ロクでなし魔術講師と超電磁砲   作:RAILGUN

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ちょっとだけグロいかもです。
描写は甘いですが(力量不足とも言う)食人描写があります。
閲覧注意。


RAIL 4

「違う! やつの言うことはでまかせだ。信じるな」

「……じゃ、どうしてそんなに必死なの?」

「━━━それはっ」

 

 ルミアの核心を突いた言葉にラクスは返す言葉がなくなってしまった。

 そうだ。でまかせであるならば取り乱す必要などなかったのだ。

 

「……イイ。実にイイ。あと何人の心を折ればグレンは本気になってくれるだろうか、ラクス・フォーミュラ?」

「《猛き雷帝よ》」

「おっと、抜け目ないね。さすがはグレンの教え子だ」

「《二重複製・五重構成(ペア・ペンタクル)》」

 

 先の魔術の詠唱を簡略化して五重にして並列起動。

 合計10の雷閃がロウファンに襲いかかる。

 

「いつの間に連続詠唱なんて……」

「よくわかんねぇけど、すげぇ」

 

 カッシュやウェンディは圧巻の一言に尽きた。

 競技祭までは実技においてクラスの最底辺を争っていたような男だ。

 それが今では軍用魔術の連続詠唱を行なっている。

 ラクスが遠くに行ってしまった。そんな気がして堪らなく悔しくなる。

 

「お前がいると……ルミアが笑えない」

 

 指先だけじゃなく全身に雷を回す。

 紡ぐ言葉は【超電磁砲】に次ぐ破壊力だ。

 

「《我が腕に・荘厳なる・真なる槍を》」

 

 雷撃が槍の形を成す。

 それは近接戦闘の破壊力とリーチを補うもの。

 触れれば感電だけでは済まない。

 

「━━━【猿王討り取りし雷の牙(リベラルボイド・ヴァジュランダ)】……だから、ルヴァフォースから消えてくれ」

 

 その名はラクスが◼️◼️◼️◼️◼️であった頃の神話。

 インドと呼ばれる国に伝わる討滅武装。

 内包する電気が漏れ出し教会の床を容赦無く抉る。

 リィエルすらもその剣を見て、一歩下がる。

 これが記憶を取り返したラクスの近接武器だ。しかし、ロウファンは自らを狩るかもしれない死神の刃に笑みすら浮かべる。

 

「大層なものを出したけど、すまないね。時間切れだ」

「逃すか、バカ」

「おっと、さすがにそれはマズイね」

 

 ロウファンはラクスから必要以上に距離を取る。

 

「つまらぬものだけど、新作の置き土産だよ」

 

 指を鳴らせば教会の扉を無造作に壊しながら入場する招かれざる客。

 形容するならば忠実なゾンビ。

 ロウファンの一言でラクスへと襲いかかる。

 

「……俺は、もう……迷わない!」

 

 いくら意識がなくとも、姿形は人のソレ。

 ラクスは苦悶の表情を隠すことなく雷の牙で消滅させた。

 ラクスはクラスメイト達が息を呑んでいるのがわかった。だが、そんなことに引きずられていては死ぬだけだ。

 戦場に情けは無用。自分に甘えれば手痛い仕返しが待っている。

 その仕返しが最愛の人にまで向けられるなんて考えられない。

 

「僕とグレンの終幕までそこで遊んでいてくれ。スパイスがないのは残念だが、それも味というものだろうね……また、会おう。ラクス・フォーミュラ。正真正銘の化け物もそろそろ到着するからね。精々、頑張ってくれよ僕達のスパイス」

「言いたいことだけ言って逃げんじゃねぇ!」

 

 苦し紛れに【ライトニング・ピアス】を放つが顔を逸らされ避けられる。

 ラクスは制御を失ったゾンビ達をまとめて消滅させる。

 後ろに控えるリィエルがラクスの前に急に躍り出た。

 

「ルミアを」

「……ごめん、ここは任せた」

「ん、わかった」

 

 雷の牙を消して膝をつくルミアに近づくラクス。

 意気消沈した姿にラクスは不甲斐ない自分自身に怒りが湧いた。ルミアを守りたい一心で一番大切なことを忘れていた。

 

「……立てるか?」

「……どうだろ」

「本当にごめん。俺は何も分かっちゃいなかった。あんだけ叱責されたのに、何もかも」

 

