気付いたら赤木しげるの娘だったんですが、   作:空兎81

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蓮は高校2年生(17歳)くらいです



馴れ初め

最近思ったことがある。

 

いや、最近どころか割とずっと思っていたことなんだけど、改めて気になったので思い返してみると、

 

私、全然普通の女子高生活を送れてないですよね?

 

なんか、高校入っても赤木さんのご飯作るか、赤木さんのギャンブルに引っ張られていくか、赤木と勝負するか、くらいしかしてないです。うん、全然普通の女子高生っぽくなくてつらい。

 

勿論、赤木さんのことは好きだ。この人には死んで欲しくないしそのために必要とあれば勝負もするけど、これとそれは別。

 

私は普通の女子高生として生きていたいのである。

 

なんかもう本当に全く青春っぽいことができてなくて、いとかなし。友達いないし部活も入れてないし、というか赤木さんに引っ張られて学校すらいけないこともしばしばあるぞ?なにこれ悲惨。私の平穏な人生はどこに行ったの?

 

1度、代打ちを頼みにきたヤのつく方々が『どうか我々に力を貸して下さい、蓮殿!』と言って学校に来てから先生からも遠巻きにされます。絶対に不良だと思われているよねコレ。

 

ちなみにそのヤーさんの組は赤木さんに連れられ反対側の代打ちとして戦うことになったのでボッコボコにしてやりました。ということでそれ以来学校にその筋の方々が迎えにくることはなくなったけど、……まあもうすでに手遅れですね。私の女子高生活は消滅しましたよ。…ぐすん。

 

修学旅行もなんだかんだあって行けなかったんだよね。え、なんで行けなかったかって?赤木さんと勝負して負けたからですが、なにか?

 

まあ結果は一勝一敗一分だったからこっちの要求も通して赤木さんのタバコの量を減らすことにも成功したのだけども、それでもその代償が私の修学旅行って高くないですか?修学旅行って高校生活で一度しかないんですよ?私の青い春を返して下さい。

 

むしゃくしゃしたから石川県行ってやった手本引きでは赤木さんとどっちが多く稼げるか勝負して、その賭場を傾けてしまうほど勝ってしまった。ちなみに私と赤木さんの勝負は引き分けである。

 

うん、まあ結局同じところに賭けちゃうもんね。差はほとんど開かなかったなー。

 

その後のんびり赤木さんと釣りしていたら『金返せー!』と賭場のヤーさんたちが追いかけてきたから赤木さんがボストンバッグを海に放り投げた。釣り糸引っ掛けているから勝手に取れと。

 

これでいいだろう、と立ち去ろうとしたら『待て。今度は騙されないぞ!そのクーラーボックスの中も見せろぉー!』と言ってきたのでめんどくさいからクーラーボックスも海に投げてやった。後ろでヤクザのお兄さん方が絶叫した。

 

そしてどうしたら海に落ちた荷物を回収できるのか相談しているヤーさん方を尻目にそのまますたこらさっさとその場を後にする。別に釣り糸とかつけてないから回収するの大変だっただろうな。そんでもって別に中に現金が入っているわけでもないし骨折り損だったろう。

 

え、中に現金は入ってなかったよ?ボストンバッグの中には私と赤木さんのちょこちょことした荷物しか入れてないしクーラーボックスに入っていたのは釣った魚だけである。魚も鍵かけてなかったし海にクーラーボックスが投げ入れられた瞬間うまく逃げたんじゃないかな?つまり中身は空だ。

 

じゃあ現金は何処にあるのかというと、

…普通に宅急便で送っちゃいましたけど、なにか?だって大金持ち歩くなんてなんか嫌だし。

 

ちなみに送り先は原田さんの家である。別に私も赤木さんもあんな大金使わないし正直家にあっても邪魔なだけなので全くもっていらん。

 

原田さんならきっと喜んでくれるだろう。お礼にたこ焼きとか奢ってくれないかな。大阪で食い倒れとかしてみたい。

 

まあだからといって原田さんに会いたいわけではないんだけど。だってあの人もヤーさんだし。ごくごく一般的な女子高生である私が気軽に関われる人ではないですよ。

 

手本引きが終わって石川県から帰ってくる。しかし赤木さんは『じゃあ俺は適当にぶらついてから帰るわ。帰ってきたら飯は餃子がいいぜ』と言い残して途中で消えた。

 

勝負して満足したから娘は放置プレイなんですかね。もう普通に日が暮れて夜のお姉さん達が仕事を始めるような時間なのですが、私ひとりで家に帰るの?

 

10代の娘が夜の街をひとりで歩くことに関してはいいのだろうか。いいんだろうな。常識という言葉を親の中に置いて生まれてきたような人だし。まあ、どうせ誰にも絡まれないだろうしさっさと帰ろう。

 

と思ってネオンの光が溢れる街を歩いていたら3人組の男に絡まれた。

 

 

「こんな時間に女子高生がなにしてーんの?」

 

 

「夜遊びー?悪い子だねぇ。そんなことしていると悪い人に連れていかれちゃうよぉ?」

 

 

「そうそう。ということで1人じゃ危ないし俺たちと一緒に行こうよ。ね?」

 

 

チャラ男であることを全力で主張した3人組が私の行く道を塞ぐ。

 

マジか。マジなのか。え、こんなチンピラに絡まれるという女子高生にありがちなイベントが私に発生したというのか。

 

どうしよう、ちょっと嬉しいかもしれない。今まで街歩いていても絡まれるどころか皆目を逸らして道を開けるもんね。なにその扱い、私はヤーさんと同じジャンルの生き物なんですか?泣いた。普通に生きていたかっただけなのにどうしてこうなったし。

 

だが、こうして私は絡まれている。チンピラたちが『やべえ、声かける奴間違えた』みたいな顔しているけど絡まれたのは間違いない事実なのだ。これは私が普通の女子高生ってことでよろしいでしょうか?

