無限ルーパー   作:泥人形

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すまんゲームしてた(正直)
※因みにパソコン君の不調はファンをお掃除して初期化もしてあげたら治りました。


海を渡る海賊@無限ループ

 ──貴方は少し、普通から離れた位置に存在しているように思えます。

 そう、ライダーさんに言われたことがある。

 いやライダーさんどころか、いつだったかのセイバー・オルタやカルデアにいるサーヴァントたち……要するに人では無いやつらには言葉は違えど似たようなことを必ず言われる。

 曰く人では無い、曰く気持ち悪い、曰く不安定。曰く、曰く、曰く……

 あれ? 何か悪口混ざってた気が……気のせい? ならよし。

 まあ何はともあれ俺は現在のカルデアではかなりの変人として扱われているのだった。

 良くサーヴァントたちに絡まれ、尚且つセイバーや立香くんに追っかけられるような真似をしているからだろうか、職員たちにすらあいつマジ変人(笑)みたいな目を向けられるていることに頭を悩ませている俺だが、実はサーヴァントが一人増えていた。

 他には? 鳥とかバイクとか弓とか弓とか猪とか剣とか剣とかカードだけの何か良く分かんないのが周りに転がってましたけど?

 

 さーてお仕事の時間だぞ☆と上司に呼び出された早朝からレイシフトである。

 瞼をほぼ完全に閉じきっている俺の後ろには二人のサーヴァントがいた。

 一人はお馴染み、皆大好き大天使ライダーさん。

 そしてもう一人は銀の髪を靡かせ怪しげな仮面で顔を隠す女性──血の伯爵夫人、カーミラ。

 フランスにて討ち取った彼女は、しかし何の縁か俺の呼び出しに応えサーヴァントとなっていた。

 いや普通に接しづら過ぎるだろ……そう思っていたのも束の間、彼女の正体があのアホアイドルの未来の姿だと知った瞬間、緊張が霞と消えめちゃくちゃ気楽になってしまった。

 というかアイドル目指さないの? って聞いた瞬間怒るでもなくガチな感じでお願いだからやめて……って言うのがマジやめられないくらい面白可愛いのがいけないと思う。

 レイシフトの準備をしながら呼びかける。

 ほら、元アイドル早く来い。

 だからそう呼ぶのやめなさいよぉぉぉぉと情けない声を聴きながら過去に跳んだ。

 

 

 

 ジャボンッという音と共に全身が重くなる。

 え、なにこれ……海?

 いや海中!!?

 急いで海面へと飛び出したそこには──巨大な船があった。

 えぇ……何これ……

 動揺したのはほんの一瞬。激しい戦闘音と同時にライダーさんと念話が繋がった。

 ライダーさんとカーミラは船上で交戦中だったのだ。

 三人とも同じところに転移したけど俺だけ海とか運が悪すぎるにもほどがある。

 ふざけんな畜生、と怒りを力に変えて船に黒鍵を突き立て登りきった俺の眼前をカーミラが吹き飛んでいった。

 吹き飛んできた先には──荒く削りだしたような大剣を片手に持つ巨人がいた。

 やべぇ! と緊急回避を発動する準備をすぐに整えれば同じタイミングで轟音が鳴り響く。

 天馬を出したライダーさんがあの巨人を食い止めていた。

 あの大剣を受け止めたりと天馬さん大活躍だなおい。

 ただぱっと見で俺みたいなカスでも分かるのが、あの巨人は洒落にならない強さを持ってるってことだ。

 今でこそギリギリ耐え忍んでいるが、ぶっちゃけこの船にまだ敵さん二人乗ってんだよな。

 後ろで悠々と酒飲んでこちらを見てる金髪のぼっちゃんみてーなやつと菫色の魔女みたいなやつだ。

 魔女はともかくあの金髪くそ腹立つ顔してやがるな……

 どうにかしてぎゃふんと言わせたいがこの巨人、マジで歯が立たない。

 ただでさえカーミラが一撃クリティカルで入ってるんだ。

 彼女と俺を庇う分ライダーさんの負担が大きい、大きすぎる。

 全くいっつもいっつも運がねぇ!

 天馬がぶち抜かれてライダーさんが吹き飛ぶ。

 斧剣は、力強く俺とカーミラを叩き切った。

 

 俺の眼前をカーミラが吹き飛んでいく。

 ここからか……

 濡れた髪を片手で押し上げ概念礼装を展開した。

 蒼の光で透けた針金で編まれた鳥が幾つも連なり勢いよく飛来していく。

 目にも止まらぬ……という訳でもないが、それでもかなりの速さで飛びそれを巨人は鮮やかな剣技で叩きのめした。

 くしゃりと潰れて消えていくそこへライダーさんの短剣が突き立ち鎖がぐるりと身体を締め付け──それを筋力でぶち破られる。

 よろめくライダーさんを守るようにカーミラの光弾が滑り込むが意味をなさない。

 急いで緊急回避をライダーさんを守るために発動する。

 ギュルリと回転したライダーさんが瞬間移動もかくやと言った速さで俺の隣まで回避する。

 困ったなぁおい……せめて真名が分かれば弱点とかが分かるかもしれないというのに……

 そう思ってたら金髪が腹の立つ声で「いけぇー! ヘラクレスゥー!」と叫んだ。

 ……真名明かしちゃうんだ!? あいつ馬鹿だ! ありがとう!

 そう思うが逆にそれは絶望も生み出した。

 だってヘラクレスだぞ? ギリシャ神話における、半神半人の大英雄だ。

 格が違うのが明らかすぎる……

 ゴォン! と風をぶち抜き振り下ろされる剣を全力で強化した脚力でぎりぎり避けきる。

 いつもなら全身に回してる分を全て足に使っていてこれなのだから、その強さがわかるってものだ。

 弾ける木っ端が肌を掠める。次に振られた剣がカーミラを捕えて断ち切った。

 風圧で身体が揺らぐ。同時に令呪を切った。

 一、二、三。

 手の甲に刻まれた紋様は全て消えてなくなり、代わりにライダーさんの魔力が急激に跳ね上がった。

 空に天馬の嘶きが響き渡る。

 流星の如く駆ける天馬はヘラクレスに衝突し、そしてその半身を消し飛ばした。

 やっぱ令呪って最高だわ。

 仇は取ったし後はお前らだけだと眼を向けた瞬間俺とライダーさんは吹き飛び木箱にぶち当たった。

 身体が全く動かない。全身がバラバラになったかのようだ。

 高笑いが嫌に耳朶に残った。

 

 俺の眼前をカーミラが吹き飛んでいく。

 ヘラクレスさん死なない感じなの……?

