色々と拙くお見苦しいとは思いますが、ご指摘いただいたことは直していく覚悟です。
仕事の休憩中に読み返してちょいちょい加筆修正加えることがありますがそこはご勘弁ください。
作中の戦術とか兵器の知識はかなりガバガバです。
仕事終わりと休日で執筆する予定なので隔週で投稿できればいいかなと思っております。
それではどうか末永く、よろしくお願いします。
横須賀襲撃 1
私は、あの日を忘れることはないだろう。
皆は他に手がなかったと言う。
彼女もそれを望んだのはわかっている。
けれども私は、あの命令を後悔せずにいられない。
正化26年の3月3日。
あの日、私は彼女に……「死ね」と命じた。
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「敵の数は?」
「哨戒していた第9駆逐隊の報告によりますと。駆逐10、軽巡4、重巡6、正規空母3、戦艦が2、戦艦の内1隻は姫級と思われます!」
私の質問にオペレーターが即座に返答し、敵の詳細を告げてきた。
「24隻……大艦隊じゃないか……」
私の横で、副官の少佐が息を飲むのがわかる。
無理もない、24隻からなる艦隊が鎮守府の近海に迫っているのだからな。
「敵の射程範囲に入る前に発見できたのは幸いだったな。少佐、動かせる艦娘は?」
「はっ!軽巡那珂、由良、及び第5、第6駆逐隊、軽空母鳳翔、祥鳳。それと満潮が入渠中ではありますが、提督直属の第8駆逐隊が出撃可能です!」
水雷戦隊2つに軽空母が2人、たったこれだけで空母と戦艦を含む倍近い敵艦隊を迎撃か……。
呉がグアム沖で展開している大規模作戦に艦娘を出向させてなければどうにかなったんだが。
「敵艦隊、40海里まで接近!」
迷っている時間はないな。
「各鎮守府へ救援要請、それと横須賀全域に避難警報を発令しろと大本営に通達。哨戒中の第9駆逐隊は帰投させろ」
「了解しました!」
面子に拘る大本営が素直に避難警報を出すとは思えないが、やらないよりはマシだろう。
「少佐、那珂と由良にそれぞれ駆逐隊と軽空母を率いて出撃しろと伝えろ。軽空母は制空維持を優先、敵がこれだけとは限らん、索敵機も飛ばしておけ。水雷戦隊は遅滞戦闘に努めさせ、敵を20海里以内に近づけさせるな」
「了解!」
敵艦隊を爆撃したいところではあるが、軽空母2人で出来ることは高が知れている。
数で負けている以上、制空権を維持するのが精一杯だ。
それにしても引っかかるな、なぜこれ程の敵艦隊が前触れもなく現れた?他の鎮守府からは敵艦隊接近の報告はなかったぞ。
それに敵艦隊の編成、どこかで……
「少佐、この敵艦隊の編成、どこかで見た覚えはないか?」
「敵の編成でありますか?はて……少なくとも、当鎮守府で行った作戦ではこういった編成は見た覚えがありません」
各艦隊への指示が終わった少佐に疑問を投げかけてみるが期待した返答はなかった。
私の記憶違いか?
「作戦指揮中失礼します!入室してよろしいでしょうか。」
艦隊司令部の外で秘書艦が入室の許可を求める声が聞こえる。
律儀に私の許可を求めてくるところは何年経っても変わらないな。
秘書艦なのだから気にする必要もないのに……
「許可する、入りたまえ」
「駆逐艦『朝潮』入室いたします!」
駆逐艦朝潮、蒼い瞳に長い黒髪をなびかせた少女。
艤装の成長抑制効果で、見た目は11~2歳位の幼さだが今年で16になる。
私が提督になってから何年もそばで支え続けてくれた頼れる秘書艦だ。
真面目を絵に描いたような子だが、長く艦娘をやっているせいか一般常識に疎いところがあるのが玉に瑕だな、そこが愛らしくもあるんだが。
「司令官、第八駆逐隊いつでも出撃可能です。ご命令を。」
「わかった、だが敵がこれだけとは限らん、鳳翔と祥鳳の索敵が済むまで待機だ」
「はっ!では、出撃ドックで待機します!」
「少し待て。朝潮、この敵編成に見覚えはないか?」
「敵の編成ですか?」
退室しようとする朝潮、私は朝潮に先ほどの疑問をぶつけてみた。
彼女は記憶力がいいから、もしかしたら私が忘れた内容でも覚えているかもしれない。
「……私たちが参加した作戦では見た覚えはありません。ですが……」
「ですが。なんだ?」
「数は少ないですが。現在、呉が行っている大規模作戦の事前偵察の報告書で似たような編成を見た覚えがあります。」
「!!」
それだ!私も報告書で確かに読んだ、だからどこかで見た覚えがあったのだ。
そうであるならば、グアム沖で呉が相手取っているはずの艦隊が北上して来たということか?
