ロクでなし魔術講師と超電磁砲   作:RAILGUN

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RAIL 6

 例えるならそうだな。大怪獣決戦というのがぴったりと当てはまる。

 ブラウモンは薬を使った結果が命を縮めるものだとは分かっていないのだろう。それはそういうものであり、ブラウモンは自身に都合の悪いことには盲目的だ。

 

「くそがっ!」

「がはっ!?」

 

 なりふり構わない一撃を良いところに貰ってしまったな。

 ブラウモンはここぞと言わんばかりにグロテスクな羽を広げて天井に穴を開けて飛び立った。まるで、自分が見下ろすのは当然であるかのように。

 すかさず俺は『水分操作』と『火炎操作』、そして自身の持つ『電気操作』で大きな水の翼を形成してブラウモンを叩きつけた。

 

「ぐぅ、このっ!」

 

 空気中に浮かぶ水蒸気を繊細にコントロールすることは平時の俺じゃ絶対に真似できない。

 処理を並列分散して、扱う異能を分けているからこそできる芸当だ。

 空から見渡せば、アルベルトさんは既に戦闘を終えているようだった。驚きながらもこっちを見ているが、走りは止めない。グレン先生の手助けをしに行くのだろう。

 ただ、グレン先生ももうじき片をつけるだろう。

 『アクティブ・レーダー』に映る映像でグレン先生が青髪のクソ野郎に銃を突きつけて、殴り飛ばす鬼畜な所業を見た。

 

「俺らも決着をつけようか?」

「なんの話をしている。トチ狂ったか!?」

 

 はっ、会話にならねぇ……な!

 

「うあぁぁぁぁ!!!?」

 

 俺はブラウモンを元いた場所に蹴り返してやる。

 今度は俺が見下ろしてやる。

 案の定、ブラウモンは怒鳴り散らすがそれこそ無視というものだ。聞いてやる価値もない。

 ブラウモンはそのまま後ろに迫るニコラに気付かずに殴り飛ばされる。

 

「そ、そもそもだ。電気操作(ニコラ)、貴様は霊体であるのに関わらずなぜ現世に干渉できる!?」

 

 確かにその疑問はもっともだな。

 俺も彼女の記憶を覗くまでは分からなかった。

 

「簡単なことよ。あなたの生ゴミ(四肢)の始末が杜撰だっただけ」

「なっ……貴様は正気か!?」

「少なくとも128人の体を好き勝手に弄りまくるあなたよりは正気よ」

 

 そう、ニコラは霊体でありながら自身の体の四肢を取り込んだのだ。

 不安定な状況だからこそできる力技だが、憎い相手をぶっ飛ばすにはこれ以上ない策だ。

 ニコラは今日、この日のためだけに未来を捨てたのだ。

 だからこそ、俺は乗った。

 霊達の首領であるニコラを失えば白金魔導研究所はまず間違いなく、ダンジョンと化すだろう。

 渦巻く怨念は彷徨い続け、永劫の闇に囚われる。

 タイムリミットは今日。

 ニコラが完全に消滅する今日だ。

 それを俺が知れば必ず手助けすると分かっていたからニコラは協力を拒んだのだ。

 命がけというフィルターを通さずに俺の目で感じて決めて欲しかったのだろう。

 それは一流の復讐者なりの矜持だ。

 忘れれば、今までの行いはただの獣がしたことに堕ちるのだ。

 血を流し続けたブラウモンの体が急速にしぼんでいく。

 どうやら自分に何が起きているか分かっていないようだが、それは俺や128の魂達には関係のないことだ。

 

 決めよう。

 俺たちなりのケジメをつけるんだ。

 

 ◆

 

 ラクスは圧倒的な余裕から生まれた驕りを失い、尻餅をついたバークスの真正面に立つ。

 紡ぐ呪文はバークスでも聞いたことがないもので、固有魔術であることは明白だった。

 加えてバークスは外道ではあるが優秀だ。故に、これから繰り出される魔術が超級の攻性魔術であることを一瞬で看破した。

 

「《空を駆け抜けるは・紫電の流星ーーー」

 

 触媒を砕くこともなく紡がれる言葉はニコラ達からの贈り物。この一件に関しての僅かばかりのお礼だ。

 

「願いを抱えて・全てを砕く・その威光は破魔の雷槍が如し」

 

 コインを取り出して宙に投げた。

 右手を大きく引き、腰を落として打ち出す構えを終えた。

 狙いはバークス=ブラウモン。

 ラクスの家族を奪った男だ。

 

 生かす価値などない。

 

「果てへと至れ!》」

 

 ーーー研究所から紫電の流星が飛び立った。

 

