天帝の眼が開眼しました。 作:池上
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新幹線の踏切で車窓に映る女の子格付けをしていた俺を拾ってくれた龍と優希と一緒にリハビリテーションに来ていた。
「きれいな娘ね」
「そうだな、SS候補だ」
「バカっ!」
眼球運動のトレーニングを終えた俺は、疲れた右目から映るハーフの女の子にそう評価を下したところを優希にチョップを入れられた。結構痛かったぞ……。本気だっただろ。
「あっ、だから龍のやつ声を掛けたのか!」
「は? あぁ? あの子な……」
さっきスロープ前で車いすとあって登れないところ気を利かして押してあげた龍だったが、思いっきり怒鳴られていたからな。今も、親御さんと理学療法士の先生を払って出っていたのを見る限りリハビリが嫌なのだろう。まぁ、気持ちも分からなくはないが。
その後、龍の担当医の先生からさっきの女の子について聞いた。滝沢アンナ、ジュニアフィギュアスケート界じゃ注目されている選手との情報を頂いた。確かに、それっぽかったな。
「実力よりあのルックスが先行している感じだけど……膝の十字靭帯やっちゃってね」
あらまぁ~。可哀想なことに。
「はう、きっつぅ……」
なんとかきついバランスボールを使った練習を終えた龍はやり切った。
「さぁ、今日は終わるか。あと1セットやったら」
優しい顔して龍の担当医の先生は厳しくもあった。
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「あ、あの子……」
リハビリテーションでのリハビリを終えた俺と龍と付き添いの優希は病院を出ると、さっきのSS候補の女の子・アンナちゃんがいた……って!?
「なんで叩く?」
「なんか、ムッとしたから」
優希のやつ、最近情緒不安定過ぎないか?
「よう! フィギュアの選手なんだってな」
おぃぃいい!! 龍のやつめげずに話しかけたよ。お前はやっぱり凄いよ。それも一度無視されてももう一度聞くあたりは人が良すぎる。
「なんなのアンタ……カンケ―ないでしょ! ずいぶんお節介ね!」
「滑りたいかどうか聞いてんの!」
それでも問う龍に俺たちは止めようとしたが、アンナちゃんは答えなかったから龍は近くにいたアンナちゃんのおじいさんに、本人の答えが出ないうちは無理させることはないと言って去っていた。おい、相手外国人だけど通じたか?
「じゃあな」
「もう、龍ちゃん……」
俺たちは龍が言いたいことを言ったので帰ることにした。そして翌日のこと――
「スミマセ――ン」
「え、俺?」
いきなり声を掛けられたので驚いたが、そこにいたのはアンナちゃんの確か親戚か何かだと思う。なんだ。日本語を……おい、何語しゃべってんだ? ジッと見られても困った……。
「WHAT!!?」
俺の英語力舐めんな――――
「なんで、私が通訳なんかを……」
あの後、アンナちゃんに助けてもらいおじいさんの言いたいことが伝わった。どうやら、龍のけがの重さとどれくらいリハビリを続けているかを聞きたかったようだ。俺は近く居た優希に丸投げしてその場から逃げた。
そして何か話していると思ったら、いきなりアンナちゃんの頬を平手打ちした……!? え?
「翼くんや龍ちゃんはあんたみたいな意気地なしとは違うわ!!!」
そう言う優希。大きな声だったので近くになくても分かったのですぐに駆け寄った。
「お、おい。優希?」
「――!!」
優希の目には涙が浮かんでいて、すぐにリハビリテーションを出て行った。
「あ、あぁ……ごめんね」
アンナちゃんが何か悪いことを吹き込んでも手を出した優希のことを俺はアンナちゃんに謝った。そしてアンナちゃんのおじいちゃんにも手を合わせて“ソーリー”と。
「ねぇ、あんた。左目見えないのにどうして……」
アンナちゃんは俺の左目について聞いてきた。そしてまじまじと見てくるアンナちゃんのおじいちゃんも何か聞きたげな様子で、アンナちゃんにどこかの国の言葉で会話する。
「あいつと同じピッチにいたわよね」
「あぁ、いた」
「アンタも左目の視力がないんでしょ……眼帯で隠してるみたいだし」
ほほぅ、俺の左目について聞いたか。いいだろう、この眼帯を取ればどうなるかを教えて――――ん? 待てよ。今、ここでエンペラーアイ(自称)を出すと……。
「ごめん、やっぱりやめておく」
「いや、何言っているかわからないし」
その日を境に、アンナちゃんはきついリハビリと向き合うようになった。ちなみに俺が開眼を避けたのはアンナちゃんが筋肉模型になってしまうと恐れたからだった。
「よう、アンナ。また逃げ出したのか? リハビリ」
「意気地なしだもんね」
そんなある日のこと、リハビリテーション近くでメソメソと泣いているアンナちゃんがいて声を掛ける龍と優希。あんまりからかうなよ。
「……ムカつく~~……! ねぇ、あんた」
「アンタじゃない! 赤星翼だ」
「ぷっ」
いきなり俺を見て笑うアンナちゃん。ちょ、ちょっと胸にグサっときた……。
「あんた何よそれ!? 眼帯!!」
「ん? 何がだ?」
龍と優希はあちゃーっと頭を抱えて笑っていた。まさか――
「この野郎! また落書きしやがったな!!」
前から俺が昼休みに寝ていたところを眼帯に落書きしたようだ。なんだよ、これ。めっちゃ少女漫画みたいなキラキラした眼じゃないか!?
