7月、梅雨が明け本格的な夏の始まりです。海開きもあり、学生なら夏休みがスタートする季節ですね。
残念ながら艦娘には海開きも夏休みもありません、だって軍人ですし。
季節に関係なく海の上に居るので海開きと言われても今さらですし、学校と言うものに通ったことがない私には夏休みがどうゆう物なのか想像もつきません。
養成所を学校と言えなくもないですが、あそこはあくまで養成所ですし長期休暇はありましたけど数日程度が年に何回かです。
『そろそろ戻りなさい。時間も丁度いいし今日は終わりにしましょう。』
通信で神風さんが訓練の終了を告げて来る。
神風さんの指導を受けだしてもう一か月近くになるのか、最初の頃は足腰立たなくなってたけど、今は慣れて来たのか自分の足で歩いて寮に帰ることくらいは出来る。
「ありがとうございました!」
「だいぶ稲妻にも慣れたみたいね、そろそろ実戦形式で演習してみる?」
浜辺に戻った私に神風さんが唐突に告げて来る。模擬弾とは言え、長門さんと決闘じみた事をしている今の訓練は十分実戦形式だと思うんだけど……。
「今でも十分実戦的じゃない?まさか実弾でも使おうって言うの?」
私の考えを代弁するかのように満潮さんが尋ねる、さすがに実弾は使わせてもらえないんじゃ……。
「さすがに無理よ、実弾持ち出したのがバレたら先生が激怒するわ。」
激怒した司令官か。
あの時、長門さんに手籠めにされそうになっていた私の元へ颯爽と駆けつけてくれた司令官はカッコよかったなぁ……。
鬼のような形相で日本刀を振り回し、陸上とは言え長門さんをノックアウトしちゃったし。
「長門、明日の演習は本気でやりなさい。お遊びはなしよ。」
「あ、遊んでなどいない!私は常に本気だ!」
ええ、本気でしょうとも。
訳の分からないことを口走りながら私を追いかけまわす長門さんは本気で気持ち悪いです。
「先生から貴女が本気でやらなかったら貴女のコレクションを全て燃やしていいって許可を貰ってるわ。」
「な!?なぜお前が私のコレクションの事を知っている!陸奥にだって秘密にしてるのに!」
どうせろくでもないコレクションなんでしょうね、駆逐艦の写真とか物品をコレクションしてるんですか?
「それが嫌なら本気でやりなさい。朝潮のためでもあるんだから。」
「う……朝潮のためか……朝潮のためなら仕方がないな……。」
なぜ私を上目づかいで見て来るんですか?やめてください、背中の悪寒が止まりません。
「朝潮って一回嫌うととことん嫌うわよね。」
「まあ、しょうがないんじゃない?あんな追いかけられ方したら私だって嫌だものぉ。」
その通りです満潮さん、荒潮さん、あんな風に歪んだ愛情を向けてくるのは窮奇だけで十分です。
「朝潮は私を嫌っているのか……?」
口には出しませんが嫌いです。
長門さんの本性を知るまでは尊敬していたのに、実は窮奇と実の姉妹なんじゃないですか?同じ戦艦だし、同じくらい気持ち悪いし、容姿もどことなく似てる気がしますよ?
「朝潮……。」
ひいっ!長門さんが私に向けて手を伸ばしてきた、私は慌てて満潮さんの後ろに隠れ長門さんの魔の手から逃れる。
掴まれたらまた無理矢理お風呂に連れて行かれるかもしれない!
「フられたわね長門。ご愁傷様。」
「そ、そんな……。」
背中にガックシという文字が見えそうなくらい打ちひしがれてる、同情なんてしませんよ!
「じゃあとっととお風呂に行きましょ。立ってるだけでも汗だくよ。」
立ってるだけ?ビーチパラソルにビーチチェア、クーラーボックスにはよく冷えたラムネ、さらに神風さん達三人は水着姿。
完全にリゾート気分じゃないですか、こっちは変態に一日中追いかけられていたって言うのに。
「風呂!よし風呂に行くぞ朝潮!ともに今日の汗を洗い流そう!」
「嫌です。長門さんは一人で入浴してください。」
一緒に入ったら何をされるかわかったもんじゃない、また浴場を半壊させる気ですか?
「長門は大型艦用の浴場でしょ?先生が新設してくれたんだからそっちに入りなさい。」
そうですよ!司令官がわざわざ駆逐艦用と大型艦用の二つに分けてくれたんです!大人しくそっちで入浴してください!
「くぅ……ホントに嫌われている……私の何がいけなかったと言うんだ朝潮!」
自覚なし!アレでどうやって長門さんを好きになれと?迫ってきてるのは司令官だと自分に言い聞かせてなんとか我慢してるんですよ?
