気付いたら赤木しげるの娘だったんですが、   作:空兎81

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※蔵前視点

 

小賢しくも何か企んでいるのか?そのようなもの何度も通用したりはせぬ。捩じ伏せてやる。そして。わしが絶対的な王であることをわからせてやろう。

 

先程の半荘は蓮という小娘にしてやられて50億ほど奪われてしまったが大したことはない。わしの総資産から考えればあんなものは雀の涙程度のこと、依然としてわしが有利なのだ。あんな小娘に負ける要素など何処にもない。

 

だが袋井はあの小娘が危険だから引けという。名のある博徒を数多く倒し裏社会で最強と謳われる蓮、奴にはわしの財産をさらう可能性があると。

 

わしも裏社会で勝ち続ける娘がいるという噂を耳にしたことくらいはあった。まさかその娘が森田の恋人になり、わしの目の前に現れるとは思わなかったがそれでもなおわしが負けるはずがないのだ。

 

あの小娘が勝った負けたと言っているのは所詮数億の金に一喜一憂する世界のこと、わしとは住む世界が違いすぎたのだ。

 

確かにあの蓮という娘の腕は中々のものなのかもしれん。まるで牌の動きが見えているかのような打ち方にわしの金を絞るため自分の利を捨てるという判断力、常人のものではない。

 

わしが今まで喰らい尽くしてきた奴らと違うというのは納得せざるをえない。

 

同じ土俵ならば勝てないだろう。何の変哲もないルールに数億の賭け金、それだけならばわしは勝てなかったかもしれない。純粋な雀力ならば向こうの方が上、それは認めても構わない。

 

だがこと誠京麻雀においてはわしの方が上、それは間違いないのだ。

 

いくら優秀な雀士であれどツモれなければ何の意味もない。蓮の持ち金はたかだか50億、ひとツモが10億20億となればそれだけでツモれなくなるのだぞ?

 

この状況でどうしてわしが負けるというのか。そんなはずがない。そんなわけがないのだ。

 

金を持たざる者は勝ち抜けぬ、それが誠京麻雀なのだ。

 

そうして始まった東一局、親はあの小娘だ。

 

蓮は何を考えたのか初手に八筒を捨てその後も2連続八筒を捨て続けた。

 

蓮の河に八筒が暗刻で並んでいる。ふんっ、またお得意の奇策を始めたということか。

 

この小娘は何をし出すのかわかったものではない。一度もツモらず二度ツモするし天和をフリテンリーチする。

 

何をしようとしているのかわからんが仕掛けられる前にわしが和了する。そうすれば蓮が何をしようが関係ない。わしが先に和了する。それが最善だ。

 

そうして来た4巡目、引いた牌を見て思わず口元が釣り上がる。

 

萬子だ、萬子の波がわしにやってきている。

 

既に手牌13枚のうち10枚が萬子である。今引いた牌も勿論萬子、ここまでくれば聴牌まですぐだ。点数も高い。親被りで蓮の親を蹴ってくれる。

 

そうして5巡目、またしても引いてきたのは萬子、九萬だ。これで九萬は暗刻になった。

 

蓮の捨て牌には筒子が多く並んでいる。狙っているのはチャンタか染め手か、いや素直に読むなら国士無双が1番有力であろうな。しかし、既にわしの手の中には九萬が3つもある。これで国士無双を狙っているというならば蓮が和了するのはかなり難しい。

 

ただの市井を生きる蓮と王として生きるわしでは生まれ持った運量に差がありすぎるのだ。奴の必要牌はわしが呑み込んでやる。蓮の国士無双が成就する可能性は限りなく低い。

 

クククッ、ならばこの機会に金を搾り取ってやろう。残り1枚の九萬など引けるわけがない。役満という夢を追いそのまま朽ち果てるがいい。

 

さらに次順、今度は一萬を持ってくる。ここまでくると新たに見え始める役がある。

 

九萬が暗刻に一萬が2枚、そして手は1枚を除きすべて萬子。なんということだ、わしはやはり王。小娘なんぞとは格が違うのだ。

 

麻雀をやり続けて生涯に1度お目にかかれるかどうかといった役、役満九蓮宝燈が見えていた。

 

神が擦り寄ってきおったわ。わしを勝たそうと牌が寄ってくる。

 

当時小さな一企業でしかなかったこの会社をわし1人で日本有数の巨大コンツェルンに育て上げた。わしには能力がある。天運がある。これは天からの啓示、わしは役満、九蓮宝燈を和了するのだ。

 

九蓮宝燈を和了するのにキーとなるのは一萬と九萬、九萬はすでに3枚あるから後は一萬を引けばこの手は完成したも同然になる。

 

クククッ、感じるぞ。わしはツモる。おそらく次、一萬をツモり小娘に決定的な敗北を突きつけることができる。

 

だが次の瞬間、蓮が手牌から一萬を抜き河に捨てた。思わず目を疑う。

 

馬鹿な、一萬を捨てるだと?蓮は国士無双である可能性が高い。そうであるにも関わらず一萬を捨てるというのは、手の中にもう一つ一萬があるということに他ならない。

 

わしの手牌にふたつ、河にひとつ、そして蓮の手牌にひとつ一萬はある。つまり空だ。わしが一萬がツモる可能性はない。

 

いくらわしと言えども無いものはツモることは出来ない。九蓮宝燈の和了はなくなったと言える。

 

まあ仕方ない。そういうこともあるだろう。

 

だがそれで状況が悪くなったのかと言えばそうではない。手牌13枚の中で12枚が萬子、役満に縛られなくなったのだから逆に動きやすくなったと言えるだろう。

 

蓮の捨てた一萬に対して発声する。

 

 

「その一萬をポンするぞ」

 

 

対面の河から一萬を拾い手の中にあった南を捨てる。これでイーシャンテン、清一色が見えている。

 

捨て牌から見え見えの清一色であるが石井の差し込みもあるし蓮が国士を強く行けば振り込みまである。

 

この局で決着、とまではいかんが点棒で大きく差をつけることができるだろう。

 

金はいくらでもある。じわりじわりと追い詰めていけばいいのじゃ。大切なのは勝つこと、勝利を積み上げる。

 

手は好調だった。恐らく3人の中でもわしの進みが1番速い。

 

だが、何故だろう。何かが噛み合わない。

 

一萬を鳴いたのは間違いではない、残り一枚である可能性が高い牌なのだからここが手に入る最後の機会だ。

 

それに九蓮宝燈に拘らなくなった分和了しやすくなったともいえる。わしがツモ和了すれば親被りで蓮の親を蹴ることができるのだ。堅実な手をわしは選んだのだ。

 

それなのにこの焦燥はなんなのだ?わしが何かを間違えたというのか。

 

6巡目にして清一色がイーシャンテン。だが何故じゃ。

 

この手を和了できる気がしなかった。


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