艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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朝潮演習 6

 「アナタが朝潮?休暇でもないのにそんな格好で遊びまわるなんていいご身分ね。」

 

 呉鎮守府庁舎の前に到着した私たちを最初に迎えてくれたのは、私と同じ朝潮型改二の制服に身を包み、瞳の色はオレンジに近い黄色、髪は灰色で頭の右側で髪をサイドテールに結った朝潮型10番艦の霞さんだった。

 

 「別に朝潮は遊んでいた訳ではない、私の護衛として同行していただけだ。」

 

 司令官……庇っていただけるのはとても嬉しいのですが、思いっきり遊んでましたよ?色んな所に連れて行ってもらいましたし、美味しい物もいっぱい食べさせていただきました。

 

 あの寿司ネタが凄く大きいお寿司、美味しかったなぁ……。

 

 「陸上で、しかも艤装も背負ってない艦娘に護衛が務まるの?それとも横須賀の提督さんはそんな役立たずに護衛されなきゃいけないほど弱いのかしら?」

 

 「朝潮は私の心のボディーガードだよ、霞も一緒にどうだ?」

 

 「冗談やめて、横須賀の提督のお守りまでしてらんないわ。」

 

 浮気ですか司令官!もしかしてこうゆう子が好みなんですか?私もサイドテールにしようかしら……。

 

 「ふむ、フラれてしまった。後で朝潮に慰めてもらわねば。」

 

 私なら今からでもかまいません!さあ、頭を下げてください、よしよししてあげます!

 

 「相変わらずバカな事言ってるわね、そんなんで横須賀は大丈夫なの?」

 

 随分な物いいですね、私の事はいくらバカにしても構いませんが司令官を侮辱されるのは我慢なりません。

 

 「問題ない、優秀な副官がいるから私は暇なくらいだ。」

 

 「うちと同じくらいのクズっぷりね。いやうちより酷いかしら。」

 

 クズ?この子今、私の司令官の事をクズって言った?許せない……。

 

 「その辺にしておきなさい霞、横須賀の提督に対して失礼すぎるだろう。」

 

 私が霞さんに飛びかかろうと足に力を入れた時、霞の後ろにある呉鎮守府庁舎から士官服姿の男性が出て来た。

 

 眼鏡をかけた優男という言葉がしっくりくる青年ね、いぶし銀な私の司令官とは真逆の外見だ。

 

 歳は30に届くか届かないかといったくらいでしょうか、見ようによっては20代中ごろに見えますね。

 

 「お久しぶりです横須賀提督。今回は僕の我儘を聞いていただき感謝しています。」

 

 「貴様の我儘は今に始まった事ではないだろう、3年前はその我儘のおかげで横須賀は壊滅しかけたのだぞ?」

 

 3年前の横須賀事件の事かしら、そういえば呉主導の作戦のために艦娘の大半を出向させている時に呉が相手にするはずの艦隊が呉の哨戒網を素通りして横須賀に迫ったのよね。

 

 そんな大失態を犯しておいて提督を続けれらるものなのかしら。

 

 「返す言葉もありません。アレは完全に私の失態です。提督を続けていられるのが不思議でしょうがないですよ。」

 

 「……。」

 

 あれ?霞さんが大人しくなった、その時の作戦に参加してたのかな。

 

 それとも先代を思い出した?所属は違っても同じ朝潮型だから交流があったのかしら。

 

 「ここでは何ですのでとりあえず中へ。霞、朝潮さんと神風さんを部屋へ案内してあげてくれ。失礼のないようにな。」

 

 「クズ司令官に言われるまでもないわ。ほらこっちよ、ついて来て。」

 

 クズ司令官!?いくらなんでも不敬過ぎない!?ほら、呉の提督も苦笑いしてるし。

 

 同じ朝潮型として注意するべきかしら、でもよそ者の私が口を挟むのはなんか違う気がするし……。

 

 「何してるの朝潮、行くわよ。」

 

 「あ、待ってください神風さん!では司令官、私はこれで!」

 

 「ああ、迷子にならないようにな。」

 

 「はい!」

 

 司令官に敬礼した後、霞さんと神風さんを追って庁舎に入り、海側の玄関を抜けると正面に海、左手に工廠が見えた。

 

