ロクでなし魔術講師と超電磁砲   作:RAILGUN

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RAIL 2

 頑張って暴走を演出してみたが、やっぱりリィエルに対する恐怖心というのは消えなかった。

 まぁ、あれだけ印象が強ければ忘れもしないだろう。

 俺がやったことに興味を示すのはギイブルぐらいだった。やはり向上心オバケは釣りやすい。

 ギイブルの場合は得意の錬金術で実力の差を見せつけられたのが大きいってのもあるだろうけど。

 

「つーわけで先生。どうするんですか?」

「どうもこうも。適宜テコ入れするしかないだろ。つーかそこらへんはお前の仕事じゃね、現地補佐殿?」

「いやー、ぶっちゃけその通りなんだが先生としてどうよ。そこらへん」

「仕事はないに越したことはないだろ。高い給料で最低限の労働を。できれば働かずに金が欲しい。ネオニートになりたい」

「割と共感する部分はあるわ」

 

 とか言ってる割にはリィエルの様子を気にするグレン先生。なんだかんだで心配なんだろうね。

 親子みたいだ。

 

 そんなこんなでリィエルの天然さからくる暴走はしばらく続いた。ハーレイ先生をグレン先生の敵として斬りかかろうとしたりとか(お座り成功)、実技演習でまたまた高速錬成を披露してくれたりとか。

 いや、可愛いのだけどもね。無表情で剣を振り回すと怖いのよ。

 まだ一日。それも午前だぞ?(絶望)

 ようやくリィエルのイメージを払拭しようと動いたのはやはりというか当然というかルミアとシスティだった。

 そうだよな。俺の【超電磁砲】を至近距離で見てるわけだし、遠目の十字剣投擲くらいじゃ足が竦むわけもないか。

 これには俺とは別位置で見守っていたグレン先生もガッツポーズだ。

 ルミアとシスティはリィエルを言葉巧みに(失礼)食堂へと誘い出した。

 

「ラクス、あいつの好物とか知ってるか?」

「いや、知らないですね。リィエルって支給品しか食べてないんじゃないですか?」

「あるな。それ……うまいもんを食わせてやってくれよ」

「はぁ?」

「はーはははっ! それでリィエルのご機嫌が取れるならお安いというか懐痛むのはラクスさんなわけですしぃ? 俺ってば実質、タダで面倒ごとを解決できんじゃん!」

「うわー、ルミアが時折、弟を見る目なのが分かる気がする」

「なんのことかさぱーりわかりまーせん!」

 

 本人がそう言うのでそういうことにしておこう。

 素直じゃねぇな。可愛くねぇ。

 先生に可愛さを求めるのも酷か……俺、うっかりグレンルート入ったらどうしよう。

 

「というわけでラクス君も一緒にご飯食べよ?」

「あれ、この展開は前にも?」

 

 具体的には競技祭の種目決めの時だ。

 ほんとに何がというわけなんだろうか。

 いや、断る理由もないんですけどね。むしろウェルカムなんですけどね! 

 

「お誘い、ありがとうございます! 喜んで相席させて頂きます!」

「う、うん。どうぞ」

「ラクス、変」

「そんなことはないぞリィエル。俺はいつものーーー」

「家じゃそんなことーーー」

「お手っ!」

「わんっ」

 

 ふっ、間一髪って感じだ。

 俺とリィエルが仕事とはいえ同棲してるなんて知れてみろ。

 

「ラクス君、どういうことかな?」

「これには深い……そう、学院のダンジョンより深く、メルガリウスの天空城よりも高い理由がありまして」

「メルガリウスの天空城より高いわけないじゃない! バカにしないで!」

「メルガリアンめんどくせぇ!? つかシスティの方がバカにしてない、そうでしょ!?」

「?」

「だからその当たり前でしょみたいな顔やめろ!?」

 

 デイリーミッション達成。

 今回は俺が弄られる側だったようだ。

 

