艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

44 / 109
11/16矛盾点を修正しました。


朝潮演習 2

 今週は梅雨の中休み。

 

 よく晴れて日差しが強く、もう夏かと思えるほど気温が高く汗が滝のように流れる。

 

 「ああ!いいぞ朝潮!もっと、もっとだ!もっと私に撃ち込んでこい!」

 

 この数日間、私は哨戒任務が終われば神風さんに足腰立たなくなるまでしごかれるという生活をしていた。

 

 「おお!これも躱すのか!さすが朝潮だ!」

 

 足腰立たなくされるのなんて満潮さんと二人で訓練してた時以来だなぁ、最近は任務と訓練後に自主トレーニングする余裕もあったのに。

 

 「もう我慢できない!今すぐその華奢で可愛らしいお前を抱きしめさせろ!」

 

 『なんかセリフだけ聞いてると窮奇みたいね。』

 

 『殺意がこみ上げてくるわねぇ。』

 

 浜辺に座って観戦している満潮さんと荒潮さんが通信で言っている通り、セリフだけ聞けば窮奇みたいだけど私が今相手にしているのは長門さんだ。

 

 あまり話した事はないはずなのになぜか気に入られてるし、窮奇と同じ艦種のせいもあって窮奇を相手にしてるんじゃないかと錯覚しそうになる。

 

 「ふおおおおぉぉぉぉ!!砲撃を躱すお前の動きは優雅すぎる!まるで一緒にダンスを踊っているような気分だ!」

 

 本当に窮奇みたいな事を言い出した、長門さんの砲撃は窮奇ほど精密ではない分下手に避けたら当たりそうになるから窮奇より厄介だ。

 

 長門さんが撃つ模擬弾をトビウオを使ったりしてひたすら避け続ける、これが神風さんに言われてやっている訓練内容だ。

 

 いくら駆逐艦は燃費がいいとは言っても脚のオンオフを連続で行うトビウオを何度も使えば燃料の消費は激しくなる。

 

 自動車のエンジンと同じと言えばいいのかな。

 

 信号待ちでアイドリングストップをするのなら話は別だけど、そうゆう訳でもないのにエンジンを切ったり入れたりを続ければガソリンの消費は増える、艤装でもそれは同じ。

 

 しかもこちらは戦闘で動き回りながらそれをやるのだ、体力との兼ね合いもあるけど今の私では一日に十五回が限界。

 

 それ以上は燃料が残っていようが体がもたない。

 

 『そろそろ補給に戻りなさい、それと長門!何手加減してるのよ!殺す気で撃てって何度も言ってるでしょ!』

 

 「い、いやしかしだな神風……。」

 

 アレで手加減されてたのか、手加減なしで撃たれたらどうなるんだろ?今だってギリギリで避けてるのに。

 

 「朝潮ちゃんお疲れ様、艤装下ろして。燃料入れてあげる♪」

 

 荒潮さんに言われるまま艤装を下ろすと、荒潮さんが浜辺に置かれたドラム缶からホースを伸ばして艤装に繋いで燃料を補給し始めた。

 

 毎回思うけど不思議でしょうがない。

 

 艤装より少し大きめのドラム缶の中身が一回の補給で全部無くなるなんて。

 

 「朝潮ーーー!!」

 

 「ぐえっ……。」

 

 補給の光景を眺めていると後ろから長門さんに抱きかかえられ、肺の空気が押し出されて変な声が出ちゃった。

 

 「あ-!長門さんずるいぃ。それは私の役目なのにぃ。」

 

 「いいではないか荒潮、こんな機会でもなければ朝潮とはなかなか会えないんだ。実の姉妹なのにな……。朝潮もきっと寂しがっているはずだ!」

 

 いえ、私は一人っ子です。

 

 姉が居た記憶なんてありませんし、八駆のみんなが居るので寂しくもありません。

 

 窮奇にしてもそうだけど、戦艦の人は思い込みが激しいのかしら。

 

 「な、長門さんそろそろ離していただけないでしょうか……。」

 

 荒潮さんより豊満な体つきではあるけど……硬いんです……まったく柔らかくないわけではないんですが荒潮さんの感触を知ってるとどうしても硬く感じてしまうんです。

 

 「嫌だ!訓練再開までこのままがいい!」

 

 嫌だって……長門さんがこんな人だとは思いもしなかった。

 

 遠目から見た長門さんは綺麗で勇ましく、まさに海の守護神という佇まいだったのに……。

 

 「貴女の胸板が硬くて痛いんだってさ、だから離してやりなさい。」

 

