第一話『二度目の人生』
ー西暦2008年 12月18日 日本 とある地方 某所ー
キーン コーン カーン コーン
此処はある地方有数の進学高校。
チャイムがなり放課後になると、学生達はそれぞれ帰路についたり部活に勤しんだりする。
何処にでもあるありふれた平和な風景がそこにあった。
その中で、金髪の少年…
「あ! 秋月君、また明日ねー」
「おい、秋月。 またサッカー部の助っ人頼むよ」
「秋月先輩、私達も今から帰宅何です。 良かったらご一緒させて貰ってもよろしいでしょうか?」
話かけてくる学友や先輩後輩を当たり障りない様にいなしながら、挨拶をしてさっさと帰路につく。
(今日はラノベ新刊の発売日だからな。 早く帰りてーんだよ)
普段は人付き合いが良い秋月 久は、容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群の優等生で通っており、また本人も優等生を演じており、少し風聞を気にしていた。
更に、親が余り良い顔しないため、趣味のラノベやゲームを買うときはできるだけ周りの目を忍んで買いに行っていた。
さっさと自宅に帰宅して支度し、お気に入りの黄色いフード付きジャンパーを着て、目的の物を買いに行こう自宅の玄関から出ると、丁度この家に帰宅してきた人物と遭遇する。
「…あ、…瞬…」
「! …ッチ」
それは秋月 久と瓜二つの容姿をした少年だった。
違いは、秋月 久は金髪なのに対してこの少年は白髪だという点だった。
彼の名前は
「よ、よう、瞬。 オレも今帰宅したばかりでさ…」
「…そうかい。 んで、出掛ける訳だ。 流石は頭脳明晰、運動神経抜群の優等生様だ。 暇そうで実に羨ましいよ。 生憎と出来損ないの僕にはとてもそんな余裕はないよ」
「な、何言ってんだよ。 瞬だって優等生じゃねーか…。 父さんや母さんから学校では全学年トップの成績だって聞いたぜ? スゲー誇らしげだったぜ?」
「ふん…。 誇らしげ…ね。 そりゃあ嬉しかっただろうさ。 何せイザと言うときは予備がキチンと機能してなきゃ自分達が困るもんなぁ。 その予備が立派な予備と成ったんだ。 本当に嬉しかっただろうさ」
「…い、イヤ…その………」
久は言葉に詰まってしまった。
瞬が成績トップをとった事に対して、両親が瞬の事を心から誉めた訳ではない事は久とて承知だった。
あの出来損ないが漸く使い物になってきた
本当に手間ばかりかけさせてくれた
これで自分達の面目も立つ
同じ双子でどうしてこうも違うのか
要約すればそんな話をしていた両親の会話を立ち聞きしただけだったから。
それを余計な部分を取って、美化させて言っただけだったから。
それをアッサリと瞬に見抜かれていた。
久としては瞬と仲直りする切欠が欲しかった。
昔の様に、仲の良い兄弟に戻りたかった。
「お前と違って、僕は誰からも期待されちゃいないさ。 誰からも!!」
瞬は久を押し退けて家に入っていく。
久はせめてなんとか会話を続けようと必死になるが、瞬は取り合う事はなかった。
バタンッ!!
閉じられた扉は拒絶を物語っていた。
(…アイツなんかに、解るわけがない! 謝ったところで! 僕の気持ちなんて! 解ってくれるのは、佳織だけだ………。 そうさ、僕の事を本当に解ってくれるのは…僕の味方でいてくれるのは…佳織だけだ!! 佳織だけがいてくれればそれで良い!! 後は、要らない。 必要ない!!)
