無限ルーパー   作:泥人形

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活動報告時泥人形「外伝とか書く予定ないです!(キリッ)」
活動報告直後泥人形「あっ、何か思いついてしまったな……書きま~す」

……と言っても、本当におまけのようなお話です。
文字数も約一万字という驚異の短さ!


After Story@たった一夜の恩返し

 それは変わり映えの無い、雪の降る日の朝のことであった。

 いつも通りの朝、いつも通りの日常──何よりも望まれて、しかし失われたはずだった明日。

 たくさんの人の尽力があって、たくさんの人の願いがあって、たくさんの人の想いがあって、ようやく掴み取った平和な日常。 

 もう戦う必要はない、もう死に戻ることも無い。

 そう言った意味でも、取り戻した平和とでも呼ぶべき日常に、俺は多分誰よりも全力で浸っていた。

 どれくらいかって言えば仕掛けていたアラームを全部無視して、たった今起きたところである、と言えば伝わるだろうか。

 端末が示す時刻は12:30、ちょうどお昼時である。

 もしメドゥーサがいたら滅茶苦茶鋭い眼光をぶつけられてるような時間帯だ──まあ、メドゥーサはもういないんだけど。

 というか、メドゥーサに限らずサーヴァントがもう、ダ・ヴィンチちゃんしかいない……というと少し語弊があるか。

 一応、マシュはまだデミ・サーヴァントである。

 飽くまで俺と立香くんが召喚し、協力してもらっていたサーヴァントたちが退去したという形だ。

 否、退去してもらわざるを得なかった、と言うべきなのだろうか。

 と言うのも、本来であればサーヴァントを召喚するのも、レイシフトを行うのも、カルデアの更に上の機関からの許可が必要だったものらしいからである。 

 人理修復をしていた間はカルデアしかいなかった為、自由にやれていたが、人理を救った今はもうそんなに自由にはいられないという訳だ。

 まあ、当然と言えば当然だよな。

 だってサーヴァント、一人でも滅茶苦茶強いもん……。

 宝具なんて放ってみれば──ものにも寄るが──町のひとつやふたつ、あっという間に壊滅させることができる。だから、別にそこには疑問も無いし、反感も無かった。

 それはレイシフトも同じだ。

 厳密には全然違うが、それでもレイシフトというのはタイムトラベルみたいなもんである。

 やろうと思えば悪用し放題だろう。

 俺は絶対にごめんだが……あまり何度も経験したいことでもないし。

 必要に駆られてやっていたに過ぎないのだ、俺は───なんて言えば、如何にも義務的なものだったように見えて、あまり好ましくないけれど。

 それでも、そういうことだ。出来るのならば、あまり使用したくない。

 あれは凄い、「これから戦場に向かうんだ」という気持ちに否が応でもさせられるから。

 ふるふると、頭を振ってそういう思考を振り落とし、再度端末へと目を戻した。

 いや別に、ネットが戻ったからと言って現代っ子よろしく寝起きからスマホいじり倒すような子に戻ったとか、そういう訳じゃ無い。

 単純に、俺はこれに起こされたのである──もちろん、前述の通りアラームは無視したので、原因は別だ。

 まあ、隠すほどのものでもない、普通のメッセージである……いや、普通と言って良いのかはちょっと分からないんだけど。

 何せ通知欄が壊れるくらいの量が溜まっているし、しかも全部同一人物から送られてきてるのである。

 ダ・ヴィンチちゃん、ここまでするならもういっそ起こしに来いよ……。

 やれやれ、と思いながら『今起きた、ご飯食べてから向かいます』と送ってから端末を放り投げる。

 何はともあれ、まずは着替えなければならない。

 一年と少ししか着用して無いにも関わらず、やたらとくたびれてしまい、着心地の悪さが目立つようになってしまったカルデアの制服へと袖を通していく。

 正直言ってあんまり着たくない感じではあるのだが、残念ながら他の服は洗濯中だったり、もっとボロボロでメドゥーサさんに「捨てておいてください」と言われていた服しかない。