「いや、そのルミアさん?」

「……なに?」

「怒ってらっしゃる?」

「別に。ラクス君がお家に女の子を連れ込むような人でも、ましてや芸を教え込む変態さんだとしても私には関係のないことだよ。怒る理由がないと思うんだけど?」

「なんか色々すいませんでした! 今後はルミアさんにご報告を逐一しますんで、そのアルカイックなスマイルは止めて頂けませんか!? 体の震えが止まりません!」

「そこまでしなくていいかな」

 

 一瞬でいつもの花が咲いたような笑みに戻るルミアさん。

 そこで固まるリィエル君とシスティ君。俺はそのプレッシャーを至近距離でうけてるんだからな。もっと尊敬の眼差しで見てもいいんだぞ。

 

「顔が調子に乗ってるわよ、ラクス」

「システィさん、最近俺の弄りが雑すぎない!?」

 

 顔が調子に乗ってるってなにさ。

 生まれつきこの顔なんですど。

 

 とりあえず俺はリィエルのことを包み隠さずに話した。

 二人なら事情は知ってるし、問題ないだろうって判断だ。誰かに聞かれる心配なんてこの時間食堂じゃ考えなくていいだろうし。

 

「つーわけでしばらくはリィエルは俺の家に住まわせることになったんだ」

「えっと、大丈夫なの。ラクス君?」

「頼むから乙女の作法を教えてやってくれ」

「任せなさい」

「いや、システィじゃなくてルミアに」

「私がガサツって言いたいわけ!?」

「自分で言ってるじゃん」

「《大いなーーー》」

「ゲルブロストップ! さーせんしたっ、ちょーしのってやしたぁ!」

 

 俺の周りの女性やけに強ない? おかない?

 俺が弱いだけぇ? 違うよね。お願いそーだと言って。

 

「……くっ!」

 

 だから影で指立てるんだったらこっちこいよグレン先生!!

 ただでさえ、男女比が1:3でもれなく女性陣が強い。しかも単体で強いのでどうしようもなく俺はヒエラルキーで最下位なんです。

 魔術、メンタル、物理。

 この学院の属性別最強ランキング一位の方々だ。

 

「……おい、そこでチラチラ様子を伺うノーコン、じゃなくてカッシュ。おいでー」

「おうバチバチ野郎。それは喧嘩売ってるってことでいいのかよ?」

「そんなわけないじゃないですかー、ソフトモヒカン先輩に口利けて、ラクス幸せ」

「馬鹿は死なないと治らないらしいな」

「誰が馬鹿だこのやろう!?」

「その馬鹿って言葉に異常反応するラクスちゃん、マジで馬鹿じゃん」

 

 ぐぬぬぬ。最近、レベルの高い切り返しでラクスさん言い返せないよ。

 し、しかしだな。俺の身を削ることでリィエルが馴染めるのだったら安いものだろう。

 俺がドジを晒しただけとかそういうことはない。

 カッシュはクラスの中心メンバーだし。

 案の定、後ろから遅れてセシル、ナーブレスにリン、テレサがやってきた。

 

「朝の高速錬成凄かったなー。どうやってんだアレ。今度俺にも教えてくれよ」

 

 カッシュ君社交性高すぎぃ!

 急に質問されて戸惑うリィエルだが、ルミアが優しく頷くといちごタルトを食べながら頷いた。

 

「……うん」

「よっしゃ、ついでにデートとかどう?」

「それはダメ」

「ルミアの言う通りじゃ、毛根燃やすぞ」

 

 がくしと項垂れるカッシュに追い打ちをかけるルミアと俺。

 その間にシスティがいちごタルトは誰にも奪われないことを教えていた。うん、尊い。

 するとナーブレスとセシルが俺の使った魔術について聞いてきたので、六分の五と四君じゃ理解できませんよぉ〜と答えたらルミアが底冷えするような声で名前を呼ばれたので素直に答えた。

 

「【ショック・ボルト】(のような異能)で身体強化をかけた」

 

 ってね。嘘じゃない。

 珍しく優秀なナーブレス殿を感嘆させることができたようだ。何より。

 ただ、真似してみるとか言い出した時は全力で止めた。

 システィとルミアも珍しく血相を変えてだ。

 