 針金で編まれた鳥──シュトルヒリッターが宙を駆け、地に叩き落される。

 その間にライダーさんが天馬を呼び出し次撃を受け流した。

 二度、三度と受け止め天馬とライダーさんは俺の隣へと降り立ったが既に傷だらけだ。

 カーミラが息も絶え絶えに逃走を推奨するが状況的に逃げられない。

 応急回復を掛けてカーミラを回復させると同時にヘラクレスが大きく飛び跳ねた。

 両手で振りかぶられたそれは轟音と共に床を叩く。

 あの力で叩かれて割れないこの船どうなってんだろうね?

 純粋な疑問を抱きながら床を転がりまたも木っ端が頬を掠める。

 しかし次々と振られる剣をよけきれない。

 ライダーさんの腕が飛ぶ。カーミラの身体が崩れ落ちる。俺の足が吹き飛んだ。

 

 俺の眼前をカーミラが吹き飛んでいく。

 ここは地獄か……

 令呪を切ってカーミラを急速回復する。

 ライダーさんが空を駆けてやつの斧剣とぶつかり合う。

 宝具による激しい爆発と共に俺の隣にライダーさんが降り立つ。

 だけどまだ終わりじゃない。

 爆炎から姿を現したやつの身体に光弾とシュトルヒリッターが突き刺さるが無視して突き進んでくる。

 いやマジかよ……

 そう簡単に宝具も撃たせられないし困った。

 乱雑に見えて的確に急所を狙ってくる剣をライダーさんに抱えられて躱していく。

 一先ず距離を取りたいが確実に詰めてくる。

 何とかカーミラの光弾が視界を奪っていくがジリ貧だ。

 ……仕方がないか。全概念礼装を使ってでもこの場を切り抜ける──!

 懐から取り出した礼装を解き放つ。ぶち抜けぇぇぇ!

 カードから出てきた、金の牙を持った青と赤の猪が凄まじい速さで走り抜け、ヘラクレスの剣を受け止める。

 ぶつかり合う度派手な火花が上がり、両者の力だけなら拮抗をする。

 しかし猪はすぐに胴を打ち上げられて海へと落ちていった。

 嘘やん……あっけなさすぎだろお前ぇぇええ!?

 期待した分反動が大きい。

 すぐさま新しい礼装を使おうとして既に目の前に来ているのに気が付いた。

 身体が引っ張られて耳元で轟音が響く。ライダーさん超ナイス……

 続く二撃目で身体が宙に投げられた。

 ガードをするも勢いよくライダーさんが吹き飛んでいきそれを天馬が回収する。

 同時に離れた俺をすぐに追い詰め振りかぶる剣が腕を掠めた。

 カーミラの光弾が軌道をずらしたのだ。

 ナイス……! だけど無意味だ。既に限界の速さで逃げる俺の倍近い速さで剣が迫る。

 激しい痛みが一瞬だけ俺を襲った。

 

 俺の眼前をカーミラが吹き飛んでいく。

 もう使う礼装をしっかりと決めて次々出さないとだなこれ。

 令呪でカーミラを回復させてライダーさんの宝具がヘラクレスの半身を消し飛ばした。

 されども煙を肩で切るように出てきたヘラクレスにまたも猪を繰り出す。

 いくつかの拮抗の末に猪は大きく空を舞った──それはさっきも見た。

 カーミラが次々と光弾を撃ち姿を覆い、瞬間強化を受けたライダーさんの短剣が足を貫き固定する。

 狙うは一点のみ──礼装から溢れた光が体を包み衣装を黒い袴へと変える。

 きつく絞られた弓から鋭い一矢が放たれた。

 矢は頭を傾け避けようとしたヘラクレスを追尾するように目玉を貫いた。

 苦悶の叫びが上がった瞬間俺たちは天馬へと飛び乗った。

 天馬がちょっとお前ら重たいよみたいな顔で見てくるが非常事態なんだし許してほしい。

 そんじゃあまったなぁー!と空を滑空してたら光が身体を掠めていく。

 あの魔女か──

 どこまでも追尾してくるそれをカーミラが弾くが、速さのない今の俺たちは良い的で次々と降りかかってくる。

 それを何とか凌いでフラフラと逃げるがゴォ! と跳んできた大剣が天馬ごと俺達を勢いよく吹き飛ばした。

 あまりの衝撃で視界がぐらつく。雨のように降りかかる魔術が俺の視界を埋め尽くす。

 最後に見たのはカーミラの、血に塗れながらもしかし、綺麗な背中だった──

 

 

 潮風が頬を撫でる。心地の良い揺れが身体に響く。

 俺は……俺たちはまたしても船の上にいた──といってもあの船ではない。

 何となく気の合いそうな変態のおっさんが船長と呼ばれている船に俺たちは乗っていた。

 雨のように降る魔術を全て一人で受け止め相殺したカーミラは姿を消し、天馬とライダーさんは気を失った俺を引っ掴んで命からがら逃げ伸びたのだ。

 やり直さないのか、と問われればそれは既に試したと俺は答えよう。 

 いないことに気づいて俺はすぐに喉を掻っ切った。

 だけれども気が付くとそこは穏やかな風の吹く船の上。

 俺はまたロード場所を更新したって訳だ。

 全くくそったれな現実だ。

 だが、まあ、くそほど気に入らないが、仕方ない。

 これからの事態に備えて令呪を勿体ぶらなきゃ良かったとか、幾度も後悔するがそれも意味はない。

 カーミラがいたから今生き残れてると前向きに考えなくては。

 まずはドクターと連絡を取るか、そう思ったところで通信機器がダメになっていることに気づいた。

 ちょっと洒落にならないんですけど……

 通信部分だけが丸ごといかれてる感が……絶対に許さねぇあのくそ魔女……

 これからどうしようかと考えを巡らせていたところで船長──黒ひげを見る。

 そう、黒髭だ。真名:エドワード・ティーチ。恐らく世界で最も有名な海賊。

 そんな化け物をまさかスマホで買収できるとは思わなんだ……俺の秘蔵の画像フォルダが火を吹きまくってしまったな……

 そんなこんなでするっと馴染んでしまったがこれからどうするべきか。

 通信系がおじゃんになってしまった今、立香くんたちに行動先を合わせることすらできない。

 合流もできないしライダーさんの回復もしたいししばらくは黙って成り行きに身を任せるか。

 