 参ったものである。というか、仮にも礼装なのだから新しいの一着くれても良くない? 等と思いながらベルトを締めた。

 ──あと何回、これを着ることになるのだろうか。

 ふと、そんなことを思った。

 近い内に着なくなることは、ほとんど確定しているも同然だから、なおさら。

 まあ、元通りの日常に戻れるのかは怪しいところなのだが。何せ、俺だけならまだしも立香くんだって色々と知ってしまった。

 それはカルデアの機密とか、そういうことではなく。単純に()()()()()()があるということを。

 ……ま、そんなこと、今は考えてても仕方ないことか。

 どうせまだ先のことである──何か査察が入る予定があるとかも聞いたし。

 それまではまだここにお世話になることだろう……それにしたって、せめて家族とくらい連絡させてほしいものだけど。

 仕方ない、ともう一度割り切って端末を拾い上げると、

 

『ダメだ! 今すぐ、集合!』

 

 そんな一文が表示されていて、思わずため息を吐いた。 

 

 

 

 

 そんなこんなでダ・ヴィンチちゃんの工房にやってきた訳なのだが、入ると同時に服を押し付けられた。

 否、服ではなく、礼装と言うべきだろうか。

 これまでレイシフト時に着ていたカルデアの制服や、戦闘服と同じ類の礼装。

 見た目は──パーティドレス、とでも言えば良いのだろうか。もちろん男性用だ。

 女性用のを着用するとか、似合わないを通り越して最早見るに耐えないからな、俺の場合──マシュから聞いた話だが、意外と立香くんは似合うらしい。まあ彼は結構中性的な顔立ちしてるよな。

 一度くらいは見てみたいものだ、なんて思いながら礼装を眺めていれば、「君ねぇ……」とダ・ヴィンチが眉を顰めた。

 

「そんな嫌そうな顔するなよ。この天才の私が、君の為にわざわざ編み上げたんだぜ?」

「いや、そんな嫌そうな顔したつもりは無かったんだけどな……何て言うか、今更渡されてもなって思って」

 

 ぶっちゃけもう必要ないだろうに。

 何と言ったってもう、人理修復の旅は完遂されたのだから。

 レイシフトはそもそもその為の用途であり、それが為された今、戦うようなことがまずない。

 いやまあ、今でもシミュレーションは使わせてもらっているから、正確には礼装は着てるんだけど。

 だからと言って、新しいのが必要だと言うほどのことでもない。

 続けているのだって別に、高尚な理由があるという訳でもなく、単純に習慣になってしまっているというだけの話だ。

 どうにも身体を動かさないと落ち着かないのである。

 

「それにこれ、あからさまに戦闘用じゃないだろ……魔術が仕込んであるのは分かるけど、こんなの着て戦場に出るやつ、英霊くらいだよ」

「良いじゃないか、ちょっとくらいお洒落は必要だよ? それにね、君のそれ、もうボロボロで見てられないし。それはこちらで回収するから、着替えていきたまえ」

「えぇ……? これを? 今?」

「そう、それを、今」

 

 嫌だなぁ、という顔を全力でしてみたが、ダ・ヴィンチちゃんの笑みが全く崩れなかったので早々に諦める。

 こうなった時のダ・ヴィンチちゃんは超頑なだからな……。

 何を言っても聞き入れてもらえない。

 ただの生徒でしかない俺は従うしかないという訳だ。

 最後の抵抗とばかりに盛大にため息を吐いてから、いそいそと着替え始める──ダ・ヴィンチちゃんの目の前だが知ったことか。

 というか、別にこれが初めてという訳でもない。

 ダ・ヴィンチちゃんは万能の天才であるが故に、思い付きで結構ほいほいと色んなものを作る悪癖──いや、これを悪癖と言って良いのかは分からないが、まあそういう趣味を持っている。

 人理修復の旅の間も、彼女が編んだ礼装に着替え、性能をテスト……なんてことも良くやったものだ。

 

「ん、こんなもんか──えぇ? これ、似合ってる?」

「うーん……思いのほかビシッとは決まらなかったけど、うん、まあ及第点ってところじゃない? 君にしては似合っている方だよ」

「俺、ダ・ヴィンチちゃんからの感想、それしか聞いたこと無いんだけど……」

 

 まあ良いんだけれど、と独り言ちてからふと思う。

 あれ? もしかして俺、今日一日これを着て生活しなきゃならないのか?