 ルミアは確信した。全てが終わったのだと。

 しかし、流星に願わずにはいられなかった。

 光帯が狭まる前にルミアは両手を合わせてお祈りをする。

 それが偽りの流星だとしても、どうか届いて欲しい。

 

「無事に帰ってきて、ラクス君」

 

 そう願わずにはいられなかった。

 

 願いを込めた流星が空へ飛び立つ。

 今、正しく超電磁砲が完成された。

 

 空を紫電の流星が駆け抜け、果てまで飛んでいく。

 

「はっ、はっ……くっう」

「ああああ、な、なぜだ。私は生きて……?」

 

 黒魔完【超電磁砲】がブラウモンを消滅させることはなかった。

 研究所は8割吹き飛んでいたが、紫電の流星はバークスの横を通るようにして軌跡を残していた。

 

「それがニコラの願いだ。マイク、メイライ、トニー、ブラウス……それにあいつらの友達の願いだからだ」

 

 彼らは最初の契約の時にラクスに告げた。

 未来に生きる者が死者に誑かされてはいけない。

 救うべきに振るわれる手が血濡れではいけないと。

 

「お前なんか殺す価値もない」

「な、なにをっ!!」

 

 ブラウモンが最後の力を振り絞って人の身としてラクスに殴りかかる。

 ラクスもそれに全力で応える。

 

 彼らは言った。

 ブラウモンに突きつける絶望は既に決めてある。

 落として、落として、勝ち逃げしてやると。

 最初から行われていたニコラとラクスの必要以上の煽りも最後への布石。

 

「ぶはっ!?」

 

 ラクスの拳がブラウモンの顔を捉える。

 陥没した鼻が今までのように回復することはない。

 ラクスの目が青く淡く光る。

 だらりと伸びた腕から突きつける指先が複数の意思をもつ。

 淡い青色の粒子がラクスを中心に渦巻き、強烈な光となり現出した。

 

「こ、これは……」

 

 ブラウモンが驚くのも無理はない。

 出現したのは127の魂達。

 力を失いかけて存在が希薄となった霊達。

 瓦礫に腰をかける者。子供達の肩を支えている兄貴分。天井に足をつく者。

 それぞれがブラウモンに向けて指を指していた。

 これから紡ぐ言葉は実験動物として見下し続けたブラウモンへの逆襲。

 一生の最期を切り取り反逆する。

 お前なんかに利用されていたものかと。

 お前のような下衆に選択権なんてない。

 

「「「お前なんか殺してやらない!」」」

 

「お前を裁くのは人じゃなく法だ!」

「だれもお前を助けない!」

「天から見下し続けてやる!」

 

 幽霊達が矢継ぎ早にブラウモンをまくし立てる。

 対するブラウモンは顔を青くさせ、震えるだけだ。

 

「私達はあなたに勝った!」

 

 声帯をはちきれんばかりの勢いでニコラが吠えた。

 

「だそうだブラウモン(負け犬)。お前は結局、見下し続けた者に追い越されるのが嫌だっただけだ。異能を嫌いながらも研究するうちにお前はお前の存在価値を疑った!」

「だまれ、だまれ、だまれだまれだまれ……ッ!」

 

 顔をとうとう白くさせたブラウモンが立ち上がった。

 ラクスに額をぶつけて叫ぶように言葉をつないだ。

 

「天才だ。バークス=ブラウモンは天才だ。万象の真理を解き明かし、世界を切り開くのだ。戦いだのとくだらない遊戯に使う貴様ら野犬とは違う。違うのだ!」

「違わねぇよ。結局、異能の力を使って俺とやりあったじゃねぇか。なんにも変わらねーよ」

「低俗な貴ーーー」

「ガキどもが寝る時間だ。静かにしてくれよ」

 

 ラクスは腹部を【ショック・ボルト】をまとった腕で殴りつけた。限界だったのだろう、ブラウモンはあっさりと床に伏せた。

 

「続きは地獄で聞いてやる……聞けたら、だけどな」

 

 こうしてラクスと128の迷える魂達の戦いは幕を閉じた。

 

 ◇

 

 ブラウモンを【スペル・シール】で丁寧に拘束して俺は一息つく。

 残りは後始末だ。

 と言っても、そんなものはほとんどないのだが。

 大体はもう吹き飛ばした。

 頭の中に響く声も途絶えた。怨嗟は潰えたのだ。

 それは目の前で次々に消えていく子供達の笑顔が証明してる。

 

「ありがと、お兄ちゃん!」

「お礼を申し上げます。さよなら、雷撃の人」

「またな。いずれの空でまた会おうぜ!」

「おうおう、達者でな。風邪に気をつけるんだぞ?」

 

