「歓迎するわ朝潮、ようこそ私の『
決まったーーー!!どう?私カッコ良くない!?
こう、なんて言うの?強キャラ感が出てるっていうか、いかにも今から貴女を倒します的な?
ホントは四人まとめた状態でやりたかったんだけど、この子達ったら私を本気で狩りにくるんだもん、大潮と荒潮も強くなったわね倒すまで4発も撃っちゃったわ。
特に驚いたのが満潮ね、避け方が尋常じゃなく上手くなってた、横須賀であの子を撃ち取れるのは私くらいかしらね。
まあ、その分攻撃面を蔑ろしたわねあの子、たしかに砲撃は正確だったけど捻りが全くない、馬鹿正直すぎて避けるのに苦労しなかったわ。あれなら新米の砲撃の方がどこに飛んでくるかわからない分避けづらいわ。
さて、この二代目はどんなかな、トビウオを使えるのには少し驚いたけど使いこなせてるとは言い難いし、今も私の『
え?『
では説明しよう、『
浮力がギリギリ発生する程度の小規模に、それこそ足の裏程度の面積しか脚を発生させずにそれを足場にするトビウオの応用技、『水切り』を敵の周囲で連続で行い翻弄する私の奥の手である!
なんてそれっぽく説明してみたり。
速力はでないしトビウオ以上に疲れるしでハッキリ言って並の艦娘が使えたところでデメリットしかないこの技だけど、今みたいな超至近距離なら話は別!
実際の艦と違って深海棲艦ですら大きくて人間の3倍程度、そんな奴らが相手ならこの技はビックリするぐらい有効的よ。
艦娘でも深海棲艦でも脚がある以上、旋回する際には旋回半径というものがついて回る、駆逐艦で1メートル弱、戦艦などになれば数メートルを要する。
脚がある以上、急に後ろに向きを変えることなどできないのだ。
『
もっとも、私は旧型艦、それも全艦娘のプロトタイプと言っていいくらい古いから火力も雷装も低い、精々タ級くらいまでかなぁ私が確実倒せるのは。
鬼級や姫級になるとちょっと厳しい、なにせ装甲が半端なく厚いんだもの、ああいう奴らを相手にする時だけはスペックの低さを実感しちゃうわね。
「この!」
おおっと危ない、調子に乗って目の前をうろちょろしすぎた。
それにしても諦めが悪い、これだけボコスカ撃たれてまだ諦めないなんて。
今は……え~~と、もう1~2発で中破かな?先生からは中破以上は許さないって言われてるからそろそろ諦めてほしいんだけど……。
「許さない!よくも三人を!よくもお姉ちゃんたちを!」
お姉ちゃんたち?あの子達ったらこの子にお姉ちゃんって呼ばせてるの!?可愛いとこあるじゃない。
「もう諦めなさい、このままじゃそのお姉ちゃんたちに会えなくなっちゃうわよ?」
もう魚雷撃っちゃおうかなぁ、炸薬抜いて威力は減らしてるし、直撃しても死ぬことはないと思うけど。
「そこ!!」
おお!?私を捉え始めた!?やるじゃないこの子、私の動きについて来始めてる。
それに耐久力も不自然に高い、もう7~8発は軽く撃ち込んでるはずなのに中破に届いていない。どういうこと?誰か説明して頂戴!
あ~そうか、ギリギリで致命傷を避けてるんだ、体を動かすのに支障がない範囲にしか被弾していない。
でもそれだと更におかしなことになる。
私の撃ち方は特殊だ、砲身のみを動かし見た目の射角と実際の射角を誤認させるこの撃ち方は初見ではまず見破れない。
私の単装砲は拳銃型だからなおさら誤認させやすいのに。
早めに決めるか、先生には怒られるだろうけどこのままじゃこの子、中破よりひどい事になっちゃう。
「もうちょっと楽しみたいところだけどそろそろ終わりにするわ。」
朝潮の正面から左斜め後方に向け二回ステップ、狙いは後頭部。
大丈夫よ、貴女の装甲は私より厚いし、気を失うだけで済む!……はず。
私が引き金を引こうとしたその時、朝潮と目が合った、でも無駄よ。
その体制じゃ貴女は何もできやしない。
「やっと……、捉えた!」
何?今この子なんて言った?私を捉えた!?