 

 船には黒髭以外にもモブな船員たちと四人のサーヴァントが乗っていた。

 掴みどころのない飄々とした感じで質問に一切本音で答えることのない槍のおっさん。

 ナイスバディなねーちゃんの海賊、アン・ボニー。

 小柄なカトラス使いの海賊、メアリー・リード。

 何か血を啜ってる斧をブンスカ振り回す狂人、エイリーク。

 因みにアン・ボニーとメアリー・リードは二人で一人のサーヴァントだとかなんとか。

 アン・ボニーの主武装はマスケット銃(一撃が馬鹿みたいに重い!)だしそのコンビネーションは目を見張るものがある。

 正直敵対することにならなくて心底安堵している。 

 強さはもちろんだが単純に頭数が違う。戦闘どころかただの虐殺になってしまう。

 といっても最後には殺し合うはめになるんだろうなぁ、きっと。

 まあでも今は一応の協力関係を結べてるし問題ないかなって。

 未来のことは未来の俺に任せりゃいいんだよ。

 ところでさっきから黒髭がエウリュアレたんはぁはぁ……とか言ってるんだけど普通に気持ち悪い。

 因みにその名を聞いた瞬間ライダーさんが下姉様……!? とか言ってたし多分ステンノみたいなやつなんだろう……

 

 

 何か……地味に快適……。

 飯は美味いし何だかんだこの船の連中は面白いやつらばかりだし付き合いが良い。

 端的に言うなら俺は馴染んでいた。

 いやだって戦闘になっても味方多いから死なないし……サーヴァント多いから不意の攻撃も事前に潰してくれるし……

 入ったばかりの俺とライダーさんともコンビネーション抜群だし……

 ぶっちゃけ今までの特異点の中でもダントツで安全っていうか安心っていうか……

 夜中とかバカ騒ぎしながら酒飲み大会とかやって笑い転げてられるし……

 ただ槍のおっさんが何だか怪しい。いや怪しく見えているのは俺もなんだけどそこは置いといて、だ。

 今いち掴みどころがなくて飄々としている辺り怪しさの塊でしかないわけだ。

 そんでもってその怪しさの塊がこの船には二人ほどいた。

 それがおっさんと……黒髭だ。

 何故黒髭かと言われればそりゃお前全てにおいて胡散臭いからとしか言いようがない。

 確かに彼の放つ言葉は全て本心だろう、だけれどもその本心だけで動くなんてのは馬鹿げてる。

 もし黒髭がそんな男だったならばあんな大海賊にはならなかっただろう、そう思うからこその疑惑だ。

 と、まぁそんな感じで船旅は進み俺たちはエウリュアレが逃げた先の船へと先制攻撃を仕掛けた。

 って立香くぅぅぅぅんん!? じゃなくて立香ちゃぁぁぁぁんん!?

 

 

 砲弾が幾つも敵船へと突き刺さり爆音を上げる。

 横づけした船にモブたちが雪崩れ込むように相手の船に乗り込み場は混戦と化した。

 まあ今しかないよね。

 協力関係即破棄だぜ! と黒髭側のモブの頭を殴打した瞬間槍が俺の左胸を貫いた。

 

 砲弾が幾つも敵船へと突き刺さり爆音を上げる。

 やっぱあからさま過ぎたかな……

 槍のおっさん音も無く俺の急所を狙うとかこれ間違いなく警戒されてたでしょ。

 おっさんから離れて俺はモブへと紛れながら立香ちゃんと合流、後ろから援護として魔術を放った瞬間ピストルの弾が俺の頭を貫いた。

 

 砲弾が幾つも敵船へと突き刺さり爆音を上げる。

 うっそだろあの距離で当てるとか黒髭化け物かよ……

 全身を魔術で強化する。礼装はなるべく使いたくなかった。手札はあまり見せたくない。

 そこらのモブよりずっと早く駆け抜けマシュの盾の後ろへと転がりこんだ瞬間、銃弾が目の前を撃ち抜いた。

 あ、あっぶねぇ……馬鹿かよ狙いが完璧すぎる。

 ただ完全に合流した以上今回は生存ルート確定だぜ、そう思った瞬間マシュの盾が大きく跳ね上げられた。

 そこには小柄な女性──メアリー・リード。

 ライダーさんの短剣とカトラスがぶつかり合って甲高い音が響いた。

 そんな中俺は素早く礼装を展開した。いやもう節約とか言ってらんないよね! 白の道着、部活なんかで良く見そうな弓矢が現われる。

 だってメアリーが来たってことは──展開された弓から矢を放つ。必中の呪いがかかったそれは音を超えて届いてきた強烈な銃弾とぶつかり合って弾けた──アンが狙ってきてるってことだから。

 道着なんて着慣れてないんだから少しは手加減しろよ! なんて叫びながら矢を穿つ。

 今更だけど矢で銃弾を相殺できる辺りやっぱ礼装ってすごいわ。

 ただこのままならダメっぽいなーと周りを見た瞬間銃弾が胸を貫いた。

 

 砲弾が幾つも敵船へと突き刺さり爆音を上げる。

 モブの銃弾ですね……やっぱ混戦状態だと一対一(二対二?)はダメっぽいなこりゃ……

 上手く撒かなくてはならない、しかしその方法が完全に迷子だ。

 いやだって無理でしょ……

 どうすんだよこれ、常にライダーさんに引っ付いてるか? いや、それも得策じゃない。メアリーが来るなら完全に邪魔になる。

 ではマシュは? アルトリアは? マルタは? ぶっちゃけ無理。

 エイリークと槍のおっさん、後は黒髭モブ海賊どもが倍以上いるのだ。

 宝具を撃てばと言うがそんな簡単な話ではない。明らかにこちら側の船の耐久度が劣っている。船がもたない。

 詰みじゃね……? そう思いながらピストルの弾と矢をかち合わせた。

 ライダーさんが俺を守るように前に出た瞬間メアリーとの戦闘が始まった。

 同時に矢を放つ。高い金属音が鳴り響き視線が交差した。

 一発、二発、三発。

 さっきの焼き増しを見てるようだ。

 相殺させることなく記憶を辿って弾を避ける。

 いっそ接近戦に持ち込んでやる──!

