艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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朝潮突撃 3

 4月も下旬に差しかかり、一般の人ならゴールデンウィークをどうするか予定を立てて居る頃。

 

 横須賀鎮守府内は、司令官によって正式に発令された大規模作戦への準備で大忙しだった。

 

 資材、資源の調整、大湊警備府への艦隊の移動。

 

 横須賀鎮守府から出撃する艦隊同士の打ち合わせ等々、上から下までてんてこ舞い。

 

 「なのに、なんで私達はこんなに暇なんでしょうか。」

 

 そう、鎮守府がそんな状況なのにも係わらず、私達第八駆逐隊は暇なのです。

 

 哨戒任務も訓練もしてはいるのですが、大きな作戦前なので訓練は最低限、哨戒も一日数時間程度。

 

 暇さえあれば出撃をしていた入渠前と比べて、明らかに空き時間が増えているのです。

 

 唯一、大潮さんだけは秘書艦補佐をしているので忙しそうですが。

 

 昼食を食べ終わった現在、演習場は作戦に参加する艦隊が訓練に使っていて使用できず、哨戒任務も昼食前に交代したばかりなので明日まで予定はなし。

 

 「疲れ切った状態で作戦に挑むよりはマシでしょ?それにまったく何もしてないわけじゃないんだし。」

 

 それはそうですが空き時間がこうも多くては体が鈍ってしまいそうで……、満潮さんだって暇を持て余してるんじゃないですか?

 

 ずっと荒潮さんと一緒に私の髪型をいじって……。

 

 「八駆は作戦と直接関係ないからねぇ。あ、満潮ちゃん次は縦ロールにしましょ♪きっと似合うわよぉ♪」

 

 「春風みたいな?この子に似合うわけないじゃない。」

 

 春風さん?たしか第五駆逐隊の人ですよね。

 

 遠くからしか見たことないけど、神風さんと同型艦なのに神風さんと違ってお淑やかな大和撫子って感じだったなぁ。

 

 そういえば神風さんって同型艦の人達とどうゆう風に接してるんだろう?

 

 一緒に居るところを見たことないわ。

 

 「朝潮なら髪型をドリルみたいにするより両手に付けた方が喜ぶんじゃない?」

 

 両手にドリル!?髪型をいじって遊んでいたはずが、なぜ私を改造する話になってるんですか!?

 

 「それなら艦名も変えなきゃ!豪天号とかどう?」

 

 なんか人類最後の希望みたいな感じのいい艦名ですね!でも嫌です!私は朝潮であることに誇りを持っています!

 

 「できた!今度は無難に、ポニーテールにしてみたわ!」

 

 「シンプルだけどいい感じねぇ。あ!そうだ満潮ちゃんアレを着せましょうよ!」

 

 服まで着替えさせるんですか!?以前みたいにまた下着姿で正座なんて嫌ですよ!?

 

 「アレね、ちょっと待ってて!」

 

 珍しく二人とも意気投合してますね、私に何を着せるつもりですか?と言うか荒潮さん、黙々と私を脱がさないでください。

 

 手つきが手馴れすぎててなんだか怖いです。

 

 「あった!さあ朝潮、コレを着なさい!アンタも着たがってたでしょ?」

 

 そ、それはまさか……。

 

 「黒のワンピースにフリルの付いた白いエプロンを組み合わせたエプロンドレスに同じく白いフリルの付いたカチューシャ、ポニーテールの朝潮ちゃんに良く似合ってるわぁ。どこからどうみても立派なメイドさんよぉ♪」

 

 これが噂のメイド服……、駆逐隊としては良い仕上がりだと思います!今すぐお茶でも淹れたい気分です!

 

 でも、前に皆がコレで出歩くのはやめなさいと言った理由が少しわかったわ、コレで歩き回るのはさすがに恥ずかしい。

 

 可愛いとは思うのだけど……、いえ、けっして自画自賛したわけではなくあくまで服が可愛いんですよ?服が。

 

 「司令官が見たら昇天するわね、私も少しやばいわ……。」

 

 満潮さん鼻血が出てますよ?お任せください!私が拭いて差し上げます!

 

 「もう朝潮ちゃんはこれが制服でいいんじゃないかしらぁ。司令官に提案してみるぅ?」

 

 これを制服にですか!?さすがにそれはちょっと恥ずかしい気が……。

 

 でも司令官が喜んでくださるならやぶさかでもない気が……。

 

 ドンドン!

