艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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幕間 執務室にて

 「やはり戦艦が足りんな……。」

 

 「はい、正規空母のほとんどを作戦に投入する関係上、本土及び各泊地の防衛に当たる軽空母の補助に航空戦艦や航空巡洋艦は外すことができません。」

 

 「作戦に投入できる戦艦が長門と金剛型の四人だけじゃ少し不安があるわね……。陸奥には鎮守府の防衛に当たってもらわなきゃならないし……。」

 

 朝潮がサンマ漁のために出撃して留守にしている執務室で、先生と少佐と辰見が年末に行われる作戦について会議をしている。

 

 出て行けって言われないけど、私も聞いちゃっていいのかしら。

 

 「いっそ米軍の戦艦をこっちに何人か回してもらえばどうです?あっちはアイオワ級とサウスダコタ級のほとんどを投入するんでしょ?」

 

 なんと豪華な、火力の数値だけ見ればそれだけでこっちの艦隊をを全滅させれそうね。

 

 「それは無理だ辰見、あっちは我々が相手する敵の三倍近くを相手にしなければならない、要請したところで断られるさ。」

 

 「金剛型は速度は優れてるけど火力で長門に劣るものね。艦隊を二つに分けなければならない以上、長門並の火力の戦艦がもう一人は欲しいわ。」

 

 辰見が褒めてくれたわよゴリラ、喜びなさい。

 

 「少佐、ワダツミの方はどうなっている?」

 

 「現在、艤装の最終段階であります。予定通り、12月の中頃に引き渡し予定ですね。」

 

 ワダツミ?会話の感じからして船かしら、しかも鎮守府が運用するなら軍艦よね?でもこのご時世に軍艦なんて役に立つの?

 

 「例の弾頭は?」

 

 「12発は確保済みであります。これ以上となると……なにせ材料が材料ですから……。」

 

 特殊な材料を使った弾頭?それを運用するための艦を建造中なのかしら。

 

 「戦艦以外の準備は順調か……。」

 

 「やはり、彼女を呼び戻すしかないと思いますが。」

 

 少佐が沈痛な面持ちで先生に提案する、航空戦艦以外で呼び戻さなきゃならない場所にいる戦艦……一人しか思い浮かばないわね。

 

 「やはりそれしかないか……素直に戻って来てくれればいいんだが。」

 

 「え?他にも戦艦いるの?」

 

 「なんだ辰見は知らないのか、建造当時は割と話題になったんだが。」

 

 ダメよ先生、こいつは私並みに興味のない事に無頓着なの。

 

 私だって実際に見てなかったら名前さえ覚えなかったわ。

 

 「いるならその子を呼び戻すべきでしょ、戦艦を遊ばせておく余裕なんて日本にはないですよ?」

 

 ん~無理なんじゃないかしら、梃子でも動きそうになかったわよ?

 

 「何度も内地への異動命令は出している、だがことごとく無視されるんだ。」

 

 「だったらいっそ解体しては?朝潮みたいに何年も適合者が現れないならともかく、アレは特殊な例ですよね?」

 

 あの子自身もかなり特殊だけどね。

 

 「大本営が許可を出さん、一時でも彼女を失うリスクを負いたくないらしい。」

 

 まあねぇ、2番艦とは言えやっと建造できたんだから無理もないか。

 

 「それに今の適合者が現れるまで艤装の建造から1年近くを要している。駆逐艦ならともかく戦艦、しかも長門型を上回る性能の戦艦となると解体の許可など出さんさ。」

 

 「長門型を上回る戦艦?それってまさか大和型ですか!?大和が現存してるから建造できないと聞いた事がありますけど……。」

 

 そういえばそんな都市伝説みたいな説もあったわね、でも米国のアイオワも現存してるけど艦娘として建造出来てるから否定されたんじゃなかったっけ。

 

 「大和はいまだに建造できていない、建造が成功したのはその2番艦の武蔵だ。」

 

 「へぇ、全然知らなかったです。」

 

 知らなかったじゃなくて興味がなかっただけでしょ?正直に言いなさい。

 

 「神風、お前は会ったことがあるだろ?お前が最後に世話になったタウイタウイ泊地に居たはずだ。」

 

