気付いたら赤木しげるの娘だったんですが、   作:空兎81

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初戦

さて、カイジさんと別れて1人きりになったわけだけど、うん。戦う相手が見つかりません。

 

今までのギャンブルっていうのは基本戦いの場は誰かが用意してくれていて、それに乗っかる形で勝負していたから自分で相手を探すということをしたことがない。まるで二人組を作りなさいと先生に言われるようなつらさ、どうやって相手を見つけたらいいのでしょう。ちなみに私の学生生活は当たり前のようにペアを組んでくれる子はおらず、しかも先生にすら避けられていたから常に1人でした。むなしい。

 

 

「君、ひょっとして相手が見つからないのか?」

 

 

もはや壁の花となり数を減らしていく電光掲示板を眺めていたら四角い顔の人に話しかけられた。胸に星が5つもついている。どうやら随分と好調なようだ。

 

 

「そうですね」

 

「なら、俺と勝負しないか?いつまでもそこにいたってカードは減らない訳なんだし、取り敢えず一戦してみようじゃないか」

 

 

四角い顔の人が愛想良く言う。なんたる僥倖。声かける相手見つからずにぼっちつらたんと思っていたから誘われるのは素直に嬉しい。

 

勝負を了承して、あっちのテーブルでやろうと言われたから少し離れた場所に移動する。それは1番壁際に設置されたテーブルだった。

 

 

「残りのカードが何か他の連中に盗み見られたくないから端の方がいいだろ?それから壁側も君に譲るよ。誰にも手札を見られる心配がない壁際は良い位置取りなんだが、初めての勝負だと不安だろうしそっちも譲るさ」

 

 

いかにも親切そうなことを言って四角い顔のお兄さんはホール側のテーブルサイドに立つ。私も壁側のテーブルサイドに立つ。うん、なるほど。

 

ここはイカサマスペースなのか。

 

壁しかない背後から突き刺さるような視線を感じる。よく感覚を研ぎ澄ませば壁の中から幾人かの気配がする。原作で敗退者は確か会場が見えるマジックミラーの向こうに入れられていたのだけど、ここがそうなのだろう。

 

壁越しに私の手札を見ようとしている奴がいるのだ。

 

じゃんけんなのだから手札が見えたら負けようがない。仲間の1人を敗者部屋に送り込んで手札を覗き見させているのは必勝法に近い。

 

 

「じゃあ始めようか」

 

「その前に1ついいでしょうか」

 

 

早速ゲームを始めようとしたお兄さんにストップをかける。別にイカサマを糾弾しようというわけではない。これは勝負なのだから勝つために最善を尽くすのは当然のことだ。だから後ろから私の手札を覗き見ようとしていることを咎めるつもりはない。

 

 

「賭け金を上げましょう」

 

「星を2つ賭けたいってこと?別に構わないけど負けると後がなくなるよ?」

 

「いえ、全ての星を賭けます」

 

 

え、とお兄さんの口から声が漏れる。全部、星3つの勝負だ。負けたらそのまま地獄送り。生還のない敗者部屋に放り込まれる。

 

でも勝負とはそう言うものだろう。負けたら終わりなのだ。だから限度いっぱいいく。赤木さんもきっとそうするだろう。

 

 

「3つ全ての星を賭けるってことか?負けたらそれで終わりだけど本当にいいの?」

 

「かまいませんよ」

 

「そうか。なら勝負だ」

 

 

私とお兄さんがカードを出したことで黒服の人が審判としてテーブルのサイドに立つ。私の近くにも黒服の人が数人立っていた。この勝負に賭けられているのが3つと知って、その時は私を連れて行くために待機しているのだろう。

 

チェックと言ってカードを構えた瞬間コツコツコツッと後ろから音が聞こえた。その音の後お兄さんがにぃっと笑ってカードをセットした。私のカードを覗き見るのも構わない。イカサマを仕掛けてくるのも構わない。

 

だけどやり返されたって文句は言えないよね。

 

 

「オープン!俺はチョキだ。アンタは、……なっ!?」

 

 

カードを同時に表にする。お兄さんのカードはチョキだった。そして、私のカードは……グーだ。

 

別に難しいことではない。後ろに見せておいたのはパーで、カードを机に出す瞬間にグーにすり替えたのだ。このくらいの小手先の技は大したことない。賭場ではカードのすり替えなんて日常茶飯事なんだから、この程度のことはやろうと思えばさほど難しいことではない。

 

 

「はっ!?なんで、パーじゃないんだっ!?だって、パーだって、そのはずで」

 

