ロクでなし魔術講師と超電磁砲   作:RAILGUN

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RAIL 3

 ◆

 

 システィーナ=フィーベルは全力で階段を駆け上がっていた。

 どこぞの魔術講師がわかりにくい伝言をしたせいで3階から放り出された時は呆然としたが、今は違う。

 時間をかければ恐らくグレンの劣勢は決定的なものとなるはずだ。

 こちらに敗北の天秤が傾く前に敵の剣にかけられた魔術作用を不意打ちで打ち消す。

 そのためにグレンはシスティを3階から放り出した。

 

「本当っ、いつか殴り飛ばしてやるんだから!」

 

 グレンが【イクスティンクション・レイ】で大方のゴーレムを吹き飛ばしたとはいえ、残党はいる。

 システィはどうにか接敵を避けて、尽きそうになる体力に諦めたらグレンの嫌味が死ぬほど嫌という意地で階段を駆け上がっていた。

 そうして辿りついた。

 

 辿りついた時にグレンの体に3本の剣が刺さっていたことに悲鳴をあげそうになるが、アイコンタクトを受け取るとすぐに魔術を発動した。

 

「《力よ無に帰せ》」

「小癪な!」

 

 そしてグレンは体に刺さる剣を引き抜き、全身全霊をかけて目の前のテロリストに斬りかかった。

 互いに限界。ボロ雑巾のようなレイクにグレンのお遊戯の

ような剣筋を拒むことはできない。

 

 だがしかし、グレンは魔術講師だ。生徒に危険が迫ればそちらの安全を優先する。

 

「なっ、てめぇ!?」

 

 レイクは隠していた最後の剣―――6本目の剣でシスティを狙った。

 グレンはレイクへの追撃を諦め、システィを守ろうとする。

 が、あまりにも遠い。その距離は致命的すぎた。

 敵のエースとも呼べるレイクの魔術作用を【ディスペル・フォース】で3つ無効化したシスティに防御用の魔術は発動できないし、同様に回避も不可能。

 グレンの顔が悲痛に歪む。

 彼の持ち得る経験がもう自分では間に合わないと言っている。

 

 ―――そう、グレンでは間に合わない。

 

「いけっ、レーダス先生!」

「お前っ……うぉぉぉおおお!!!」

 

 システィに向かう剣を受け止めたのはラクス・フォーミュラだった。

 そして【ウェポン・エンチャント】で強化された拳がレイクの最後の剣を砕いた。それと同時にグレンはレイクにとどめを刺した。

 

「ふっ、聞いたことがある。帝国には最近まで凄腕の魔術師殺しがいたと」

「そうかよ、あいにくと人違いだ」

「そうか……それにしてもあの青年は強いな。俺も最初から本気で6本目を抜かされた」

「あいつが? どういうこと……っ!」

 

 グレンが答えを聞く前にレイクは事切れた。

 残るは満身創痍のグレンと床に座り込むシスティに腹を押さえて佇むラクスだけだ。

 

「ラクス、どうしてお前が……」

「授業開始前にトイレに行ってたらいつの間にかテロが起きてそのまま巻き込まれました。先生が殺ったそのテロリストといるルミアを助けようと思ったんですがね、この始末ですよ」

「ちょっと!? ラク━━━この傷!?」

「白猫! 【ライフ・アップ】だ!」

「はいっ!」

 

 システィはすぐさまラクスの治療を開始する。

 そしてグレンも限界だった。

 

「先生!?」

 

 唯一、怪我をしていないシスティだけが残された状況で焦りが襲う。

 

「システィ、先生は顔色が悪いがマナ欠乏症なのか?」

「うん、さっきゴーレムをまとめて吹き飛ばす時に神殺しの魔術を使ったの。って、ラクス動かないで!」

「これを使え、システィ。魔術触媒だが多少のマナは確保できる。使い方はわかるな?」

「これって……使いかたは大丈夫。だから、横になってなさい! 本当に死んじゃうわよ!?」

「はっはは、簡単にくたばりはしない。ルミアのやつに一発ガツンと言うまではな」

「ルミアに?」

「あぁ、あいつもいい感じに馬鹿だったもんで少し切れてんだわ、俺。そんであいつの目を覚まさせるために頑張ってここまできた。あともう少しだ。起きたらグレン先生に塔に来いと伝えてくれ、ルミアはそこにいる」

「はぁ!? まだ動ける体じゃないでしょ!」

「十分だ。あっ……あと、伝言追加だ。早くこないといいとこ全部持ってくぞって言っといてくれ。じゃあな、頼むぜ」

「ラクス!」

 

 ラクスは校舎から離れた塔に向かって走り出した。

 残されたシスティはというと。

 

「まったく、どいつもこいつも好き勝手して! いいわよ、やってやるわよ。こうなったらヤケよ!」

 

 ラクスから貰った触媒を遠慮なく砕きグレンに【ライフ・アップ】をかけ始めるシスティ。

 底をつきかけていたシスティの魔力も本当になくなりつつある。

 意識を保っていられるのはやはり、意地。

 グレンは命をかけた。ラクスは勇気を振り絞った。

 なら、自分はどうだ?