「………ハァ…」
閉じられた扉を見ながら久は憂鬱な気分となる。
最早、ラノベなど買う気分ではないのだが、今、家に入っても気まずいだけであった。
外を歩けば何か切欠が得られるかもしれない。
少なくとも家でウダウダするよりマシだろうと、家を後にする。
双子の兄弟である瞬とは過去に色々あり、現在兄弟仲は非常に冷えきっていた。
久の方はなんとか仲直りして昔の様に仲の良い兄弟に戻りたいと願っているが、瞬の方はその気はなく、決定的に毛嫌いしていた。
瞬は久を毛嫌いしていると言うより、とある少女以外は家族であろうがそうでなかろうが、全てを嫌っていた。
瞬とここまで仲が拗れたのは、周りの人全てを嫌ってしまったのは、自分にも責任があると、自分が原因でもあると、久は解っている。
だが今のところ仲直りの切欠が、決定的になかった。
何度謝っても許しては貰えなかった。
何度歩み寄っても拒絶された。
周りには頼れる者も居らず、親も友人もどうしようもなく宛にならなかった。
(こんな事なら、時を止める能力じゃなくて、時を戻す能力とかを望めば良かったなぁ…)
そんな現実逃避な考えばかりしているから何時まで経っても進歩がないのだと、自覚しつつもトボトボと本屋へ向かう久であった。
永遠のアセリア ~二つの“世界”~
序章 ー転生と転移ー
第一話『二度目の人生』
久は当初の目的のラノベは買う事が出来たが、瞬と仲直りする方法は結局思い浮かばなかった。
時計を見ると夕方の5時半だった。
そろそろ帰らないと親が五月蝿いな、等と思いながら帰宅する。
久は一旦瞬の事は、置いといて、違う事を考えながら帰路につく。
(…ほんと、平和だよなぁ…、マジで何もないな、この世界…。 魔術も魔法も超能力も異星人襲来も世界規模でのウィルス蔓延も未知の生命体の出現も何もない…。 前の世界となにも変わらない、平凡な世界に、平凡な毎日…。 本当に戦いの日々って奴は来るのかねぇ? ハッタリだったとか? ………無いな)
「うぁあッ…うわぁあああああっ!」
「!!」
突然、久の耳に男の絶叫が聞こえてきた。
直ぐ横の神社の方から聞こえてきたその声は、とても尋常とは思えなかった。
久は咄嗟に神社の方へ駆け出し、境内の階段を駆け上がる。
ピカッーーーーーーーーーーーーー!!
「うぉっ!」
階段を登っている途中で、階段の上の方で巨大な黄金の光の柱が立ち上がった。
「佳織っ、佳織ぃいいいーーー!!」
「おにいちゃーん!!」
(!! やっぱり人がいる!)
光りの中で男女の声が響く。
「世界(ザ・ワールド)! 時よ止まれ!」
ドォォォンッ!
世界(ザ・ワールド)
秋月 久が第二の人生を得ると同時に得た力。
ジョジョの奇妙な冒険と言う漫画のシリーズに登場する超能力の一種、スタンドの内の一体。
スタンドとは、持ち主の傍に出現し、様々な超常的な能力を発揮し、戦ったり守ったり特定の行動を行ったりする守護霊のような存在。 その姿は人間に似たモノから動物や怪物のようなモノ、果ては無機物まで千差万別であり、一言で言えば超能力が具現化したモノである。
そして、その中でも最強と謳われるスタンドがこの世界(ザ・ワールド)。
時間制限こそ有るものの、時間を止めてその中で自分だけが自由に行動する事が出来る能力を持つ。
更にはスタンド自体が、圧倒的なパワーとスピード、精密動作性を誇る人型のスタンド。
そんな力を、久は今、解放する。
巨大な黄金の光りの柱という明らかな異常事態、切羽詰まった男女の声、自身の直感が、始の後を言っていられない状況だと判断し、久は躊躇わす自身のスタンドで時間を止める。
そして、止まった時の中でスタンドの身体能力を使い一気に階段を飛び越えるように駆け上がる。
ー1秒経過ー
登った先に見えたのは、光の柱が複数の男女を呑み込んでいるシーンであった。
そこで一瞬ギョッとしてしまう。
ー2秒経過ー
迷っている時間はないと判断し、躊躇わず光の柱の中に飛び込む。
光の柱の中の比較的端にいた、学生服を着た一組の男女の腕を掴み、そのまま光の柱の外の茂みに向かって、頭から突っ込まない様に、時が動き出した時になるべくダメージが少ない様に、優しくそれでいて力強く投げ飛ばす。
ー3秒経過ー
そして、他にも人がいないか確認するために周囲を見渡す。
すると光の柱の中央付近にも、もう一組の男女がいるのを確認する。
ー4秒経過ー
直ぐに久から見て近い距離にいた少年まで一気に近づき、少年の腕を取る。
ここで久はこの少年を先に先ほどの学生の男女の様に茂みに投げ入れるか、数メートル先の少女も先に回収するかで迷ってしまった。
少年を投げてから少女を回収したのでは、少女を助ける時間は無いのではないか? 少女も回収してから少年と一緒に投げた方が停止時間内で収まるのではないのか?