 私も会話に混ざっていいの?一応遠慮してたんだけど。

 

 「あるわよ、日がな一日惰眠を貪るダメ戦艦でしょ?」

 

 「ダメ戦艦なの?」

 

 「そうよ、半年くらい同じ泊地に居たけど、出撃してるところは一回も見たことがないわ。」

 

 私が武蔵と一緒になったのはタウイタウイ泊地、こっちに戻って来るまでの半年間お世話になった泊地だ。

 

 タウイタウイ周辺に現れる敵のほとんどは潜水艦だから戦艦は役に立たないし、あそこに戦艦を派遣するとか左遷と同じよ。

 

 「だけど武蔵は武蔵なんですよね?」

 

 辰見が私から先生に視線を移す、私が言ったこと信じてないわね。

 

 「ああ、性能は折り紙付きだ。まあ燃料弾薬の消費量は文字通り桁外れだが、それに見合った性能を有している。」

 

 「そんな戦艦をよくタウイタウイに派遣しましたね、あの辺って潜水艦しか出ないですよね?」

 

 たまに水雷戦隊とかも出たけどね、武蔵がタウイタウイに派遣されたのは今から1年ちょっと前って言ってたかしら。

 

 「タウイタウイは地図上で見れば各泊地の中間に位置するからな、所属が決まる前に、大本営の参謀共が強力な戦艦を遊撃手にするつもりで配置したのさ。低速戦艦なのにな。」

 

 辰見が呆れ果てた顔してるわね、クーデター起こそうとか言い出さなきゃいいけど。

 

 「提督、やっぱクーデター起こしません?呉と佐世保あたりは喜んで協力すると思いますよ?」

 

 案の定か、作戦前にクーデターとか頭おかしいんじゃない?嫌いじゃないけど。

 

 「自分は聞かなかったことにします……。」

 

 少佐の髪の毛が心配ね、昔より減ったんじゃない?

 

 「神風、武蔵があそこを離れたかがらない理由に心当たりはないか?」

 

 そう言われてもなぁ……私は私で駆逐古姫(アイツ)を追うので忙しかったし……。

 

 「あ、そういえば……。」

 

 アレかな?タウイタウイを離れる前に話した時、たしか武蔵は……。

 

 「武蔵はこう言ってたわ。『私は墓守だ』って。」

 

 「墓守だと?」

 

 先生が訝しむのもわかるけど確かにそう言ってたのよ、誰の墓を守ってるのかまでは聞かなかったけど。

 

 「戦友でも亡くしたんでしょうか、彼女がタウイタウイに着任してから戦死した艦娘を調べてみますか?」

 

 「……。」

 

 先生が何やら考え込んでるわね、面倒な事言いださなきゃいいけど。

 

 例えば力づくで連れ戻してこいとか……。

 

 「頼む。それと少佐、大潮と荒潮、それに長門を招集しておいてくれ。」

 

 「それは構いませんが……。何をさせるおつもりです?嫌な予感しかしないのですが……」

 

 その三人で武蔵を引っ張って来いって言う気かしら、まあその面子ならどうにか出来そうな気はするけど。

 

 「第八駆逐隊と長門、それに神風で武蔵を迎えに行ってもらう。少々手荒になっても構わん。」

 

 少々どころじゃなくなると思うけどなぁ……ん?今私の名前も言わなかった?

 

 「私も行くの!?嫌よ!あの辺クソ暑いのに!」

 

 「お前は泊地の司令とも面識があるし、地理もある程度覚えているだろ。道案内がてら言って来い。」

 

 勘弁してよ……暑いだけならともかくこの時期は雨期だから雨ばっかりなのよ?

 

 「命令だ神風、行って来い。」

 

 う……目がマジだ……拒否ったら怒られるどころじゃ済まないわねこれ………。

 

 「わかった……。」

 

 「手土産代わりに三式ソナーをいくつか持って行け、あそこの司令も喜ぶだろう。」

 

 そうだ、嫌がらせに四式を持ってってやろう。

 

 うん、そうしよう。

 

 「足はどうするの?まさか自走して行けとは言わないわよね?」

 

 あっちまで自走とか冗談じゃない、何日かかると思ってるのよ。

 

 「そうだな……少佐、先々週に八駆が護衛して来たタンカーの出航予定は?確かメンテでドック入りしてただろ。」

 

 「試運転はすでに完了していますから……早ければ明後日には出港です。」

 

 丁度いいじゃない、便乗させてもらいましょ!今のご時世で艦娘を乗せるのを嫌がる船なんていないわ!

