艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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提督と満潮 終

 『東京は2月が一番寒い』という言葉を、どこかで聞いた覚えがあるけれど。

 横須賀まで寒くなくていいと、私は思うんだけどな。

 

 立春はとっくに過ぎたんだから、早く暖かくなればいいのに、って司令官に愚痴を零したら。

 立春は正確には『春が立つ』という意味で、立春を迎えた頃から気温の底はピークを過ぎ、徐々に春めいた気温や天気に変わっていく、という事なんだと教えてくれた。

 だから、暖かくなり始めたばかりなのに『立春なのに寒い!』と憤るのは間違った考え方になるんだって。

 

 「だったら『春』って漢字を入れなきゃいいのに、紛らわしい……」

 

 「それは昔の人に言ってくれ、私に言われても困る」

 

 そりゃそうだ。

 だけど、私も司令官の買い物に付き合わされて困ってるんだから、少しくらい困らせてもいいと思うんだけど?

 

 「しかし……えらくめかし込んだな、合コンでも行くのか?」

 

 「せめてデートって言ってくれない?それに、合コンに行って男を漁ってる暇なんて私にはないわ」

 

 こう言いながら2人で歩いてると、まるで司令官とデートしてるみたいな感じになるわね。

 そんな気は全くと言っていいほどないけど。

 

 「まあ、私とお前の2人だけだからデートと言えなくもないが……」

 

 いや、勘違いしないで、私にそんな気はないから。

 けど、司令官が土下座してどうしてもって言うなら考えなくもないわ。

 朝潮にバレないようにするのが大変そうだけど。

 

 それに、私的にはめかし込んでるって程お洒落はしてないつもりよ?

 髪は結ってないし、服はレースのフレアスカートと薄いブラウンのショートダッフルに靴はスニーカーだもん。

 

 私が本気でお洒落したら凄いんだから、黒メインのゴスロリファッションで行こうと思ったら、大潮と荒潮に本気で止められたけど……。

 可愛いのになぁ……あの服……。

 

 ちなみに、司令官は士官服じゃなくてスーツ姿。

 スーツ姿なんだけど……、ハッキリ言って893にしか見えない。

 だって真っ白なスーツにピンクのYシャツよ?

 しかも厳ついサングラスとハンドバッグ付き!

 どう贔屓目に見ても893だわ、確実にカタギじゃない、軍人をカタギと呼んでいいのかどうかは微妙なところだけど。

 

 でも、司令官の風体のおかげで、平日でも人がごった返してる商店街を歩いてるってのに人が勝手に避けてくれるからすっごく歩きやすい。

 今度からここに来るときは、司令官を一緒に連れて来ようかと思うくらいスイスイ歩けるもの。

 モーゼが海を割ったように人の海が左右に割れて行ってるわ。

 

 ただ、ここに来て職務質問をすでに3回受けてるのよね、2回目までは笑って対応してた司令官も、三回目には警察署に電話かけて抗議してたわ。

 建物ごと潰すぞとか言ってたわね、職質されるのが嫌なら893みたいな格好しなきゃいいのに。

 

 「ねえ、司令官の私服ってそんなのしかないの?」

 

 「ああ、私服は普段着ないからな、これは確か……神風がプレゼントしてくれた奴だ」

 

 なるほど、あの人の趣味なわけね。

 確かに似合っている、これでもかと言うほど似合ってるわ。

 職業は893ですって言われたら、きっと疑う事無く信じちゃうくらいに。

 

 「変か?」

 

 「いいえ?違和感がないほど似合ってるわよ」

 

 似合いすぎてて周りに迷惑がかかってるけどね……。

 ごめんなさい、商店街の皆さん。

 この人、自分が強面だって自覚がないみたいです。

 でも許してあげて?

 この人ってこれでも、横須賀鎮守府の提督なんです、国土防衛の要なんです。

 命張ってるんです!格好はこんなでも!

 

 「どうしたんだ満潮、思い詰めた顔して」

 

 「何でも無い……」

 

 口調が仕事モードなのがせめてもの救いね、この格好で山口弁丸出しだったら言い訳のしようがなかったわ。

 

 映画の影響って凄いわね、あの近県の方言を喋る人がみんなその筋の人に見えちゃうんだから。

 ある意味、風評被害に思えなくもないけど……。

 

 「お、あった。あの店だ」

 

 着いちゃったか、私と司令官の目に前にあるのはジュエリーショップ。

 別に強盗しに来た訳じゃないわよ?

