ロクでなし魔術講師と超電磁砲   作:RAILGUN

18 / 29
やがて届けよ今は小さき龍の翼
RAIL 1


 どうしてこうなったのだろうか、と。俺は頭を激しく揺られる感覚と喉元に迫り上がる()()()()()を堪えながら思う。

 

 俺は重なるように回る教会の天井を見上げていた。

 倒れてるんだと気づくのに時間はかからなかったが、感覚がないってのは大問題だろう。

 自信満々に行動しておいてコレか……。

 なぁにが、未来は変えられるだよクソッタレ。

 自分の未来を変えられてないじゃんか。

 あぁ、泣いてる声が聞こえる。

 視界は既に閉ざされた。

 血が足りないとか、体の細胞が生きることを諦めたとかそこらへんの死ぬくらいに充分すぎる理由だろう。

 

 俺はこのまま死ぬんだろうって、思った。

 すると、なんつーかな。とにかく不意に出てきた言葉で自分に問いかけると胸にストンと落ちるときた。こりゃ、やばい。

 

 グレン先生は今頃、『正義』相手にシスティと上手くやってるだろうか。

 リィエルはいちごタルトを食い過ぎて体調を崩さないか心配だ。

 クラスの奴らはそうだな……先立つ不孝をお許しくださいとか? ま、気に病まないでってのは俺の勝手過ぎるだろうが、なにせ死に行く者の願いだ。必ず、聞き届けてほしい。

 

 最後にルミア。

 俺は罪な男だ。こんな未来のある素敵な女性を縛り付けてしまった。ここで死ねばルミアは俺という偶像に縋り続けるだろう。

 こんな優しい子で俺の彼女なんだ。それくらい分かるさ。

 けどな。お前の周りには多くの頼れる人が居る。

 怖かったら、逃げ出してもいい。疲れたら、止まってもいい。だけど、また前に進んでくれ。

 それは生きる者の特権だ。

 なん、だか……意識が遠くなってきた。

 

 あぁ、そうか。コレが走馬灯ってやつか。

 俺の人生のプレゼンを俺が行う寂しい上映会だが、逝きかけの駄賃というやつだ。最後くらいは悪くないだろう。

 

 始めようか、再上映をーーー。

 

 ◇

 

 鍋パーティからの一ヶ月間、大きな騒動もなく穏やかな日々が続いていた。

 グレン先生と行った賭博場で俺が大損して先生が大勝ちしたとかは些細なことだろう。

 

 ……アルザーノ帝国立ヨクシャー孤児院の院長は当然の解任、後任は他の孤児院で院長だった人物に任された。

 今はまだ調査を受けていて、おって罪状が確定するそうだ。拉致誘拐では死刑にはならないが重罪だ。厳しい罰が待っているだろう。

 俺がガキだったからだろうか……今となっては栓なきことだが、こうすればああすればってのが頭の中をグルグルしている。

 ルミアが相談に乗ってくれなければ、また潰れていただろう。俺はちっぽけな一般人なのだ。勘弁してくれ。

 

 ーーーあ、そうそう。

 

 ルミアとの日常はそれはもう甘々で、俺は老後の生活を想像してニヤニヤする危ない人になってる。

 オカルトサークルも最近は活動を自粛してるみたいだ。

 アルベルトさんが、秘密裏に処理しているのもあるんだろうが、ルミアが実際に危機に遭遇した場面はない。優秀だ。

 そんなこんなの日常を過ごしながら、俺はつい先日にルミアの勧めで病院に行った。

 いやさ?

 

「目に見えない傷は魔術じゃ治せないんだよ?」

 

 と言われたら大人しく従うしかないだろう?

 

 結果は予想通りだった。

 戦闘ストレス反応有り。俗にいうPTSDという奴だ。

 戦闘による後遺症のようなものだな。

 俺の場合は幻聴と幻覚。悪夢を見始めたら、入院をして本格的な治療に入らないといけないらしい。

 それはごめんだ。ルミアと一緒に登校できない。

 いや、看病シチュも悪くないってか最高なんだけどね。ナース服のルミアを想像してみよう。

 ……ふむ、控えめに言って最高だ。目が孕む。

 

 さて、本題はこれからだ。

 時折見える幻覚と聞こえる幻聴のせいで、俺は命の危機を感じるようになる時がある。

 そう。未来予知がバンバン発動しまくってるのだ。

 なんなの、俺の体は? ピンチにならないと力を発揮できないとかいう甘えた体してんじゃねぇよ。

 主人公じゃねぇんだぞ。最初から本気でやれ。

 おかげで、これから起こる騒動は全て把握済みだ。

 

