艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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幕間 古参達の語らい

 執務室で作戦の大まかな説明があった日の夜、『久しぶりに四人で飲みましょう。』と言う鳳翔さんのお誘いで、私たち四人は居酒屋 鳳翔に集まっていた。

 

 「鳳翔!酒のおかわりを頼む!今夜は飲むぞ!」

 

 飛ばすわね長門、この間みたいにリバースしまくっても知らないわよ?

 

 「程々にしときなさいよ長門、明日も武蔵の訓練に付き合うんでしょ?」

 

 「堅いことを言うな天龍!ほら、お前も飲め!」

 

 「今は辰見よ、何回言ったら覚えるのかしらこの脳筋は……。」

 

 諦めなさい辰見、コイツに物を教えるより犬を躾る方がはるかに楽よ。

 

 「まあまあ、今日くらいは良いじゃないですか。神風さんも一本浸けましょうか?」

 

 「うん、あと摘まめそうな物を適当に。」

 

 「お刺身にしましょうか?あ!先にお漬物を出しましょうね。」

 

 「あら、神風もつまみ無しじゃ飲めないんだっけ?」

 

 「別に?そんな事ないわよ。」

 

 先生の飲み方しか知らなかったから、いつの間にか私もそうなっただけ。

 別に酒だけ飲もうと思えば飲めるわ。

 

 「それにしても驚いた、まさか鎮守府ごと(・・・・・)攻め込む気だったとは。」

 

 「一応まだ内緒なんだから言っちゃダメよ長門?それと『ワダツミ』は鎮守府その物じゃなくて、あくまで鎮守府の機能を搭載しただけなんだから。」

 

 それでも大した物だけどね、まさかあんな物を用意してるなんて私も知らなかったわ。

 てっきり、新型弾頭を使うための艦艇を造ってると思ってたもの。

 

 艦娘運用母艦『ワダツミ』。

 工廠、入渠施設等の艦娘関連施設の縮小版を艦内に搭載した動く鎮守府、艦母とでも呼べばいいのかしら。

 

 これまで一番ネックだった鎮守府と敵地を往復する時の消耗を考えず、任意の場所で補給や入渠、装備開発まで可能な海軍の新型艦。

 

 今回みたいな攻城戦じみた作戦にはもってこいな新兵器ね、ワダツミの護衛に艦娘を割かなければならないのが難だけど。

 

 「でもカタパルトまでつけるのはやり過ぎじゃない?艦娘を射出するんでしょ?アレで。」

 

 一番驚いたのはカタパルトまで搭載していた事だ。

 射出すれば戦艦などの初速は補えるけど、ハッキリ言って無駄だったんじゃ……。

 

 「艦隊最後尾の艦が着水した時点で、最高速度での艦隊運動が出来るようにするためらしいわ。誰が考えたのかは知らないけど、きっと『行きまーす!』的な事を艦娘にさせたかったんでしょうね。」

 

 『逝きまーす!』、にならなきゃいいけどね。

 射出速度はジェットコースター並って言ってたけど、いつ発艦訓練する気なんだろ。

 まさかハワイまでの道すがらじゃないわよね?

 

 「私的にはそれも捨てがたいが、どちらかと言うと腕組みして艦橋手前からリフトアップされる方が好みだな。」

 

 アンタは10分程度しか戦闘できない未完の最終兵器か!

 残念ながら、それは母艦が撃沈寸前まで追い込まれないと出来ません!

 そもそも、艦橋前にリフトなんてついてる訳ないでしょ!

 諦めて『逝きまーす!』してなさい!

 

 「そっちの方がいいの?一応あるわよ、艦橋手前にリフト。」

 

 有るんかい!

 ワダツミを設計した奴は何を考えてそんな所にリフトなんてつけたの!?

 でんどんしたかったの?戦場にでんどんでんどんって鳴り響かせたかったの!?

 

 「でもヘリコプター用のリフトだから大きいわよ?」

 

 なるほどね。

 ヘリの発艦用リフトなら納得してあげる。

 なんで艦橋の前につけたのかはサッパリわからないけど。

 

 「ただね、仕様書にはスピーカーとスポットライトがついてるようになってるのよ。しかも無駄に性能がいいやつ。」

 

 やっぱりでんどんしたいんじゃない!

 確信した、ワダツミを設計したのはロボットアニメが大好きな中年オヤジよ!

