ロクでなし魔術講師と超電磁砲   作:RAILGUN

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RAIL 3

 ◇

 

 学院に到着した俺はまだまだ競技まで時間があることにホッとした。

 システィがなにやらオロオロしてるが、ルミアのことだろう。加えてグレン先生いないし、クラスの雰囲気は盛り下がる。

 が、俺達は負ける訳にはいかないのだ。

 グレン先生のためにルミアのために。

 

「しかしなぁ」

 

 ハイパー無敵のラクスさんでも盛り上げるのは無理だ。そんなことは急に得意になったりしない。

 俺は競技開始まで暇を持て余した。

 そろそろ昼休みも終わる。

 午後の部最初の競技は『闘乱戦』、つまりは俺の出番だ。

 さっき、運営の人にII組は都合により1人しか出場できない旨を伝えた。同情するような目を向けられたが、生憎と今の俺は天使の加護がある。

 負けないというよりは、負けれない。

 

「勝つか」

「その調子だ。ラクス」

「アルベルトさん!?」

 

 意気込んでいるとアルベルトさんがなぜか堂々と試合場袖にいた。

 後ろからひょっこりと顔を出すリィエルはなぜか顔が赤い。

 アルベルトさん曰く、グレン先生は急用で最後まで見ることはできないが応援してるとのこと。

 代わりにアルベルトさんが俺らの戦術顧問となってくれるらしい。

 

 ……んー、あーそういうことね。

 

 アルベルトさんはらしくなくクラスを煽り、士気をガンガン高めていく。

 どっちかっていうとやり方がグレン先生っぽい。つか本人だ。

 意気投合したのかアルベルトさん、それにリィエルと握手をするシスティも気づいたみたいだ。

 まちがいない、あれはグレン先生とルミアだ。

 変身でもしてるんだろう。

 なにをしたいのかはわからないが、俺は俺のやることをするだけだ。

 

『午後の部最初の競技は『闘乱戦』だ! えー各クラスのメンバーはーっと! おっと、II組はラクス・フォーミュラ君、1人で参加だ! 相方のルミア=ティンジェルは急用につき出場不可! 他のクラスをどう捌くのかが注目ポイントだ!』

 

 盛り上がる実況を他所に会場はあいつ、死んだなって目を向けてくれる。馬鹿め。

 さぁ、行くか。

 俺は壁から少しだけ体を出していた()()()()の頭を撫でる。

 

「心配するな。俺は天使の加護を貰ったんだぜ?」

 

 頬を指しながら言うとリィエルは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 やり返したぜ! ()()()

 

「うん、頑張って!」

 

 俺は背中で天使の声を聞いて腕をあげることで答えた。

 

 足を踏み入れた試合場は砂漠のフィールドに変化。

 それに少しだけ広くなった。

 しかし、都合10クラスでII組以外は全員二人一組(ツーマンセル)で合計19人もいれば手狭に感じる。

 しかも、全員が俺に対する敵意を隠さない。

 これは開幕【ショック・ボルト】が飛んできますね。

 うわー怖い怖い。全力で応戦しますか!

 

『それでは各員準備完了したようなので、試合開始!』

 

「「「「《雷精の紫電よ》!」」」」

「「「《大いなる風よ》」」」

「「「「《白き冬の嵐よ》」」」」

 

 大丈夫だこの距離なら三節でも間に合う。

 

「《我が名は雷電・身に纏いて・盾となれ》」

 

 実況がなにか言ってるが、俺の体を覆う黒い竜巻(砂鉄)が煩くてよく聞こえない。

 天使のおかげで俺の【砂鉄操作(マグネッティク・コントロール)】も調子がいい。

 さ、どっちが狩る側か教えてあげようか?