 全魔力を足に回して跳躍、あちらこちらを駆けまわりながら黒鍵を展開して一気に肉薄した。

 瞬間轟音。幾つもの銃弾が俺の身体を貫いていた。

 うそやん……

 

 砲弾が幾つも敵船へと突き刺さり爆音を上げる。

 接近戦でも勝てねぇ! 勝てるビジョンが映らず頭がおかしくなりそうだ。

 畜生が。

 マシュの後ろに隠れて銃弾をやりすごしてからすぐ離脱。

 ライダーさんに先行してもらい、こちらに高スピードで迫って来ていたメアリーをカウンター気味に打ちのめす。

 そこからライダーさんに宙を勢いよく投げてもらう。

 場所も分かってるし見えてんだよ。

 素早く放った矢が鋭くアンの肩へと突き刺さり血が流れる。

 しかし同時にマスケット銃が俺の腹を撃ち抜いた。

 腹と口から血が垂れ流しになる。

 うん、無理。

 着地もままならず落ちた俺を銃弾は容赦なく撃ち抜いた。

 

 砲弾が幾つも敵船へと突き刺さり爆音を上げる。

 いやこれどうするべきなんだろうね?

 取りあえず一周回ったおかげか冷静になれた。

 サーヴァントと正々堂々ともいえる一騎打ちで勝てるわけがない。

 アルトリアとかに押し付けるか……? いやでもマシュもいたというのに執拗に俺を狙ってきたことからそれは難しいだろう。

 彼女らは彼女らで他と戦っている訳だし現実的ではない。

 いやぁ、本気で詰みですね……

 ライダーさんと二人で天馬に跨り空から矢を放つ。

 矢の雨を喰らいやがれぇぇぇ!

 まあ当然目立ちますから、蜂の巣にされたっていうか良い的だったっていうかね?

 

 砲弾が幾つも敵船へと突き刺さり爆音を上げる。

 だめだろこれもう……

 アンとメアリーに狙われず槍のおっさんからも離れた所へ……

 そんな場所を求めて走り抜けてたら血を啜られた、無念。

 

 砲弾が幾つも敵船へと突き刺さり爆音を上げる。

 よし、諦めよう。

 今回ばかりは力でのごり押しもできないのだ、どうしようもない。

 俺は黒髭の船から降りず甲板で魔術を使う。

 この距離なら繋がるはずだ。

 軽くノイズ混じりだが立香くんと念話が繋がる。

 こちらの状況とあちらの状況を軽く交換して今後の方針を決める。

 といってもまあ俺がこっちにいて立香君はあっちで動くからよろしく、程度なのだが。

 ライダーさんにも話を通し、なるべく戦いには積極的に出ず、アンへの攻撃を弾いてる間に戦いは一旦の終了となった。

 あちらが撤退していく。アンが船底に穴を空けたのだがそこを防ぐようにあちら側のサーヴァント……アステリオスと呼ばれていた巨人が船を持ち上げ逃げていったのだ。

 理不尽なまでに早いそれに無理に追いつこうとせずに方角に当たりをつけ、黒髭はスピードを少しだけ落とした。

 負傷者が多いのだ、数で勝ってはいたがあちらも英霊が多かった。だから少々の休憩時間を黒髭は設けた。

 といっても本当に少々なのだが。

 ところでエイリークがいつの間にかやられてたんだけどマジで何の活躍も見れなかったな……

 

 

 黒髭の船──女王アンの復讐号(クイーン・アンズ・リベンジ)は英霊が乗れば乗るほど船としてステータスが上がるものらしい。

 船そのものから膨大な魔力を感じるが、やはりエイリークがいた時と比べ明らかに性能が落ちている。

 さして気にするほどでもないがすぐにわかってしまう程度には、だ。

 なるほどね、と今後の予定を立てようと俺は四苦八苦していた。

 出来ることなら俺はあっちの海賊の姐さんと黒髭には協力してほしいのだ。

 そして俺が最初に会ったあいつ、あの腹立つ金髪をリンチしてほしいのだが如何せん証拠がない。

 ついでに槍のおっさん怪しすぎて迂闊に話せない。

 あっちは立香くんが説明すりゃ何とかなるかもしれんが黒髭がなぁ……欲望に忠実過ぎてなぁ……

 いや、欲に忠実なのは確かだがそれだけでもないか。

 あの髭見かけや言動に反してあまりにも思慮深く、狡猾だ。

 戦闘時だろうが平時だろうが常にピストルを手から放さないのを見ればそんなのは一目瞭然だ。明らかに俺と槍のおっさんを警戒している。

 ……まあ警戒されてるのは撃ち殺されてるし分かり切っているんだけどネッ。

 

 

 そんなこんなで二回戦目スタートである。まだ考えまとまって無いんだけど……

 しかも何か相手さんの船超ごつくなって……何か見知った素材が船に大量に使われてませんかねぇ……

 あ、あれってもしかしてワイバーンさんとドラゴンさんの鱗じゃ……

 それ以上考えるのはよすんだ、と言わんばかりの衝撃が船体に響く。

 ギラリと輝く竜角が船体に大きく傷をつけていた。

 かなりの衝撃だけど、それじゃまだまだこちらを抑えるには──そう思うと同時に前方から桃色の矢が降りかかる。

 同時に後方で激しい爆発音と熱風が吹き荒れた。

 弾薬庫を爆破された──?