 きっと、『ここにリフトつけたら〇〇バスターごっこ出来そうじゃね?』とかそんなノリでつけたに違いないわ!

 

 「艦橋から発進か、胸が熱いな!」

 

 うっさいゴリラ!そのまま亜高速で飛んでいけ!

 そして一万年後くらいまで帰ってくるな!

 

 「はい、神風さんお待たせ。」

 

 「ありがと……。」

 

 飲んで落ち着こう、バカに付き合ってたら精神が保たないわ。

 

 「辰見さん、普通に発艦は出来ないんですか?射出されるのはちょっと……。」

 

 「出来ますよ?本来は帰投用ですが、艦後部に普通の出撃ドックもあります。あ、仕様書見ます?」

 

 だったらカタパルトなんて要らないじゃない!

 なんでそんな無駄な物つけたのよ!

 

 「いいんですか?じゃあ遠慮なく……。」

 

 いや、それって機密扱いとかされてないわけ?一応、海軍の最新鋭艦でしょ?なんで仕様書とか持ち歩いてるのよ……。

 

 「確かに……艦隊を即時展開するのに便利そうですね。仕様書を見る限りだと、カタパルトとは言ってもウォータースライダーに近いかしら……。速度が遅い順に射出するんですか?」

 

 ウォータースライダーを立ったまま滑り降りるの?

 なにそれ怖い。

 でも空中に放り出されるよりはマシか……。

 

 「そうなりますね、艦隊が一列に並べる横幅の六射線カタパルトが両舷に一つづつ、二艦隊同時に射出可能です。仕様上は、数分程度で最高速度(・・・・)の状態での展開が可能になってます。」

 

 それなら普通に出撃するよりは良さそうね、出足の遅い上位艦種が最初から最高速度の状態なら戦域への到達時間も短縮出来る。

 

 「や、やっぱり、『鳳翔、行きまーす!』とか言わなきゃいけないのかしら……。」

 

 「そ、それは個人の自由で……。」

 

 「あ、あら、そうなの?やだ……私てっきり……。」

 

 照れるくらいなら聞かなきゃいいじゃない!

 もしかして言いたかったの『鳳翔、行きまーす!』って言いたかったの!?

 やめてよ……お願いだから鳳翔さんまでボケに回らないで……。

 

 「なあ、一つどうしてもわからない事があるんだが。」

 

 なによゴリラ、ビームの出し方がわからないとか言ったら張っ倒すわよ。

 

 「なぜあの場に神風が居たんだ?秘書艦の三人はまあ、わかる。だが神風があの場に居た理由がわからない。編成にも組み込まれず、指揮官をするわけでもないのになぜあの場に居た?」

 

 あ~、そこ突っ込んでくる?

 その話題には触れないようにしてたんだけどなぁ……。

 

 「どうしても聞きたい?」

 

 とは言っても、私は先生から何も聞かされてないのよ?

 何をしようとしてるのかは想像ついてるけど、出来れば長門の戦意を削ぐ(・・・・・)ような事はしたくないしなぁ。

 

 「私も気になります。神風さんは提督が隠してらっしゃる事に気づいているのでしょう?」

 

 うわぁ……鳳翔さんはあの計画書を見て違和感を感じちゃったのか……。

 どうしよう、辰見は我関せずって感じだし……貴女知ってるんでしょ?

 辰見から説明してよ、私は何か聞いてるわけじゃないんだから。

 

 「私が思うにだ、今日説明された作戦そのものが囮なのではないか?」

 

 「「「……。」」」

 

 「な、なんだ三人してマヌケな顔をして!そんなに変な事を言ったか!?」

 

 いや、だいたい合ってる(・・・・・・・・)

 驚いてるのは貴女がソレに気づいたからよ。

 貴女も脳みそに皺があったのね、少しだけ見直したわ。

 

 「やはり囮ですか……。じゃあ神風さんが言った『殺害』も言い間違えではなく、『外』に気を逸らした中枢棲姫を直接『殺害』すると言う事なんですね?」

 

 本当は『暗殺』か?って聞きたかったんだけどね、それだと鳳翔さんにバレかねないから遠回しに『殺害』って言ったんだけど……。

 こんなに早くバレるなら気を使わなくてもよかったか。

 

 「ここまで気づかれてるなら言ってもいいんじゃない?神風は長門の戦意を削ぎたくなくて言わない様にしてたんでしょ?」

 

 辰見のこの言いようだと、私が想像してる通りの事を先生はしようとしてるのね、と言う事は……。

 私は陸戦要員(・・・・)で確定か。

 

 「囮と言うのは正確じゃないわ、あの計画書に書かれていた事は、言うなれば予備計画よ。」

 

 「なんの……予備なんですか?」

 

 聞かなくても鳳翔さんなら気づいてるんでしょう?

