GW中は、ちょっと変則気味なスケジュールになるのでご容赦を。
今回は、サブタイからも分かる通り第090話の対になる話で、90話の後書きで予告した通りアサーミャ・ロボスの生い立ちなんかが出ています。
そして、対の話とは言っても前回と打って変わってシリアスムード?
いえ、シリアヌかもしれませんが。
あと、投稿だけでなくご感想の返信なんかもちょっとタイミング遅くなったりするかもしれませんが、ご勘弁を<(_ _)>
「えっ? アサーミャさんって、閣下が寄付してた孤児院の出身なんですか?」
「うむ。そこは戦災孤児専門の孤児院でな。
つまりはそういう事らしい。
ああっ、言うまでもないだろうけど”
得意技は、利き紅茶と利きブランデーだ。嘘だけど。
残念ながら私の舌は、そこまで鋭敏にできてない。味の好みは確かにあるけど、そこまでこだわりはないかな?
要約すれば……ロボス中将は、『宇宙歴時代のあしながおじさん』みたいなことを、夫婦そろってやってたようだ。
だけど、今から2年くらい前に奥方……前妻を病気で亡くしたらしい。
さりげなく暖炉の上に飾ってある写真には、おそらく幼いころのアサーミャさんと朗らかな笑顔のご婦人が写っていた。
きっと仲睦まじいおしどり夫婦だったのだろう。
(なら、得心はいくかな……)
ちょうど私が士官学校卒業するころだったか? ”とある噂”が流れたのだ。
若い頃からシトレ校長……現シトレ大将とロボス中将は、出世のライバルとされていた。
そして当時、実はシトレ大将よりロボス中将の方が出世では先んじていたのだ。
だが、ある時点からその指揮に精細さを欠くようになり、能力に疑問符が持たれる事態……幸い、不祥事というほど大きな話にはならなかったが、初歩的な物も含めあまりにも『これまでのロボスらしくない』ミスが頻発する時期があった。
その為、
(『帝国の女スパイに性病をうつされた』なんて下世話な噂があったけど……)
そういうことなら納得がいく。
というかその噂自体、ロボス中将に敵対する人間が意図的に流したのかもしれない。
また、前妻との間には子供がいない。まあ……そういう病気だったようだ。
ロボス中将が戦災孤児院に寄付を始めたのも、夫婦の間に子供が作れなかったからというのも大きなきっかけだったそうだ。
奥方が亡くなった事で気落ちしてることを孤児院に来た時の姿で感づいたアサーミャさんは、そのまま『おじ様の生活が乱れ、体を壊して後を追うようなことになればおば様に顔向けできない』とロボス邸に押し掛け女房状態。
ロボス中将が追い出す気力もなかった事も幸いし、そのまま居ついたようだ。
落ち込むロボス中将をアサーミャさんは励まし、時には尻を叩き、見事に立ち直らさせた……とまあ、そういう事らしい。
そして、喪が明けて……法的制度や因習で喪って概念はないから精神的な決着を付けたって意味だけど、見事にゴールインしたとのこと。
(まあ、同盟法では婚姻制度に関して、特に年齢の規定ないしね。性別もだけど)
歳の差婚にありがちなラブロマンスって感じだけど、基本的に美談だな。うん。
正直言えば、私はロボス中将の人間性を上方修正したよ。
☆☆☆
「ところで閣下、本日はどのようなご用向きで私を呼び出したんですか? グリーンヒル閣下にも言いましたが、小官は別にシトレ派という訳ではありませんよ? 恩師としては尊敬してますが、それ以上のものではありません」
と先に予防線を張っておく。
そういえば、私の持ってきたヘネシーは早速封を切られ、テーブルにはつまみのチョコレートやナッツ、ドライフルーツが並んでいた。
特にサラミとウォッシュタイプのチーズがあるあたりがポイント高い。
ブランデーは甘いものと塩気が強い物、両極端に味が強い物とよく合う。
アサーミャさんが若くとも気の利く奥方であると同時に、ロボス中将が普段からブランデーを飲みなれてることを理解してしまった。
少なくても、酒の趣味は合いそうな気がする。
「知っておるよ。君は儂が派閥間抗争の一端、引き抜きの為に呼んだとでも思ってるのかね?」
「正直申し上げれば。他に理由は考え付かなかったもので」
すると何故かロボス中将は苦笑し、
「率直なのは君の人間的な長所と美徳なのかもしれんが、組織で生きる人間としては弱点にも欠点にもなりうる。少佐、戦場以外でも腹芸を覚えたまえ」
「そういう生臭い物とは無縁でいたい……それが不可能なら距離を置きたいところなんですけどね」
すると今度は呆れた顔をされてしまった。
