金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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サブタイ通りの内容かな?と。
今回、ちょっとラップが損な役回りかもしれません(^^




第072話:”覚醒の始まり ヤン・ウェンリーは戦争という事象に対して正直になった”

 

 

 

「な、なぜだ……なぜ、こんなことに」

 

帝国軍少佐ヨーゼフ・フォン・ゲルベンスは、炎に包まれる巡航艦”レマーゲン”のブリッジの中でどうしてこんなことになってしまったのか自問自答していた。

 

あまり裕福でない男爵家の三男として生まれ、嫡男の予備の予備として育った彼は、長兄に家督が譲られた時に自分が受け取れる物がほぼ皆無であることを知ったとき、素直に絶望した。

 

そして、自らの身を立てるために『貴族枠』がある銀河帝国士官学校に入学する。

その前、メルカッツ大佐、ミュッケンベルガー大佐が相次いで男爵位と領地を褒章と共に渡され、皇帝陛下の提唱した『戦争貴族』が大きくクローズアップされ、帝国貴族界隈で大きなムーブメントとなった。

 

ゲルベンスも、そうなりたいと願った。領地と爵位を賜り、堂々とした帝国貴族として立身出世したかった。

前出の社会情勢で多くの貴族子弟の同級生がいたが、その中でもそう悪くない成績で卒業できた。

ゲルベンス家は大貴族の門閥という訳ではなく、そのせいか貴族としては出世はそう早いものではなかった。

だが、ここまで来たのだ。

巡航艦の艦長となり、叛徒共に裁きの鉄槌を振り下ろして自らの栄達の糧とする……そのはずだったのに、

 

「こ、こんなところで……」

 

だが、どこからともなく叛徒の艦隊が現れて砲撃、何らかの対応をする前に直撃を喰らってレマーゲンは大破した。

叛徒を一方的に打ち据えるはずだったレマーゲンと自分は、一発も撃たないうちに瀕死の危機を迎えていた。

朦朧とする意識の中、ゲルベンスがこの世で最後に見た光景は倒れ来る白亜の柱(しにがみ)だった。

 

「か、かあさま……」

 

 

 

数秒後、レマーゲンは爆炎に包まれる。

なお、生存者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

『だぁ~はっはっはっ! ヤン、見たか? 俺様の”ギガドリル・ブレイク”をよぉっ!!』

 

「ええ。お見事でした」

 

機嫌が天元突破してるグエンに、ヤンはにこやかに答える。

実際、敵貴族艦隊の索敵が不十分だったせいもあり、グエンの戦隊を切っ先にしたYS11特務護衛船団の”突撃円錐陣形(ドリル・ブレイク)”による突破戦術は、半ば奇襲のような形になり”こうかはばつぐんだ!”であった。

 

ヤン側から見て右、帝国艦隊左翼はまるで塩が水に溶けるような勢いで瓦解……いや、むしろ消滅していた。哀れな巡航艦レマーゲンは、この時に致命傷を負ったのだろう。

ヤンの艦隊三次元的な表現なら10時方向下方から突撃/接敵し、咄嗟砲戦で火線を集中させ左翼を切り崩した後に勢いを殺さずそのまま4時方向上方へと抜け……

 

「では、お歴々……」

 

チュン・ウー・チェンが、グエン・バン・ヒューが、ラルフ・カールセンが、ライオネル・モートンが同時に頷く

 

「全艦隊、左旋回開始! 緩速回頭しつつ陣形を”水平陣形(パラレル)”に切り替え、敵後方より半包囲展開!!」

 

 

 

突撃からの咄嗟砲戦はただの始まり、究極的に言えば敵を混乱させるだけの呼び水に過ぎない。

後の歴史家や戦史研究者の一部が語る”ヤン艦隊の最初の犠牲者”に、今度こそ最悪の災厄が訪れようとしていた……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

ヤンは確かに敵艦隊が烏合の衆が如き動作から予想はしていた。。

 

『おそらく、こちらが反転砲戦を開始する頃に、敵は”柔らかい横っ腹”を見せているかもしれませんね』

 

予想していたが、現実はヤンの予想以上に悲惨だった。

 

『どうなってんだ……こりゃ?』

 

