艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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 祝!100話目!
 


ハワイ島攻略戦2

ーーーーAM 7:45

 

 不気味ね、上陸してしばらく経つのに敵が一隻も見当たらない。

 聞こえるのは砲声と爆音、ただし結界の外からの音のみ。

 

 「静かっすね……。ここって敵の本拠地じゃないんすか?」

 

 本拠地って言うと少し語弊があるけど……、たしかに敵太平洋艦隊の本拠地ではあるわ。

 

 「先行してる『ビークル1』は大丈夫かしら……」

 

 「大丈夫っすよ、自分の相棒っすよ?」

 

 いや、だから心配なんだけど……。

 

 現在、私たち奇兵隊は黒砂海岸から無事上陸を果たし、11号線を北東に進軍中。

 第二分隊に配属されている、金髪こと『ビークル1』が使えそうな車両を探しつつ先行している。

 

 もう少し行った先にあるボルケーノビレッジで合流、後に隊を分ける予定になってるんだけど……。

 

 気持ち悪いくらい順調すぎる、会敵しないに超したことはないけれど、作戦は会敵した場合を考えて計画されてるから、あんまり順調すぎると逆に予定が狂うわ。

 

 「ギミックの様子はわからない?」

 

 「無理っすね、雲の上だからさすがに見えないっすわ」

 

 逆に言えばこちらも目視では発見されない。

 僥倖と言えなくもないけど、ギミック周辺の敵の数がわからないのが辛いところだわ。

 

 「あ、居たっす、相棒っす」

 

 あ、ホントだ草むらに隠れてチカチカとライトで合図してるわ。

 って言うか草むらから少しはみ出してるバイクに、凄く親近感というか懐かしさを感じちゃうんだけど……。

 

 「遅ぇよ。一人でヒヤヒヤもんだったぞこっちは」

 

 「怖かったんすか?意外と可愛いとこあるんすね」

 

 おい、私のセリフを盗るんじゃない。

 私が言うから可愛く聞こえるのよ?

 アンタみたいなモヒカンが言ってもムカつくだけ、撃たれても文句言えないくらいムカつくわ。

 

 「うっせ!それより姐さん、ここから半径500メートル程を探索してみたんだが……」

 

 「敵がいない?」

 

 「ああ、完全に無警戒。たぶん、敵は結界がある内に上陸されるなんて考えてねぇぞ」

 

 あり得ない話じゃないわね。

 敵はこちらの新型弾頭の存在を知らないはずだ、なら人間が潜入した所で屁とも思わないでしょう。

 人間では、陸に上がった奴等にさえまともに対抗出来ないんだから。

 

 そもそも、作戦開始時点からおかしかったわ。

 ほぼ完全な形での奇襲成功、艦隊のローテーションを円滑に回せる余裕。

 

 膠着してからも、数的不利を補って余りあるほど有利に戦えてる。

 まあいくら有利と言っても、姫級であるギミックを本格的に落とそうとしたら相応に消耗するでしょうけど。

 

 でも、敵が慢心している事に間違いはなさそう、米艦隊に気を取られて西側を疎かにして、おそらく島内に配備してた艦まで外の迎撃に駆り出した。

 人間や潜水艦が侵入したところで、ギミックや中枢棲姫に被害を与えられないと思っているのは十分あり得る。

 

 「提督殿は、この状況も予想してこの作戦を考えたんすかね?」

 

 「いいえ、お父さんはこんな状況はまったく予想してないわ」

 

 敵がここまでバカだなんて普通は思わない。

 変な事でお父さんの弱点が露呈しちゃったわね。

 圧倒的不利な戦いに慣れすぎたせいで、圧倒的有利に持ち込めるほどのバカに対処できない。

 きっと今でも、この状況が敵の作戦の内なんじゃないかと疑ってるはずだわ。

 

 「ビークル1、ソレを押して山を登れる?」

 

 「問題ねぇよ。ってか、ソレって言わねぇでくれよ姐さん、俺の愛車のカブちゃんによぉ……。」

 

 ちゃん付け!?

 い、いやそれはいい、問題はそのカブちゃんと出会ったのってついさっきのはずでしょ!?

 たった数十分で愛車扱いなの!?

 

 「スーパーカブっすか。あ、しかも90ccだ。よく燃料が残ってたっすね。」

 

 「車とかからも適当に集めた。コイツ、最悪サラダ油でも走るし」

 

 え……それ都市伝説だと思ってたんだけど……マジなの?