 それはもちろん、本命の計画が失敗した時の予備よ。

 そう……。

 

 「私が失敗した時のよ。貴女達が敵の目を引き付けてる間に、私が『奇兵隊』を率いて島内に潜入、中枢棲姫の首を取る計画のね。」

 

 「じゃあ、過剰なほど制空に拘った装備や編成もそのため……。制空権確保が目的ではなく、敵の目を一つ残らず奪い取るのが目的なんですね。」

 

 ん~それもあるとは思うけど、それに関してはそれだけとは思えないのよねぇ。

 先生なら隠し玉の一つや二つは用意してそうだし。

 でもさすがに予想がつかないからコレはいいか。

 

 「だが、それに意味はあるのか?計画通り真っ当に攻略しても中枢棲姫の首は取れそうだが?」

 

 「そうですよ。そんな危険を冒さなくても、島内のギミックを破壊するだけでいいはずです。」

 

 確かにね、計画書を見た限りじゃ4カ所のギミックを破壊すれば『結界』は消えることになっている。

 だけど先生はそれじゃ上手くいかない可能性を考えているのよ。

 

 「辰見、島内のギミックは力を『結界』に回してるせいで『装甲』は薄いのよね?」

 

 「ええ、そうらしいわ。」

 

 「中枢棲姫はどうなの?」

 

 「未確認よ、そこまでは調べられなかったみたいね。」

 

 やっぱりね、それが先生にとって不安要素であり、戦闘を早期終結させる希望でもあるんだ。

 

 「中枢棲姫?中枢棲姫はギミックとは関係ないんじゃ……。」

 

 そうとは限らないから、先生は私に中枢棲姫を直接叩かせる計画を考えたのよ長門。

 『結界』が中枢棲姫の上空から傘のように展開されているなら、中枢棲姫が力場を収束させてる可能性が高いわ。

 

 「中枢棲姫がギミックと関係……。提督は中枢棲姫自身が傘で言う『中棒(シャフト)』に相当するとお考えなのですか?」

 

 「たぶんそうだと思う。そうだとしたら、中枢棲姫自身も結界の維持に力を割いてる可能性があるし、ギミックを解除しただけじゃ『結界』は消えないかもしれない。それに、『結界』を破壊して中枢棲姫自身の『装甲』を展開されるより、『結界』を維持させたままの方が楽に倒せると考えてるんじゃないかしら。」

 

 「それは皮算用だろう!もしそうじゃなかったら……。そうか……だから予備なのか……。」

 

 「そういう事、私が上手くいけば頭を失った敵艦隊は最低でも混乱、総崩れも狙えるかもしれない。私が失敗しても、長門が言ったように真っ当に攻略すればいい。」

 

 先生はきっと、私達『奇兵隊』と艦娘の命を天秤にかけた。

 国土の防衛に直接関係しない『奇兵隊』の損害より、数がそのまま国防に直結する艦娘の損害を減らすことを選んだのよ。

 

 「それと、私が中枢棲姫を直接狙うのにはもう一つメリットがあるわ。」

 

 「神風さんが失敗した場合、島内に侵入を許した事自体が陽動となるわけですね……。」

 

 さすが鳳翔さん、話が早いわ。

 私達みたいなネズミが侵入していたとわかれば、中枢棲姫は外から内側へ意識を向けざるをえないし、外に居る艦隊も島に戦力を割くかもしれないから外側のギミック攻略が楽になるかもしれない。

 成功しても失敗しても一石二鳥なのよ。

 

 「だが……、だがお前は艦娘だろう!陸では力を発揮できないではないか!」

 

 「舐めないでよ長門、私は艦娘をどう使えばいいかもわからなかった頃から艦娘をやってるのよ?陸での戦い方は嫌と言うほど知ってるわ。」

 

 実際、できる事なんて知れてるけどね。

 『弾』に力場を集中して、やっと陸にあがった重巡の装甲をゼロ距離で貫ける程度の力場を展開するのが精いっぱいだし、『装甲』も張れるけど私は所詮駆逐艦、軽自動車以下の装甲しか張れないわ。

 もちろんトビウオなんかの技も使えない、使えるのは『刀』だけ、回避はすべて体術で行うしかない。

 

 「それでも私なら出来る、私には先生仕込みの体術があるんだから。」

 

 「だが、だが……。」

 

 「長門さん、心配なのはわかりますが提督と神風さんが決めた事です。」

 

 いや、私は何も決めてないわよ?

