艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

84 / 109
朝潮編成 8

 これはどういう状況なのでしょう、もうすぐ12月になろうかと言う時期に私、軽空母 鳳翔は神風さんに連れられて執務室を訪れていました。

 

 集まっているのは、提督と朝潮ちゃん、その補佐である少佐さんと辰見さんに秘書艦の由良さんと叢雲ちゃん。

 長門さんに武蔵さん、神風さんも居ますね。

 こんな前線を張るような方ばかりの所に、なぜ一線から離れている私が呼ばれたのでしょう。

 

 「先生、会議室の方がよかったんじゃないの?さすがにこの人数じゃ狭いわよ。無駄にデカいのが二人も居るし。」

 

 「言われてるぞ武蔵、狭いから縮め。」

 

 「ほう?長門型は縮むことが出来るのか。だが生憎、大和型にそんな機能はない。先輩が縮め。」

 

 あらあら、体が大きいのだから暴れては迷惑ですよ二人とも。

 それに、狭いとは言っても充分スペースはあるじゃないですか、神風さんがソファーを一人で占領したりしてなければ。

 

 「朝潮、例の書類を全員に配ってくれ。」

 

 「はい、了解しました。」

 

 提督は額で小突き合ってる戦艦二人を無視、止めてくださいよ……。

 なんなら私が止めましょうか?

 

 「これは……作戦概要と編成表?見る限りかなりの規模の作戦だが……。」

 

 長門さん、かなりどころじゃない規模の作戦よ。

 米国との合同作戦、全艦娘の三分の一を投入、ここだけでも七年前のシーレーン奪還作戦を超える規模の作戦だわ。

 でも、まだ発令されてもいない作戦計画をなぜ私に?編成を見る限り、艦隊に私の名前はないけれど……。

 と言うか、ここに居るメンバーで編成欄に名前があるのは長門さんと武蔵さんだけ、どういう事かしら?

 

 「提督、この武蔵が旗艦じゃないとはどういう事だ?よりによって先輩の下とは……。」

 

 「これが実力の差だ武蔵、お前は私の下であくせくと働け。」

 

 勝ち誇ってる長門さんに噛みついてる武蔵さんは放っておくとして、日本の正規空母を全て投入ですか……。 

 必要なのは単純にスペック、この作戦を見る限り攻城戦と言い換えてもいい内容ね。

 正規空母で制空権を掌握し可能なら敵艦隊へ攻撃、装備を見る限り島自体への爆撃も想定してるわ。

 軽空母が組み込まれてないのは国土の防衛に当てるためね。

 少し悔しいけど、この内容では軽空母の出番はない。

 

 「正式な発令はまだ先だが、今見て貰っている内容の作戦を年末に実行する。」

 

 書いてある内容を見る限り、作戦は3段階ですね。

 まず第一段階、軽巡を旗艦とした艦隊での潜水艦の掃討と、空母艦隊による制空権の確保、及び敵前衛艦隊の掃討を同時に行い、第二段階で突入する水上打撃部隊の進路を確保。

 『城壁』までの道を切り開く。

 

 続いて第二段階、12人の艦娘で編成される連合艦隊である水上打撃部隊二つをミッドウェー・ジョンスン両島に同時展開し飛行場姫二隻の撃破。

 『城壁』を破壊し『本丸』への突入路を構築する。

 

 正規空母も一人づつ組み込むみたいですね、制空維持のために艦戦を優先装備ですか……。

 いささか制空を意識しすぎな気もしますね、第一段階で投入した空母達も補給後に制空戦に参加するはずなのに……。

 まるで敵艦載機を一機残さず殲滅しようとしてるようにも思えます。

 

 そして第三段階、全『ギミック』解除後に艦娘による艦砲射撃と爆撃で中枢棲姫を撃破する。

 

 ん?第三段階だけやけに大雑把ね。

 中枢棲姫は島のほぼ中心に座していると書かれていますが、艦砲射撃と爆撃だけで上手く倒せるのでしょうか。

 まるで第三段階だけ、ソレっぽい事をつけ足しただけ(・・・・・・・・・・・・・・)のような違和感を感じます。

 他にも私のような違和感を感じている人はいないのかしら。

 

 「ふむ、まさに戦艦が主役と言える作戦だな、申し分ない!」

 

 「ああ、先輩の言葉に便乗するのは癪だがまさにその通り!」

 

 脳みそまで筋肉で出来てそうなこの二人は論外として、少佐さんと辰見さんは……。

 態度は普通、いえ、普通過ぎるかしら。

 二人は知っている(・・・・・)みたいね、由良さんと叢雲ちゃんはどう反応していいかわからないといった感じなのに。

 

 そして一番疑問なのは大人しくソファーで寝転んでいる神風さん、これだけの作戦に自分の名前がない事に文句の一つも言わない。

 

 「書いてある内容で、何か質問はあるか?」

 

 質問したい事はある、だけど聞いていいのかしら。

 明らかに何かを隠している作戦の真意を。

 

 「ねえ先生、この作戦の目標は中枢棲姫の殺害(・・)でいいのよね?」

 

 「……ああ、その通りだ。」

 

 殺害?妙な言い方をするわね、神風さんは何かに気づいているのかしら。

 

 「そう、わかったわ……。」

 

 神風さんにしてはあっさり黙りましたね、長門さんも不思議そうな顔をしていますよ?

