艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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幕間 提督と満潮 3

「で?姉さんからのプレゼントはなんだったの?」  

 

 時刻はフタヒトサンマル、例によって『居酒屋 鳳翔』で司令官の晩酌のお付き合い、今日の司令官はどこか晴れやかな雰囲気ね、姉さんのプレゼントのせいかしら?

 

 「ああ、シガレットケースじゃった。」

 

 タバコ入れか、いい加減やめればいいのに、そんな物貰っちゃったら余計やめなくなるわね。

 

 「ついでに朝潮に説教じみた事までされてしもうた。」

 

 説教?朝潮が司令官に?意外とやるわねあの子、司令官に心酔してると思ってたけど。

 

 「ムカついてるの?」

 

 まあそんな事はないんだろうけど。

 

 「いや、感謝しちょる、あの子は俺の心を守ってくれようとしちょるんじゃろうな。」

 

 心……ね、姉さんを亡くしてから司令官はすっかり変わっちゃったものね、他の子は気づいてないようだけど姉さんがなくなる前と後じゃ全然違う、私たち以外で気づいてるのは鳳翔さん、後は私兵の人たちくらいかしら。

 

 「朝潮にはなんて言われたの?」

 

 「俺の剣になるとさ、そんで俺には鞘になってくれって言うとった。」

 

 それは新手のプロポーズ?惚気話にしか聞こえないんだけど?

 

 「朝潮の前にも部下に言われたよ、俺はお前たちを道具として扱っちょるっての。」

 

 うん、プライベートでこそこんなだけど、出撃を命じてくる司令官からはそんな雰囲気が出てた、でも私は、司令官がそれで職務を全うできるならそれでいいと思ってたわ、他の子がそれに気づいたら愛想つかされてたかもしれないけど。

 

 「気にすることないわ、私たち艦娘は兵器であり兵士、そしてソレを使うのは司令官なんだから。」

 

 「まあそれはそうなんじゃが、お前達は兵器で有る前に人間じゃろ?そして人間には心がある、俺はそれを蔑ろにしちょった……。」

 

 さっきまでの晴れ晴れとした顔はどこへやら、誰よこの人に余計な事言ったのは、少佐かしら。

 

 「軍人としてはそれで正しいんじゃない?兵士の心配ばっかりしてたら戦争なんてできないでしょ。」

 

 「それはそうじゃが……でもなぁ。」

 

 「デモもヘチマもないの、艦娘が女子供ばっかりだから悩んじゃうのよ、私兵の人達には死んでこいって言えるでしょ?でもそれは、あの人達を使い捨ての道具と思ってじゃなくて部下として信頼してるからじゃないの?」

 

 「ああ、そうじゃの……。」

 

 「だったら私たちにもそうすればいいの、姉さんが居た頃は出来てたんだから、その内また出来るようになるわよ。」

 

 きっと貴方は私たち艦娘を姉さんと重ねてしまってる、貴方の命令で死んだのは姉さんだけじゃないけど、誰かが死ぬたびに貴方が泣いていたのを私は知ってる。

 

  ただでさえ艦娘の死に苦しんでいた貴方に、姉さんの死が決定打になってしまった、それで貴方の心は壊れてしまった……。

 

 端から見たら立ち直ってるように見えるかも知れないけど、貴方は私たちが死ねば、姉さんが死んだときの事を思い出してしまう。

 

 だから艦娘は道具だと思い込むようになってしまったんでしょ……?

 

 真面目過ぎるのも考え物よね、職務と感情の板挟みで、艦娘は深海棲艦へ復讐するための道具だと思い込まなければ、貴方はきっと提督を続ける事ができなかったのね。

 

 「まあ気長にやんなさいよ、いつまで戦争が続くかなんてわかんないんだし。」

 

 ホント長いわよねこの戦争、もう平和だった頃の記憶の方が少なくなっちゃった。

 

 「そうも言ってられん、大規模作戦が来月に迫っている。」

 

 大規模作戦?この口振りだと主導は横須賀みたいね。

 

 じゃああの人が帰ってくるのはそのため?

