艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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 シリアスな話にするつもりだったのに……どうしてこうなった……。


幕間 提督と神風 4

 「で?朝潮がコンバート改装できなかったのは何でなの?」

 

 執務室を出た後、部屋に戻って胡麻を入れた擂り鉢と擂り粉木を持ち出して工廠に赴いた私が見たのは、悔しそうに泣いてるのを先生と整備員さんに慰められている朝潮の姿だった。

 

 「わからん。その場で妖精に確認したが、妖精は『改装は終わった。』と言うばかりだった。」

 

 私には何もいない空間に向かって独り言を言ってるようにしか見えなかったけど、あそこに妖精が居たのね。

 ついに呆けたのかと思ったわよ。

 

 「制服はもちろん、数値上の変化もなし。間違いなく改二のままだ。」

 

 制服も艤装の一部だもんね。

 妖精さん特製の制服は、見た目とは裏腹に防風、防寒、防水、防刃、防弾、しかも風通しもいいから夏でも快適な軍人が羨む高性能戦闘服だ。

 さらに、色物だろうがなんだろうがお構いなしに洗濯可能な主婦が泣いて喜びそうなおまけまで付いている。

 

 「練度は?足りてなかったんじゃない?」

 

 「いや、朝潮の現在の練度は95。改二丁に必要な練度の85はとっくに超えている。」

 

 不思議な話ね、練度を満たし、妖精さんは改装の完了を告げているのに見た目や数値に変化なし。

 色々と規格外な子だけど、変な所まで規格外じゃなくてもいいのに。

 

 「あの子、泣いてたわね。」

 

 「改装は私の命令だ、それを達成できなかった事が悔しくて仕方なかったんだろう……。」 

 

 慰めるのに苦労してたもんねぇ……。

 『私はやっぱり無能です!司令官の顔に泥を塗ってしまった!』って泣き叫びだした朝潮を先生や整備員さんがオロオロしながら慰めてたもんね。

 大の男共が慌てふためいてる様は見てて滑稽だったわ。

 そういえば退役間近くらいの年老いた整備員さんが形容し難い奇怪な踊りを披露してたわね。

 先生が『貴方はまさか……キタの町の出か!』とか言ってたけど、キタの町ってどこ?その町の人って、みんなあの気持ち悪い踊りが踊れるの?

 

 「あの後どうしたの?朝潮を連れて何処かへ行ってたけど。」

 

 私が買い物を終えて部屋に戻ったらすでに先生はいつもの着流し姿でくつろいでいた。

 そんなに遠くには連れて行ってないと思うけど……執務室かしら。

 

 「別に?どこでもええじゃろ……。」

 

 隠した、しかも素に戻った。

 怪しい……まさか朝潮が傷心なのに付け込んで如何わしい事してたんじゃ……。

 

 「なんだその疑うような目は、何もしてないぞ。」

 

 「だったら隠すことないじゃない。隠すから怪しく思えちゃうの!」

 

 私と目を合わそうとしない、私にバレるとまずい所に連れて行ったの?

 この人は筋は通すから間違っても傷心の朝潮を手籠めにするような事はしない。

 朝潮から迫ったらその限りじゃないかもしれないけど、あの子にそこまでする度胸はない……。

 

 いや……やるかもしれないわねあの子……。

 

 「もうええじゃないか、済んだ事だ。朝潮の機嫌も直ったし問題ない。」

 

 朝潮の機嫌が直った?

 あれだけ泣きじゃくってたのに?

 

 甘味でも御馳走したのかしら、それだけで機嫌が直るとは思えないんだけど……。

 

 「あれ?羊羹が減ってる……。」

 

 食材を冷蔵庫に仕舞おうとしたら、入れておいた間宮羊羹が明らかに減ってるのに気づいた。

 食後の楽しみに取っておいたのに四分の一くらい減ってる。

 二切れづつ食べたとして、ざっと二人分か……。

 

 「……。」

 

 横目でちゃぶ台の前に座ってる先生を睨むと、ほとんど後ろを見るように顔をそむけた。

 このクソ親父……この部屋に朝潮を連れ込んだわね……。

 なるほど、先生のプライベートプラス間宮羊羹で朝潮の機嫌が直ったのか。

 

 「変態……。」

 

 「待て神風!本当に何もしちょらん!羊羹を摘まみながら話をしただけだ!」

 

 でも私の羊羹は食べたんでしょ?