 さすが神風さんですね、私が遠慮して言えない事をズケズケと言ってのけるとは。

 

 「か、硬いのか?私の胸は硬いのか朝潮!」

 

 「……。」

 

 察してください、私は人より感情が顔に出やすいみたいですし……。

 

 「そ、そんな……。」

 

 ズシャア!っとゆう擬音とともに崩れ落ちる長門さん、抱きかかえられてた私はもちろん砂に激突です。

 

 「朝潮大丈夫?」

 

 大丈夫じゃないです満潮さん、口の中にまで砂が入ってきました。

 

 「トビウオを使うタイミングはだいぶ良くなったけど、問題は使い方ね。」

 

 使い方?今の使い方は本来の使い方と違うんですか?

 

 「満潮たちもそうだけど、貴女トビウオを回避するための技だと思ってない?」

 

 「そう思ってましたけど……。違うんですか?」

 

 砂を払いながら立ち上がり神風さんに疑問をぶつけてみる。

 

 瞬間的な加速で砲弾を回避したり、出足の速度をカバーするものだと思ってたけど……。

 

 「アレは本来、射程の短い駆逐艦が大型艦に接近するための技なの。砲弾の回避はあくまで副産物よ。」

 

 「でも駆逐艦は大型艦に比べて速度は速いですよね?わざわざトビウオを使わなくても接近は出来るのでは?」

 

 「それが簡単にできないからトビウオを考えたの。夜戦ならともかく、昼戦じゃ捕捉されれば基本的に捕捉されっぱなしでしょ?接近するためには砲撃の合間を縫うしかない、その時一気に接近するための技なのよ。」

 

 なるほど、砲撃を回避すれば若干ながら速度は落ちるし針路も変わる。

 

 それを補いつつ接近するのが本来の目的なのか。

 

 「もっとも、私は回避と接近を同時にやってるけどね。」

 

 「そういえば朝潮と演習していて気づいたんだが、神風と朝潮ではトビウオでの飛距離が違うのだな。朝潮の飛ぶ距離は一定だが神風のは距離がバラバラだ。」

 

 「あ~、それも指摘しとこうと思ってたのよ。」

 

 「え?トビウオって飛ぶ距離を調整できるんですか?」

 

 「当り前じゃない。再発生させる時の脚の出力を調整すれば数メートル程度だけど調整できるわよ。」

 

 そうか、脚に回す力場の出力を強くすれば飛距離が伸びるし、逆に弱くすれば飛距離が縮むのか。

 

 「トビウオは瞬間的な加速と移動に優れる分、海面から十数センチ浮いてるだけとは言え飛んでる間は回避不可能。短期戦ならともかく、長期戦になると対応されて飛んでる間に撃ち落とされるわよ。長門もやろうと思えばできたんじゃない?」

 

 「う……いや、まあ……。」

 

 それが手加減と言う事ね、言われてみれば一定の距離しか飛ばない私など恰好の的だ。

 

 「次からは少々当たってもいいから飛距離の調整と接近する事を意識してやってみなさい。あと6,7回くらいは飛べるでしょ?」

 

 「はい!」

 

 やはり戦闘に関しては神風さんは頭一つ抜けている、最古の駆逐艦の名は伊達じゃないわね。

 

 「普段からこうなら司令官に叱られることもないでしょうに。」

 

 「戦闘に関してだけなら尊敬できるのにねぇ。」

 

 それに関しては満潮さんと荒潮さんに激しく同意します。

 

 「そこの二人、うるさいわよ。」

 

 一言で二人を黙らせる神風さん、鶴の一声って言うんだっけ。こうゆうの。

 

 「良い機会だからトビウオの欠点を教えておくわ。よく聞きなさい。」

 

 左手を腰に当てて片目を瞑り、右手の人差し指を顔の前で立てて説明を始める神風さんは古風な恰好も相まってかなり様になってるわね。

 

 容姿が幼いせいで子供がお姉さんぶってる感はあるけど。

 

 「トビウオの欠点は直進しか出来ないことと使用中は方向転換が出来ないこと。前に飛ぼうが横に飛ぼうがこれは変わらないわ。燃料や体への負担はこの際無視するわね。」

 

 逆にメリットは瞬間的な加速と移動距離か。

 

 10メートル前後とは言え、接近はもちろん咄嗟の回避や初速の遅さをカバーするにはもってこいね。

 

 「それと初見の相手ならともかく、何度もやり合ってるような相手だといくら飛距離をバラけさせても対応されてしまう。貴女の場合だと窮奇だっけ?次に戦う時は使い時は慎重に選びなさい。」