 鳳翔さん何言ってるの?

 

 「あ~言ってなかったわね、今までのはあくまで私の想像よ?先生からはまだ何も聞いてないわ。」

 

 「はぁ!?」

 

 いや、なんで辰見が驚くのよ。

 だって聞いてないもの、私は先生が考えそうなことを想像して話しただけよ?

 

 「信じらんない!提督はこんな大事な事をまだ話してなかったの!?て言うかさっきまでのってただの想像!?ほぼ合ってたんだけど!?」

 

 イエーイ!私大正解!

 先生と何年の付き合いだと思ってるのよ、これくらいの思考のトレースは余裕よ?

 

 「まあまあ辰見さん落ち着いて、提督も切り出しにくいんですよ……きっと……。」

 

 私が考えに気づいてる事には気づいてると思うけどね、じゃないと私の質問にあんな答え方はしない。

 

 「はぁ……、つまり私たちは、お前が中枢棲姫の首を取るまで戦闘を長引かせる必要があるわけか、しかも艦隊メンバーに知らせずに……。」

 

 「そういう事、変に意識させちゃうとバレるかもしれないからね。それに、自分たちが囮だと思って戦うのと、そうじゃないのとじゃモチベーションに差が出るでしょ?」

 

 「武蔵には絶対言えないな……アイツは撃つしか能がないし……。どうしたものか……。」

 

 撃つしか能がなかった貴女がそれを言うか、後輩が出来て少しは成長したみたいじゃない。

 

 「全力を出しつつ手加減ですか……、心中お察ししますよ長門さん。」

 

 鳳翔さんは制空維持と前衛艦隊の掃討だもんね、長門よりは気が楽でしょう。

 

 「頑張ってね長門、応援してるから。」

 

 『ニシシシ♪』って笑ってるけど、辰見は水上打撃部隊の指揮官でしょ?

 まさか長門に丸投げする気じゃないでしょうね。

 

 「もう一つの水上打撃部隊の旗艦は金剛さんでしたね、金剛さんも囮の件はご存じなのですか?」

 

 「知らせる予定よ、長門と鳳翔さんにも折を見て言うつもりだったの、話の流れで今言っちゃったけどね。」

 

 言ったのは私だ!

 貴女何もしてないじゃない、私が話してる最中もチビチビとカシスオレンジ飲んじゃってさ。

 相変わらず甘いお酒しか飲めないのね!

 

 「朝潮たち第八駆逐隊も編成に組み込まれていないが……。まさか提督は、朝潮たちにも陸戦をやらせる気なのか?」

 

 それはない、あの子達に陸戦の経験は無いはずよ。

 だけど、先生がこんな大事な作戦であの子達を使わないとは考えられない。

 何か他にもあるのね、虎の子の第八駆逐隊を編成に組み込めない理由が……。

 

 「それに関しては、この間提督と満潮ちゃんが話をしてましたね。今思うと、アレはこの作戦に関する事だったんですね。」

 

 「なんて言ってたんです?八駆に関しては私も知らないんですよ。」

 

 辰見も知らないの?

 先生はなんで話さないんだろう……先生の事だから、話したつもりで忘れてる可能性もあるけど。

 

 「え~と確か……提督が満潮ちゃんに『お前がネ級だったらどう動く?』って聞いて、満潮ちゃんが『艦隊の背後を突く』とか言っていたような……。すみません、うろ覚えで……。」

 

 ネ級?タウイタウイで満潮が気にしてたネ級かしら、だとしたら戦艦棲姫がおまけでついて来るって言う事?

 前面に集中しているワダツミや艦隊の背後から?

 

 「なるほど、八駆に窮奇を迎撃させるつもりなのね……。」

  

 キュウキって誰?戦艦棲姫?

