無限ルーパー   作:泥人形

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正直続くとはこの泥ですら予想してなかった(真顔
テンションで書いてるからかーなり駆け足。


竜と贋作@無限ループ

 俺がベッドで横たわっていたりそこそこ魔術について勉強したりしてる間にカルデアは立て直すことに成功していた。

 いやまあ見た目は相も変わらずボロクソなのだが、性能的には最低限取り戻したってことだ。

 それもこれも全ては現カルデアトップ:ロマニ・アーキマン──ドクターロマンとカルデアが召還することに成功していた世紀の大天才、レオナルドダヴィンチ──通称ダヴィンチちゃん──の尽力によるものだ。

 この英霊──ダヴィンチといえばあれだ、モナリザ描いたやつ。

 おっさんか……むさ苦しいなと思うかもしれないが、こいつ女なのである……

 そう、女(体のみ)。

 いや体のみって何? となるのだが事実そうとしか言いようがなく、一言で言えば性転換しやがったのである。

 見た目は美女だが中身はくそじじい、みたいな最悪な存在ができあがってしまった。

 ちなみにこれを本人に言うと愉快に笑いながら折檻されるからお勧めしない。

 

 この日は上記のトップ二人に呼び出しを食らっていた。

 もちろん、他の二人もである。

 ドクターロマンとダヴィンチちゃん、俺にマシュに立香くん。

 今現在のカルデアではこの五人が最高幹部的な立ち位置なのだ。

 他のお偉いさんは全滅した、無論あの日の爆発で。

 医療トップのロマンが一番偉い役職って時点でどんくらいやばいのかは伝わると思う。

 現実は無情なのだ。

 ついでに言うなら地球も爆発四散寸前らしいから超やばい。

 具体的に言うならカルデア以外は全部炎上、炭と化した、みたいな。

 このままではカルデアが無くなるとか無くならないとか最早そんなレベルではない事態なのだ。

 それを未然に防ぐ。世界は滅びなかった(人理は焼却されなかった)という結果に塗り替えるために過去に行く──レイシフトして変えられた過去を元に戻さなければならないらしい。

 しかしここでトラブル発生!

 レイシフトできるかつマスター、つまりマシュやダヴィンチちゃんみたいな英霊を使役できる素質のある人間はもうこの世にたった二人しかいなかった。

 まあ俺と立香くんである。

 他の人たちはレイシフト適性がない上にマスターにもなれないとかなんとか。

 困ったもんだぜ。

 何が困ったって立香くんが即答でやります! とかほざいてる辺り最高に困った。

 期待の眼差しで他の四人が俺を見るのだ。

 いや、四人だけではない。

 他の生き残りもだ。

 実質、この世に残った全人類から期待されているのだ。

 断れる、わけないだろう。

 断ってくれてもいいと、それを肯定したところで俺の立場はどうなる?

 きっとどちらを選んでも果ては地獄なのだ。

 俺は満面の笑みを浮かべてもちろんだと宣言した。

 きっとこの選択は、間違っていない。

 やれやれ、吐いちゃいそうだぜ。

 

 

 

 

 カルデアに仲間が増えた。

 英霊召喚ってやつである。

 ダヴィンチちゃんみたいなのを味方につける儀式だ。

 いや違う、見た目だけの女を召喚するとかじゃない。分かれ馬鹿野郎。 

 立香くんが持ってる虹色のモヤットボールみたいなのが触媒になるとかなんとか。

 カルデアの超技術ってやつだな。科学の力ってすげー! いや、元は魔術らしいのだが。

 何はともあれ立香くんが気合を入れて儀式を始めた。

 虹色の光がバチバチと辺りを駆け巡り、一際大きくフラッシュが起きると同時に人影は現われた。

 西洋剣を携えた金髪の少女、蒼のドレスに身を包んだその彼女は、どこかのお姫様のようでどこか見覚えがある。

 どこか神秘的な雰囲気を持つ彼女はその名をアルトリア・ペンドラゴン……かの有名なアーサー王と名乗った。

 完全にパチモンじゃん……俺黒い方しか知らないよ?

 何だかオルタだとか反転だとか色々説明されたが俺には理解が難しいということしかわからなかった。魔術フクザツネー。

 さーて次は俺の出番だぜと前に出る。

 四つ放り投げて南無南無と。

 光の先から現れたのは果たして──

 

 ゴロンッ。

 

 え、何これ……黒鍵? 武器型のサーヴァント的な? は? 礼装? 何これただの闇ガチャじゃん…………

 まあ元気出せよとダヴィンチちゃんがアイテムと飴ちゃんをくれた、そんなんで俺の機嫌が直るとでも…………

 つーか飴ちゃんて、何歳だと思ってんの?

 まあまあと宥められながら俺は作戦室へと連れ込まれていった……

 

 

 

 

 

 ──百年戦争。

 

 フランスの王位を巡り、チンタラチンタラ戦い続けていたことで有名な戦争である。

 カルデア情報ではこの辺の歴史が改変されつつあるとか何とか。

 どう改変されているのだろうか。

 イギリスがフランスを圧倒しちゃってるとか?

 はたまたかの有名なジャンヌ・ダルクが現れなかったとか?

 とか色々考えるがまあ十中八九ジャンヌダルクかピエールコーション辺りの絡みだろう。  

 英霊って有名人がなれるらしいし、この時代で行けば100%こいつら絡みだ。

 そしてジャンヌ・ダルクが来れば必然的にジル・ド・レェが着いてくるのは必定とも言える。

 青髭ことジル・ド・レェ。ジャンヌ・ダルクが処刑された後に狂ってしまったとされる一人の騎士。

 出来ればジャンヌ・ダルクが処刑された後だったら良いなぁ。

 そんなことを思いながら俺は過去へと跳んだ。

 

 

 

 

 そこは竜が飛び交い戦士達の亡骸が転がる地獄だった。

 どうにも俺はレイシフト用の装置に嫌われているようで、周りに立香くんとその仲間達は見当たらない。

 ドクター曰くレイシフト中に謎の妨害が入り俺だけはぐれてしまったらしい。

 しかもレイシフトはしてしまったら直すまで戻れない仕様。

 やはり世界が俺を殺しに来てる……

 ただの兵士に殺される気はしないが、さっきからクルクル空を舞ってるドラゴン様には敵いそうにないのでこっそりと身を潜めた。

 資料では令呪は万能なチートアイテムとあったのだが俺の手の甲にある紋様は令呪(笑)みたいな欠陥品で、英霊の強化しかできないとのことだ。

 ちょっとゴミ過ぎんだろ……という感想を押し込めて空を見る。

 しかし、このままじっとしていたら良い感じに焼かれて美味しく頂かれそうなのでドクターに一番近い街を教えて貰い歩き始めた。

 あちょ、ドラゴンさん落ち着いて、おち……おちっ、落ち着けぇ!