猛将の器たるグエンは、あまりに無様な敵の状況に首を傾げていた。

驚くべきことに敵艦同士がいたるところで衝突し、砲撃開始以前に半ば自滅していたのだ。

 

「おそらく、反転を命じたのでしょうけど、肝心の方向と速度を指示してなかったんでしょうね」

 

酷く冷めた目で、あるいはひどく淡々とした口調でヤンは告げた。

普通、艦隊運動は事前にコンセンサスを執る。

具体的には「どの命令で、どういう方向でどのような速度で動くか?」である。それが無ければ、即座に船同士が衝突してしまうだろう。そう、今の敵艦隊のようにだ。

おまけに、第063話で触れたが……船が展開する障壁”防護フィールド”は、その性質から互いが接触した場合には干渉をおこし、中和してしまう。

そうなれば、高速で動く金属の塊同士が直にぶつかるのだ。結果は考えるまでもない。

 

(おそらく、今回の艦隊……と呼べないような集団は、まともな事前打合せをしてなかったんだろう。普段、同じ艦隊で行動してない貴族の寄せ集め。きっと、そんなところだ)

 

まさに地獄絵図、阿鼻叫喚の様相を呈しているが、かといって手を緩める(いわ)れはない。

何より、こちらの準備は終わっているのだから。

だからこそ、ヤンは命じる。

 

「全砲門開け! 砲撃開始……!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

ただただ圧巻であった。圧倒的であった。

半包囲する自由惑星同盟艦隊から放たれた無数の集束高エネルギーは、半壊していた帝国貴族の艦隊を飲み込み、宇宙空間に数えきれないほどの爆光を煌めかさせた。

それはある種の美しささえ感じさせる物だったが、同時に数えきれない命が消える光でもあった。

 

「各艦、砲撃を続行しながら距離を詰めつつミサイル斉射用意。弾頭選択、レーザー水爆

 

「ヤン!?」

 

驚いたのはラップだった。

その命令は、士官学校以来の友人が発したとは思えないほど非情な物だったからだ。

 

「ラップ、今の我々には捕虜を必要としないし、捕虜を回収する余裕も生憎と無いんだ」

 

「だが……」

 

”後続の艦隊”だってそう余力はないだろう。そして目の前にいるのは自国領を侵犯してきた敵国の軍艦とそれを操る軍人であり、何よりまだ白旗を掲げてない」

 

「なら、せめてこちらから降伏勧告を……」

 

「平民に膝を屈しろと? 我々の誘いに乗りいきり立ってノコノコ出てきた貴族が、それを素直に受けると思うかい?」

 

「だが……」

 

「それに交戦規定に、降伏勧告は義務付けられてはいないよ」

 

尚も何か言いたそうなラップだったが、ヤンはひどく平坦な声で、

 

「ラップ、とても残念なことに我々は現在進行形で戦争をしてるんだ。そして私は船団長として……この船団の全員の命を預かる立場の者として、敵よりも味方の命を優先せねばならない」

 

「……ヤン、変わったな」

 

「そうかもね」

 

だが、ラップの言葉にヤンは影のない笑顔で、

 

「私にも”守るべき者”ができたんだ。変わらざるをえないさ」

 

ヤンは想像する。

かつて自分や義弟、リンチが目の当たりにした帝国貴族の艦隊がエル・ファシルに愚にもつかない理由で押し寄せた姿が、一歩間違えば守りたい……愛すべき者が住むハイネセンにも起こりうることを。

 

「だから叩けるときには叩く。徹底的に、ね」

 

その言葉に偽りはなかった。

ヤン・ウェンリーという男は戦争という事象を受け入れ、同時に戦争に対して正直になっていた。

 

 

 

この最初の戦いの後にイゼルローン要塞に帰還できた帝国艦は、最終的に500隻中20隻に満たなかった……そう記録される事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

ヤンの覚醒、その初期段階が発動したみたいですよ?
なので……

・「殺し過ぎて自分が虐殺者ではないか?」と思い悩む標準型ヤン・ウェンリーへの分岐、あるいは回帰√は消滅しました。

・銀河帝国軍人に対するヴァルハラへの大量輸送フラグが立ちました。

・ヤンに”黒魔術師”フラグが立ちました(えっ?


某転生粘体(スライム)の大賢者風の声で脳内再生お願いシャス(^^






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