 1から最後までを介護されて事件を乗り切るつもりか?

 

「本当っ、いつか殴り飛ばしてやるんだから!」

 

 そのために生きて帰ろう。

 システィーナ・フィーベルは指を咥えて見ている性分じゃなかった。

 

 ◇

 

 学院生ですらあまり出入りしない塔。

 校舎から繋がる連絡通路には思ったよりもゴーレムはいなかった。

 が、塔の内部には溢れかえるほどゴーレムがいた。

 これが廊下を埋め尽くす無限の骸達ってやつか。

 まぁ、それが塔になってるわけだが、細かいとこはどーでもいい。

 今の俺にあれを全部吹き飛ばすだけの力なんて残っちゃいない。システィのライフ・アップがなければ死んでたかもしれないし。

 

「よっし、いくか」

 

 一旦、連絡通路に避難した俺は足を伸ばしたりして準備運動を終えた。

 この長い塔。所詮は人工物で基礎には鉄を使っている。

 だったら、あとはこっちのものだ。

 俺の足に磁力をまとわせて……

 

「一気に駆け上がる!」

 

 途中で力が抜けて転けそうなるのを必死で耐えて、腹筋が壊れそうになり背筋で耐える。体はすでにガタガタだ。

 本当っ、今の俺は泣いてるに違いない。

 痛くて痛くて、たまらない。

 今にも逃げ出したくて足元に力を入れるのをやめたらどれだけ楽なんだろうか?

 そこまで考えて更に足元に力を入れた。

 ガラスの窓を突き破り、俺は塔の内部へと侵入した。

 部屋にいるメンツは予想通り。

 ルミアとヒューイ先生だ。

 

「ラクス君!?」

「よ、待たせたな」

「どうしてこんなところに来たの!? 私のことなんていいから早く逃げて!」

 

 ルミアは今までに聞いたことのない大声で俺に警告をした。

 ヒューイ先生が人間爆弾だとか、転送魔方陣が起動すると同時に学院が吹き飛ぶとか言ってたような気がする。

 けどよ、そうじゃねぇだろうがよ。

 

「お前はどうするんだよ?」

「……私は天の智慧研究会ってところに転送されるから大丈夫だよ」

「大丈夫じゃねぇよ。そこで何をされるか分かったもんじゃねぇ」

「いいの、それで。私はこうなる運命だったんだよ」

「はぁ……筋金入りだな。おい」

 

 俺はルミアに向けていた視線をヒューイ先生に移した。

 

「先生さ、この魔方陣を解いてよ。仮にも先生でしょ?」

「元、ですよ。ラクス君。今はテロリストをしています」

「したくてしてるんですか?」

「……はい」

「嘘つけ」

 

 二人とも本当に馬鹿野郎だ。

 こうもイラつくのは初めてかもしれない。

 

「なんでだよ、なにを簡単に諦めてるんだよ! ルミア、お前を救うためにシスティは魔術の即興改変をした。グレン先生は体中に剣を刺されて、ゴーレムを壊滅させるためにマナ欠乏症になってる。それでもまだ動けるからって助けることを諦めてない」

「システィ……先生……」

「そうまでして助けたい理由なんざただ一つだろう。お前と一緒にいたいからだ。笑いたいからだ。泣きたいからだ。ルミア、お前は死ぬ覚悟は確かにできてるんだろうよ。だけどな、そんなの俺にもできる。大切なのは生きる覚悟だろ?」

「生きる覚悟……」

「自分の人生を他人任せにするな。自分で考えて自分で決めて未来を摑み取ろうぜ。隣には俺だけじゃないシスティにグレン先生もクラスメイトのやつらだっている。俺たちが学ぶべきことは楽な生き方じゃなくて険しい道の歩き方なんだと思う」

 

 多分、これで俺の伝えたいことは全てだ。ちゃんと言葉にできたと思う。

 半ば説教になったが、悪いなんて思っちゃいけない。

 ルミアにはこれくらいでちょうどいい薬になる。

 