 

 あら?誰かしら暇を持て余してるのなんて私たちくらいなのに。

 

 と言うかノックはもう少し静かにしてください、ドアが壊れてしまいます。

 

 「はいはい、どちら様?」

 

 来客に対応しようと思い立ち上がるとすでに満潮さんが対応していた、ん?とゆうか私はこの格好でお客様に会うのですか?それはまずい!こんな格好を他の人に見られるなんて恥ずかしすぎる!

 

 「邪魔するわ!ちょっと匿って!」

 

 「あら神風さん、匿ってって、また何かしたの?」

 

 「いいから早く!どこか隠れられるところは……。あ!ちょっと朝潮!そこに立ってて!」

 

 は?いえ立っているのは別に構いませんが、え?ちょっと何してるんです?

 

 なんでスカートの中に入ろうとしてるんですか!

 

 「ちょっと神風さん!何を……!」

 

 「いからじっとしてて!」

 

 私の長いスカートにすっぽり隠れた神風さんが私の両足をガシッ!と掴んで私を身動きできなくしてしまった。

 

 「一体何がどうなって……。」

 

 「ちょっと失礼!神風姉ぇ来なかった!?」

 

 神風さんが私のスカートの中に隠れて少しして現れたのは五駆の朝風さん、頭の両側についた蝶々みたいなリボンが特徴的な人だ。

 

 「……、来てないわ。何かあったの?」

 

 満潮さん、一瞬突き出そうか迷ったわね。

 

 「そう……、わかったわ。邪魔してごめんね!」

 

 部屋を一通り見渡した朝風さんは一言謝るとダッ!と言う擬音が聞こえてきそうな勢いで部屋を出て行った。

 

 神風さんはあの人に何をしたんだろう?逃げ回るくらいだから神風さんはあの人が苦手なのかな。

 

 「行った?」

 

 「行きましたよ、だからそろそろスカートから出てきてくれませんか?」

 

 スカートで見えないが私の股の間には神風さんが居る、つまり私はガニ股状態。

 

 あまりしていたくない恰好なのでさっさと出てください。

 

 「ふう、助かったわ……、あの子達しつこくて。」

 

 「あの子達?五駆全員から追われてたのぉ?」

 

 「そうよ、と言うか横須賀に戻ってからずっとね。」

 

 いったい何をしたらそこまで追われ続けるんですか?よっぽど恨みをかってるんですね。

 

 「あの子達と神風さんは面識ないはずでしょ?なんで追われるのよ。」

 

 面識がない?同型艦なのに?

 

 ああ、神風さんが横須賀を離れている間に着任したのかな。

 

 「なんでか知らないけどやたら懐かれちゃってさ。それに先生の思惑で作戦の総旗艦にされたじゃない?それのお祝いをしましょう!とか言って、ここのところずっと追いかけられてるの。」

 

 「素直にお祝いされてあげればいいのにぃ。」

 

 ホントその通りです荒潮さん、この人は何がそんなに嫌なんだろう。

 

 「私くらいになれば総旗艦とか普通なの!別にお祝いされるほどの事じゃないわ。」

 

 あれ?照れてる?顔まで真っ赤になったら本当に赤一色ですよ?

 

 「そんな事言って、知らない妹たちと一緒に居てもどう接していいかわからないだけでしょ?」

 

 知らない妹……、そうか、神風さんが知ってる朝風さん達と今いる朝風さん達は別人なのか。

 

 じゃあ神風さんが知ってる朝風さん達はまさか……。

 

 「知った風な口きかないで……。」

 

 「でも事実でしょ?」

 

 み、満潮さんその辺にした方が……神風さんがすごい目で睨んでますよ?

 

 「はぁ……、そうよ。あの子達は私が知ってるあの子達と違う、なのにあの子達は私を慕ってくる。それがどうにもこそばゆくてね……。」

 

 えらく素直に認めましたね、ここで満潮さんと一戦やらかすのかと思ってハラハラしましたよ。

 

 「神風さんにも可愛いとこあるのねぇ。」

 

 ホント意外過ぎます、悪いものでも拾い食いしたんじゃないですか?