「贅沢を言うんじゃない。処世術の獲得と自己保身は、出世の必須技能ではない。組織で生き残る為の必須技能だ」
「それができなければ組織の圧力と軋轢に埋もれて溺死すると?」
「異端は常に排他されるものだよ。それは社会であれ軍であれ、人の集まりである以上はその宿命からは逃れられん。国父アレイスター・ハイネセンの遺志を受け継いだ建国理念により、自由惑星同盟は個を尊重するが、かといって秩序を乱す異端に優しい国家という訳ではない」
……これは本気で喰えないタヌキだね。やっぱり体形込みで。
「知ってますよ。自由惑星同盟は、その本質において超保守なことくらい」
何のかんの言って、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムを生み出し肯定した銀河連邦を否定しておきながら、その政治スタイル……民主主義を継承したのは同盟だ。
同盟の始祖たちが否定したのは、古代ローマ末期より民衆が堕落した……衆愚であることを自覚しながらも是正しなかった銀河連邦であって、民主主義自体ではなかった。
だから、
『民主主義を拒絶し根絶し、
「知ってるなら努力したまえ。無能は罪ではないが、怠惰は罪だ」
「耳が痛いですね。ところで、なぜそのような忠告を私に?」
「君がいつまでも少佐で満足してもらっては、色々”都合が悪い”からさ」
(どうもよくわからないな……)
ロボス中将の言葉は、どのような角度から考えても、好意的なそれだ。
だが、私には好意を向けられる覚えも理由もない。
「少佐、戦場で何を見て、何を感じた?」
「もう少し火力が欲しいと。もう少し火力があれば選択できる戦術オプションが増え、勝算を上げられると」
「具体的には?」
「小は従来の艦種の見直しや無人機の導入などで”艦隊打撃力”の強化を、大は大胆な自動化や半自動化を導入し船1隻辺りの省人員化をはかり、結果として保有艦艇の拡大。しかる後に保有艦艇を現同盟軍艦隊編成の見直しまで」
「悪くないな。”
「少なくとも草案をまとめて、それなりの”
「結構。それはそれで役に立つ。採用されるかどうかは別にして、な」
するとロボス中将は慣れた手つきで葉巻に火をつけ、
「少佐、軍で生き残りたまえ。軍で生き残るということは、即ち出世することだ。軍にとって階級は権力、権力が上がれば責任も増えるが比例して出来ることも多くなる」
「そりゃまあ、そうでしょうけど……」
「その顔ではわかっておらんな? まあ、いずれ嫌でもその意味が分かるようになるだろう」
何故か楽しそうに笑う中将だったが、
「儂も言っておくが……儂は少佐が思ってるほど、シトレをライバル視などしとらんぞ? どうやら周りが……儂はこの言い方は好かんが、ロボス派だかロボス閥だかが随分と盛り上がってるようだがの」
「えっ?」
「そもそもライバルという定義自体が無意味なのだよ。儂とシトレは出来ることも得意としてることも違う」
「個性と能力の差異……ですか?」
「そう認識してもらってかまわんよ。まあ、今更だが今日呼んだのは強いて言うなら君の人柄の確認だな。久しぶりに若者と飲みたかったというのも確かにあるがの」
「それは光栄ですね」
そして、グラスに新しいブランデーを注いでいると……
「ヤン少佐、君にはそのうちに儂の仕事を手伝ってもらうことになるだろう」
「……小官は一介の大学生ですが? 公的には」
「君のような大学生がいてたまるか」
笑われてしまった。
まあ、でもそりゃそうだ。
大学と言っても、軍大学だし。しかも階級的には卒業しててもおかしくない。
ああ。軍大学は幹部養成の教育機関であると同時に研究開発機関でもあるんだけど……修士課程(単位と成績、論文、在学中の実績など複合評価。基本3~4年。留年はないが退学はある)終了時に少佐の階級が付与される。
「頼りたまえ。儂とて長年、軍で飯を食ってる。万能とは口が裂けても言わんが、相応にできることはある」
こうして私とロボス中将はもう一度チンとグラスを合わせるのだった。
読んでいただきありがとうございました。
Scoop! ロボス閣下は宇宙時代の光源氏だったっ!?w
いえいえ、あくまで”あしながおじさん”です(笑
まあ、戦争の負の側面……というか影の部分ですね。戦争自体が人類ないし人類史の負の側面みたいなもんですし。
それにしても……この世界のロボス中将、ヤンに随分好意的です(^^
一応、これにも理由があるんですが……まあ、情報部のDB5に乗った狸の影響があるのは確かでしょう(えっ?