「おい、いつから?」
「朝のHR前にみんなで書いたよ」
おい! どんな鬼なんだよ! 今日もなんか注目浴びていたからいい意味でとらえていたのがこういう意味だったとは!
「プっ、ハハハッ!」
笑うアンナちゃん。あらま、笑った可愛いじゃん。
「え?」
と思った矢先に、俺を見てすぐに驚いた表情に変わっていた。
「アンタ……、目の色が片方ずつ違う」
そうだよ、事故で変色したんだよ……!?
「あれ? なんともない」
この時、俺は落書きされた使い捨ての眼帯を取った。両目とも晒されているにもかかわらず、ここにいる3人が筋肉模型にならなかった。
「治った――!!」
俺の忌々しき天帝の眼は閉眼したように――見えたが、違った。
「BとCorD……」
すぐに視界が変わったと思ったら眼福ものになっていたのだった。この後、俺はすぐにかかりつけの眼科医に見てもらい精密検査を受けた。
「フフッ、どうやらリハビリの成果で回復したようだ」
俺はピースサインで龍の部屋に押し掛けて報告した。龍も今日の夕方に高架下の壁に向かってボールを蹴って問題なかったらしい。
「それにしても、良かったな。回復していて」
「おう、お前たちのおかげだよ。落書きで得するとは……」
もし落書きしてくれなかったら気付かなかったかもしれなかったからな。後、眼福……。
「おい、鼻血でてるぞ」
「おう、悪い悪い――」
俺は龍からティッシュを受け取り鼻に詰めていると、優人と優希がやって来た。
「龍ちゃん、聞いたよ! 優希から」
「おう、優人。明日からよろしく頼むな」
さっそくボールも蹴れたので明日から龍は優人の朝のランニングに付き合うことになっていた。うむ、やっぱり――
「(DでなくCだったな。見誤った)」
そう心の中でつぶやく――はずだった。
「なっ!?」
「翼くん……」
俺はどうやら小言で事細かに言ってしまっていた上に視線がバストの方に向いていたみたいで、思いっきり両頬にグーパンチを喰らった。その拍子か分からないけど、俺の眼福仕様の目の特徴は閉眼したのだった。無念……。
そして翌日から龍も朝のランニングに付き合い始めることになったが、俺の眼のトレーニングには参加しないとのこと。あぁ、せっかく面白いことを……
「さて、明日に備えて早く寝るか」
俺は赤く張れた頬をさすりながら家へ戻った。
△▼
あの日眼福の目の要素を失った翌日から龍もサッカー部に入部して再び一緒にサッカーが出来ることになった。でも、龍は1年たちに混ざってサーキットトレーニングを主戦場に戦っていた。
俺もサッカー部の練習は、今までリハビリだのなんだの言って良くて週4回ぐらいしか参加できなかったが、オフ以外はしっかりと部活に顔を出していた。
「一条――!」
あれから3週間目に入った頃だった。龍が顧問の先生に呼ばれていた。翼ッズ・イアーによると、ベンチメンバーをまだ決めかねていたようだ。そこに龍がどこまで出来るかを見たいと聞こえた。
「先生! 俺、ボランチやりたいです」
龍の付いたポジションを見て俺はAチームの左SBから中盤の底へのポジションチェンジを要求したら、案外すんなりと通った。
「さぁ、ひと暴れするか」
▼△▼
「アンナちゃん、こっち!」
龍ちゃんがサッカー部に入り、翼くんも本格的に復帰してから1カ月が経ったころ、大浦東中学は新人戦を迎えました。
アンナちゃんに2人の復帰戦を見てもらおうと誘うとアンナちゃんのおじいさんと一緒に来てくれました。アンナちゃんはおじいちゃんが観たいから一緒にきただけと言っていたけど、私は取っておいた場所へ案内した。
「なんだ、あいつら控えじゃない……」
「出番来るわよ。きっと!」
私はそう信じ、ベンチにいる2人からピッチの方へと視線を移したのだった。
△▼△▼
大浦東の新人戦、初戦の相手は夏の県大会でベスト8まで残った志村二中だった。ハッキリ言わせてもらおう。10番を背負う宮崎のパスに対しベンチにいたメンバーたちは成功率が低いというが、宮崎だけの問題でなく受け手にも問題があった。
「そこはビューッで、そこからボワーっと」
そういった具合に攻めれば、大浦東も悪くないのにと思ってたが、結局前半は志村二中の前に0-2で折り返した。
そしてハーフタイムのボールを使ったアップの後だった。俺と龍が呼ばれた。
「一条龍じゃね?」
「マジで、一条?」
「あの? 一条龍?」
すげぇな~。やっぱりあの頃の龍の知名度はまだ残っているさすがだ。
「おい、あれって……“DFに定評のある赤……なんちゃら”じゃないか?」
おい。確かに名前は知られてないだろうが、“なんちゃら”とはなんだ! もういい。この試合で植え付けてやる。‶攻守に定評のある“赤星”″ということを!
「さぁ、行くぞ! 龍!」
「よっしゃあ!」
俺たちは緑色のピッチへ踏み入れた。
第2話、でした。
また、今度!