 

 私がトビウオを使うと知っていれば相手も当然それに合わせて攻撃してくる、本当のデメリットはこっちか。

 

 相手に見せれば見せるほど使いづらくなるどころか致命的な隙になるわけね。

 

 「神風さんはそうゆう相手にはどう対応してたんですか?」

 

 それとも神風さんには何度も繰り返し戦った相手はいないのかな。

 

 「相手の砲撃に合わせて水切りを間に混ぜて飛ぶタイミングをズラしたりしたわね。」

 

 なるほど、飛ぶと見せかけて先に砲撃させるのか。

 

 「水切り一回の消耗はトビウオの三分の一程度だから適度に混ぜてやるといいわ。」

 

 「海面を走っていたヤツですよね?そんなに消耗が少ないんですか?」

 

 アレの怖さは身をもって体験した、こちらが旋回半径のせいで動きが制限される中を陸上と同じように動き回られては対応仕切れない。

 

 「戦舞台と呼べるほど動き回れば消耗はトビウオ以上だけど、一回の消耗はそんなものよ。貴女の場合だと近づくまでにトビウオを限界回数近くまで使っちゃうだろうから相手に接近した後で使えるのは精々2、3回でしょうね。」

 

 たしかに、今の私じゃ接近するまでにガス欠寸前になってしまいそう。

 

 水切りはトビウオの真逆だ、機動性に優れる分速度は人が陸上で走るのと変わらない。

 

 フェイントで混ぜる程度なら出来そうだけど、これも使い時はよく考えないと。

 

 「フェイント一つ混ぜただけでもだいぶ変わるわよ。私はソレでどうにかなったし。」

 

 「神風さんにも何度もやり合うような相手がいたのねぇ。艦娘ぅ?」

 

 あ、それは私も気になります。

 

 「……艦娘じゃなくて深海棲艦。駆逐古姫よ、東南アジアで何度もやり合ったわ。」

 

 へぇ、神風さんと何度も戦うなんて、その駆逐古姫は相当の手練れだったのね。

 

 でもなんで悲しそうな顔をしてるんだろう、その駆逐古姫に仲間をやられでもしたのかしら。

 

 「その駆逐古姫は倒したんですか?」

 

 「ええ、倒したわ……。」

 

 聞いちゃいけない事だったのかな、すごく辛そうな顔をしてそっぽを向いてしまった。

 

 「駆逐古鬼……。あの駆逐古鬼か?神風。」

 

 砂の上に胡座をかいた長門さんが神風さんを見上げながらたずね、神風さんはばつが悪そうに頭をポリポリ掻きだした。

 

 「そうよ。仇ではあったけど、何度も何度も戦ってる内に、友情すら感じるようになってたわ」

 

 それでか、深海棲艦との友情なんて想像もできないけど……。

 

 神風さんがライバル視するほどの深海棲艦、どんな人だったんだろう……。

 

 「私の話しなんてどうでもいいでしょ。ほら、二人ともさっさと海に出なさい!」

 

 「こら神風!朝潮を蹴るな!蹴るなら私に蹴らせろ!」

 

 蹴らせません、長門さんに蹴られたらお尻が割れてしまいそうです。

 

 神風さんにゲシゲシとお尻を蹴られながら海に出て、浜から50メートルほどの浅瀬に仁王立ちする長門さんから1000メートルほど距離を取る。

 

 『準備はいいか朝潮。』

 

 「はい。いつでもどうぞ。」

 

 私が今日トビウオで飛べる回数は多くてあと7回、初速のカバーには使えない。

 

 私は通常航行で速度を上げていき長門さんの砲撃に備える。

 

 ドン!ドン!ドン!ドン!

 

 長門さんの砲撃が始まった、私の速度と針路に合わせた砲撃。

 

 これ位なら速度の増減と舵操作で回避出来る、問題は……。

 

 ドン!

 

 回避先へ向けた砲撃、これも船首を上げて水圧ブレーキでどうにか回避。

 

 次弾を防ぐためにこちらも砲撃、狙いは頭部より下、胸の辺り。

 

 模擬弾だからダメージは皆無だが、代わりにペイントが長門さんの胸部から顔のあたりに広がり長門さんの視界を奪う。

 

 『今度は目隠し鬼か?可愛い奴め!すぐに捕まえてやるからな!』

 

 長門さんの変なスイッチがまた入ってしまった……。

 

 さっきもこれで追い回されたのよね、戦艦と駆逐艦では駆逐艦の方が早いがこちらが砲撃を避けながらなのに対してあちらは文字通り直進してくる。

 