 流石に浮くとか言うレベルの話じゃ無いんだけど……と思ったがまあ、今更なのかもしれない。

 シミュレーターに籠ってた時期、今の俺から見ても相当狂人なんだよな。

 我がことながらかなり切羽詰まっていたという訳だ。

 こうやって上手くいってなかったらどうなっていたことやら、ということを考えると今でも足が震えそうになる。

 ……本当に、たくさんの感謝をしなきゃいけないな。

 そんなことを思えば盛大に腹の虫が鳴り響いた。

 この場で腹を空かすようなやつは当然、俺しかいない。

 

「……という訳だから、そろそろ食堂行っても良い?」

「ふっ、ふふ……凄い音鳴ったね」

「誰のせいだよ、誰の」

 

 いやまあ、ほとんど自己責任なんだけど。なにせダ・ヴィンチちゃんからのメッセージは09:00くらいには来ていた。

 そこから連続で昼に至るまでメッセージが来まくっていたという訳だ。頑張り過ぎだろ。

 

「他にも頼もうと思っていたことがあったけれど──それなら仕方ない、ということにしてあげよう。

 うん、食堂に行っておいで。また時間が出来たらこっちから呼び出すから。

 あ、それと、汚さないようにするんだぞ、絶対だからな」

「子ども扱いするなよな──そう言えば、ダ・ヴィンチちゃんってもうご飯食べたの?」

「もちろん、君みたいなのと一緒にしないでくれたまえ。そら、行った行った。またお腹が鳴っちゃうぞ」

「揶揄うなよ……ま、それじゃ」

 

 バイバイと、手を振りながらダ・ヴィンチちゃんの工房を出る。

 ここから食堂までは大体十分程度だ。

 時刻は若干お昼時を過ぎたが、まあ大丈夫だろう。

 食堂は大体常に開いてるし、とそう思いながら歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 先輩も今からお昼ですか?」

 

 ウキウキで肉うどんの前で「いただきます」と手を合わせていたら後方から声がかかる。

 ふい、と振り返ってみればそこにいたのは立香くんだった。

 その手にあるのは大盛りのカレー。なるほどな。

 

「珍しい、立香くんもなんだ」

「ええ、ちょっと寝坊しちゃいまして。へへっ、お揃いですね、向かい良いですか?」

「ん、もちろん。どうぞ」

 

 では失礼して、なんて言いながら立香君が真向いに来る。

 こうして一緒にご飯を食べるのは久しぶりかもしれない、と思った。

 俺はかなり不規則な生活をしているが、立香君はその真逆だからだ。

 規則的で、健康的。実に理想的なライフスタイルである。

 

「それ、新型の礼装ですか?」

「正解、ダ・ヴィンチちゃんに押し付けられた」

「あはは……まあ先輩は新型礼装の試験用要員みたいなところありますからね」

「全然否定できないのが困ったところだな……」

 

 ニコニコとしたままカレーを食べ始めた立香くんは、当然ながらカルデアの制服姿である。

 ピカピカの新品──ってほどでもないけれど、それでも俺のと比べれば綺麗なほうじゃないだろうか。

 とはいえ、それは立香くんが訓練をあまりしていないとか、そういう訳では無い。

 単純に俺の物持ちが悪いというのと、立香くんは基本的に戦闘にはカルデアの制服を着用しないから、というのが主な理由になる。

 礼装は見た目もそうだが、当然種類ごとに使える魔術も変わる。その辺の兼ね合いだ。

 

「先輩っていつもこんな時間にお昼食べてるんですか?」

「うーん、まあね。最近は全然早く起きれなくて」

「ふぅん……あんまり不規則な生活してるとマシュに怒られちゃいますよ」

「それは君だけだろう……それこそ、今日とかいい顔されなかったんじゃない?」

「はは……その通りです。いや、でもですね、ちょっと事情があったんですよ!」

 

 聞いてくれますか!? と言わんばかりに輝いた目を向けられて、思わず目を逸らした。

 いやだって……なんか面倒ごとな予感がして……。

 だがまぁ、仕方があるまい。流石にここで「嫌です」と言い放つほど俺も性格は悪くないつもりである。

 黙って頷き促せば、水を得た魚のように立香くんは話し始めた。

 

「先輩は『ロストルーム』って知ってますか? ”失われたシミュレーションルーム”、あるいは”封鎖されたシミュレーションルーム”って噂されてるんですけど」

「ん、知らないな。初耳だ」

 

 というか、未だにカルデアは二十数人しかいないのに、噂とか出るものなんだ……。

 いや、あるいは、カルデアが爆破される前から噂されていたものが、今表出してきたのか?

