ロクでなし魔術講師と超電磁砲 作:RAILGUN
「全てがおじゃんになっちゃったな」
旅行の計画とか、なんやらとか色々だ。
後悔してるわけじゃない。
ただ、心に出来たささくれみたいなものでこう……引っかかるって言うのかなぁ。
結局は全てが……丸く、うん。収まったと思う。
その、なんだ。学生が行く旅行ってイベントみたいなもんがあるだろ? 肝試しとかさ……告白とか。
ニコラに大事にしろって言われた手前、今からでも遅くはないのかもしれない。
けど、それじゃなんかずるい感じがする。
もちろん、ルミアが優しさで頷くとは思えないが、今の俺は客観的に見れば同じ家族を2度も失った悲劇の人。
補正とかは少なからず入るのかもってのは俺の考えすぎなんだろうが、告白は真正面からあとグサれなくだ。
研究所の外で物言わずに反応も無くなったあいつらを丁寧に処置し終えて、その場に腰掛けながらそんなことを考えていた。
「……体調が悪いか?」
「お気遣い痛み入ります。けど、そんなんじゃないですよ。一人の男の夢が破れた……それだけです」
「そうか……」
処置を手伝ってくれたアルベルトさんが気を回してくれる。つーか、この人は神父だったらしくなんかお見送りの言葉とかをやってくれていた。
ハイスペック神父だな。ちょっぴり憧れる。
「先輩としてさ。これからは孤児院でガキどもを見守ってくれ」
四肢を擬似的に取り戻させたニコラの遺体に語りかける。まったく、綺麗な寝顔だな。死んでるなんてわからねぇや。
それとこれから死体袋に入れて軍の方々が運んでくれるようにアルベルトさんが手配してくれたようだ。細心の注意を払うようにキツく言ってもらおう。
「ラクス、孤児院のことだが」
「えぇ、分かっていますよ」
考えないようにしていたが、まだまだ問題は残っている。
俺が見てきた状況とアルベルトさんが調べた証拠から疑念は確信へと変わった。
つまりは孤児院院長、セルゲイ=カリリウスとブラウモンの共謀。
セル爺はニコラやガキ共が研究材料になると分かっていて送り出した可能性がある。
院長という立場だ。どの生徒が異能者であるかは筒抜けだろう。ひた隠しにする俺とは違い、純粋なガキどもはすぐに自慢をしたくなるものだから。
考えないようにするってのは今更、都合が良すぎるよな。
「傲慢かもしれないですけど……ガキどもにセル爺が逮捕される瞬間を見せたくないです」
「同感だな。多感な時期にその光景を見せるには些か不安が残る」
驚いたな……まさか、いや。
これが本当のアルベルトさんなのだろう。
「当事者のお前たちには悪いが、これは特務分室が担当するには小さすぎる問題だ。故に室長は首を突っ込まないだろう」
「あぁ、あの赤毛の……」
イヴ=イグナイトだっただろうか?
アルベルトさんの様子を見るに相当に性格が悪いのだろうか。実際に話したことがないのでわからないが、いざという時のために警戒ぐらいはしておこうか。
「孤児院の件は俺が始末をつける。悪いようにはしない」
「……ッ!? ありがとう……ございますっ」
あぁ、本当っ良い人と出会った。
アルベルトさんは事件の後始末の総指揮を取ってくれるようだ。天の智慧研究会の調べがあるのに関わらず、ガキどもを傷つけないように全力で配慮をすると。
俺はアルベルトさんにこの人生でまだ一度もしたことない最敬礼を俺が持てる限りの最高位の敬意を伴ってした。
そんな俺にアルベルトさんは黙って肩に手を置く。
俺とアルベルトさんは軍の人が到着した明け方まで居心地の悪くない無言の時を過ごした。
研究所から帰る頃にはすっかり日は登り始めていた。
きっと、リィエルはシスティにビンタされて抱きしめられてるだろう。クラスの奴らも野暮だとか言って、その光景を微笑ましく見てるに違いない。
俺のすることは簡単だ。
まずは湿布を買って、ルミアの前で正座。
これだけの簡単なことだ。迷惑をかけたし、心配もさせた。こればっかりは俺の頭一つでどうにかできる問題じゃないだろう。
ルミアの少しばかりのわがままを聞かねば許してもらえないだろう。もっとも、ルミアがわがままを言えるのかどうかは別問題だが。
憂鬱になりながらも俺は旅籠についた。
玄関先にいたのはグレン先生だ。
「ただいま戻りました」
「……ラクス、今回の勝手な行動に対して言い訳は?」
「ありません」
「そうか……目が腫れてるぞ。飯の時間までにこれで冷やしとけよ」
「うおっ!? ……え?」
グレン先生は冷やされたタオルを投げて、部屋に戻っていった。
いやいや、それだけですかい。もっと、さぁ?