 って言うか大丈夫?

 

 「さすがカブっすわ。コイツがありゃ他のバイクはいらないっすね」

 

 「低燃費で維持費も安いしカスタムパーツも豊富、さらに!22メートルのビルの屋上から落としても動くという脅威の耐久性!」

 

 おいそこ、カブのダイレクトマーケティングを敵地でやってんじゃない!

 そんなに好きなら、帰ってからカブ専門店でも経営しろ!

 

 「俺……帰ったらカブの専門店開くんだ……」

 

 あ、コイツ死亡フラグ立てた。

 まさかギミックの股間目がけてカブで突っ込む気じゃないでしょうね、どっかの中尉みたいに。

 悲しいけど、これ戦争なのよ?

 だから真面目にやって。

 

 「バカな事言ってないでさっさと行くわよ。砲撃は予定通り行われるんだから」

 

 「うっす!でもこっちが3発も貰っていいんすか?ギミック潰すだけなら1発でもいいと思うんすけど」

 

 「護衛がいたらどうする気?内火艇ユニットがあるとは言っても、気休め程度にしかならないのよ?それとも、護衛はその AW50Fでどうにかするの?」

 

 「もちろんっす!これさえありゃ自分は無敵っすから!」

 

 AW50F 、英国製の50口径使用の対物狙撃銃でスチール製、重量13,640g 全長1,350mm銃身長686mmのガンナー1の愛銃。

 

 狙撃銃なんか使わない私が、なぜ重量やらなんやらを知ってるかと言うと……ワダツミの中で散々語られたから。

 そう……散々聞かされた、やれバレルがどうとか、やれ装弾数がどうとか……。

 酷いと思わない?

 私、銃とか興味ないのよ?

 それなのに、嫌がる私に三日三晩毎日!

 おかげで覚えちゃったわよ!

 覚えたくないのに覚えちゃったじゃない!

 

 あー!腹立ってきた!

 一発殴っとこうかしら!

 

 「あ、姐さん?なんでそんなに自分を睨むんすか?ほ、ほら時間も迫ってるしそろそろ……。」

 

 「ふん、帰ったら覚えてなさいよ。」

 

 帰ったらとりあえず10発は殴ろう、最低でも5~6回殺してやる。

 それじゃあ、帰って真っ先にやる事もきまったし、そろそろ進軍再開と行きますか。

 

 「みんなよく聞いて、敵はこんな状況で本丸を空にする大馬鹿者よ。この中に、そんなバカ相手にビビる奴なんていないわよね?」

 

 「ご冗談を、こんな楽な戦場そうそうありませんぜ」

 

 「お嬢こそビビってんじゃねぇですか?」

 

 「おいおい軍曹、お嬢に限ってそりゃねぇよ。俺ら以上の戦闘狂だぜ?」

 

 相変わらず口の悪い世紀末生物共め。

 でもいいわ、今はその口の悪さが頼もしい。

 

 「よろしい、では手はず通りここから二手に別れる。第一分隊は中枢棲姫、第二分隊は山中腹のギミックへ、いいわね!」

 

 〘応!〙

 

 敵地だから声は潜めているけど確かな決意を秘めた返答。

 さっきまでのふざけた雰囲気は欠片もない、目には静かな殺意、手には殺す事に特化させた自慢の獲物。

 かつて、『勝利も栄光も求めず、ただ死に場所のみを求めるバカは俺の元に来い』というお父さんの呼びかけに応え、碌な武器もなしにバケモノ相手に殺し合いを繰り広げていた命知らず共、奇兵隊最精鋭の第一小隊。

 バケモノ殺しの化け物共が目を覚ました。

 

 「さあ、仕事の時間よ。ハワイの大地を、敵の鮮血で染め上げろ!」

 

 〘応!!〙

 

 結界への砲撃開始まで約5時間。

 私たちが失敗したと判断したら、お父さんは躊躇なく本格侵攻を開始する。

 そうすれば艦娘の被害も増えるでしょうね。

 

 正直言って、顔見知り以外の艦娘がどうなろうと知った事じゃないけど。

 私の失敗は、そのままお父さんが立てた作戦の失敗を意味する。

 

