気付いたら赤木しげるの娘だったんですが、   作:空兎81

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助言

 

一晩経った。いつも通り学校に行って帰ってきて夕食の支度をする。

 

今日の晩御飯はカレーである。赤木家では私も赤木さんも辛口派なのでなんの戦争も起きない。実に平和な世界である。

 

夕食を作りながら考えるのは森田さんのことばかりだ。森田さんはもう勝負を始めているのだろうか。

 

勝っているのかな。いやでも確か原作では最初ボロボロだったし負けていた方がいいのだろうか?よくわからん。

 

小皿にルーをひと掬いし味見をする。うん、おいしい。カレーはちゃんと出来ている。

 

これで2日はカレーで3日目はカレーうどんだな。手抜きではないです。料理を長く続けるための主婦の知恵です。

 

夕食にはまだ早い時間だ。赤木さんも帰ってきていない。赤木さんは昨日からふらふらと何処かへ出かけてひと晩帰ってこなかった。

 

まあ自由に生きている人だからこういうことはよくある。そのうち帰ってくるだろう。

 

そう思った瞬間ガチャッとドアの開く音が聞こえた。この家の鍵を持っているのは私ともう1人しかいない。

 

まあ仮に不届き者だった場合は全力で対処するだけのこと。ここは台所だし武器はたくさんあるからなんとかなるだろう。

 

だけどそんな心配は全くの杞憂だったらしい。白いスーツに虎柄のシャツを着たよく見知った顔が入ってきたので声をかける。

 

 

「おかえり。晩御飯できているけど」

 

 

「今日はカレーだな。腹が減っているしよそってくれや」

 

 

そういって帰ってきた赤木さんはテーブルについた。この時間にお腹空いているってことはこの人昼ごはん食べてないのかな?いや、ひょっとしたら朝ごはんも食べてない可能性があるぞ?

 

なんたって博打をして『人の心より美味いものはない』とか言っちゃう人ですからね。人の心はおいしいのかもしれないけど栄養素はないのでご飯はちゃんと食べて下さい。

 

カレーをよそって冷蔵庫から予め作っておいたサラダを横に添える。あとはコンソメスープもよそっておこう。

 

私はコーンスープ派なんだけど以前コンソメスープを出したら赤木さんが喜んでいたから今日のスープはこっちにしておいた。別にコンソメスープも嫌いではないからそれくらい譲ってもいい。大切なのは赤木さんにちゃんとご飯を食べてもらうことですから。

 

赤木さんはテーブルにご飯が並べられるとガツガツと食べ始めてしまった。私はどうしようかな。お腹はそんなに空いていないけど赤木さんとご飯は食べたい。うーん、軽く食べようかな?

 

というか赤木さんが先に食べ始めるのも珍しいな。家にいる時はいつも一緒に食べていたし私が食べない時でも『蓮は食わないのか?』とひと言声をかけてくれるんだけどよっぽどお腹が空いていたのかな?

 

不思議に思いながらもおたまを手にした瞬間赤木さんが声をかけてきた。

 

 

「そういえば蓮、お前の恋人が今面白いギャンブルをしているようだぜ」

 

 

その言葉にカレーをよそおうとしていた手がぴたりと止まる。

 

……え、ちょっと待って。赤木さん今なんていった?

 

ギョッとして思わず赤木さんの方を見るとニヤニヤとした顔で赤木さんがこちらを見ていた。こちらの様子を伺って楽しんでいる顔である。

 

あ、うん、聞き間違いじゃないようですね。そうか、じゃあさ、赤木さん。

 

 

な ん で 恋 人 が で き た こ と 知 っ て い る ん で す か ?

 

 

もちろん私は言っていない。いやだって彼氏ができたって父親に話すのは恥ずかしいじゃん。一般的な女子高生はそうであるはずだし私もそうなんだ。だから私も赤木さんに話していない。

 

それどころかひろさんや天さんにだって話していない。誰にも話していないのだ。なのになんで赤木さんは知っているんだ?

 

そんでもってなんで森田さんが今とんでもないギャンブルに挑んでいるってことも知っているんですかね。私ですら直接本人から何しているのか聞いてないのに赤木さんは何処から聞きつけたのだろう。

 

ギャンブルの神様だから世の中の賭け事事情はなんでも知っているのだろうか。なにそれ怖い。

 

赤木さんは上着のポケットに手を入れると1枚の紙を机の上に置く。それに目をやるとどこかの住所が書いてあるようだった。

 

 

「森田っつったか?ここでギャンブルしているらしいぜ。行きたきゃ行けばいい」

 

 

赤木さんが楽しそうにそういう。本当にこの人は神様かなにかなのだろうか。全部この人の手の上でコロコロ転がされている気がするけど取り敢えず紙は受け取る。

 

正直森田さんのことは気になっていた。私が行ったところでどうにかなるわけでもないけどあれだけ死亡フラグを立てていくんだ。当然無事かどうかは確認したい。

 

それに彼氏が頑張っているところに彼女が応援に行くのはおかしいことじゃない。うん、全然普通のことですわ。私は森田さんの勇姿を見守りたいです。

 

着ていたエプロンを脱ぐ。赤木さんは私が森田さんの居場所知ったら行くってわかっていたんだろうな。私がご飯食べないことわかっていたから先にご飯食べはじめちゃったのだろう。

 

表情筋があまり仕事しないポーカーフェイスなはずなのに赤木さんには結構心を読まれてしまう気がする。やっぱり父娘なのかな。私もなんとなく赤木さんのすることわかるし。

 

 

「じゃあ行ってくる」

 

 

「おう、明日のカレーには海老フライを乗っけろよ」

 

 

赤木さんが楽しそうにそういう。これは赤木さんなりのエールだ。明日の晩ご飯を作れるようにちゃんと帰ってこいよ、という。

 

おそらく赤木さんは知っているのだろう。これから私が行くところが人生を賭けたギャンブルが行われている場所だということに。

 

普段使わない表情筋を稼働させ口元を吊り上げる。もちろん、帰ってくるよ。じゃないとこの不摂生なジジイのご飯を誰が作るというのだ。

 

 

「いいけど、明後日のうどんまで付き合ってね」

 

 

それだけいって外に出る。さて、じゃあ行くとしますか。

 

負けたら飼い殺しの人生が待っている、人の尊厳を全て奪う最悪のギャンブル、誠京麻雀へ。

 


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