 天使の加護を受けた俺はお前らなんかに撃ち抜かれはしない。

 

 ◆

 

 そこからは一方的だった。

 

『おーっとラクス選手、またまた撃破だ! 【ショック・ボルト】を物ともしない黒い壁に黒い鞭、一体どうなってるんだラクス・フォーミュラ!』

 

 雷撃の魔術以外は黒い壁で防いで、【ショック・ボルト】などの雷撃は身を使って受けて攻勢に出る。

 あまりの強さに残るI組とIII組とⅤ組は手を組んだ。

 しかしそれも津波へ挑むイカダのようなものだ。

 

「あいつやべぇな」

 

 思わず変身したグレンも舌を巻くほどだ。

 これが去年は留年の危機だったのだから信じられないだろう。ラクスの本気を知らないクラスメイトは動揺を隠せない。

 

「なんなんですの、あの黒い壁は?」

「魔力じゃないな……使ってる魔術式は電気系だとすると、なるほど砂鉄か」

 

 冷静に分析するギイブルの予測は核心をついていた。

 

『邪魔だコラァ! 俺を倒したいなら天使の矢を持ってこい!』

 

 スピーカーから流れるラクスの喋る言葉の意味が分かるのはルミアかグレンぐらいのものだろう。

 それから5分。

 一気に逆転を狙った残りの4人が砂漠の中央でラクスに十字砲火を浴びせるが黒い壁を崩すことはできずにまとめて吹き飛ばした。

 

『圧倒的! 一人というハンデをものともせずに『闘乱戦』を制したのはII組のラクス・フォーミュラだぁぁ!!』

 

 会場の興奮は冷めやらない。

 実況のアース・カメンターは息を切らすラクスにマイクを向けた。

 

「ラクスさん大活躍でしたね! 差し支えなければ競技中に使用していた魔術についてお伺いしても?」

「あー、多分固有魔術です。電気を飛ばして出来る磁力を操って砂鉄を操作してます」

「えーっと電気を操るということでよろしいですか?」

「えぇ、詳しくは右ねじの法則とかフレミングの法則とかポインティング・ベクトルなんかを調べてもらえれば誰でもできると思います」

「なにやら難しい単語が並んでいますが……勝利した感想は?」

 

 原理が想像以上に難しいのでアースは話題を変えた。

 

「敬愛する女王陛下の前で勝利を重ねられて嬉しいです」

「へぇ、それでは敬愛する女王陛下に一言!」

 

 これこそがラクスの狙いだった。

 こう言えばきっとこう質問してくれるだろうと踏んでいた。

 

「女王陛下、今日も相変わらずお美しい」

「ら、ラクスさん?」

「それに……首元に輝くネックレス、いいご趣味ですね!」

 

 会場がざわつく。

 こいつは女王陛下に向かってなんて口を利いてるのかと。

 アースもそれは同じことだ。マイクを向けた以上、ラクスの失言も多かれ少なかれ責任は問われる。

 しかし、その空気を割いたのは他ならぬ女王陛下だ。

 

「ありがとうございます。このネックレスはこの競技祭のために選んでいただいたものです」

「はー、お選びになった方は類い稀なるセンスの持ち主なんでしょう」

「えぇ、信頼できるメイドの一人です」

「なるほど、ありがとうございます! 今日の競技祭、まだまだ盛り上げるんで、最後までお楽しみください」

 

 ラクスの言葉に微笑むと女王陛下は元の席に戻った。

 

「というわけで勝利者インタビューでしたー! これからもどんどん盛り上がっていきますよー!」

 

 先ほどまでの微妙な間はアースの名司会によって有耶無耶のされた。

 人は長いものに巻かれやすいということだろう。

 

「うぃーつかれたぁ」

「お疲れ、ラクス。やるじゃない。私、驚いちゃったわ」

「そうだぜ、ラクス。お前、あんな魔術使えたのかよ!」

 

 舞台袖に帰るとシスティとカッシュを始め、多くのクラスメイトが駆け寄った。それだけ先の試合が印象に残ったのだ。

 多くのクラスメイトがラクスに対する評価を改めた。

 

「はっはー、天使の寵愛を受けたラクスさんは激強なのさ!」

「また訳がわからないことを……って、もしかしてルミアに何かしたの!?」

「システィの中での俺はケダモノか!? 俺はなにもしてないぞ!」

 

 俺は、である。

 

「そうよね、ラクスってばヘタレだし」

「言い返したいけどマナが足りない……」

「って、ラクス。ちょっと!? もしかしてマナ欠乏症!?」

 

