ちょっと前振り長いですが、スターは昔から勿体ぶって登場するものなのですw
唐突だが、どうして自由惑星同盟と銀河帝国はわざわざ艦隊戦を行うのだろうか?
ワープ技術があるなら、巨大な質量やら無人兵器やらを送り込めば?と思うかもしれない。
事実、そういう物が主流になる時代もあるにはあった。
それも今から1000年以上前のシリウス戦役の時代の少し前だ。
この時代、地球政府は各植民惑星に対して大量の核兵器を内蔵した恒星間ワープ・ミサイルを、言わば恫喝の道具として大量保有していたのだ。
つまり、「地球の中央政府に逆らえば、容赦なく撃ち込む」という脅しだった。
事実、これはただの脅しではなく、実際に過酷な搾取に耐えられなくなった植民惑星が反乱を起こした場合、「見せしめ」として用いられた記録がある。
まあ、幸いにしてこの手段を用いると一方的に殴れる代わりに、せっかく大枚を払ってテラフォーミングした植民惑星が一切使い物にならなくなってしまう為、多用あるいは乱用ははされなかったようであるが……
ただ、この種の武器が廃れてしまったのは、皮肉にも宇宙船の全般的な技術進歩があったからだ。
第081話において、ワープ機関の欠点を上げたが、その中に『大質量の周辺には重力場干渉でワープアウトできない』というものがあった筈だ。
具体的に言えば、地球と同等の質量を持つ天体(60
1800光秒というと、現代艦隊戦における最大砲戦距離の3倍程度だから近く感じるかも知れないが、地球から火星までの距離が780光秒、地球から木星までの距離が最接近時で3000光秒だと書くとその距離の遠さを感じられるだろうか?
そしてワープアウトして通常空間に出たミサイルは光よりずっと遅い。
仮に当時の高速ミサイルが通信空間で光速の1%(秒速3000km、一般的な隕石の落下速度が秒速20㎞以下)程も出せたとしても、ワープアウト・ポイントから標的の惑星に到達するまで、50時間もかかってしまうのだ。
おまけにワープアウトすれば、特定波形の重力波を光速で全方位にばらまくから、当時でも探知に苦労しない。
はっきり言えば、もし惑星を守る……ミサイルを打ち落とす火力を持つ船があるとすれば、問題なく迎撃できる時間になってしまう。
事実、いざシリウス戦役の後半、ブラック・フラッグ・フォース(BFF)が結成され、軍事組織化された武装宇宙船が飛び交う時代になると、ワープ・ミサイルは無用の長物化したのだ。
いや、それどころかその存在は、時に地球政府軍の足を引っ張ったようである。
ヤンが好きそうな当時の戦記を紐解けば、本来はスタンディングアローン兵器の代表格であるミサイルを地球軍艦隊が護衛するという本末転倒な状況……地球の星間巨大ミサイル原理主義者が主導した、ジオンの『ブリティッシュ作戦』じみた惑星攻撃作戦が何度か戦時中に行われ、その都度に
結局、抵抗できない相手への脅迫手段に過ぎなかったミサイルだけに、無防備ないし貧弱な防備しかもたない惑星にしか使えず、またいざ艦隊戦に転用しようとしても、”ワープアウトした先、ミサイルのセンサー有効圏内に敵艦隊がいる”なんて事は奇跡的な確率であり、仮にその奇跡が起きたとしても振り切られるか迎撃されるかで全くの無意味だった。
そもそも、星撃ち用のワープ機関内蔵巨大ミサイルで、サイズ的にミサイルと大差ないうえに機敏に動く船を狙おうというのに無理があったのだ。
ミサイルの小型化も、ワープ機関のそれ以上の小型化が当時の技術では不可能であったため不可能(つまり、当時のワープ・ミサイルは限界まで小型化された武器であった)であり、歴史の仇花として消えていったのだ。
そのような古の戦訓があったからこそ、現在の宇宙戦でミサイルは近距離で、しかも通常空間でしか使われなくなったのだ。
☆☆☆
