艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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ハワイ島攻略戦3

ーーーーAM 12:45

 

 「お嬢、総員配置につきました」

 

 「わかった、狼煙が上がるまで待機して」

 

 砲撃開始15分前、私達第一分隊12名は敵に捕捉される事なく中枢棲姫の近くまで進軍する事ができた。

 マウナケア山とマウナロア山の中間、島のほぼ中心に座する中枢棲姫は、真上に力場の柱を放出している怪物のような艤装に身を預け、外の戦闘は自分とは関係ないと言った感じで北の空を見つめている。

 その周りには砲台子鬼が6、中枢棲姫を中心に輪形陣を形成してるわ。

 

 「背後は取った、特殊弾頭も足りる。一発で仕留める事が出来るならだけど」

 

 私たちは今、中枢棲姫を0時とすると4時の方向、200メートル付近に身を潜めて突撃の瞬間を待っている。

 第一分隊の手持ちの特殊弾頭は9発、砲台子鬼に6発使ったとしても3発余る。

 突撃の合図と共に、一発づつ砲台子鬼に発射し、残り3発を中枢棲姫にぶち込む手はずにはなってるけど……。

 

 「あれ……本当に倒せるの……?」

 

 見たところ『装甲』は皆無、お父さんの予想通り中枢棲姫が力場を収束して結界を張っていた。

 結界の起点となっている艤装はともかく、中枢棲姫自身は倒せそうに見える。

 見た目(・・・)だけなら。

 

 だけど不安が拭えない、不安と言うより恐怖に近いかしら。

 『装甲』を張ってない深海棲艦なんか通常兵器でも倒せるのに、コイツは倒せる気が全くしない。

 

 隊員の何人かも同じ事を感じているようね。

 怖い物知らずのコイツらが、冷や汗流して腰が引けてるわ。

 

 「お嬢……言いたくはないが……」

 

 「いい、わかってるわ……」

 

 たぶん、中枢棲姫を倒すことはできる。

 首を刎ねる事もできる。

 

 私達が不安に思っているのはそんな物理的な事じゃない。

 アイツの存在が異常過ぎるんだ。

 文字通りこの世のモノとは思えない。

 アイツよりグロテスクな深海棲艦は山ほど見てきたけど、アイツほど気持ち悪いと思ったことは無い。

 怖いと思った事は無い、平伏したいと思った事は無い、逃げたいと思った事は無い。

 見ただけでこんなに絶望させたれたのは初めてだわ。

 

 私は、不安を少しでも紛らわすために、今だ鞘内にある刀の刀身に力場を流す。

 

 「あ、あれ?」

 

 力場の流れに違和感がある、力場がスムーズに流れない、それどころか出力も安定しない。

 まるで艤装が怯えてるような……。

 いや違うわね……、怯えてる事は怯えてるんだけど少し違う気がする……。

 どちらかと言うと……。

 

 「ねえ、不安を感じてる奴って、もしかして同調式を使ってる?」

 

 「あ、ああ、そう言われてみれば、俺を含め同調式を使ってる奴ばかりだな。」 

 

 やっぱり、艤装や内火艇ユニットに使われてる深海棲艦の核がアイツに反応してるんだ。

 

 自分たちの母とも呼べる中枢棲姫を前にして歓喜し、そして畏怖してるのね。

 子供が親に怒られるのを恐れるのと同じだ。

 母親の前で萎縮してる。

 そして喜んでる。

 その感情が同調者にフィードバックされたせいで、私達は言いようのない不安に駆られてるんだわ。

 

 「予定を変更する。同調式の使用を禁止、装備者は今すぐ降ろして。特殊弾頭は機械式を使ってる奴に使用させて。」

 

 「了解、他に変更は?」

 

 さすがは歴戦の奇兵隊員、説明無しでも私の考えに気づいてくれた。

 手間が省けて助かるわ。

 

 「最悪、中枢棲姫に特殊弾頭は効かない可能性が出てきたわ。砲台には予定通り、ただし中枢棲姫に撃つのは1発だけ。残りの2発は効果があるようなら撃って、そうでないなら、仕留め損ねた砲台に使用して。無線封鎖の解除は予定通り、突撃と同時よ。」

 