 

 

 そこは竜が飛び交い戦士達の亡骸が転がる地獄だった。

 ミディアムとか通り越して余裕で炭でした本当にありがとうございます。

 何か一歩踏み出した瞬間から炎上(物理)だったんですけど……。

 ドラゴン様が鬼畜すぎる。

 歩くより走った方が良いかもしれない。

 強く力を込めて駆け出した。

 あっ、無理ですこれ──

 

 

 そこは竜が飛び交い戦士達の亡骸が転がる地獄だった。

 走り出した瞬間俺の真横にドラゴン様。

 パクリとやられましたね。

 抵抗する余地なく瞬殺でした。

 ドクターの話を聞いてる風に無視して指針を決める。

 歩く→炭

 走る→餌

 なら今度は匍匐前進だな。

 これなら見つかるまい。

 ノッソノッソノソノソノソノソ。

 ジュワッ

 

 

 そこは竜が飛び交い戦士達の亡骸が転がる地獄だった。

 真っ白なカルデアの制服は所々焼け焦げた草原では良く映えたらしい……

 一瞬で燃え尽きました、本当にいい加減にしてください。

 いやマジでこれもう大分詰みに入ってる気がしてならないんですけど……

 逃げたら死ぬ気がしてならない、というか逃げたら死ぬ気しか感じない。

 となればこれはもうやるしかないっしょ。

 地に降りたと同時に魔力回路を開く。  

 やられる前に……殺るっ!

 死体の握る剣を奪い取り、強化した後に勢い良く投擲。

 空に浮かぶ謎の光輪が放つ光を反射しながら、剣は竜の鱗を縫うように飛んでいき──カキョーン。

 弾 か れ た 。

 ですよねーー!?

 カルデアの制服に備え付けられた三つの汎用魔術(超万能)の一つを起動。 

 緊急回避──!

 勝手に動く身体が見た目軽やかに竜の振るう尾の一撃をかわす。

 あ、ちょ、そっちに身体は曲がらないが!?

 強制的に動かされたせいで走る鈍い痛みに顔をしかめながら駆けだした。 

 途中で落ちてる兵士達の装備を強化し、少しでも動きを阻害する為に投げつける。 

 当然のように意味はなさない。

 こ、こっち来んな──!

 ジュワァッ

 

 

 そこは竜が飛び交い戦士達の亡骸が転がる地獄だった。 

 いや……もう、ないわー。

 初っぱなからこれとか流石にテンションだだ下がり。

 やる気皆無なんですけど……

 ドクターの声を無視して俺はふて寝した。

 おやすみマイライフ…………

 目を覚ましたら現代では考えられないくらい綺麗な夜空が映りこんできた。

 ついでに飛び交う竜の姿はとうに消えていた。

 爆睡だったためか死体だと思われたっぽい。

 …………………………ま、計算通りってやつ!?

 け、計算通りだし、ほ、本当だし……

 自分の計算高さに身を震わせつつ既に荒らされつくされたような街へと踏み込んだ。

 

 

 鉄と腐ったような臭いが立ち込めていた。

 目に入る建物は全て廃墟と化していて、人っこ一人いないようだ。

 まあ控えめに言っても最悪な光景である。

 人のいた痕跡が良く残っているだけ不快感が冬木の比じゃない。

 あそこは廃墟さえあったもののほとんどが燃やし尽くされていた。

 生々しさが段違いだ。

 喉元まで這い上がってくる吐き気を押し込み歩を進める。

 そこまで大きな町だった訳でもなく、数十分で歩き回れてしまった。

 町、というよりは村といった方が適切なのかな。

 まぁやはりというか、生物はいなかった。代わりに死体なら散々転がっていたけれど。

 獣か何かに食い荒らされていたものもあれば、真っ黒に焼き焦げていたものもいた。

 思わず顔を顰めたその時、甲高い笑い声が響き渡った。

 ──っ、はは、マジ前途多難。

 さて、今回は何回死ねばいいのかな。

 叫びながらカード状になっている礼装を具現化させて黒鍵を投げ放つ。

 同時に緑色の光が衝撃を伴って体をぶち抜いた。

 これは魔術…………? てことはクラスはキャスター?

 酷く訴えかけてくる痛みを無視して頭を働かせる。

 連続で飛んでくる魔術弾をほぼ勘で躱していけばそれはバーサークアサシンと名乗った。

 キャスターではなくアサシンだった。

 アサシン要素が迷子過ぎないだろうか。

 それもバーサークアサシンとかいうハイブリッド。

 車かなんかかよ。

 男の血はあんまり……とか言ってるから吸血鬼か何かだと思う。

 でも俺は吸血鬼といえば某金髪幼女くらいしか知らないんだよな……

 十字架とか銀の銃弾とか持ってないし詰んだよこれ。

 正直黒鍵はゴミだし令呪は意味をなさないし俺の死が明確に見えた。

 ていうかそもそも人が英霊に勝てる訳ないよネッ!

 ドクターからの退避の勧告を聞き流して応急手当をかけて走り出す。

 逃げられるならとっくに逃げていることを察してほしい。

 背中でも向けようものなら風穴が空くのは確定なのだ。

 …………まあ向けなくても空くのは目に見えているのだが。

 一気に走り抜けて途中で緊急回避を発動すれば、不自然に身体が動いて全てを躱す。

 血に濡れながら懐に潜り込んだ瞬間、貰っていた特別製の手榴弾がキラリと輝いた。

 轟音、爆炎。

 手足が千切れ吹き飛んだ。不思議なことに痛みは感じない。

 最後に目に映ったのは血に塗れた彼女の姿だった。

 

 鉄と腐ったような臭いが立ち込めていた。

 さて、逃げるか。

 妙にふらつく身体に鞭打ち走り出した。

 脇目も振らずに駆けていく。

 誰とだって戦いたくはないけれど、特に英霊とは戦いたくない。

 だって死にたくないし、理由はそれだけで充分じゃないか?

 町を北の方から抜けて近くの木に身を隠す。

 珍しくすぐに逃げられた。

 俺の運も捨てたもんじゃねぇな。

 不覚にもにやけながらドクターとの通信を繋げる。

 さっさと合流しなければ。

 ん? 高魔力反応?

 あっ

 

 

 鉄と腐ったような臭いが立ち込めていた。

 まさかスナイプされるとは思わなかった……

 魔力弾便利過ぎるだろ。頭が一瞬で弾け飛んでしまったみたいだ。

 痛みを伴うことすらなかったのが唯一の救いってところがマジで救われない。

 どうしたら良いものか。

 経験上倒さないと俺@無限ループが始まる気配をビンビンに感じるんだけど……

 単純に遠距離攻撃してくるのが何よりもえぐい。

 緊急回避を使えるのは一回。一度使ったらしばらくは使えないとっておきだ。

 あれだけ連射してくるのに一回しか避けられないとか役に立たなすぎる……

 自暴自棄にならず、生存するのを前提として動くなら自爆特攻も使えない。

 使える武器が無さすぎるんだよな……黒鍵と手榴弾でどうしろと。

 何をするにしても何もかもが足りない。

 無駄に有り余っているのは命だけだ……

 取りあえず情報を集める他ないか。

 最初に出会った時の場所のすぐそばに身を潜める。

 手には黒鍵。もう片手にはメイドイン・ダヴィンチの手榴弾を。

 一刺ししてから一気に爆破だ。

 ぶっちゃけこれでどうにかなるとは露とも思ってないが、今はこれくらいしか思いつかないし仕方あるまい。

 

