気付いたら赤木しげるの娘だったんですが、   作:空兎81

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不戦

「おおおおっ!!すごい!星9つもあるじゃないっすか!え、この人もカイジさんの仲間なんですかっ!!?」

 

「ああ、従姉妹の蓮だ」

 

「星9つってことは俺たち全員で12個?ってことは勝ち上がり確定じゃないっすか!おおおっ!!!」

 

細身で幸薄そうな人と太っちょで眼鏡かけている人と3人でカイジさんがやってきた。あれが例の古畑さんと安藤さんかな?原作のエスポワール3人トリオの登場だ。

 

 

「1人で9つも星を稼いだのか。すげえ、すげえよ蓮」

 

 

「カイジさん、その人達は?」

 

 

2人が誰なのか原作知識としては知っているけど認識を擦り合わせる為に一応聞いておく。

 

予想通りカイジさんから『古畑と安藤だ。訳あってチームを組んだ』と紹介される。そしてその経緯も教えてくれた。

 

船井に連続あいこで勝ち上がろうと言われ裏切られたこと、生き残りを賭けて星1つでカードを5枚持つ古畑と星は2つあるけれどカードはない安藤とチームを組んだと。

 

 

「俺達には星はないけどその代わり仲間内で星やカードのやり取りができる。このゲームで勝ち切るためにネックとなるのがカードの消費だ。それが仲間がいたら容易に解決する」

 

 

さらにカイジさんは言葉を続ける。

 

 

「このゲームの最大の敵は時間だ。時間が経てば経つほど暴利で借金が嵩んでいく。俺達は星は持ってないが頭数がある。蓮、俺達に協力してくれねえか」

 

「チームに入れというなら断るよ」

 

 

カイジさんとチーム戦をするつもりはない。

 

 

「はぁっ!??なんでっ!?だって従姉妹なんでしょ!??従姉妹なら、血のつながった家族なら助けるのが当然じゃん!!それなのにチームに入らないってなんでっ!」

 

「落ち着け安藤!当たり前だろうが。誰がこんな泥舟に乗りたいって言うんだよ!星もカードも碌にない落ち目の3人組と行動を共にしたいって思うわけがないだろっ!黙れ!本題はここからだ」

 

 

喚く安藤さんをカイジさんが叱咤する。うん、まあ常識的に考えてもチームに入るメリットはないよね。なんで見知らぬ人にただで星をあげなくてはいけないのだって言う感じだ。いや、別に星が減ることはどうでもいいんだけどこの2人を助けるのが嫌だ。だって古畑安藤って最後カイジさんを裏切っていたじゃん。単にこの2人は嫌いだ。

 

 

「蓮には星が9つある。だが、このゲームに勝ち抜けるためにはカードを消費しなければならない。この部屋から抜け出す為に不要なカード、それを全て引き取る。

 

その代わり、蓮、俺達に星を売ってくれ。ここに1400万ある。俺達の全財産だ。これでお前の勝ち上がりに不要な6つの星を売ってほしい」

 

 

カイジさんの提案はカードを引き取る代わりに星を売って欲しいと言うものだった。星がいくつあろうがカードを使い切るまで終わらないのがこのゲームだ。そのネックとなるカードを引き取ってくれるというのだから悪くない。

 

星6つで1400万というのも最終的な相場を知っていることからすれば安いが6つ売り払う手間を考えれば頷けなくもない。何よりこのゲームは時間が経てば経つほど主催者側が儲かる仕組みなのだから早期に抜けられるというのはそれだけでメリットだ。客観的に見てもこの取引は悪くない。

 

だけど望んだ世界ではないのだ。

 

 

「カイジさん、最初に言ったこと覚えている?」

 

「え、あ、最初?あ、最初ってアレだろ。勝負したいとかなんとか言う」

 

 

その瞬間カイジさんの表情が固まる。たぶんカイジさんは今初めて言葉の意味を理解したのだろう。言ったよね、貴方と勝負したいって。それは言葉通りの意味なんだよ。

 