 そのままベンチに倒れこむラクス。

 あの魔術がそう簡単にホイホイ使えるほど完成されてはいないのだ。

 システィの隣からアルベルトがやってきて、それっぽい処理を始める。

 

「フィーベル、後は俺に任せておけ。お前はお前のやるべきことがあるだろう?」

「わかりました。よろしくお願いします……らしくない」

 

 システィは選手用の休憩所に向かい、舞台袖にはラクスとアルベルトにリィエルだけになった。

 

「ラクス、あの質問の意図はなんだ?」

「おい、グレン先生。あんたの変装は俺とシスティはお見通しだからな?」

「なっ……お前!?」

「まぁ、いいや。多分、アリシアさんの首飾り、アレがキーポイントだ」

「……お前、どこまで見抜いてる?」

「先生みたいに大局までは読めてないけど、部分的になら多少は」

「そうか、首飾りが呪殺具か」

「あー、そうか。そういうことか、だからグレン先生とルミアは変装してんのか」

「ま、そういうことだ。『闘乱戦』を勝ち抜いてくれたおかげでだいぶ、後が楽になった。これは勝ち確だな」

 

 少なくとも『決闘戦』勝利が最低条件だがシスティにカッシュ、ギイブルが負けるほど強い奴は他のクラスにはいない。

 問題は相性だが、それこそシスティの独壇場だろう。

 

「そうか、安心した。『優勝』したら、起こしてください……もう、キツくて……」

 

 すぅすぅと音を立ててラクスは眠りについた。

 

「あとは任せろ」

「だから、安心して眠ってて」

 

 微笑むリィエルを見てアルベルトはありえねぇと呟くが、リィエルは意味がわからずに首を傾げるしかない。

 同刻、屋根の上を駆け回るルミアはくしゃみをしたとかしてないとか。

 

 ◇

 

 目を覚ましたらII組は優勝していた。

 いや、さすがだわ皆。どんだけ、グレン先生にバカにされるの嫌なんだよ。

 しかし安心するのはまだ早い。

 こっからが本番だ。

 試合場にはアルベルトさんにリィエルにアルフォネア教授と予測で見た傷のおっさんにアリシアさん。

 状況は整った。

 そろそろ動く時間だろうか。

 そう思っていたらアルベルトさんとリィエルは変装を解いていつものグレン先生とルミアに戻った。

 同時に俺は全力で試合場に踏み出した。

 

「邪魔をするな!」

 

 間一髪、アルフォネア教授の張る結界に潜り込めた。

 

「やれやれ、フォーミュラ。割り込んだ以上は最後まで付き合えよ?」

「もちろんですよ、アルフォネア教授」

 

 大丈夫だ。すでに種は割れている。

 グレン先生とのアイコンタクトでやることは決まった。

 

「廃棄王女、今ここで帝国の為に倒れてもらう」

「あ?」

 

 あのおっさん、いまなんつった?

 ったく、ハーレイ先生といい、こいつといい人の事を考えられないんですかねぇ?

 あの気丈なルミアが珍しく小さくなってる。

 あぁ、普通の人にはわからないかもしれない。ただ、こっちは長い付き合いなんだ。それくらいの機微には敏感だ。

 おっさんはルミアに向かって剣を向けて走りだす。

 凄まじい速さだ。グレン先生が迎撃の構えに入るが、おそらくそれでは対処しきれない。

 俺なんて以ての外だ。

 斬り合う段階にすら至れてない。

 そんな俺でも無謀と分かってても拳を握らずにはいられなかった。

 ただ今回の場合は大分、せこいがあのおっさんと渡り合う方法が一つだけある。

 特例だ。おそらく騎士が相手なら俺は高確率で負けることはない。

 

 俺はまずおっさんの()を誘引してグレン先生の安全を確保して()を無理やり引き寄せた。

 あとは進行方向に拳を添えるだけ。

 さすがは歴戦の勇者殿だ。空中で姿勢を整えるが、こっちの出力をなめるな。

 

「口の利き方に気をつけろォ!」

「ぐはっ!?」

「行けっ、グレン先生!」

「くそっ、死ぬなよ!」

 