 待てよ?あちらから近づいて来てくれるのなら……。

 

 私は長門さんに向け突撃を続行、装甲からペイントが流れ落ちて視界が回復した長門さんが砲撃を再開してくる。

 

 『おお!今回はお前の方から向かって来てくれるのだな!さあ来い!お前を抱きしめる準備はできている!』

 

 残念ながら抱きしめられるつもりはありません。

 

 長門さんの砲撃を神風さんから言われた通り、フェイントを織り交ぜつつ回避。

 

 飛ぶと見せかけてそのまま航行すると10メートルほど前方に砲弾が着弾、速度を保ったまま水柱を左目の端に見ながら右へ迂回する。

 

 『右か?左か?左だーーー!』

 

 長門さんが私が水柱の後ろから出て来た地点に砲撃、これはトビウオで前方へ。

 

 残り500メートル、トビウオで飛べる回数はあと6回!

 

 ドン!ドン!ドン!

 

 長門さんの三連装砲が模擬弾を吐き出す、着弾点は……このままの針路と速度で航行して到達する地点に1、トビウオで飛んだ場合の地点に1、その中間に1か。

 

 私は水切りで右へ3歩サイドステップし、その位置から近い着弾点二つの間に向けてトビウオで跳躍し二つ着弾点の間に着水、再びトビウオを使用し着弾点の間から再び右方向へ。

 

 くの字を描くように移動し、そのまま左へ水柱を抜けると踏んでそちらを向いていた長門さんへ向け砲撃し再び視界を奪う。

 

 『うお!そっちか!これはしてやられた!ハハハハハ!』

 

 楽しそうだな~長門さん、私は必死だと言うのに。

 

 長門さんとの距離は残り300メートル、長門さんが最大船速でこちらに向かってるせいもあって距離が縮まるのが早い。

 

 ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

 

 今度は両舷の三連装砲を同時に発射、着弾点はすべてバラバラ、私が移動しそうなところをすべて潰されている。

 

 どうする……、トビウオの距離を調整する?ダメだ、残り3回のトビウオを使い切って回避したとしても途中で力尽きてしまう。

 

 ならば水切りで駆け抜ける?これもダメね、水切りで飛べる距離では避けられない。

 

 水切りの消耗と機動力でトビウオ並みの飛距離が出せれば……。

 

 できないのかな?水切り一回がトビウオ一回より消耗が少ないのはおそらく片足づつ脚を小規模に発生させるからだ、トビウオは飛んだ後は着水まで脚を発生させっぱなしだから自由が利かず、跳躍中の再使用ができない。

 

 ならば片足ずつトビウオをすればどうだろうか?水切りほどとは言わなくても半分くらいには消耗が抑えられるのでは?

 

 それができるのなら都合6回分、相対速度を考えれば弾幕を抜ければ長門さんとの距離は100メートルを切ってるはず。

 

 4回で回避して残りの2回で長門さんの後ろを取る!

 

 そうと決まれば実践だ、イメージしろ……脚を形作るのは片足のみ。

 

 利き足である右足だ、飛ぶまでの体の動きはトビウオと同じ。

 

 トビウオと同じように前傾姿勢を取り、体の跳躍の動きに合わせて脚を消去。

 

 踏み切る動作と同時に右足のみに脚を再発生、飛べるはずだ……飛べ!

 

 ドン!

 

 で、出来た!でもトビウオより飛距離が若干短い、8メートルくらいかしら。

 

 私は目の前に降ってきた砲弾を左に回避し、飛んだ先に降ってきた砲弾を今度は左足から脚を発生させ再び回避。

 

 いい感じね、これなら跳躍中だとしても方向を変えられる。

 

 私はジグザグに4回跳躍して弾幕を抜け、長門さんの眼前80メートルほどまで距離を詰めた。

 

 「な!?」

 

 長門さんも私がトビウオで飛べる回数は知っている、知っている回数より多く飛べば驚くのは当然よね。

 

 私は再度長門さんの視界をペイントで覆い、距離を残り20メートルまで詰める。

 

 ここまで近づけば主砲は使えない、装填しているのが模擬弾だから撃ってくる可能性もゼロではないけどそんな暇は与えない!