 妙に変な言葉を使うやつらが多いが、外に出ない影響だろう。暇つぶしで本を読んでそれが普通だと思ってしまったやつも多いみたいだ。

 

「おう、お父さんお母さん!」

「マイク、メイライ、ブラウス、トニー……」

 

 霊達も続々と消えていき、見知った顔がやってきた。

 ニコラも溢れでる涙が止まらないみたいだ。

 あぁ、俺も止まらないよ。

 

「最後はぁ……笑って見送ってやる……って、決めたんだけどな……っ!」

 

 俺はたまらずにニコラを巻き込んで四人を抱きしめた。

 家族の温かみだ。こんな時だってのに安心する。そんな温度だ。

 

「お父さん、すぐにこっちくんなよ?」

「バカマイク。ガキが親の心配するなんて100年早いわ親不孝者め」

「心配だなぁ」

「……全く生意気な子供達だよ」

「俺らはお母さんがいるからな! お父さん1人で大丈夫か?」

 

 あぁー正直なところ厳しいな。

 

「大丈夫よ。お父さんは妾さんがいるから」

「ちょ、ニコラ!?」

「うわーお父さんやるぅ! ひゅーひゅーだぜ」

 

 随分と古いネタを使って煽りをかましてくるマイク。

 誰に似たんだか。いい加減にしてほしいぜ。

 

 ……もう時間か。

 マイクやメイライにブラウス、トニーの体は半分以上が透けてしまっている。

 本当に目を背けたくなるくらいに残酷な現実だ。

 でも、子供達の旅立ちを親が見届けないわけにはいかない。こいつらは今よりも大きな空で羽ばたくんだ。

 こんな汚い世界で閉じ込められたような檻の中でなく、綺麗な青空の下で。

 だから、俺は精一杯の笑顔で送り出さなきゃいけない。

 それがこの子達の親の義務で、俺がやりたいことなのだから。

 

「行ってらっしゃい。道中気をつけるんだぞ?」

 

「「「「うん。行ってきます、お父さん!」」」」

 

 それがあいつらの最期の言葉だ。

 大きな穴が開けられた研究所から飛び立って行く。ようやく、あいつらは解放されたんだ。

 

 願わくばどうか、月の光に導かれるまま安らかに。

 

「みんな行っちゃったね」

「あぁ、置いてけぼりにされちまった」

 

 残る霊体はニコラのみ。

 ニコラは体が残っている分、現世にしがみつく力が強いのだとおもう。けど、それも……時間の問題。

 

「俺は……無力だ」

「ううん、そんなことないよ。久しぶりに必死なラクスをみたら昔を思い出したよ」

「……どんなことを?」

「木登りに夢中になって降りれなくなったトニーを助けたりとか」

「あんときは俺も怖かった。あいつ暴れやがるもんだから、マジで死にかけた」

「ふふっ、今も昔も子供達のために必死になる『お父さん』はカッコいいよ」

 

 そうか。

 ありがとう。

 

「……あーもう! ラクス・フォーミュラ!」

「は、はいっ!?」

 

 急にニコラが俺の頬をパチンと挟んだ。

 しかもフルネーム呼びとかいう懐かしいやり方で。

 

「うじうじしない! 無い物はない、ある物はある! 私達は研究所にずっといて不自由だったけど不幸じゃなかった! ラクスは不幸を理由に不自由になるつもりなの!?」

「そんなつもりは……」

「異論は認めませーん! もうっ、そんなんじゃお母さん心配だよ。いい? 昔から言ってるはずだよ、未練とご飯は残さないって」

「初めて聞いたんだが」

「知りませーん! もうっ、そんな……んじゃお……母さん心配……だよ」

「ニコラ……」

 

 ったく、慌てん坊の癖に無理をして今まで頑張ってきたんだな。

 俺はニコラをたまらず抱きしめた。

 

「よく頑張ったな」

「うん……うん」

 

 変なところに頑張り屋なところがあるからニコラはなんでも背負っちまう。

 昔の俺じゃ、わからなかったけど今は違う。

 ニコラが経験してきたものを記憶として持っている。

 ()()()()()と異能を駆使して自身の存在を死へと傾けた。

 その代償はあまりにも大きいものだった。

 

 俺が見たニコラの視界は時たまにぐちゃぐちゃだった。

 人は人として認識できずに無数の触手で構成されてた。

 そういうときは声だけで誰かを判断していたのだ。

 不定期に訪れるその代償は激しくニコラの精神を磨耗させていただろう。

 