「で、ですがそれはおかしくありませんか?もし敵艦隊が北上してきているのなら、呉の艦隊は一体何と戦っているというのです?」
少佐の疑問はもっともだ、事前偵察ではこの3割増し程度の戦力しかグアム沖には確認されていない。
仮にグアムの敵艦隊がほとんど北上して来ていたとしても……。
「仮に北上して来たとしても、呉の哨戒網に引っかからずにこんな近海まで接近できるとはとても思えません。」
そう、少佐の言う通り1隻2隻ならともかく、空母や戦艦まで含んだ大艦隊を見過ごすなど普通ならありえない。
「哨戒に回す艦娘すら攻略に回したとかでしょうか?」
「バカな!そうだとしたら慢心にもほどがある!」
「ですが少佐殿!そうでも考えないと敵艦隊の北上に説明がつきません!」
朝潮の意見もあり得ない話ではない、大規模作戦前に呉近海は神経質とも言えるレベルでの掃討が行われている。
艦娘すべてを攻略に回したはないにしても哨戒要員を減らした可能性はあるな。
だとしたら、大失態どころの話ではない。
敵の主力を取り逃がすばかりか、担当軍区を素通りさせて手薄な横須賀まで敵の進行を許した事になる。
「鳳翔より入電!提督に繋いでくれとのことです!」
鳳翔から入電?索敵が完了したのか?
「わかった、繋いでくれ」
『提督、ご報告が』
「何があった。」
『新たな敵艦は発見できず、ですが少々おかしなことが』
「ふむ、新手がいないのはいい知らせだ。で、おかしなこととは?」
『敵の旗艦と思われる『戦艦凄姫』が単艦で不自然なほど艦隊から離れているのです。こちらの索敵機に気づいても撃墜すらしません』
旗艦が艦隊から離れ索敵機を撃墜もしない?どういうことだ?
「敵の連携はどうなっている?」
「最低限の連携は取れているようですが、旗艦の指示で動いてるようには見えません。搦め手もなく、真正面から砲雷撃を繰り返すだけです」
訳がわからん、こちらが展開しているのはたったの2艦隊、遅滞に努めさせてるとは言え力押しで突破できない戦力差ではない。
「鳳翔、味方艦隊の被害状況は?」
『由良が小破、暁、雷が中破、他は小破にも届いていません』
「わかった、増援を送る、増援が到着しだい由良旗艦の艦隊を補給に下がらせろ。敵旗艦からは目を離すな。」
『了解、通信終わり』
敵が連携していないなら勝機はある、救援到着まで持ちこたえるのみだ。
敵旗艦の行動が気がかりではあるが……
「少佐、第9駆逐隊は?」
「現在、補給を終え出撃ドックで待機中であります。」
「よし、大潮、荒潮、第9駆逐隊で艦隊を組み由良の艦隊と交代させろ」
「了解しました」
「朝潮、由良艦隊の入渠と補給の準備を」
「了解しました!」
現状で打てる手は打った、あとは皆が持ちこたえてくれるのを祈るだけか……
いつもこうだ、私は命令を下した後は祈ることしかできない。
少女たちを戦場に送り出し、無事に帰ってくるのを祈るだけ……
前線に出れないのがもどかしいとは陸軍時代には思ったこともなかったな。
私は妖精が見える。
ただそれだけの理由で私は陸軍から異動させられた。
妖精が見え、コンタクトが取れるものが提督の最低条件らしいが、まさか私に適性があるとは夢にも思わなかったよ。
2階級特進で鎮守府の提督、傍から見れば大出世なのは間違いないが、自分で戦えないというのは現場主義の私にとっては苦痛でしかない。
まあ、朝潮に出会えたことは感謝しているのだがね。
「失礼します!入室を許可願います。」
まったく、真面目というか律儀というか。
「許可する、入りなさい。」
「はっ、入室いたします。」
「由良達の容体は?」
「暁が大破寸前でしたが3名とも命に別状はありません。ただ、由良さんはともかく、暁、雷両名の再出撃は難しいかと」
「ふむ、救援要請の方はどうなっている?」
オペレーターの方を見ると、ちょうど報告を受けたところだったようだ。
私の方を振り向き淡々と報告を始めた。
「現在、呉から海路で1艦隊、舞鶴から陸路で1艦隊こちらに急行してるとの報告が先ほど入りました。」
どちらも到着まで3~4時間はかかるな……。
だが向かって来てくれているのなら希望はある。
敵の旗艦が指揮を放棄している現状なら遅滞戦闘を徹底させれば救援が来るまではもつ。
「鳳翔から緊急入電!」
さっきまでの淡々とした口調から一変、オペレーターが驚愕した表情で私を振り向いた。
「なんだ?」
「離れていた敵旗艦が戦闘海域を迂回、こちらに向かっています、と!」
「なんだと!?」
先ほどの希望が一瞬で打ち砕かれた。
敵旗艦が戦闘海域を迂回?自分の艦隊を放棄してか?