覚悟しろよ、馬鹿野郎とか言ってぶっ飛ばされるぐらいは覚悟していたのだが。
なんかグレン先生ってば殴りたくても殴れないみたいな顔をしてたな。
とりあえず先生の言う通りにベンチに腰掛けて目を冷やす。冷えたタオルを当てて初めて分かったが、相当に泣き腫らしてるみたいだ。すごい熱を持ってる。
と、そこで気配を感じて目に当てるタオルを取った。
気配の主はリィエルだ。
「ラクス……」
申し訳なさそうに人の名前を呼ぶもんだから割り込んで、座らせる。
「思ったより良い顔してんな。ほら、こっちこい」
「……ん」
ルミアとシスティは思っていた通り、リィエルを見捨てずに抱きしめたようだ。
リィエルの顔は今まで見てきた中で一番良い顔だと思う。花があるってのかな。
「グレンが……未来に生きろって言った」
少ししたらリィエルはポツポツと俺がいなかった時の話を始めた。
グレン先生……あの人はたまに、本当にたまにだけどいい事を言うよな。
「わたしはルミアとシスティーナを守る。それにグレンの剣になる。わたしは今一番やりたいと感じているのがそれ……ダメかな?」
「ダメなもんか。まずはリィエルの好きにやってみろ。結果は後からついてくる。大切なのはその結果から目を逸らさないことだ……できるか?」
「難しいけど……やってみる」
「その意気だ」
お前はもう特務分室の《戦車》じゃない。アルザーノ魔術学院のリィエル=レイフォードだ。
その名を以ってして、やりたいと思ったことに挑戦していってほしい。それが今回の一連の騒動で出したリィエルの答えだというならば俺はそれを応援しよう。
つまずけば、俺たちが支えよう。
立ち上がるための勇気を授けよう。
進むための助言を施そう。
俺たちはそうやって学んでいく学友なのだから。
「そうだ……ルミアが呼んでた」
「うっ……だろうな」
うーん、ちょっとっていうか大分、気が重いなぁ。
俺はリィエルにルミアが待っている場所を聞いて、ベンチを立った。もちろん、リィエルを撫でることは忘れない。
旅籠の近くに森があると、室内に虫が入ってきそうで怖いよね。
俺はルミアが待っているであろう場所に行くまで適当な事を考えて、気を紛らわせていた。
森の中を少しだけ進んだところだ。木々が生えずに光が射し込んでいる場所があった。
その光の中央にいるのはルミアだ。
「あっ……」
俺は思わず漏れるような声を出した。
これは幻想的だ。普段から天使だのなんだのを言っていたが、比喩抜きにしてこの光景は神話の再現のように感じられた。
「やっと帰ってきたね。ラクス君」
「……おう、ただいま。待たせたな」
俺は顔をうつむかせてルミアに歩み寄った。
「グレン先生に挨拶はした?」
「したよ。玄関先で……なんつーか、妙に優しくて驚いたな」
「ニコラさんが気を回してくれたからだよ」
「へぇ……ニコラが……ん!? ちょっと、待て。ニコラが来たのか!?」
「うん、これからもラクス君をよろしくお願いしますって」
「……そっか」
ニコラが去り際に言っていた用事とかなんとかはそういう事だったのかよ。
いやー、なんと言いますかーーー
「愛されてるね」
だな。
本当っ、俺にはもったいない家族だ。
「ねぇ、ラクス君?」
「なんだ?」
ルミアは怒る様子もなく、いつものように会話を続けてる。だからこそ、次に来た言葉には頭をハンマーで殴られたような衝撃を感じた。
「今回の一件、ハッピーエンドだって思ってる?」
「そりゃ、お前ーーー」
どうだろうな。
ニコラや俺の家族は犠牲になった。
けど、リィエルは無事に帰ってきておおよそ感情と呼べるものを学び始めた。
想像したくもないが、ルミアも脳みそだけにされるのを未然に防ぐことができた。
また、今回の一件という話に限るならニコラ達は既に死んでいて霊としての怨念を広げることがなかったので実質的なマイナスはなく、彼らに取ってはプラスとなったはずだ。
……したくもない打算だが、これは事実だ。
俺はルミアに今回の結末の感想を伝える。
「間違いなく……ハッピーエンーーー」
「そんなわけないよ!!」
「……へ?」
俺はルミアに胸ぐらをつかまれて、近くの木に押し付けられた。
初めて見たルミアの激昂に俺は言葉を無くす。
なにが違うのだろうか。
今回の件もいつもと変わらずにみんな帰ってこれただろう? それならハッピーエンドに間違いない。
「ラクス君の計算には、あなたの心に残された傷は入ってるの!?」
「……なに言ってんだよ。そんなこと」
「どうでもいいなんて言わせないよ?」
俺はルミアの腕に更に力が入るのを感じて、なにも言えなくなる。
俺の心の傷? そんなのみんなも受けたじゃないか?
