「半包囲から一斉射! 敵集団を先行集団の方向へ押し込むような感じで」
『了解した』
『任せておけっ!』
『うむ。いいだろう』
『了解だ』
四人の中佐達は、まだ粗削りだが間違いなく有能だった。
現状の配置を簡略図で書くと、
A→ ←B ←☆
☆:YS11特務護衛船団 A:ケッテン艦隊 B:エンテ艦隊
要するにヤンの艦隊が真後ろからエンテ艦隊を撃ちまくっているのだ。
前方へ全速で逃げるエンテ艦隊だったが、彼我の艦隊練度差は如何ともし難いためYS11特務護衛船団を引き離す事も出来ず、焦りのせいもあって集団を維持するのもそろそろ限界になり始めていた。
逆にケッテン艦隊はエンテ艦隊が撃たれてる間に反転、何とか回り込みヤン率いるYS11特務護衛船団の側面を突こうとしてるが、YS11特務護衛船団が常にエンテ艦隊をケッテン艦隊へ押し付けるように砲撃位置を移動/調節してるため、中々上手くいかないようだ。
下に恐ろしきは、ヤンの誘導と命令をかなりの精度で実行できる四人の中佐達であるが……それを差し引いても、はっきり言えば相手がまともな陣形も組めない、”艦隊というより軍艦の寄せ集め集団”だったからできた手だった。
(正規艦隊相手だったら、とても怖くて使えない手だけどね)
無論、ヤンもそのことは百も承知だ。
だからといって、別に油断はしていないのだが……だが、ヤンとて予想できないことはある。
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銀河帝国大佐ゲオルギウス・フォン・ケッテンは、ケッテン男爵家の長子として生まれた。
生まれながらに家督を継ぐことを約束された立場だったが、それでも満足できなかった。
男爵は爵位の中では最下層であり、領地は小さく農奴の数は少なかった。
二大門閥や、あるいは名門や他の大貴族との伝手やコネがあるわけではない。
公式な呼び名ではないが、領地や爵位を持っていても裕福でない貴族は、”
ちなみに現代銀河帝国語に定義される本来の意味のユンカーとは、”辺境封建貴族”を指す言葉だ。
故にまだ若く、野心のある貴族が更なる栄達を求めることは珍しくはなかったのだ。
ケッテンはそんな中の……そんなありふれた貴族の一人だ。
ケッテンは自分の継ぐ家が、『貧乏な田舎貴族』呼ばわりされることに我慢ならなかった。
一攫千金のような心情の家督相続ができない次男以降が大半の今回の作戦、”ヤン・ウェンリー討伐”作戦に志願したのは、そういう理由だからだ。
「俺は……俺は敗者にはならん! 俺は勝者となるべくして生まれた男だっ!!」
正直に言えば、ケッテンは他の家督継承権の持たない貴族を内心、見下していた。
今回の出撃メンバーにも紛れ込んでいるが、二大門閥や他の大貴族に末席に名を連ねる家の出身者もいたため、それを表立って言うほど愚かではなかったが、かと言ってどんなに小さな家でも家督を継げる俺とお前らを一緒にするなと思っていた。
そして現状、ケッテンにとって許し難いことに、小賢しいヤン・ウェンリー艦隊と自分の艦隊に挟まれ、敵艦隊の側面に回り込もうとするたびに右往左往し、自分の攻撃の邪魔してるのはその見下している家も継げない”
(俺の栄達を邪魔するかっ!)
もはや限界だった。
同じ貴族とは言え、もはや我慢ならなかった。
「全艦に命令! エンテ艦隊を正面より突破し、敵艦隊に肉薄し撃滅するっ!!」
「お待ちください、司令!! 危険すぎます! それにそんなことをすればエンテ閣下の艦隊を巻き込みますっ!!」
「わかっておるわっ、愚か者っ!! もはやエンテ艦隊は我らの敵艦隊撃滅を邪魔する障害にすぎぬわっ!! それは利敵行為と言っても過言ではないっ!!」
ケッテンには、どうやら「なぜ、エンテ艦隊が常に邪魔な位置にいるのか?」を想像できる思考的余力はなかった。
「エンテが我が艦隊の邪魔をするなら、強引に突っ切ってしまえばいいだけのこと! 敵がエンテを盾として使うのなら、それを貫いてしまえばよいだけのことっ!!」
ケッテンは手を大きく振り上げ、
「全艦に告ぐ! ”突貫戦術”用意っ!! 目標、ヤン・ウェンリー艦隊っ!!」
そして振り下ろした!