 まあ、そうだとしても知らないんだけど。Aチームとの交流だって、そのほとんどが学習だったり訓練だった。

 オカルトにおいても、サイエンスにおいても超一流しかいないカルデア(ここ)で、噂とかいうあやふやなものが出てくることが自体が何だかミスマッチな気もするけれど……まあ、良いか。

 あって悪いというものでもない。その逆もまた然りではあるが。

 

「それが何処にあるかは分からないんですけど、カルデア内にあるらしくて、そこでは"失われたものを見ることがある"らしいんですって」

「"失われたもの"……? 何だそれ、曖昧だなあ」

「そこはまあ、噂なので」

 

 少しだけ笑って言った立香くんに、そういうものか、と笑う。

 こういうのって、どこか曖昧で、遊び心があるから惹かれるものだしな。

 

「で、それを夜更かししてまで探してたってこと?」

「はい、そういうことです。まあ、結局見つからなかったんですけどね」

「えぇ……?」

 

 最初に教えてくれたムニエルさん──カルデアスタッフの一人──と一緒に探したんですけど、ムニエルさんも詳しくは知らなかったみたいで、と立香くんは浅く笑った。

 スタッフすら知らないってどういうことなんだよ、とは思ったが所詮は噂だ、そういうことだってあるだろう。

 最初に口にしたのは誰だったのかは、もう誰にも分からない。けれども必ずどこかには残っていて、語り継がれる。

 噂というのは、いつだってそういうものだ。

 それに、そうでなかったとしても今のカルデアは使っていない部屋が多い。

 爆破の影響でダメになった部屋もあるし、節電対策で多くの部屋も封鎖した。

 そう考えれば、"失われたシミュレーションルーム"というのも、意外とそういう意味なのかもしれないな、と思った。

 まあ今ではその必要もなくなって、一応すべての部屋は開放されているのだが。

 とは言え、夜通し探して無かったと立香くんが言うのだから、実際どこにも無いのだろうけれど。

 幾らカルデア広しと言っても、回り切れないということはない。一、二時間もあれば充分すぎるくらいだろう。

 噂は噂、ということだ……ちょっとだけ、気になりはするけれど。

 人理修復の旅は、失ったものが少し多すぎた──カルデア内の人員に限らず、各特異点での協力者も含めて。

 だから、そういうことが起こったら良いな、と思った人の気持ちは分からないでもない。

 

「言い出した人は若干、趣味悪い気もするけどな……」

「あはは……まあそこはそれ、ということで。ここだと暇潰しも少ないですからね」

「あー……そうだな」

 

 当然だが、カルデア内部の情報はどれだけ些細なことでも外部に漏らすのは禁止されている。

 もし破れば怒られる、で済む話ではない。

 という訳で個人のスマホとかも使用が滅茶苦茶制限されていた。

 気軽にSNSとか出来ないという訳だ。もちろん、俺と立香くんは問答無用で連れてこられたようなものだから、他に暇潰し用のツール何かは持ってきていない。

 要するにクソ暇だった。

 今はもう、魔術や戦闘の訓練なんかもする必要はない──どころか、なるべく控えて欲しいとまで言われているほどだし、かつては話し相手になってくれていたサーヴァントたちももう、いないのである。

 かといってスタッフさん達に構ってもらうわけにもいかない。

 今、彼らはこの一年の旅の報告書をせかせかと作っていて大忙しなのである。近い内にお偉いさんが査察に来るだとか何とか。

 まあ、元より特異点の捜索や、俺達のナビゲートなど、裏方でずっと忙しかったのだから、忙しいというのは今に始まった話でもないのだが。

 