「神風!提案がある!」
うなだれていた長門さんが目を輝かせてる、神風さんに話しかけておきながら視線はその後ろに居る私に注がれている。
「だいたい想像つくけど一応聞いてあげる。何?」
やめてください、嫌な予感しかしません。きっとろくでもない事です!
「明日の演習。私が勝ったら朝潮と一晩を過ごす権利をくれ!」
ろくでもないどころじゃなかった!私の貞操の危機じゃないですか!絶対断ってくださいよ?あ……神風さんが私の方を見ながらニヤァってしてる、これ許可する気だわ!
「わかった。ただし、後で先生に何されても責任は取らないわよ。」
許可しちゃった!私に拒否権はないんですか!?この人と一晩一緒だなんて何されるかわかったもんじゃないですよ!
「頑張って朝潮、勝てばいいのよ。」
「朝潮ちゃんならきっと大丈夫よぉ……。」
応援するならせめて私の方を見てしてください!なんで二人とも目を逸らしながら言うんですか!?
と言うか普通に考えてください!この人こんなでも戦艦ですよ!?しかも高練度の!どうやって勝てと!?
「まあ、勝敗に関してはそれなりにハンデはつけるから安心しなさい。それでも厳しいとは思うけど……。」
だったらあんな提案許可しないでくださいよ!そうだ実弾……、私には実弾を使わせてください!ヤられる前に殺ります!
「フフフフ……。明日が楽しみだ!覚悟しろ朝潮!ビッグセブンの力、とくと見せてやる!」
そうゆうのは敵と戦う時に見せてください!他のビッグセブンの方も長門さんみたいな変態じゃないですよね!?
「では私は先に戻るぞ。色々用意しておかねば……フフフフ……アーッハッハッハッハ!」
ものすごく気持ち悪い笑顔で高笑いをしながら長門さんが去っていく、なぜ実弾を装填していないの!?今なら確実に始末できるのに!
「神風さんの指導を受けるようになって朝潮の性格が歪んだ気がするわ。」
「いや、私悪くないから。悪いのは長門よ。」
「昔の朝潮ちゃんはどこへ行っちゃったのかしらぁ……。」
私の性格は歪んでないしどこへも行っていません、満潮さんと荒潮さんだってアレに追い掛け回されれば私の気持ちがわかるはずです。
「じゃあ私たちも戻りましょ。」
パチン!
「「お呼びですか姐さん!」」
神風さんが指を鳴らすとどこからともなくモヒカンさんと金髪さんが現れた、どこに居たんだろう?一面砂浜で隠れる所なんてないのに。
「パラソルとか片づけといて、あとクーラーボックスにラムネも補充ね。」
パシリをさせるんですか!?この炎天下の中どこかに身を潜めて待機していたお二人になんて酷い仕打ち!
「了解っす。他にはないっすか?」
「用はないけど、隠してるカメラ出しなさい。」
「「……カメラなんて持ってないです。」」
カメラ?私と長門さんの演習を撮影してたのかしら。
司令官の指示かな?
「ちょ!私たちの水着姿を撮影してたの!?」
「あらあら、お仕置きしなきゃねぇ。」
ああそっちですか、たしかに満潮さんと荒潮さんの水着姿は可愛いから撮影したくなる気持ちはわかりますね。
二人とも支給されている旧朝潮型制服を思わせる色合いのセパレートタイプの水着。
神風さんはモノキニと呼ばれるタイプの赤い水着で、前から見るとワンピース水着、後ろから見るとビキニに見える。
「やっべ!相棒逃げるぞ!」
「おうよ!こんなところで死んでたまるか!」
あ、逃げた。
でもちゃんとパラソルとかを片付けて行くのは偉いわ、よく訓練されてるわね。
「逃がすか!荒潮!追うわよ!」
「この格好でぇ?」
その恰好で鎮守府を走り回れば憲兵さんに怒られるかもしれませんね。
と言うかあの二人は満潮さん達の水着を撮影してどうするのでしょう?
「先生に言っとくから安心しなさい。出回ることはないと思うわ。」
神風さんは余裕そうですね、満潮さんみたいに激怒するのかと思いましたけど。
「あいつら……後でなますにしてやる……。」
いや、やっぱり怒ってる。
もう、あの二人には二度と会えないかもしれないわね。
怒れる三人をなだめて浴場に着いた私が服を脱ぎだすとお尻のあたりに妙な視線を感じた、まさか長門さんががどこかに隠れてみてる!?
「あれ?ないじゃない。」
なんだ神風さんか、まさか神風さんも長門さんみたいな異常性癖の持ち主なんですか?