 「了解だ、特殊弾頭は機械式を装備してる奴に撃たせるんでいいな?」

 

 「それでいい。あと、私の援護も忘れないでね?艤装無しで突っ込むから。」

 

 「了解、お嬢、ご武運を」

 

 対策は一応取った、私も艤装を降ろさないと。

 

 「艤装無し……か……別の不安が出て来ちゃったわね」

 

 艤装を降ろした事で、さっきまでの不安はなりを潜めた。

 けど、艤装無しでバケモノに肉薄するなんて、さすがにやった事が無いわ。

 お父さんはこんな気分で戦ってたのかな……。

 

 今の私は何なんだろう、艤装を降ろした私はただの女、ちょっと剣の腕前に自信があるだけのただの小娘。

 艤装無しじゃ神風とは言えない、艤装無しじゃ駆逐艦にだって敵わない。

 そんな私が中枢棲姫の首を獲る?

 深海棲艦が現れてから9年以上、誰も倒せなかった中枢棲姫の首を私が?

 

 悪い冗談だわ、お父さんがやった方が絶対上手くいく、だってお父さんは凄いんだから。

 今でも覚えてるもの、私を殺そうと砲を向けた深海棲艦を、正面から一刀両断にしたお父さんの後ろ姿は今でも目に焼き付いてる。

 

 お父さんみたいになりたいって思った。

 お父さんみたいに誰かを助けたいって思った。

 

 だけど、私には力がなかった。

 力がないのは艦娘になっても変わらなかった、私は非力な駆逐艦……。

 しかも最弱の駆逐艦……。

 

 「だから……私は諦めた……」

 

 いつの頃からか、私は死なない事だけ考えるようになっていた。

 誰かを助ける?

 そんな事してる余裕なんてなかったもの、自分が死なないようにするだけで精一杯だったもん。

 自分以外の誰かを守りたいなんて、強者だけに許された特権よ!

 

 そう……自分に言い訳しながら、生きてきた……。

 

 「言い訳も辞め時かな……」

 

 今から私が出るのは死出の旅路、挑むのは絶望の具現、死そのもの。

 刀を持つ手が震える、顔から血の気が引いていく、今すぐ背中を向けて逃げ出したくてしょうがない。

 

 だけど逃げちゃダメ。

 コイツは艦娘じゃまともに倒せない、倒そうとすれば甚大な被害が出る。

 外の艦隊はただのオマケだわ、きっとコイツ一隻で外の全深海棲艦に匹敵する!

 

 ごめんなさい、お父さん。

 相手がバカでも、予定通り慎重に事を進めたお父さんの判断は正しかったわ。

 正攻法に切り替えてたらきっと負けてた。

 全滅は免れても撤退は必至だった。

 

 結果論ではあるけど、結界自体が罠なのよ。

 結界がある状態じゃ攻撃は届かない、かと言ってギミックである姫級を相手にした後じゃ中枢棲姫を落とす程の戦力を保てない。

 いくら補給と入渠が可能なワダツミと言っても限界があるもの、真っ当に攻略しようと思ったら、最低でも今の倍は戦力が必要だわ。

 

 想定外だったのは、コイツの前じゃ艤装がまともに使えない事、理由のわからない不安に侵された状態で戦える艦娘なんていないもの。

 

 それが出来る艦娘は私だけ。

 そう、コイツを倒せる艦娘は、艤装がなくても戦える私しかいない!

 雲が出て来たのか、霞が掛かって来た北の空を今だに見上げ続けてるコイツを倒すのは私だ!

 

 その、我関せずと言ってるような顔のまま首を刎ねてやる!

 

ーーーーAM 12:30

 

 「提督、第一、第二主力艦隊の補給が完了しました。出してよろしいですか?」

 

 「ああ、すぐに出せ。呉艦隊から連絡は?」

 

 辰見に指示を出し、オペレーターに呉艦隊の現状を聞いてみる。

 砲撃開始30分前だと言うのに、今だ呉艦隊の姿が目視できない、敵の襲撃に遭ったか?

 それとも単純に遅れているのか?