 定期的に駆逐艦寮で開かれる闇市でようやく競り落とした私の間宮羊羹を……すっごく高かったのに!

 

 「信じらんない!私の羊羹食って朝潮とイチャコラしてたの!?この部屋で!?何考えてるのよこの変質者!ロリコン!もしかしてあの布団使ったんじゃないでしょうね!」

 

 「待て待て待て!羊羹は弁償するし本当に話をしてただけだ!お前が疑っちょるような事は何もしちょらん!」

 

 「羊羹なんてどうでもいいわよ!この部屋に朝潮を連れ込んだのが気に食わないの!」

 

 私と先生の部屋に連れ込むなんてどういう神経してるのよ、先生のプライベートだけじゃやなくて私のプライベートもゴロゴロしてるのよ?

 その部屋に連れ込むなんて……。

 絶対許さない!

 

 「いや、ここ俺の部屋じゃろうが!何怒っちょんじゃお前は!」

 

 「私の部屋でもあるの!別にあの子の事は嫌いじゃないけど、知らない内に色々見られちゃうのは嫌!」

 

 あの子が先生のお気に入りだろうと嫌なものは嫌!

 私とお父さん(・・・・・・)の生活を勝手に覗かれるのは我慢できない!

 

 「『司令官のためなら、この朝潮何でもする覚悟です!』とか言わせながら抱いたんでしょ!」

 

 「抱いてない!つか何言うちょるんじゃ!」

 

 勝手に朝潮を部屋に上げた罰だ、徹底的に追い詰めて部屋から叩き出してやる!

 

 「『さあ建造の時間だ!準備はいいな朝潮!』とか言いながら犯したんでしょ!」

 

 「お前何言ってんの!?頭大丈夫か!?」

 

 「先生がマニアックな言葉責めを身につけてる……。末期だったのね……。」

 

 「何の末期だ!ロリコンの末期ってそうなるんか!?」

 

 それは知らないけど、なんかありそうじゃない?そういう(たぐ)いのエロ本で。

 

 「まあ先生も独り身になって長いからね。たまに女を抱きたくなる事自体は私も全然否定しません!」

 

 「あ、ああ……。ん?いや!何もしちょらんから!」

 

 そんな事はわかってるのよ、今言ってるのは憂さ晴らしを兼ねた嫌味よ!

 

 「接し方が悪かったのかしら……。夜ゴソゴソしてても気づいてないふりしてたのに……。」

 

 「しちょらんけぇな!?さすがにお前のすぐ横ではせんぞ!?」

 

 当たり前よこのクソ親父!

 隣でソロプレイなんかしようものならその場でちょん切ってやるわよ!

 

 「とにかく!そういうやらしい事を朝潮にしたんでしょ!」

 

 「しちょらんから!」

 

 なんだか本当にしたんじゃないかと思えてきたわね、ああ!イライラする!

 

 「お、おい神風……。なんで刀持って近づいてくる?」

 

 「なんで?幼気(いたいけ)な少女を傷物にしたその単装砲をぶった斬るのよ!」

 

 「!?」

 

 私は抜刀術の構えのままジリジリと距離を縮める、大丈夫よ先生、痛くなんてしないわ。

 一瞬で斬り落としてあげるから!

 

 「ふざけるなこのバカ娘!まだ現役なのに斬り落とされてたまるか!」

 

 往生際の悪い……。

 現役だから斬るんでしょうが!

 艦娘達の貞操と私の心の平穏のために、その腰の主砲を差し出しなさい!

 

 「逃げようったって無駄よ。私、本気だから。」

 

 壁際をジリジリと部屋のドアへ向かって移動してるわね、でも無駄。

 こんな一辺10メートル足らずの部屋じゃどこに逃げたって射程内、それは先生もわかってるでしょ?

 だから観念してそのT督をちょん切らせろ!

 

 「わかった……。俺も男だ、観念しよう。」

 

 さすが先生、潔いわ。

 もうすぐ男じゃなくなっちゃうけどね。

 

 「だがいいんだな?俺は息子を斬り落とされたら女になる道を選ぶぞ。」

 

 は、はぁ!?

 女って……ニューハーフにでもなろうって言うの?

 その厳つい顔と体で!?

