艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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朝潮編成 2

 昨日の記憶が曖昧だわ……。

 改装が失敗した事が悔しくて泣いてしまった私に司令官が貸してくださったハンカチを返すために、司令官のお部屋に満潮さんと行ったのは覚えてるんだけど……。

 ドアを満潮さんが開けてからの事が思い出せない、どうやって八駆の部屋に戻ったのかも思い出せない。

 

 目が覚めたら制服のまま寝ていたから司令官のお部屋に行ったのは確かなんだろうけど……。

 

 「思い出そうとすると頭が痛くなる……。」

 

 何があったんだろう、別にタンコブとかは出来てないから頭を打った訳ではなさそうね。

 

 「大丈夫?朝ご飯食べれそう?」

 

 食堂に向かって一緒に歩いていた満潮さんが心配そうに私の顔を覗き込んでくるけど……、潮さんこそ大丈夫ですか?

 目の下のクマがすごいですよ?

 もしかして昨日の晩は寝てないんじゃ……。

 

 「大丈夫です……。」

 

 「そう?ならいいけど……。」

 

 朝ご飯は多少無理してでも食べないと、じゃないと力が出ない。

 力が出ないという事は司令官のお役に立てないって事だもの。

 

 「何あれ。何かあったのかしら。」

 

 満潮さんの視線を追って食堂の入り口を見てみると、空母や重巡、それに戦艦の人たちがゾロゾロと出てくるところだった。

 ある人は千鳥足、またある人は意識が朦朧としている人に肩を貸して食堂を後にして行く。

 

 その光景はまるで、負け戦の戦場から帰る傷病兵のようだ。

 

 「げ……ながもん……。」

 

 一番最後に神風さんをおんぶしたながもんが出て来た、酔いつぶれてるのかしら、顔を真っ青にしてダウンしてる神風さんを見るのが凄く新鮮に感じる。

 ん?神風さん?

 なんだろう……神風さんを見てると何かを思い出しそうになる。

 

 「う……頭が……。」

 

 頭に鋭い痛みが走った、まるで思い出すのを拒否しようとしているように痛みが思い出すのを邪魔してくる。

 

 「朝潮、それ以上考えちゃダメ、今は朝ご飯の事だけ考えなさい。」

 

 「はい……。」

 

 気を取り直して食堂の中が見える位置まで来ると、最悪な光景が広がっていた。

 一言で言うと吐しゃ物まみれ、それが食堂中……。

 この光景を見て泣いたり吐いたりしてしまったりしてる駆逐艦も居る、とてもじゃないけど食事が出来る状態じゃないわね。

 

 「戻りましょ……少しだけど乾パンが部屋にあるから朝はそれで我慢しましょう……。」

 

 「そうですね……。」

 

 朝から気分最悪だわ、あんな光景を見た後じゃお昼ご飯もまともに食べれるかどうか……。

 

 「あ、朝潮ちゃん!ちょうどよかった。」

 

 部屋に戻ろうと踵を返すと、前から来た由良さんに声をかけられた。

 

 「ん?食堂で何かあったの?」

 

 「見ない方がいいですよ、ご飯が食べれなくなります……。」

 

 「あ~~……。」

 

 私達とは反対方向に帰ってくる上位艦種の人たちを見て状況を察したのか、由良さんが頬を人差し指で掻きつつ苦笑いを浮かべた。

 それより私に何か用なのかしら、秘書艦をしてる関係で書類を届けたりした時に話はするけど、それ以外の時間に話しかけられたのは初めてね。

 

 「私に何かご用ですか?」

 

 「あ、そうだった!提督さん見てない?いつもならもう執務室に居るのに今日はまだ来てないみたいなのよ。」

 

 いつも執務室で朝食を摂ってますもんね。

 でも今日は神風さんがダウンしてたから朝食を作る人がいないんじゃ……。

 じゃあお部屋でご飯食べてるのかな?

 

 「お部屋でお食事されてるんじゃないでしょうか、さっき神風さんが食堂から出て来るのを見ましたから執務室まで食事を持って来てくれる人が居ないはずです。」

 

 「そっか、じゃあそっちに行ってみるわね。ありがとう朝潮ちゃん。」

 

 「あ、私もご一緒します!」

 

 もしかしたら司令官の手料理にありつけるかもしれない。

 いやいや!もしかしたら司令官に何かあったのかもしれないわ。

 秘書艦として行かないわけにはいかないわ!