 

 「少佐、船長と連絡を取って便乗させてくれるよう頼んでみてくれ。」

 

 「了解しました。護衛は27駆で?」

 

 「ああ、佐世保の方には私から言っておく。」

 

 よし!これで足は確保した。

 

 あとは、海が荒れない事を祈るだけね。

 

 「それはいいですが提督、朝潮と長門を一緒にして大丈夫ですか?」

 

 辰見の指摘で先生がその事を思い出したのか頭を抱えだした、長門がダメなら陸奥でいいじゃない。

 

 「先生、長門じゃないとダメな理由でもあるの?」

 

 どっちも低速戦艦だし、性能は改二改装を受けてる長門の方が上でしょうけど。

 

 「低速戦艦を高速化させられる事は……知らないよな……。」

 

 私はゆっくりと先生から目を逸らす。

 

 はい、知りません。

 

 「長門は陸奥に比べて高速化が容易なんだ、高速化した長門は単純な速度だけなら駆逐艦に引けを取らない。」

 

 あ~それでか、機動性はたいして変わらなくても速度が同じくらい出せるんなら、タンカーを降りてから長門を連れての移動にストレスを感じなくていいわね。

 

 「まあその分、装備は絞られてしまうがな。」

 

 「でも駆逐艦より上の火力は確保できるんでしょ?」

 

 そうじゃなきゃ長門を連れて行く意味なんてないし。

 

 「それはもちろんだ。だから最悪、武蔵と殴り合いになった場合を考えて長門は一緒に行かせたいんだが……。」

 

 ならいっそ朝潮を外せばいいんじゃないかなぁ、あの子も秘書艦に戻れて喜ぶんじゃないかしら。

 

 「朝潮をメンバーから外してはどうです?」

 

 私の代わりに少佐がそう先生に提案する。

 

 長門がガッカリするだろうけど、朝潮を追い回して暴走するよりはそっちの方がいいでしょ。

 

 「朝潮に対潜の経験をさせておきたかったんだがなぁ……。」

 

 あの子も駆逐艦だものね、対潜水艦は経験しといて損はない。

 

 と言うか今まで潜水艦を相手にした事なかったのねあの子、近海にも潜水艦は出るのに。

 

 「神風……。頼めないか?」

 

 先生が縋るような目で私を見て来る、私に長門のストッパーになれって事?って言うか最初からそのつもり私を出て行かせなかったんでしょ。

 

 「私で止めれるかわかんないわよ?アイツ生意気にも戦舞台対策の技編み出しちゃってるし。」

 

 長門が朝潮との演習で見せた『畳返し』は明らかに対戦舞台用だ、魚雷への防御にも使えるし不用意に近づけば体勢を崩される。

 

 あの時、朝潮がトビウオで飛べたのは奇跡に近いわ。

 

 「そうか……お前でも無理か……。」

 

 別に無理とまでは言ってないわよ?そんな言われ方したら少し腹が立つわね。 

 

 「いやすまん、お前ならなんとかできると思ってたんだが無理なら仕方ない。」

 

 だから別に無理じゃないってば、もしかして挑発してるの?乗らないわよ。

 

 「まあ今の朝潮ならなんとかできるかもしれないしな、お前に無理をさせる必要もないか。」

 

 なるほど、私は朝潮より弱いと言いたいのね。

 

 上等じゃない。

 

 「そこまで言われたら黙ってられないわ。いいわよ、やってやるわよ!朝潮なんかにまだまだ負けたりしないんだから!」

 

 先生が計画通りとでも言いたげな顔に変わる、いい機会だから朝潮に私の強さを再認識させてやる。

 

 後悔したって知らないからね!

 

 朝潮にトラウマ植え付けて帰してやるんだから!


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