 

 銀髪の美しい吸血鬼は探るようにあちらこちらを歩き回る。

 敵の攻撃は一発でも当たればそれだけでもう死だと思って良い。

 早くなる動悸を抑えて魔力を全身に流し込む。

 身体が万能感に満ちていく。

 長期戦になったら勝ち目がないのは百も承知。

 短期決着。それ以外に生存はない。

 黒鍵を取り出す。普段なら持てるはずもないくらい重たいが今はちょっと重いくらいだ。

 そしてそんな力も英霊の前ではほぼほぼ意味を為さないってんだからドン引きものだ。

 瓦礫と瓦礫の間を縫うように這いずり回り彼女の後ろを取る。

 眼を離さずじりじりと後退したところで勢い良く黒鍵を投げ放った。

 高い金属音が響き渡る。それが戦闘開始のゴングだった。

 緑の魔弾が煌々とギリギリを掠めていく。

 馬鹿みたいに張る弾幕の隙間に飛び込むように躱していく。

 不快なくらい高く笑う彼女の顔目掛けて黒鍵を一本投げ込んだ。

 同時に素早く跳躍したが、着地地点が激しく爆発した。

 読まれていた──?

 爆風に煽られ転がる俺で遊ぶように魔弾が追ってくる。

 一際大きく浮かせられたところで片手を支えに一気に踏み込んだ。

 目の前に広がる緑の光。反射的に動いた手からピンッと独特の音が耳に嫌に残った。

 

 銀髪の美しい吸血鬼は探るようにあちらこちらを歩き回る。

 戦わずに話し合う方向でいけばどうだろうか。

 誰もが争いを好むわけではないだろう……! 

 ヘイ、そこのレディー。お茶でもいかがか──

 

 銀髪の美しい吸血鬼は探るようにあちらこちらを歩き回る。

 何か……ごみを見るような目で見られました本当にありがとうございません。

 俺のナンパスキルが低すぎたか……

 カルデアの制服を棒に巻き付けて旗のようにする。

 私、戦い、好まなーい。

 白旗は真っ赤に染まった。

 

 銀髪の美しい吸血鬼は探るようにあちらこちらを歩き回る。

 この世には既に降伏してる人を撃ち殺す悪魔がいるらしい……

 やはり戦う方向で行くしかないようだ。

 意思とは真逆にやる気に満ちる身体に任せて突き進む。

 熱いような冷たいような、そんな鈍い感触が腹を貫いた。

 

 銀髪の美しい吸血鬼は探るようにあちらこちらを歩き回る。

 動悸が激しい、自身が焦っているのが良くわかる。

 呼吸が浅い、必死に頭を回すが打開策が見当たらない。

 落ち着け、冷静になれ、と己に語り掛けるが焦燥は高まるばかりだ。

 小さな瓦礫を両手に抱いて駆けだした。

 魔術で強化してひたすらにぶん投げれば魔弾と石はぶつかりあう。

 ──だが、当然のように拮抗はせず、魔弾は石を消し飛ばした。

 緑の光が眼前に広がって、直後に強烈な衝撃が体を穿つ。

 それでも致命傷には至らない……なるほど。

 俺のにわか魔術でもそこそこ役に立つらしい。

 まあそれでも全弾当たったせいで身体が痺れて動けないんだけどネッ。

 身体から大量に血が抜けてく様を見るってのは思っている以上に怖いものだな。

 

 

 銀髪の美しい吸血鬼は探るようにあちらこちらを歩き回る。

 強化した石を魔弾とぶつけ合わせる。

 あの魔弾は強化石ころでそれなりに威力を減衰させられるらしい。

 光の粒子と石の欠片が辺りに散る中に踏み込んで、一本だけ握った黒鍵を鋭く突き出した。

 吸血鬼の持つ、丁寧な細工のされた杖とぶつかり合って甲高い音が響いた。

 たった一撃だけの打ち合い、それだけで腕が痺れる。

 嘘やん……いつぞやの赤弓野郎と同じくらい重たい──

 骨が砕ける音が頭蓋に響いた。

 

 

 銀髪の美しい吸血鬼は探るようにあちらこちらを歩き回る。

 そういや俺魔術出せんじゃん! 英霊どもに鍛えられたし結構イケるんじゃね!? 

 何時かの二の舞な気がしてならないが振り切り魔力を貯める。

 瞬間強化からのぉぉ喰らえガンドォォオオ!

 黒の様な赤の様な魔弾が飛び込み華奢とも言える無防備な背中にぶち当たる。

 硬直した──!

 ここだと言わんばかりに走り出す。

 黒鍵に魔力をブチ流して斬りかかる。

 狙うは首筋ただ一点──!

 

 「馬鹿ね」

 

 錫杖のような武器が脇腹に食い込んだ。

 激しい痛みと同時に視界が暗く歪む。

 周りの音が遠くなるのに自分の心臓の音が嫌にうるさい。

 次に来るのはお得意の魔弾だろう。

 ──でも俺の勝ちだ。

 肉を切らせて骨を断つって、聞いたことくらいはあんだろ?

 握り込んだそれをそっと落とす。落とすと同時に吹き飛ばされる。

 それと同時に爆音が盛大に、全てを蹴散らした。

 頬にポツリと赤い水滴が落ちてきた。

 咳込みながら立ち上がれば、真っ赤に濡れた彼女は憎々し気にこちらをねめつけていた。

 掠れた声で何かを話している。

 錫杖を支えに立っているのがやっとなのが目に見えて分かるというのにその存在感はやけに強い。

 だがこれで終わりだ。お前はもう何もできない。

 黒鍵を勢いよく振り切った。

 掠れ声は止み、光の粒子が空へと溶けた。

 

 

 気が抜ける──足からも手からも力が抜ける。

 それでも早く身を隠さなければ、と己を急かした。

 何故かって言えばその答えは経験則から言わせてもらおう。

 不 幸 は 連 鎖 す る !

 嘗めるなよ、俺は学習するのだ。

 ただ一つ誤算を言わせてもらえば完全に脱力しきって足が動かないってことくらいかな^^

 ふぅ……さらば。

 俺はやってくるドラゴンを笑顔で迎えた。

 

 

 気が抜ける──足からも手からも力が抜ける。

 ……いやいやいやいや完全に詰み入った所にセーブポイント来ちゃったよ!? 

 おま、どうすんだよこれ……

 必死に手を伸ばす。上手く力が入らないがそれでも瓦礫を掴んでズルズルと。転げ落ちるように這いずり回る。

 あー来てる来てる来てる。

 う~ん、無理!

 ガブッ

 

 

 気が抜ける──足からも手からも力が抜ける。

 さてはて俺は何味だったんだろうか……

 きっと最高に不味かったことだろう。

 むしろ生肉でいけるとかドラゴンさんはどんな胃してんねん……

 畜生胃の中で大暴れしてやる!