 当たり前だ。こんなところで散らすほど俺の命は安くない。

 おっさんが俺ではなくグレン先生に標的を切り替えるが、そうはさせない。

 無理やり電気で拘束する。

 おっさんも気づいたみたいだ。一瞬で鎧を自由の利かない剣で外しーーー

 

 ーーー二本目を抜いた。

 

 それもこれも一瞬だった。

 全身の汗腺が開き、視界が狭くなる。

 命の危機に対する反射が俺の命を間一髪で救った。

 【ラウザルク】と【砂鉄操作】。俺ができる最大の守りでおっさんの全力を受け止める。

 が、全てを防ぎきるのは不可能。

 

「ラクス君!」

 

 ルミアの声が血で染まる視界の外から聞こえる。

 ダメだ。まだ沈んじゃいけない。

 頸動脈と右鎖骨を斬られた。

 【砂鉄操作】で左太腿と右脇腹はガードした。俺が気づかないだけでもっと斬られてるのかもしれない。

 血が面白いくらいに吹き出す。

 一瞬で血が足りないことを知覚する。

 それでもまだある。

 おっさんもルミアもグレン先生も女王陛下もまだ諦めてない。

 根性で張り合うチキンレースにここで降りるなんてダサすぎるぜ。

 

「《猛き雷帝よ》!」

「学生が軍用魔術だと!?」

 

 【ライトニング・ピアス】で迎撃してやるが、ふざけた野郎だ。驚く割にゼロ距離で剣をつかい弾きやがった。

 けど、体勢は崩せた。

 決まるとは思えないが、時間稼ぎくらいさせてもらおうか!

 

「《砂鉄よ・舞い踊れ》」

「小癪な!」

 

 二刀で構えるおっさん相手に稼いだ時間は10秒足らず。

 十分だろうさ。

 苦虫をかみつぶした表情をするおっさんが竜巻に飲み込まれる姿を最後に俺は意識が切れていくのを感じた。

 後頭部に感じる痛みとともに見た景色は最高に綺麗な青空だった。

 これはまた入院生活か。壊れるなぁ。

 

 ◆

 

 セリカの展開した魔術によって事の大筋は誤魔化せたもののあらすじは説明しなければならない。

 てんやわんやする中で美味い誤魔化し方は学院長に全て丸投げされた。

 今もクレーターが残る舞台の上で湧き出る汗を拭きながら必死に誤魔化し続けてる学院長にはご愁傷様としか言えない。

 現在進行形で事の主犯であるエレノアと戦闘中のリィエルやアルベルトに比べればわずかにマシ程度のものだ。

 そして舞台袖。

 舞台上で殴りあった者たちは治療が行われてるラクスの周りに立っていた。

 応急処置だが血は止まった。

 死に至ることはない。とりあえず女王陛下は胸を撫で下ろした。

 ゼーロスを責める気はない。彼は忠誠を誓いいつものように仕事をこなしただけ。ただ、若い芽が目の前で摘まれそうになったことに胸を痛めた。

 

「つーわけで女王陛下、こいつのことは俺らが預かるんでお下がりください。まだ残党も残ってるかもしれないですし」

「ですが、グレン。彼は今回の件に関して貴方と同様の働きをしてくれました。ラクスがグレンの手助けをしなければ、私はすでにこの世にはいなかったでしょう」

 

 だから最後まで見届ける義務が私にはある。

 そう女王陛下は言外に告げた。

 

「それに不謹慎ではありますが、嬉しくもあります」

「あ……そりゃ、まぁ。そういうことになりますね」

 

 女王陛下ーーーアリシアはラクスの左手を掴んで祈るように膝をつくルミアを見て微笑む。

 アリシアはどういう関係なのかとニヤニヤしながらグレンを見る。

 

「末長く爆発してくださいってところですね」

「あらまぁ」

 

 基本的にこの二人は軽い。

 事件も終わりラクスに命に別状はないと分かった今、気を張り詰める必要もないのだ。

 

「……おいおい、また全部終わったあとかよ」

「ラクス君!?」

「……おそるべき回復力だ」

 

 ラクスは医者が席を外すと唐突に目を覚ました。

 これには頬にガーゼを当てているゼーロスも驚愕した。

 