ドン!
トビウオ!?水柱で視界を塞がれた!あんな被弾しまくった状態でトビウオなんて自殺行為でしょ!いやそれは後でいい、あの子はどこへ?いやわかりきってる、前だ!あの子は前方へしかトビウオを使えない!
私はトビウオの水柱を朝潮の左後方に回り込んだ時の勢いそのままに、さらに右前方へ向けステップ、さあ!今度こそ王手よ!
「あれ?いない?」
前方に朝潮の姿がない、どこへ行った!?あの子は前にしかトビウオで飛べないはずなのに!
「私の……勝ちです!」
私の左後方から声?なんでこの子はそんなところにいるの?さっきのトビウオで飛んだのは左方向!?右前方へステップした私は左半身を無防備にあの子に晒した状態になってしまっている、単装砲は右手、迎撃もできない!
「魚雷3番4番!発射!!」
私に朝潮の魚雷が迫る!これはまずい!このままじゃ当たる!!
ズドン!!
「やった!やったわ!!三人の仇を討てた!!」
ちょっとちょっと、あの三人は死んでないわよ?気絶してるだけ。
それに私もやられてない、水柱が魚雷の爆発にしては小さいのに気づいてないのね。
まあしょうがないか、散々私にボコられて意識は朦朧としてるでしょうし、戦闘帰りだから疲労もあるだろうし。
私は朝潮の『頭上』から単装砲の狙いを定める。
どうして頭上を飛んでるかですって?
簡単よ、トビウオで上に飛んだから。
前に言ったでしょ?トビウオは『全方位』に直進することができるって、上空だって例外じゃないわ。
もっとも、飛び上がれるのはぜいぜい5~6メートルだし、着水時は足が痛いしで一番飛びたくない方向なんだけど、まあ仕方ないわね、やらないと私たぶん死んでたし。
私はこれをトビウオとは別に『花火』と呼んでいる。
見た目が打ち上げ花火みたいだから、ただそれだけの理由なんだけどね。
私は朝潮の頭上をバク宙して飛び越えるように跳躍し、再び朝潮の後頭部を狙う。
「貴女、面白いわ。たぶん私が今まであったどの艦娘よりも。」
「!?」
私は朝潮が振り向く前にトリガーを引き、朝潮の意識を刈り取った。
「ふう、疲れた……」
まったく、花火まで使わされるとはさすがに思わなかったわ。
格下と思って侮り過ぎたわね、私としたことが慢心とは……。
「朝潮……、朝潮!」
ん?満潮?もう気が付いたの?緊急避難装置を切り離してこっちに向かって来てる、もっとも足首まで海水に浸かってるけど。
「大人しくしてればいいのに、沈んじゃうわよ?」
「うるさい!よくも朝潮をこんなになるまで痛めつけてくれたわね!」
そんなボロボロな状態で睨まれてもなぁ、あらあらベソまでかいちゃって。
「心配しなくても気絶してるだけよ。死んじゃいないから安心しなさい。」
「そんなの関係ない!この子には時間がないの!大規模作戦までに隻腕と戦えるくらいにならなきゃいけないのに!」
アイツとこの子が?
あ~そういえば先生が八駆をぶつけるとか言ってたわね。
隻腕がどれ程かは知らないけど、この子なら今の時点で戦力になるんじゃない?
「朝潮!しっかりしなさい!ねえ起きて!朝潮!!」
「後頭部に衝撃受けてるからやめなさい、後遺症が出ても知らないわよ。」
まったく、少し心配しすぎじゃない?この程度のケガ、艦娘なら普通でしょうに。
「朝潮……ごめんね、私がもっと抑えれてたらアンタがこんなになるまで戦わなくて済んだのに……。」
ガチ泣きしちゃった……うわぁ~さすがに罪悪感が出て来たわ、貴女ってそんなに素直に泣くタイプだったっけ?