 ルミアを大切にしすぎるあまりに遠ざけた。

 それがラクスの罪だ。

 

「……それでも、俺は自分のやったことに後悔はしてない……できれば許して欲しいけど」

「……怒ってるんじゃないの。ただ、また私のせいかって思ったら急に力が抜けちゃって……私って此処にいるべきじゃないかな?」

 

 力なく笑うルミアにラクスは力強く肩を掴み、抱きしめた。

 これはほんのわずかな恩返しだ。

 旅籠の森で救ってくれたルミアに対するほんのわずかなお返しである。

 

「お前がいなくなったら俺は困る。生きて、俺の隣にいて欲しい」

「……きっと、これから迷惑かけちゃうよ?」

「薙ぎ払うさ。そのために手に入れた力だ」

「もっともっとだよ? ラクス君、これからもっと傷ついちゃうんだよ?」

「お前のため……あぁ、そっか違うな。俺はそんないい奴じゃない」

 

 それは対外的に説明するための美化された理由だ。

 ラクスはそこまでのお人好しじゃない。

 此処にきて口にすることで初めて気づいた。

 

「いつか言ったろ。勝手に救ってやるから勝手に救われろって。無意識だったけどさそれって、結構自分勝手な理由だと今更ながら思うんだよ」

 

 だからラクスは本当に自分のしたかったことを口にする。

 

「俺は俺の為にルミアを救う。どこまでも陽だまりを感じていたいから。俺は俺の為に戦う……だから、救われたら儲けもんだとでも思ってくれ」

「……卑怯だなぁ。でも、そうだね。ラクス君らしいや。私は儲けすぎてる気がするけど」

「当たり前だろ。可愛い子や好きな子にはサービスだ」

「うーん? 浮気かな?」

「痛いっ、抓らないで! 肉がちぎれる!?」

 

 ルミアは抓るのをやめてラクスに向き合う。

 思わず2人は破顔した。

 

「もう、立てるな?」

「うん、でも手を引いてくれると嬉しいな」

「喜んで。私のお姫様(マイロード)

 

 此処にいるのは2人の挑戦者。

 降りかかる大きな災厄の粉を振り払おうと模索する者達。

 リィエルがゾンビを斬り伏せる先で一際大きな生物が地を踏み固めるように歩いてくる。

 それは既に人の形すら捨てていた。動くものは全て邪魔。四つん這いで歩みながら尾で群がるゾンビを吹きとばす。

 

 ルミアが震えるラクスの手を握る。

 

「私はなにをすればいいの?」

「魔力円環陣を頼む。ゾンビどもは魔力に反応するから」

「最初の共同作業が囮なんだね」

「うっ……ごめんなさい」

「ふふっ、冗談だよ。どんな些細なことでもラクス君の役に立てるなら、これ以上ないくらいに嬉しくなるよ。それに、私の騎士様はちゃんと守り通してくれるって信じてるから」

「騎士って柄でもないんだけどお姫様が望むなら頑張って挑戦してみますか……演技は苦手だけど!」

 

 ラクスはルミアに携帯していた水銀入りのカプセルを渡す。

 まとめて消滅させて化け物との多対一の状況を作ることが目的だ。

 凄まじい勢いで陣を書き始めるルミアの前にはラクスとリィエルが立ち塞がる。

 超えられるものなら超えてみろ。

 お前達が相手にするのは力の象徴である戦車と雷撃の化身。

 五体満足で進めるという幻想は今すぐに捨てろ。

 

 譲れないものがあるから人は修羅になれるんだ。

 

 ◇

 

 ━━━これが最後になるだろう。

 

 ずっと感じていた俺の限界はもう近い。

 けど、それがどうしたのだと言うのだろうか。

 背中には俺の愛する人が居て、級友もいる。

 先生にも慣れない後押しをしてもらった。

 足の震えも、胸の鼓動も、背中の怯えも全て乗り切った。

 俺の魔術特性は『調和の逆転・転化』。

 俺が思うマイナス(弱気)をゼロではなく、プラス(強気)へと変えるものだ。限りなく平穏(調和)を否定するものだ。

 だったら、全てを乗り切った俺の心は不退転。

 退くことも目を背けることもしない。

 

「ぐぅぅうががががが!!!」

 