 

 「あの人を使う程の作戦なの?」

 

 「耳が早いな、あの二人から聞いたのか?」

 

 「ええ、呉に迎えに行くって聞いたわ。」

 

 だけど、あの人とまともに艦隊行動が出来る艦娘なんてここじゃ私たちか、後は由良さんと鳳翔さんくらいしか居ない、戦艦や空母なんて、あの人の邪魔になるだけだし……出来ることなら組みたくないなぁ。

 

 「お前も噂位は聞いたことが有るだろう?作戦終了間際か終了後に高練度の駆逐艦ばかりを狙う隻腕の戦艦棲姫。あいつには、そいつを釣る囮になって貰う。」

 

 隻腕、姉さんの仇、たしか最近行われた作戦で佐世保の時雨が被害に会ったって聞いたわね。

 

 駆逐艦ばかり狙う戦艦棲姫、たしかにあの人が餌なら確実に釣れるわ。

 

 「釣り上げて主力艦隊でたこ殴りにするって寸法かしら?」

 

 「いや、襲って来るのが艦隊が消耗しきっている終了間際か終了後ではそうもいかん。かと言って何処に隠れているかもわからない奴にかまけて作戦を蔑ろにも出来ない、あくまで作戦のついでに奴を始末しなければならない。」

 

 そんな無茶な……作戦には動かせる殆どの艦娘を動員しなきゃいけないのよ?鎮守府の防衛にも割かなければいけないのに……、そんな状況で主力艦隊とは別に動けるのなんて精々駆逐隊が一つか二つくらじゃない。

 

 ん?駆逐隊が一つか二つ?

 

 「ちょっと待って、まさか……。」

 

 「そう、そのまさかだ、釣り上げられた奴にお前達第八駆逐隊をぶつける。」

 

 私たちをアイツにぶつける?

 

 そうか、やっと来たんだ、姉さんの仇を討つチャンスがやっと巡ってきた!

 

 「自信がないか?」

 

 そんな訳ないでしょ、仇を討つためにこの三年間、私たち三人は訓練を重ねてきたんだ。

 

 「いいわ、その話乗ってあげる!」

 

 あれ?でも、そうすると朝潮は?あの子も戦艦棲姫討伐に参加させるの?

 

 「朝潮はどうするの?あの子は昨日初出撃を終えたばかりよ?」

 

 いくらあの子の成長が早いと言っても、戦艦凄姫にぶつけるには実戦経験が少なすぎる。

 

 「もちろん討伐に参加してもらう、実戦経験が少ないのも承知の上だ。」

 

 「本当に参加させるの?あと一ヶ月もない訓練期間で奴と戦わせるなんて無謀よ?」

 

 姉さんが一人で追い込んだ相手だ、今の私たちなら三人でもきっと討ち取れる、無理にあの子を危険な目に会わせなくったって……。

 

 「奴が当時と同じ強さとは限らん、それにこれは朝潮の意思を尊重しての結論だ。」

 

 司令官の剣になるってやつ?だけど今のままじゃ……

 

 「朝潮は、休暇が明けたら由良と一緒に改装を受けさせる。」

 

 由良さんと一緒に?由良さんは一度改装を受けてるんじゃ……、まさか改二改装?

 

 「由良さんの改二改装が可能になったの!?」

 

 「ああ、それが終わり次第、お前達第八駆逐隊を本格的に出撃のローテーションに組み込む。」

 

 「そっか、由良さんもついに改二か、朝潮は改二改装まで受けれる練度なの?」

 

 「いや、さすがにそれは無理だ、だが朝潮の成長速度なら大規模作戦までに改二改装を受けれる練度に到達出来るかもしれない。」

 

 「つまり司令官はそれまでに朝潮を鍛え上げろって言うのね?」

 

 「そうだ、技術面は心配していない、あの子に足りないのは戦場への慣れだ、一ヶ月かけて朝潮の精神面を重点的に鍛えろ。」

 

 たった一ヶ月で精神面を鍛えろだなんて無茶を言ってくれる、しかも姫級を相手に出来る程にだなんて。

 

 「やれるな?」

 

 やるわよ、やらなきゃあの子が死んでしまうかもしれない、それにせっかくのチャンスだ、あの子が一緒に戦えるなら勝率も上がる、やってやろうじゃない!

 

 「いいわ、でも哨戒任務だけじゃ無理、出来るだけ難易度の高い任務に就かせて。」

 

 「もちろん、そのつもりだ。」

 

 朝潮にはキツいかも知れない、だけど私が守る、あの子には覚悟があるんだ、その覚悟を邪魔しようとする奴は私が全部沈めてやる!