 もちろん、悪質なクレームをつけに来たわけでも、みかじめ料を取りに来たわけでもない。

 

 着任してもうすぐ1年になる朝潮に、何か記念になる物を贈りたいと言う相談を司令官にされた私が冗談交じりに、『指輪でもあげたら?』って言ったら、本当に買う気になっちゃったの。

 

 結婚してたんだから指輪くらい1人で買いに行きなさいよって言ったら、『最近の子の好みがわからん』なんて言うんだもん、それにサイズもわからないって言うし。

 

 「よ、よし……入るぞ……」

 

 いい歳したオッサンがなに緊張してるの?

 とっとと入れ、店の前で仁王立ちしないでよ、店員さんが怯えて固まってるじゃない。

 下手したら通報されかねないわ。

 

 「い、いらっしゃいませ……」

 

 店に入ると、店員のお姉さんが、恐怖で竦む自分に鞭打って健気に対応してくれた。

 今にも泣き出しそうな笑顔だけど……。

 

 「指輪が欲しいんだが」

 

 「は、はい!こちらへどうぞ!」

 

 ドスを利かすな!店員さんがビクッてなっちゃったじゃない!見てて可哀想になるから声のトーン上げてあげて!

 

 「えっと……男性用で……宜しいんでしょうか……」

 

 「いや、女性用でお願いします」

 

 「サイズはおわかりですか?」

 

 「サイズ……サイズか……」

 

 そんなに心配しなくても、司令官が朝潮の指のサイズを知らないって聞いたからそれとなく調べてきてるわ。

 だから困った顔で私を見ないで。

 店員さんが、なんでこの子に聞くんだろう的な目で私を見てるじゃない。

 

 「3号なんですけど、あります?」

 

 朝潮の薬指は肉体年齢の割に細かった、と言うか私と同じだったからサイズは3号で大丈夫なはずよ。

 このお店にあればいいんだけど……どう見ても大人用の指輪しか置いてないように見えるし……そもそも、十代の子に贈るような値段の指輪が見当たらないんだけど……。

 

 「3号ですか!?あの……失礼とは存じますが、もしかして指輪を贈られるのは此方のお嬢様でしょうか?」

 

 まあ、そうなるわね。

 大人の女性の平均が9号位なのに、聞いたのが3号なんだもん。

 

 「いや、この子ではないが歳はそう変わらない。」

 

 「は、はあ……左様ですか……。ですが、3号となると特注になってしまいますが宜しいでしょうか」

 

 「今月中に受け取れるなら問題ない」

 

 やっぱり特注になるか、まあしょうがないわよね。

 

 「それは大丈夫です。デザインはいかが致しましょう。この辺りがお勧めではありますが……」

 

 サラッと高いのを勧めて来たわねこの店員さん、デザインは確かに良いけど、一番安いので10万超えてるじゃない。

 

 「……」

 

 はいはい、私が選べばいいんでしょ?

 だから縋るような目で私を見るのをやめてちょうだい。

 

 「そうね……これなんかどう?」

 

 私が選んだのはインターロッキングサークルリングという、二つで一つになっている指輪に手彫りされてるデザイン、何の花かはわからないけど、リング全体に花の模様が彫ってあり、ダイヤと思われる宝石が一つあしらってあるわ。

 お値段は……。

 おぉふ……十代の小娘に贈るには贅沢すぎる値段だわ。

 

 「なるほど、このデザインで宝石の種類は変えられるのかい?」

 

 「可能ですが……宝石は何に致しましょう」

 

 「タンザナイトで」

 

 タンザナイト?なにそれ、宝石?

 なんか宝石って言うより鉱石って感じの名前だけど。

 

 「素敵なチョイスですね、指輪を贈られる方は12月生まれですか?」

 

 「ええ、調べてみて彼女にその宝石あしらった指輪を贈りたいと思ってしまいまして」

 

 なんで店員さんは朝潮が12月生まれだってわかったんだろう、タンザナイトってもしかして誕生石?

 12月の誕生石ってターコイズじゃなかったっけ。

 

 「タンザナイト、12月の誕生石の一つで、キリマンジャロの夕暮れを思わせる深い青紫色が美しく、魅力的な宝石。高次元の意識へとつなげ、冷静な判断のための客観性をもたらすとか。持ち主の魅力を引き出し、輝かせるなどとも言われていますね」

 

 ご説明痛み入ります店員さん。

 そんな宝石があったのね、勉強になったわ。

 司令官もやるじゃない、宝石の意味にも拘るなんて、顔に似合わずロマンチストなのね。

 

 「お値段はこのようになりますが……宜しいですか?」

 

 「構いません、それでお願いします」

 

 即決!?