 一言だけ言うなら竜の胃液は人のそれとは次元が違ったってことくらいだ。

 

 

 気が抜ける──足からも手からも力が抜ける。

 流石に俺が馬鹿すぎた……ちょっと思考回路がショートしてましたね。

 いかんいかん、切り替えないと。少し冷静になろう。

 武器はない、満足には動けない、魔力は上手く流せない。

 おっとこれは詰んだな。

 迫る炎を見て思う、炎以外なら緊急回避いけるんじゃね? と。

 ジュワァッ

 

 

 気が抜ける──足からも手からも力が抜ける。

 よっしゃドラゴンかかってこいやぁ!

 迫りくる巨大な尾──緊急回避!

 身に纏う制服がキラリと光り、体が不自然に動き出す。

 力の入らない身体が悲鳴を上げた。

 そして俺は思うのだ──”一撃だけ避けても意味なくない?”と──。

 

 

 迫りくる牙が妙に遅い──。

 良く漫画とかであるやつかな? 幾度も死んでる割には初めてだな。

 のんきにそんなことを考えながらやつの牙の本数を数える。

 あ、一本抜けてる……

 と思ったら上の歯が三本生えた。上顎から。更に言えば血をまき散らしながら。

 随分エキサイティングな生やし方だな……ってんな訳ねーだろ! 何事だし!

 轟音と共にドラゴンさんが落ちてきた。──ついでに角の生えた赤髪の少女も。

 いや何者だし。

 

 

 角の生えた赤髪の少女は竜のような尾を振り、尖がった八重歯を見せつけるように語り掛けてきた。

 アイ……ドル? いや、プロデュース?

 馬鹿ちゃうのお前?

 アイドル要素迷子過ぎない?

 ん? 歌が得意だ? おう聞かせてみろや。

 きゃぁぁぁぁあぁぁぁ

 

 角の生えた赤髪の少女は竜のような尾を振り、尖がった八重歯を見せつけるように語り掛けてきた。

 いや歌声で死ぬとかお前……! お前……!

 歌唱力がマイナスに振り切ってんじゃねーか! つーか若干魔力篭ってたし……

 死に体の俺にあの仕打ち……悪魔か……

 悪いけど君がアイドルはちょっと無理があると思うぜっ

 イェス、ムリ。ノー、アイドル。

 いや待て落ち着けそのマイクスタンドにも似た槍を振りかぶるのはヤメロォォオオ!

 

 角の生えた赤髪の少女は竜のような尾を振り、尖がった八重歯を見せつけるように語り掛けてきた。

 何かアイドル路線に進もうとするのを否定したらデッドエンドらしい。

 何だこの選択肢を間違えたら即死亡みたいなギャルゲー感は……

 取りあえず褒め称えてみる。俺は死にたくねぇんだ!

 え? 何? そんなに聞きたいなら披露してあげる?

 ばっかやめろ違う謙遜とか遠慮ではないやめ、やめろぉぉおお!

 きゃあああぁぁぁぁ

 

 角の生えた赤髪の少女は竜のような尾を振り、尖がった八重歯を見せつけるように語り掛けてきた。

 いい加減魔力を込めて歌うのはやめるんだ。微量でも瀕死の俺には効果は抜群なんだぞ。

 ついでに言えば鼓膜も悲鳴をあげてしまうから本当にやめるんだ。

 だが途中まではいい感じなんだよな。人の話も割と聞いてくれるし。

 煽てつつも褒め過ぎないように、だ。

 何とか目論見は成功した、大成功とも言えるだろう。

 また歌うと言われた時の俺の機転が良すぎる。流石だぜ……ちょろい子で良かった……。

 パスを繋ぐ。初サーヴァント。初サーヴァントであります。まぁ、仮契約なのだが。

 動けないので担がれて移動する。おっと、ドクターにも連絡を入れておくべきか。

 

 

 空を舞う竜を落とし地を駆ける兵士を殺した。

 エリザベート・バートリーと名乗った少女は可愛らしい見た目に反し、その本質はとても惨いものだった。

 俺としては頼もしいことこの上ないのだが薄ら寒いものを感じたのもまた事実だ。

 まあ取りあえず死ぬことが無くなったのはいいことである。

 くくく……ドラゴンどもよ、貴様らの快進撃もここまでよ……。

 そういえばドクター曰く今まで竜やドラゴンと呼称していた存在はワイバーンってやつらしい。

 なるほど違いが分からん……

 曰く、ドラゴンはもっとやばいらしい。あれよりやばいとかそれ本当に生物なのん……?

 ようやく辿り着いた街で傷を癒す。

 いや、街とは言えないか。

 つい最近――ほんの二、三日前に襲われたであろう廃墟の多い街の民家に隠れ、包帯やら何やらと勝手に拝借して体を休める。

 脱力しきっていた手足も既にほとんど感覚を取り戻していた。

 強化魔術を全身に張り巡らせる。これである程度は満足に動けるだろう。

 やっと自分の足で歩ける喜びを噛み締めながら街を出て、森へと入る。

 所々燃え焦げていた平原や街とは違い、森は鬱蒼と緑に生い茂っていた。

 何故森に入ったのか、と言われれば理由はいくつかある。

 俺は気づいたのだ、空から良く見える平原なんかを歩いているからすぐに襲われるのだと。

 ついでに言えばこの道がはぐれた奴等と合流する最短ルートなのだ。

 良いこと尽くめだな! と鼻歌でも歌いそうになった瞬間金属音が響いた。

 エリザベートと人……じゃない狼……でもない……狼人間? がそれぞれの武器をかち合わせていた。

 そのままくるりと槍を振り回し危なげなくエリザベートは狼人間を串刺しにする。

 流石だぜ……! 賞賛を送ろうとした瞬間酷く鈍い音が頭を貫いた。

 

 所々燃え焦げていた平原や街とは違い、森は鬱蒼と緑に生い茂っていた。

 うっそだろお前何体でも出てくるんかい……!

 殺されるプロの俺に言わせてもらえば獲物はメイスか何かですね!

 つまりエリザベートが戦っていた狼人間とみた。

 ただ背後からの襲撃は予想できなかった……っていうよりサーヴァントを得たことで緩み切っていたというのが正しいだろうか。

 自分がもう戦わなくてもいい、何て錯覚してしまった。そんな訳ないというのに。

 いつだって最後に自分の身を守れるのは自分しかいないのだ。

 黒鍵を手に持ち歩を進める。

 瞬間金属音。血が噴き出る音を聞きながら振り向きざまに黒鍵を横なぎに振るった。

 メイスと黒鍵が弾き合う。同時に片手に握っていた砂を投げかける。

 出来た隙を逃さず首筋に黒鍵をねじ込み掻っ切れば、苦悶の声を上げて狼人間は倒れた。

 狼人間も心臓をぶち抜くか首を取れば死ぬらしい。

 一対一でやる分には脅威ではないのを確認して先へと進む。

 

 

