艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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幕間 鎮守府の日常 2

 本日はハロウィンである。

 

 一応言っておくがハロウィンはキリスト教の祭ではない。

 毎年10月31日に行われる古代ケルト人が起源と考えられている祭のことで、もともとは秋の収穫を祝い、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事だった。

 現代では特に米国で民間行事として定着し、祝祭本来の宗教的な意味合いはほとんどなくなり、カボチャの中身をくりぬいて『ジャック・オー・ランタン』を作って飾ったり、子どもたちが魔女やお化けに仮装して近くの家々を訪れてお菓子をもらったりするお祭りになっている。

  

 横須賀鎮守府では、駆逐艦たちが上位艦種の部屋を訪ね歩いてお菓子を貰い、食堂に集まってお菓子パーティを開くのがの通例となっている。

 

 お菓子を抱えてご満悦のの駆逐艦たちを見ていると心が和む。

 去年は長門殿の部屋が特に人気だったな、自分の部屋をお菓子で埋め尽くし、笑顔を浮かべて駆逐艦たちに囲まれる様は教会のシスターを思わせたものだった。

 部屋の中でお菓子に埋もれた陸奥殿に少し同情はしたが……。

 

 こういう日に憲兵がうろつくのは、駆逐艦たちの気分を害しかねないから出来るだけしたくはないがそうはいかない。

 こんな日こそ憲兵が駆逐艦たちを守らなければならないのだ。

 駆逐艦たちは戦災孤児がほとんど、『知らない人について行ってはいけません』というごく普通の躾さえ満足にしてもらえなかった子もいるのだ。

 そんな日にお菓子を抱えた男でも見てみろ、ハロウィンだからお菓子をくれるだろうとホイホイついて行ってしまいかねない。

 

 トリック オア トリートどころかトリック アンド キドナップされてしまうかもしれん。

 

 特に危ないのはあの二人だ、提督殿の私兵のモヒカンと金髪。

 あの二人は危ない、見た目だけならまだしもハイエースまで所持している。

 提督殿の部下でなければ見た瞬間に逮捕している。

 

 「あら、憲兵さんじゃないですか♪ぱんぱかぱ~ん♪」

 

 何だこれは、山と谷が同時に目の前に現れた。

 いや違う、これは愛宕殿の胸部装甲か、相変わらず見事な物をお持ちで……。

 

 「こんばんは愛宕殿。そんな格好でどうなさったんです?」 

 

 一言で言うなら魔女、しかも男を誘惑する事に特化した魔女だ。

 頭はよくある魔女風のとんがり帽子だが、服装が色気の塊のように見える。

 胸元と背中が大きく開いた……と言うか胸元は半分近く出ていないか?と言いたくなるようなベビードール、丈は膝上20cmと言う超ミニ!

 これはけしからん!

 ほとんど下着と言ってもいい恰好ではないか!

 本当に素晴らしい!

 黒一色の服装だが、それが逆に愛宕殿の白い肌ときらめくような金髪を際立たせている。

 黒は女を美しく見せると言ったのはどこのパン屋の女将さんだったか……。

 貴女の言ったことは正しかったですよオソノさん……。

 愛宕殿の胸元から突き出ているパンに齧りつきたい衝動を押さえつけるのがこれ程辛いと思ったことが今まであっただろうか、いやない!

 

 「今日はハロウィンですものぉ♪私も羽目を外したくって~♪」

 

 大変すばらしいお考えです、おかげでいい物が見れました。

 当分オカズには困りません、本当にありがとうございます。

 

 「ですが少々外し過ぎでは?艦娘だけならいいですが、自分のような男の職員も少なからずいますので。」

 

 だが釘はさしておかねばならん、なぜなら私は憲兵だから!