 そこらのサラリーマンの給料2ヶ月分くらいの値段だけど!?

 あ、ハンドバックから札束が出て来た……一体いくら位の値段を想定してたのよ……札束が二つも入ってるじゃない。

 

 「あ、君、このペンダントについてる石はブラッドストーンかい?」

 

 なんだか物騒な名前の石ね、赤いのかしら。

 いや、深い緑色だわ、それを赤い斑点模様が神秘的に彩っている。

 この斑点が血液みたいに見えるからブラッドストーンなのかしら。

 

 「はい、そうなります。お出ししましょうか?」

 

 「お願いします。満潮、これとかどうだ?」

 

 どうだって言われても……。

 三日月とユニバーサルデザインのネックレスか、三日月の中央に、斑点が星雲みたいに見えるブラッドストーンが吊られてるわね。

 嫌いじゃないけど……これも朝潮にあげるの?

 

 「良いんじゃない?喜ぶと思うわよ?」

 

 愛されてるわね朝潮は、司令官と一緒になればお金で苦労することはなさそう。

 

 「じゃあこれも。これは今日受け取れるかね?」

 

 「大丈夫ですよ。包装致しますので少々お待ちください」

 

 じゃあこれも、じゃないわよ……さっきの指輪程の値段じゃないけど、学生のお小遣いじゃ買えない値段じゃない。

 もしかして、あの三日月と鎖って銀かプラチナ製なんじゃないの?

 

 「お嬢様はどちらの包装紙がお好みですか?」

 

 「私?じゃあそっちのピンク色ので」

 

 そんなの店員さんの好みでいいじゃない、なんかペンダントの話になってから、妙にチラチラと私を見てたけど……。

 

 「お待たせ致しました。此方はお父様がお持ちになりますか?」

 

 こら、私をこんな893の娘扱いしないでくれない?

 この人にはちゃんと似たような性格の娘が他にいるんだから。

 

 「ええ、ありがとう。また寄らせてもらうよ」

 

 いやいや、居酒屋とか飯屋じゃないんだからそのセリフはおかしいでしょ。

 ジュエリーショップの常連にでもなるつもり?

 そんな見た目で。

 

 それから、店員さんの丁寧なお辞儀に見送られて店を出た私は、小腹が空いたから喫茶店にでも行こうと言いだした司令官に連れられて、たまたま見つけた喫茶店に入ったんだけど……、若い子を誘うなら普通カフェでしょ。

 

 「あ、でも良い匂い……」

 

 やや暗い室内照明で如何にも喫茶店と言った感じの内装、カウンターの内側でマスターと思われる人がカップを磨いてるわ。

 

 「こういう雰囲気は苦手か?」

 

 「そんな事ないわ、カフェよりこっちの方が好みかも」

 

 店の奥側の2人掛けの席に向かい合って座った私たちは、メニューを見ながら何を注文するか吟味し始めた。

 そう言えば、カフェと喫茶店の違いって何なんだろう、注文し終わったら司令官に聞いてみようかしら。

 

 「じゃあ私はブレンドと……サンドウィッチを、満潮はどうする?」

 

 「私も同じでいいわ」

 

 『じゃあ同じのをもう一つづつで』と、ウェイトレスさんに注文し終わった司令官が何かを探してキョロキョロし始めた。

 たぶん、灰皿探してるわね。

 

 「まさかここ……禁煙か?」

 

 「ここにあるじゃない、ちゃんと探しなさいよ」

 

 私の右手側、メニューの横に二つ重ねて灰皿が置いてあった。

 向かい側に座った司令官からは、死角に見えなかったのかしら?

 

 「私の前じゃ遠慮しなくなったわね」

 

 「遠慮はしてるぞ?だから換気扇のすぐ近くの席を選んだんだ」

 

 お気遣いどうも、別に司令官のタバコの匂いは嫌いじゃないから気にしないんだけどね。

 

 「あ、そうだ。司令官ってカフェと喫茶店の違いって知ってる?」

 

 「詳しくは知らんが……確か、酒が飲めるか飲めないかだろ?酒を出さないのが喫茶店だったはずだ」

 

 え?そうなの?

 喫茶店ってお酒飲めないんだ、まあ飲まないけど。

 じゃあカフェは飲めるって事?