「あれは、この電気バカだからできることだから! 体の中から破裂しちゃうわよ!?」

「は、破裂!? そ、そこまで言うならやめておきますわ」

「私もそれがいいと思うよ」

 

 うん、俺も。

 

 さ、リィエルもクラスの輪に入ったところで今日はこれから遠征学修のガイダンスだ。

 ……確か行くところは白金魔導研究所。

 あー、そっか。あそこか。なんつーか、因縁つーか、巡り合わせってのを感じるなぁ。

 

 ◆

 

 白金魔導研究所。

 これがグレン率いる二年II組が遠征学修で向かうところになった場所だ。

 しかし、名目は大層であっても実態は男子と女子が泊りがけで遊びにくお出かけのようなもの。

 クラス中が浮き足立つのも仕方がないことだろう。

 慣れない学校生活の更にイレギュラーな事態にリィエルはついていけてないのでルミアやシスティ、それにカッシュやウェンディが補足説明をする。

 するとリィエルはなんだかよくわかってないようなわかった表情をするものだから、説明は難航を極めた。

 普段ならグレンに代わりラクスが割って入るのだが、今は白金魔導研究所のパンフレットを何故か念入りに読んでいる。

 グレンの講義は終わり、心配になったルミアは荷物をまとめるラクスに話しかけた。

 

「ラクス君は将来は研究所で働きたいの?」

「うーん、いいや。俺には合ってないかなーと思って」

「そんなことないよ。ラクス君が研究者気質だったから私は大助かりしたんだよ?」

 

 一応、他の者の目もあるのでぼかして伝えるルミア。

 一方のラクスは何故か要領の得ない曖昧な返事を繰り返すばかりだ。

 しばらくそんなことを繰り返してるとリィエルがラクスに寄ってきた。

 

「……ラクス、今日はいちごタルトがいい」

「あいよ。デザートは食後にな。今日は肉メインの料理だ」

「いちごタルトがいい」

「栄養偏るぞ、偏食家め」

「頭を使うから糖分が必要。グレンも言ってた」

「ならいちごタルト、必要ねぇーじゃん」

「……生きてけない」

「いちごタルトは麻薬じゃないよね!? どんだけ気に入ったんだよ……まぁ、いいよ。お前が何かを欲しがるなんて滅多にないからな。先に帰っとけ、俺はルミアと話して帰るから」

「楽しみにしてる……ルミア、また……明日」

「うん、気をつけて帰るんだよ」

 

 慣れない動作で手を振るリィエルにルミアとラクスは自然と笑みがこぼれた。

 今日一日で随分と馴染んだものだ。

 それもこれも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたルミアやシスティ、それに受け入れたクラスのおかげだろう。

 

「ありがとな、ルミア」

「えっ。どうしたの、急に」

「いいや……グレン先生はともかく俺が言うのは筋違いだな」

「そうかなぁ。私はラクス君とリィエルを見てて兄妹って感じがしたけど、違うかな?」

「目端がきくなぁ。その通りだよ、俺はあいつを勝手ながら妹みたいに扱ってるんだよなぁ。本人は傍迷惑に感じてるかも」

「それはないと思うよ。リィエル、グレン先生と同じくらいにラクス君のことが凄く好きみたいだし。妬けちゃうなぁ」

「恋の到来!? ルミアの心に吹く春風、ラクス・フォーミュラですっ!」

「調子に乗らないの」

「おうす」

 

 少し高い位置にあるラクスの頭を小突くルミア。

 ルミアはそろそろだろうかと感じて、本題を切り出した。

 ラクスに感じた言い知れぬ不安感だ。

 それを一言で形容するなら揺らぎ。

 今のラクスはどうも、か細い線のように見えてしまってルミアはいつ折れるのか気が気じゃなかった。

 

「ラクス君は遠征学修、行きたくないの?」

 

 それは眠いだとか、だるいだとかいつものふざける理由ではないことは明らかだった。

 ルミアがラクスの調子がおかしいと感じ始めたのはグレンの講義からであったので恐らくは遠征学修について。

 ラクスは隠し事が面白いくらいに下手くそなので、人一倍に鋭いルミアが見抜くことは造作もないことだった。

 ラクスは一言、流石だなぁと呟いて続けた。

 