 ……当事者には悪いけど、こういうのつまらないよなぁ。

 

 今回の騒動は珍しく、発端はルミアじゃない。

 だが、無関係だからと言って巻き込まれないわけじゃない。つか、クラス全員がガンガン巻き込まれる。それはもう、トラウマレベルで。

 

『偽りの婚約』

『月の下で模造天使に痛ぶられるグレン=レーダス』

『リィエル=レイフォードは十字剣を教会で振り回す』

『アルカナ持ちの闘争の決着』

『正義は愚者へと挑戦する』

『グレン=レーダスの失踪』

『システィーナ=フィーベルは逃げることを拒絶した』

『黒に染まる映像』

 

 こんな感じで色々。それとーーー

 

『 』

 

 とてもじゃないが思い出したくない。

 

 まぁ、おかげで仕込みも間に合う。ついさっき、リィエルにウーツ鋼を錬成してもらった。

 これで『正義』の拳闘と渡り合う予定。

 摘まみ取るようにして読んだ筋書きは最悪。

 カス以下だ。こんな最低脚本、俺は見たことがない。

 

 『調和の逆転・転化』。

 これは俺の得た平穏をかき乱すものなのか。

 今という未来と過去の調和が取れたものを否定する性質なのだろうか。

 答えは出ない……が、俺が今まで足を進めた原動力なのかもしれない。

 だが、肝心なことは忘れちゃいない。

 切欠は愛だ。黒幕が正義のために闘うというなら俺は愛のために闘おう。

 チープだけど使い古された常套句で物語の終盤はこう締め括ろうと思う。

 

 ーーー最後に愛は勝つ、ってな。

 

 ◆

 

 システィの許嫁騒動。

 それは韋駄天のような速度で学院中を駆け抜けて広まった。

 なにせ相手は魔術の名門として有名なクライトス家の息子で臨時だがアルザーノ魔術学院で教鞭を取ることになった男。

 帝国を代表するフィーベル家とクライトス家のビッグカップル誕生疑惑に浮き足立つのは当然の帰結か。

 システィーナ=フィーベルはクラスの隅でため息をつく。すぐにその様子を気遣い声をかけたのはルミアだ。ぬいぐるみのように抱きしめられているリィエルは半分は夢の中である。

 

「まったく、もう少し場所ってものを……」

「グレン先生の前だったもんね」

「そ、そういうことじゃないなくて! だいたい、なんで私が先生の前だからってレオスとの許嫁の約束をーーー」

 

 云々と。

 ルミアはシスティの照れ隠しをにこやかに聞き続ける。

 似たようなやり取りは既に二回繰り返した。

 次の授業は渦中の人物であるレオスが担当する軍用魔術概論。

 立ち見にきた生徒もしきりにシスティをちらほらと見ていた。

 

「恋の一つや二つで浮つくなんて栄ある学院の生徒として恥ずべきことだわ。嘆かわしい」

「うわー特大のブーメランじゃん。それ」

「あ、ラクス君。おはよ」

「おう、おはよ。今日も一段と美しいよ。大地に咲く太陽は眩しいな」

「もうっ、ラクス君ってば……みんなの前だよ?」

 

「「「う、羨ましい」」」

 

 凄まじいほどの惚気にクラス中が苦いものを欲する。

 最近は食堂での苦い物の売り上げが3割増しになったとかなってないとか。

 ともかく、先ほどの授業まで体調不良という形で休んでいたラクスの登校にシスティは眉を顰める。

 

「ズル休みしてたの?」

「体調不良だって。今日はオトコノコの日なの」

「キモい」

「え、ついに直接罵倒を始めちゃう!?」

 

 ラクスの斜め上の回答にシスティが割とマジで嫌悪感を露わにする。

 ルミアは目の前で繰り広げられるコメディに力が抜けたように笑う。

 

「それじゃ、次の授業までラクス君が休んでたところの勉強をしよう。そんなに大変じゃないからすぐに終わると思うし」

「そうしましょうか。そうしましょう」

 

 席についてノートを広げるルミアとラクス。

 システィは気合を入れ直して、復習がてらにラクスの勉強を手伝おうとするが、ラクスの顔色が変わったことに気づく。

 