 

 「いまだに私以外の神風型が現役だなんて横須賀に戻って来るまで思ってもみなかったからね。とっくに私だけになったと思ってたのに妹がいるんだもの……、どう扱っていいかわかるわけないじゃない。」

 

 そういえば神風さんは全艦娘のプロトタイプ。たしか神風型は睦月型の前級で、現存する艦娘で一番古い艦型だ。

 

 神風さんがプロトタイプで、その後に建造された神風型自体がテストタイプって感じなのかしら。

 

 「貴女達は知らないでしょうけど、私が艦娘になった頃は手探りどころじゃなかったの。陸軍と、私は先生の部隊とだけど。それと一緒に陸上で戦ったりしてたのよ?きっと、先生の所じゃなかったら私もとっくに死んでた……。」

 

 艦娘を陸上で!?それではただでさえスペックの低い駆逐艦はただの子供と大差ないんじゃ……。

 

 「そんなだったから私と同期の神風型は私以外全滅、艦娘なのに陸で轟沈してたのよ?笑えないでしょ?鎮守府の体裁が整いだしてようやくまともに運用されだしたものの、その頃には他の艦種も建造されてだして私は半ばお払い箱。先生がいなきゃ私は解体されてたかもね。」

 

 普段は傲岸不遜を地で行く神風さんがしおらしくなってしまった、この人はこの人なりに苦労してきたのね。

 

 「素直にお祝いしてもらえばいいじゃない。騒ぐのは好きでしょ?」

 

 「たしかに騒ぐのは好きだけど……。あの子達お酒飲めるのかしら。」

 

 「なんでお祝いイコールお酒なのよ。考え方がオッサンなんじゃない?」

 

 お酒は二十歳になってからですよ神風さん。

 

 「祝いの席にお酒がないなんて考えられないわよ!それに私はこう見えても二十歳超えてるの!」

 

 見た目とも中味とも乖離した年齢ですね!普段の言動を見てると、とても成人しているとは思えませんよ!?

 

 「あ~そういえば合法ロリだったわね。」

 

 「合法ロリって言うな!気にしてるのよこれでも!」

 

 「司令官も神風さんが相手ならロリコン呼ばわりされないのかしらぁ。」

 

 それは聞き捨てなりません!司令官の嗜好にも合っていて昔馴染みで、しかも合法的に結婚も可能とか羨ましすぎる!

 

 「いやぁ無理じゃない?神風さんって歳はともかく見た目がアウトだし。」

 

 「歳はともかくとか言うな!それじゃ私が年増みたいじゃない!」

 

 「お婆ちゃん、お茶でも煎れましょうか?」

 

 「誰がお婆ちゃんよ!悪ノリしてんじゃないわよ朝潮!」

 

 せっかくお茶を煎れてあげようと思ったのに。

 

 まあ、お婆ちゃんは少し言い過ぎたわね、一応先輩だし。

 

 おばちゃんくらいにしてあげればよかった。

 

 「ねえ、なんでこの子こんなに私の事嫌ってるの?私何か嫌われるような事した?」

 

 まさかの自覚なし!?嘘でしょ!?

 

 「まぁ、初対面でアレだものねぇ……。」

 

 「半分はただの嫉妬だと思うけどね。」

 

 嫉妬ではありません!羨ましいだけです!

 

 「嫉妬?なんで?」

 

 「この子司令官の事大好きだから。司令官と親しい神風さんが憎らしいんじゃない?」

 

 ちょ!なんでこの人に言っちゃうんですか満潮さん!

 

 「はあ!?あんなオッサンの何処が良いの!?すぐ怒るし煙草臭くてついでに足も臭いし最近加齢臭と額が後退してるのを気にしてるし、たまに寝言で変な事言うし!」

 

 ……、そんなに自慢したいですか?私はこんなに司令官の事を知っている、お前は知らないだろ?と、そうゆう事ですか?

 

 わかりました、工廠裏に行きましょう、久々にキレてしまいましたよ。

 

 いやダメだ、工廠裏に行くまで待っていられない!

 

 「いいじゃないですか!怒られるのは神風さんが悪いことするからでしょ!ああ羨ましい!私は司令官の煙草の匂い好きですよ?足の臭いは嗅いだことないけどいつか嗅ぎます!あと加齢臭最高じゃないですか!何がいけないんです!?それにハゲてたっていいじゃない!ハゲてるのを気にするなんて可愛いじゃないですか!」

 

 「いや、ハゲとは言ってない。」

 

 「願望出てるわねぇ……。朝潮ちゃんって臭いフェチだったのねぇ……。」

 

 「一番聞き捨てならないのはアレですよ!たまに寝言で変な事言う?なんで神風さんが司令官の寝言なんて知ってるんですか!一緒の部屋で寝てるんですか?添い寝ですか?まさか合法だからと言ってそれ以上の事まで……!許せません!羨ましすぎる!私と交代してください!!今すぐ!!!」

 

 「……。」

 

 なんですかそのポカーンとした顔は、口をパクパクまでさせちゃって餌をねだる鯉みたいですよ?ちゃんと聞いてるんですか?私の怒りはこれ位じゃ収まりません!