 愛宕殿のような麗しい女性を下衆な男共の前に晒すわけにはいかない。

 

 「憲兵さんなら大丈夫ですよ~♪変な事考えないでしょう?」

 

 もちろんです、私は憲兵ですからね、例えその胸の谷間に挟まれようと理性を保つ自信があります。

 その恰好のまま詰め所に連行して椅子に縛り付け、泣いて許しを乞うまで尋問してみたい気はしていますが大丈夫です。

 貴女は私の頭の中ではすでに尋問に屈し、身も心もさらけ出してる状態ですから。

 貴女は『早く愛宕にぱんぱかぱーんしてぇ……。』と私におねだりしている。

 ふしだらな子だ、ならば私は『撃てぇーい!』と言って貴女に……。

 

 「憲兵さんどうしたの?そんな真剣な顔して……考え事ですか?」  

 

 はい、考え事です。

 私としたことが妄想の世界にダイブしていたようだ、自室に帰るまで我慢しないと。

 

 「いえ、なんでもありません。これからの巡回ルートを模索しておりました。」

 

 「んもぅ、相変わらず真面目なのですね。あまり無理なさらないでくださいね?」

 

 無理はすでにしています、貴女が動くたびにたゆんたゆんしている双丘を見ていると、私の主砲が誤射してしまいそうになる。

 これ以上彼女の前に居るのは危険だ。

 

 「お心遣い感謝します。では、私はこれで。」

 

 「はぁ~い、お仕事頑張ってくださいね♪」

 

 よし!なんとか耐えきったぞ、私でなければきっと耐えられなかっただろう。

 あれを前にしてしうと駆逐艦のビッグセブンが微笑ましく思えてしまうな。

 何がビッグなのかはあえて言わないが。

 

 「ん?あれは提督殿と第八駆逐隊の4人か?」

 

 窓から工廠へ向かって歩く5人が見える。

 (意味深)がつかない夜戦の訓練だろうか、流石だな、他の艦娘達がイベントではしゃいでいる時にまで訓練するとは大したものだ。

 

 おっと、あそこでお菓子を抱えてご満悦そうに歩いているのは辰見殿と叢雲殿か?

 叢雲殿はともかく、辰見殿はお菓子をあげる側なのではないだろうか。

 

 「憲兵さんじゃないですか、こんばんは♪」

 

 「こんばんは。こんな時間まで巡回?憲兵さんも大変ね。辰見さんも見習ったら?」

 

 「こんばんは。辰見殿、叢雲殿、これから食堂ですか?」

 

 普段は士官服姿のせいで目立たないが、辰見殿も見事な物をお持ちのようで……。

 抱えたお菓子に持ち上げられて大変な事になってるじゃないですか。

 けしからん……なんとけしからん格好だ。

 さっきの愛宕殿以上に煽情的な格好でありながら、どこか無邪気さを感じさせるコスチューム。

 頭に角がついたカチューシャをつけ、虎柄のビキニにブーツ……。

 仙台弁とか喋りそうですね、語尾に『だっちゃ!』とつけてもらえませんか?

 おっといかん、今日は愛宕殿と決めているのに浮気は良くないな。

 ちなみに叢雲殿はと言うと……。

 フッ……、可愛らしいとは思う、おそらく黒猫の仮装だろう。

 頭のアレを耳に見立て、丈の短い黒いワンピースに猫の手を模したグローブ。

 ちゃんと尻尾もついてますな、私がロリコンだったら喉をゴロゴロ言わせながら飛びついていたかもしれない。

 

 ですが残念ながら私はそんな特殊性癖ではない、それに辰見殿のインパクトが強すぎて目にも入らない。

 私の目は下から突き上げるお菓子で所々弾頭が凹んでいる辰見殿のミサイルに釘付けなのだから。

 

 「叢雲の友達作りも兼ねてね~♪この子、朝潮ちゃんと満潮ちゃんくらいしか友達って呼べるような子いないから。」

 

 「アンタ……ま、いいわ。もう……。」

 

 ジト目で辰見殿を睨んだ後、諦めたようにため息をつく叢雲殿。

 友人はいいものですよ、場合によっては肉親以上に親身になってくれる。

 私も女装(同じ)趣味の友人が欲しいのですが……。

 

 「じゃあ私たちは行きますね。憲兵さんもお仕事頑張ってください。」

 

 もちろんであります、貴女のように無防備な女性を守るのも憲兵の務め。

 必ずや狼男共の毒牙から守って見せましょう!

 

 「ホントに行くの?はぁ……今夜は騒がしくなりそうね……。」

 

 表情は嫌そうですが、頭のアレと尻尾が嬉しそうにフリフリしてますよ叢雲殿。

 頭のアレは艤装だからともかく……その尻尾もまさか艤装ですか?