 あ、そうだわ、私がここに呼ばれたわけを聞いておかないと。

 

 「あの、提督。私は何のためにこの場に呼ばれたんでしょうか。編成にも組み込まれてないようですし……。」

  

 あら?私なにか変な事を聞いたかしら、提督と朝潮ちゃんと少佐さん、それに辰見さんまで不思議そうな顔で私を見て、その視線をそのまま私の左斜め後ろ、神風さんに向けた後再び私に戻した。

 

 「聞いてないのか?神風にはそれとなく話しておくように言っておいたんだが……。」

 

 「いえいえ、私は何も伺っていませんよ?神風さんに言われたのは『執務室までついて来て。』とだけ……。」

 

 全員の視線が神風さんに集中する、こちらを見ないようにして動揺してないフリをしていますね。

 焦っているのが丸わかりですよ?

 

 「あ、あれ~?言ってなかったっけ~ごめんね~。あははははは……。」

 

 全員無言で神風さんを見つめ続ける、頭の後ろをポリポリと搔きながら笑っていますが段々と顔が青ざめていってますね。

 

 「ご、ごめん……言うの忘れてた……。」

 

 「朝潮、神風の晩飯は抜きでいい。」

 

 「了解しました。」

 

 「んなっ!?」

 

 へぇ、提督と神風さんのご飯は朝潮ちゃんが用意してるのね、偉いわ朝潮ちゃん。

 まあ、それはともかく、ちゃんと正座して謝ったのは評価してあげますが、神風さんは一体何を言い忘れたんでしょうか。

 

 「まったく……、すまんな鳳翔。何も聞かされてない状態でこんな物を見せられても訳がわからんよな。」

 

 「え、ええ……。」

 

 提督は私に何をお望みなのかしら、正直言って私ではこの規模の作戦ではお役に立てません。

 艦載機運用の技術自体は正規空母達(あの子達)に負けない自信はありますが、スペックでは到底敵わない……。

 

 「今回の作戦は全体の総指揮は私が執るが、各艦隊の指揮は他の者に任せるつもりなんだ。」

 

 まあ、たしかにこの規模の艦隊を一人で指揮していてはどこかで綻びが出かねませんものね、提督の下に中間となる指揮官が必要なのはわかります。

 ですが、それと私がここに呼ばれたことに何の関係が?

 

 「具体的には、水雷戦隊及び『ワダツミ』の護衛艦隊の指揮を少佐に、水上打撃部隊の指揮を辰見に取らせる。そして空母達の指揮を……。」

 

 「ちょ、ちょっと待ってください提督!まさか私に指揮官をやれと仰るおつもりですか!?」

 

 何か知らない単語が出てきた気はするけどそれはとりあえず置いといて、私が空母艦隊の指揮を?私は艦娘ですよ!?

 たしかに昔は旗艦をやったりもしましたが……。

 

 「その通りだ、君にやってもらいたい。」

 

 そんな無茶な……旗艦以外での指揮経験がない私に、いきなりこんな大規模作戦で指揮を執れだなんて……。

 

 「空母達は君を慕っているし、君の弟子でもあるだろう?」

 

 「それは……そうですが……。」

 

 一航戦、二航戦、それに五航戦の子達は私の弟子と言ってもいいですが、雲龍型の子達を直接指導したことはありません。

 艦載機の運用方法がそもそも違いますし、あの子達は彼女(・・)に艦載機運用の手解きを受けたはずです……。

 

 「五航戦の二人は装甲空母に改装して水上打撃部隊に組み込むが、残りの空母達の指揮を君にお願いしたいんだ。頼めないか?」

 

 出来ない事はない、おそらく指揮する事は可能です。

 ですが……。

 

 「正規空母達(あの子達)に負い目でもあるのか?」

 

 無い、とは言い切れません。

 正規空母達(あの子達)に戦い方を教えたのは私なんですから。

 私が正規空母達(あの子達)を、兵器に変えてしまったのだから……。

 

 「私が指揮を執っても……正規空母達(あの子達)の力を引き出してあげれるとはとても……。」

 

 普段のあの子達は私と普通に接してくれている、だけど怖いんです、どうしても恨まれているんじゃないかと考えてしまうんです。

 戦場と言う地獄に叩きこんだ私を恨んでいるのではないかと……。

 

 「赤城たちにそれとなく質問してみた、『もし、鳳翔がお前たちの指揮を執る事になったらお前たちはどうする?』と。」

 

 「それで……あの子達はなんと……?」

 

 嫌だと言った?