「さ、ルミア。お前はどうしたい?」

「私は……」

 

 ルミアは伏せていた顔をあげて、吹っ切れたように声をあげた。

 

「まだみんなと一緒にいたい! だから、助けてラクス君!」

「言うのが遅い! だけど、委細承知ってやつだ! 全力で助けてみせる!」

「無駄ですよ。ラクス君。学院生では五層からなるその魔方陣の一層すら解除できない」

「無駄じゃない。言っときますけど、さっきの言葉はまんまヒューイ先生にも向けてますからね?」

「……まだ、君は私を先生と呼ぶのですね」

 

 ……らしくないぜ。ヒューイ先生。

 それと俺の限界はあんたじゃない。俺が決める。

 

「《原初の力よ・我が血潮に通いて・道を為せ》」

 

 流れてる血を触媒に解除を試みる。

 魔方陣に書かれてることはさっぱりだが、俺でもわかることは一つだけ。一度でも失敗すれば強制起動するみたいだ。

 ったく、趣味が悪い。製作者は相当にひねくれてるみたいだ。

 

「こ、これは!」

 

 だから俺も奥の手だ。

 解析はできないが、答えは知ってる。

 あのビジョンが俺に最初の答えを示した。

 言うなれば今の俺はテストの正答表を持ってる状態だ。

 

 黒魔儀【イレイズ】を唱えて、一層と二層を続けて解除した。

 

「どういうカラクリですか。この魔方陣は学院の先生でも解くのに時間がかかるもの。それを立て続けに二層も」

「タネと仕掛しかないですよ。ネタバラシはなしで。つーか、これ以降は俺じゃムリ。マジで訳がわからねぇ」

 

 記憶が途切れた。

 カンニングもここまでらしい。

 ルミアが不安そうに俺を見上げるが、まだ手はある。

 

「というわけでルミア。全力で防御魔術展開しとけ」

「それって、もしかして」

「この魔方陣を物理で破壊する」

「それはさすがに無理ですよ。その魔方陣はいわば結界だ。物理的に破壊するとしても神殺しの術式を用いないことには話になりません」

「先生は俺が熱遮断の魔術を研究していたことを知ってましたよね」

「……えぇ、もちろんです」

 

 残り二つとなった触媒の一つを右手で掴み術式の準備を始める。

 ルミアは既に防御魔術を展開した。

 当てる気はないし、おそらくこの魔方陣は優秀なので五層を残してしまい爆風は伝わらないだろう。が、念には念をだ。

 左手で銃の形を作り、狙いを定める。

 三層、四層に対して上から45度の角度で叩き込む計算だ。

 

「俺が熱遮断をするのは今からみせる最終超奥の手固有魔術の副作用軽減のためです。あまりの威力でね。そのまま使うとこっちの体が塵も残さずに吹き飛ぶんですわ」

 

 驚愕といった先生の顔をよそに俺は触媒を砕いた。

 そして途端にあたりの温度が急激に低くなる。

 大丈夫、これならいける。

 

「ラクス君、信じてるから」

「任せろ」

 

 そして俺は超電磁砲の魔術的な詠唱を始めた。

 

「《駆け抜けろ・紫電の流星よ・遍く障害の全てを・無に返せ・その威光を以って―――」

 

 本来なら魔術的な詠唱は必要ない。

 だが、それではあまりにも威力が高すぎてしまうのだ。

 そう、この詠唱は威力調整(・・・・)の魔術。俺の体から出力された電撃を整形するもの。

 

「―――果てへと至れ》」

 

 黒魔【超電磁砲(レールガン)

 

 この国の通貨である銀でできたメダルを弾丸に超電磁砲は放たれた。

 瞬間、打ち出した右手だけでなく右腕を灼熱の業火が襲うがコントロールは続けないといけない。

 体は残っている。熱遮断の魔術はうまく作用しているようだ。

 

「届けぇぇ!!!」

 

 三層を一瞬でぶち抜き、四層を3秒程度の拮抗で破壊。

 そのまま床を貫き、塔に大穴を開けた。

 思ったより塔に開いた穴が小さい。これは欲をかいて五層破壊を挑まなくて正解だった。

 にしてもうまくいった。

 これで限界だ。この結果に満足した。納得した。

 俺はその場に膝から崩れおちた。

 

「ラクス君!? しっかりしてラクス君!」

「きついけど、大丈夫だよ。あとは正義の味方に任せる」

「正義の味方?」

「あぁ、とびっきり捻くれてるけど頼れる人さ」

 