 

 「ダ、ダメよ朝潮!絶対ダメ!」

 

 「え、でも……。」

 

 満潮さんが必死の形相で私の腕を掴んで行かせまいとする。

 私が行ったら何かまずいのかしら。

 

 「大潮か荒潮に聞けば乾パンの場所はわかるから、アンタはそれ食べてさっさと執務室行きなさい。司令官の様子は私と由良さんで見に行くから!」

 

 「でも私は秘書艦として……。」

 

 「そう!アンタは秘書艦!だから早く準備して行かないと!それに司令官が来た時、すでに仕事をしてるアンタを見たらきっと褒めてくれるわ!頭も撫でて貰えるかも知れない!」

 

 な、なるほど、それは盲点でした。

 司令官が来る前に、私で処理出来る書類を終わらせておけばもっと褒めて貰えるかも!

 よし!少しテンションが上がってきました!

 

 「よかった……。この子が単純(バカ)で……。」

 

 満潮さんがボソッと何か言ったようですが気にしません!

 司令官のためならとことんバカになる覚悟です!

 そうと決まればさっさと部屋に戻って朝ご飯を食べないと。

 

 「噂には聞いてたけどここまでわかりやすいとは……。考えてることが手に取るようにわるわ……。」

 

 「では!私はこれで失礼します!」

 