 俺は目の前の化け物に両手の拳を握り、構えた。

 正義厨が残した実験の産物。

 人の名残りすら捨てたソレは生きる者に生理的な嫌悪感を与える。

 あの時に見たブラウモンよりも化け物らしい。

 

『し━━━』

 

「《マインド・アップ》」

 

 鳴り響く音を精神力で封殺する。

 きっとこのやり方は正しいものではない。

 本来ならば、ゆっくりと時間をかけて向き合うものだろう。

 だが、それでは時間が足りない。俺が寝てる間に誰かが死ぬなんて嫌だ。そんな思いはもうこりごりだ。

 だからこそ、俺は手を伸ばす。

 不相応でも諦めることなんてしたくない。

 これは俺の自己満足だ。

 ただ、報いがあるとするならば……それは未来の灯火に薪を()べること。

 ニコラが時折口にしていたんだ。

 グレン先生やアルベルトさんを『次世代の英雄』と。

 ならば、おそらく……いや、確定でシスティとルミアは時代に名を刻むだろう。グレン先生が受け持つとはそういうことなんだと思う。

 ロクでなし魔術講師の英雄授業。

 戦場に英雄はいないと言ったグレン先生の講義はまさしく英雄教育。基礎を蔑ろにせずに、実践的なことを教えていくこと。

 それが堅実な英雄の教育方法。

 世界から解離した第三の視点を持つ俺が言うのだ間違いない。俺の背にいる誰かは必ず、未来を切り拓いていく。

 ならば、それまでの道筋。俺が案内しよう。

 今は雛のような小さな羽根でもやがてはメルガリウスの天空城まで届く龍の翼となることを願う。

 

「クラスの全員を逃す余裕はない。背中を見せればすぐに襲いかかってくる。リィエル、いつでもサポートに入れるようにしておいてくれ。慣れない後衛だが、いけるな?」

「……ん。お茶の子さいさい」

 

 表情が死滅したと言われた少女はここまで感情を豊かに表現できるようになった。

 

「おい、ラクス。俺らだって戦えるぞ!」

「そうですわ、ここで背中を向けたらお父様とお母様に顔向けできません」

「ふん……一人じゃそのデカブツの相手は無理だろう」

 

 カッシュ、ナーブレス、ギイブル。

 それにみんなも志高く、魔力を練り始める。

 ははっ、強くなるぞ、こいつらは。

 

「ラクス君……ようやく一緒に闘えるね」

「あぁ、思えばこんな時を待ち望んでたんだ」

「私は少し嫌だったかも」

「状況が状況だしな。そういう方向性ってことで頼む」

「……仕方ないなぁ。もうっ」

 

 ルミアは俺の状況を知っている。

 これが最後の戦いになることを。

 だからこそ、ルミアはそうならないように配慮をしてくれていた。

 俺をできるだけ戦闘と呼べるものから排してきた。

 だから、そんな顔するなって。

 

 俺はルミアの頬に手を当てる。

 

「笑っていてくれ。いつものように花を散らすように、太陽が咲き誇るように。そうすれば俺は限界を踏みこえることができる。勝手なお願いだって分かってる。許してくれ」

「ううん、ラクス君がいつも私のためにそうやって無理をしてくれてるんだもん。笑うよ。これかも、ずっと。それに、ラクス君が勝手だなんて知ってるよ。そういうところも含めて、好きになったんだから」

「……これはいつまでたっても勝てないねぇ」

「ふふっ」

 

 とうとうしびれを切らしたデカブツ、仮称『タイラント』が家の支柱みたいな巨大な爪を伴い、突進してきた。

 ったく、空気が読めないやつだ。

 

「「「《大いなる風よ》!!」」」

 

 俺が【磁力操作】で受け止める前にカッシュが中心となり巨大な空気の壁が生成してタイラントを吹き飛ばした。

 

「ったく、見せつけるようにイチャイチャしやがって! 羨ましいぞ、この野郎!」

「攻撃は僕らが受け止める。だからお前はその無鉄砲な火力でどうにかしろ!」

 

 あぁ、任せろ!