 幾度も殺した。幾度も血を浴びた。人の形をしていながらあまりにも獣臭い。

 赤い毛皮を更に深い赤で塗りつぶす、最早そのくらい単純な作業と化していた。

 エリザベートと背中合わせにすれば十中八九死ぬことはない。

 彼女は他人を守ることが得意ではない、だがその殲滅能力は目を見はるものがあった。

 故に、俺がやつらを倒せなくともとりあえず、彼女が自分の敵を倒すまでに生き残れば良いだけの話であった。

 だからと言ってそれが簡単という訳でもなく、黒鍵は既にボロボロだし先ほどから腕がビリビリと痙攣していた。

 魔術で強化している上でこれだ。先が思いやられるな。

 そんな俺をエリザベートは気遣うように声をかけてくる。

 頭のねじが幾つもすっとんでるとこ差し引けば結構良いやつなんだよぁ……あと音痴じゃなければ。

 まぁ気遣いはシンプルに嬉しい。

 大丈夫と答えて歩を進めていった。

 激しい金属音が響き散る。

 金属が削れる音が、肉が引き裂かれる音が、血が散る音が混じる。

 誘いこまれていた──森に潜み、森に生きていた彼らを嘗めきっていた。

 俺とエリザベートはやつらの巣におびき寄せられていたのだ。

 あまりの数の多さに辟易する。

 エリザベートは危なげなく倒すが数に圧倒されてこちらのフォローには回れない。

 俺は紙一重で致命傷を避けていく。この際身体のあちこちに当たっていくのは無視だ。

 クリーンヒットさえしなければどうとでもなる。

 残り三本しかない黒鍵の一本を目に突き立てると同時に制服の上着をぐるぐるに巻いた片腕を口に突っ込んでやる。

 抵抗をねじ伏せ無理やり噛ませてからこちらに引き寄せ他のやつらからの盾にした。

 幾本ものメイスがバキバキと盾にした狼人間の背中の骨を砕く。

 その口から力が抜けるのと同時に身体を蹴り飛ばして死体から奪い取ったメイスで頭を砕く。

 崩れ落ちる体を飛び越えメイスを躱す。

 振り向きざまに一閃。

 不愉快な感触が手に伝わる。同時に左肩がぐちゃりと潰れた。

 激痛で視界が明滅した。メイスを手放し右腕を支えに方向変換。

 鼻先スレスレでメイスが交差する。

 かち合わせて怯んだ狼人間の顎を殴り上げ、奪ったメイスで両方の頭を砕く。

 骨を砕き続けた俺の頭破壊スキルを嘗めるなよ……!

 不意に腹に鈍痛が走り、視界が空転する。

 既に左肩の感覚はない、視界は敵で埋まっていた。

 

 幾度も殺した。幾度も血を浴びた。人の形をしていながらあまりにも獣臭い。

 流石に多勢に無勢でござる……

 完全にリンチからの肉達摩化であった。

 人間って実はこんなに生き汚いんだな……て思うくらい耐えてしまった。

 トラウマが一つ増えた瞬間である……

 ノットメイス……イエスソード……

 せめてサクッと殺せよな。

 ふらふらと進まず最短ルートを突き進む。

 あっこらっ、狼さんに付いて行っちゃいけません!ちょ、エ、エリザベーオォォォォ!

 

 幾度も殺した。幾度も血を浴びた。人の形をしていながらあまりにも獣臭い。

 エリザベートのちょろさが半端ない件について……

 知らない人に付いて行っちゃいけませんって教わったでしょ。

 ほいほい付いて行っちゃうんだから……

 お陰でリンチルートだったぞ畜生が。

 なるべく前に出てルートから外れないよう確実に仕留め、逃げていくやつは放置するよう言い含める。

 あまりにも必死な形相だった為か若干引かれたが、それでも渋々承諾してくれた。

 深追いはせず、手の届く分だけ狼人間を殺していく。

 そんなこんなで森を抜けた先にはまだ人のいそうな街があり、更に言えば戦火が飛び散っていた。

 

 

 再会した立香くんたちはまたもや仲間を増やし、更にはどす黒い巨大なドラゴンと相対していた。

 黒々としたまるで現実とは思えないような色の炎が辺りを舐め尽すように焼き払っていく。

 エリザベートと一瞬視線を合わせて頷き合う。

 同時に俺は死体から剣を剥ぎ取り強化しエリザベートは元気に尾を振り走り出した。

 跳躍して振りかぶった彼女の槍が、鱗の間を縫うように突き刺さる。

 剣は傷一つ付けられずに弾かれた。

 ……(´・ω・`)

 めげずに石ころを強化し投げ続ける。

 ちょっとでもダメージが通ってくれれば……!

 あふんっ

 

 再会した立香くんたちはまたもや仲間を増やし、更にはどす黒い巨大なドラゴンと相対していた。

 ちょっとあの巨大な尾は躱せなかったですね……

 こう……グルンッ! と来たし身体もバッキバキの粉々であった。

 もう少し手心ってやつをですね……加えるべきですよね……ええ、はい……

 エリザベートの槍が突き立つ、それと同時に駆けだした。

 一目散に味方の元へ。

 しばらくした後にさっきの場所が尾で薙ぎ払われた。

 風圧だけで身体が煽られる。

 これだけ離れて風が来るとかやばくね?

 急いでマシュの後ろへ隠れて息を整える。

 その場にはレイシフトしてきた組以外にも金髪の女性。

 茶髪ロングの剣士と白髪の弱っている剣士がいた

 ――舞い降りし最強の魔龍……うっ、なんか変な電波受信したな。

 突然の頭痛を無視して真名を聞く。

 ふぁっ!? ゲオルギウス!? 竜殺しで有名な聖ジョージ!?

 んんっ!? そっちはジャンヌ・ダルク!? 聖人いすぎやん……?

 そしてそんなビッグネームいるなら勝ち確じゃん?

 ん? ジークフリート? 聞いたことないですね……

 尚何故聖ジョージを知っているのかと言えば俺の14歳時代の記憶がきらめいたとだけ言っておこう。

 因みにあのドラゴンはファブニールってやつらしい。

 史実で行けばこのジークフリートがファブニールの天敵とのことだ。

 つーか龍殺しとか、創作じゃなくてガチだったのかよ……

 ドン引きというか夢が広がるというか、何にせよ微妙な気分である。

 ジークフリートの宝具が当たれば倒せるらしいのだが中々隙を作るのに四苦八苦している、というのが現状らしい。

 なるほど? 分かりやすい打開策があるのは精神衛生上とてもよろしい。

 槍を拾い上げ強化する。

 取りあえずこちらに注意を向けさせれば良いのだろう?