「子供達に情けない姿は見せられないだろ。今は俺の胸を貸すから思いっきり泣いていけ。これなら誰もニコラの泣き顔を見ることはない」

「うっ……うん……ラクスの……ばかぁ」

 

 今回限りだ。馬鹿呼ばわりは多めに見てやろう。

 

「私だって……生きたいよぉ……もっと、みんなと一緒に……笑って、泣いて生きたいっ!」

「あぁ! あぁ……ッ!」

「ふざけないでよ……なんで、私達だったのよ! 他の誰でもよかったじゃない……わああんんん!!!」

 

 ここに来て初めて聞いたニコラの本音。

 つまりニコラはどこまでの平凡を求めただけだったんだ。それは俺も同じこと。

 だよなぁっ……もっともっと生きていたかったよな。

 

「……俺がっ……ニコラの分も家族の分も生きていく」

「大丈夫なの……お父さん?」

「正直言うと厳しい。今にも消えてなくなりそうだ」

「マイクが言ってた通りね。すごく心配」

「それでもニコラの言う通りに不幸であることで不自由になっちゃいけないんだ」

「……うん、少しはまともになったかな」

 

 次第点は頂けたようだ。

 

「約束する。俺は幸せになってみせる」

「それでこそだよ。言わなくても分かってるみたいで安心した」

「お前の記憶も見たからな」

「以心伝心だね。実は私も見たからね?」

「……嘘だろ?」

「ホント……ルミアちゃん大切にしなよ?」

 

 ……あぁ、さすがだ。いつまでたってもーーー

 

ニコラ(お母さん)には敵わないなぁ」

「ふふっ、大勝ー利!」

 

 昔みたいにおどけてみせてVサイン。

 大敗北だよ。俺は。

 

「……時間だね」

「そうだな」

 

 ニコラの体はあいつらみたいに半分以上が消えかけてた。

 本当に時間ってやつは俺らのことを無視して勝手に進んでいきやがる。

 

「やることがまだ残ってるの。少し早いけど、行くね」

「あぁ。ニコラは前後不注意だからな道中気をつけて」

「もーまた子供扱いして!」

「あはは、ごめんごめん」

 

 大丈夫だ。ニコラが俺を勇気づけてくれた。

 もう、涙はーーー大丈夫だ。

 

「大丈夫、お父さん? 困ったら周りを頼るんだよ?」

「それ俺のセリフだから。ほら、心配しなくていいから。もう十分に元気はもらった。老後までは走り抜くさ」

「うん、それじゃ……ね」

 

 ニコラは月の光に寄り添うように飛び立って行く。

 と、思ったら引き返して来た。

 

「ティッシュ持った? ハンカチは? お弁当は漬物が入ってても我慢して食べるんだよ?」

「遠足に行く子供か、俺は!?」

「だってー!」

「あーもう」

 

 色々と台無しだ。

 この能天気娘は空気を読めないのか。

 

「しばらくしたらそっち行くから。そんときはまた孤児院を案内した時みたいに案内してくれ」

「……うん、うんっ。任せて!」

 

 それじゃ、本当に本当に最期のお別れだ。

 

「行ってらっしゃい、お母さん」

「行ってきます、お父さん」

 

 そしてニコラは今度こそ、月の光に寄り添い姿を消した。

 多くの霊が散って生じた霊子が研究所を幻想的に彩る。

 俺は研究所を後にしようとした。用はない。あとは縛ったブラウモンをアルベルトさんに渡して、研究所を跡形もなく吹き飛ばす。

 なのだがーーー

 

「うん? ……っ!?」

 

 首元に違和感を覚えて触った。

 首から掛けられていたのはルミアが着けているような金のロケットペンダント。

 コレは。アレだ。クリスマスの夜に俺がニコラに日頃のお礼って渡した記念の品。

 ロケットペンダントを開いて中身の写真を確認した。

 

「ああ……あぁ、ああああ……」

 

 納められていた写真は孤児院で撮ったみんなで笑いあう集合写真だった。

 もう限界だった。堪えた涙は決壊したダムのように溢れ出した。塞きとめることなんてできない。させやしない。

 

「……ありがとう……みんなっ……こんあ俺がけど頑張っていぎでくから……」

 

 ごめんグレン先生、リィエル、ルミア。

 もうちょっと帰るのは遅くなりそうだ。

 




まさかまさかの日刊ランキング1位を頂きました。本当にありがとうございます。

これからもルミア大天使をセクハラし続け、ラクスを苛めると誓います。
それはそうと、昨日はルミアの誕生日だったんでした。記念の話とか書いてなくて、期待されてた方申し訳ないです。ほ、ほら、また来年あるから。
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