 

とはいえ、いくら絡まれたのが嬉しくてもそのままこいつらについていくことはできないからね。どうやって逃げようかな。

 

取り敢えず目の前の男にグーパン食らわせて鼻折って怯ませた後回し蹴りでトドメを刺すのがいいかな。赤木さんのおかげで物騒なことにも手慣れてますからね。はは、つらい。

 

 

「おい、お前ら何をしている」

 

 

だが私が手を出す前に低い声が響いた。チンピラどもがそちらに目をやるのと同時に私も声をした方を向く。

 

するとそこには黒髪を後ろで束ねた背の高い男性が立っていた。男はポケットに手を入れ堂々と構えながら威圧するような目でチンピラ達を見ていた。

 

え、何この少女漫画展開。ピンチに登場するヒーローというお約束展開が私に現れるだと?なんだろう、今日は一生に1度のラッキーデーなのだろうか。今なら赤木さんに勝負挑んでも勝てるかもしれない。

 

ガタイのいい男性の登場にチンピラ達はチッと舌打ちをして去っていく。取り敢えずこれはお礼を言わないといけない。

 

 

「ありがとうございます。彼奴等、めんどうだったので助かりましたよ」

 

 

そうお礼を言った瞬間、マジマジと黒髪のお兄さんが私を見ていることに気付いた。

 

え、私何かおかしい?見た目だけで『なんかこいつヤバい奴だぞ?』みたいなオーラが出ているんですか?え、何がダメなの?白髪なのが一般的ではない?

 

でもこれは赤木さんとお揃いだから染めたくないなぁ。変えるなら他のところでお願いします。

 

なんとなく気まずくなってその場を立ち去ろうとする。お礼もいったし別にもう帰っても失礼じゃないよね?

 

せっかくの少女漫画展開だったのに残念だなぁ、と思って背を向けた瞬間、『待ってくれ…ッ!』と呼び止められる。ん?

 

 

「…送らせてくれないか。またさっきのやつらみたいなのに絡まれたら危ないし女の子が夜道を歩くのは危険だろう」

 

 

黒髪のお兄さんはゆっくりとそういった。夜道は危ないから送らせて欲しいだと?まさかの女の子扱いに全私が泣いた。

 

生まれてこの方こんな紳士的な言葉をもらったことがないから本気で涙が出てくるよ。最近だと女の子どころか人間として扱われているかも怪しいもんな。

 

私が赤木さんに連れられて賭場に行くと『蓮だ、蓮が来たぞ』『無理だあんなの。勝てっこねぇ。俺は降りるぞ!』とか言われるもんね。私は化け物か何かかな?まるでゴジラが現れたような反応に心がバキバキに折れます。

 

女の子扱いされたことに感動し打ち震えて言葉を返せずにいると黒髪のお兄さんが何やら慌て始めた。そしてポツリと言葉を落とす。

 

 

「すまん、君に一目惚れしてしまったようなんだ。良かったら付き合ってくれないか?」

 

 

衝撃の言葉を言われた。一目惚れしたから付き合ってほしいだと?

 

え、付き合う?それってラブとか愛とかのあれですか?

 

 

「付き合う?」

 

 

思わず聞き返してしまうと黒髪のお兄さんは『ああ。君が好きなんだ』と言ってくる。おおぅ、マジか。マジなのか。

 

私にラブコメ展開とかそんなものがあったのか。

 

目頭が熱くなる。青春というものには全く無縁の人生になると思ったのにここでまさかの一発逆転です。青春の王道、恋愛タイムがやってきたのだ。

 

あとはこのお兄さんと付き合うかなのだが、たぶんこの人いい人だ。チンピラに襲われた女子高生助けに行くし悪い人のはずがない。

 

顔も精悍な顔立ちでかっこいいし、うん。断る理由はありませんね。

 

 

「いいですよ。付き合っても」

 

 

「……本当か?」

 

 

「ええ。これからお兄さんは私の恋人です」

 

 

了承されて驚いた顔をしているお兄さんに向かって手を差し出す。やった、これで私にも彼氏ができたよ!一般的な女子高生として青春を満喫するぞ!

 

うきうきと浮かれていると大事なことを思い出す。あ、そうだ。これから私の恋人となる人の名前を聞いておかないと。

 

 

「蓮、私の名前は伊藤 蓮。お兄さんの名前は?」

 

 

「……森田 鉄雄だ。よろしくな、蓮」

 

 

黒髪のお兄さんが笑って手を握り返す。これで晴れて私たちは恋人になったわけなのだが、

 

……森田 鉄雄?ほう、黒髪オールバックでガタイが良くて緑のスーツ着た森田 鉄雄さん?ああ、そうか。

 

まだまだ私の波乱万丈な人生は続いて行くらしい。平凡な幸せがくるのだと浮かれていた気持ちがしゅわしゅわと溶けて消えて行く。

 

本日、私の恋人となったこの黒髪のお兄さん。彼は、

 

金と裏社会を巡る物語、『銀と金』の主人公のひとり、森田 鉄雄さんだったのだ。

 




裏社会ではレン・ゴジラ扱いな模様

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