 コーヒーを飲むイメージしかなかったんだけど。

 

 「たまに酒を出す喫茶店もあるが、そういう店と区別するために純喫茶と言ったりもするらしい。」

 

 なるほど、純喫茶ってそういう意味だったのね。

 純って名前の人が経営してる喫茶店だと思ってたわ。

 

 「そうだ、今の内に渡しておこう」

 

 「何を?」

 

 司令官が差し出して来たのは、追加で買ったユニバーサルデザインのネックレスが入った箱だった。

 私の選んだピンク色の包装紙で綺麗にラッピングされてるわ。

 

 「これって朝潮にあげるんじゃないの?」

 

 「朝潮には指輪を買っただろうが、それは今日付き合ってくれた礼と……その……弟子入りの祝いだ」

 

 弟子入りって……。

 まあ、司令官の下で仕事を学ぶんだから弟子と言えなくもないけど、正式な配属はもう少し先よ?

 それに、どうせなら誕生日にくれればいいのに。

 

 「ブラッドストーンが使われてたから衝動買いに近かったが……受け取ってくれるか?」

 

 「いいの?その……結構高かったじゃない?これ……」

 

 「気にするな。お前に私が贈りたかったんだ」

 

 やばい……悔しいけどすっごい嬉しい、照れ隠しに明後日の方を向いてる司令官が愛おしく思えちゃうわ。

 

 「ど…どうして私にブラッドストーンを?」

 

 「ブラッドストーンは3月の誕生石の一つだし、石言葉に『理想の実現』があるからお前にピッタリだと思ったんだ」

 

 へぇ……知らなかったわ、タンザナイトを調べた時についでに調べたのかしら。

 

 「あ、開けても良い?」

 

 「ああ、構わんよ」

 

 私は包装紙をできる限り綺麗に剥がして、箱の中からペンダントを取りだした。

 朝潮にあげるんだとばかり思ってたからサプライズみたいになっちゃったわ。

 素直に嬉しい、司令官の顔をまともに見れなくなっちゃった……。

 

 「着けて見せてくれるか?」

 

 「う、うん……」

 

 髪を結ってくればよかった、留め金を留めるのに後ろ髪が煩わしいわ。

 

 「やってやろうか?」

 

 「え?いや、でも……」

 

 「遠慮するな」

 

 「ちょぉ!」

 

 止める間もなく、椅子から立ち上がった司令官が私の後ろに回り込んだ。

 髪を上げとけばいいのかしら、うなじを見られるのが裸を見られるより恥ずかしい……。

 それどころか、チョコチョコと司令官の指がうなじに当たる度に、背中ムズムズする。

 

 「よし、できたぞ」

 

 やばい、やばいやばいやばい……顔が燃えるように熱いわ。

 私、今絶対顔が真っ赤だ、しかもやばいレベルで。

 

 「あ、ありがと……」

 

 声もまともに出ないしぃぃぃ!

 消え入りそうな声って奴?

 心臓もバクバク言ってるし、体も若干震えちゃってる、まさか……司令官の事が好きになっちゃった?

 いやいやいやいや、ない!

 オッサンは守備範囲外なんだから絶対にない!

 ないはずなのにぃぃぃ!

 

 「どうかしたか?」

 

 「ひゃう!」

 

 近い!顔が近い!

 横から覗き込まないでよ、何でもないから!

 私が横向いただけでキスできちゃいそうじゃない!

 

 「ひゃう?」

 

 「ち、違う!ひょうよ!『雹』!雹が降りそうな天気だなぁと思っただけ!」

 

 「そうか?快晴だが……」

 

 やっぱり言い訳としては苦しいか!

 で、でももしかしたらホントに降るかも知れないでしょ!

 艦娘の勘を信じなさい!

 

 「そ、それより!弟子入りしたんだから、いつまでも司令官って呼ぶのはおかしいと思わない!?」

 

 話を逸らすのよ満潮、出来るだけ冷静に話せる話題に!このままじゃ勢いだけ『好き!』とか言っちゃいそう!それだけは絶対に避けないと!

 

 「別に、今まで通りで良いんじゃないか?お前が呼び方を変えたいなら構わないが」

 

 よし!食いついた!

 何が良いかしら、師匠かな?

 ん~なんか嫌、変な格闘技教えられそうだし。

 

 なら提督?