 ふと足元を何が駆け抜けるの感じて目で追えば動く熊……の人形?

 白い長髪の女性にキャッチされていた。

 何者だよあいつ……呆然としている内に黒髭とドレイク(さっき名乗ってた)は大きく火花を散らし始めた。

 

 

 桃色の矢が降り注ぐ。

 当たったら何かやばそうだ、とギリギリで躱し、どうしようかと周りを見た瞬間剣が胸から顔を覗かせた。

 は……?

 

 

 桃色の矢が降り注ぐ。

 まさか裏切る前に裏切られるとは……

 あの矢が当たったら寝返るのか……?

 当たっていくやつを観察しながらモブどもを海へと蹴落としていく。

 あの矢──―刺さったら寝返るというか、エウリュアレの奴隷になるのか……

 最悪だな、と思うも既に宝具は終わっていてこちらの戦力の三分の一は宝具の効果で魅了されていた。

 うわめんどくさ……というか完全に相手のペースじゃね?

 遠慮することなく二人のモブを海へと叩き込んだ瞬間一発の銃弾が頭を撃ちぬいた。

 

 

 二人の男を海へと叩き落す──瞬間大袈裟に体を斜めへ倒しスライディングする。

 銃弾が頬を掠める。つうっと血が垂れ落ちた。

 銃を撃った男の顔面を殴り飛ばして銃を奪い、そのまま全力の蹴りで海まで飛ばす。

 ザボンと派手な音が立つと同時に銃を抜いた。

 狙うはアン・ボニー……を狙うアホども。

 鮮やかに足を撃ち抜き全員転がしていく。

 英霊にパンピーが敵う訳ないんだから諦めやがれ。

 ついでに好感度稼ぎにもなる。いや稼いだところで何だけどまあ上げておいて損はないし?

 いや上げて落とすとかしかねないんだけどまあ、それはそれ。

 そんなアンと不意に目が合うとぱっと笑う。可愛いかよ。

 少し顔が赤くなるのは仕方ないと切り捨て、槍のおっさんの少し後ろを常に陣取り続ける。

 因みにライダーさんは常に俺の隣である。というかむしろ担がれてるまであるね。

 さて、どうしようかな。

 ライダーさんに担がれたままモブを叩き落して思考を巡らせる。

 黒髭に味方するかドレイクに味方するか。

 個人的には和解でもしてくれた方がありがたいんだけどな~。

 そんでもってあの金髪たちと戦ってくれたら最高なんだが、残念ながらそんな上手く事は運ばないのよね……

 大体ドレイクはまだしも、黒髭とか冗談抜きにエウリュアレ狙ってるからね? 止めようがない。

 まあここは倫理観に基づいてドレイク……というか立香くんの味方かな。戦力も多いし。

 そうと決まれば―と行動を起こそうとした瞬間銀の槍が体を掠めた。

 おいおい……怖すぎだろおっさん……

 警戒はしとくもんだねぇとかヘラヘラ笑いながら言ってんじゃねぇ……よ!

 ライダーさんの短剣と槍がぶつかり合って軽く押される。

 武器の相性が悪いな。というか槍とか万能すぎない?

 概念礼装を纏い、目を細めて狙いを定め、矢を放つ。

 必中の呪いがかかったそれは風を穿ちおっさんへと迫り、そして弾かれる。

 ライダーさんの攻撃もいなしている上で俺の連射も弾くとかマジで何者……

 ただそれでもライダーさんが攻め込まれていないところを見るに、どうやら防御特化のサーヴァントのようだ。

 それならまだやりようがある。何ならこのまま戦い続けて全体の終わりを待っててもいい。

 少なくともこのおっさんの動きを拘束できている時点で価値があるのだ。

 他のサーヴァントたちも各々の戦闘を始めていてこちらに攻撃は飛んでこない故に死ぬことも無い。

 モブくらいなら俺単体でも倒せるしな。

 

 

 ギリリッと絞った矢を放つ。本来なら一撃必中、そういった礼装であるにも関わらず難なく落とされる光景も見慣れてきた。

 果敢にライダーさんが駆け巡るも隙は生まれず千日手。

 時折俺にも迫る槍を即座に展開した黒鍵で弾き傷をつける。

 そんなぐだついた戦いは一際大きい銃声で終わりを迎えた。

 煙が上がっていたのはドレイクの銃口。黒髭は胸を抑え、血を流して膝をついていた。

 黒髭の負けか──ふとアンとメアリーの姿を探せば二人して捕縛されていた。

 まあサーヴァントの数的にも負けてたしこんなとこかな。

 おっさんも降参の意を示すように両手を挙げていた

 今回は選択をミスらなかった、そう心中でガッツポーズを決めた瞬間、強烈な音とともに槍が宙を駆けた。

 行き先は──黒髭の頭ど真ん中。

 身動きも取れず周りの隙をついたその一撃は誰にも阻まれることがなく──しかして当たることはなかった。

 黒髭があり得ない動き、速さで躱したのだ。しかしそれは彼の意志ではない。

 施行されたのは魔術礼装・カルデア──三つ備わった礼装魔術の内の一つ、緊急回避。

 誰がやったかっていえばまあ、俺だよね。

 礼装にセットされてる魔術が自分の味方にしか掛けられないとか誰が言った訳? って話よ。

 いや思い付きでやったことだから正直俺が一番ビビってるんだけどね? ほら、結果オーライって言うじゃん!