 俺とエリザベートで作ろうではないか。

 何、問題ない。安心して魔力を貯めて隙を窺うと良い。ついでに傷を癒やせ。俺よりぼろっちいぞ。

 ん? 何? ジャンヌさんも来るの? オーケー、頼むぜ。

 勢いよく槍を投擲。素早く飛ぶ槍は──しかして弾かれずに鮮血を飛び散らせた。

 えっ……んんっ、馬鹿にするなよ……目ん玉と口ん中は固くはできねぇだろッ。

 がはは馬鹿め! 新しく槍を持ち駆けていく。

 エリザベートは既に満身創痍に近かった。

 流石に彼女一人で抑えるのは無理だったか……

 令呪を切って霊基を再生させる。残りは二画だ。

 事情をサラッとだけ説明して武器を構える。

 さぁ逝くぞ。

 

 

 黒い魔龍は雄々しい尾を振り回し、鋭利な牙を見せつけるように炎を吐き出した。

 瞬間身体が虹色に包まれる。その上から浴びる炎はシャワーよりも生ぬるい。

 どころか何も感じない。

 ”無敵化”これこそがかの聖女──ジャンヌダルクの宝具らしい。

 最高の宝具だ……下手な攻撃宝具より数段有用。死ななくなるとか超最高かよ。

 ざっと強化した武器を投げ続ける。

 同時にエリザベートへの指示。といってもそんな大それたことはできないのだが。

 空を舞う龍に槍を投げ、剣を投げ、兜を投げる。

 そのほとんどがダメージとしては全く意味をなさないが、やつとしてはウザイことこの上なかったらしい。

 鋭く牙を剥いて迫り来る。 

 ぐははっ、馬鹿めっ俺は無敵だといってい──

 

 黒い魔龍は雄々しい尾を振り回し、鋭利な牙を見せつけるように炎を吐き出した。

 無敵化──無敵って永続じゃないんだね……

 一時的な物とか最初に言えし……

 そこを考慮し投げるのは控えめに、攻めるのは二人に任せて指示に徹する。

 黒い炎が迫りくる――ちょ、躱す手段ないんだってぇぇぇ……

 

 黒い魔龍は雄々しい尾を振り回し、鋭利な牙を見せつけるように炎を吐き出した。

 無敵でやり過ごした後に槍を投擲。

 口を開いた瞬間二人に強制的に閉じさせる。

 何度も同じ過ち(死に方)をする俺じゃあないんだ―ぜッ

 がははと笑う……こともなく前を見据える。

 調子に乗ったら死ぬのは既に知っているんだぜ……!

 経験豊富感をアピールしながら指示を出す。

 瞬間散った炎が服に燃え移った。

 まあまあまあ、この程度脱げば良いだけですし?

 あ、これすぐ燃えうつ、あ、消えな、これ……

 ジュッ

 

 黒い魔龍は雄々しい尾を振り回し、鋭利な牙を見せつけるように炎を吐き出した。

 良い湯加減のシャワーだな。

 炎を全力警戒して指示を出す。

 火の粉一片でも当たってたまるかよ!

 いざという時の為に上着を脱いで火の粉から身を守る。

 当然これ以上吐かせはしないが閉じさせた際に溜めてた火が外に漏れ散るのだ。

 だが大部分は体内で爆発する。

 これが中々……というか一番ダメージが大きく見える。

 後はチクチク身体をつつくだけで注意の大部分を引き付けることができた。

 徐々にマシュ達の方へ寄せ付ける。

 さぁ決めろ──!

 

 青緑の光が空を穿ち竜を食い破る。

 力強くはためいていた翼は穴が空き、全身から血を流しついにファブニールは失墜した。

 派手に鳴り響く轟音と共に戦闘は終わりを告げた──。

 瞬間強烈な痛みが走る。

 後を追うように血が全身から流れゆく。

 終わり告げとけよ……

 

 青緑の光が空を穿ち竜を食い破る。

 忘れてもらっちゃ困るぜ☆ と言わんばかりにワイバーンの餌と化しましたねええはい……

 落ち行くファブニールを横目にサーヴァントの元へ駆けよる。

 同時に緑の竜が剣に引き裂かれて姿を消していく。

 助かった……ほっと息を吐きながら全員と合流する。

 ジークフリートは力を使い果たしたとかで空に溶けて消えていった。

 超ありがとう……! お前のお陰で生き残れたぜ……!

 別れを惜しみながら街へと戻る、少しは休まねば──

 瞬間槍が頭を貫いた。

 

 別れを惜しみながら街へと戻る、少しは休まねば──

 ふぁっ!? ふざけんなと悪態をつきながら頭を屈める。

 同時に槍が後ろの壁に突き刺さった。

 え、いや何事だし!?

 街の中央に進めば敵の兵士や狼が街を荒らしつくしていた。

 ファブニールと狼軍団の二手から敵は来ていた訳だ。

 ふらつく身体に鞭を打つ。

 全員に逃げるように叫ぶ。

 この量だ、今まともに打ち合ったら全滅なのは見えきっていた。

 剣を強化し頭を切り飛ばす。

 しかしと食い下がる立香くんに怒号を飛ばす。

 死にてぇのか馬鹿者め。

 エリザベートも残るし俺は大丈夫に決まってんだろうが。

 早く行け、と叫ぶべば申し訳なさそうにマシュ達は走り去っていった。

 やれやれ、まったく困ったやつらだ……

 見栄を張らなきゃよかったと後悔しながら剣を振るい、傷だらけのエリザベートをフォローする。

 すると近くで剣戟の音が響いた。

 誰……ってえ、聖ジョージ!?

 見捨てて置けないとかかっこよすぎかよ……

 まあ多分俺だけでは抑えきれないのもこの人には分かっていたのだろう。

 きっとジャンヌも。

 そこでまあ何かしらのやり取りをして聖ジョージが来てくれたって訳だな。

 テンション爆上げである。

 一撃一殺。頭か心臓だけを狙って剣を振るう。

 脳髄と血が走り、地を暗く塗りつぶす。

 首を断つ、頭を割る、胸に突き刺す。

 強化した体と武器に身を任せる。

 瞬間、鈍い衝撃が腹に走った。

 血やら何やらを吐き出させられる。

 うーん、無理^^

 

 一撃一殺。頭か心臓を狙って剣を振るう。 

 ちょっと数が多すぎますかねぇ…… 

 こっちくんなぁぁああ! と力任せに武器を振り回す。

 剣を剣で切り裂き敵を討つ。

 人だろうが、獣だろうが、関係なしに命を奪う。

 やらなければやられるのだ、そんな免罪符を掲げて俺は殺した。

 致命傷だけは避けて後は攻撃に全振りだ。

 足が払われる。腹に剣が刺さる。頭を切り飛ばす。メイスで叩きのめされる。

 視界が真っ赤に染まった。

 いや無理じゃね?

 

 一撃一殺。頭か心臓を狙って剣を振るう。

 つーかマイサーヴァント何でそんな遠くで戦ってんだよ馬鹿ちゃうん?

 でも近くで戦われると被害が尋常じゃないのでやっぱ遠慮しときますね……

 あ、つーか宝具で吹っ飛ばせば良くねぇ……?

 ずれる視界でそう思った。

 

 一撃一殺。頭か心臓を狙って剣を振るう。

 令呪をきってエリザベートに魔力を注ぐ。

 宝具、開帳──!

 凄まじい爆音、暴声。空気が揺らぐどころか空間が悲鳴を上げていた。

 ついでに俺の鼓膜が悲鳴上げていた。死んじゃう……

 音が止んだ時には周りの物の怪共は地に伏し生命活動を終えていた。

 宝具ってすごいね……

 この勝負、我々の勝利だ!なんて思ったその時、俺は大きな影に覆われた。

 ん? なだけ

 

 一撃一殺。頭か心臓を狙って剣を振るう。

 んんんん!! ワイバァァァアアン!! おま、お前空気読めよぉぉぉ!

