気付いたら赤木しげるの娘だったんですが、   作:空兎81

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エスポワール導入話
ちょい短め




乗船

 

 

船に乗るまでの間はカイジさんの家にお世話になることになった。家のない根なし草な生活をしているというと『蓮っ、今まで苦労してたんだな』と潤んだ目でカイジさんが親父さんが見つかるまでここにいたらいいと言ってくれた。宿ができたのはありがたいんだけどカイジさんの中で私は薄幸の少女になっているっぽいぞ。

 

取り敢えず船に乗るまでの間は赤木さん探しに費やす。天さんやヒロさんにも会えたから赤木さんを探していること、今は従兄弟の家にいることを伝えておく。『蓮の従兄弟なら凄い博徒なんだろうな。一度ひと卓囲んでみたいぜ』と天さんがにこやかに言う。まあ数千万部売れて映画化もしたベストセラー作品の主人公で24億の勝負に勝ち切るくらい勝負強い人なんだけど、いかんせん今はただのクズなんだよな。天さん達に会わせるとしてもEカード編が終わった後がいいんじゃないかな。

 

それから後は赤木さんがよく行っていた雀荘や飲み屋に顔を出す。しかし全く見つからなかった。来ていた痕跡すらない。あのジジイ一体どこをほっつき歩いているんだ。赤木さんの私生活を思い出すと通夜編どうこうの前にくたばっているまであるかもしれん。そんな展開はごめんなのでさっさとジジイを見つけたい。

 

そうこうしている間に3月になりエスポワール乗船の日となった。カイジさんと共に集合場所へ行き電気もつかない真っ黒な船に乗せられる。パスポートの有無を聞かれたけど赤木さんに全部燃やされた身の上では持っているわけがないのでそう伝えると『貴方が敗北した場合は日本にいていただくので大丈夫ですよ』と言われた。何をさせられるのだろう。まあどうせ碌なことではない。

 

そんなわけでジメジメどんより腐敗した空気が漂う船に乗り、まずは金を借りろと言われた。最低百万円から、利息は利率1.5%の10分複利とかいう暴利。悪徳金融ここに極まれりみたいなインフレ利息だな。借金チャラにするとか言いながら全然そんなつもりないだろこいつら。

 

さて、そんなわけで私もお金を借りないといけないらしいが(チャラにしてもらう借金ないのに暴利で借りないといけないとか酷くない?)いくら借りればいいのだろう? クソ暴利だし最低金額の百万円?

 

いや、そうじゃないか。別に借金したくないならこの船に乗らなければいい話だものな。

 

リスクを恐れたらギャンブルではない。私は、この船に勝負をしにきたのだ。

 

 

「船井や。限度まで」

 

「伊藤カイジ。………1千万!」

 

「伊藤蓮。限度いっぱいまで」

 

 

船井、カイジさんに続いてめいいっぱい金を借りる。赤木さんならきっとこうする。リスクは背負えるだけ背負い込もう。

 

痺れるような勝負をするにはきっとそれが必要だ。

 

大金を借りたものだけが貰えるホルスターを受け取り利根川さんからルール説明を聞いてついに限定じゃんけんが始まる。『勝たなければ』という利根川さんの言葉に奮起し意気揚々と勝負を始める参加者を尻目にカイジさんが話しかけてきた。

 

 

「どうする、蓮。このまま勝負するって手もあるが運否天賦に任せるのもどうかと思う。何か勝つ確率を高めることを考えようぜ」

 

 

そう親しげに話しかけてくるカイジさんに大切なことを伝えていなかったことに気付く。ああ、そうか。カイジさんは私のことを仲間だと思っているのか。赤木家では当たり前のことだから言わないといけないという発想がなかった。

 

 

「カイジさん、私は勝負しに来たんだよ」

 

「ああ、そうだな。負けるとどんな目に遭わされるかわからねえからな。絶対ここは勝たないとヤバイぜ」

 

「そうじゃなくて貴方と勝負しに来たんだよ」

 

 

え、とカイジさんの口から音が溢れる。まったく予期せぬことを言われたとその表情がありありと語っていた。

 

 

「何言ってんだよ、蓮。勝負って、どういう意味だよ」

 

「言葉の通りだよ、カイジさん。私は博徒伊藤カイジとギャンブルをしにきた」

 

 

賭博黙示録の主人公を倒しに来たのだ。

 

『このまま戦ってもカイジさんも本気になれないだろうしここで別れよう。またねカイジさん』と言ってその場を離れる。この場で挑んでも真剣勝負にはならないならば意味はない。

 

そのあとすぐに船井さんに声をかけられるカイジさんの姿が視界の端に映る。この後カイジさんは船井さんに騙されて大敗してしまうわけだけどそれでいいだろう。

 

カイジさんの真価は逆境にあってこそ発揮される。だからボロボロになってズタボロにされてその上で這い上がってきて欲しい。裏切られても諦めず上り詰めて欲しい。

 

緻密で大胆で思い切りが良くて抜け目なくて勝負に真剣なカイジさんと戦いたい。

 

それが主人公を倒すということだから。

 

 

 

 

 

 

 


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