 今と大差ないから却下、何か良い呼び方ないかなぁ。

 

 「神風みたいに先生とかどうだ?」

 

 先生……先生か、無難なところね。

 落としどころとしては十分だわ。

 

 「じゃあそうする……、せ、先生……」

 

 あ、あれ?恥ずかしい……。

 思ってたより恥ずかしいわこれ!

 今まで司令官って呼んでたのを先生に変えただけなのに、なんでこんなに恥ずかしいのよ!

 神風さんってコレを平気な顔して言ってたの!?

 い、いや、今の私は変な気分になってるわ、そのせいで恥ずかしく感じちゃうのよ。

 べ、別に神風さんみたいな特別な呼び方ができて嬉しいなんて思ってないんだからね!

 

 「自分で勧めといてなんだが……神風以外にそう呼ばれると少し照れるな」

 

 照れないで!

 しれ……、先生まで照れたら私が余計照れるじゃない!

 穴があったら入りたいとはこの事だわ!

 

 「はぁ……先が思いやられるわ……」

 

 「そうか?お前なら大丈夫だと思うが」

 

 先生が言ってるのは仕事面でしょ?

 私が言ってるのは私の精神面なの、これから毎日こんな気分になるのかと思うと気が重いわ……。

 

 「指輪の事は、やっぱり当日まで秘密にしておいた方がいいのか?」

 

 「当たり前でしょ?サプライズのプレゼントってかなり効くのよ」

 

 品物を買うところを見てた私でさえこれだけドキドキしちゃったんだもん。

 買った事を知らせずに贈ったらイチコロよ。

 

 「じゃあそうしよう、満潮のアドバイスは的確だからな」

 

 「そんなに当てにしてくれるんなら、今度からアドバイス料を貰おうかしら」

 

 「そのペンダントでどうにか」

 

 「なりません、これは今回のアドバイス料として貰っとくわ」

 

 これからも、朝潮絡みの相談を私にしてくるんだろうなぁ……。

 人の気も知らないで……。

 朝潮との惚気話とかもきっとしてくるわ、私はその時、ちゃんと先生の顔を見れるのかしら。

 それとも、嫉妬してそっぽ向いちゃうのかしら……。

 

 「これからもよろしく頼むよ、満潮」

 

 先生が右手を差し出しながらそう言ってきた。

 ふん、いい気なものね、頼まれなくったってよろしくしてやるわよ。

 朝潮とケンカした時は『別れたら?』とか言って嫌がらせしてやるんだから。

 けど安心して、私の気が済んだら、ちゃんと仲裁してあげるから。

 

 「こちらこそ、よろしくね……先生……」

 

 先生の右手を握った瞬間、体中に電気が流れたような気がした。

 剣ダコまみれのゴツい手の平、だけど不思議と安心する。

 この手をずっと握っていたいと思ってしまう。

 この手で触れられたいと……思ってしまう……。

 

 やっぱり、私は先生の事が好きなんだ……。

 恋なんてした事なかったから、今まで気づけなかったんだわ。

 

 はは……笑っちゃうなぁ。

 自分の恋心を自覚した途端に失恋か……。

 

 姉さんの時には何も思わなかったのに、今は凄く後悔してる。

 もっと早く、自分の気持ちに気づけてたらなって。

 

 「満潮?どうかしたのか?」

 

 何でもないわよ、だからそんな心配そうな顔しないで。

 邪魔なんてしないから、先生と朝潮の邪魔は絶対にしないから。

 

 2人を見てると幸せな気分になるのは本当だもの、先生と朝潮には幸せになってほしいって、心の底からそう思えるもの。

 

 今は始めての感情をどう処理していいのかわからないだけ、きっと時間が経てば落ち着くわ。

 そう、きっと時間が解決してくれる……。

 

 だからそれまで……。

 せめてそれまでの間は、アンタの好きな人に恋焦がれるのを許してちょうだい……。

 

 「そんなに私の顔を見て……。まさか私に惚れたか?なんてな」

 

 ええそうよ、私は貴方の事が好きになっちゃったみたい……。

 貴方の事が……好きだったみたい……。

 

 でも告白はしてあげない。

 私じゃなくて、朝潮に惚れた事を後悔させてやるんだから。

 

 だから私はこう言うの、精一杯強がって。

 私の本心を貴方に悟られないようにこう言うわ。

 

 「よくわかったわね、大正解よ(何それ、意味分かんない)」って。




 

 ラストで絶賛苦戦中!
 最悪、明日の投稿は間に合わないかもしれませんorz

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