気付いたら赤木しげるの娘だったんですが、   作:空兎81

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嵐の前兆

 

※天視点

 

東西戦もいよいよ大詰めとなってきた。

 

銀さんを取られ西に流れを掴まれたが赤木さんが作り上げた手牌を四暗刻にまで育て上がり切ることができた。

 

これによって西の阿久津と三井を討ち取った。最後は数が多い方が有利なのが麻雀だ、原田か僧我どちらか取ればそれで東西戦は勝利といえる。

 

西もなり振り構わずやってくる。僧我にハネ満ツモられて残り3000の蓮を狙い打っている。

 

それがわかっているから蓮もあの怒涛の攻めが嘘のように今は静かに打っている。リーチをかけることもない。

 

リーチをかけず手変えのできる時の蓮はそれが単騎だろうが地獄待ちだろうがけして振りはしなかった。防御に回った時の蓮の打ち回しも見事なものだった。

 

だが3000という点棒は原田か僧我にハネ満をツモられれば飛んでしまう点数だ。西の戦略は七対子で蓮を狙い撃ち、それが実らなければハネ満をツモり飛ばそうというものだった。

 

その戦略が生き、原田にツモられてしまう。しかし裏は乗らなかった。取り敢えず蓮は助かった。

 

しかしこのまま西にこの戦法を許し続けたら残り3000となった蓮はいずれ飛ぶだろう。西が仕掛けてきた戦法に対して動いたのは赤木さんだった。

 

俺も卓に入っていたから手を直接見れたわけじゃねえが赤木さんは何かをやらかしたらしい、見事な迷彩を作り原田から直撃を取った。これで原田の点数は残り5000、満貫直撃で終わる。

 

だが身動きが取れなくなった原田の代わりに僧我が動いた。赤木さんとの攻防の果てなんと直撃を取られたのだ。これで赤木さんの点数も5000まで落ちる。

 

持ち点が16000の俺と13000の僧我以外の誰が満貫振っても終わる状況だ。そこで今度動いたのは蓮だった。

 

僧我からニ萬をチーし、赤木さんから北(ドラ)を鳴く。混一色、ドラ3満貫の縛りは優に超え上がりそうな雰囲気を醸し出している。

 

しかし俺は後ろに周り蓮の手牌を見て驚く。蓮の手の中は萬子で纏まっておらず役が全くない状態だった。

 

ここからどうするのかと見ていると僧我の切った七索を見て蓮は薄く笑った。まさか鳴くつもりか?

 

 

「確認したいんだけど、ここでその七索をカンしたら鳴かせた人の責任払いになるんだよね」

 

 

「あまりアホいうな。ここでその七索を鳴いたらおどれの混一は消えこの先どう頑張っても役はつかないのやで…!ドラ3のせっかくチャンス手なのに…、そんなことできるわけあらへんやろ!」

 

 

「役はあるよ。ここでツモれば」

 

 

カン、といって蓮が手牌を伸ばす。僧我が唖然とした顔でその様子を見ていた。

 

確かにここでツモれば大明槓の責任払いだ。蓮にはツモることのできる予感でもあったのだろうか?

 

蓮がカン牌を引き寄せる。皆が固唾を呑んで見守る中、蓮は牌を見るとそのままツモ切った。上がり牌ではなかった。

 

僧我がホッと息をついたのが目の端に映る。ここでツモることができないということはもう蓮にあがり目はないということだ。ドラ3を持ちながらたった4cmの手配で上がることなく手を回さなければならない。

 

そんな圧倒的不利な状況にありながら蓮は表情を変えることなく淡々と手を回している。

 

それがどこか不気味に思えたのだろう。相変わらず場には緊張した空気が流れていて僧我も原田も表情が硬い。

 

僧我が手牌を暫く睨みつけ六筒を捨てる。だが、その一巡後また六筒を捨てた。

 

明らかに間違えたと表情が語っていた。七対子を狙っていたのか、はたまたそれ以外の手だったのかそれで僧我は勢いを失った。そして最後赤木さんに満貫を振り込み残りの点棒が5000点となる。

 

討ち取ったのは赤木さんだがこれは蓮の功績だ。大明槓という奇策で僧我は蓮から多大なプレッシャーを受けていた。僧我は蓮の圧力に屈したのだ。

 

だがそこで終わる僧我ではなかった。果敢に攻め、そしてリーチをかけていた俺は僧我に振ってしまう。

 