 

「ルミア、お前は中衛だ。集中して、しかし霧散するように建物を見渡せ。クラスの奴らに指示をだして、リィエルの使いどころを見誤るな。できるか?」

「……任せて!」

「よし、いくぞ。ここからが最終局面だ!」

 

『あぁ、クラスメイトだからって理由は禁止だ。それはあまりにも常軌を逸してる』

 

 いつか、グレン先生に言われたことを思い出した。

 そうだな。俺もそう思ってるよ、今でも。

 なんでベッドの上で震えなきゃならないんだろうか。

 どうして俺はそんな悪路を進もうとしているのか。

 もっと簡単な方法は? 俺が見落としてるだけで裏技のようなものはあるんじゃないのか?

 簡単な話だ。

 俺が馬鹿だからだ。守りたいし、なにも落とす気はないし、死ぬ気もない。

 余計な騒動はできるだけで避けて、起きたら穏便に対処する。それでもダメなら障害は全て排除するしかないだろうよ。

 解決方法は拳を握ること、ただ一つ。

 俺はどれだけ頭をひねってもそれ以上は出てこなかった。

 なら、開き直るしかない。これでいいじゃねぇかと。

 欲しいもんは全部、手に入れる。

 救いたければ拳を握れ、牙を立てろ、喉を震わせろ。

 己という存在が此処にいるのだと知らしめろ。

 力で圧しようとする相手には力でねじ伏せるしか解決策はない。

 別に相手が悪で俺が正義だなんて思っちゃいない。

 よくあるような闘いとは己の正義と相手の正義のぶつかり合いだなんて大層なことも思っちゃいない。

 相手が殺したいから殺すなら俺も救いたいから救うだけだ。

 

 俺は俺がしたいと思ったことを成す。

 結果が吉とでるか凶とでるかはわからないけど。確かに俺の切り拓いた道ができる。

 世が是とするならば、俺の屍を超えて発展しろ。

 世が否とするならば、俺の通る道の手前で分岐点を作れ。

 

 俺はつくづくそういう人間のようだ。

 分かっちまう。そういうモンだって。俺のチンケな常識とか経験が通用する領域じゃない所で神様とやらはほくそ笑んでるのだろう。

 はっ、笑わせんな。

 舐めてんじゃねぇよ。

 

 ()()()()()()()()()()はその程度じゃ諦めない。

 

 凌駕しろ。

 一瞬前の過去を。

 一寸先の未来を。

 己を振り返る必要などない。そんなものは不要だ。

 今足りない全てのものをここで引き寄せろ。

 それが出来なければ奴には勝てない。

 未来を塗り替えろ。奴の思い通りに確定させるな。

 揺らせ。遥か彼方から自分が望む一粒の欠片を無数に集めてみせろ。

 ここからは━━━

 

 全 力 戦 闘 だ。

 

 ◆

 

 体制を立て直したタイラントは焦点の合わない眼で、ラクスを睨みつけた。

 まずはあいつを潰すべき。本能だけで動く怪物がそう判断したのだ。

 伸縮する尻尾を剣のようにしてラクスに繰り出す。

 

「《この思いに未来在れ》」

「《ラウザルク》ッ!!!」

 

 ルミアの即興改変された【ウェポン・エンチャント】でラクスの拳が加速され、タイラントの尻尾を真正面から殴りつけた。

 ラクスはルミアの可能性を信じた。

 強化された拳でも練度が低ければ、今の衝突でラクスの手は無くなってた。

 しかしラクスはどこからか大丈夫だという自信があった。

 なるほど、これは悪くない。

 ラクスは信頼できる仲間と共に戦える高揚を感じた。

 

 タイラントは未だに群がる中毒者達を吹き飛ばし、天井に張り付く。

 

「リィエル、天井から襲いかかるところを迎え撃って!」

「分かった!」

「ギイブル君とカッシュ君とセシルで尻尾を拘束して! ウェンディはクラスのみんなを攻撃、拘束、防御の三チームに分けて!」

「了解しましたわ!」

 

 カッシュとギイブルとセシルはタイラントの尻尾を【サイ・テレキネシス】で拘束することで応える。

 タイラントは形振り構わずに天井からラクスではなく、

カッシュ達に襲いかかるがリィエルがそれを空中ではたき落とした。

 

「わたしがいる限り、みんなに手は出させない」

 

 リィエルが十字剣を構えて、タイラントを挑発する。

 