「ま、文句言っても仕方ないことだしなぁ。迷惑かけない範囲で遊びたいところ──あぁ、屋上で雪合戦でもする?」

「雪合戦、ですか?」

「うん、今日はちょうど吹雪いてないし。マシュでも呼んで……まあ、三人は若干寂しいけど、少しくらいは楽しめるでしょ」

「良いですね、ついでに雪だるまとか作りませんか!? おれ、あんまり雪遊びとかしたことないんですよ」

 

 そうと決まれば早速! と言わんばかりに立香くんは残っていたカレーを一気にかきこんでいく。

 良くそんなに勢いよく食べれるもんだな……と半ば感心しながら、俺もうどんを平らげた。

 

 

 ちなみにこの後マシュを呼んだら、どこからか話を聞きつけてやってきたスタッフさん達のせいでだいぶ大ごとになるのであった。

 大の大人が本気でやる雪合戦はかなり白熱したが、結局乱入してきたダヴィンチちゃんの独壇場で閉幕した。

 今もやたらでかくて、あちこちに工夫の加えられた高クオリティ雪だるまが、カルデアの屋上には聳え立っている。

 

 

 

 

 そんな大騒ぎをした、その夜のことである。

 随分と久し振りに、大人数であんな風に遊んだような気がする、と思いながらベッドに倒れ込めば、軽やかな通知音が耳朶を叩いた。

 時刻的には既に0時前、と言ったところだ。見るのは明日で良いだろう、と思って目を閉じたが、不意に今朝(正確にはお昼)にダ・ヴィンチちゃんに

 

 『また時間が出来たら、連絡するから!』

 

 と言われたことを思い出す。

 英霊というのは基本的に睡眠を必要としない。

 それは当然ダ・ヴィンチちゃん自身にもあてはまることで、こうして深夜に連絡してくることも珍しいことではなかった。

 流石に緊急の連絡であれば直接通話をかけてくるだろうから、もし気付いたら反応してくれ、程度の内容だろう。

 だがまあ、気付いちゃったしな……。

 ここは素直に見ておくか、と思って端末を手に取り、そして眉を顰めた。

 

『今夜、月の舞踏会にお越しください。』

 

 表示されていたメッセージは、そんな一文だった。しかも差出人は不明──そう、不明なのである。

 正確に言えば、ユーザー名のところには『Unknown』と書かれている訳だ。

 何もかも情報がなくて普通に困ってしまった。

 えぇ……マジで何なんだよ、これ。

 取り敢えず、誰かの悪戯の線は無いと断定しても良いだろう。こんな下らないことをしている暇は誰にだってないはずである。

 まあ、立香くんとマシュはそうでもないかもしれないが……。

 それでも、あの二人はこんなことをする人間ではない。

 かといって、カルデア外部からのメッセージという可能性はもっと無いだろう。

 カルデアスタッフと、ダ・ヴィンチちゃんお手製のセキュリティである。この世にこれを突破できる人間は早々いないはずだ。

 と、ここまで思考を回したところで判明したことは、本気でこのメッセージが何なのか分からない、ということだけであった。

 どうせ起きてるだろうし、ダ・ヴィンチちゃんに相談でもしに行くかな、と思えばもう一件追加でメッセージがやってきた。

 否、メッセージというか、画像だろうか。

 良く見ればカルデア内のマップであり、その内の一ブロック──つまり一部屋だけ赤く塗りつぶされていた。

 これは「ここに来い」ということなのだろうか。

 ……普通に嫌だな。

 いやだって、あからさまに怪しいだろう、これ……と、思ったところで何となく立香くんとの会話を思い出した。

 

「ロストルーム、ね……」

 

 むくり、と好奇心が起き上がる音がした。

 

 

 

 

 