「どうしたの、ラクス? 顔色が悪いわよ?」

「あ、いや。大丈夫だ……そっか、そうだよね。さっきまでグレン先生の講義だったもんね」

「本当にどうしちゃったの、ラクス君? グレン先生の講義はクライトス先生の講義のための予備知識として軍用魔術の種類を説明されたけど……」

 

 グレンの講義では攻撃系の代表としてとして『ブレイズ・バースト』が取り上げられて、補助系として『アクティブ・レーダー』が題材にされていた。

 そう、あの『アクティブ・レーダー』だ。

 ラクスの頭の中ではグレンがなにかしらを企んで、悪魔のように笑っている。ラクスきゅん、どうしたの機嫌悪そうだよ?

 事情を知っているのが更にタチが悪い、とラクスは疑うがなんのことはないグレンなりの配慮だ。

 午前来ないのか、へぇー、なら少しは融通利かせて……おっ、あいつそういや軍用魔術つくったとか言ってたじゃん! というような具合である。

 文献を少し漁っただけで本質を理解するグレンの有能さが滲み出ている悲しい行き違いだ。

 

 ラクスはとりあえず『ブレイズ・バースト』の概要を聞いて休み時間を過ごし、レオスの講義を受けた。

 

「完璧だな……」

「完璧ですね」

 

 講義終了後、いつの間にか席に座っていたグレンとラクスの意見が重なる。

 

「軍の半分のやつらが理解してない物理作用力理論(マテリアル・フォース)をペーペーの学生に噛み砕かせた」

「おい、帝国それで大丈夫かよ」

 

 ラクスの最もな指摘にグレンは回答する。

 曰く、使えればいいのだ。結局はそこに集約される。

 包丁を見て野菜を切るか、はたまた人を傷つけるかは誰かが使っていたという経験則を以ってして決定される。

 とはいえ、理論を抑えていれば応用が効く。

 その最もたる例がグレンの適当な詠唱で発動される魔術だろう。即興改変をするものは基礎を抑えておかないといけない。

 

「察しいいやつなら『ショック・ボルト』で人を殺せることに気づくだろう」

「理論値と実測値には多少の差異がありますってやつっすね」

「そうだ。知識としては知ってても実感が伴ってない……あいつくらいの講師なら弁えてるはずだが……」

「えぇ、気をつけないといけませんよね。大きな力には。先生は常日頃から自分の持つ力の意味を考えろって口を酸っぱくして言ってましたから」

「……ん? どうしたよルミア、っていひゃいよ!」

 

 ルミアは自分の頬を膨らませながらラクスの頬を引っ張る。

 

「じゃないとラクス君みたいになんでもかんでも首を突っ込むようになっちゃいますから」

「ラクス。お前もう尻にしかれてんの?」

「そんな甘美なご褒美頂いてないです」

「前から思ってたけど、やっぱり処置不能だよな、お前って。手遅れだわ、症状が進行し過ぎて俺にはもう……」

「安心してください先生。ルミア限定ですから」

「あぁ、希少価値高そうで安心した。俺の生徒から変質者を出すわけにもいかんし。生徒にお縄をかけるとかなんの冗句かと」

 

 ルミアとグレンとラクス。この3名が漫才をしてる間にシスティは件の男ーーーレオスに授業の意見を求められていた。

 将来の伴侶を満足させられない授業をするわけにも行かないということらしい。もちろんだが、レオスの授業はシスティに好評だった。

 確かに講師泣かせで有名なシスティでさえもあの講義は文句の付けようがないだろう。

 

「……なぁ、ルミア。貴族同士の婚約ってさ、愛とか感情とかないもんなのかなぁ?」

「ううん、そんなことないよ。例え、始まりが義務でも一緒に歩いてる内に愛が芽生えるなんて話もよく聞くよ?」

「お前ら、よくそんな歯が浮くような台詞を……」

「先生、気持ちは言葉にしないと魔術も恋も上手く行かないんですよ?」

 

 ぱちこーん、とルミアのウインクでクラスの半分は撃墜された。なるほど、確かにルミアの言うことは最もだ。グレンはお腹一杯だと言って、手を振る。おかわりはいらないということである。

 

「クライトス先生はシスティが好きなのか?」

「うん、少なくともシスティから話を聞いた感じは……けど、なんて言ったらいいんだろう。システィには申し訳ないんだけど、ちょっと怖い感じがする」

「……さすがだな、ルミア。鋭いよ。ありゃ、ダメだ。システィを見てねぇ」

 