 正面の外観は横須賀の庁舎とそっくりだけど作りは全然違うのね、呉の庁舎は一文字で艦娘の寮などとは完全に切り離されてるみたい。

 

 「アナタ達の艤装も届いてるけど、点検しとく?」

 

 「私は後でいいわ。朝潮は?」

 

 「え?私も後でいいですけど……。」

 

 横須賀を出る前に点検はしてるし、輸送されたからってそうそう壊れるものでもないから急いで点検するほどのものじゃない。

 

 なのになんで霞さんは信じられないって顔で見て来るんだろう。

 

 「横須賀の艦娘は随分と呑気なのね。私だったらいつでも出撃できるように真っ先に点検するけど。」

 

 はあ、その心掛けは見事だと思いますけど嫌味ったらしく言う必要あるのかしら、神風さんが言い返さなきゃいいけど。

 

 「嫌味はいいからさっさと案内してくれないかしら。それとも、呉じゃ嫌味を言うことを案内って言うのかしら?」

 

 うん、いつもの神風さんだ。

 

 売り言葉に買い言葉でケンカを始めそうだわ。

 

 「ま、まあまあ神風さん、霞さんの言うことももっともなんですし。ここは押さえてください。」

 

 慌てて止めに入ったものの、二人とも眼力だけで人が殺せそうなほど睨み合ってる。

 

 「あ、ほら。やっぱりケンカしそうになってるよ。」

 

 この声は大潮さん!庁舎の左側から大潮さんと荒潮さんが歩いてくるのが見える、満潮さんはどうしたんだろう?割り当てられた部屋に居るのかしら。

 

 「別にケンカなんてしないわ。このチンチクリンがこれ以上ケンカを売ってこなければだけど。」

 

 神風さんも似たような身長では?それとも『私脱いだら凄いから貴女とは違う』って感じでしょうか。

 

 「それはこっちのセリフよ、その頭大丈夫?出血してるなら医務室に先に連れて行きましょうか?あ!そんな色の髪なのね、ごめんごめん。」

 

 それ以上はやめてください!うわ!神風さんの額に青筋が。

 

 青筋ってホントに浮き上がるのね……、ってそうじゃない!どうにかして二人を止めないと、でもどうやって!?

 

 「神風さんここは押さえてぇ?明日の演習で私たちがお仕置きしとくからぁ。」

 

 「はぁ!?何で私たちが負ける前提で話してるのよ。いつまでも昔のままだと思われてちゃ迷惑よ!」

 

 何なのこの子!今度は荒潮さんに噛みつき始めた!

 

 「もー!止めに入って逆にケンカ売ってどうするの荒潮。霞ちゃんも落ち着いてよ、こんなところでケンカしたってしょうがないでしょ?」

 

 「ふん!アホの大潮が偉そうに姉面しないでったら!朝潮姉さんの腰巾着だったクセに!」

 

 ついに大潮さんにまで……全方位に喧嘩売ってるわねこの子、血の気が多すぎる……。

 

 「大潮たちが来たんならコイツに用はないわね。大潮、代わりに案内して。このままコイツと一緒に居たら殴り倒しそうだわ。」

 

 むしろよく我慢してると感心してたのですが、神風さんが他人をコイツ呼ばわりするなんてよっぽど腹を立ててるのね。

 

 「ちょっと待ちなさいよ!それじゃ私が職務放棄したみたいになっちゃうじゃない!」

 

 職務に忠実なのは結構ですが、ケンカを売った時点で呉提督の命令に違反してるのでは?

 

 「いい加減にしろ小娘。うちの司令官の顔を潰さないためにこっちは殴りかかるのを我慢してるのよ?それとも明日の大会前に潰されたいか。」

 

 静かだけど奥底に殺気を孕んだ声、神風さんの顔から表情が消えた。

 

 これ以上は本当にまずい、たぶん神風さんは本気で怒ってる。

 

 「……。」

 

 霞さんはというと、神風さんの殺気に気圧されたのか悔しそうに睨むだけ、今のうちにこの二人を離さなければ。

 

 「心配しなくてもちゃんと案内されたって言ってあげるわ。ほら行くわよ三人とも。」

 