 私は、呆れかえってる満潮さんと由良さんに手を振られながらその場を後にした。

 

~~~~~~~~

 

 「はぁ……これであの現場を朝潮に見せなくて済むわね……。」

 

 司令官が執務室に来てないって事は、昨日のまま気絶してる可能性が高い。

 あの子が見たらまた失神するか、下手したら神風さんを亡き者にしようと暴走するかもしれないもの……。

 

 「満潮ちゃん……あの現場って?」

 

 由良さんにどう説明したらいいんだろ……。

 『神風さんに逆レイプされた司令官が気絶してる所』、が無難?

 いやいや、それはさすがに神風さんに対して配慮がなさ過ぎる。

 あの人は見た目は私達と大差ないけど二十歳を超えてる大人の女性だ、きっと溜まってたのよ、それが昨日たまたま爆発しちゃっただけ。

 女だって性欲はあるもんね、私もあの現場を見ちゃったせいで悶々として眠れなかったし……。

 いや、私の事はどうでもいいか。

 それよりも最悪の事態に備えないと。

 

 「行けばわかると思う……。由良さん、少佐呼べる?」

 

 もし丸出し状態で放置されてたら、経験どころか見た事もない私じゃトラウマになりかねない。

 

 「少佐さん?呼べるけど……最近は携帯持ち歩いてくれるようになったし。」

 

 よし、先陣を切る人間は確保。

 これで男の股間から生えてると言うスーパーキノコを見る心配がなくなったわ。

 どういう風にスーパーなんだろう……いやいや!別に興味はない、興味はないわ!

 まあ、いずれは見る機会も来るかも知れないけどそれは今じゃなくていい!

 

 「なら司令官の部屋に来るように言って、もしかしたら私達じゃ対処できないかも知れないから……。」

 

 由良さんはどうなんだろ?

 見たことあるのかな……。

 着任当時は色々とアレな感じだったから、見たことが有るどころか経験済みかもしれない。

 ヤンキーは早婚ってどこかで聞いた覚えがあるし。

 いつも一緒に居る少佐とデキてたりするのかな。

 

 ん~ないか、少佐っていい人ではあるけど、優柔不断だし痩せてる割に顔はおたふくみたいだし。

 例えるなら体だけ痩せた左門豊作かな?

 昔は兎も角、今は立ってるだけで男が寄ってきそうな美人の由良さんには不釣り合いだもんね。

 

 「ええ、はい。提督さんの部屋の前で落ち合いましょう。」

 

 由良さんがさっそくスマホを取り出して少佐に連絡してる、どことなく嬉しそうに見えるのは気のせい?

 

 「来てくれるって、じゃあ由良達も行こっか。」

 

 若干赤面してる?

 もしかして由良さんって左門みたいな人が好みなの?

 

 「お、来たな。満潮も一緒か。」

 

 ルンルン気分って言葉がピッタリな感じの由良さんと一緒に司令官の部屋に行くと、士官服姿の左門……じゃなかった、少佐が部屋の前で待っていた。

 一回左門と思ったら左門にしか見えなくなっちゃった……どうしよ……。

 

 「どうですか少佐さん、提督さん居ました?」

 

 そうだった、司令官の様子を見に来たんだ、左門はとりあえず置いておこう。

 

 「それがノックしても返事がない、人の気配はあるんだが酷く希薄だ……。」

 

 少佐が鋭い眼差しで部屋のドアを睨む、なぜだろう……雰囲気はシリアスなのに少佐の顔のせいでギャグにしか思えない……寝不足のせいかなぁ……。

 

 「満潮ちゃん、ここで何があったかしってるのよね?話してくれる?」

 

 「知ってる事はしってるんだけど……。」

 

 どう説明しよう、少佐が人の気配はあるって言ってるから誰かは中に居る。

 神風さんは長門さんが負ぶって上位艦種用の寮に向かってたから部屋には居ないはず。

 だったら部屋に居るのは司令官だ、ノックしても返事がないって事は昨日から気絶したままの可能性大。

 昨日のままかぁ……、神風さんはちゃんと後始末したんでしょうね。

 部屋に入った瞬間変な臭いとかしたらどうしよう……。

 

 「き、昨日、朝潮が借りたハンカチを一緒に返しに来たんだけど……その時……。」

 

 どうする!なんて言う!?

 いっそ司令官が神風さんを襲ってたって言っちゃおうかしら、ダメダメ!そんな事をしたら朝潮を敵に回す事になる!

 

 「満潮ちゃん?大丈夫?」

 

 「顔色が悪いな、そんなにショッキングな事が昨日ここであったのか。」

 

 ええショッキングだったわ、人の情事を見たのは生まれて初めてだったもの。

 経験もしてないのに大人の階段を登った気分になったわよ。

 朝潮なんて失神しちゃったし……。

 

 「とにかく入ってみよう、念のため由良と満潮は下がっておいてくれ。この状況では、中に居るのが提督殿とは限らんからな。」

 

 男らしいわ少佐!頑張って!

 私は喜んで壁際まで下がらせてもらいます!

 

 「由良も行きます。少佐さんだけ危ない目に会わせるわけにはいきませんから。」

 

 いや、入って危ないのは由良さんと私だけよ、少佐はきっと平気。

 だって司令官と同じものがついてるんでしょ?

 

 「わかった、だが自分の後ろに居てくれ。君に何かあったら夢見が悪い……。」

 

 「少佐さん……。」

 

 見つめ合っていい雰囲気作らなくったっていいから早く入りなさいよ。

 やっぱり二人ってそういう仲なの?

 

 「鍵は……閉まってないな。提督殿にしては不用心すぎる……。」

 

 少佐がドアノブを回し、ドアに背中を当ててゆっくりと内側へ開いていく。