 パクリといかれたわくそったれ……

 お前の血は何色だぁぁと叫びながら宝具を発動させる。

 ヴォェェェェエエエエエ! と聞くに堪えない声が場を支配し尽くす。

 その後にやってきたのはやはりワイバーン……の炎だった。

 ふぁっきゅー

 ジュァッ

 

 一撃一殺。頭か心臓を狙って剣を振るう。

 だからファイアーは避けられないって言ってんだろいい加減にしろ!

 いやマジやめてくださいお願いします……

 兵士や獣、化け物共はその命を散らせた。

 瞬時に天を仰ぐ。

 すっと腕を伸ばしきって礼装に仕込まれてる魔術を発動させる。

 瞬間強化──同時に魔力弾を撃ち放った。

 火を吐く寸前の、大きく開いた口に魔力弾が飛び込み爆裂する。

 ワイバーンが驚いたように身悶えし、溜められていた炎が行き場を無くして爆発を起こし墜落した。

 あっ、ふーん、へぇ~、ら、ラッキー……ゲフゲフン。

 これが効率的なワイバーンの倒し方ってやつよ!

 調子に乗った所でやってきた緑と赤のワイバーン軍団に目が死んだのは言うまでもない。

 

 

 如何にもな怪しげな雰囲気の放つ城の階段を駆け抜ける。

 本当ならばあのワイバーン軍団と戦うところだったのだが生アスカロンが炸裂してからは聖ジョージの独壇場だったとだけ言っておこう。

 ドラゴンスレイヤー、マジぱねぇ。

 上階で戦闘音が鳴り響いている。

 扉から入らず気を衒う様に迂回して窓から蹴破り入った。

 驚き目を見開いた黒い女性は反射的に真っ黒い炎を生み出した。

 ジャン、ヌ……?

 ジュワッ

 

 如何にもな怪しげな雰囲気の放つ城の階段を駆け抜ける。

 もう黒い炎がトラウマになっちゃいそうなんだけど……

 こっちに来てから焼かれ過ぎだと思うんですけど?

 ていうか炎操ってたのが真っ黒いジャンヌだったんですけど……

 何? 俺のいなかった短時間で闇堕ちでもしちゃったのん?

 2コマもびっくりの早落ちである。

 扉を強く開け放つ。

 ジャンヌは──二人いた。

 意味不明過ぎますね^^

 旗付きの槍で裂かれて焼かれた。

 熱い熱い熱い。

 

 如何にもな怪しげな雰囲気の放つ城の階段を駆け抜ける。

 ちょっち厳しいですねぇ……

 二人いることに動揺してたところをグサッジュワッである。

 全く、どういうことだってばよ?

 扉を蹴り破って突入する。

 そそくさとエリザベートの後ろに隠れる。

 黒いジャンヌは良く見れば俺の知っているジャンヌとの違いが多く見られた。

 俺の知ってるジャンヌが整えられた金の長髪に比べ、黒の方はざっくりと乱雑に斬られたような白銀の短髪だ。

 また、常に慈愛を湛えていた瞳は憎悪に満ち溢れている。

 そして全体的に黒い。黒っぽい、語彙が無くて申し訳ない。

 しかも炎出すってのが最高のマイナスポイントだよねー。

 あからさまにテンションを下げながら右へ左へダイビングしながら炎を避ける。

 身体に強化をかけようともしたがいい加減魔力が限界だった。

 サーヴァント一人、仮契約しただけでこれとか俺が雑魚過ぎてわらけてくる。

 右手の甲で光る最後の一画をチラリと目に入れすぐに離す。

 炎があちらこちらを焼き回っていた。

 正直水をかけたところで消えそうにないって辺りが最高にどうかしてるよね。

 グラグラと揺れる視界を安定させるように顔を抑える。

 槍を振り回し、炎を揺らめかせる黒ジャンヌをアルトリア、マシュ、ジャンヌ、エリザベートの四人がかりで抗戦する。

 まあ四人もいれば徐々に徐々に押し切りはじめるのは当然のことだった。

 今回も結構死んだけど何とかなったなぁ、なんて思いながらそこそこのほほんと戦闘を眺める。

 瞬間立香くんが叫んだ。そんな血走った眼でどうしたし──

 ごっ、と鈍い衝撃が脳天からつま先まで突き抜けた。

 一体なんだ──と、言う必要はなかった。

 視界に映ったのは、いつぞやの腕長野郎と同じ色をした性別の分からない英霊? だった。

 

 如何にもな怪しげな雰囲気の放つ城の階段を駆け抜ける。

 いや何あれ? いつぞやのハートキャッチマンみたいなやついたんだけど?

 マジでどういうことだし……

 謎が謎を呼び最早謎しかないみたいなカオスになってきた。

 ただ、取りあえずやつを殺さないと戻れないってのだけは良く分かっていた。

 魔力切れなのにどうしよう☆

 何かないのか何かないのかとポケットを漁るところりと飴が転がった。

 ダ・ヴィンチちゃんがくれたやつだ、ちょっとお腹減ったしいただくか。

 包み紙をポケットに押し込み飴ちゃんを口に放る。

 お、ブドウ味。

 俺の好みを把握するとはなかなかやるじゃあないか、

 何だか心なし魔力が回復してきた気がする──いや、これ回復してるな?

 先程までくそだるかった身体が妙に元気になっていく感覚だ。

 これならいける、城内で倒した狼人間から奪った槍を得意げに回して扉をあけ放った。

 どこまでも真っ黒な武器と強化し微妙に発光した槍が鍔迫り合いを起こす。

 重い一撃、しかして腕が軽く痺れる程度に収まる。

 魔術の恩恵って素晴らしいね……!

 振り下ろされる真っ黒い槍を受け流し、くるりと回した槍を左手でつかんで突き放つ。

 重く鈍い感触が武器を通して伝わってくる。

 抉るように槍を回すと同時に強烈な蹴りが腹へと突き刺さった。

 ゴボリと血液が喉を駆けのぼり吐き出される。

 すぐに応急手当をかけて槍を掴みなおして──

 

 如何にもな怪しげな雰囲気の放つ城の階段を駆け抜ける。

 二 体 目

 ふざけんなである。一体でも限界なのに二体目とかちょっと洒落になってない。

 思わず目を死なせながら俺は扉の先へと赴いた。

 黒い槍を防ぎ、躱す。

 そろそろか、と振り向けば──黒い巨人がいた。

 

 如何にもな怪しげな雰囲気の放つ城の階段を駆け抜ける。

 黒い巨人は無理やん? 俺のトラウマそのものだからね?