 

 「はい、今夜は存分に楽しんで来てください。」

 

 本来ならあまり騒がないように言うのだが、今夜くらいは別にいいだろう。

 普段からコスプレじみた格好の艦娘達が、本当にコスプレ姿ではしゃぎ回る光景が見れるのはこの日しかないのだから。

 

 さあ、次はどんな素晴らしい光景が私を待っているのだろう。

 胸躍るとはまさにこの事、今度はどんな胸が私の前で踊ってくれるのだろう。

 

 おや?前から来るドラキュラ伯爵とピンク髪のミイラ女は少佐殿と由良殿か。

 少佐殿……ハッキリ言ってドラキュラの格好が全く似合っていませんよ?

 完全にチョイスを間違ってます、フランケンシュタインの方が絶対に似合ってました。

 

 「あ、これは憲兵殿。ご苦労様です。」

 

 うるさいフランケン、貴様に用はない。

 

 「すみません、私達だけ楽しんでしまって……。」

 

 いいんですよ由良殿、そんなに畏まらないでください。

 

 「いえいえ、これも仕事ですので。」

 

 それに対して由良殿のミイラ女……。

 これまでで一番けしからん!

 全身に包帯しか巻いてないその姿は刺激が強いなんて騒ぎじゃない!

 露出度だけで言えば大したことはない、だって顔しか出ていないのだから。

 だが!ピッタリと肌に張り付いた包帯が『露出度?何それ』と言わんばかりに由良殿を煽情的に仕立て上げている!

 由良殿は愛宕殿ほど胸部装甲が豊かな訳ではない、だが!ピッタリ張り付いた包帯が由良殿のスレンダーボディを際立たせまくっている!隙間から少しだけ見える肌も高ポイント!ハッキリ言って全裸よりエロい!

 と言うかそれ、下着はどうなっているのですか?先端にポッチがあるように見えるのですが、もしやノーブラ!?

 ならばその二つのポッチはまさか……まさかぁぁぁぁぁぁ!!

 

 おっといかん、思わずエレクトしてしまうところだった。

 由良殿を見た後では、愛宕殿と辰見殿の格好が健全に思えてしまうほど、由良殿が卑猥なのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 

 女性の魅力は胸の大きさだけではないのだな……。

 由良殿を見てしまった後では、愛宕殿や辰見殿のこれ見よがしの色気がチープに思えてしまう……。

 戦闘中、由良殿は『由良のいいとこ、見せちゃおうかな?』と仰るらしいが。

 ええ、見せていただきました、堪能させていただきましたよ、由良殿の良い所を!!

 

 「それでは憲兵殿、自分たちはこれで。」

 

 ああ、さっさと行け。

 貴様の顔を見ているとせっかくの気分が台無しになる。

 

 「お仕事頑張ってくださいね。」

 

 はい!頑張ります!

 由良殿もそのフランケンに襲われないよう十分注意してください。

 なんなら、適当な理由をでっち上げてフランケンを連行しましょうか?

 

 「ありがとうございます。では私もこれで。」

 

 ハロウィンを日本に持ち込んだ人は偉大だな、こんなに素晴らしいイベントだとは今まで思わなかった。

 去年までは仮装をするのは駆逐艦だけだったからな、どうして今年は上位艦種の娘たちもコスプレをしているのだろうか。

 まあいい、おかげで美味しい思いが出来ている。

 だが御馳走さまはまだ早い!

 この鎮守府にはまだまだ艦娘が居るのだ、きっと先の3人以上の格好をした艦娘が訪れるに決まっている!

 

 段々と胸のサイズが小さくなっているような気がしないでもないが問題はない。

 胸の大きさが全てではない事を由良殿が教えてくれたしな。

 

 となると次は誰だ?

 由良殿より胸のサイズが小さい艦娘で軽巡以上と言うと、ここでは那珂殿か利根殿くらいか……。

 ん~~~微妙だ、私的には駆逐艦と大差がない。

 利根殿は普段着がかなり煽情的だが、見た目と中身のお子様っぷりでせっかくのいやらしい恰好が無駄になってしまっているからなぁ……。

 アレがいいんだと言う輩も居ないではないが、私には理解できない。

 那珂殿は普段が普段だからなぁ……。

 ライブをやるのは構わないんだが、せめて提督殿の許可くらいはとってやってもらいたい。

 注意をすると『那珂ちゃんファン倶楽部』の奴らがうるさいのだ……。

 そのせいで私は那珂ちゃんのファンをやめました。

 

 ん?廊下の角から話声が聞こえて来たな、誰が来る?