ー5秒経過ー
久は決断し、少年の腕を掴んだまま少女に駆け寄ろうとした。
その時、
「なっ、何者です!?」
「!!!」
久はあり得ない事態に遭遇した。
停止した時間の中で、自分以外の声がしたからだ。
慌てて声のした方を向くと、そこにはもの凄く驚いた顔をした茶髪の長髪で巫女服の姿をした少女が短剣を構えて此方を見ていた。
「なっ…に?」
(停止した時間の中を動いている、だとぉお!?)
お互いがお互い、イレギュラーだったのか、久と巫女服の少女は見つめ合いながら硬直した。
ー6秒経過ー
時間停止の限界を向かえた。
そして時は動きだす。
ピカッーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
「しっ、しまったぁあああ!!」
そして、そのまま光に呑み込まれ、
久の意識は暗転する。
☆★☆★☆★
思い出す、最初の生の、最期の時を。
事故でオレは確かに死んだはずだった。
即死じゃなかったから、自分が死んでいくのが解った。
どんどん失われていく命を感じながら、喪失していく自己を自覚しながら、それでも何も出来ず唯々受け入れるしかない事への恐怖を感じながら、オレはそいつと出会った。
いつの間にか訳が解らない場所にいた。
上も下も右も左も解らない不思議な空間。
オレはそこでそいつと出会った。
見えているはずなのに、見えない。
そこに居るのに幻の様にあやふや。
何処か神々しく、それでいて禍々しい。
安心すると同時に不安になる。
男かも女かも、子供かも大人かも解らない。
発する声も耳ではなくまるで魂に響く様に感じた。
そう、そいつの声は聞こえるモノではなく感じるモノだった。
『…生きたいか? このまま死にたいか?』
な、何だよ…何なんだよ
『…生きたいか? このまま死にたいか?』
だ、誰だよお前
『そんな事はどうでもいい。 重要なのは汝の意思だ』
『…生きたいか、死にたいか。 それだけだ』
い、生きたい! 生きたいです! このまま消えるのはイヤだ! 自分が無くなっていくのはイヤだ!!
『そうだ、その意思だ。 生きようとする意思、消え行く自己を繋ぎ止めようとする意思、例え今の己とは違う肉体に宿ろうとも自己を刻み付ける意思』
『それが重要なのだ』
? 訳が解んない…けど、要はオレを生き返してくれるっ事か?
『然り』
『ただし、代償がいる。 死ぬ運命を覆すには相応の代償がいる』
代償…やっぱり取る感じですか? 魂を支払う的な代償が…
『否、運命の代償は運命によって支払われる』
? つまり…どうなると?
『汝は生涯、熾烈な戦いに身を置く事になるだろう。 決して逃れ得ぬ、身も、心も、命も、全てを削る程の、戦いに』
『生きて生き地獄を、修羅を歩むか、死んで無となり楽になるか』
『そう言う選択だ』
………それって…例えばオルタナティブの方のマブラヴとか、終わりのセラフとか、GOD EATERとか、人類存亡の危機な世界に送られるっ事…ですか?
『ある意味ではな』
あのぉ…行き返して貰えるのは嬉しいのですが…そんな世界に放り込まれたら、戦う間もなく死ぬんですが…
『故に、汝に此れを授ける』
…指輪…? あのぉ、これは?
『それは、種。 汝の意思を糧に具現化するモノ、汝の戦う意思を汲み取り芽吹くモノ』
『汝の牙となり爪となる』
『然れど、傲るなかれ。 それは種ゆえ、汝の意思を糧にする故、汝の身の丈に合わぬ力は得られぬ』
…要は強い戦う意思を持てば強力な力に、弱ければ弱い力になるって事か…
………でも…そもそも、こんな事して貴方には何の特が有るんですか?
『汝等の言葉で言うならば、宝クジの様なモノだ』
宝クジ?