 

 「もう~神風ちゃんったらお転婆なんだからぁ~とか言うぞ!いいんだな!」

 

 先生が体をクネクネさせながら気持ち悪い女言葉を言い出した。

 やめて、マジキモイ……。

 

 「化粧してセーラー服も着て、深海棲艦ってチョベリバじゃなぁい?大破撤退したらチョバチョブだしぃ~って言っていいんだな!」

 

 90年代のコギャルか!

 そうよね!先生の歳だとちょうど学生時代だもんね!

 想像したら吐き気がしてきたじゃない……。

 厚化粧にセーラー服姿のコギャル語で話すオッサンとかおぞましすぎる!

 そんなのもう人間じゃないわ、バケモノよバケモノ!

 

 「それでもええっちゅうんなら斬れ!さあ斬れ!ほら!ほら!」

 

 この変態親父!

 両手を腰に当てて股間を前に突き出して来やがった!

 私は見た目だけなら幼気(いたいけ)()少女なのよ?

 その私に向かって股間を突き出しながら迫るなんて逮捕案件よ!

 いや、死刑にされたって文句は言えないわ!

 

 「よく覚えておけ神風。斬っていいのは斬られる覚悟のある奴だけだ!」

 

 この状況で言っていいセリフじゃない!

 気づいてないの!?キリッとした顔してるけど、セリフと行動がかけ離れ過ぎてるわよ!?

 って言うか何に斬られるの!?

 『俺の股間にあるのは女百人斬りの自慢の名刀だ!』とでも言う気?

 やかましいわ!!

 

 「さあどうする?斬るのか?斬らんのか?ホ~ラホ~ラ、斬ってみろホ~ラ。」

 

 頭の後ろで両手を組んで腰だけゆっくりと前後に振り始めた。

 私コレ知ってる黒のレザースーツ着たハードなゲイの人のマネだ。

 ってそうじゃない!

 クソ!攻守が逆転してしまった!

 これでは斬っても斬らなくても私の負けになってしまう!

 

 「どうした神風。腰が引けてるじゃないか、怖じ気づいたのか?ん?」

 

 腰も引けるわ!

 厳ついオッサンがクネクネと腰を振りながらにじり寄って来てるのよ?

 この状況で喜べるのはかなり特殊な訓練を受けた変態だけよ!

 

 「早くしないとどんどん速度が上がっていくぞ?いいのか?」

 

 先生がそう言いながら腰を振る速度を上げ始めた。

 完全に悪ノリしてるわね。

 今は提督と言う立場上滅多にやらないけど、悪ノリした時の先生は本当に(たち)が悪い。

 修得してる無駄に高レベルな体術を惜しげもなく悪ふざけに使用してくるのよ?

 全力疾走して逃げる人をブリッジしたまま追い回したり、サムズアップしたまま残像が見える速度で人の周りを回り続けたりと、やられた人にトラウマを植え付けそうな事を全力でやるんだからこの人。

 

 「さあ、そろそろ本気を出そうか。」

 

 腰振る速度がまた上がった!

 速度が上がりすぎてスローモーションみたいに見えるわね……。

 それ、腰大丈夫?

 後で痛いって言っても揉んであげないわよ?

 

 じゃなくて!この状況をどうするか考えないと!

 今の私には打つ手がない、やられたい放題だ。

 このままだと私の心がへし折られる、って言うかすでに泣きたい。

 だって怖いし気持ち悪いんだもん、行動は奇怪なのに顔は大真面目なのよ?

 これを見て平静を保てるのはこの人と同レベルの変態だけよ!私みたいな純真無垢な美少女には無理!

 

 「こ、来ないで……。」

 

 何か手はない?

 そうだ、たしか満潮との約束があったはずじゃ……。

 ダメだわ、鳳翔さんが店を開くまであと1時間はある。

 この睨み合った状態をあと1時間もキープするの?

 絶対無理!

 どうしようどうしよう!

 殴って気絶させる?

 それもダメ!悪ノリが最高潮に達してスペックが跳ね上がってる先生が相手じゃ海上でも勝つ自信がない!

 

 「終わりだ、神風!」

 

 終わっちゃうの?

 私はこんな所で、こんなバカみたいな終わり方をするの?

 

 「い、嫌……。」

 

 そうよ、絶対嫌よ!

 力及ばず敵に討ち取られる方がまだマシだわ!