「リィエルもシスティもみんながみんな、傷ついた。私だってバークスさんに向けられた目を忘れられないし、怖いよ」
そうだ。
俺もそうやって背負ってきた。
だから抱えきれない。
だから膝が折れそうになる。
「でもね。みんな大切なものは奪われてない」
「……」
ルミアの力が弱まっていく。
そして、俺もようやくルミアの言葉の意味を理解した。
「ラクス君は家族を奪われたんだよ? お世話になった人や、世話がやけるけど煩わしいとは感じなかった人を奪われたんだよ? そんな人は人生に何人会えるか分からないんだよ? なのに、どうしてハッピーエンドだなんて言えるの?」
そんなの……。
「ハッピーエンドって言うしかないだろ……? そうじゃなかったら俺はどうして拳を握ったんだ? なんで、血反吐を吐きながら歩き続けたんだ? 俺はなんのために命を賭けたんだ?」
「分からないよ! 言ってくれなくちゃ分からない! どうして、心に鍵をかけちゃうの!?」
俺はルミアの優しくて、甘い言葉にーーー腹が立った。
だったら言ってやるよ。全部。
「言ったところでどうなるんだよ!? お前に俺の抱えてることを話せば、この意味不明な重圧から逃れられんのか!?」
いつもの重責にブラウモンの怯える目が増えた。
そうだ。間違いなく、次は耐えきれない。
「『なんでだよ、なにを簡単に諦めてるんだよ!』」
それは……その言葉は俺があん時に。
ルミアが魔方陣に囚われる時に俺がかけた言葉だ。
あん時のルミアは死ぬ覚悟しかしていなかった。
だから、俺はそれを生きる覚悟にして欲しくて。
「ラクス君は周りを見てない。差し出された手を見ないフリをしてる。分かるよ、その気持ちは少しだけ。また、失うのが怖いんだよね? 近くにいれば巻き込んじゃうから。だから、有事の時には決まって遠ざける」
どこまで見抜いてるんだよ。
そんなの俺だって言われるまで気付かなかった。
確かに言われてみればそうだ。
危ないからって。俺の近くにいれば守れないかもしれないからって。
遠ざけるか、守りに徹させるか、俺よりも遥かに頼れる人に託すか。
それはどうしてかって、聞かれればーーー
「自分に自信がないから、だよね?」
「……そうだ」
間違えれば、謝る。
けど、それが取り返しのつかないものであるならばとてもじゃないが耐えきれない。
それは一生、尾を引くものだ。
足枷のようにつきまとうものだ。
蜘蛛の糸のように絡まるものだ。
「きっとね。ラクス君は誰よりも前向きなんだと思う。だからこそ、左右が見えないんだよ」
そりゃ、言い得て妙だな。
言葉遊びが上手いな。ルミアは。
「私の思うハッピーエンドはね。みんなが肩を組んで心の底から笑いあえることだと思うの。だから言える。今はまだハッピーエンドじゃない」
「……理由を聞かせてもらってもいいか?」
「
……似てるなぁ。
そうだよな。そうだった。
ルミアが言う俺の部分をまんまルミアに置き換えれば、テロリストの時や競技祭の時の俺の心情になる。
だからこそ、次に続く言葉がわかってしまう。
「私が勝手にあなたを救うから、あなたは勝手に救われてよ……こうまでして私がラクス君を助けたい理由、分かる?」
「一緒にいたいからだ。笑いたいからだ。泣きたいからだ」
「うん。1割正解」
「ん? なんか足りないか?」
驚いたな。あん時の言葉を間違いなく再現できたと思うのだが、なんかショートして吹き飛んでたか?
「私がラクス君を好きだから、だよ?」
「……は?」
……え?
って、え?
マジで、は!? ってえぇぇぇぇえええ!?
理解が追いつくけど、気持ち追いつかないってか、マジで、ん!? 聞き間違えでなく!?