「その胸の星、3つ貰いますよ」

 

 

予想外の出来事に狼狽えているお兄さんの胸から星を3つ取って胸につける。これで私の星は6つだ。悪くないけどこれで終わらない。さて、ここからが本番なのだ。

 

 

「くそっ。くそう。あり得ねえ。星3つも損しちまった。なんで負けるんだよっ。ちくしょうッ」

 

「もうひと勝負しませんか?お互いの全ての星を賭けて」

 

 

負けて悪態をついているお兄さんを勝負に誘う。その言葉にお兄さんは顔を上げ、困惑の色を出した。

 

 

「全てって、俺の星はあと2つしかないが、」

 

「お兄さんは2つでいいですよ。私は6つ全て賭けます。勝った方が総取りです」

 

 

お兄さんはますます困惑の色を深くした。勝って得られる星が2つに対して負けて失う星は6つなのだ。損得勘定が合わないのだろう。

 

 

「明らかに君が損しているじゃないか。なんでそんな賭けをするんだ」

 

「損とか得とかはどうでもいいんですよ。ただ純粋に勝負がしたい」

 

 

賭けているのか賭けていないのかわからない朧な戦いではなく真剣勝負がしたいのだ。生死を分けるような人生を賭けるような運命を変えるような、そんな深く突き抜けた勝負がしたい。

 

 

「貴方と私、負けた方が地獄に落ちる。そんな勝負がしたいのですよ」

 

 

私がそう言ってから一拍、ポツリと呟くような声で『く、狂ってる』とお兄さんが言う。狂っているとは失礼な話だ。私はただ赤木さんに生きていて欲しいだけなのだ。

 

だからその為ならなんだってする。

 

結局お兄さんは勝負を受けた。『クソっ、やってやるッ!今度こそ、今度こそうまくいくはずだっ!』と言って私を、いや私の後ろの壁を睨みつけている。まだ覗きを利用するつもりなら私に敗北はない。だけれどもそれは私のしたい勝負でもない。だから、

 

 

「カードをセットします」

 

「お、おいっ!カードを見ないのかッ!?そのままセットしたら何のカードを伏せたかわからないだろ!!」

 

 

焦った声でお兄さんがそう言う。私がカードを確認しなかったから覗き見ができなくて困っているのだろう。

 

うん、でも純粋に勝負するならこの方がいい。

 

 

「カードを見せたらまた私に利用されますよ。これで純粋な3択です」

 

「お前、まさか気付いて…」

 

 

サッとお兄さんの顔が青褪める。自分のイカサマを知られていたという予想外の事態に狼狽えている。

 

これでお互いの取りうる手段が全てなくなったのだから、あとは純粋なカードの優劣を決めるだけだ。ある意味お兄さんにとってもこれが初戦になるのだろう。そして最終戦になる。

 

 

『せっ、セット』と震える声でお兄さんがカードを置いた後、互いのカードを手にかける。

 

『オープン』と言う掛け声と共に互いのカードを表にした。

 

どっかの漫画で読んだのだけど、統計的に人がもっとも最初に出しやすいのはチョキらしい。さらに迷ったり自信のない人は、精神の安定を図って前と同じ手か強い手を出す傾向にあるとのことだ。

 

さっきお兄さんが出したのはチョキ。だからグーを出しておけば、勝ちかあいこの確率はさらに上がるのだろう。

 

だけどあいこじゃダメなんだ。次も勝負してくれるかなんてわからないからここで勝ち切らないといけない。

 

ギャンブルをしているのだから何処かでリスクを背負わなければならない。リスクがなければギャンブルではないのだ。

 

だから選んだのがこのカードだ。

 

お兄さんのカードはグーだ。そして私のカードは……パーだ。

 

 

「ヒッ、嫌だ。落ちたくないっ!西川ァ……!星をくれっ!頼む!星を、ひとつでいいからッ!!!」

 

 

四角い顔のお兄さんは近くにいたモコモコヘアーのお兄さんに助けを求めたが、モコモコヘアーのお兄さんは顔を逸らした。

 

抵抗するお兄さんを黒服達が連れて行く。あそこって確か3人組じゃなかったっけ?通しを行っているお兄さんだけじゃなくて、今落ちた四角い顔のお兄さんも拾いあげないといけないとなるとどうするんだろ?

 

まあ私には関係ないことだ。勝負して勝者と敗者がいる、ただそれだけなのだ。

 

初戦、限定ジャンケン。私の星は8つとなった。

 

 

 




急募:モブの名前

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