 という訳でマップに従って部屋から出ることにした。

 何が「という訳」なのかさっぱり分からないとは思うが、しかしそれは、言葉では説明するのが難しいということを分かってもらいたい。

 決して好奇心に負けたとかではないのである。

 なのでこうして若干のワクワクを押し殺しながら廊下を歩いているのも、別にそれはと全く関係ないのである。そういうことにしておこう。

 とは言え、俺だって別に無警戒でこんなことをしている訳ではない。

 流石に礼装だって着こんでいるし、いつだってダ・ヴィンチちゃんに連絡できるようにはしていた。

 何かしらの罠である、という可能性を捨てきれない以上は当たり前の備えである。

 その上で気が緩んでいる、と言われたら反論のしようはないのであるが……。

 まあ、特に何も無いだろう、という半ば確信じみたものがあったのも否定はできなかった。

 前述のように、カルデアのセキュリティというのは万全を期している。

 ゲーティアがいた頃ならまだしも、人理修復が終わった今はそこまで警戒する必要が無いと思っているのもまた事実だ。

 というか、出来れば警戒なんてしたくないんだけどな。

 戦いとか、殺し合いとか、なるべく避けたい訳だし。

 そんなことを思いながら辿り着いたのは、いつも使っているシミュレーションルームとは随分と離れた部屋だった。

 だから当然、俺のマイルームからもそれなりの距離がある。

 何かあった時、誰かの助けが来るのはどれだけ早くても五分は必要だな、なんてことを思いながら扉へと近づく。

 扉は、特に抵抗も無く、障害もなく、緩やかに開いた。

 当然ながら電気の一つもついていないそこは、パッと見それなりの広さを誇っているように見えた。

 シミュレーションルームの、半分くらいだろうか。

 光源は窓から零れてくる月光くらいのそこは、しかし誰の気配も無いように思えた。

 ……やっぱり誰かの悪戯だったか? そう思いながら一歩踏み込めば、それに合わせたように室内のライトが連続して点いた。

 

「なっ──」

 

 同時に、景色が切り替わる──まるで息を吹き返すように、シミュレーションが起動する。

 無機質的な、ただ広いだけの何もない部屋が、まるで舞踏会のホールのように彩られていく。

 同時に、聞き慣れない音楽まで流れ始めた。

 な、なに? と、素直にそんな疑問を得たのはほんの一瞬のことだった。

 刹那の後に、俺の思考はある一点にかっさらわれたのだから。

 部屋の中央に、誰かが立っている──多分、女性。

 金に近い、橙色の長髪に、見慣れない白のドレス。

 髪色よりはずっと澄んでいる黄金の瞳が、静かに俺を見ていた。

 まるで誘うように、あるいは、待ちかねていたように。

 心臓が、静かに跳ね上がる。

 何だか視界が歪み始めて、それを無理矢理戻す。

 乱れ始めた呼吸を努めて抑え、深呼吸した。

 いや……本当に、お前はさ。

 突然現れては消えて、そしてまた、現れるの、やめろよな……。

 まあ、正直なところ、期待していなかったと言えば嘘になるんだけど。

 ただそれはそれとして、あまりにも衝撃的だったというのもまた本当だ。

 これが、奇跡だろうが、幻だろうが、もうそんなものはどうでも良い。

 ただ、彼女がそこにいるという事実だけが、すべてだった。

 ゆっくりと、彼女に向かって歩み寄る。

 多分、今この場に合うセリフはきっとこれなんだろう、と思って。

 作法なんて知らないから、見様見真似だけど、なんて内心言い訳をしながら、彼女の前でお辞儀をして、右手を差し出した。

 

「俺と一曲、踊っていただけますか?」

「ふふ、一曲だけで良いの?」

「お前な……はぁ、時間の許す限り、俺と一緒にいてくれますか?」

「ええ、もちろん! 踊り明かしましょう──私のマスター」

 

 彼女の白磁のような肌色の手がそっと俺の手に乗せられる。

 そうして、俺と彼女は不格好な、それでも奇跡のような時間は始まった。

 まるで夢のような、幻のような、それでいてどこまでも幸せな、ほんの一時の幸せが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──それは、在りし日のカルデアで起きた、一夜の夢のような奇跡の時間。

 眠っていた時間は、僅かな猶予を得て、煌びやかに踊り出す。

 

 

 

 失われたものに、失われるものを。

 彼方にいるものに、輝かしいものを。

 どうか、この夜が終わるまでに──彼は、彼女は。

 あの日伝えきれなかった想いを、二人だけの間で、言葉にするのでしょう。

 

 

 

 




ということで本当にこれが最後です! 多分! きっと!
あ、あと、キャラまとめは地道に進めてます!
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
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