 

 「そんなの絶対!嫌ああぁぁぁぁ!」

 

 ズヌ! 

 

 「ふぉっ!?」

 

 ふ、ふぉ?なに今の、先生が言ったの?それに手に変な感触が……。

 目の前に迫る恐怖に思わず目を瞑り、無意識に突き出した刀の柄を伝って来た妙に柔らかい感触を左手に感じて恐る恐る目を開けてみると、私の頭の少し上くらいに先生の顔があった。

 

 信じられない物でも見るように見開かれた瞳とキスでもするかのように突き出された唇、柄の先を見てみると柄頭が完全に先生の股間にめり込んでいた。

 これまさか……潰しちゃった?

 

 「あ、あの先生?だいじょう……?」

 

 言い切ることが出来なかった『大丈夫?』と言い切る前に白目をむいた先生が倒れかかって来た。

 

 「ちょっと……!きゃぁ!」

 

 私より倍以上重い先生を私が支えきれるはずもなく、そのまま押し倒されるように……と言うか押し倒された。

 

 「痛い……重い……。」

 

 ちょうど私の胸の谷間辺りに先生が顔を埋めた状態で下敷きにされてしまった……。

 

 「このスケベ親父……私の胸に顔を埋めるなんて日本人の半分を敵に回すわよ。」

 

 半分は言いすぎかな?精々三分の一くらいかしら。

 まあそれは置いといて、さっさと抜け出さないと本当に圧死しそう……。

 

 「んしょ……っと。あ……。」

 

 抜け出せたのはいいけど袴が脱げちゃった、胸元にある先生の鼻に引っ掛かって着物も着崩れて肩が完全に出ちゃってるし……。

 本当に乱暴されたみたいな格好になったわね。

 

 「このままにしとく訳にもいかないか……。」

 

 とりあえず様子を見ようと、先生の右腕を反対側に引っ張って仰向けにしようと試みる。

 いったい何キロあるのよ!重い~~!

 

 「うわっ!」

 

 ゴツン!

 先生の体が真横を向いた途端、そのまま倒れて私も巻き込まれたてちゃぶ台に頭を打ち付けてしまった。

 マジ痛い……タンコブ出来ちゃったじゃない!

 

 「痛たたた……。ん?」

 

 お尻の下に変な感触がある……それにこの体勢……。

 

 「これじゃ私が先生を襲ってるみたいじゃない……。」

 

 仰向けで白目をむいて気絶してる先生に半裸と言われても反論できないような格好の私が馬乗りになっている。

 この体勢はアレだ、言葉にはしたくないけどあの体位だ。

 どうしてこんな事に……。

 

 「じゃあ、このお尻の感触は……。」

 

 考えるなぁぁぁ!考えちゃダメよ神風!

 それに下帯は脱げてない!大丈夫、先生も下は穿いてるしそもそも起っ……。

 いやいや!とにかく平気よ!私の純潔は失われてないわ!

 

 『それくらい一人で返しに行きなさいよ。まったく……。』

 

 『だって一人だと恥ずかしくて……。』

 

 ん?廊下から聞こえてくるこの声は朝潮と満潮?先生に何か用なのかしら、何かを返しに来たみたいだけど……。

 ってまずい!こんな所を見られたら言い訳なんて効かない!

 とりあえず先生から降りないと!

 

 「司令官居る?入るわよー。って……え?」

 

 終わった……私終わっちゃった……。

 そりゃ驚いて声も出せなくなるわよね半裸の私が先生に馬乗りになってる所を見れば……。

 

 「満潮さん、ノックくらいしないと……。」

 

 そうね朝潮その通り!ノックは大事よ!

 だから私を見たまま固まらないで何か言って!

 まったく!せめてノックしてる数秒があればここから飛び退いて、『発情した先生に教われそうになったから殴って気絶させた』って言い訳も通せたかも知れないのに!

 ノックの大切さを身をもって思い知ったわ……。

 ああ神様、神風は今度からちゃんとノックして執務室に入ります。

 ドアも蹴破りません、いい子になります。

 だから時間を巻き戻して!

 マジで!

 

 「神風さん……いったい何を……。」

 

 やめて朝潮!

 声を震わせながらそんな事聞かないで!

 どう言い訳したって信じないでしょ!?私だってこんな現場見たら信じないわよ!