「遠征学修というより白金魔導研究所かな」

「なにか嫌なことでも……もしかして、()()()見えたの?」

 

 未来予知のことだ。

 ルミアはまだラクスがどういう理由で見えるのかまでは聞かされていない。

 意図的に誤魔化されていることはわかっていたが、本人が言わないのだから無理に聞くつもりもない。

 ラクス・フォーミュラという人間は本当にそこらへんが仕方がなく、手のつけようがない。

 ルミアは大人しくいつか話してくれるだろうと待つことにしたのだ。

 しかし、ラクスは驚いたように手を振って未来予知を否定した。

 

「ないない。そこまで大袈裟なものじゃなくてさ……そうだなぁ」

 

 ラクスはひとしきりに考えたあと、とんでもないことを口にした。

 

「今週末にデートしよっか?」

「ふぇっ? 私が? ラクス君と?」

「他に誰がいるのさ。嫌?」

「い、嫌じゃないです! けどっ」

「けど?」

「あうぅぅ……よ、よろしくお願いします」

 

「「「えぇぇぇぇぇぇ!!!??」」」

 

 ここにラクスとルミアのデートが取り付けられた。

 日程と待ち合わせ場所は後日、ただ遠出になるので足が棒になることは覚悟してほしいと残し、ラクスは教室を出た。

 残されたクラスメイトは騒然としている。

 如何に仲が良かったとはいえ、急すぎるだろう。

 

「で、デート。私とラクス君が? あわわわ」

 

 騒動の中心のルミアはこんな調子で顔を赤くして、ラクスの席を見つめては悶えている。

 

 そして、そういうゴシップを好むのがII組の担任のグレンだ。

 

「これは楽しくなってきたなぁ、白猫!」

「もうっ、先生! 面白がらないでください! 確かにラクスがルミアをデートに誘ったのはアレですけど」

「つまりは関心があると」

「だ、だれもそんなこと!」

「皆まで言うな。俺は全部わかってるから」

「先生……!」

 

 システィはグレンがルミアを心配してるんだよなと続けると思った。

 

「ミーハーだな。お前も……よし、このグレン=レーダス大先生が尾行のテクニックを授けてやろう。今度のトレーニングはそれで決まりだ」

「少しでも信じた私が馬鹿でした」

 

 週末はルミアとラクスのデートを尾行するグレンとシスティという奇妙な構図が出来上がることが決まった。

 

 ◇

 

 なんで俺はあんなことを口走ったんだろうか。

 思いっきり良すぎないか、過去の俺。頭のネジが飛んでいったか。

 さ、さーて、過去のことは後悔しても仕方がないので馬車の中でルミアと二人っきりという状況についてどうにかしていこうと思う。

 

「きょ、今日もいい天気ですね」

「う、うん、そうだね」

 

 ダメでした。

 俺もルミアも緊張のしすぎで話が続かない。

 デートっていう名目が俺にもルミアにも効きすぎたっぽい。

 

「そのーなんだ。今日は孤児院に行こうと思ってな。この前に約束したろ、次行く時は一緒にって」

「覚えててくれたんだ」

 

 当たり前だ。

 ルミアとする約束はどれも大事なものばかりで大切なものだ。俺をこっち側に引き止めておいてくれる鎖とか錨のようなもの。それを忘れるなんてとんでもない。

 

「今日は少しだけ長くなるし重くなるかもだけど、ルミアにはキチンと俺の自己紹介をしようと思ったんだ。付き合ってくれるか?」

「もちろん! 私からもお願いします」

 

 朝からこの笑顔を見れるとは早起きした甲斐があったぜ。さ、目指すは孤児院。空いた時間で少しだけ話しておくか。

 

「この前の幽霊を覚えてるか?」

「綺麗な金髪の人だよね。不思議な人だった。惹きつける魅力を感じたかな」

 

