマズイ気もするが……」

 

「まあ、なんにせよ積極的に協力が得られるのはありがたいよ」

 

ヤンはそう紅茶片手に微笑む。

市民の積極的な協力もさることながら、自らの意思で残った地上部隊の中で手の空いた者やリンチが残していった艦隊より降ろされた新兵達もまだ動きがぎこちなく不器用ながらも手伝いを買って出てくれており、おかげでヤンは別の世界線よりは苦労しないで済んでいる。

端的に言うならば、今のところ”一生分の勤勉さが枯渇するほどの苦労”はしていない。

 

 

 

「問題は、リンチ少将が稼げる時間の長さか……」

 

だが、同時に状況がなんら改善されていないこともまた自覚していた。

 

「先輩、時間もそうだが問題は敵の探索網が予想より広かった場合だが」

 

「それに関しては一応、策はあるさ」

 

「どんなだ?」

 

「船の探知阻害(ジャミング)システムをあえて切り、隕石群に擬態して哨戒網を抜ける」

 

事も無げに言ってのけたヤンに、ラインハルトは内心で舌を巻き、

 

「大胆だな? 偵察艇でも飛ばされて目視確認されたらアウトだぞ?」

 

「だから時間との勝負なのさ。リンチ艦隊と交戦中なら、いくらなんでもわざわざほぼ隕石群と十中八九おぼしきものをワルキューレ飛ばしてまで確認しようとは思わないからね」

 

「なるほど……一理あるか」

 

 

 

フレデリカからコーヒーを受け取ったラインハルトは、思慮深げに頷いた。

まさに蛇足であるが、フレデリカ・グリーンヒル……同盟軍のブルゾンを羽織り、ちょこんとベレー帽を頭に乗せていた。

サイズが合ってない……というか彼女にはかなりサイズが大きくハーフコートっぽくなってしまってるし、何より袖が長くいわゆる”萌え袖”っぽい。

 

実はこれ、ラインハルトが何着か持っているブルゾンの一着だった。

普段からサンドイッチやコーヒーなどの差し入れに加え、最近はほぼ従兵の仕事をこなしてしまってるフレデリカに流石のラインハルトも申し訳なく思ったのか、

 

『ミス・グリーンヒル、何かと世話になってる君に何か礼がしたい。俺に出来ることなら遠慮なく言ってくれ』

 

と申し出たところ、

 

『……二ついいですか?』

 

『かまわないさ』

 

『えっと……少尉さんと同じジャケットが欲しいです。できれば、少尉さんが着ていたものを』

 

『そんな物でいいのか?』

 

基本、ブルゾンは2着は二年に一度支給される官給品で、それ以上必要でも軍人なら普通にPXでいつでも購入できるし、基地祭などで民間人に解放されたときは普通に臨時設営の土産物屋に並ぶものだ。

 

ラインハルトも万が一や消耗を考えて1着を予備として購入していた。

流石に本物の認識票や階級章をつけたままというのはまずいが、そうでなければ問題はないだろう。

 

『無事に脱出できたら新品を買ってやってもいいんだが……俺のじゃサイズが合わんだろ?』

 

『少尉さんが着ていたのがいいんです!』

 

両拳を胸の前でぎゅっと握り力説されてしまえば、ラインハルトとしては別に拒否する理由はない。

 

『わかった。すぐに持ってこよう。もう一つはなんだ?』

 

『えっと……私のことは、ミス・グリーンヒルじゃなくってフレデリカって呼んでください♪』

 

 

 

このやり取りを横目で見ていたヤンは、「殺伐とした戦場でいい物を見た」と言いたげな生暖かい瞳で、

 

『若いってのはいいもんだな……』

 

と呟いたという。

この男、実はラインハルトと二つしか違わないことを忘れてるのではないかと時々思う。

 

ついでに……誰のとは言わないが、外堀は順調に埋まってるようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




不覚にもフレデリカが書いてて可愛いと思ってしまった……(挨拶

きっとラインハルトのブルゾンをベッドで着たままクンカクンカしてるに違いない(笑

フレデリカ、淑女化計画?


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