 神風さんに促されて大潮さんと荒潮さんが先行し割り当てられた部屋へ向かい始める、霞さんを振り返ると私たちとは逆、工廠の方へ向けて歩いていた。

 

 「どうして霞さんはあんなに私たちを敵視してたんだろう……。」

 

 霞さんは、私たちをまるで仇でも見るような目で睨んでいた、同じ朝潮型の姉妹なのになんであんな目を……。

 

 「朝潮!早く来なさい!置いて行くわよ!」

 

 「は、はい!」

 

 神風さんに呼ばれて踵を返そうとした時、庁舎の二階の窓に白い人影を見た。

 

 あれは呉の提督?霞さんを目で追ってるわね……。

 

 「朝潮!」

 

 おっと気にしてる場合じゃないわ、今の神風さんには逆らわない方が賢明ね。

 

 私は三人を追って駆け足気味にその場を後にした。

 

~~~~~

 

 「まったく、しょうがないなあの子は……。」

 

 「霞が神風にケンカでも売ったか?」

 

 「ええ、申し訳ありません。霞ではなく陽炎に頼むべきでした。」

 

 「気にするな、霞から殴りかからない限り神風からは手を出さんさ。」

 

 アイツは何気に、外では私の面子を気にしてくれるからな。

 

 「貴方は相変わらず駆逐艦に甘いですね。」

 

 「貴様は逆に駆逐艦を冷遇しすぎだ、駆逐艦ほどいい艦種は他にはないぞ?」

 

 即応性と機動性を重視する私とは違ってコイツは絵にかいたような火力主義、3年前などは一部の駆逐艦を除いて他は雑用係くらいにしか思っていなかった。

 

 「朝潮さんが霞に飛びかかろうとしてた時も止めようとしなかったでしょう?大人しそうに見えても流石は駆逐艦ですね。」

 

 「あの子は私を害しようとするものに容赦がないからな、私のためなら貴様にでも平気で噛みつくぞ。」

 

 「それは恐ろしい。気を付けるとしましょう。」

 

 肩のすくめ方がわざとらしすぎる、信じていないだろ貴様。

 

 「今の秘書艦は霞か?」

 

 「いえ、金剛に任せています。案内の件はあの子が申し出て来たんですが……結果はあの通りです。」

 

 二代目の朝潮を自分の目で見たかったんだろうな、ケンカを売ってしまったのはあの子の性格ゆえだろう。

 

 「では改めて、今回はうちの雪風と神風さんの対戦を承諾してくださってありがとうございます。」

 

 「構わんさ、神風のストレス発散になるならこちらにもメリットはある。アイツは放っておくと戦艦にすらケンカを売るからな。」

 

 「僕からすれば信じられない話ですけどね。噂でしか聞いたことがありませんが、本当に戦艦を倒すほど強いのですか?」

 

 信じろと言う方が無理だろうさ、神風はスペックだけ見れば全艦娘最低。

 

 とてもじゃないが戦艦を相手にできるような艦娘ではない。

 

 「本当だ。試合になれば嫌でもわかる。」

 

 雪風がどれほどやるかは知らんが。

 

 「それは楽しみです。うちの雪風も相当やりますよ。あの子が戦艦だったらと何度思ったことか。」

 

 「火力信者め、もう少し駆逐艦の力を認めてやったらどうなんだ?」

 

 「認めてはいます。ですが、やはり駆逐艦では限界があります。圧倒的な火力で敵を屠ればそれだけ犠牲も減りますし。作戦に多少穴があっても力ずくで遂行してくれますから。」

 

 それは慢心だ、その穴を見落としたせいであの事件を起こしたと言う自覚はないのか。

 

 「貴様がそんな考えでは霞はいつまで経っても報われないな、いっそ横須賀にくれないか?」

 

 あの駆逐艦は貴様には勿体なさすぎる。

 

 「霞をですか?上司に意見ばかりする生意気な駆逐艦ですよ?僕を思っての事なんでしょうがあの子の場合は度が過ぎています。他の艦娘が注意しても改めようとしないんです。」

 

 「霞は他所の所属の駆逐艦で唯一、私が本気で欲しいと思った駆逐艦だぞ?」

 

 「まああの子は駆逐艦の中でも火力はトップクラスですし、コンバート改装すれば対空も優秀ですからその気持ちはわかりますが……。」

 