 

 「わかった、司令官の剣、私が鍛え上げてあげる。」

 

 「まるで鍛冶師のセリフだな。」

 

 「鍛冶師?私は艦娘よ、しかも歴戦のね!あの子が司令官の剣になると言うのなら私はあの子の盾になる、あの子は私が絶対に守るわ!」

 

 「……朝潮のために死ぬ気か?」

 

 「は!冗談言わないで!あの子が司令官の悲しみを断つために剣になるって言ったのに、私があの子の重荷になってどうするのよ。」

 

 攻撃を防ぐだけが盾じゃない、盾で殴れば下手な鈍器より痛いんだ、しかも私は性格通りトゲまみれ。

 

 「私は盾は盾でもトゲ付きの盾よ、触ると怪我じゃ済まないんだから!」

 

 あの子は私の妹だ、会ってからたった一ヶ月だけど、私の中ではもう、姉さんと同じくらい掛け替えのない存在になっている。

 

 絶対に失いたくない。

 

 「トゲ付きの盾か、お前らしいな。」

 

 「そうよ?だから司令官も扱いには注意しなさい?でないと司令官にも刺さるわよ。」

 

 朝潮を泣かせたらただじゃ済まさないんだから。

 

 「おお怖い、怖ぁて小便ちびりそうじゃ。」

 

 「屁とも思って無い癖に、それに食事中に下品なこと言わないで。」

 

 「すまんすまん、あ、鳳翔さん、お酒追加ね。」

 

 「今日は飲み過ぎじゃない?今日はもうやめときなさい、明日も早いんでしょ?」

 

 「ええじゃないか、もうコレでやめるけぇ。」

 

 嘘つけ、そう言ってやめた試しがないじゃない。

 

 「あらあら、なんだか提督の奥さんみたいね、はい提督、お酒です。」

 

 ぶっ!!何てこと言い出すのよ!

 

 「や、やめてよ鳳翔さん!こんなオジン守備範囲外よ!」

 

 「オジンって……、ちょっと酷すぎじゃ……。」

 

 「じゃあオッサン。」

 

 別に嫌いなわけじゃないけど……。

 

 「同じじゃろうが!」

 

 「せめてお父さんとかどう?満潮ちゃん。」

 

 ええ~……、こんなガラの悪い父親は嫌だなぁ、見た目が仁侠映画に出てくるヤクザじゃない、でもまあ、一回くらいなら……。

 

 「いや、それはダメじゃの。」

 

 「あら、そうなんですか?」

 

 なんだ、一回くらいなら呼んであげてもよかったのに。

 

 「パパと呼んでくれにゃ嫌じゃ!」

 

 「はあ!?意味わかんない!」

 

 何が『嫌じゃ!』よ、こっちが嫌じゃ!

 

 「おっと忘れとった、さっきの頼みが上手くいったら、ご褒美に何でも一つお願い聞いちゃる、実現可能ならな。」

 

 へぇ太っ腹じゃない、何がいいかな、間宮羊羹……はまだあるし。

 

 「私たちの部屋広くして。」

 

 「それは他の駆逐艦から文句が出るからやめてくれ。」

 

 チッ!ダメか、じゃあ。

 

 「私たち専用の食堂。」

 

 「さすがに俺の財布の中身じゃどうにもならんな。」

 

 まあ、それはそうでしょうね。

 

 「じゃあ私の改二改装。」

 

 「それは妖精さんに言ってくれ……。」

 

 妖精さんお願いします、私にも改二を、朝潮が改二改装受けたら私だけ仲間外れになっちゃう!

 

 「別に今すぐ決めんでええんで?」

 

 それはそうだけど、う~ん、あんまり欲しいものないなぁ……それに頑張るのは私じゃなくて朝潮だし。

 

 ん?そうよ、頑張るのは朝潮じゃない、私が得してどうするのよ!

 

 朝潮へのご褒美となると何がいい?あの子は物欲なさすぎだし。

 

 かと言ってあの子に決めさせたら訓練させてくれとか言いそうね。

 

 あの子が欲しそうなもの……あの子が喜びそうな事……。

 

 あ、あった……あの子が心底喜びそうな事。

 

 「それなら、大規模作戦が終わってからでいいからさ……。」

 

 「なんだ?」

 

 これしかない、司令官からの、いえ、私からのあの子へのご褒美。

 

 「朝潮とデートしてあげてよ。」

 

 「お前はそれでええんか?」

 

 司令官だって朝潮の態度見て気づかないほど鈍感じゃないでしょ?ラブコメの主人公でもあるまいに。

 

 「うん、そうしてあげて、きっと喜ぶから。」

 

 「そうか、わかった。」

 

 さて、朝潮へのご褒美は用意できた、感謝しなさい?アンタじゃ司令官をデートに誘うなんてできないでしょ。

 

 「お前は将来、ええ女になりそうじゃの。」

 

 「ふん、今でも十分いい女でしょ?」

 

 いい女になりそうじゃなくて、いい女なの。

 

 「ああ、そうじゃの。」

 

 頑張りなさい朝潮、アンタの覚悟は私が全うさせてあげる。

 

 少し傲慢だけど、アンタのお姉ちゃんとして、少しだけ私にお手伝いさせてね。

 




 由良改二おめでとう!
 作中で由良が改二になると出ましたが、由良の戦闘場面は予定になかったりします。

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