 あまりの勢いで船の端っこに吹っ飛び体を打ち付けているがまあそれはそれ。気にしないでほしい。

 驚き目を見開いてこちらを見るおっさん。 

 満足げにどや顔をかました瞬間ライダーさんごと青紫の光に身を焼かれた。

 

 

 

 黒髭があり得ない動きで槍を躱す。

 おっさんが勢いよく俺へと振り向いた。

 同時にライダーさんを蹴り飛ばして横へと飛び退いた。

 轟音、衝撃、明滅。

 青紫の光が辺りを散らした。

 その先にはいつぞやの菫色の魔女が杖に腰掛けふよふよ浮いていた。

 どうして避けられたのか分からない、と言った風貌でこちらをねめつけたまま杖をふるう。

 色とりどりの魔弾があらゆる角度から迫り、同時に背後から幾つもの銃声が響き渡った。

 ドレイクだ。変則的な動きをする魔弾全てに当てるその技術は流石としか言えないだろう。

 助かったぜ! なんて叫びながら後ろに下がろうとした瞬間、嫌な声が、微かに聞こえた。

 天を、地を震わせ、英雄さえも怯ませる暴虐の声。

 まあ菫色の魔女(こいつ)がいるってことは当然いますよねー。ため息が、自然とこぼれた。

 

 轟音と共にモブ達の悲鳴が上がり船が激しく揺れ、軋む音が響いた。

 そこにいたのは──大英雄ヘラクレス。

 まあやはりというか何というかって感じだけどどちらにしろ絶望感は変わらないっていうのが一番やばいよね。

 ヘラクレスの姿を捉えた瞬間全員が息をのみ、己のマスターを守るべく動いた。

 白い長髪の女性は動く熊の人形を抱きかかえ、ライダーさんは俺を抱き寄せ、マルタが突き飛ばすように立香くんを後ろに隠し、その二人を守るようにマシュが盾を上げ、セイバー……アルトリアが剣を構え、そしてマシュ(・・・)が激しい勢いで吹き飛び壁へと体を打ち付けた。

 早すぎる──瞬間移動もかくやの速さでヘラクレスは立香くんの目の前へとたどり着いていた。

 無言で概念礼装を起動する。ヘラクレスの武骨な剣が振り上げられた。

 マルタが十字の杖をぶん投げる。アルトリアが絶叫と共に加速する。

 魔女が杖を振るう。ドレイクがその邪魔をした。

 ズガァァァアアァァン! と派手な音と木片が飛び散った。

 転がるように立香くんが俺の隣へと飛び込んでくる。

 緊急回避マジ万能……立香くんもよくあの状況で最適の判断が出来たな、と一言かけて礼装を展開しようとして体が吹き飛んだ。

 芯まで衝撃が響いて息ができない。

 遅れてきたように肉が抉れて骨が砕けていく。

 そのまま意識が暗転した。

 

 

 転がるように立香くんが俺の隣へと飛び込んでくる。

 瞬間礼装を展開した。

 その礼装は────幻想種。

 二頭の青白い稲妻を纏った牛は見事ヘラクレスを押しとどめ、はじき返した。

 三重の吠え声が響く。

 剣が舞い、血が跳ねる。

 幻想種の首が宙へと飛んだ。その隙を縫うようにアルトリアの剣が閃き──激しく弾かれた。

 続けて二合三合と切り結び強く弾かれたアルトリアを守るようにマルタの杖が振りぬかれた。

 その鋭い一撃は確実に下顎を打ち抜き、そしてヘラクレスは何事もなかったかのように拳をぶち込んだ。

 規格外過ぎる。鈍く、派手な音と共に吹き飛ぶマルタを目で追いながら新しい礼装を展開する。

 直後に飛来してきた光がライダーさんの手によって砕かれ視界が青紫に染められた。

 あ、何か嫌な予感がする、とライダーさんの後ろに隠れた瞬間銀の槍が胸を貫いた。

 真っ赤な血が口から漏れる。 

 お、当たったか~ラッキーなんて言ってるおっさんを最後に意識が落ちた。

 

 吹き飛び全身を光の粒子に変えるマルタを目で追いながら礼装を用意する。

 鮮やかな色の光に視界を覆われた瞬間礼装を展開。

 ──この円こそ不動の思想──

 不意にどこからか不思議な声が聞こえ、ドーム状の光の盾が三重に展開された。

 一枚、二枚と破られ三枚目、ギリギリで槍を防ぐ。

 高鳴る鼓動を抑え、汗と血で濡れた手を開き口を開く。

 令呪をもって命ずる──―!

 天馬の嘶きが、天へと届く。

 光へと姿を変えた天馬とライダーさんはおっさんを巻き込みヘラクレスへと盛大に衝突した。

 

 轟音、衝撃。

 血飛沫が跳ね、上半身の消えた死体がどさり、と崩れ落ちる。 

 周りがわっ、と歓喜の声を上げるのを無視してライダーさんは鎖でそれを持ち上げ海へと投げ飛ばした。

 これで多少の時間は稼げただろ、安堵の息を漏らした瞬間魔女がヘラクレスを持ち上げる。

 困惑の声が上がるのと俺が逃げろと叫ぶのは同時で、それを掻き消すように巨大な吠え声が空を揺らした。

 あ、これマジやっべっぞ。

 死んだ目を晒しながら早く船を出せと振り向いたそこには、黒髭から金の盃を抜き取り小舟を盗んでいくおっさんが。

──聖杯!? 黒髭が持っていたのか?

 奪い取っていた銃を放つも見事に外し、代わりに魔弾が降り注ぐ。

 掠っただけで身体がゴムボールみたいに跳ねて転げ行く。

 ライダーさんが守ってくれようとするが間に合わない。

 ああ、もう本当に、ツイてねぇなぁ。

 

 外した銃弾の代わりに空から魔弾が降り注ぐ。

 え、これどう躱せって言うの?

 概念礼装は既にネタ切れ寸前なんですけど……

 華麗(主観)なステップを踏みながら躱すも一発掠り吹き飛ばされてからハチの巣に。

 いや無理ですやん……

 

 外した銃弾の代わりに空から魔弾が降り注ぐ。

 黒鍵を両手に展開して防ぎ、受け流す。。

 一発防いで体が軋み、二発目で黒鍵が砕け散った。

 続く三、四、五。

 どれも不規則な軌道を描きながら俺の体へと吸い込まれるようにぶち当たった。 

 視界が明滅する──

 

 外した銃弾の代わりに空から魔弾が降り注ぐ。

 何だか視界が歪む。

 足元が覚束なくて、すぐ眼前に迫るそれを避けることすらかなわない。

 鈍い音と共に腹へと当たり、踏ん張ることすらできずに宙を舞った。

 またハチの巣だなー、と鈍痛を訴える頭でそう考え覚悟を決めるまでもなく魔弾は俺へと集まり、しかし寸での所で当たることはなかった。

 代わりに俺の腹には鎖が結びついている。

 なるほどこれが生存ルート……!