 

 「現在ハワイ島の北、約10海里を航行中です」

 

 「ギリギリだな……」

 

 単純に遅れているだけか、カタログスペック上は主砲の射程内だが……。

 少し距離が有り過ぎるな……。

 アレが結界をどうにか出来るとは思っていないが、カメラのフレームに映らなければ意味がない。

 後は、『DJ』になんとかして貰うしかないか。

 

 「『DJ』にヘリで出るように伝えてくれ。『放送』の仕方は任せるともな。」

 

 「了解しました」

 

 これで一応は作戦通り、後は『DJ』次第だ。

 

 「『DJ』をヘリで?何をさせる気だ?」

 

 「言ったでしょ艦長、『放送』と。文字通り放送するんですよ、この戦場を」

 

 「プロパガンダにする気か?艦娘の戦闘はたまに放送してるんじゃねぇか。まあ、ここまで大規模な戦闘は放送した事ねぇだろうけど。」

 

 そう、この作戦の本命はこの戦場の様子を放送する事。

 この作戦は、発案当初は攻略戦として進められたが、途中から宣伝戦(プロパガンダ)として計画し直された。

 もっとも、大筋は変わっていないがね。

 だから我々は本来(・・)の作戦通り事を進めている。

 本来(・・)の作戦通り、攻略戦を。

 

 「少し違います、プロパガンダには違いないが放送の主役は艦娘じゃない」

 

 「じゃあ何だってんだ?艦娘以外に深海棲艦と戦える存在なんて他にねぇぞ?」

 

 「ええありません。だが、戦っているように見える(・・・・・・・・・・・・)物なら今も存在している。」

 

 70数年前から、今も呉に現存する史上最大の戦艦が。

 

 「戦っているように見える?もしかして軍艦か?だが今の海軍に宣伝で使えそうな軍艦なんざ……。おい……まさかとは思うが……。」

 

 「そのまさかですよ艦長、呉に記念艦として現存していた『戦艦 大和』。それが呉艦隊の旗艦です」

 

 「あの骨董品を動かしたのか!?よく呉市民が受け入れたな!」

 

 苦労したらしいですがね、プラカードを持ってデモ行進や座り込みは当たり前、『酒さえあれば深海棲艦とも分かり合える!』とか言ったのを聞いた時は正気を疑いましたよ。

 調べてみたら案の定、『アクアリウム』と繋がった奴でしたが。

 

 「元帥殿が現地で演説したらしいです。曰く、『大和はこの日のために存在し続けていた』とね。それでも完全に納得させれた訳ではないですが……実際に大和を動かしたら自然と鎮静化したらしいです」

 

 「だが、大和が動いたなんて話はニュースでも見なかったぞ?」

 

 マスコミには報道しない自由を発動してもらいましたよ、金もだいぶ使ったらしい。

 まあ、これは言わないでもいいか。

 

 「テレビ局が国家に逆らえるとでも?情報規制は徹底的に行われています。ネット上の噂はどうにも出来ませんでしたが、噂レベルで抑えることは出来ました」

 

 むしろ、噂はあえて残したんですが。

 

 「呆れたな、税金の無駄使いだ。役に立たない物を担ぎ出してどうしようってんだ?」

 

 「元帥殿は『疲弊した国民の心を奮い立たせるため』とオブラートに包んで言ってましたが、本当は『戦争中』と言う事を思い出させるためです。そして、その戦争に勝てるのだと実感させるため。」

 

 「なるほど、日本に帰って来て違和感は感じてたが原因はそれか。戦時とは思えない程平和的な雰囲気、浮かれて忘れようとしてるだけかと思ったが……ホントに忘れてたって事かい」

 

 そう、今の日本は異常だ。

 艦長の言う通り、浮かれて忘れたいと思っている者もいるだろうが全体から見れば少数だろう。

 大半の国民は本当に忘れてしまっている。

 国防が上手く行き過ぎているせいで、9年前の悲劇が風化しかけている。

 いつ9年前の状況に戻るかもわからないと言うのに、今も深海棲艦によって出ている被害が対岸の火事状態だ。

 そのせいで軍縮を叫ぶ馬鹿者まで現れる始末、今軍縮すれば防衛に穴が開きかねないと言うのに。

 