『期待はしてはおらぬが、可能性はより高くはする。 当たれば儲け物』
『此れ以上は今の汝には知る必要はない』
『生きる意思を絶すな。 それが汝の希望となる』
そう言うと目の前の存在が遠ざかって行く。
身体が何処かへ引っ張られて行く。
慌てて、手の感覚もないにも拘らず、目の前に浮かぶ指輪を掴む。
戦う意思の具現。
それを聞いてオレは真っ先に思い付いたのは、スタンド。
そして望んだのは、世界(ザ・ワールド)。
オレは強く、より強く、世界(ザ・ワールド)を従え戦う己をイメージして、意識が無くなるまで、ひたすら強く願った。
★☆★☆★☆
ー聖ヨト歴330年 エバの月 場所・不明ー
「何処だよここ」
目を覚ました久は生暖かい風を受けながら周囲を見渡し、状況を把握しようとする。
周りは暗くて見えづらいが高い草木が全方位に生い茂っている事から森にいるのだと判断し、上を向くと月が見えた事から時間は夜なのだと判断した。
「…確かオレは神社にいたはず何だけどなぁ。 しかも夕方とはいえ、まだそこそこ明るかったはず」
久は持っていた携帯電話を取り出して時間を確認する。
携帯の時刻は17時36分となっていた。
時間は神社にいた時間から数分しかたっておらず、少なくとも本来は月が出る程の時間は経過してはいない。
そして電波は一本も立っていない。
知り合いや警察に連絡する事はできないのでやはり情報収集をする事にした。
携帯電話を光源にして手近な葉っぱを一枚ちぎって取ってみた。
(冬なのに随分生い茂っているな…。 常緑植物、にしては葉っぱが薄いし柔らかいな…。 この場所は冬じゃない? そう言えば気温も冬にしては暖かいな。 場所どころが時間も季節も違う…、こりゃここが日本じゃねー可能性が高いな)
久はそう判断し、携帯電話の光を周囲に翳してみるが、携帯電話の光だけでは周囲の状況を把握するには余りにも光量不足だった。
「世界(ザ・ワールド)!」
其処で今度は自身のスタンドの目で周囲を確認する。
肉眼で見るよりもより鮮明に周囲を見渡す事ができたが、草木しか見えず、結局は何処かわからない場所の森としか解らなかった。
「…って、そんなことよりアイツ等は何処だ!?」
久は光の中で助け損なった少年少女の存在を思い出した。
しかし、自分が掴んでいた少年の姿はない。
慌ててもう一度辺りを見渡すが、人っ子一人見当たらない。
(アイツ等は………近くには居ないみたいだな)
そしてもう一つ重大な事も思い出し、思考する。
(あの巫女服の女の子も見当たらないな…何者だったんだあの娘? 停止した時間の中で動いていた。 俺と同じ転生者? それとも別口? …まぁ、何者であるにしろ停止した時間の中で動けると言う事は、あの娘も確実に時間停止能力、或いはそれに類した能力を持っている筈。 仮にオレと同じスタンド使いだとしたらオレと同じ世界(ザ・ワールド)か、スタープラチナのどっちかだな…。 スタンド使いじゃないなら暁美ほむらや十六夜咲夜の様に、単純に時を止められる能力…。 イヤ…時間停止能力じゃなくて、異能の効果を受け付けない能力の可能性もある。 …あの娘といい、先の光といい、この世界には魔法も超能力も無いと思っていたのは間違いだったな。 こりゃあ、未々何か起きそうだな)
久が思考を巡らしながら周囲を見渡していると、何か物音が聞こえてきた。
「ん? 何だ?」
久はよく耳を凝らして音を聴く。
金属と金属が何度もぶつかり合う音だった。
(金属同士がぶつかり合う…。 余り良くない状況っぽいぞ? でも現状そこしか情報原がねーんだよなぁ。 多少危険でも行くしかないかぁ…。 何より、あの二人もここに来ているとしたら、スタンドがあるオレと違って防衛手段がない。 取り返しのつかない事になる前に見つけ出さないと。 なぁに、こっちには世界(ザ・ワールド)があるんだ。 どうとでもなるさ。 だけどそれはそれとして、慎重に…)
久は世界(ザ・ワールド)という人知を越えた力を持つがゆえに心にゆとりがあった。
多少の危険は何とか出来る。
その自信が久を冷静にさせていた。
久は世界(ザ・ワールド)を携えゆっくりと出来るだけ足音がでない様に気を付けながら音のする方へ向かった。
ズバッ!!