 王家の血筋であるルミアがそういうのだからニコラのカリスマは相当なものなのだろう。

 俺からしたらただのポンコツでも他人から見るとこうも違うとは。世の中は不思議で溢れてる。

 

「うん、ニコラ・アヴェーンって名前でな。一応は俺よりも先に孤児院にいた先輩だ」

「ラクス君の先輩なんだ……うん、納得」

「するな、するな。最終的には俺があいつの面倒を見たんだぞ?」

「えっ、どうして?」

「人は見た目に寄らないんだよ。アレはカッコつけて盛大にずっこけるタイプだから、必然的に後からくるガキ共も共同で面倒を見たんだ」

 

 いやー大変だった。

 アルバムの写真から俺の苦労を押して図るべし。

 

「そのせいで俺は『お父さん』、ニコラは『お母さん』なんて言われてな……って、なんで不機嫌になる?」

「……別にー」

「? じゃ、話を続けるぞ」

 

 お父さんお母さんのくだりで急に不機嫌になったルミアだが、理由はよくわからないので放置。

 長い話なのでちゃっちゃと済ませよう。

 

「でなー、ニコラは死んじまっんたんだよ自分の異能のせいで」

「え……そんな、急に」

「……割と珍しくないのかもな。異能者ってのは。ちなみにニコラの能力は俺と同じの【電気操作】。俺よりも出力は下がるけど応用の幅が効くもんだった」

 

 ニコラは最初は隠していたが、ある日を境に教えてくれた。そんときに俺もネタバラシ。

 あん時は、大変だったな。

 

「【電気操作】の能力が暴走すると周辺の建物や人に無差別に放電するようになる。当然、暴走なので人の定格電圧ってやつにすぐに到達。熱と電気が能力者の体を吹き飛ばす……ニコラは即死だった。死体のない葬儀は寂しかったよ」

 

 ニコラは死体も残さずに爆発したのだ。

 

「ニコラは若くして研究所にスカウトされて、そこで起きた事件だった」

「それって……」

「そう。それが白金魔導研究所」

 

 これが俺の行きたくなかった理由だ。

 未だに行くのが躊躇われる場所だし。

 つかあの研究所は再建がすげー早かった。そういえば、再建で忙しい中、所長を名乗る人は葬儀に参加してくれて嬉しかった。

 

「さて、到着だ」

 

 空気を悪くしてしまったな。

 これはホラ。孤児院にいるガキどもに癒してもらわないと。

 

「ここがラクス君のいた……」

「そう。名前が昔と変わって帝国立になったけど、実態はなにひとつ変わらない俺の故郷だよ」

 

 アルザーノ帝国立ヨクシャー孤児院。

 今も昔も、金があるくせに卒院生のサインがあるからって門すら建て替えない、そんなところだ。

 

 ◆

 

 ラクスとルミアは来院早々にこの孤児院の院長であるセルゲイ=カリリウスに応接室に通された。

 しかし、実際に応接室にいるのはルミアとセルゲイのみ。途中でラクスは孤児院の子供にすごい勢いで拉致された。

 

「ラクス君はすごい人気なんですね」

「えぇ、彼らもいずれはラクスのようになりたいと常日頃から言っています」

 

 応接室の窓から見える校庭ではラクスが腕を曲げて、そこに子供をぶら下げて回転している。

 頭に一人を乗っけて左右の腕に二人づつを抱えて人体メリーゴーランドをしていた。

 教師が向いてるのかもしれない。ルミアはそう感じた。

 

「ラクスはね。ほんの一年前まではあんなに社交的じゃなかったんですよ」

「確かに……ラクス君は少しだけ捻くれていた時期がありました」

 

 当初は勉学と釣り合わない実技の結果に悩んでいるのかとクラスメイトが総出でメンタルケアの真似事をしていたが、突っぱねるラクスに次第に声をかけるものは少なくなって行った。

 そんなときに意外と熱くなるのがシスティであった。

 連日、連日。来る日も来る日も説教を根気強く続けて、ラクスも観念したように謝罪。次の日にはクラスメイト全員に一人ずつ丁寧に謝罪をしていった。

 システィが熱くなるということは近くにストッパーであるルミアがいるのもごく自然なことで、説教というより諭すのがルミアの役割だった。

 