 それはダメ、お父さんの作戦の本命はあくまで私。

 私が失敗して、その後に中枢棲姫の討伐が成ってもそれは失敗と同じだわ。

 

 お父さんの後ろは朝潮が守ってる、ならば私は道を切り開く。

 お父さんと歩く勝利の道を。

 

ーーーーAM 12:30

 

 「お、思ってたよりしんどいっすね……。」

 

 「そりゃあ……中腹でも富士山並……って……話だからなぁ……。」

 

 姐さんの隊と別れて4時間半ってとこっすか。

 もうすぐ結界への砲撃が始まるっすねぇ。

 

 「おい、あれ。」

 

 相棒が目線で指す方をスコープで覗き見ると、800メートルほど先にギミックと思われる個体を発見した。

 ギリシャ彫刻を思わせる風貌と服装、その背中に長さ2メートル程の黒い羽の様な物が放射状に12枚並んでいる。

 その足元には無数の卵と思われる物体と、それにつながる管が同じ数だけ。

 卵一つの大きさは50センチ程っすか?

 それがザっと30個近く……。

 お願いだから攻撃中に孵らないでくれっす……。

 

 「あの羽……まるでソーラーパネルだな。」

 

 ああそうか、どこかで見たような気がしてたっすけどソーラーパネルか。

 じゃあアイツは、光合成じみた事をするためにこんな見晴らしのいい場所に?

 

 「どうすんだ相棒、カブで一気に近づいて鉛玉ぶち込むか?」

 

 どうするっすかねぇ……。

 正直、いつまでも地べたに這いつくばってたくもないっすけど……。

 

 見たところ、ギミックに武装らしい武装はない。

 護衛もない、気がかりなのは卵が孵るか否か。

 

 「相棒の案を採用っす、残りはここから援護。自分がケツに乗って特殊弾頭をぶち込んで来る。予備プランとして、ガンナー2及び3は残りの二発を持って左右から進行。自分が仕留めれなかった場合は自分に構わず撃っていいっす。」

 

 悩んでる時間はもうない、あと数分で砲撃が開始される。

 遅れたら怒られるどころじゃ済まないっすからねぇ。

 まったく、いつからあんな風に捻くれたのやら……。

 

 初めて見た時は小汚いガキくらいにしか思わなかったっす。

 泥と煤と、涙と鼻水まみれで提督殿に抱きかかえられた小汚いガキ。

 

 次に見た時は少し小綺麗になってた、白いワンピースを着て提督殿の影に隠れてこっちを窺う態度に少しイラっとしたっけ。

 

 三度目に会ったのは提督殿の家族が殺された後。

 深海棲艦への恨みが一層増した提督殿の後ろを、ちょこちょことついて回ってたっすよね。

 その頃には、自分らにもだいぶ慣れたのか雑談程度はするようになってたっす。

 

 それから、姐さんが艦娘になるまで一緒だった。

 襲って来た相手を返り討ちにして泣きじゃくってた時も、艦娘になると言って一人で出て行った時も……。

 

 艦娘になって、提督殿と一緒に戻って来た時は誰だか分らなかったっすね。

 黒かった髪は赤く染まり、真っ赤な着物にゴツイ艤装を背負った姐さんが、あの気弱なお嬢さんだとは話すまで気づきもしなかった。

 

 「相棒、どうかしたか?」

 

 「え?ああ……なんでもないっす。」

 

 こんな時に、なに思い出に浸ってるんすかね自分は、思い出に浸るのはギミックをぶち殺してからにしないと。

 

 「そんな長物使うんか?」

 

 「別に初めてじゃないっしょ?」

 

 相棒の運転するバイクのケツにAW50F を小脇に抱えた自分が乗って突撃する。

 昔はよくやったじゃないっすか。

 途中から竹槍に変わってたっすけど……。

 

ズドドドドドドドドドドド!

 

 結界への砲撃が始まった、ギミックも上空を見上げてる、今しかないっすね。

 

 「行くっすよ相棒!」

 

 「おうよ相棒!外すんじゃねぇぞ!」

 

 相棒がカブのエンジンをかけた、砲撃の音がうるさ過ぎてまったくエンジン音に気づかないっすね。

 

 「第二分隊!攻撃開始!かっ飛ばせ!!」

 

 ブゥン!