 振るわれる斧を払われる槍を涙目でかわす。

 息が荒い、前に見た時より動きが遅くはあるのだが、それ以上に恐怖が俺を支配していた。

 槍が折られる。腕が飛ぶ。

 あまりの痛みで視界が歪む。

 あぁ、無理。

 

 如何にもな怪しげな雰囲気の放つ城の階段を駆け抜ける。

 黒い巨人は二振りの斧を乱雑に振り回す。

 空を斬るもその風圧だけで身体が煽られる。

 やばいやばいやばい。

 斧を警戒し過ぎたか、横合いから出された槍が左胸を抉りぬいた。

 

 如何にもな怪しげな雰囲気の放つ城の階段を駆け抜ける

 いや無理無理。 

 ガクブルしすぎて上手く身体は動かなかったし頭も回らない。

 早くなっていく鼓動を抑えるように胸に手を当てる。 

 大丈夫、大丈夫。飴玉を放り込んで扉を開けた。

 二振りの斧が牙を剥く。

 床に刺さるたびに激しい炸裂音が響き欠片を振りまいた。

 避けた先には鋭い槍。

 それすら潜り抜けた先は炎が揺らめいている。

 ぶっちゃけ絶体絶命☆とかなんとか言ってる場合ではない。

 良く見ろ、良く見ろ。

 マジモンのサーヴァントよりか動きはとろい。

 いけるいける。

 己を鼓舞して足を踏み出す。

 槍が肌を掠めて通り抜けていく。

 それを握って思いっきり引っ張ると同時に手を離す。

 子供のときとか良くやったよね、引っ張ってから離すと相手がよろめくやつ。

 少しばかり得意げに──なる暇もなく斧が迫りくる。

 強化槍で下に受け流し、大きく跳んで目玉に指を突っ込んだ。

 グジュリと生々しい感触が手をつたる。

 不快感に鳥肌を立たせながらその巨体を上りあがってすぐに飛び降りる。

 真っ黒な槍が巨体を貫いた。数瞬遅れて斧が槍野郎を殴り飛ばす。

 やっぱり冬木で見た時より”弱い”と確信する。

 あらゆる面で普通のサーヴァントより劣っている。

 まあそうでもなきゃ二対一でこんな上手く立ち回れる訳ないんだが。

 唇を舐めて焦燥感を消す。

 されど巨人の動きは鈍ることはなかった。

 身体から血のような何かを漏らしながらも最初と変わらぬ速さで斧を振るう。

 全く困ったもんだ。槍も躱さないといけないってのに。

 ただそれでも、全身から黒い粒子に溶けて行っている巨人は後少しで消えるのは察せれた。

 早く消えろ早く消えろ。 

 そう念じながら槍と斧を捌く。

 いや、捌くってのは少し語弊があるか。

 実際斧は俺の身体のぎりぎりを掠めるせいで欠片が肌に刺さるし、槍は浅くはあっても確実に俺の身体を裂いてるし穿っていた。

 俺の根気が尽きるか巨人が消えるか、それが勝負の分かれ目と見た。

 槍とタイマンならぎりぎりいける。

 斧を受けてからあからさまに動きがおかしいのが見て取れるから。

 少しずつ、少しずつ巨人の凶暴さが失われていく。

 あと少し、あと少しだ。

 体力の尽きかけふらついた瞬間槍が腹を貫いた。

 もう見慣れた赤い液体がどろりと零れ、同時に巨人が姿を消した。

 槍をがっしりと掴んで引き寄せる。

 全力で突き出した槍がガードした腕を貫き顔を穿つ。

 カウンター気味に胸に入った拳によろめきながら槍を引き抜いた。

 主人の後を追うように武器もまた姿を消した。

 達成感に満たされながらジャンヌ達を見たら丁度決着がついたところだった。

 

 黒いジャンヌの体を白いジャンヌが剣をもって刺し貫いていた。

 室内を焼き焦がしていた炎はいつの間にか消え、煙だけが燻っていた。

 何故、どうして、私が負けるはずがない、と子供が駄々をこねるようにわめく黒ジャンヌ。

 いやさ、お前の負けだよ。負けたんだから、さっさと死んで俺を帰してくれ。

 しかし彼女を宥める人物が一人だけいた。

 生前──いやこの時代においてもジャンヌ・ダルクを信じ、付き従った騎士。

 その堕ちた存在。ジル・ド・レェ。

 禍々しい書を片手に持ち、飛び出てしまいそうなほどに大きな目を血走らせていた。

 ジル・ド・レェは黒ジャンヌを今はゆっくり休め、と信じられない程穏やかな笑顔で見送った。

 そして姿を露わにしたのは──探し求めていた聖杯だった。

 つまり黒ジャンヌはその存在そのものが聖杯であり、ジル・ド・レェの願望そのものだったということだ。

 簡潔に言うなら黒ジャンヌはジル・ド・レェが作った"僕の考えたさいきょうのさーゔぁんと"だったって訳だ。

 大分キマっちゃってんな……

 エリザベートはもうこの場に留まるのすら限界な様であった。

 仮とは言え主従そろってこれとは笑えちゃうね。

 盛大な最後っ屁かましてこーぜ。

 最後の一画を使い、魔力がエリザベートに注がれていく。

 さぁ、最高の歌声聞かせてやれよ。

 

 鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)ぉぉぉぉぉお!!!

 

 暴力的な音の嵐が吹き荒れる。

 ジル・ド・レェの生み出す海魔というヒトデみたいな触手の多いキモ生物が一瞬で消し飛んでいく。

 声が止むとほぼ同時にエリザベートが消えていった。

 またの機会があったら今度はしっかりとプロデュースしてやんよ。

 そんな軽口を叩きながら別れを済ませた。

 勝負は既に着いたも同然だった。

 溢れん限りに蠢いていた海魔たちはエリザベートの宝具で消え去り、ジル・ド・レェ本体もセイバーとジャンヌ、マシュにより袋叩きにあっていたからだ。

 彼は最後の力を振り絞り、室内を破壊し巨大な、それも城をも飲み込むくらい大きな海魔を生み出した。

 されど侮るなかれ、俺とエリザベートは切り札を使い切ったが立香くんとセイバーは違った。

 いつぞや見た光とは真逆の、全てを浄化するような極光が海魔ごとジル・ド・レェを呑み込んだ──。

 

 聖杯がころりと地に転がったのを回収する。

 同時に地が、空が、空間が激しく振動を始めた。

 ドクターからの連絡が入る。

 この特異点の時代の修正は終わり、元々の形に戻ろうとしているとのことだ。

 俺たちとジャンヌは別れを惜しむ暇もなく別れをすることになった。 

 といってもまあ俺はほぼほぼ単独行動だったから接点はほとんどなかったのだが。

 別れ際に見透かしたような、憐れむような瞳で頭を撫でられた時は不覚にも泣きそうになったのは秘密だ。

 どうにも捨て置けないとかなんとか。

 まあきっと立香君がその内召喚するっしょ。そんなことを言いながら俺たちは現代へと帰還した。

 カルデア司令部を見た瞬間気が抜けた俺が気を失ったのは言うまでもないだろう

 

 

 ──Order Complete──

 

 

 

 

 

 

 




因みに二章の進捗は0%、書くかどうかはテンション次第ってことで。
こっそり文章整形したけど、それでも変なところあったらこっそり教えてくれな!

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