金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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貴族のしがらみって、なんか面倒そうです(^^




第073話:”計算違い 初戦から紅茶スキーさんは色々やりすぎたようですよ?”

 

 

 

ここは(帝国的には)地の果て、イゼルローン要塞。

泣く子も黙る地獄の一丁目。功名を、栄達を求める貴族たちの流れ着く場所……

 

「すまぬな。(わし)は卿らに頼まねばならん」

 

その日、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ子爵大将は、階級では下だが爵位で上回る二人の若くとも信頼に足る貴族に、乗り気ではない様子でそう切り出した。

 

「いえ。これもお役目、気になさらずに」

 

敬意の感じる丁寧な返しのオスカー・ロイエンタール・フォン・マールバッハ伯爵少将。

常に気品はあるが、どこか露悪趣味的な慇懃無礼さがそこはかとある彼にしては、素直に敬意を表する相手はレアだ。

 

「”帝国貴族の高貴なる義務”ってやつですよ♪ それに敵を撃滅してこいっていうんじゃないですから気楽なもんです」

 

と言葉通りに気楽に返すのは、つい先日に銀河帝国軍少将に昇進したばかりのアルフレット・フォン・ランズベルク伯爵だ。

 

「それに僕としても少将の階級章を付けてすぐ、いきなり怠惰って評価は受けたくないですしね」

 

「すまぬ。将来を嘱望される卿らに、子供の使いのようなを真似をさせて」

 

「我らより手間のかかる”功名餓鬼(ガキ)”がいる以上、仕方ありません」

 

 

 

さて、このイゼルローン要塞に詰める”四人の爵位持ち(フォー・カード)”のうち、三人が顔を突き合わせているのは無論、理由がある。

 

それはついさっき、FTL(超光速)通信で、辛くもヤンの半包囲(からの)殲滅戦(レーザー水爆付)を生き延び、通信妨害エリアから脱出できた第一陣から緊急電が入ったのだ。

その受信したデータは想像以上に深刻な物だった。

 

第一陣の95%が壊滅したのも勿論だが、抜け駆け狙いからなのか? 二つの集団が500隻の最小単位で未だに行動してるのが問題だった。

無論、メルカッツは事前に『なるべく纏まって行動するように』と子供に集団登校を促すような通達をしていたのだが、どうやら出撃した貴族の半分がそれを聞き入れなかったようだ。

まあ、あえて命令という形にしなかったのは、半ばこうなる事がわかっていたから……実は、これも爵位持ちとなり貴族の力関係やら何やらを、知りたくもなかったことを知ってしまったメルカッツなりの気遣いともいえる判断なのだが、簡単に言えば「上官でもあり爵位持ちの貴族からの公式な命令を無視」ともなれば、例え生きて帰ってこられたとしても懲罰は免れない。

メルカッツも死体蹴りをする趣味はなかった。

 

流石に第一陣の惨状を見て、ヴァンフリート星系第4惑星付近に展開していた計1500隻の後方集団は危機感を覚えたせいでどうやら合流できそうだが、先行する2個の500隻集団は、彼我の距離から考えてどんな手を打とうが最早どうにもならない……味方が辿り着くまでに接敵、各個撃破されるだろうと予想していた。

 

(一応、先行集団には後退し、後方の1500隻と合流するように指示は出したが、)

 

おそらく面子の問題やら何やらで、素直に呑むことはないだろう。

第一陣の500隻の壊滅を確認したのに、まだ後退ではなく前進を選んでいることからもわかる。

 

しかも、音声通信では何とか生き残ったフォン持ち(きぞく)が『5000隻以上の大艦隊に包囲された』なんて、混乱してるのか虚偽報告なのか分からない報告を上げてきたが、ジャミングエリアを出たとたん回復したデータリンクでもたらされた戦闘ログを解析した結果、”ほぼ同数の敵に蹴散らされ、惨敗した”という結論が出たのだ。

 

 

 

無論、メルカッツも盟友であるミュッケンベルガーも頭を抱えた。

想像以上にひどい有様だったのだから無理もない。

二人のベテランの結論は、

 

『『これは1500隻の方も危ない』』

 