 変な臭いは……今のところして来ないわね。

 それとも臭いとかないのかしら。

 

 「ど、どうですか?誰か怪しい人でも居ます?」

 

 「いや……今のところ誰も……。ん?誰かの足が。誰かが仰向けで寝てる?」

 

 少佐から見える位置で寝てそうなのは司令官しかいない、って事は私達が帰った時のままって事ね。

 という事は丸出しのまま!?

 

 「ゆ、由良さん!もうちょっと下がった方がいいわ!部屋の中が見えない位置まで!」

 

 「え?どうしたの急に……。」

 

 「て、提督殿!?誰がこんなことを!」

 

 「え?え?少佐さんどうしたんです?ってきゃああああああ!提督さんが!!」

 

 遅かった……見ちゃったのね由良さん、司令官のT督を……。

 ごめんなさい、私がもっと早く止めてればこんな事にはならなかったのに……。

 

 「提督殿!シッカリしてください!誰にやられたんですか!」

 

 神風さんにヤられたんです……。

 でも責めないであげて、あの人も寂しかったのよ……人肌恋しかったのよ!

 

 「嘘……提督さんが死……死んで……。」

 

 え!?死ぬほど搾り取られちゃったの!?

 冗談でしょ!?

 

 「大丈夫だ由良!息はある!だが外傷が見当たらない……首を締められた後もない。どうやって提督殿ほどの手練れを……。」

 

 そう言えば私と朝潮が部屋に入った時には気絶してたわね。

 神風さんはどうやって司令官を気絶させたんだろ?

 

 「衣服にも乱れはないな。」

 

 「そうですね……薬でも嗅がされたんでしょうか。」

 

 そうか薬か!

 きっとお茶か何かに混ぜて飲ませたのね。

 でも衣服の乱れがない?神風さんは後始末をしてから部屋を出たのかしら。

 

 「満潮じゃない……何か用……。」

 

 恐る恐る部屋の中を見ようと壁から離れたところで神風さんが帰って来た。

 顔は相変わらず真っ青で今にも吐きそう、昨日どんだけ飲んだのよ……。

 

 「いや、その……司令官が執務室に来ないって由良さんが言うから……それでみんなで様子を見に……。」

 

 「みんな……?」

 

 神風さんの顔が『あ、忘れてた』って言いそうな感じに変わった。

 昨日の事を飲んで忘れようとして本当に忘れてたのねこの人……。

 

 「み、みんなって誰!?」

 

 「少佐と由良さんだけど……。」

 

 言い終わる前に神風さんが私を押しのけて部屋に入った。

 そんなに血相変えちゃって、まあ見られたらまずいわよね。

 

 「少佐!人の部屋で何やってるのよ!」

 

 「か、神風!?今までどこに……いやそれより提督殿が誰かにやられたらしい。心当たりはないか?」

 

 心当たりも何も、司令官をヤッたのはその人です。

 昨日見ちゃったんだから、神風さんが半裸で司令官にき、きじょ……馬乗りになってる所を!

 

 「この人まだ気絶してたの!?え……男の人ってあんな事でこうなっちゃうの?」

 

 なるほど、神風さんも昨日が初めてだったのね。

 男の人って事後は気絶しちゃうのかぁ……。

 知りたくなかったなぁ……。

 って事は私達が部屋に入った時点で二回目か、それ以上だったのね……。

 

 「何があったんだ神風、説明してくれ。」

 

 「い、いやその……。」

 

 「わ、私憲兵さん呼んできます!提督さんが襲われたなんて一大事だわ。」

 

 この場合捕まるのはどっちなんだろう?

 やっぱ司令官?

 でも司令官は襲われた側だし……そうなると神風さんになるのかな。

 

 「やめて由良!憲兵さんは呼ばないで!って言うか大事にしないで!」

 

 「だが神風、由良の言う通りこれは一大事だ、何か知ってるなら教えてくれ。」

 

 「う、ううぅ……。」

 

 髪の毛ををワシャワシャと搔き乱しちゃって……ここまで慌てふためく神風さんは初めて見るわ、珍獣でも見たような気分になるわね。

 

 「せ、先生が悪ノリしたの……。」

 

 「え?悪ノリ?それってどういう……悪ノリすると提督さんて気絶するんですか?」

 

 由良さんが不思議そうに司令官を見てる。

 そりゃ意味がわかんないもんね、私もまったく意味わかんない。

 

 「そうか……わかった……。」

 

 何がわかったの?

 少佐が司令官を上半身だけ起こして後ろに回り、司令官の両肩を掴んだまま片膝を背中に当ててグッとやるとボキッ!っと小気味いい音がした。

 

 「う……。」

 

 「提督殿?お気分はいかがですか?」

 

 おお!司令官が目を覚ました!

 凄いわね今の、覚えとこ。

 

 「ああ……少佐か……私は何を……。由良に満潮まで居るじゃないかどうしたんだ?っと言うか!今何時だ!?」

 

 「マルハチマルマルを少し回ったところです。どこまで覚えていますか?」

 

 「どこまで?それはどういう……そうか、私は昨日……。」

 

 娘みたいな神風さんに襲われたショックで記憶が混濁してたのね……。

 可哀そうに……。

 

 「神風……。」

 

 「な、何よ……私悪くないからね……。」

 

 なんだこの雰囲気は、まるで久しぶりに会って感極まった司令官と『待たせ過ぎよ、バカ……。』って言いそうな感じでそっぽを向く神風さん。

 え?どうしてこうなるの?レイプ犯とその被害者じゃないの?

 

 「昨日はその……すまなかった。悪ノリが過ぎた……。」

 

 「反省してくれたんならいいわ……私もその……やりすぎたし……。」

 