 俺がそこまで言うと塔に開いた穴から一つの人影が飛び出した。

 

「超ウルトラミラクル頼れるグレン先生は認めるが、捻くれてるは余計だ」

「そこまで言ってねぇ……」

 

 全く、締まらない人だ。

 俺は先生にサムズアップをして眠気に身を任せた。

 眠るまえに先生の任せろという声が聞こえた気がした。

 

 

 

 目覚めればそこは桃源郷だった。否、ルミアの膝枕であった。

 どうやら俺は即身成仏したらしい。

 

「俺は死んだのか……」

「死んでないよ!?」

 

 天国にいるのにどうやら俺は死んでいない。

 なるほど、わざわざ天使は空から降ってきたのか。

 

 んんっ!? どうやらテンションが振り切ってマックス風速スカイハイ。

 深呼吸して落ち着こう。

 すーはーすーはー。

 その時、無防備な俺をルミアの甘い香りが襲ってきた。

 

「やばい。鼻が孕む」

「えーと、もう一度気絶してみる?」

「目が笑ってないから、許して」

 

 と、そこで右腕に力が入らないことに気づく。

 視線を向ければなるほどそういや超電磁砲決めたんだった。

 ところで頭を動かしたときにルミアの『んっ』っていう声が聞こえたんですが、再びTRYしていいでしょうか?

 

「お前、実は元気だったりする?」

「おぉーグレン先生。お互いにいい身分ですなー」

 

 すると左にはグレン先生がシスティに膝枕されていた。

 システィの顔は真っ赤だ。

 

「あぁ、白猫は生意気だが太ももの感触はそこらの高級店の枕じゃ真似できない。現存する素材じゃ、この感触は出せないだろうがっ!?」

「先生の馬鹿っ! あと、生意気じゃないし白猫言うな!」

「だからって床に落とすことないだろうが、こっちはマナごっそり持ってかれて重症なんだからな!」

「知らない! 馬鹿っ!」

 

 なんて痴話喧嘩してるのを見るにこの事件は先生があっさりと解決してくれたっぽい。

 非常勤講師が優秀すぎる件について。

 

「あ、あのラクス君?」

 

 無限に眠気がやばいのでDX安眠ルミアマクラで寝ようかとすれると何やら話があるらしい。

 

「大丈夫だ。ルミアの膝枕も最高です」

「落とすよ?」

「散りそーす」

 

 無限にふざけるのはよくないみたいだ。

 ガチめな話っぽい。

 

「今日の事件は私のせいで起きたことなんだ」

「そうか」

「私は身分を偽っていたの。私の本名は―――」

「ルミア・ティンジェルだ」

「え?」

「俺が知ってるお前はルミア=ティンジェルだ。金髪で優しくて、あまりの優しさに全校生徒の間じゃ聖母なんて呼ばれてて、俺の勉学の師でそんなお前はどうしようもなくルミア=ティンジェルだ」

 

 大方、事件に巻き込んでしまった俺に対する負い目でも感じてるんだろう。

 

「あの剣を使うテロリストとの会話なんざ忘れた。なんせ、電気を扱う体だからな。細かいことはよく吹き飛ぶ。ま、忘れるってことは大した話じゃないんだろうさ」

 

 そこまで言ったところで頬に水が流れた。

 

 あぁ、そうか。

 泣かせちまったか。情けねぇな、俺。

 どんな理由があっても女を泣かせたときは男が悪い。

 

「……ありがとう、ラクス君。私、生きる……覚悟を決めたから。ラクス君のおかげだよ? 今こうして泣いているのがとても楽しいの。変……かな?」

「変じゃないよ。これからもっともっと楽しくなる。楽しくしていこう。改めてよろしく、ルミア」

「こちらこそよろしく。ありがとう、ラクス君!」

 

 涙で顔をぐしゃぐしゃにして泣くルミア。

 その顔は普段見せるどんな表情よりも輝いていて、今までで一番の笑顔だった。

 そうだ。

 俺はこの笑顔を見るために立ち上がれたんだと思う。

 逃げたくなって、本当に情けなく痛みで泣いて。

 身体中を電撃でズタボロにして右腕はしばらく使いものにならなくて。

 報酬はただ一つの女神の笑顔。その小さな背中がこれ以上悲しみで震えることはなくなった。

 あぁ……なんてもったいない。俺には過ぎた報酬だ。

 これなら体を張った甲斐があるってもんだ。

 

 第1部完。ハッピーエンドってやつだな。

 




次回、後日談。


そしてこの場を借りて誤字報告の感謝を申し上げます。
消音様、ありがとうございます。
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