「ラクス君、砂鉄を使って残った中毒者の人達を退けて! ウェンディ、編成は終わった?」

「あいよ……そらっ!」

「今、完了したところですわ……ですが、練度は」

「そのための私だよ」

 

 前衛一人に中衛一人、後衛の隊長にリィエルを置いて、迎え討つ。

 オールラウンダーな前衛と個々の能力が優れる後衛を、指揮能力に優れたルミアが管轄する。

 元々、ルミアは気遣いをよくするタイプだ。場の空気には敏感である。

 逐一状況が変わる戦場において、ルミアのような能力は指揮官に要求される希少性の高いものだ。

 現にこうして拮抗どころか押している。

 

「ラクス君、砂鉄で尻尾を落とせる?」

「ルミアが望むなら龍の首でも落とすさ、任せろ」

 

 ルミアは指示を飛ばす。

 今しがた、ラクスがタイラントの尻尾を切り落とした。

 クラスの皆もこれなら勝てると感じた。

 

 一瞬の隙だ。心に開いた小さな余裕。

 それがタイラントの次の行動を効果的なものにした。

 

「……ぎしゃあぁっぁ、がぐぅ、ぼきっ」

 

 タイラントは()()()()()()()()()ことで尻尾の再生を行なった。

 タンパク質を失ったのだから補充すれば良い。

 タイラントは本能で動く。

 その行動は生きることに集約され、次にするのはルミアの排除だ。

 タイラントはようやく気づいた。この戦局で一番の敵はルミアだと。

 

「おいっ、しっかりしろ!」

 

 ラクスが声を荒げるがもう遅い。

 食人という一生かかっても経験しないであろう光景を前にルミアでさえ、腰を抜かした。

 クラスの者も嘔吐するか、膝を折るかのどちらかに分かれた。

 ラクスも128の地獄を経験していなければ、どうなっていただろうか。

 協会で立つのはリィエルとラクス、そしてタイラントだけだ。

 

 タイラントは偶然か必然かラクスに向けて、口角をあげた笑みを浮かべた。

 

「てめっ━━━させるかっ!」

「ぎしゃああああああ!!!」

「いやぁぁああああ!!」

 

 タイラントはルミアに向けて急突進した。

 リィエルが持ち前の怪力で一瞬、食い止めるが薙ぎ払われた尻尾の一撃で吹き飛ばされる。

 ラクスはその一瞬で尻尾の先と両足に砂鉄の杭を打ち込み、電気誘引で減速させる。

 

「ぎしゃ、ぎしゃ、しゃしゃ!!」

「うるせぇんだよ。このっ!」

 

 タイラントは尻尾の拘束を二又にすることで無理やり解き、貫こうとする。

 ラクスはいつか夢で見たような状況に舌打ちをして、足を前に踏み出した。

 

 炎の壁、踏破したり。

 彼我との力量差は既になく。ラクス・フォーミュラの手は届く。

 これが過去、そして未来との決別。

 我、思う故に我あり。

 ラクス・フォーミュラは9人目としての解をここに示した。

 世界からの祝福(呪い)を今を以ってして撃ち破る。

 ルミア=ティンジェルの死の運命は覆された。

 

 協会に流れる血。

 ラクスは頬を切った尻尾を掴み取り、電気の異能を使って焼き切り、ルミアの前に立ちふさがる。

 

「お前なんかにくれてやるか。ルミアは俺の奥さんだぞ?」

「ぎしやしゃさしゃ!!!」

「……その動き、()()()()()()()。」

 

 ラクスはルミアを庇う圧倒的に不利な状況で尻尾を的確に対処していく。巨大な爪も、必要最小限の力で受け止めてとうとう顔にストレートを叩き込んだ。

 タイラントは教会の内壁にめり込んだ。

 ラクスの会心の一撃だ。これで踏みとどまられたら死んでいた。

 

「……さすがだな」

 

 ラクスは肩に添えられた手に思わず呟く。

 ルミアは立ち上がっていた。顔を苦痛に歪めながら、それでも尚、立ち上がってみせた。

 ラクスは砂鉄を杭にしてタイラントの全身を固定する。

 これで身動きはできない。

 

「私も力を貸すから」

「……あぁ、ありがとう」

 

 クラスの者は皆、戦意喪失をしている。

 ルミアが異能を使ったところで気づく者はいないが、リィエルが十字剣を使って、視界を隠した。

 ラクスは本当に成長したなと呟いて、コインを高く上げて己の持つ最高最強の魔術を起動する。

 