「救護は?救護の哨戒艇は?」
「大潮の緊急避難装置が作動した時点で鎮守府を出てるはずよ、時間的にそろそろ……、ああ、来たわね。」
鎮守府からの哨戒艇が近づいてくる、まさか先生は乗ってないわよね?乗ってるなら逃げないと何言われるかわかったもんじゃない。
「お~い姐さ~ん!満潮さ~ん!」
ああ、モヒカンと金髪か、先生は……よし、乗ってない。
「うわ!また派手にやったっすね姐さん!提督殿怒るっすよ~これ……。」
「私だってここまでやるつもりはなかったの!しょうがないじゃない、この子諦め悪いし、危うく私が殺されるところだったんだから。」
本当に危なかった、冷や汗かいたのなんかいつ以来かしら。
「朝潮さんが姐さんを?んなバカな、朝潮さんは着任してまだ一か月半くらいっすよ?」
はあ!?一か月半!?ド新人もいいとこじゃない!それなのにトビウオを使ったり私の動きを捉えて花火まで使わせたの!?
「ちょ、ちょっとそれ嘘よね?私この子に冷や汗までかかされたんだけど?」
「ホントっすよ、朝潮さんを鎮守府に送り届けたのって自分と相棒っすから。」
信じられない……満潮たちの指導がいいとしても、一瞬とはいえ私と渡り合ったこの子が着任一か月半?
「満潮、こいつの言ってる事って本当なの?」
「そんなこといいから早く朝潮の手当してよ!お願いだからぁ……。」
あ~あ、ダ~メだこりゃ顔が涙と鼻水でドロドロ、話になりそうにない。
「はいはいわかりました、そこの二人!さっさとこの二人を回収して!そんでもうちょっと沖に大潮と荒潮も浮いてるはずだからそっちもね!」
「ういっす!姐さんは乗らないんで?」
「私は先生に聞きたいことができたわ。だから一足先に鎮守府に戻る。」
私は満潮と朝潮を二人に任せて踵を返し、鎮守府を目指して航行し始めた。
着任一か月そこらの新人に私が殺られかけたなんて納得できない、きっとこの子には私が知らない何かがある、そしてそれを先生は知っている。
そもそも私がこの子たちを襲うのを許した時点で怪しむべきだった、先生は今もたぶん朝潮の事を引きづっている、そしてあの二代目はその朝潮そっくり。
情が沸かないはずがない、亡くなった奥さんと娘さんにもどこか雰囲気が似てるし。
先生って幼女趣味なんじゃなくて単に黒髪フェチなんじゃない?
それに、先生は私が無茶苦茶するのをよく知ってる、私に戦い方を叩きこんだのは先生なんだ、殺さないまでも動けなくなるまで痛めつけるくらいは予想がつくはずなのに私とあの子たちがぶつかるのを容認した。
先生の狙いは何?単純に私の強さを八駆の四人に見せつけるのが目的?それとも私とあの子たちをぶつけてどの程度強くなってるか確認したかったの?
「もしくはその両方……。」
後者はまだわかる、だけど前者が理解できない。
大潮たち三人はともかく、それじゃ二代目の心をへし折りかねないのに。
それに見合うだけのメリットがあるってこと?私の強さを見せることが?
強さを見せる……、何のために?
私の戦い方を見せたかった?今さら私の戦い方を真似させても意味がない、それでは駆逐隊としての動きに支障が出てしまう。
じゃあ何?私の何を見せたかった?
朝潮はともかく、大潮達は私の強さは知っている。
ん?朝潮はともかく?
そうか違う!大潮達は関係ない!
朝潮だ!
私の技術を朝潮に見せたかったんだ!
「嵌めてくれたわね先生!あの子に私の技術を盗ませるのが目的か!」
一回見ただけで覚えれるとは思えない、だけどあの子は横方向へのトビウオを初見でやって見せた、可能性はあるわ。
とっちめてやらなきゃ!私が自分から教えるのと盗まれるのとじゃ私の心持が全然違う!
「財布をスッカラカンにするだけじゃ許してあげないんだから!」
私は速度を上げ、執務室に砲弾を撃ち込みたい衝動を抑えながら鎮守府への帰りを急いだ。