金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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このエピソードから新章突入です。
結構、日常パート多めというか……章の最初の方は、今回の戦いの事後処理ばっかです。

GWだけどどこにも行けないので調子に乗って書いた分を、久方ぶりの深夜アップ♪

こんな時間にアップして、果たして読んでくれる方はいるのかな?(^^



第06章:”戦い終わって、日は落ちて……って宇宙で夕日は見えないか”
第087話:”いいですね? 無事に基地に帰着するまでが戦闘です”


 

 

 

「良いな」

 

ヴィルヘルミナ級旗艦型戦艦”フレイヤ”のブリッジで、オスカー・ロイエンタール・フォン・マールバッハ伯爵少将はクックックと喉の奥で思い出し笑いをしていた。

 

「ミッターマイヤー、歯ごたえのありそうな相手というのは、実に貴重だと思わないか?」

 

「先輩、なんか気に入ったみたいだな? まあ、先輩がそれでいいなら別に良いけど」

 

『なんだか妬けるね』

 

と通信で会話に参加してきたのはアルフレット・フォン・ランズベルク。今はロイエンタールと同じく伯爵少将だ。

 

「そう言うな。俺に一発も撃たせず、言語学的な鍔迫り合いだけで満足させたんだ。気に入りもするだろう?」

 

『ふーん……ミッターマイヤーじゃないけど、オスカーが満足したのならそれでいいや』

 

「ヤン・ウェンリーにアーサー・リンチね……ん? ”エル・ファシルの三悪人”って、三悪人っていうからにはもう一人いるよな?」

 

『ああっ、あの金髪の奇麗な子かあ』

 

ちなみにだが……既に賢明なる読者諸兄は気づいているだろうが、この世界線のラインハルトはアッテンボローやフォークの同期、ランズベルクより実は年上だ。

 

「ラインハルト・ミューゼルだろ? リンチの艦隊に配属されていたはずだから、あの場にはいたんじゃないのか?」

 

「先輩、よく覚えてたな? 男の名前なのに」

 

「ミッターマイヤー、それはどういう意味だ?」

 

「いや、だって先輩だし」

 

本人の名誉のために言っておくが、『美形で身持ちが固い、シニカルな毒舌家の側面はあるが生き方自体は真面目』なロイエンタールは、嫌ってほどモテるだけで別に女たらしという訳では決してない。

皮肉や嫌味や比喩ではなく「女が勝手に寄ってくる」のがロイエンタールで、同時にその何割かが確実に財産や家柄目当てだということも見抜けてしまうのも、またロイエンタールという男だ。

 

「なんとなく気になる名だから覚えていただけだ。なんで気になるのかはよくわからんが」

 

もしかして……この世にはやはり因果という物があるのだろうか?

 

『ほほーう。我が友オスカーは、ああいう子が好みだったのかい? こういうのを”薄い本が厚くなる”って言うんだっけ? 特定のご婦人達が喜びそうだ』

 

……どうやら、そういう慣用句が残ってるあたり、銀河帝国でも”()()()()()()”は根強く逞しく生き残ってるらしい。

当たり前と言えば、当たり前か。

時代によっては、男色趣味は貴族の悪徳にして嗜みとされていた時期もあるし、そもそも銀河帝国の国教は同性愛に否定的な一神教などではなく、北欧神話ベースの……ん? 北欧神話? ロキ……うっ、頭が。

 

「……先輩」

 

ニヨニヨ笑うランズベルクに、顔を引きつらせるミッターマイヤー……だが、ロイエンタールは苦虫を噛み潰したような顔で、

 

「引くなミッターマイヤー。俺がノーマルだって事は知ってるだろうが?」

 

『素人童貞だけどね』

 

何やらプライベート漏洩されるロイエンタールだったが、気を悪くした様子もなく、

 

「俺の場合、素人の女に手を出すと色々面倒なんだ。その点、プロは後腐れなくていい」

 

残念ながら事実だ。前にも書いたが、母であるレオノラの愛が重すぎて、結婚相手は相当吟味しなければならない。

行きずりの素人女に手を出して孕ませ、結婚でも迫られた日には、むしろ素人女の身が危ないのだ。

 

幸い……と言うべきか? ロイエンタールは別の世界線と違い、女に渇望を求めるような感覚はない。

母の愛が強すぎて、そのあたりを女の柔肌で埋める必要がなかったというべきか?

 

容姿、財産、権力、家柄とフォーカードがそろっていて、何事もスマートにこなし一見すると生きることに何の苦労もしなさそうな男ではあるが、存外に原作と変わらず苦労人気質なのがロイエンタールなのかもしれない。

 

(それにしても、)

 

「ヤン・ウェンリーか……その名、確かに覚えたぞ」

 

『あれ? 本命はそっち?』

 

「だから、その話題から離れろ」

 

 

 

なんにせよ、彼ら爵位持ちのイゼルローン要塞への帰投は何の問題もなかった事は確かだ。

 

さて、撃ちあってないので当然、全く被害が無かったロイエンタールとランズベルクの艦隊はともかく、貴族達の艦隊の被害は……詳細はこの後の調査で判明するだろうが、『無事と呼べる船の数は、全体の1割にも満たない』のは確かだろう。