「《拝謁せよ・紫電の流星を・これは俺たちが紡いだ奇跡の証━━━」

 

 研究所の時とはスペックが違う。

 故に呪文も変更せざるを得ない。だが、ニコラ達から受け継いだ贈り物は呪文ではなく、本質を捉える言葉だった。

 マナ残量、テンション、ギア、周囲の状況。

 全てを加味してラクスは【超電磁砲】を極めた。

 故にラクスは黒魔改とは言わない。

 

「物語を始めよう・紫電の号砲よ火を上げろ・俺たちの旅路に祝福あれ━━━」

 

 ルミアの感応増幅がラクスの魔術に乗る。

 これが今までの【超電磁砲】だと思うべからず。

 

「━━━果てに願いを》!!!」

 

 黒魔極【超電磁砲】。

 

 紫電の号砲は放たれた。

 中毒者達もタイラントも教会も━━━。

 ラクスの目の前に存在していたもの全てが消し飛んだ。

 場に残留した電気が放電する。ところどころに熱が残っている。

 

「俺らの住む陽だまりに、てめぇら悪に生きる者たちの居場所はねぇよ……」

 

 ラクスは満足気にうなづいて、背中から倒れた。

 

 ◇

 

 俺の体はルミアに受け止められた。

 それと同時に気付かれちまったみたいだ。

 

「え……これっ、どうして、なんで……」

「ドジったわ……痛みも感じない」

 

 俺の頬を切った尻尾と、腹を穿った尻尾。

 ちょっと遠くにある俺の血はその二つが原因でできたものだ。

 

「あああっ、ああっ! 《慈愛の天使よ・彼の者に安らぎを・救いの御手を》!!」

 

 無駄だよ。ルミア。これが代償だ。

 お前の命との引換券だったんだから。

 俺が一番、分かってる。内臓、いくつ持ってかれてんだよ、これ。

 

「行かないで……お願いだから……行かないで」

 

 口に血が溜まってうまく喋れない。

 あぁークソ。ごめんなぁ、ルミア。

 

「まだ始まったばっかりなんだよ。これからだよ。私とラクス君はこれから……なのにっ、どうして!? 先に行かないでよぉ……」

「かはっ!?」

 

 せり上がってきた血で口から血を全て追い出す。

 

「学院の近くに遊園地が出来たらしいな……」

「うんっ、うん……なんでもじぇっとこーすたー? って言うのが人気らしくて」

 

 魔導エンジンとかついてる最先端のものらしいな。

 魔術が人に貢献するテーマパークだ。グレン先生も連れていくか。

 

「遊びに行きたいなぁ」

「うんっ、だから行こっ。だめ、目を閉じないで!」

「暖かいなぁ」

 

 どうしてだろうか。

 目の前が暗いな。しっかりとまぶたを開いてるはずなのに。

 

「今日は……曇りだったのか……ルミアの顔がよく見えないなぁ」

「……ひくっ、ラクス君……だめ」

「でも、ルミアが俺にとっての太陽だから俺の心は快晴だぜ?」

 

 喀血する。

 手足とか末端の部分から感覚がなくなっていく。

 不思議と寒くない……いや、全然不思議じゃないな。

 ルミアがこんなに近くにいてくれるからだ。

 死ぬときはベットの上で美人の奥さんと子供に囲まれてと思ってたが……なるほど、美人の奥さんが隣にいてくれれば俺は十分だ。

 俺は十分、報われた。

 この結果に満足してる。

 これはルミアであっても文句は言わせないさ。

 俺は薄れる記憶と意識をなんとか繋ぎ止めて、ルミアの頬に手を当てる。

 濡れてるな……今日は雨だったのだろうか。

 つか、俺は今どこにいるんだ。

 なんでルミアは泣いてるんだ?