「それもこれも、どうやら金色の天使がどうとかで」

「あはははっ、学院にはいろんな人がいますからね」

 

 もちろんルミアのことだ。

 ルミア自身、ラクスがそういう風に呼んでいることは知っているので顔を赤くするのまた、ごく自然なことだ。

 

「感謝しています、本当に。彼は将来が有望な若者です。過去を忘れろとは言いませんが、囚われてはいけない。どんなに辛くても前を向いて歩かないといけないのです」

「ラクス君にぴったりな前向きな言葉ですね」

「ははっ、お恥ずかしながら子供達の受け売りです。聞いているでしょう、ニコラのこと」

「はい。とても聡明な方だったとお聞きしています」

 

 実際に見たとは言えない。

 

「彼女はラクスの前だけでは子供のようでしたが、教員や子供達の前だと大人になるんです。そのときの言動は人生を経験してきた者でも舌を巻くほどでした」

 

 大人ぶるのではなく、大人になる。

 それがどれだけ難しいか、帝国の教育を受けていたルミアには痛いほどわかるし、それができたというニコラに敬意を抱いた。

 

「親バカに聞こえるかもしれませんがニコラとラクス、この2人がそのまま大きくなっていれば帝国の技術に貢献できたと思っています」

「なんか、羨ましいなぁ」

「おや、まさかラクスに懸想を」

「けっ、懸想!? そ、そんなこと……」

 

 ある。

 しかし、それを素直に口にするのは憚られた。

 理由はない。システィはいつもこんな感じなのかとルミアは初めて体験した。

 

「ははははっ、なんだかんだでラクスも上手くやってるようで安心しました」

「もうっ、からかわないでください!」

「いや、失敬。歳を取ると楽しみが少なくなって」

 

 だからって年端もいかない少女をいじめていいわけではない。

 もしかしてラクスは院長に似たのかとルミアは疑うが、ここで考えても答えがでるはずもなく。

 しょうがないので、出されたお茶を飲んで話題を濁して煙にまいた。

 

 ほんのちょっとだけ時間が流れて、急に()()()()()()()()小窓が開く。

 顔を乗り出してきたのはラクスだ。

 きっと、見えない小窓の下の壁の向こうには子供達が集まっているのだろう。応接室に元気な子供達の声が響く。

 

「ラクス、鍵は魔術で開けるなとあれほど」

「いや、悪りぃなセル爺。魔術が使えると人間って堕落するんだよ」

「うーん、システィが怒りそうだなぁ」

 

 もちろん、魔術ではなく異能なのだがそれは些事だろう。

 というか学院の外では無闇に魔術は使用するなと言われているのにとルミアは若干、ため息が出る。

 大道の前に瑣末なことは放っておけと言わんばかりだ。

 まぁ、そんなところがグレンと相性が良い理由なのだろう。

 先日も喧嘩しながら仲良く事務室に提出する書類を作成していた。

 なんでもお詫びとしてグレン自らが修理を行うらしい。

 ちなみに経費の水増しで得た金を得る魂胆はラクスの入れ知恵だ。それは残念なことにシスティーナに阻止されたが。

 

「んなことより、ガキ共の人数が多すぎて遊びきれない! 帝国立になってから職員、増えたんじゃないのか?」

「流行り病で休んでいてね。人手が足りないんだ」

「うわー、思ったより深刻な理由じゃんか……なぁ、ルミアーーー」

「いいよ、時間もあることだし」

「いや、俺まだ何も言ってないんだけど」

「分かるよ、言わなくても。休日にこんなことを頼んで申し訳ないって気持ちも……ラクス君は顔に出過ぎなんだよ」

「ま、まぁ、ありがとうな」

「……ラクス、絶対に手を離してはいけませんよ」

「うるせー」

 

 セルゲイの言葉に顔を赤くしながら答えて、小窓を閉めた。

 

「それじゃ、私はラクス君を手伝ってきます。ラクス君の昔話を聞けて感謝してます。ありがとうございました」

「えぇ、こんな話でよければまたいつでも」

「はいっ!」

 