 あの戦艦棲姫って名前付いてるの?

 

 まあそれはともかく、連れて行ける戦力で最低でも姫級二隻を相手にしなきゃいけないし、ワダツミ自体も護衛しなきゃいけないから、背後に迫る敵の射程にワダツミが入る前に、迎撃に向かわせる戦力の余裕はないわね。

 

 それこそ駆逐隊一つが精いっぱい、だから姫級と渡り合える第八駆逐隊を主力艦隊に組み込まず、背後をついて来るかもしれない戦艦棲姫迎撃に回すんだ。

 

 「ある意味、第八駆逐隊がこの作戦の要ですね……。」

 

 「そうね、先生は戦艦棲姫が背後から来るのをほぼ確信してると思う。八駆が敵の突破を許せば、護衛部隊くらいしか残っていないワダツミは背後から強襲され、私達は司令塔を失い前後から挟撃される。」

 

 事前に戦艦棲姫を捕捉出来れば、作戦開始前に叩くことは出来るでしょうけど……。

 それが出来る可能性は低いと考えてるんでしょうね先生は。

 

 「もうちょっと艦娘を手配することは出来なかったのか辰見、せめてもう一艦隊居ればどうにかなったものを……。」

 

 「無理よ、三年前の横須賀事件が大本営で今だに尾を引いてるわ。これでもできる限りの数を手配したんだから。大本営付きの艦娘くらい貸してくれればいいのに。」

 

 大本営を安心させつつ、攻略に投入できる最大数が全艦娘の三分の一か。

 でもそれにしては一艦隊分くらい数が足りないような……。

 艦娘の総数って240人くらいじゃなかったっけ?

 

 「よし!やっぱ作戦前にクーデターを起こすしかないわ。大本営のバカ共を皆殺しにして、艦娘全員率いてハワイに攻め込みましょう!」

 

 どうしてそうなる。

 やめなさい辰見、国防のために艦娘を残すのは必要な事よ。

 クーデターは、せめて作戦が終わってからにしなさい。

 

 「乗った!皆殺しはやり過ぎだが、灸をすえる位はいいだろう!」

 

 乗るなバカ、大本営に向けて砲撃でもする気か!

 

 「致し方ありませんね。空母たちも集めておきましょう。」

 

 致し方ある!

 どうしちゃったのよ鳳翔さん!酔ってるの?

 あ、よく見たら足元に一升瓶が2本も転がってる、さっきまでの間にそんなに飲んだの!?

 顔色変わってないから気づかなかったわ……。

 

 「よし!そうと決まれば作戦を練らなきゃね。どうする?」

 

 いや、ノープランかい!

 それでよくクーデター起こそうとか言えたわね!

 

 「「海上から砲撃(爆撃)。」」

 

 アンタらもか!

 バカでも思いつくわそんな事!

 これは早めに逃げた方が良いわね、逃げなきゃ間抜けな事に巻き込まれるのは確実!

 

 「あ!神風が逃げようとしてる!」

 

 まずい、気づかれた。

 でもお生憎様、酔っ払いの千鳥足でつかまえられるほど私はトロくないわ!

 

 「なんだと!?敵前逃亡は銃殺だぞ神風!」

 

 なるほど、アンタらは敵なのね、よくわかったわ。

 今度とっちめてやるから覚悟してなさい!

 

 でも今は逃げる!

 酔っ払いとは言え、この三人相手じゃ分が悪すぎるわ!

 

 「お任せください。私だってやる時はやるのです!」

 

 ()る気か!

 その弓矢どっから出したのよ!

 酔っ払った鳳翔さんがここまで(たち)が悪いとは知らなかったわ!

 

 それから、私の逃避行は一時間にも及んだ。

 飲んでる最中に走り出したから気持ち悪い……。

 敵に回すとホントに厄介ねあの三人、長門は純粋に身体能力が高いし、辰見と鳳翔さんは技量が並みじゃないし。

 

 「はぁ、はぁ……。撒いたか……かな?」

 

 いい歳した大人が幼気な少女を追い回すんじゃない!