 いや、わかっていない。

 

 そんな性能面などどうでもいい。

 

 「そうだ!長門か陸奥のどちらかと交換なら承諾しますよ?」

 

 なんだそのどうせ無理でしょみたいな顔は、私は本気だぞ?

 

 「構わん、どっちがいい?」

 

 「本気ですか!?戦艦と駆逐艦を交換なんて正気じゃありませんよ!」

 

 貴様が出した条件だろう、何を驚くことがある。

 

 「僕には理解できません。駆逐艦が艦隊運用において重要なのは僕も理解していますが、貴方の駆逐艦への拘りは異常だ。終いには駆逐艦さえいれば他の艦種は要らないとまで言い出しそうじゃないですか。」

 

 「さすがにそこまでは言わんさ、貴様の言う通り駆逐艦だけでは限界がある。」

 

 駆逐艦だけで事が済むのなら迷わず駆逐艦のみにするが。

 

 「まあ交換の話は冗談としてですね。」

 

 なんだ冗談なのか、本気で考えていたのだが。

 

 「霞を手元に置くと苦労しますよ?僕なんか子ども扱いされてますし。若輩という自覚はありますが作戦内容や艦隊編成にまで口を出すのは越権行為です。」

 

 「だから冷遇しているのか?」

 

 「冷遇してるつもりはありませんが苦手なのは事実です。僕の代わりに金剛が叱ってくれているので我慢はできてますが。」

 

 「金剛は貴様が決めた事には意見しないのか?」

 

 「ほとんどありませんね。彼女は僕の立てた作戦を必ず遂行してくれますから。」

 

 だから貴様は霞の言葉に耳を傾けようとしないのか、どんなに作戦に穴があろうと完遂してくれる者が居るから貴様は自分の間違いを認められない。

 

 優秀な部下がいるのも考え物だな、失敗を成功に変えてくれる者が居るばかりに霞の言葉が不愉快でしかたないのだろう。

 

 「先ほど玄関前で言っていたな『なぜいまだに提督を続けていられるのか不思議』だと。」

 

 「え?ええ、言いましたが……。」

 

 すまんな霞、3年前の約束を破るぞ。

 

 コイツのお前への態度にはどうにも我慢ならん。

 

 「実はな、3年前、貴様は降格され提督の地位も剥奪されるはずだったんだ。」

 

 「はぁ……、アレだけの失態をしたのですからそれは覚悟していましたが……。」

 

 「なぜお咎めがなかったと思う?」

 

 「棲地の奪還自体は成功していますのでそれで相殺されたものと……。」

 

 「バカか貴様は、その程度の戦果で帳消しになるほど貴様の失態は軽くはない。横須賀だけでは済まず、首都圏が壊滅していたかもしれないんだぞ?」

 

 「で、ではどうして。」

 

 「私が元帥殿に掛け合った、その時の私の功績を無しにする代わりに貴様へのお咎めを無しにしてくれとな。」

 

 「は!?い、いや失礼……。なぜそのような事を?貴方に僕を庇う理由などないではないですか。」

 

 ああない、貴様は朝潮の間接的な仇だ。

 

 叩き殺すならまだしも庇う必要など皆無だ。

 

 「貴様が救援に寄越した艦隊に霞が居たのは覚えているな?」

 

 「ええ、編成したのは僕ですし。」

 

 「敵艦隊が去った後、執務室で事後処理をしていた私の元に真っ先に来たのが霞だった。あの子は何をしたと思う?」

 

 「まさか貴方に対してまで艦隊運用の講釈を垂れたんではないですよね!?だとしたらさすがに罰しないわけないはいかなくなります!」

 

 なるほど、よくわかったよ。

 

 貴様の霞の認識はその程度か。

 

 「この大バカ者が!貴様はあの子をただ生意気な駆逐艦としか見ていないのか!」

 

 「!?」

 

 「あの子はな、執務室に入るなり私の前で土下座してこう言ったよ。『敵艦隊を見逃したのは私の責任です。私が哨戒の手を抜いたから艦隊を素通りさせてしまった。』とな。」

 

 「な……。あの子は敵艦隊が通過した時間は出撃していません!艤装の整備待ちで鎮守府で待機していたんですよ!?なんでそんな嘘を!」

 