 諦めるのはまだ早いぞ、横須賀にはまだ陸奥殿や高雄殿だっているんだ。

 段々サイズが小さくなってきていると言っても、ここでドーンとおっぱいビッグセブンが登場してもおかしくないのだ!

 さあ来い!

 

 その角を早く曲がってこい!

 

 私の胸は期待ではち切れんばかりに膨らんでいる!

 

 「あれ?憲兵殿じゃないっすか。チーっス!」

 

 「こんな時間まで見回りなんて大変だな。俺にゃ無理だわ。」

 

 那珂ちゃんか利根殿の方がマシだった!!!

 サイズが小さくなるどころか無くなってしまったではないか!

 角を曲がって来たのは、横須賀鎮守府で一番の監視対象であるモヒカンと金髪ではないか!!

 しかもなんだその恰好は!

 

 金髪の方はばい菌を擬人化したような全身黒タイツに右手にフォーク、フォークと言っても槍のような長さのフォークじゃなくて普通のサイズのフォークだ。

 そのフォークで何を召し上がろうと言うんだ貴様は!

 

 いや、コイツの格好はまだマシだ、気持ちは悪いがまだマシだ!

 問題はモヒカン、頭には犬耳、上半身は裸で下半身はでかいカボチャパンツ、足にはダイビング用の足ヒレ。

 それは何の仮装だ?変質者の仮装など聞いたことがないぞ。

 しかも右手には普通のスプーンだと?

 そのスプーンで何を召し上がる気だ貴様は!

 

 「貴様ら……その恰好は何のつもりだ……。」

 

 「いやぁ、適当に集めたハロウィングッズ着たらこうなっちゃいまして。でもイケてるっしょ?」

 

 「俺もそっちのが良かったんだけどなぁ、相棒の方が似合うから俺は泣く泣く悪魔スタイルだわ。」 

 

 ホントに悪魔だ貴様らは!

 私の桃色気分を台無しにしやがって!!

 どうしてくれる!私の脳内メモリに収めたはずの桃色モンスターたちが完全に吹っ飛んだわ!

 

 「じゃ、自分らパーティに行くんで失礼するっす。」

 

 何?その恰好で食堂へ行くだと?

 正気か貴様ら!そんな格好であの華やかな場に入って見ろ、たちまち阿鼻叫喚の地獄絵図になってしまうぞ!

 

 「待て、行かせんぞ……。」

 

 「はぁ!?なんでだよ、招待されてんだから別に問題ねぇだろ?」

 

 大ありだバカ者!

 見た目も中身も変質者な貴様らをあの場へやるわけにはいかん!

 

 「私だ、変質者二名を発見したすぐに来い。ああ、食堂前の廊下だ。」

 

 「ちょ!変質者って酷くないっすか!?どっからどう見てもハロウィンの仮装じゃないっすか!」

 

 「どっからどう見ても変質者だ!ガタガタ言わずに憲兵詰め所まで来い!」

 

 「そりゃ横暴じゃねぇか憲兵さん!俺らまだ何もしてねぇぞ!?」

 

 見た目がすでに犯罪だ!

 貴様らの魂胆はわかっている、お菓子で駆逐艦を釣ってそのフォークとスプーンでイタズラをする気だろう!

 駆逐艦相手にトリックオアトリートする気だろう!

 

 「隊長殿!参りました!」

 

 「来たか!この二人だ!さっさと連行しろ!」

 

 「やや!見るからに怪しい奴ら、了解しました!」

 

 「ふっざけんなコイツ等!離せ!離せこの野郎!」

 

 「ちょ!パンツは引っ張らないで欲しいっす!コレ気に入ってるんすから!」

 

 私の応援要請で集まった憲兵隊10人に連れられて変質者共が連行されて行く。

 艦娘達の平和はなんとか守られたようだ。

 

 艦娘達が日本の平和を守り、私が艦娘達の平和を守る。

 なぜなら私は憲兵だから。

 

 艦娘によからぬ劣情を抱く奴は私が根絶やしにしてやる。

 

 憲兵の名に懸けて!

 




 
 なんとかE4突破……。
 それにしても今回のイベントマップはDOLやってた頃を思い出させる……。
 親の顔より多く見たインド洋……ベルベット懐かしいな……。

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