☆☆☆
その時、フェルディナンド・フォン・エンテ大佐は、ケッテン艦隊が一斉に回頭し自分達の艦隊へと
にわかには信じられなかっただろうが……ケッテンが何をしようとしてるのかを察したエンテは全身から血の気が引くような気配を感じながら、
「血迷ったかケッテンっ!!」
(まさか、あいつは俺の艦隊をすり抜ける気かっ!?)
グッと拳を握り、
「全艦、防御スクリーン出力全開っ!! 回避運動、自由!! 衝撃に備えろっ!!」
それは血を吐くような叫びだった。
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「バカな……」
エンテが見ていた敵小艦隊の行動を、ヤン・ウェンリーもまた見ていた。
だからこそ、先鋒集団(A集団)が何をしようとしているのか理解してしまったのだ。
同時にエンテが感じたのと同じ種類の悪寒が走る……
「正気……なのか!?」
そして、奇しくも口から出た言葉までも一致していた。
だが、それがその戦法を見抜いた者が誰しも感じる感情だろう。
ヤンが唯一エンテと違っていたのは、その勢力的立場と
(艦隊を正面から交差させ浸透、突破する気だろうけど……)
「随分、無謀なことをしてくれるじゃないか……だが、」
(そっちがその気なら、存分にやらせてもらうぞ……!!)
「全艦、全速前進っ!! 短距離砲雷撃戦、準備っ!! ミサイル弾種、”
ヤンが命じたのは、かなり強硬かつ強引な戦闘指示だった。
少し専門的な話になってしまうが……先の戦いで使ったレーザー水爆は、純粋水爆と呼ばれるジャンルの核兵器で技術革新で構造が単純でコストが安く、宇宙戦では割とメジャーな核兵器だ。
対して多段階水爆は、21世紀で言う”テラー・ウラム型水爆”と基本的に同じもので、例えばその代表格は2020年時点で人類史上最大の核兵器である”ツァーリ・ボンバ”であろう。
ツァーリ・ボンバは核分裂を高温が必要な熱触媒に使い熱核反応(核融合)を起こし、更に残留物質でもう一度核分裂を起こす三段階爆発が特徴だった。
レーザー水爆は構造的に熱触媒に核物質を必要としないため残留放射性物質が少なく、逆に多段階水爆は残留放射性物質はそこそこ出るが威力の割にコンパクトに製造できる特徴がある。
なので、小型核弾頭には多段階水爆が採用されている事が多く、ヤンが使用を命じた多弾頭ミサイルに複数搭載される自立誘導型小型弾頭もその一例だ。
その1発辺りの威力は、兵器だけでなく熱核反応炉(核融合炉)なども含む全般的な核反応物質の質量→エネルギー化変換効率が21世紀とは雲泥の差があるため、弾頭ははるかに小振りでありながら抑制される前のオリジナル・ツァーリ・ボンバと同じく100メガトン相当であり、自由惑星同盟軍の多弾頭水爆ミサイルには12発のこの小型弾頭が封入されているため、合計1.2ギガトンの破壊力があることになる。
弾頭一つ当たりの破壊力は通常のレーザー水爆が勝るが、ミサイル一発当たりの総合破壊力は多弾頭ミサイルが勝る。
ただし、調達コストは当然のように多弾頭ミサイルの方が高い。
ついでに言えば多弾頭ミサイルは、現代のICBMやSLBMに採用されてるMIRV構造を対宇宙艦船用に高速/高精度とするべく、この時代の技術で再設計した物と考えていい。
もっと簡単にイメージするなら、通常のレーザー水爆ミサイルを榴弾に例えるなら、多弾頭ミサイルはコントロールされた特定の距離を飛んで小型水爆をばら撒く榴散弾だ。
また、必然的に多弾頭ミサイルの方が弾頭の占める容積が大きいので、一般には通常のレーザー水爆ミサイルの方が同じサイズなら長射程だ。
「パイロット全員直ちに搭乗せよ!
ヤンの頭脳が一気に高速回転をはじめ、生成された全知全能がシナプスを駆け抜け、それが一気に破壊と殺戮の意志へと変換される!
「敵B集団の”
読んでいただきありがとうございました。
ケッテンさん、艦隊の練度も考えずヤムチャしやがって……(笑
ケッテン:「回り込めないなら、正面からエンテの艦隊すり抜けたらええやんけ! ワイ、天才!」
エンテ&ヤン:「正気かっ!?」
なんか、ヤンがまたしても物騒なことを考えてるようですよ?