 戦艦に甘やかされたダメ男め、察しが悪すぎる。

 

 「貴様を庇うために決まっているだろう!そんな事もわからんのか!」

 

 「僕を……庇うため?」

 

 あの時の霞の姿は忘れられない。

 

 床に額を擦りつけ、背中を震わせながら涙を流して、貴様を庇おうと嘘をつき続けた。

 

 弁解など一切せず、自分の責任だと私に言い続けた。

 

 「貴様にわかるか?あの子は自分の事など歯牙にもかけていない貴様のために責任を負おうとしたのだ。泣きながら土下座までしてな。」

 

 「霞がそんな事を……。で、ですが、それでも貴方が僕を庇う理由には……。」

 

 「ああ、ならん。だがな、あの自尊心の高い子が土下座までしたのだ。それを無下にするなど、提督としてではなく、一人の男としてできるわけがない。だからあの子に免じて貴様を助けた。」

 

 金剛達でも似たような事はするだろうな、貴様を助けてくれと。

 

 だが霞は違う、貴様を助けてくれなど一言も言ってはいない。

 

 横須賀が襲撃されたという報を聞いて原因に察しがついた霞は、貴様に責が及ぶ前に自分が責任を負おうと考えたのだろう。

 

 責任さえ取らされなければ貴様なら挽回できると信じてな。

 

 「……僕は霞のおかげでこうしていられると言う事ですか……。」

 

 「貴様にこの事は話さないと約束していたんだが、貴様の霞への認識があまりにも酷かったんで我慢できなかった。」

 

 「霞に感謝いなければいけませんね。いや、もう遅いか……。」

 

 「感謝するくらいならあの子が文句を言わなくて済むような提督になってやれ。あの子が的外れな文句を言っているなら話は別だが。」

 

 「いえ、あの子はいつも的を得た事しか言いません。あの時だって、哨戒に当てる艦娘が少なすぎると意見してくれたのに僕はちっぽけなプライドからそれを無視しました……。」

 

 少しは理解したか?あの子は生意気な艦娘ではない、他の誰よりも貴様の事を思っている艦娘だ。

 

 「貴方が駆逐艦に拘る理由が少しわかりましたよ。駆逐艦の魅力は性能以外の所にあるんですね。」

 

 しまった、言わなければ横須賀に引っ張れたかもしれなかったのに……もう遅いか?

 

 「で?霞を横須賀にくれるのか?私は本気なんだが。」

 

 「今の話を聞いて霞を手放す気になるわけないでしょう。」

 

 チッ!やはり話すんじゃなかった。

 

 「霞の小言に嫌気がさしたらいつでも言え、引き取ってやる。」

 

 「お断りします。そんな事を言うなら霞の魅力に気づかせなければよかったのに。」

 

 ああ、本当に失敗したよ。

 

 「そういえば霞と妙に親しげに話してましたよね?こうゆう機会でもなければ会う機会がないのに。」

 

 「ライン友達だからな、貴様が水虫で悩んでるのも知ってるぞ。」

 

 「悩んでませんよ!と言うかライン友達!?貴方と?意外にも程がありますよ!」

 

 ラインだと年相応で可愛らしいんだぞ?教えてやらんが。

 

 「普段どんな事話してるんです?」

 

 「気になるか?」

 

 貴様の心配ばかりだよ、心労で倒れるんじゃないかと心配になる。

 

 「ええ、それなりに……。」

 

 「霞に聞け、私は教えてやらん。」

 

 「意地悪ですね、霞と急にそんな話が出来る訳ないじゃないですか。」

 

 まあそうだろうな、あの子もあの子で意地っ張りなところがあるし。

 

 「霞の事が気になりだしたか?」

 

 「そりゃあ……多少は……。」

 

 霞に限らず駆逐艦は良い子ばかりだ、幼い分上位艦種より遠慮がないから全力でぶつかって来てくれる。

 

 霞が手に入らなくなったのは痛いが、今日の所は駆逐艦を好む同士が増えそうな事を喜んでおくか。

 

 「どうだ?駆逐艦は最高だろう?」

 

 「ええまったく、駆逐艦は最高だ……。」

 


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