「ふふっ、意外かな? でもね、私から見たラクス君は夢物語に出てくるヒーローみたいな人なんだよ。こんなの誰でも恋に落ちちゃうと思うんだよね……ううん、私の場合は違うかも。だって、あなたがあの魔方陣から攫ってくれた時よりも前からーーー」
「おいおいおい!? ちょっと待てぇ!? どうした、なにがあった!? いや、告白はすげぇ嬉しいのだけど! 垂直跳びでメルガリに到達できそうだけども!?」
魔道具専門フリーマーケット『メルガリ』。
……って、違う!? 俺はなにを困惑してるんだ!?
さっきまでクソシリアスだったと思うのだが!?
「こう見えてもかなり勇気を振り絞ってたり……」
「ですよね! わかります……でもさ、どうして急に?」
「……ニコラさんがね、言ってたの。きっとラクス君は放っておくとどっかに行っちゃうって」
「だから、俺を引き止めるためにそんなことを?」
「そんなこと?」
「いや、言葉のあやです許して」
「ふふっ、冗談だよ。ラクス君が土壇場以外じゃ、口下手なの知ってるから」
理想の嫁か!?
なんか細かいことどーでも良くなってきたな。
「ニコラさんの言葉はキッカケだよ。私のこの気持ちはずっと燻ってて、火がついちゃった」
「ついちゃった、って……お前」
俺はこの告白をどう受け止めるべきなんだろうか?
ルミアの想い、とても嬉しい。
でもそれは本当に純粋な想いか?
俺が遠くにいかないようにルミアは鎖をつけたいのか。
ーーーいや、ちょっと待てよ俺。
どうしてそう思うんだよ。
嬉しいんだろ? じゃ、どうして疑うんだよ!?
「……答えを聞かせて欲しいな」
これは俺の傲慢だ。
でも、俺は疑ってしまった。彼女のことを。
なんでだろうか?
本当に……なんでだろうか?
『くはっ』
『ははははははは!』
『あひゃひゃひゃ!』
……そっか、もうここまで来てたか。
そうだな。ルミア、君の言う通りだ。
俺は自分の心を勘定にいれてなかった。
『死ね、ここで死ね』
『生きる価値などない。こちらへこい』
『『『さっさと、死ね』』』
視界がぐにゃりと歪んでいく。
ルミアが何かを言っているような声がする。体を激しく揺さぶられてるような気がする。
感覚がひどく曖昧だ。
温度を感じない。
気持ち悪い。
なぜだろうか、ルミアがこんなにも愛してくれているのに。こんなにも嬉しいのに。
どうして俺はこんなにも満たされないのだろう。
気持ち悪い。
『『『死ね、死ね、死ね、死ね』』』
『『『なぜ、お前だけが残っている? 死人のくせに』』』
『『『運に恵まれただけの豚が』』』
気持ち悪い。
うるさいぃぃぃぃぃ!!!
なんなんだよ、コレ!?
これじゃ、まるで、魔術を使ってるときのニコラのような視界じゃない……か。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
「ら、ラクス君? 顔色が悪いよ……そんなに嫌だった?」
「ち……がうんだ。ちょっと疲れが残っててな」
悪夢を振り払う。
大丈夫だ。まだ立っていられる。
この気持ちを伝えなくては。
「ルミア……その告白、めっちゃ嬉しい」
「うん」
「けど、ごめん。まだ、その気持ちには答えられない」
ルミアの顔が一瞬だけ悲壮に染まり。いつもの花が咲いたような笑顔になる。
「……理由を聞いてもいいかな?」
痛い。
鋭いナニカが心に刺さる。
俺が望んだことだが、耐えきれないな。コレは。
だけどな。ラクス・フォーミュラ、決めたなのら最後まで貫き通せ。
周りのことを無視して貫きたい信念があるんだろ?
ここで通さなきゃ俺の気持ちは嘘になる。
たとえば、それがルミアを不幸にするものでも。
言え、言えよ! ラクス……ラクス・フォーミュラァァァァ!!!
「俺はお前が嫌いだからだよ」
「……ッ!?」
あーぁ、言っちまったよ。クソが。
「天使とか、嬉しいとか全部嘘に決まってんじゃん。なにを勘違いしてんだよ」
「……ウソつき」
「はぁ? 声が小さくて聞こえないよ?」
ひび割れる音がする。
ナニカかが。俺が言葉を……ルミアを突き放すための言葉が口から出るたびにひび割れる音がする。
俺はそれからルミアを突き放し続けた。
対してルミアは俯いたままだ。
俺の言葉はどこまで効いたのだろうか。
疑問はすぐに解決される。
俺はルミア=ティンジェルという女性を舐めていたのだ。
「バカ」
「……むぐっ!?