誤解のないように言っておくが、この戦争貴族の基準(スタンダード)を作ったと言える二人の子爵大将は、今回の件が誘引であることをちゃんと予想していた。

確かにヴァンフリート星系に基地設営の荷物を運んでいるだろうが……エル・ファシルの件があってそう月日が流れてないこの時期に、同盟の立場になればヴァンフリート星系に基地を作るより、いつマンハントなぞ始めるかわからない貴族を”間引きする”方が状況的に理にかなってると考えたからだ。

 

正直に言えば、メルカッツにせよミュッケンベルガーにせよ、下手に名家の門閥子弟が混じってるせいで扱い辛い若く野心あふれた貴族が『多少は痛い目を見て』逃げ帰り、多少なりとも扱いやすくなるなら、ある程度の犠牲は看過しようと思っていた。

だが、

 

(この損耗率は……無いな)

 

敵護衛船団の航路は、実は事前にもたらされた情報から外れていない。いや、むしろ不気味なくらい事前情報通りだった。

 

(おそらくは、全てが敵の作戦……そう考えた方が無難であろうな)

 

敵船団はこちらの艦隊が待ち受けていることを予想して……いや、むしろこちらが待ち伏せしていることを前提に準備を重ねていたということなのだろう。

 

(つまりほぼ同数でも、完膚なきまで返り討ちにできるだけの戦力を用意していたということか)

 

無論、読者諸兄は真相を知っているだろうが……これは、メルカッツの考えすぎだった。

ヤンは『貴族艦隊が、抜け駆け狙いで500隻の最小単位で襲撃してくる』事と、『それを各個撃破する』ことは想定していたが、ああも容易く瓦解することまでは想定していなかった。

 

だからこそ、ここで”計算違い”が生じたのだ。

ヤンの率いる”艦隊”の戦力を過大評価したメルカッツは、本来は機動予備として準備していた信頼できる二人の爵位持ち貴族提督、マールバッハ(ロイエンタール)とランズベルクに急遽、『迎え』を頼んだのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「それにしても、本当に叛徒と正面切って戦い、”救出”する必要はないので?」

 

確認するようにロイエンタールが問えば、

 

「ない。無理に戦うより、むしろこれ以上の戦力の損耗を防いでくれた方がありがたい」

 

ロイエンタールとランズベルクが依頼……命令ではなく依頼されたのは、あくまで撤退支援だった。

同盟の目的が予想通りイゼルローン要塞駐留艦隊の誘引と殲滅であれば、タイミング的に援軍として駆けつけ、窮地から「()()()()」のは難しいと判断され、もうロイエンタール達が着いたときには既に趨勢は決してるだろうから逃げ出すのを手伝え……つまりはそういう事だった。

敵兵力は500隻とは限らない。いや、むしろその部隊は輸送を兼ねた先鋒に過ぎず、後方に本隊があることさえ十分に予想される。

だが、現状こちらの哨戒網に引っかかってない以上、まだ本隊との距離はある……

 

(と思いたいものだな)

 

順当に考えるなら、現在場所が判明している500隻前後と思われる敵艦隊とこちらの500隻集団が接触する方が先だろう。

ならば、

 

(敗走するこちらの船を、可能な限り損耗を抑えて回収する必要がある)

 

メルカッツが一番恐れているのは、出した全ての艦が磨り潰されることだ。

そして古来より、撤退戦が最も損害を出すと相場が決まっていた。

 

「つまり、僕とオスカーが、味方が逃げ切るまで退路を維持すればいいってことですよね?」

 

「その通り」

 

ランズベルクの言葉にメルカッツは頷き、

 

「敵に追撃をあきらめさせられるのであれば、なお結構」

 

殿(しんがり)を固めるか……中々愉快な情景が見られそうだ」

 

そうロイエンタールは楽しげに微笑んだのだった。

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、ロイエンタール率いる艦隊1500隻、ランズベルク率いる艦隊1500隻の合計3000隻がイゼルローン要塞を出港する。

果たして、彼らが目にするのはどんな戦場なのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。


相変わらず苦労が絶えないメルカッツさんの回でした(^^
ヤンが()り過ぎたせいで、待機のはずだったロイエンタールとランズベルクが手勢引き連れて参戦することになったようですよ?

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