 ルミアはセルゲイに一礼して、応接室を出た。

 応接室に残されたセルゲイはコップの片付けを行いながら呟く。

 

「あんな2人を見てると、心が痛みますねぇ」

 

 セルゲイはどの口が言うんだと自嘲気味にさらに呟いた。

 今日も孤児院は子供達の元気で溢れていた。

 

 ◇

 

 結局だ。

 今日は丸一日、ガキ共の相手をしてしまった。

 午後3時のおやつ的な物まで用意してくれたルミア大先生には頭が上がることは一生ないだろう。

 セル爺の配慮で臨時で働いた給料も頂いた。日雇いにしては割といい額だ。

 ルミアは最初は受け取るのを頑なに拒否していたが、俺が説得をしてなんとか受け取ってもらった。ルミアらしい。

 今はルミアと一緒に馬車の中で雑談している。

 ニコラの墓参りもしようかと考えたが、ルミアもいるし時間も時間だし。こんな可愛い天使を夜遅くまで連れまわすのはいけないだろう。

 あのハイスペック親バカさんに殺される。

 

「ラクス君は昔からやんちゃだったんだね。セルゲイさんから聞いたよ」

「待て、あの爺はなにを言っていた?」

「うーん、あんまし覚えてないかなー」

「ルミアちゃんのイジワル! もう遊んであげないっ!」

「私は別に構わないよ?」

「ちょ、まじで勘弁してください」

「あはは、冗談だよ」

「世界は救われた」

 

 焦ったー。マジで世界の終わりを感じちゃったわ。

 ルミアが相手をしてくれないならば、ルヴァフォース相手に全面戦争を挑むことも辞さない。

 

 そんなこんなで楽しい時間はすぐに経つものだ。

 馬車を降りて俺はルミアを丁重に家まで送る。

 さすがに親バカといえども玄関で待機はしてなかったようだ。安心した。これで安心して贈り物ができる。

 

「ルミア、今日は一日中付き合ってもらってありがとな。日頃のお礼と感謝を込めて贈り物だ」

 

 それと小さじ一杯程度の親愛を、ってな。

 

「えっ、私はなにも用意してなくて、その」

「交換会じゃないんだ。気に入らなければ捨てて構わないから開けてみてくれ」

「捨てない! 捨てないよ……こんなに嬉しい贈り物」

 

 お、おぅ。破壊力があるな。

 素直な感想にラクスさんはとても弱いの。

 ルミアはゆっくりと丁寧に梱包を外していき、俺の贈り物を取り出した。

 

「これって……」

 

 俺がルミアに贈ったのはアルザーノ魔術学院女子制服の右手のリストバンドのアレンジ版。

 事前にシスティや女子力高そうなナーブレスとかテレサに聞いた結果のものだ。

 

「それってペンのインクが移るんだって?」

「うん、いろいろと手が加えられてるらしいんだけどインクの問題はまだまだで。女の子は週末にしっかりと洗うんだよ?」

「おう、だから。【ショック・ボルト】を付与しといた」

「……ん?」

 

 こびりついたインクに対して微弱な電流を流すことで付着する色素を分解してーとかやればいんじゃねーとか思ってたらなんかできた。

 やっぱり電気系統の魔術は相性がいいなー。

 それもこれもグレン先生の講義のおかげでもある。

 出力を落とす詠唱を応用した。

 

「細かいことは省くけど、インクはこれで移らない。移っても水でさっと流せば完璧さ」

「いや……いやいや、こんな高価なもの受け取れないよ!」

 

 ルミアはそう言ってリストバンドに付けられた宝石を指差す。

 

「魔力充填用のラピスラズリだな。それ、あれだぞ。適当な粗悪品を磨いただけだから実質タダだぞ?」

 

 砂鉄のチェーンソーで少々削ればすぐに光る。

 

「ラクス君ってなにを目指してるんだっけ?」

「……いうな。電気が万能過ぎるからいけないんや」

 

 それにラピスラズリにした理由はまだある。

 