ルミアは俺の顔を強引に胸に押しつけた。
息苦しい。
「ラクス君がグレン先生の真似をしてることなんてお見通しだからね。もっと、早くこうしてあげればよかった」
くそ、くそ、くそ。
やめろ。やめてくれよ……頼むからぁ。
俺を甘やかすな。優しすぎるだろ。
「……どうして、ルミアはそんなに人を信じられる? 俺はお前のそういうところが、ちょっと怖い」
「やっと鍵を開けてくれたね」
「……」
俺はハッとしてすぐに口を閉じる。
「答えは簡単だよ。私は人を信じれなくなる自分が怖いから……システィにグレン先生、クラスのみんなやラクス君を信じない私は私じゃない。それは別の生き方を選んだルミアという名前の別人」
「……その生き方は強いな。芯が伴ってる」
「グラグラだけどね……ラクス君の言葉がいくら嘘だと分かってても、怖かった。本心だったらどうしようって」
「ルミア……」
俺を抱く両手が震えてる。
なんだよ。結局は俺が一人で暴走してルミアが傷ついちまったってことかよ。
一人の少女が泣く背中を作っちまったってことかよ。
ダメだ。
せき止めてた言葉が溢れる。
一度、開けばしばらくは閉じない。そんな門が開きかけてる。
「もう一度返事を聞いてもいいかな?」
ルミアのその言葉をキッカケとして、俺は溜め込んでいたものが流れでいくのを感じた。
「好きだよ! 大好きだよ! 全世界を敵にしても守りたいって、思ったんだ! 君の為に生きたい! 君だけの剣となり盾になりたい。二人で肩を並んで歩けたら
どれだけ幸せなんだろうって!」
こんなじゃ、止まらない。
どんだけ我慢してきたと思ってんだ!
「でも、くだらない悪意が邪魔で。俺には変な力があって、ルミアも俺が想像できないくらい色んなことを抱えてて……きっと、このままじゃ俺かルミアが死ぬまで争いは終わらない」
感じるんだ。
ずっと感じてた違和感が。ようやく分かったんだ。
アルザーノ魔術学院は大きな儀式場と化してる。
薄い、とても薄い因果を引きつけるような結界が。
術者は強力な力を持つ者、強力な運命を持つ者、色々だ。恩恵というか呪いがかかってる。
力は力を惹きつける。力は更に力を呼ぶ。
昔から言い伝えられてる鉄則だ。だから、実話でもラノベでも強力な敵が次々やってくる。
俺がこの世界を第三者視点から見たからこそ得た解答だ。この違和感はきっと、感じることも理解されることもないだろう。あのアルフォネア教授でさえも、この世界に縛られてる限り、だ。
原則としての俺の存在が異常なんだ。
皆が生きる一本線から少しだけはみ出したのが、俺。
いや、言い換えた方がしっくり来る。
この世界の一本線に俺が乗っかろうとしているのだ。
異世界から来たのだから、その方が的確だろう。
「ごめんね、気付いてあげられなくて。ずっと苦しかったんだよね? 辛かったんだよね?」
「……あぁ……あああ」
言葉にならない。
ルミアの優しさが俺の心に入ったひび割れに浸透していく。
ずっと、こうしていたい。甘い甘美な時間を永劫に過ごしていきたい。
「その重さを少しだけでいいから分けて。遠慮なんて要らないから。あなたの惚れた女性がその程度で潰れる女性だなんて思ってないよね?」
「ーーーッ! ありが……とうッ」
俺はそのまま泣きまくった。
ルミアの胸でみっともなく、高校生が声を上げて。
この『遠征学修』は生涯で一番泣いた旅行になるだろう。
俺はこの旅行で家族に別れを告げた。
抱えてた生半可な覚悟を分け合うことでより強固なものにできた。
そして、なによりルミア=ティンジェルという彼女ができた。
「な、ルミア。今なら言っていいか?」
「うん。私もそう思うよ」
「そうか。だよな」
ーーー第三部、完。ハッピーエンドってな。
ラクス君、グレン先生の真似をしてロクでなしを演じるも速攻で大天使に見抜かれるの巻。
AFTER 続くかも、もしかしたらそのまま5巻突入かも?
どっちに転ぶかはサイコロで決めます。ただし、そのサイコロは私の気分で何回か投げられる模様。
この場を借りて誤字報告の感謝を申し上げます。
通りすがりの読む人様、団栗504号様、アシマ様、黒狐 玄狐様。ありがとうございました。