 

 私は長門さんの右の真横へ向け跳躍、着水と同時に左に水切りで2歩ステップしつつ反転し長門さんの背後を取った。

 

 「私の勝ちですね!」

 

 「こ、これは参った……。降参だ……。」

 

 浮いていられる程度の力は残してる、実戦だったら距離が近すぎて魚雷は使えないけど、この距離なら主砲でもダメージは与えられるわ。

 

 だけど。

 

 「いえ、長門さんが私に向かってこなければこう上手くはいきませんでした。それに、もう膝が笑っています。」

 

 トビウオでかかる体への負担を片足だけで受けるんだから当然か、正直立ってるのがやっとだ。

 

 「もしかして立ってるのがやっとか?」

 

 あ……まずい……、長門さんがすごく気持ち悪い笑顔をしてる……。

 

 「きゃっ!」

 

 「ああ……朝潮をお姫様抱っこ。朝潮をお姫様抱っこ。朝潮をお姫様抱っこ……。もう死んでもいいや。」

 

 死んでください。実弾を装填してないのを後悔してますよ、初めてお姫様抱っこされる相手が長門さんだなんて……。

 

 長門さんにお姫様抱っこされたまま浜辺に戻ると、神風さんと満潮さんと荒潮さんが目をまん丸に見開き、口をあんぐりと開けた状態で出迎えてくれた。

 

 「三人とも面白い顔をしてるな?どうしたんだ?」

 

 ホントどうしたんだろう?三人のこんな驚いた顔は貴重な気がする。

 

 「ね、ねえ神風さん。」

 

 「言いたいことはわかるわ満潮。私は見せたことがない。」

 

 「じゃあぁ、どうして朝潮ちゃんが『稲妻』を使ったのぉ?私たちでさえできないのよぉ?アレ。」

 

 稲妻?あ~、片足でトビウオをしたことかな?

 

 「あ、朝潮。さっきのアレ、どこかで見たことあるの?」

 

 「いえ、ないですけど……。片足でトビウオをすれば消耗も半分くらいになって、水切りみたいに自由も利くかなと思って……。」

 

 「思い付きで実践したの!?私が半年がかりで会得した稲妻を!?アレの力場操作の難易度はトビウオの比じゃないのよ!?」

 

 か、神風さんが半年がかり!?そんなに難易度が高い技だったんですか!?

 

 「さすが私の妹だ、神風とはものが違うな!」

 

 いえ、私は長門さんの妹ではありません。

 

 と言うかそろそろ降ろしていただけませんか?

 

 「はぁ、まあいわ。朝潮も今日はもう限界でしょ?」

 

 「ええ……、すみません……。」

 

 長門さんを振り払いたいのにそれも出来ないくらい消耗しています……。

 

 「よし!ならば風呂だな!」

 

 ん?なんだか嫌な予感がする、もしかしてこのままお風呂に連れて行かれる!?

 

 「安心しろ朝潮!服は私が脱がすし体も隅々まで私が洗ってやる!!」

 

 予感的中どころか予想の斜め上を行っていた!

 

 「結構です!それくらい自分でできます!」

 

 「無理をするな朝潮、疲れているだろう?マッサージもしてやるから安心しろ!」

 

 ぜんぜん安心できない!激しく身の危険を感じるわ!

 

 「だ、誰かたすけ……。」

 

 え?なんで三人とも目を逸らしてるんですか?助けてくださいよ……このままじゃ私……。

 

 「いくら私でも艤装なしじゃどうにもできないわ。このゴリラ、力だけはあるし。」

 

 「アンタの事は忘れないわ……。」

 

 「純潔を失う事はないと思うから……。」

 

 見捨てられた!三人に見捨てられた!せめて司令官にこの危機を伝えるとか憲兵さんに知らせるとかしてくださいよ!

 

 「さあ行こう朝潮!浴場に勝利を刻みに行くぞ!」

 

 嫌ですよ!鼻血のみならず涎まで垂らして長門さん欲情してますよね!?このまま浴場に行ったら私は大敗北ですよ!

 

 ああ、三人が遠ざかる……手まで振ってるし……。

 

 申し訳ありません司令官……朝潮はここまでのようです……。

 

 「うひひ♪朝潮とおっ風呂♪朝潮とおっ風呂♪」

 

 長門さんのキャラが崩壊してる、正直気持ち悪い。

 

 このまま浴場で好き放題されちゃうのかな……。

 

 私は司令官のものなのに……欲情した長門さんに私は……私は……。

 

 「そんなの嫌ああああ!!司令かーーーん!司令官助けてーーーーー!!」

 

 その後、浴場に連れ込まれる寸前に私の悲鳴を聞いて駆け付けてくれた司令官に助けられ、私は事なきを得た。

 

 だけど、その直後に始まった司令官と長門さんによる死闘で浴場は半壊してしまいましたとさ。

 

 これ、私のせいじゃないですよね?

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。