「トーマの月の7日」

「それって」

「おう、ルミアの誕生日だろ? ラピスラズリは誕生石なんだよ。あと魔除けの意味もあるとかないとか」

「……ふふっ、なにそれ」

「俺もよくわかんないだよ。本に書いてあっただけで、実際のとことかどうとか」

「急にロマンチックじゃなくなったね」

 

 ロマンじゃ魔除けはできないし。

 

「ありがと、大切にするね」

「是非とも大切に使ってやってくれ。できれば、感想とかも頂けると嬉しいかなって」

「もうっ、抜け目ないなぁ」

「面目ない」

「ううん……構わないよ。辛口の採点をするから覚悟してね」

「こりゃ、手厳しくなりそうだ」

 

 俺とルミアは笑い合って玄関まで見送った。

 ルミアがやけに大きい声でまたね言うもんだから親バカさんに見つからないか心配だったが、杞憂だったようだ。

 俺は手を上げて別れを告げた。さぁ、帰る時間だ。

 と、その前に。

 

「《あっ・雷精が急に・滑ったー》」

「うおっ!? てめぇ、ラクス! んなところで【ショック・ボルト】なんてなに考えてるんだ!」

「ちょっと、先生! 今出たら!」

「あっ、やっべ!」

「うん? 今出たらどうなるんだシスティ? 俺が本気で雷系の軍用魔術使っちゃうとか?」

「じょ、冗談よね? それにしてはタチが悪いわ」

「冗談に聞こえるか?」

「あ、あはははは。そうなるわよねー、ちょっと先生! だから私は止めよって言ったのに!」

「あっれー白猫ちゃんってば『そこよ、ラクス!』とか『ルミア、ナイス』とかっていってませんでしたっけー?」

「あ、あれは! そのなんというか……ごめんなさいラクス」

「ならん、ビリビリ行くぞ」

 

 俺がちょっと異能で威嚇すると同時にグレン先生はシスティを抱き抱えた。

 

「ほぉー、監視の目があるなかで自制していた俺に対する当てつけか、ソレは?」

「監視の目がなかったらルミアになにかしてたの!」

「天使に不貞を働くわけないだろ! 怒るぞ!」

「もう怒ってるじゃない!」

「取り合うな、逃げるぞ、白猫! あぁなったラクスはもう……誰にも止められない」

 

 いや、グレン先生? カッコつけてもダメなもんはダメやで。

 

「俺たちはラクスの屍をこえていかないといけない……ッ!」

「よーし、全開で追っかけるから覚悟しろよ先生ー」

 

「「ひっ!」」

 

「お前ら、仲が良いな!?」

「そ、そんなことはないわ! 私と先生が仲が良いなんて、そんなこと」

「喋るな白猫、舌を噛むぞ!」

「う、うわわーーー!!??」

「腹一杯満足です。ムカムカしてきたので八つ当たりしたいです」

 

 なぜ休日に先生とシスティのイチャイチャを見せつけられなければいけない!?

 ったく、仲が良いな全く!?

 

 こうして俺とグレン先生とシスティの夜の鬼ごっこが開始された。

 次の日の学校? 俺もグレン先生も足がガクガクしてたよ。

 まぁ、先生は教員なので立って授業しなきゃだしぃ?

 対する俺はずっと座ってられる。

 要するに、この勝負は俺の勝ちだ。ざまぁみろストーカーどもめ。どこから見てたか知らんが、人の恋路を覗き見るなんていけません。

 

 え、なに、システィ? ……うん、そうか。なるほどね、って最初から!?

 丁寧に馬車で追っかけててたの!? お前らのその熱意はどこか他の場所に向けてやれよな!?

 

 

 

 




3、4巻の内容を最後まで描き切ったぞ!ってなわけで投稿です。
AFTER? それはまだです、さーせん。
これからは数日に分けて連続投稿しますね。よろしくお願いします。

この場を借りて誤字報告の感謝を申し上げます。
団栗504号様、ヒビキ(hibikilv)様、teemo様、ハインツ・ベルゲ様、ありがとうございました。
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