さて、長々と語ってきたが、スタンディングアローンの無人兵器は原作で言う……そしえ少し意味の違う『距離の暴虐』のせいでワープ兵器として大成することはなかった。
だが、一方有人ワープ兵器と言える宇宙戦闘艦は、更なる進化と発展を遂げ、またその戦術も洗練されていったのだ。
そして今、その進化と発展と洗練の果てにある結果の一つが、ヴァンフリート星系第4惑星付近で現出しようとしていた……
「先生方、よろしくお願いします」
ヤンは、ある種の感動と共にこの台詞を口遊んでいた。
『まさか、自分にこのセリフを口にできる幸運があるとは思わなかった』と……
会話の端々に出てくるので多くの読者諸兄は気づいているだろうが……原作の歴史マニアの設定が変異し、この世界線のヤン・ウェンリーという男、更にコアで熱烈な古典マニアだ。
それも大衆文化の娯楽、21世紀の分類でいう”サブカルチャー”の熱烈なファンで、映画/アニメ・ゲームなども大好物だ。
ただし、その他大勢の同盟市民と同じくヤンが好むのは、あるいは認めてるのは娯楽や文化が死滅しかけた『13日戦争以前(西暦2039年以前)=地球単一時代の黄金期』の物だけだ。
いわゆる”レジェンド”とか”オールド・アーシアン”とか様々な呼び方をされるその時代は、人によっては『人類が文化的な豊かさを最も享受できた時代』とされている。
その時代のとある極東の島国で流行していた歴史娯楽物の定番台詞を職務中に言える機会なんて、確かにそうはないだろう。
21世紀の日本に例えると、仕事中に歴史フィクションの登場人物の名台詞(例:横山三国志、曹操の「げえっ関羽」とか)を笑われることなく言えるシチュエーションのようなものだ。
そして、それを受け取る側もまた重要だ。
受け取る側が悪ければ、どんな台詞だって興醒めに違いない。
ましてや、受け取り手がいないなんて論外だろう。
だが、”彼ら”はやって来た……
『おうっ! 任せろっ!!』
その瞬間を待っていた野太いオヤジ声が、”バーミンガム”のブリッジに鳴り轟く!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
そう、”彼ら”はやって来たのだ。
アキレウス級旗艦型戦艦群の中で最もロックな船と評判の旗艦”ニルヴァーナ”のブリッジに陣取り、アドミラル・シートに座らず腕を組んで
「全艦、半包囲陣形のまま前進! 全力遠距離砲戦用意!
頭のネジをバーボンとロックで吹き飛ばした自由惑星同盟軍きってのイカレ親父、アーサー・リンチ中将のお出ましだっ!!
「さあ、おっぱじめようじゃねぇか……ゴキゲンなナンバーって奴をよおっ!!」
犬歯を剥き出しにして、ヤツは獰猛に笑う。
「Let Me Go, Rock 'N' ROLL! Baby !!」
西暦1977年……BUDOKAN HALLでその勇姿を見せたエース・フレーリー操るトリプル・ハムバッキング・ピックアップのカスタム・レスポールから弾き出される、ぶっ壊れたようなディストーション・サウンドが、音が届かぬはずの真空の宇宙を震わせるっ!!
読んでいただきありがとうございました。
やっと出てきました我らがリンチ提督!
いや~、この登場シーンを描きたくて、随分と引っ張ってきました。
”Let Me Go, Rock 'N' ROLL”は、往年のスーパーロックバンド”KISS”の疾走感溢れるナンバーで、エース・フレーリーはそのオリジナル・メンバーのギタリストで、問題児(笑)です(^^
トリプル・ハムバッキング・ピックアップのカスタム・レスポールは本家のギブソン社から”Ace Frehley“Budokan”Les Paul Custom”ってまんまな名前でシグネイチャー・モデルが発売されるくらい代名詞的な、ついでに超個性的なエレキギターです。
正直、リンチ中将の登場シーンってQueenにしようかKISSにしようかかなり迷ったのは内緒です(笑