 飲んでる最中に走り出したから変に酔いが回っちゃったじゃない……。

 はぁ……気持ち悪い……部屋に戻って寝よう、先生まだ起きてるかな……。

 

 「ただい……ま?」

 

 電気が点いてない、寝ちゃってるのかな。

 

 「遅かったのぉ、外が騒がしかったようじゃが……。」

 

 うわっ!ビックリしたぁ……。

 電気も点けずに何してるのよ、月見酒?相変わらず寂しい飲み方してるわねぇ。

 

 「他の三人が悪酔いしちゃってね、さっきまで追い回されてたのよ。それより電気点けていい?」

 

 「ん?ああ、ええぞ……。」

 

 えらくテンションが低いわね、私も変な酔い方しちゃったせいでテンション低いけど……。

 

 「あ゛あ゛~水が美味しい……。」

 

 火照った体に染み渡るわぁ~。

 

 「オッサン臭いぞ、年頃の娘が……。」

 

 はいはい、すみませんね。

 相変わらず、作戦について話しそうな気配はないか……そんなに切り出しにくいならあんな作戦立てなきゃいいのに。

 ちょっと意地悪してやれ。

 

 「着替えるからあっち向いてて、それとも……見たい?」

 

 「アホか!さっさと着替えろバカ娘が!」

 

 アホかバカかどっちかにしてくれない?

 別にどっちでもいいけど。

 

 「終わったか?」

 

 待ちなさいよ、女の子は身支度に時間がかかるの!

 寝巻だけど……。

 

 「もういいわよ~。って、まだ飲むの?明日も仕事でしょ?」

 

 「なんか酔えんでなぁ……。」

 

 「心配事でもあるの?」

 

 「心配事はいつもだ、今日に限った事じゃないわい。」

 

 あ、そっぽ向いて誤魔化そうとしてる、どうせ私に話を切り出すかどうかで悩んでるんでしょう?

 

 「作戦の事?」

 

 「ああ……。」

 

 メンタル弱いなぁ、朝潮には全部話したんでしょ?

 編成欄に自分の名前がないのに動揺すらしなかったもんねあの子。

 

 「お父さん、髪結って。」

 

 「はぁ!?なんで俺がそんな事せにゃならんのじゃ!」

 

 「昔はやってくれてたでしょ?下手くそだったけど。」

 

 「そりゃそうじゃが……。」

 

 はい決まり、じゃあ膝の上にお邪魔しまーす。

 

 「ったく、三つ編みでええんか?」

 

 「寝てる時にバラけなきゃなんでもいいわ、満潮みたいにフレンチクルーラーにする?」

 

 「ありゃあ俺じゃ出来ん、どうなっちょるんかもサッパリじゃい。」

 

 毎日毎日、よくあんな面倒な髪の結い方するわよねぇ。

 何か思い入れでもあるのかしら。

 フレンチクルーラーが好きすぎて頭にもつけたくなったのかな。

 

 「お前、少し汗臭いぞ、風呂入ったんか?」

 

 「入ったけど、走ったせいでまた汗かいちゃったの。明日の朝入るからいい。」

 

 「そんな将来が心配になるような事言うなや……嫁の貰い手がないなるぞ。」

 

 「生きて帰れたら、その心配をする事にするわ……。」

 

 お父さんの手が止まった、これで切り出しやすくなったでしょ?

 だから言って。

 命令して、覚悟は出来てるから。

 

 「どこまで……想像がついている?」

 

 「大筋はほぼ全て……かな。何年お父さんの娘をやってると思ってるの?」

 

 「そうか。」

 

 有るかどうかも知れない隠し玉まではさすがにわからないけど、私にやらせたい事はわかってるわ。

 

 「私はお父さんの娘である前に懐刀、奥の手よ?今さら何を遠慮してるのよ。」

 

 遠慮してると言うよりは怖がってるって感じかな、私を失うのを恐れるなんて、可愛いとこあるのね。

 

 「大丈夫よお父さん、私は死なないわ。自慢の娘を信じなさい。」

 

 「そうだな、お前を信じるよ。俺の自慢の娘だからな。」

 

 うん、それでいいのよ、お父さんは私を信じて送り出してくれるだけでいい。

 

 「駆逐艦 神風に命ずる、大将首をあげて来い。」

 

 「了解、全力で事にあたるわ。」

 

 お父さんの戦場に、私が神風を吹かせてあげる。

 




 ゲームでは海外艦合わせても190くらいですが、未実装艦も物語内では建造されているという設定のため240としています。
 と言うか作者の都合で……。

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