 

 「私、神風さんのあんな顔初めて見たわ。」

 

 「私もよ満潮ちゃん、朝潮ちゃんって司令官の事になると人が変わるのねぇ。」

 

 これ位当然です!これが朝潮型駆逐艦の力なんです!

 

 「でもぉ、寝言の件は私も気になるわぁ。なんで神風さんが知ってるのぉ?」

 

 「え?ああ……、いやだって、私先生の部屋を間借りしてるから。」

 

 なん……だと……?

 

 「それって同棲してるってこと!?」

 

 え……、この人今なんて言った?同棲?誰と誰が?まさか司令官と神風さんじゃないわよね?

 

 「まあ同棲って言えば同棲だけど、共同生活に近いわよ?最近は作戦前で忙しいからまともに帰ってこないし。」

 

 うちの主人ったら最近仕事が忙しくて帰りが遅いのよ~。ですか?すっかり女房気取りですね。

 

 妬ましい!

 

 「司令官って部屋じゃどんな感じなの?プライベートはキャラが変わるのは知ってるけど、部屋でも同じなの?」

 

 満潮さんは司令官のプライベートをご存知なんですね、私は先代のプレゼントを渡した時に見たきりです。

 

 まさか満潮さんも敵ですか?

 

 「聞きたい?もう最悪よ!?部屋だとホントただのオッサンなんだから!靴は脱ぎっぱなしにするわフンドシ一丁で歩き回るわオナラは平気でするわ!傍から見たらホント通報ものよ!?酷い時はフンドシ一丁で変な踊り始めるし!」

 

 司令官は踊りも嗜んでいらっしゃるのですね、さすがです!

 

 それに司令官の下着がフンドシだと知れたのは大収穫だわ、こんな形で知りたくなかったけど……。

 

 一枚分けてもらえないかしら。

 

 「か、神風さんその辺でやめてあげてくれないかしらぁ……。朝潮ちゃんがやばいわぁ……。」

 

 ええ、やばいです。

 

 なんで司令官と神風さんの惚気話を聞かされなきゃいけないんですか?私は何も悪いことしていません。

 

 胸にポッカリと穴があいたような気分だわ。

 

 失恋するとこんな気分なのかしら。

 

 まだ告白すらしてないのにあんまりだわ。

 

 「そうそう!あの人って骨取ってあげなきゃ焼き魚食べれないのよ?いい歳した大人が情けないと思わない?まあ、焼き魚の時に明後日の方見ながら『んっ』って言って皿を寄越してくるのは、ちょっと可愛いかなとか思う時もあるけど。」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 「もうやめたげてよぉ!朝潮ちゃんが息してないじゃない!」

 

 もういっそ殺して……なんですかこの罰ゲームは……。

 

 女房って言うより古女房じゃないですか。

 

 もしかしたら司令官も私の知らないところで『いやぁ、うちのカミさんがね?』とか某国の刑事みたいな事言ってるのかもしれない。

 

 「朝潮大丈夫!?神風さん!なんでこんな酷いことするの!」

 

 「私のせい!?質問に答えただけなんだけど!?」

 

 ああ……、いつか司令官と添い遂げられると思っていたのに……。

 

 結婚したら司令官の田舎に引っ越して小さいけど昔ながらの趣がある和風の一軒家を建てて暮らそうと思っていたのに……。

 

 犬を一頭飼って、毎日司令官とお散歩させて……。

 

 そのうち司令官の子供を授かって……。

 

 代わり映えしない毎日だけど幸せな家庭が築けると思っていたのに……。

 

 「朝潮!しっかりしなさい!今のは神風さんの冗談よ!同棲なんてしてるわけないじゃない!」

 

 え……?冗談……?本当に……?

 

 「いや?本当だけど?」

 

 「神風さん空気読んでくれないかしらぁ!?」

 

 やっぱり事実なんじゃないですか……。

 

 あ~もうダメ、意識が遠のく……。

 

 司令官申し訳ありません……朝潮はここまでのようです。

 

  「ちょっとコレ、マジでやばくない?立ったまま白目剥いて泡吹き出したんだけど!」

 

 「やってくれたわねぇ神風さん、朝潮ちゃんに何か恨みでもあるのぉ!?」

 

 「いやいやいや!私悪くない!悪くないから!」

 

 三人が何か騒いでるけどもうどうでもいいや……。

 

 このまま寝てしまおう、せめて夢の中だけでも司令官と添い遂げよう……。

 

 私は騒ぐ三人など気にせず、現実から逃げるように意識を手放した。




 いつも土日は二話投稿してたけど晩から飲みに出ることになったのでこれ一話だけで。

 電車の中でギリギリまで修正加えます!

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