 なんか二人は丸く収まったみたいだけどこっちは消化不良なんですけど?

 由良さんも頭の上に?マーク浮かべて二人を交互に見てるし。

 少佐は何があったかわかってるように『うん、うん』と頭を縦に振ってる、事情に察しがついてるなら説明してよ。

 

 「い、痛くない?その……。」

 

 「あ、ああ。痛みは引いてる。大丈夫だ。」

 

 セリフ逆じゃない?痛かったのは神風さんじゃないの?

 

 「提督殿、今日は無理をしない方がいいんじゃ……。」

 

 「この程度の事で休めるか。満潮、朝潮はもう執務室に行っているのか?」

 

 「え?ええ、行ってるんじゃないかしら。」

 

 すっかり忘れてたわ、まああの子ならちゃんと仕事してると思うけど。

 

 「なら私ものんびりしてはいられないな。」

 

 着替えるのかな、さすがに着流し姿で執務は出来ないもんね。

 由良さんと少佐さんも部屋の外に出ようとしてるし、私も出るか。

 

 「着替え、手伝おうか?」

 

 「ああ、頼む。ん?財布がない……どこへやったかな……。」

 

 財布と聞いて神風さんが固まった、それどころか冷や汗まで流し始めた。

 酔いがぶり反してきたのかな?

 顔がまた真っ青になってきてる。

 挙動も不振、懐に手を入れて後ずさりしてる。

 

 「神風……お前まさか……。その懐に何を入れている……。」

 

 「し、知らない……。私何も知らない……。」

 

 いや、いかにも知ってますって感じだけど?

 もしかして、その懐に司令官の財布が入ってるんじゃ……。

 

 「出せ……。」

 

 「ちょ、先生落ち着いて?な、何する気よ!何も入ってないから!」

 

 ジリジリと近づく司令官に神風さんが壁際まで追い込まれた。

 何がはじまるんだろ、まさか脱がしたりしないわよね?

 私だけじゃなく、まだ少佐や由良さんも居るのに。

 

 「ちょ、提督殿何をする気ですか!?」

 

 「決まってるだろう!このバカ娘ひん剥いて隠してる財布を取り返す!」

 

 言うや否や司令官が神風さんの着物にに手をかけ押し倒した。

 うわ!うわ!マジで脱がせようとしてる!

 

 「やめて提督さん!落ち着いて!」

 

 「嫌ぁぁぁ!やめて先生!そんな所に手を入れないでぇぇ!」

 

 神風さんを羽交い絞めにした司令官が神風さんの胸元に手を突っ込んだ!

 絵面がやばい、憲兵さんに見られたら即逮捕されちゃいそうな光景だわ!

 

 「やっぱり持っちょったろうが!ってうおぉ!?中身がない!?」

 

 神風さんの懐から財布を抜き出した司令官の顔が驚愕に歪む。

 いくら入ってたんだろ?

 って言うか人の財布の中身を勝手に使っちゃダメでしょ。

 

 「はぁはぁ……先生が悪いんだからね!昨日の憂さ晴らしに全部酒に変えてやったわよ!」

 

 真っ青から一転、顔を真っ赤にして胸元を押さえて縮こまる神風さんは襲われそうになってる幼気(いたいけ)な少女そのものねね。

 

 「20万近く入ちょったはずじゃぞ!?それ全部一晩で飲んだんか!?」

 

 入れすぎでしょ、鎮守府でそんな大金何に使うのよ。

 いや待って、って事は食堂の惨事を引き起こしたのは神風さん?

 アレのせいで何十人の艦娘に影響が出たと思ってるのよ!

 

 「さすがに看過できん……説教してやる!そこに座れ神風!」

 

 「うっさいクソ親父!娘の胸元に手突っ込むとかどういう神経してんのよこの変態!」

 

 なんだか取っ組み合いのケンカをはじめそうな雰囲気になっちゃった。

 少佐が必死に二人を宥めようとしてるけど焼け石に水みたい。

 だけど、なんだか微笑ましくも見えるわね。

 

 「満潮ちゃん……憲兵さん呼んだ方がいいと思う?」

 

 「ほっといていいんじゃない?ただの親子喧嘩でしょ?」

 

 そう、これは親子喧嘩だ。

 だったら他人の私達が口を挟むべきじゃない。

 って言うか巻き込まれたくない。

 

 ついに取っ組み合いに発展したいつまで続くかわからない二人のケンカを、私と由良さんは生暖かい眼差しで見守り続けた。

 

 似たもの親子と心の内で思いながら。

 

~~~~~~~

 

 「ふう、終わりました!」

 

 時刻はヒトヒトマルマル、執務室に届けられた書類で私が処理できるものは終了です!

 これできっと司令官は私を褒めてくれます、頭も撫でてくれることでしょう!

 おっと、興奮してはいけません、平静を装うのよ私。

 あくまで自然に、これくらい当然ですとばかりの態度で居ないと。

 

 でも……司令官はまだ来ない。

 早く来てください司令官、朝潮は頑張りました。

 このまま今日は来ないんじゃないかと不安になっちゃうじゃないですか……。

 司令官の執務机の横に設えられた秘書艦用に椅子に腰かけたまま、不安な気持ちがつい、言葉になって口から零れてしまった。

  

 「司令官……遅いな……。」

 




 予約投稿してたと思ってたら出来てなかったという……。

 盆休み中、二泊三日で縦走登山に行ってくるので次の投稿は13日になる予定です。
 
 電波が届けば投稿するかも?

 気分転換に書いている別作品「艦これで〇〇が〇〇を隠し持っていたシリーズ。」は15日まで予約投稿してますのでよろしければ読んでみてください。

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