 これは未来予知で得たものではなく、ラクスが感じたことだ。言うなれば、そう、バークスのような視線だ。

 一個人ではなくその者が持つ付加機能(オプション)に用があるという下衆の視線。

 心底、反吐がでる。ラクスと同じようにルミアもそれは感じ取っていたようだ。

 

「グレン先生……守ってやれよ。白銀のお姫様を救う魔術講師。脚本でも書いて印税生活を目指せばいいんじゃねぇか? キャッチコピーは、そうだなぁ……完全実話のノーフィクション。フェイントなしのストレートとか?」

「ラクス君、不謹慎だよ。 まだ、そうなるって決まったわけじゃないでしょ?」

「印税生活……その手があったか、さすが、砂鉄。金の無駄知識はアルザーノ魔術学院随一だな!」

「ったりめぇよ!」

 

 砂鉄のフォーミュラ。

 競技祭の暴れっぷりからついた二つ名がようやく定着したものだ。板についてきた今では広範囲殲滅の専門として下級生や上級生からよく、話しかけられるようになった。

 また、女性が話かけるその度にルミアはラクスの袖を引くという可愛いらしい嫉妬を見せるもんだから、ラクスは饒舌になる。

 それがどういうわけか、社交性が高く魔術に対して一風変わった切り口を持つものとして学院内での評価がすこぶる上昇中なわけだ。ただし、ロクでなしにつきご注意を。

 ちなみに砂鉄とは戦闘の様子から来たものであり、断じて金に狡いからきたへんちくりんなものじゃない。

 図に乗らせると砂鉄から黄金を作るとかを平気でやってしまうようなロクでなしなのだ。

 もちろん、そうならないようにルミアがしっかりと手綱を引いている。

 そして、休憩時間の中庭でーーー

 

「決闘だ。お前にこの手袋が拾えるか?」

 

 レオスに対してグレンが手袋を投げつけた。

 

 ◇

 

 ルミアの心配もごもっともだ。

 普通に怪しすぎるだろ。未来予知なくてもあっ、こいつ(察し)ってなる。

 要は臭いのだ。悪役っていうか、ダセェことを考えてる輩ってのは。見ていて、鼻に付く。

 俺はルミアのお願いでグレン先生とリィエルを伴い、システィの恋路を覗き見ることに。

 いやぁ、先生が急にぷっちーんして決闘を申し込んだ時は、いいぞ、もっとやれって感じだった。

 あいつ、たまに無意識か知らんけどルミアに気味の悪い視線向けるしね。『正義』の奴隷だからって許されることと許されないことがある。

 ギルティ、人の女に手ェ出すなってわけだ。

 つーわけで魔導戦の講義中なわけだ。

 基本は三人一組(スリーマンセル)だが、俺たちは二人一組(ツーマンセル)

 役割を攻撃、補助、防御でなく攻撃と防御に分けるわけだ。

 軍の戦闘エリートが長期間のトレーニングをして習得するものを学生の身分で真似するとかないしね。とはいえ、言われるまでは気づかないわけで。

 結局、言いたいことはグレン先生、マジで有能すぎぃ。

 

「なぁ、ラクス。レポートの提出で単位出してやっからお前は出るな」

 

 だから、先生が放課後に呼び出してをかけてまで放った一言は衝撃だった。

 

「……はい? ごめんなさい、先生。耳が腐ったみたいです」

「聞き間違いじゃねーよ……お前、下手に戦闘を重ねると壊れるぞ? そういう人間を俺はたくさん見てきた……一歩手前、崖っぷちってところだろ?」

「……」

 

 くそ。

 これが俺の未来予知の欠点だ。大局は読めるが、細かいところはどうしても疎かになる。

 この展開、俺は知らなかった。

 いや、しかし。グレン先生ならいつか必ず見抜いてくると予測できたはずだ。

 俺は参加すべきか、控えるべきか。

 それで結果はどう変わるんだ?

 

 ーーーあの結末を覆せるか?