 

「取引はしないよ、カイジさん。その代わり勝負しよう。お互いの持つ星全てを賭けて一回限りの真剣勝負だ」

 

「勝負って、俺達の星は3つしかねえけど」

 

「別にいいよ、星の数は大事じゃないから。大事なのはお互いに後がないということ。負けた方が別室送りの奈落行き。生き残りを賭けて本当の勝負をしよう」

 

 

カイジさん達が勝てば星12個の大勝利、1人頭星4つという崖っぷちの現状からは考えられない破格の報酬を得られる。だけども負ければ別室行き。堕ちた先がどこに続くのかはわからないけど海外に売り飛ばされるのであれば生還はないだろう。まさに生死を賭けた戦いだ。

 

カイジさんの敗北は『カイジ』の崩壊に繋がる。この世界が運命とやらに支配されているのならカイジさんが負けることはない。だからもし、カイジさんにここで、この決定的な勝敗のつく一戦で勝つことができたなら原作なんてものは存在しないことになる。

 

赤木さんの未来も確定されたものでなくなる。

 

だからカイジさん、貴方を倒すよ。主人公であるカイジさんを倒せばこの世に決められたルートなどないと証明できるのだから。

 

星3個に対して9個賭けの勝負、これを受けない理由はないと思って真正面を見つめると、カイジさんがポロリと涙を零した。……え。

 

 

「どちらかが必ず別室送りになる勝負だと…? ふざけろっ!! あり得ねえ! なんで蓮とそんな勝負しなきゃいけねえんだよっ!!!!」

 

「カイジさん」

 

「そりゃ、小さい頃はちょっと疎遠になってたけどさ。この1ヶ月一緒に暮らして、俺がバイトから帰ってきたら蓮がご飯作って待っててくれて、その日1日あったことを話して、そういうなんでもない日常を過ごすのがよかったんだよっ!!蓮は妹みたいなもんだ!なんで家族と戦わないといけないんだよっ!!クソッ!」

 

 

カイジさんが泣きながら大声で喚き立てる。なんというかカイジさんの家に居候していたこの1ヶ月で随分と距離感が変わっていたらしい。

 

カイジさんが日雇いのバイトやパチに行っている間に赤木さんを探していたわけだけど、やっぱり夜はカイジ家にいたし、そうなるとご飯が出来合いのものばかりだと飽きてくるし生活破綻者の赤木さんと暮らしていたから家事はそれなりにできるからご飯とか作っちゃうよね。うん。それが思ったよりカイジさんの胸を打っていたらしい。マジか。

 

 

「そんな勝負クソくらえだ!絶対俺はやらないからなっ!!蓮を犠牲にするくらいなら別室送りになった方がマシだぜ!おい、いくぞ」

 

「え? ああ」

 

「カイジさん!待ってくださいっ!!」

 

 

そう言って3人はどこかへ行ってしまった。勝負はしないらしい。え、マジで?

 

3個賭けに対して9個返しの勝負なのに受けてくれないの?いや、話聞いて9個だろうが10個だろうが賭ける星の数は関係なく勝負を受けるつもりはないってのはわかったけど、え、じゃあどうすればいいの?カイジさんは私が別室送りになるのが嫌だから勝負しないんだよね?うん。

 

 

じゃあカイジさんと戦う方法なくない?

 

 

想定外の事態に困惑する。今まで結構ヤバいギャンブルに首突っ込んだことは何度かあったけど(誠京麻雀とか負けたら人間奴隷だもんな)そもそも勝負が出来ないのは初めてだ。私、限定ジャンケン苦手かもしれん。

 

だけどもこの船に乗ったのはカイジさんと戦う為だ。諦めるつもりはない。

 

戦いたくないと言うのならば戦わなくてはいけない状況を作り出すまでのこと。家族だから戦いたくない?いや、違うよカイジさん。

 

家族だからこそ戦うのだ。

 

 




次はカイジ視点

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