「おはようルミア」

「おそようございます。また私のためにこんなに傷ついて……ありがとう」

「どういたしまして。だから魔術競技祭は一日中、寝てるべきだったんだよなぁ」

「そしたら私、どうなってたか分からないよ?」

「朝から起きて正解……いやぁ、安い買い物でした」

 

 豪胆だ。

 しばらく見ない間にルミアはラクスに対しては無条件で寄り添うことをやめた。

 我が出るとでも言うのだろうか。ルミアは我儘のような本音を包み隠すことをやめたのだ。

 そしてそれはいいことだとラクスはもちろんのこと、グレンも思う。

 遠慮の多いルミアが少しずつだが変わってきた。

 それは成長。

 教え子の成長を嬉しく感じるのは教師の性だ。

 

「おい、おっさん」

「なんだ、学院生?」

 

 しかし、和みのある雰囲気はゼーロスとラクスの睨み合いによって一瞬で霧散する。

 戸惑うルミアと困惑するアリシア、止めようとするグレンを他所にラクスは立ち上がり、ゼーロスに額を当ててメンチを切る。

 

「あんたが今回、女王陛下を守るためにルミアの命を狙ったことに文句はない。俺が怒ることじゃないからな……ただ、ルミアを『ああいう風に』評したことには我慢ならねぇ」

 

 いうまでもなくルミアを廃棄王女と称したことだ。

 

「あんたらがルミアをどう思ってんのかしらねぇけどな。本人の前で口にするんじゃねえよ。死地に立たされて疲れてるのに人の看病をする優しい子が怒れるわけないだろう。それとも分かってやってんのかよ、おい」

「ラクス君、もう良いって! 私なら大丈夫だから、傷口が広がっちゃうよ!」

「……お前がそういうなら」

 

 ラクスはルミアの言葉を聞き渋々引き下がろうとする。

 グレンはホッと胸をなでおろすが、それを止めたのは意外にもゼーロスだった。

 

「確かにそこの青年の言う通りだ。王国騎士団である前に一人の大人として謝罪しよう。ルミ……いや、エルミアナ殿、此度の一件とそれにまつわる失言、謝罪する。申し訳なかった」

 

 ゼーロスの態度急変に面を喰らうルミアだったが、アリシアが頷くのを見てルミアも頷いた。

 

「謝罪を受け入れます。この謝罪が真ならゼーロス=ドラグハート、今後とも私の母をお願いします」

「元よりそのつもり。しかし、確かにその任を承ります。この双剣は女王陛下に」

 

 それっぽい光景に内心でマジでルミアすげぇと思うのがラクス。

 ラクスはそのままベンチに座り込んだ。

 ルミアの言う通り、気づかずに斬られていた脇腹の傷口が広がっている。

 するとゼーロスはラクスに近づき、新しい包帯を巻き始めた。

 

「学生の身でありながらあそこまでの力をつけているとは……正直に言って感服した」

「本気出さずに人の身体をみじん切りしたあんたが言うことか」

「いやいや、最後の黒い竜巻。アレは本気で対処した」

「どうだか」

 

 包帯が巻き終わりゼーロスは立ち上がるとラクスに手を差し伸べた。

 ラクスはその手を握る。

 

「ゼーロス=ドラグハートだ。おっさんではない」

「こんな格好で申し訳ない。ラクス・フォーミュラだ」

 

 戦場で刃と拳を交わした二人に変な敬いなどはなく当然、敬語もない。

 長年付き添ってきた友人のように二人は手を握りながら笑いあった。

 

「ふははははは」

「はっはははは……脇腹がっ!?」

 

 やれやれ、最後まで締まらないやつだと呆れるグレン。

 そんな光景を見ながら笑うルミアの肩にアリシアは手を置いた。

 びくっと跳ねたルミアだったが、その手がアリシアのものだと気づくと自分の手を重ねて寄り添った。

 顔を見なくてもわかることは一つ。

 久しぶりに取った親と子の手は何よりも暖かくて冷めた体を癒してくれる。

 肩が揺れてるのはつまり、そういうことなのだろう。

 

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