 

 まーどうでもいいかそこらへん。

 ルミアが泣いてるなら俺がすることは一つだけだから。

 

「泣かないで。君はいつでも美しいから」

 

 ぷっつんとそこで糸が切れるように映像は映らなくなった。

 

 ◆

 

「俺はいつでも━━━」

「……うそ、だよね?」

 

 その言葉が言い切られる前にラクスの手は力を失った。

 そう、これこそが真のエンディング。

 未来経験はラクスが観測者として観測してきたものだ。

 世界がどうのこうのというより比重が置かれるのは観測者の体験が物を言うのである。

 つまり、ルミアの死という運命に己の死を割り込ませたのだ。

 だが、ここで一つの疑問が浮上する。

 歴史に名を刻む者の死を無名の者の死で上書きできるかという疑問だ。

 端的に解を与えよう。

 

 世界が殺したがったのはルミアではなくラクスであった。

 

 この状況が何よりの証拠である。

 ()()()()()()()()()特殊な雷撃の異能程度で時間逆行などできるはずもないのだ。

 だから、ここを終点に定め力を与えた。

 そうなるように運命を仕組んだ。

 転生者という異分子を排除するための防衛措置。

 

 さぁ、物語の幕を閉じよう。

 少年と少女の逆転劇はここまでだ━━━

 

「認めないッ!」

 

 少年と少女の逆転劇は━━━

 

「絶対に認めないッ! こんなのおかしいよッ! なんで、こんなに頑張れる人が死んでしまうの! 誰よりも逃げたくて、痛いのが嫌いで、怖がりで……それでも立ち向かった勇気のある人を私は失いたくないからっ!」

 

 少年と━━━

 

「帰ってきてラクス君! 私は此処にいるよっ! あなたが進む暗闇の道を照らして見せるからっ!」

 

 ルミアの魔術で全ての傷口は塞がれた。

 粉砕骨折、肉離れ、内出血、全身打撲。

 依然として危険な状態であることに変わりはないが、出血死という選択肢は消しさられた。

 

 少━━━物語を再び始めよう。

 

 STOP……NO。

 REVERSE(調和を否定)……ACTIVE RAIL。

 RE……START。

 

 ━━━教会の瓦礫が踏み砕かれる。

 

「ルミア、待たせたな。あとは先生に任せとけ」

「フィーベル、【リヴァイヴァー】の準備を始めろ」

「はいっ……大丈夫よ、ルミア。彼女泣かせのバカにビンタを入れるのだけ準備しててね」

「先生、システィ……アルベルトさんも」

 

 グレン、システィ、アルベルト。

 それに初めて見る顔だがアルベルトと同じ服を着た者が二人いる。

 

「これは酷い……ですが、なんとかしてみましょう」

「ったく、こんな別嬪さんを泣かせおってからに。罪な男じゃのう」

「翁、グレンの教え子達を」

「任せろぃ。だってワシ治療の邪魔だしぃ、てへっ」

 

 気の抜けたおじさんに対して険しい顔の若人。纏う雰囲気は強者のソレだ。

 ルミアは確信した。ラクスは救われると。

 

 元も含め帝国の最高峰の戦力である特務分室所属が5名。

 加えてシスティという、いずれはアルベルトを超える才を持つ者までいる。

 これで救えないのなら世界は死で溢れかえっている。

 

「ルミア……ラクスはわたしたちが連れ帰るから今は休んで」

「リィエル……ごめん、私もなんだか疲れちゃって……ラクス君が起きるまで頑張らないとって思っ……て」

「目を覚ませば全部、解決。ラクスよりも早く起きればいい」

「そ……っか。リィエルは頭がいい……ね……お願い、ラクス君を助けて……」

 

 ルミアはそこで意識を手放した。

 慣れない戦場でクラスメイト全員の命を預かる大役を任されたのだ。耐えられる疲労は既に限界をむかえていた。

 

 そして少女は口にした。自らの願いを。

 だから、これから始めよう。

 これは少年が少女の願いを聞き届ける物語。

 ならば途中退場など許されるはずはない。

 ここに奇跡はなる。

 

 【調和の逆転・転化】

 

 世界が望んだ平穏を少年も少女も受け入れるはずなどないのだから。

 気にくわないちゃぶ台をひっくり返せ。

 ここから始めよう。また、新しく。

 この基点は終点にして始点。

 未来を始めよう。

 

 ━━━物語は始まったばかりなのだから。




ラクス君、記憶を取り戻したことで強化入りましたー。
後々、説明を入れますがこれが本来の力です。
取り扱い説明書を読んで正しい使い方を覚えたというかんじですね。
けどまぁ、猛威を振るう機会はしばらくお預けですけどね(慈悲なし
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