 無駄に頑張らずに流れるままに身を任せるのが正解とかやばくね……?

 ジャラジャラと引きずられ素早くライダーさんの背中へと飛び乗る。

 さて、次はどう来る?

 青い顔で魔女を睨みつけたその先には豪奢な船が一隻。

 あっ、金髪のご登場ですやん。

 よく見れば小舟を盗んだおっさんが乗り込んでいる。

 やっぱり奴等の一味だったかぁ……

 まあ予想できたけどどうしようも無かったよね、と言い訳しながら今なら逃げられると判断する。

 というか今まともにぶつかり合ったら確実に負ける。ただでさえ殺しあったばかりで消耗している者しかいないんだ。

 そんな中で無限復活(仮)のヘラクレスさんとやり合うとかマジむりぽ……

 消えつつある黒髭の船から立香くん達の船へと駆け込み急速前進。

 ──しつこい。金髪がエウリュアレがどうのアークがどうのと喚き立て、躍起になってこちらを追ってくる。

 相手の方が、少し早い。

 ありったけの砲弾を撃つが当たらない。当たっても意味を為さない。

 困ったな、おい。

 ヘラクレスが力強く跳躍する。アステリオスがそれを迎え撃つ。

 力だけなら拮抗、技の差でアステリオスが押されている。

 武器が重なる度に場が揺れて、アステリオスが苦悶の声を漏らす。

 どう手を出したものかとライダーさんに指示を出そうとした瞬間、あちらの船が一瞬、光った。

 衝撃と、生暖かい血液。

 一本の槍がヘラクレスごとアステリオスを貫いていた。

 派手に飛び散った血が辺りをぬらりと汚す。

 エウリュアレが悲痛な叫び声を上げ、アステリオスが立香くんの名を必死に呼ぶ。

 撤退してください──アステリオスを助ける選択をせずに立香くんはそう言った。

 再生途中のヘラクレスにしがみつきながらアステリオスは何度も”ありがとう”と言いながら海へと落ちていった。

 

 

 何とか逃げ切った俺たちは傷を癒しながらも金髪(ドクター曰くイアソンだとか)の喚いていたアークとやらを探すため片っ端から島を巡っていた。

 身体を癒していたのはドレイク側だけでなく連れてきたアンやメアリー、黒髭もだが。

 一応こちらが勝利したということになったので彼らは捕虜……の予定だったが、あれだけの強敵が相手故に『傘下』として戦うことになったのだ。

 といっても上下関係がはっきりとされたわけでもなく、また同じ船故に割と気ままに過ごしてた。(ついでにすっかりと周りに溶け込んでいた)。

 まあ、裏切り者ー! と三人にはぽこすか嫌味を言われたりもしたが、そこまで根に持たれることもなく済んで正直助かった。

 というか黒髭はスマホをちらつかせれば一瞬で手のひらクルクルでちょろかったとも言える。

 因みに黒髭はこの時代の特異点の原因ではなかった。(少しほっとしたのは内緒だ)

 そんでもってどうしてアークを探しているかと言えば、アークというのはざっくり言えばパンドラの箱みたいなものらしい。

 まぁ要するにあまり良いもの()()()()

 それを何に使うのか不明ではあるが、どうせ悪用されるのだからその前に先に見つけてしまおう、となったのだ。

 まあ中身が災厄とか言ってる時点で個人的には関わりたくないんですけどね……

 というか徐々に収まってきてはいるがそれでも先ほどループしてから眩暈や吐き気が酷いのだ。

 だからメアリーよ、そうやって人の体をバシバシたたくのはやめなさい。

 アンも人の体を揺するのはやめるんだ!

 ヘルプミー、ライダーさん……とじゃれていたら一本の矢が熊──オリオンというらしい、因みに白の長髪の人はアルテミスだとか──の頭に突き刺さった。

 それで「いてー!」で済むお前が羨ましいぜ……!

 俺ならあれよ? それを回避するルートにたどり着くまでに4~5回は死ぬからね?

 いやでも死なずに痛い思いをし続けるのはそれはそれで地獄か……? 何て思っていたらこれ矢文だ! とオリオンが叫ぶ

 ガサゴソとして結局開けられず泣きそうな顔をしながら手渡しアルテミスが手紙を開く。

 彼女曰くすぐそこの島に彼女の知り合いがいるらしい。

 戦力が増え、情報も増えるなら行くしかないっしょ、と航路をそっちに向けるのであった。

 

 

 鬱蒼とした森の中、木々の隙間から矢が飛び声が響く。

 面倒くさい言い回しをしているがどうやらお前ら敵なの味方なのどっちなのサ!

 みたいなニュアンスである。めんどくさっ。

 取り合えずあの金髪野郎どもの敵ではある、と伝えると声の主は謝りながら出てきた。

 手に弓を持って現れたのはすらりとした細い体つきをして緑と金の混じったような色の髪を持つけも耳の女性だった。

 ……けも耳!?

 受け止め切れない衝撃に動揺していたらアタランテさん! と立香くんが嬉しそうに声を上げる。

 どうも知り合いらしい。

 流石立香くん……俺とは人脈のレベルが違った……

 僕にも紹介しておくれやす、と妙に下手に出ながら言ってみたら何こいつ……と蔑むような眼で見られたのは見なかったことにしてほしい。

 立香くんと彼女はどうやらフランスで知り合ったらしい。

 フランスでの思い出と言えば吸血鬼とワイバーン、後はアイドルくらいしか記憶にないのであまり思い出させないで頂きたいですね……

 というかフランスでの思い出がこの三つってやばくね……? 何してきたのか本気で意味わからないんだけど……

 過去に思いを馳せて目を死なせてる横でアタランテはアルテミスのことを聞いて心に酷いダメージを負っていた。

 事情は知らんがどんまい。その内いいことあるって。

 そんな無駄なことを考えている内に話は終わっており、何故か緑髪の細い男が増えていた。

 何だか口調も物腰も丁寧なのだが何故か―こいつクズだぞ―と俺の直感が囁いた。何故だ。

 この男、ダビデというらしい。どっかで聞いたことあるな……そう思ったところで思い出す。

 元羊飼いの古代イスラエルの王か。巨人を打倒したとかいう。

 やっぱ逸話通り女好きなんだなぁとマシュに言い寄る姿を見て思う。

 ところで噂のアークはこいつが持っているらしい。というかこいつがいる所にこの箱あり、みたいな感じ?