 「ええ、艦娘を実際に見た事がない者も多いですからね。そういう者達からしたら、艦娘はゲームかアニメの中の様な存在です、現実味がない。だが『大和』は違う、観光地になるほどの知名度があり、実際に見た者も多い。それが戦う様を全メディアで一斉に放送すれば嫌でも実感する。今が『戦争中』なのだと。」

 

 「噂レベルじゃ広がってるしなぁ。だが、負けたら逆効果じゃねぇか?負けると暴動も起きかねぇぞ?」

 

 「だから負ける訳にはいかないんですよ。勝てば国民の心に戦争中という自覚と、その戦争に勝てるという希望が芽生え、負ければ絶望だけが残る。元帥殿一世一代の大博打だ」

 

 まあ、大和が戦っている姿を画面越しに見ただけで、国民すべてが自覚するとも思えないが、やらないよりはマシだろう。

 国民が自覚し、納得すれば、艦娘に使ってやれる予算も増えるかもしれないしな。

 

 「厄介な事に巻き込みやがって、負けたら国にゃ帰れねぇじゃねぇか」

 

 「負けたら米国に亡命でもしますか?ワダツミはいい土産になる」

 

 「冗談じゃねぇ、三食BBQじゃ早死にしちまうよ」

 

 大淀曰く、それは偏見らしい、ピザも食べるそうですよ?

 どっちにしても早死にしそうですが。

 

 「おや?死にたがってたのが嘘のような言いようですね」

 

 「けっ!お前ぇのせいだろうが」

 

 悪態をつく割に嬉しそうじゃないですか。

 当時の貴方からは考えられない程の変わりようですね。

 

 「結界に異常発生!北側の強度が増しています!」

 

 「なんだと!?」

 

 オペレーターが知らせる異常事態に思わず声を荒げる。

 北面の強度が増した?

 なんのために?北側から来るのは呉艦隊しかいない。

 呉艦隊の艦娘は水雷戦隊だけなのに、何をそこまで警戒した?

 まさか大和か?

 大和の主砲を警戒した?

 通常兵器をほぼ無効化する力場に守られているのに?

 

 「北側以外の強度はどうだ?」

 

 「変わりありません、北側だけ強度が増した状態です」

 

 他の強度を維持したまま、北側だけ強度を増した……か。

 北側に回した力場はどこから捻り出した?

 温存していたのか?

 それとも、本来なら回さないはずの力場を無理して回したのか?

 

 「どうすんだ?砲撃開始まで5分もねぇぞ」

 

 「砲撃は予定通り行います。そもそも、砲撃の目的は陽動ですから」

 

 そう、北側の強度が増したところで関係ない。

 結界を破壊するのが目的ではないのだから。

 

 中枢棲姫の気を逸らせば、後は神風が上手くやる。

 私の自慢の娘、私の全てを叩き込んだ自慢の弟子。

 朝潮とは別の、私の愛刀が中枢棲姫の首を獲る!

 

 「提督、時間です。」

 

 「よし!結界へ砲撃開始!大和には私が止めろと言うまで撃ち続けるよう伝えろ!砲が壊れても構わん!」

 

 「了解しました。」

 

 オペレーターが淡々と各艦隊へ伝達。

 ブリッジからも、ハワイ島の上空に爆炎の花畑が広がっていくのがハッキリ見える。

 

 「あんまり気持ちのいい光景じゃねぇなぁ。」

 

 艦長の言い分もわからなくもない。

 砲撃されているのが日本なら、絶望してもおかしくない光景だ。

 目標が島だからか、嫌でも日本と重ねて見てしまうのだろうか。

 だが……。

 

 「私は胸がすく思いですがね」

 

 9年前、妻と娘を私から奪った奴らに同じ事をやり返せた、例え効果がなかろうと清々しく思えてしまう。

 

 「お前ぇさんは日本が爆撃される光景を見てねぇから言えるんだよ。ワシは……見ちまったからなぁ……。」

 

 なるほど、艦長は日本が爆撃されるところを海上から見たのか。

 なら、私のように思うことが出来ないのも無理はない、敵地とは言っても重なって見えてしまうのだろう……。

 

 「失言でしたね」

 

 「構わねぇよ、お前ぇさんの気持ちもわかるからなぁ」

 