 それとも出撃したくないと言った?

 私のような口だけの空母に従う義理はないと言いましたか?

 

 「『お母さんの指揮なら全力を出し切れる。』だとさ、私の指揮より君の指揮の方がいいとまで言っていたな。」

 

 「おかあ……さん?」

 

 あの子達にそんな風に呼ばれたことは今まで一度も……。

 いえ、あの子達が新米の頃にふざけてそう呼ばれた事があったくらいで……。

 

 「君は空母の母と呼ばれるべき存在だろう?艦艇の鳳翔がそうであったように、空母艦娘の礎を気づいたのは君だ。その君が空母の指揮をまともに執れないと言うのなら、この国に空母の指揮を執れる者など居やしない。」

 

 「で、ですが私は弱いです、最弱の空母と言ってもいいくらい弱いです!そんな私があの子達の上に立つなんておこがましくて……。」

 

 「と言ってるがお前はどう思う?最弱の駆逐艦 神風。」

 

 提督の視線を追って神風さんの方を見ると、神風さんがソファーの上で胡坐をかき、頬杖をついて私をジト目で見ていた。

 

 「甘ったれてるわね、『つるべ落としの鳳翔』は何処へ行ったの?」

 

 懐かしい異名を持ち出してきましたね、それは艦娘黎明期の私の異名じゃないですか。

 艦載機で空から敵を貪り食うかのように屠る私を、木から落ちて来て人を食らう妖怪『鶴瓶落とし』になぞらえて付けられた異名。

 

 出撃しなくなって、いつの間にか忘れ去られたかつての私……。

 

 「正直に言って鳳翔さん、正規空母とタイマンして勝てる?」

 

 「そ、そんなの……。」

 

 無理と言い切れない自分が不思議だわ、確かにスペックでは負けるけど、勝負自体に負ける気は全くしない……。

 

 「私よく言ってたわよね、『駆逐艦の実力はスペックじゃないのよ。』って、それは空母には当てはまらないの?」

 

 無論、当てはまります。

 弓の技量はそのまま艦載機の動きに反映されます。

 艦載機の動きが悪ければ持ってるスペックも十全に発揮できない。

 

 「空母達に慕われてて、指揮も問題なく出来る。さらに下手な正規空母より強いんだから負い目を感じる必要なんてないでしょう?」

 

 確かにそれだけが理由なら指揮官を断る必要はありません。

 だけど……。

 

 「それでも私はあの子達に……。」

 

 「死ね、とは言えないか?」

 

 その通りです提督、私は非情な命令をする自信がありません。

 あの子達の身を案じるばかりにここぞと言う所で失敗するかもしれない、そんな私に指揮官など無理です。

 

 「なら君が、そんな命令を出さなくてもいい状況を作ってやればいい。」

 

 「は……?提督、今なんと……?」

 

 状況を作る?私は指揮官をやるんですよね?

 出撃できるなまだしも、出撃もせずにどうやってそんな状況を作り出せと?

 

 「洋上で指揮を執ればいい、艦載機を使えばそれも可能だろう?」

 

 「それは……私も出撃していいと言う事ですか?指揮が問題なく執れるなら出撃してもよろしいと?」

 

 「当り前だろう、別に出撃できる艦娘に上限などないんだぞ?ゲームじゃあるまいに。」

 

 よく考えればそうだわ、私ならあの子達の指揮を執りながら、あの子達が討ち漏らした艦載機や敵艦を屠るくらい、出撃する事が出来るなら可能。

 

 「やってくれるな?鳳翔。」

 

 数年ぶりの出撃、しかも旗艦ではなく、指揮官として艦隊を指揮するおまけ付き、難易度は高いけど私なら……。

 でも万全を期すならもう一人、私並みの人が欲しいわ……。

 

 「引き受けるにあたって、一つお願いがありますが……よろしいですか?」

 

 「聞こう。」

 

 「現在、舞鶴に配属されている軽空母、龍驤を私の副官として配置してください。」

 

 龍ちゃんなら私と同じ事が出来る、それに龍ちゃんは雲龍型に手解きをした人だ、雲龍型の指揮は龍ちゃんに任せればいい。

 

 「わかった、手配しよう。」

 

 「ありがとうございます、提督。」

 

 あの子達に死ねと命じなくてもいい状況を作ってしまおう。

 そうよ、あの子達が全力で戦えるよう私がサポートすればいいんだから。

 

 嫌だわ私ったら、年甲斐もなく気分が高揚してる。

 さっきまで、あの子達に恨まれてるんじゃないかと心配していたのが嘘のよう……。

 あの子達と一緒に戦えると思っただけで、ここまで心が奮い立つなんて思ってもみなかったわ。

 

 「空母の母の本気を楽しみにしているよ。」

 

 「致し方ありませんね。母として、あの子達のお尻を叩いてご覧に入れましょう。」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。