 

「ラクス君、私からもお願い。もう、下手に戦っちゃダメ」

「ルミア……そっか、そういうことか」

 

 グレン先生にルミアが相談したのだろう。

 優しいつーか、俺の彼女さんは本当に気配りのお手本みたいな人だもんな。

 

「たまには休んでてよ。治療が終わってからでも遅くないよ」

「戦士の休養ってのも必要なもんだ。走り続けるのは疲れるだろう」

 

 ……それじゃ、ダメなんだよ。

 俺は今回も引けない。逃げられない。

 そういう運命つーか、宿命っていうかなんていうか闘いに引き寄せられちゃうんだろうな。

 だから、血が流れる。

 ならばその血はできるだけ少ない方が良く、原因である俺のものである方がいい。

 

「……了解です。大人しく、紅茶でも飲んでますよ」

「うん、それでよし! 私がラクス君の分まで頑張っちゃうからね」

「それは頼もしいな」

 

 けど、できるならばルミアのお願いは聞いてあげたい。俺の為に言ってくれているのにも関わらず、傲慢な物言いだが、これが俺の本心だ。

 ルミアの笑顔なくしてハッピーエンドなし。

 うん、グレン先生とルミアがハイタッチするのを見て嵌められたと再認識した。

 物理で解決ファンタジックルミア☆エンジェルが見れることを楽しみにしよう。

 

『死ね、殺す。消えろ。お前は俺が!』

『掻き消えろ』

 

 で、いつものだ。

 最近になって頻繁に訪れる不定期な幻聴。酷い時には幻覚までプラスされる。うん、控えめに言って末期症状。

 俺は手短にじゃっ、とグレン先生とルミアに別れを告げて、トイレに駆け込んだ。

 

「《マインド・アップ》」

 

 これは心的ストレスからくるもので、詰まるところは心の弱さからくるものだ。

 だったら、無理やりにでも心の強さというか耐性をつけることで緩和される。

 やり方が正しいとかじゃないんだ。今はこれで凌げればいい。

 ここで踏ん張らないと、俺はーーー

 

「はい、失礼ー。ルミアに聞いた以上に割とヤバそうじゃねぇか、お前」

「グレン先生……」

 

 トイレの扉を蹴飛ばしたのは先ほど別れた先生だ。

 やっぱそういう機微には聡いよな。

 

「ルミアは帰らせた。単刀直入に聴く、ラクス。お前は何を知った?」

「なにって」

「誤魔化すなよ。俺の目が節穴じゃなけりゃお前は今すぐ入院して療養すべきだ。心が半分以上、割れてる」

「……」

「それを一番に分かってるのはお前自身だろう、ラクス? だから俺は聞いてるんだよ。お前を動かす何かってなんだ?」

 

 そりゃ、グレン先生。

 

「言わねぇよ。言ったところでどうにもなんねぇし」

「……ルミアが泣くぞ?」

「あの結末を覆せるのなら、俺は構わないんですよ」

「あの結末?」

 

 ……ちっ、口が滑ったな。

 仰々しくあの結末だなんて言えば、悟られる。

 

「……なぁ、俺の元職場にそういうことを言う奴が居たんだよーーー」

「『正義』ですか?」

「ッ!? お前、どうしてそれを!?」

 

 朝令暮改になるがめんどくせぇな。全部、話すか。

 狂いまくる俺の予定だが、先生の知恵は借りるメリットの方が大きい。

 先生がその時に立ち会うことがなくても、その知恵は必ず俺の助けになるはずだ。

 俺は話した。不完全な未来予知のことを。

 そして、俺が見た最悪の結末を。

 

「……なぁ、おい。その予知が外れたことは?」

「ある……けど、重要なポイントは必ず通ります。俺はそれを覆したいんです」

 

 妙な感覚だ。

 例えば、その結末が最悪重要なポイントであることが分かるし、先生にレオスの正体を告げれば大きく事象は改変されることが分かる。

 手詰まりだ。どうにかして俺は未来予知で見えなかった場所で行動を起こすしかない。

 

「それに今回は二つの事象が同時並行で起きます。俺とルミアの物語と先生とシスティの物語だ」

「つまり、俺はお前の物語に首を突っ込めないと?」

「クロスオーバーできるなら別ですけど、先生はきっとそんな余裕はない。今回の山場はそう容易くないんですよ」

 

 俺は堪らず、ガラスを素手で叩き割った。

 破片で出血するが、血の気を抜くには役に立つ。

 

 最悪の結末。それはーーー

 

『教会を紅く染める牙』

『化物の足元で倒れ血だまりをつくるーーー』

 

 込み上げてきた吐き気を抑えて、俺は再び『マインド・アップ』を発動した。





今回のお話は難産過ぎて遅れました申し訳ない。
知らぬ間にこの小説のお気に入りは増えてること、評価して頂いてることに感謝。頑張ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。