 ここまでは作戦通り、放送も問題なく行われているようだ。

 後は……。

 

 「鳳翔より入電!マウナロア山中腹に爆発を確認!同時に、結界強度が減衰しました!」

 

 「さすが奇兵隊だな、ギミックの破壊は上手くいったようじゃねぇか」

 

 ええ、島内ギミックの破壊成功、確かに朗報です。

 もうすぐ、神風が中枢棲姫に突撃を開始するだろう。

 島内の様子がわからないのが辛いところだが、予定通りギミックが破壊できたのだから、神風も予定通り事を進めるはずだ……。

 

 「結界北側はどうだ?大和の攻撃は効果があったのか?」

 

 「認められません。もっとも、北側は強度が倍近くになっているので、そのせいかもしれませんが」

 

 通常では貫かれる可能性があるから北側の強度を増したのか?

 だが大和は艦娘ではない、ただデカいだけの通常兵器だ。

 その大和と同等の火力を誇る武蔵が居る方の結界は元のままなのに、なぜ艦娘ではなく軍艦の方を警戒したんだ?

 

 そう言えば……元帥殿が知っている歴史の方で大和はどうなった?もしかして沈んでいるんじゃないのか?

 だとすれば……今、北側から砲撃している大和は本来なら存在しない事になる。

 深海棲艦と同じくらい世界にとって異物だ。

 

 だから警戒した?

 いや、恐れたのか?

 もしかして、大和は深海棲艦に対抗出来る、唯一の通常兵器だったんじゃないのか?

 呉が攻撃を受けなかったのは、大和が在ったからと言う都市伝説もそれなら理解できる。

 そうか……大和を恐れて近寄らなかったのか……。

 クソ!大和が深海棲艦に有効打を与えられる可能性があったのなら囮ではなく、最初から攻略に投入していたものを!

 

 「提督!奇兵隊、ソード1から入電です!」

 

 「なんと言ってる?」

 

 神風が無線封鎖を解除した、時間的にも予定通りだ。

 落ち着け、大和の事は今は忘れろ。

 これはギミック破壊以上の朗報だ。

 ここで判断を誤る訳にはいかない、冷静になれ。

 

 「一言だけです、『トラトラトラ!』」

 

 「こりゃまた古い暗号を……。お嬢らしいっちゃらしいが」

 

 『トラトラトラ』、かつての日本海軍が真珠湾攻撃の際に使用した暗号で、意味は『我、奇襲二成功セリ』。

 敵の防御が効力を発揮する前に攻撃可能であると指揮官が判断した場合に用いられた。

 勘違いされがちだが、これは攻撃が奇襲によって開始(・・)された事を示すものであり、攻撃が成功した事を意味するものではない。

 

 それを神風が突撃時に使ったと言う事は、『中枢棲姫自身に装甲は無し、よって突撃を敢行する』と言う事だろう。

 

 神風が突撃したと言う事は、倒せると判断したと言う事だ。 

 成功するのは規定事項。

 突撃すれば必ず成功させる。

 神風なら必ず成功させる!

 

 ああ、吹いたぞ風が。

 お前が吹かせた神風を確かに感じたよ。

 今この時、私は勝利を確信したぞ!

 

 「全艦隊に通達。島外ギミックを全て破壊しろ、大和には島への砲撃を中止させ、ギミックへ砲撃しろと伝えろ」

 

 「で、ですが提督、結界は今だ健在で……」

 

 「心配するな辰見、結界はもうすぐ消える。」

 

 それに、どの道神風が失敗してもギミックは破壊するのだ。

 だが、私は神風を信じている。

 アイツはきっと、中枢棲姫の首を高らかに掲げて戻ってくるだろう。

 その時に外野は邪魔だ、私の愛娘の帰り道に外野は不要、行きは素潜りまでさせたんだ、帰りくらいは堂々と凱旋させてやりたいじゃないか。

 

 「もう一度言うぞ、全艦隊にギミックを破壊させろ。囮作戦終了、総攻撃開始!(芝居は終わりだ、幕を降ろせ!)

 

 正化29年12月30日。

 太陽が中天を過ぎた午後一時過ぎ。

 これが、太平洋側の覇権を賭けた戦いの勝敗が決した瞬間だった。


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