「蒙古斑?改二になったら消えたわよね。」
なぜ神風さんが私の蒙古斑を気にするんですか?と言うかなぜ知ってるんです!?
「神風さんってぇ、朝潮ちゃんとお風呂に入ったことあったっけぇ?なんで蒙古斑の事知ってるのぉ?」
「いや、ないけど噂で聞いた。」
噂で!?私のお尻は噂になってたんですか!?
「それってまさか、お尻に痣がある駆逐艦の霊の噂?」
「そうそう、噂が出回りだした時期を考えたら朝潮しかいなくてさ。蒙古斑は予想でしかなかったけど当たってたみたいね。」
なぜそのような噂が……しかもその話じゃ私幽霊にされちゃってるじゃないですか……。
「……。」
お湯に浸かってもまだ見てくる……。まだ何かあるんですか?今は体にコンプレックスはありませんが、ジロジロ見られるのはあまりいい気がしません。
「改二になっても胸が大きくなるわけじゃないのね。満潮と良い勝負じゃない。」
ほっといてください!神風さんだって似たような……って思ってたらなんと見事な双丘!小さくも大きくもなく、手のひらから少しはみ出す程度の程よい大きさでありながらも存在を主張するように突き出た二つの小山は、神風さんの幼いながらもメリハリの利いた体に違和感なく収まっている。
控えめに見てもCはあるかしら……水着姿でも大して目立ってなかったのに……着痩せするタイプなのね……。
「朝潮、ドンマイ。」
私の肩をポンと叩き、私と変わらないバストサイズの満潮さんが心底哀れむような目で私を見つめて励ましてくれる。
ありがとうございます満潮さん、貴女だけが私の味方です。
「小学生くらいの体型の満潮と同じサイズか、諦めた方がいいかもね。」
そうだった!満潮さんは改二に改装を受けた私より体つきが幼いんだった!
あ、目逸らした!仲間だと思ってたのに!
「大丈夫よ朝潮ちゃん。司令官はロリコンだから……。」
だからなんですか荒潮さん!司令官だって無いより有る方が好みかも知れないじゃないですか!横須賀には潮さんって言う化け物オッパイ駆逐艦だって居るんですよ!?
「先生は並乳が好みよ。昔聞いた覚えがあるわ。」
私は並と言えるほどないんですが!それをください!神風さんのそのオッパイを私にください!
「ありきたりだけど、男に揉まれると大きくなるらしいから先生に揉んで貰えば?」
なんですと!?では体を綺麗にしたらさっそくお願いしてみましょう!司令官好みの大きさになるまで揉んでもらいます!
「やめて神風さん。この子本気で行きそうだから。」
ええ行きますとも、お風呂から上がったら執務室へ突撃します!
「やめときなさい朝潮ちゃん。司令官が憲兵さんに捕まってもいいのぉ?」
司令官は憲兵さんに捕まるような事はしません!だけどもし邪魔をするようなら……。
「私と司令官の邪魔をするなら私が憲兵さんを排除します!」
「やっぱこの子からかうの面白いわ。」
何ケラケラ笑ってるんですか、私は真剣です!真剣に司令官に胸を揉んでほしいんです!
「暴走しちゃってるじゃない!どうすんのよコレ!」
この人たちと話してる時間が惜しいわ、一刻も早く司令官の元へ向かわなければ!
「よし!突撃する!」
「すんな!神風さんも止めてよ!」
「しょうがないなぁ……。」
早く着替えなければ!下着が少し子供っぽすぎる気がするけど司令官なら気にしないわよねきっと!
ぐっ!何!?誰が首を……、着替え中に首を絞めるなんて卑怯よ!
「えい。」
首のあたりでキュッと音が鳴ったような気がする、背中になにか柔らかい感触もあるし……荒潮さんより大きい気がする……。
「大丈夫?コレ。白目剥いてるわよ?」
大丈夫じゃないです、意識が遠ざかっていきます……。
「暴走して不祥事起こすよりいいでしょ?って言うか暴走の仕方が長門に似てない?やっぱり姉妹なんじゃないの?」
やめてください、アレと姉妹だなんて死んでもご免です。
「窮奇とも似てる気がするわぁ。朝潮ちゃんも将来ああなっちゃうのかしらぁ……。」
あの人のは完全に片思いです、私と司令官は相思相愛だから違います。
年の差があるから皆さん止めるんですか?
たしかに司令官と私は倍以上歳が違いますが些細な問題です!
よく言うじゃないですか、愛があれば歳の差なんてって!
それか戦時特例的なものでどうにかなりませんか?
なりませんか、そうですか……。
では後三年我慢します!三年後には私も16歳、合法的に司令官と結婚できます!
新たな決意を胸に、私はかすかに残っていた意識を手放した。