 

 ひと際高いエンジン音を上げてカブがウィリー気味に加速、標高の割になだらかな斜面を一直線にギミックに向かって行く。

 

 「おいアレ!」

 

 相棒の視線の先を見ると、卵が孵っているのが見えた。

 アレは……PT小鬼って呼ばれてる奴っすね、確か攻撃が当たりにくくて厄介だって姐さんから聞いた覚えがあるっす。

 

 バババババババババ!

 

 援護射撃が自分の後ろから子鬼の群れに殺到、装甲は削れてるみたいっすけど、さすがにアサルトライフルで撃破までは無理みたいっすね。

 

 「回避は任せるっすよ!」

 

 「任せろ!俺ぁ新しいタイプだからなぁ!」

 

 相棒が左手で後方にサインを送り、時計回りに旋回する事を伝える。

 ホント不思議っすよね、相手が撃つ前に撃つタイミングがわかるなんて一種の超能力っすよ。

 相棒が発砲のタイミング計り、それに合わせて自分が砲身にぶち込む。

 自分と相棒の必勝パターンっす。

 何気に、撃破数なら提督殿より多いんすよ?

 まあでも、今回は……。

 

 ドン!

 

 「お、意外と通るっすね。」

 

 相棒がギミックを中心に時計回りで斜面を駆け上がって距離を詰める中、邪魔になりそうな子鬼に発砲、思ったよりすんなりと撃破できた。

 内火艇ユニットのおかげなのか、単純に子鬼の装甲が薄いのか知らないっすけど。

 これなら自分だけで撃破可能っす。

 

 「距離300!真横から突っ込むぞ!」

 

 「うっす!」

 

 獲物を投げ捨て、ベルトで肩掛けにしていたRPGを担いでステップを足場に車体を脚で挟むように立って照準、この距離なら絶対外さない、ガンナー1のコールサインは伊達じゃないっすよ!

 

「「ざまぁみろバケモノ共!俺ら(人間)の勝ちだ!!」」

 

 ドン!

 

 決めゼリフと共に特殊弾頭を発射、直後に相棒が車体を傾けて右に旋回、爆発の有効圏外に退避しながら結果を見守る。

 気持ちの悪い奴っすね、ギミックは死が近づいてるってのに顔色一つ変えないっす。

 自分が放った弾は、吸い込まれるようにギミックに向かって行き、そして……。

 

 ズドォォォォン!

 

 装甲を紙のように貫いて直撃、ギミックを爆炎が覆い尽くした。

 

 「た~まや~!ってなぁ!」

 

 相棒がそう言いたくなる気持ちもわかるっすけど、自分もか~ぎや~って言った方がいいっすか?

 いつもなら乗るけど、今はそんな気分じゃないんすよね。

 

 山の裏側に居る姐さんに見せてあげれないのが残念っすよ、キャラじゃないって言われそうっすけど凄く綺麗っす。

 

 ギミックの体の成分のせいなのか、それとも弾頭のせいなのかはわかんないっすけど、赤だけじゃなく黄色や青、緑まで混ざったギミックの爆ぜる様はまるで花束みたいっす。

 

 「最高の花束じゃねぇか相棒、これなら姐さんもイチコロだ。」

 

 さすが相棒、考えることが一緒っすね。

 ってか、いつから自分が姐さんに惚れてるって気づいてたんすか?

 まあ、いつか相棒には話すつもりだったっすけど。

 

 それより今は、残ってる子鬼を片付けて姐さんを迎えに行かないと。

 遅れると後が怖いっすから。

 

 「それじゃあ行くっすよ、雑魚を片付けてお姫様をお出迎えっす!」

 

 「生首下げてニヤけるお姫様とか俺はご免だがなぁ……」

 

 わかってないっすね相棒は、他の事は気が会うのに女の好みだけはどうしても合わないっす。

 

 アレがいいんすよ。

 アレが自分を夢中にさせたんっす。

 弱いのに無理をして、気が弱いのに気丈に振る舞う姐さんの姿に、いつの頃からか自分は首ったけになった。

 

 受け取ってくれたっすか?

 狼煙は確かに上げました。

 上げた狼煙は、自分の思いを込めた爆炎の花束。

 自分から姐さんへの初めてのプレゼント。

 メッセージカードにはこう書く事にするっす。

 

 自分から姐さんへ、愛を込めて花束を。




 100話目なのに後半はモヒカンがメイン……。
 投稿時、微妙な気分になりました……。

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