だがなぜ……。
単艦で鎮守府を叩く気か?このタイミングで?
いや、このタイミングだからか、艦隊を交代させた事で、こちらの戦力の上限に察しがついたな、交代はあってもこれ以上の戦力増強はないと見込んでの突撃か。
姫級は人語を介し、思考も人間に近いと聞いてはいたが……戦術まで理解できるとは……。
「敵旗艦なおも接近!そんな……速度が30ノットを超えています!!」
「駆逐艦並の速度の戦艦だと!?そんな馬鹿な!!」
いや、恐らくは最高速度で向かって来ているのだろう、それ自体はそこまで驚かなくていい。
少佐の言う通り駆逐艦並の速度で戦闘が出来る戦艦ならまさしく脅威だが。
「鎮守府までの距離、15海里を切りました!」
どうする……由良艦隊の補給は間に合うか?
間に合ったとしても水雷戦隊では足止め程度しか出来そうにないが。
「少佐、由良艦隊の補給と修理は?」
「さきほど作業にかかったばかりです!間に合いません!」
ダメか、さてどうする?
戦艦、しかも姫級の相手ができる戦力など……。
即時出撃可能なのは朝潮だけ、入渠中の満潮に
ん?朝潮、なぜこちらを見ている?お前は何を言おうとしている?
「司令官、現在出撃できる艦娘は私だけです」
それはわかっている、だからなんだ?
いやいい、言うな。
君が言いたいことはわかっている。
出撃させろと言うのだろう?
私に出撃を命じろと言うのだろう?
駆逐艦の君に戦艦を迎撃しろと、たった一人で戦艦棲姫を迎撃しろと。
「司令官、ご命令を!」
「何を言ってるんだ朝潮!いくら君でも駆逐艦一隻で戦艦の相手ができるわけがないだろう!」
少佐の言うとおりだ朝潮、さすがに無理だ。
それは……特攻と同じだ。
「ですが現状で打てる手段はありません!司令官!ご決断を!!」
「朝潮、君は来月には退役の予定だろ?それに退役後は提督と……」
「少佐殿、それは今関係ありません。どのみち敵戦艦に攻撃されれば退役どころではなくなります!」
「それは!そうなのだが……」
「時間がありません司令官!私に出撃させてください!」
ああ、君はいつもそうだ、いつも私の目をまっすぐ見つめ、私の命令を待つ。
私は君を失うのが怖い。
だが、それ以上に君の信頼を失うのが怖い……。
君はもう、行くと決めてしまっているのだろう?
例え私が命令を出さずとも、たとえ待機を命じようとも、君は行ってしまうのだろう?
この鎮守府を、いや、私を守るために。
わかったよ朝潮、私は君に命令を下そう、例え君の姉妹達に怨まれようと。
君に命令違反の不名誉を背負わせるくらいなら、私は……。
「わかった、駆逐艦『朝潮』に敵旗艦の迎撃を命じる」
「了解しました!駆逐艦『朝潮』出撃いたします!」
見事な最敬礼、瞳には一片の迷いもない……。
行かせたくない、思わず引き止めそうになった私に君はこう言った。
「それでは司令官、私は『いきます』」
君は『いってきます』ではなく『いきます』と言った。
君はもう帰って来れないとわかっているんだな。
君は死を覚悟してしまったんだな。
朝潮がいってしまう。
私の朝潮がいってしまう。
黒髪をなびかせて指令所を出ていく朝潮を、私は止めることができなかった。
私はきっと後悔する、君に下した命令を必ず後悔するだろう。
君に失望されても命じるべきではなかった。
君を鎖で縛りつけてでも行かせるべきではなかった。
私を好きだと言ってくれた朝潮。
私と一緒になる事を受け入れてくれた朝潮。
私が愛した朝潮……。
私はこの日を忘れる事が出来ないだろう。
最愛の女性に『死ね』と命じる事しか出来なかったこの日を。
独自設定?独自解釈?
深海棲艦:基本的に原作準拠だが「イ級」などの名前は人類側からの呼称という設定。
妖精 :深海棲艦と同時に現れた手のひら大の小人。深海棲艦のコアから艤装を作ることができる。
提督 :妖精が見え、コンタクトが取れる人間が就くことができる。
艤装 :妖精が深海棲艦のコアを元に作る。
艦娘 :艤装と同調した少女の総称。この作品では襲名制。同調した者は成長が抑制され、長く艦娘を務めているもの(特に駆逐艦)は外見と実年齢が合わないことがある。
装甲 :艤装から発生している力場。力場であるため、見た目が軽装でも艦種に見合った防御力がある。