 どう見たって逆レイプの現行犯だもの!

 

 「朝潮……大丈夫?神風さんを責めちゃダメよ……。こんないつ死んでもおかしくない仕事してると、どうしようもなく男に抱かれたくなる事があるって前に妙高型の人に聞いたことがあるわ……神風さんは今日がその日だったのよ……たぶん……。」

 

 やめて!今はその気遣いが痛い!

 って言うか違うから!

 信じてくれないと思うけど違うから!

 誰よそんな事言った妙高型は!

 

 「でも……でも……無理矢理だなんて……。」

 

 泣くな!

 泣きたいのはこっちよ!

 私そこまで欲求不満じゃない!

 そりゃあ極稀に満潮が言ったみたいな気にならないことはないけど……。

 でも今回は違うから!

 むしろ私が被害者だから!

 

 「ふぅ……。」

 

 「朝潮!?ちょっ……しっかりしなさい!朝潮!ダメだ……失神しちゃった……。」

 

 いいわねお手軽に失神できて……。

 私は羞恥と絶望で気が変になりそうよ……。

 

 「あ、あのこれ……。朝潮が司令官に借りたって……。」

 

 満潮が出来るだけ私の方を見ないようにハンカチを差し出してきた。

 こんな物返すなんて明日でもいいでしょうに……なんで今日なのよ……なんでこのタイミングなのよ!

  

 「じゃ、じゃあ私達帰るから。司令官が起きたら今日の約束は今度でいいって言っておいて……。」

 

 「いや、あの……満潮……これは……。」

 

 満潮が意地でも私の方を見ないようにして朝潮を背負い、部屋を出て行こうとしてる。

 

 「私何も見てないから……。朝潮にもアレは夢だって言い聞かせるから……。」

 

 「ちょ、まっ……。」

 

 満潮を呼び止めようと立ち上がろうとするが、慣れない姿勢で居たせいで足が痺れて立てない!

 

 「抜けないの?あ、いやごめんなさい……。なんでもない……。」

 

 何が!?別に抜くも抜かないもないのよ!?

 そもそもはいっ……。

 兎に角!耳まで真っ赤にしてチラチラ見るくらいならちゃんと見なさいよ!

 興味津々じゃないのよこのムッツリスケベ!

 やましい事なんてしてないんだから!

 

 「そ、それじゃあ……行くね……。」

 

 行くな!いや、行かないで下さいお願いします!

 貴女が何を想像してるかは手に取るようにわかるの!

 誤解を解きたいから行かないで!

 

 「ご、ごゆっくり!」

 

 「待って!行かないで満潮!……行っちゃった……。」

 

 どうしよう……これマジでまずいわ……。

 これじゃ私、完全に発情した痴女じゃない。

 

 「ははっ……明日から私は男を気絶させて襲う強姦魔か……。」

 

 なんでこうなった?

 私は悪ノリした先生から身を守ろうとしただけなのに……。

 

 そうよ、先生のせいじゃない。

 先生があんな事しなきゃこんな事にならなかったのよ!

 

 「呑気に気絶しちゃって……。先生のせいで私のイメージが最悪になっちゃったじゃない!」

 

 どうしてやろう、ホントにちょん切ってやるか……でも先生を脱がせてる所をまた誰かに見られたら本当に終わる。

 ダメね、ショックが大きすぎて考えがまとまらない。

 いっそ忘れてしまえたら……。

 

 「そうだ……飲みに行こう……。」

 

 今日は満潮と飲むために鳳翔さんの所を貸し切りにしてるはずだ、飲んで忘れよう……。

 ついでに鳳翔さんにある事ない事吹き込んでやろう。

 

 私はノロノロと身なりを整え、先生の財布を持って部屋を出た。

 

 「結構入ってるわね、一人じゃ使い切れない……。そうだ長門も呼ぼう……空母達も呼んだら来るかな……。」

 

 使い切ってやる……。

 私の胸に顔を埋めた代金よ、安い物でしょ?

 起きても覚えてないでしょうけど。

 力なく食堂に向かって歩く私の頭はもう、先生の財布を如何にして空にするかしか考えてなかった。

 

 「宴会資金確保。 さあ、酒宴の用意よ! 絶対財布を空にしてやるんだから!」

 






 でも反省はしてるけど後悔はしていない!

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