これで俺の残り点棒は8000、誰が振っても勝負が決する。

 

そこからしばらくは緊張状態が続いた。互いに手を回し場を回し、膠着状態に陥る。あまりにも動かない場に一旦休憩を挟み午後9時まで自由時間となった。

 

皆部屋から出てそれぞれ休息を取ろうとする。その中に無表情で部屋から出て行く蓮の姿が見えた。その時、ふと蓮と話したことがほとんどないことに気が付いた。

 

あの赤木さんの娘で豪運と揺れない鋼のような心を持つ蓮、聞けばまだ13歳という若さの彼女が何を思いこの戦いに参加しているのか話してみたくなった。

 

 

「よ、蓮。あの僧我と原田相手に一歩も引かぬ打ち回しは凄かったぜ。お前が東側にいてくれてよかったよ」

 

 

「…どうも」

 

 

声をかけると蓮は静かにそう返す。相変わらずの無口無表情ぶりに少し苦笑してしまう。蓮はあの天真爛漫な赤木さんの娘とは思えないほど落ち着いた雰囲気を纏っている。母親似なのだろうか?それとも赤木さんも若い時はこうだったのか?

 

 

「今から休むのか?」

 

 

「そのつもりですが…」

 

 

「もしよかったらちょっと付き合ってくれねえか?お前と話したくてよ」

 

 

「別に、かまいませんよ」

 

 

淡々とそう返す蓮を連れその辺りの部屋に入り黒服にお茶を持ってきてもらう。ちょうどいい温度で運ばれてきたお茶に口をつけて話を切り出す。

 

 

「本当に蓮は肝が座っているよな。現裏社会トップの実力を持つ原田と闇の世界に15年以上君臨してたっていう僧我に互角以上に渡り合ってたぜ。麻雀はあんまりしたことないって聞いたが、他になにかギャンブルをしたことあるのか?」

 

 

「いや、特にないです」

 

 

「そっか、じゃあ蓮は天性の博徒なんだな。さすがはあの赤木さんの娘だぜ」

 

 

赤木さんの娘という単語にピクリと蓮が肩を震わせる。それがどういう感情からは相変わらずの無表情のため読み取れない。赤木さんの名を背負わないために同じ姓を名乗らないと聞いたが、最初の赤木さんとの絡みからは悪い印象を持っているようには見えない。それどころか赤木さんに褒められた蓮はどこか嬉しそうだった。おそらく蓮も赤木さんのことが好きなのだろう。

 

その後、俺の嫁さんたちのことや蓮の普段の生活、それから家にいる時の赤木さんの様子なんか他愛もない話をする。蓮は無口な方だが自分の考えを持っていないわけでもないようだ。相変わらず話し口調は淡々としているが会話が途切れることはない。美人なんだからもっと笑えばさらに可愛いのにといえば『…天さんは女たらしですね』と返される。そうか?男なら美人がいたら口説くのは当たり前のことだと思うぞ?蓮ももうちょっと年が近かったら本気で口説いていたかも知れねえな。まあ赤木さんが怖いからやらねえけど。

 

結局1時間近く話し込んでしまった。徹夜で麻雀していた蓮も眠いだろうしそろそろお開きにする。

 

 

「話に付き合ってくれてありがとうな蓮。赤木さんの私生活とかお前のこと知れてよかったよ」

 

 

「いえ、」

 

 

「東西戦の方も頑張ろうな。お前がいると心強いぜ」

 

 

そういった瞬間だった。今まで穏やかだった空気が張り詰め蓮の雰囲気が変わる。

 

急に雰囲気が変わり驚く俺に、どこか、勝負を彷彿させるようなオーラを纏いながら蓮の口元が弧を描いた。

 

 

「味方とは限らないですよ」

 

 

「え、」

 

 

「自分のために打っているので。最後の勝負はもらいます」

 

 

そういうと立ち上がり蓮は部屋から出ていった。残された俺はただ呆然と蓮を見送る。

 

味方ではない?蓮が西側の人間だということか?いや、今までの打ち回しを見てもとてもそうだとは思えねえぞ。自分のために打つと蓮はいったな。これが鍵、蓮は何かするつもりなのだ。

 

決勝のメンツを決めるための最後の一戦はどうやら大いに荒れるらしい。それも面白そうだと思いながら俺はポケットから取り出したタバコに火をつけた。

 

 

 


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