 

つまり、実質的にイゼルローン要塞の駐留艦隊正規15000隻の内、全体の2割にあたる3000隻が消えた計算になる。

きっと要塞にいる二人の大将(ベテラン)は、今頃頭を抱えているに違いない。

 

まあ、ロイエンタールとランズベルクは個人の伝手とコネで、何やら手を打ったようであるが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、つかみどころのない御人でしたなぁ。いや、危険人物であることは理解できるのですが」

 

リンチの艦隊は練度不足を理由に今回の作戦に参加できなかった残りの艦艇が待つ新たな根拠地であるアスターテへ、ビュコック艦隊はエル・ファシルへ、そして四人の中佐(+ラインハルト)と率いていた戦隊をリンチに返却したYS11特務護衛船団はハイネセンへと、それぞれ帰路を急いでいた。

 

その途上、そんなことを切り出したのはリョウ・マ・バグダッシュだった。

 

「ん? 誰のことだい?」

 

「マールバッハ伯爵少将のことですよ。中佐殿」

 

「つかみどころがないかい? むしろ、私にはこの上なくわかりやすい御仁だと思ったけど?」

 

「わかりやすい……ですか?」

 

軽く驚いたようなバグダッシュに、

 

「端的に言えば、正しい意味で”帝国の藩屏(はんぺい)”帝国が理想とする貴族軍人の具現”……表向きはそんなところかな?」

 

「表向きは……?」

 

ヤンは頷き、

 

「全てを理解したわけじゃないけどね。マールバッハ伯爵少将殿は、きっと『戦争をゲームとして真剣にプレイできる人間』だよ。それこそ、自分の命をチップに戦場をルーレット盤にして、存分に生きてる実感を味わうタイプに見えたよ。まあ、そういう意味では厄介な人物だろうね」

 

「ヤン、命がけで戦争を楽しむって……マールバッハ伯爵は、いわゆる”戦争狂(ウォーモンガー)”って奴か?」

 

そう訪ねるラップに、

 

「いや、全然違うよ。推測だけど、マールバッハ伯爵は『人生を楽しめれば、何でもいい』んだと思うよ? そして、彼にとって楽しみは生きてる実感を味わうその瞬間だって私には見えた」

 

「つまり、マールバッハ伯爵にとって、”命をチップに生きてる実感を味わえる、この世で最もスリリングなゲームが戦争”だってことかい?」

 

ワイドボーンの言葉にヤンは頷いた。

 

「ついでに言えば、露悪趣味の()があるね」

 

「えっ? あの気障でいけ好かない伯爵が露出趣味のケが……」

 

驚くアッテンボローに、

 

「露・悪・趣・味。いくら敵だからって安易に風評被害を広げない」

 

「でもそれって結局、一種の精神的露出癖ってことじゃないか」

 

と軽くまとめてくれるワイドボーン。そして小さくため息を突いて、

 

「やれやれ……ヤンは、とんでもない変態に目をつけられたもんだね。ご愁傷様」

 

……きっとロイエンタールがこの場に居たら、必ずこうツッコまれていただろう。

 

『お前だけには言われたくないぞペドフィリアン!』

 

と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

そして、トリを飾るは……

 

 

 

「ふむ。やはりロイエンタールはロイエンタールだったか……あれは、ロイエンタール以外の何者でもなかったな。俺が保証しよう」

 

「ラインハルト君、いきなり何言ってるの?」

 

ふむ。

何か懐かしい気分になってしまったラインハルト・ミューゼルだ。

もう一つ(ローエングラム)の記憶”を参考に言えば、顔を見たのは新領土の総督に命じた時以来か?

 

「なに、オスカー・フォン・ロイエンタールも先輩に負けず劣らずユニークな男だったなと思ってな」

 

「オスカー・フォン・ロイエンタール? マールバッハ伯爵のこと?」

 

「ああ、それだ」

 

どうもロイエンタールがマールバッハと名乗るのは違和感があるな。

俺もローエングラムでなくミューゼル姓のままだから、人のことは言えんが。

 

「ラインハルト君って、たまに変な言い方するよね?」

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

俺はローエングラムの頃の記憶を、何の因果か持ってしまってるからな。

 

「まあ、許せ」

 

「うん♪ 許しちゃう」

 

ふん。妙にアヤの機嫌が良いように見えるのは気のせいか?

まっ、とりあえず……

 

「アヤ、コーヒーの腕前、また上げたな? 旨いぞ」

 

「えへっ♪ ありがとう!」

 

礼を言うのは俺の方だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございました。

とりあえず、三者三様の帰投シーンを入れてみました(^^

ラインハルト様、もしかして無自覚でイチャらないと死ぬ病にでもかかってるのだろうか?(笑

ロイエンタールもヤンも楽しそうで何よりだなとw

それにしても……ランズベルクとワイドボーンが似たようなポジになってるような気がするのは気のせいか?(笑
ラップとミッターマイヤーはあんまりかぶってないかな?


追記
第086話で沢山の感想ありがとうございました!
新章も、よろしくお願いします<(_ _)>



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