「グッ、グァ………」
「!?」
すると何かを切り裂いた音と、苦痛に歪んだ呻きが聞こえた。
(何が起きた!?)
久は慌てて音のした方を見た。
そこにいたのは、青白い長髪を靡かせた美しい少女がいた。
そして直ぐ目の前には何かの塊が黄金の粒子となって消えていった。
(な…なんだ!?)
黄金の粒子は気になったが消えてしまったためもう確認する事は出来ないが、少女の方は消えていないため確認できた。
だが、余りにも現実離れしていた。
なぜなら少女の背中には天使を思わせる真っ白な羽根の翼があった。
月明かりしか光源が無いためで余りよくは見えないが、それでも解る程美しい容姿をしていた。
まるで至高の工芸品の様に人形染みた美だった。
(天使…?)
久は見惚れて呆然とし、無意識に一歩前に出てしまった。
「!! ラスト、イハーテス!?(敵!?)」
「ア…」
当然少女に見つかってしまう。
「ラ、エノウィ、…ラスト、イハーテス?(お前は…敵か?)」
少女は久に剣を向ける。
「チョッ! ちょっと待ってくれ! オレは怪しい者かもしれないが、君を傷付けようとは思ってない!」
「…」
久は慌てて両手を挙げて敵対の意思はない事を示した。
そんな久の様子を見た少女は、剣は下ろさず、警戒態勢も解かず、此方を見続けている。
久はどうにか此方に敵対の意思はない事を説明しようと思考を巡らせるが、うまい手は思い浮かばない。
「………ク、ソノナ・レナ、セィン、ハイペリア…(ハイペリアの人間か…)」
「へ?」
少女の口から放たれた言葉はまるで聞き覚えのない言葉だった。
明らかに英語や中国語等とは違った。
「………キニカスング、デイハーテス、ヤァ、ヒナゾス。……スオル、ケナミエ、ワ、ウースィ、セィン、ホメスト(存在が敵ではないと言っている。……あなた達を連れて帰る)」
「えと…、あの…」
(デスヨネー! ここが日本じゃなかったとしたら当然言葉も違いますよねー!)
少女は剣を下ろし何か話すが久は当然意味はわからない。
久は言葉が解らずアタフタしていたが、少女の視線が別の方向を見ている事に気付き、そちらに視線を向ける。
「って、人!?」
視線の先には人が倒れていた。
「お、おい! 大丈夫か!?」
久は慌てて倒れている人に近づき状態を確認する。
それは、久と同じくらいの少年で、脈は安定していると言えない状態であったが、どうやら気絶しているだけのようだった。
神社にいた少年かどうかは解らない。
あの時は一々顔を確認する余裕がなかった。
「おい、この人に何かしたのは君か!? つか、君は誰だ!? ここは何処だ!?」
久は言葉が通じないと解っていても少女に質問する。
少女は相変わらず無表情で突っ立っているが、此方に手をさしのべた。
「? 握手か?」
久はその行動の意味は解らなかったが、取り敢えず握手を求めていると思い少女の手を握った。
すると少女は久の手を握ったまま、もう一人の倒れている少年に近づき片手で軽々と担ぎ上げた。
「スマノ(行く)」
そして行きなり少女は翼をはためかせゆっくりと空へと浮かび上がる。
「へ…? チョッ! 待てって!」
少女が浮き始め、それに合わせて片方の手で掴んでいる久も引っ張り上げられる。
久はいきなりの展開についていけずまたもやアタフタする。
「デハルク、エミノ、ラス(動かないで)」
「待てって! 何処に連れていく気だよ! 取り敢えず一旦下ろせ!」
お互い相手に要求するが、お互い言葉が通じていない。
宙で暫く揉めていると、少女は久の手をより強く握り(ただし、握りつぶさない程度)、そのまま久の言葉を無視してどんどん高度を上げていく。
「………これは…本格的に…ヤバい…」
久は世界(ザ・ワールド)で無理やり少女の手から離れようかと考えるが、高度が高くなるに比例してその気が失せていった。
というよりは失わされていった。
未だに状況は解らないが、取り敢えず今は下手に暴れるのは得策ではないと判断し、久は大人しくした。
少女の方もそれに満足して月を背に、目的地を目指して夜の空を飛んでいった。