1回戦が終わって次は2回戦だ。ここからはいよいよ本戦のメンバーを決める戦いで1位になった人から勝ち抜けしていくシステムらしい。
皆が気を引き締める中、私はとんでもない強敵と戦っていた。抗えない、呑み込まれる、意識が薄れていく、
そう、睡魔だ。私はめっちゃ眠かった。
そりゃ13歳の身体に夜の12時スタートの麻雀は辛すぎますよ。しかも赤木さんの生活習慣を良くするためにめっちゃ規則正しい睡眠を取っていたんだぞ?緊張してたから頑張れてたけど流石にもう眠いです。
「蓮、凄いね。あの原田がいる卓でトップを取るなんてやっぱり君は強いよ。次からはトップを取った人から抜けて行くルールだけど蓮ならすぐに勝ち抜けて、」
「ひろさん、後は頼んだ」
ひろさんの肩をポンと叩くとその辺りのソファーに倒れこむ。もうマジ眠い。原作ではひろさんが打っているんだし私の出番はもういいだろう。さっさと寝よう。
薄れていく意識の中で『え、蓮ッ、蓮ッ!』と焦るひろさんの声が聞こえて来た気がしたが私はそのまま眠りについた。
※※※
「よう、眠り姫、起きたか?」
「…なんだ、ジジイか」
おおぅ、よかった。なんかわからんけどビルの上の鉄橋渡らされていてヒィと怯えていたらアカギ(19)が『この橋渡って見せましょう』とかなんとかいいながらフワァと浮き上がって空まで上っていって、お前渡ってないじゃん!と鉄橋渡りと突っ込みに追われてたんだけどなんだ、全部夢か。ハァ、焦った。全部夢でよかったよ。
だが、夢から覚めたところで危ないギャンブルは続いているんだよね。今どこまでいっているんだろう。なんなら麻雀全部終わっていても構わないんだけどな。
「ひろは原田に後一歩までのところまで詰め寄ったが負けちまったよ。残っているのは最後のひとりを決めるための1局だけだよ」
「それもひろさんが打てばいい」
残念ながらまだ予選すら終わってないらしい。外を見ると真っ暗だしまだまだ夜中なのだろう。
まだひと眠りできるなと思いながら背中を倒そうとした瞬間肩を掴まれる。目の前には表情の読めない赤木さんが立っていた。
「なんでここでひろに任せるんだ?」
「ひろさんが勝つから」
あくびを噛み殺しながらそう答えると赤木さんは驚いた顔をした。
「ひろがか?ひろもそれなりの打ち手だがあの中では見劣りするぞ。根拠はなんだ?」
「そもそも腕は負けてないよ。足りなかったものも今は持っている。下馬評1番の馬に賭けたって勝てるわけでもないんだし自分の選択を信じるよ」
根拠は原作知っているからなんだけどそんなこと言えないからそれっぽいことをいって誤魔化しておく。
赤木さんは私の話を聞くと面白そうに笑い『まあギャンブルなんてそんなもんだな。お前とひろが納得しているなら構わないぜ』といってひろさんが打つことを認めてくれた。よかった、これできっとひろさんが奇策を炸裂されて勝ち切ってくれることでしょう。
安心したら眠くなったのでそのままひと眠りする。起きたらひろさんは原作通り勝っていた。よかった、よかった。
※※※
無事予選が終わり3日後本戦ということになった。このままひろさんが本戦も打ったらいいんじゃないの?と思ったが流石に本戦は自分で打ちなさいといわれた。つらい。
おまけに麻雀3回しかしたことない超初心者なのが天さんにバレて本戦までの3日間みっちり東のメンツに麻雀仕込まれました。それならなおのことひろさんを、といったのにその才能を伸ばさないのは勿体ない!といわれ麻雀漬けの3日間でした。いやいや、代打ちになるわけでもないし絶対麻雀できるようになっても使わないぞ?あー、ハワイから考えると何日学校休んでいるんだコレ。絶対担任の先生に不良だと思われているよ。
3日間仕込まれたので役や通しはひと通り覚えた。おかげで夢にまで麻雀が出てきてうなされましたよ。もうどうにでもなれと若干自棄っぱちになりがら本戦の会場に連れてかれる。3日間ほぼ徹夜麻雀とかしたのでもう夜中でも眠くならないよきっと。生活リズムも乱れまくっているな私。あとでちゃんと戻ってこれるんだろうか。
本戦はどっかの料亭を貸し切って行われる。ホテルの時も思ったけど誰がお金払っているんだろう。原田さんかな?ヤクザって儲かるんですね。
いくつかルールを決めていよいよ本戦が始まる。10巡交代制で満貫未満は点棒を取らない。そして振り込まれても点棒が増えないことから常に誰もが飛ぶ危険性のあるデスマッチ。ううん、ほんとなんでこんな恐ろしい戦いに私が参加しているんだろうね。お家に帰りたいな。
最初は私が打つことになった。そして10巡後には赤木さんと交代することになる。つまり何もせず赤木さんに手番を回すだけのお仕事ですね。静かに打っておこう。
手を開けるとめっちゃ萬子が入っていた。えっと、いち、に、さん、し…、11枚も入っているぞ?確か全部萬子だったら6飜、鳴いても5飜はあるんだっけ?おおっ、じゃあ清一色狙いますか。
最初からバシバシいらない牌を切っていく。私が牌を切るたび周りの空気がピリピリしていくんだけどなんでだろうね。まあ気にせず自分の打ちたいように打っていこう。
そうして打っていった8巡目、五筒を引いた。手が止まる。
なんとなく、この牌は切ってはいけない気がする。ここまで徹底的に萬子を出さなければ他家にも私が染めていることがバレただろう。このまま突っ張ったらツモることは出来るかもしれないが相手を討ち取ることはできない。
そう考えるとこれはチャンスじゃないかな?ここまで来て筒子で待っているなんて思われないだろうし。うん、手変えしよう。
不要な萬子を叩き斬る。瞬間、ピリピリしていた空気にさらに重さが増した。何だ、この場は、めちゃめちゃしんどいぞ。早く赤木さんとチェンジしたいです。
次にツモったのは東だった。いらないのですぐに切ると原田さんに鳴かれてしまった。これはまずかったかな?まあもうやっちゃったもんは仕方ないしこのまま突っ走ろう。
そして10巡目、六筒を引いた。おっけー、テンパイです。役はあるからリーチはやめとこう。必要なら赤木さんがするだろうし。
席を立って赤木さんにチェンジする。赤木さんは私に向かってニヤっと笑うとそのまま打ち続けた。笑ったってことは間違った打ち回しじゃなかったってことかな?ふーっ、よかった。一応チームなんだし赤木さんの足を引っ張りたくないもんね。
結局赤木さんもリーチをせず打ち回し最終的には相手方から直撃を勝ち取った。赤木さんは点棒を受け取ると立ち上がり私の方へと手を伸ばす。
「よくやった蓮。あれはこの打ち回しで正解だ」
そういうと赤木さんはくしゃくしゃと私の髪を撫で回す。髪はボサボサになったが心が熱くなった。
赤木さんに褒められたのが嬉しい。やっぱり私は赤木さんが好きなのだ。この多大な才気を持つ人に認められたことがどうしようもなく幸福だった。
相変わらず仕事をしない表情筋がポーカーフェイスを作り『別に』とそっけない返事を返す。でもそんなことは赤木さんにバレていたのだろう。
赤木さんはニヤリと笑って私の耳を摘む。触れた部分から手の冷たさが伝わり私はまた耳が赤くなってしまっていることを悟った。