 まあつまるところ契約の箱(アーク)とはダビデの宝具なのだ。

 効果は触れたら死ぬ。正確に言うなら触れたものを世界への捧げものとして死を与える。

 触れると死ぬとか何それやばすぎ……

 じゃあさっさとダビデぶっ殺して消そうぜ、と提案したらドン引き気味に「僕が消えてもこれは残るから……」と言われた、残念。

 しかも神霊(エウリュアレ)がアークに捧げられるとこの時代が死ぬらしい。だからこそ奴らはこの二つを狙っているのだとか。

 ……もしかして黒髭はこのことを知っていた……もしくはこの時代を守るためにエウリュアレを狙って……いや、保護しようとしていた……?

 聖杯も持っていたし何らかに勘づいていたのでは……?

 考えすぎかなぁ、と黒髭を見ると元気そうにエウリュアレに熱烈な視線を送っていた。

 間違いない。考えすぎだ。

 はぁ、とため息をこぼしてこれからどうするのかを聞く。

 アークも見つけたことだしまあ、やることは一つしかないのだがこれが最大の難関なのだ。

 魔女はいい、実際数で押せる。金髪も話を聞く限り雑魚らしい。おっさん―周り曰くヘクトール―もこの数なら押し切れる。

 問題はヘラクレスだった。

 全てにおいて規格外のやつは既にカーミラとマルタを一撃のみでリタイアさせているのだ。

 正直言って洒落になっていない。

 俺みたいなちょっと戦えるだけの雑魚ならまだしもサーヴァントを二騎だ。

 しかも少なくともあと10回は殺しても殺せないとかいう鬼畜設定。

 うーん、無理じゃね?

 アークに触れさせられればなぁ、とダビデが言うがどう触れさせるのかが問題になってくる。

 うーん、と皆が頭を悩ませる中ふと立香くんが閃いた!とその内容を口にした──

 

 作戦の内容は荒唐無稽。アホか、と俺が真顔でなったくらい発想がずば抜けていた。

 作戦内容はずばり! 敵をくそ挑発しまくってヘラクレスを誘き出す!

 立香くんがエウリュアレを担いでヘラクレスをアークまで誘導する!

 他のやつらは大体四か所に分かれて待機して立香くんが追い付かれないように適度にヘラクレスの邪魔をする!

 ────これだけである。

 やばくね? 何がやばいってこの発想もそうだけどサーヴァントたちが一斉にいいね! と賛成した辺りが最高にやばい。

 しかもちゃっかり俺もヘラクレスを邪魔する側に入れられてたのが最高にクレイジーだよね。

 滅茶苦茶早口で捲し立てて何とか立香くんのフォローという立ち位置に落ち着いたがあいつら一般人の俺を何だと思っているんだろうな?

 因みにライダーさんはもちろん俺の随伴である。

 

 遠距離攻撃を主とするオリオン(アルテミス)、ダビデ、エウリュアレの宝具連続開放。

 強力無比なその三射は島の近くまで迫っていたイアソンの船──アルゴー船へと一斉に降り注いだ。

 これで魔女やらヘクトールまで着いてきたら仕事量倍じゃきかないぞ……! と、どうかヘラクレスだけでお願いしますと手を合わせていたら最早聞きなれた英雄の声が響き渡った。

 あ、賭けには勝ちましたね。まあ死ぬ可能性もくそ高いんだけど。

 島の縁に集まっていた俺たちの前に勢いよくヘラクレスが降り立つ。

 さーて逃げるぞぉぉお!!

 エウリュアレを担いだ立香くんを守るようにオリオン(アルテミス)とマシュがヘラクレスの前に立ちはだかった。そして全力で逆方向へと逃げていくダビデ。

 背後で強烈な戦闘音が鳴り響く。

 しばらく走り続け、森へと入ったとこで金属音が聞こえなくなったな、と思ったら思っていたより近くにヘラクレスがいた。

 振りかぶられていた剣をライダーさんが短剣で受け流した。

 激しい摩擦音と共に流しきれなかったパワーが直にライダーさんへと伝わり勢いよく吹き飛んでいく。

 もう振り切って追い付いてきたのか──!?

 立香くんの背を押し既に展開していた概念礼装の木刀を身を守るように構える。

 恐ろしい速さで振り切られた剣は木刀を圧し折り俺の体を潰すように断ち切った。

 

 

 激しい摩擦音と共にライダーさんが勢いよく吹き飛んでいく。

 おいおいこっからかよ。

 礼装魔術である瞬間強化を発動させ力強く地を蹴った。

 躱しきれずに俺の左腕が血を吐き出しながら飛んでいく。

 あまりの痛みに眩暈がする。

 木刀を支えに何とか立ち上がった瞬間俺の意識は闇へと落ちた。

 

 

 激しい摩擦音と共にライダーさんが勢いよく吹き飛んでいく。

 絶体絶命☆

 瞬間強化をかけながら木刀を鋭く投擲する。

 ヘラクレスが煩わしそうにそれを引っ掴み握りつぶすと同時に素早くライダーさんを回収した。

 応急手当はさっき使ったばかりですぐには使用できない。

 ああ、もう本当にままならない。

 振りぬかれる刃を目にしたのを最後に俺は意識を飛ばした。

 

 

 激しい摩擦音と共にライダーさんが勢いよく吹き飛んでいく。

 そういえば緊急回避があるじゃねぇか!

 そう思うと同時にせめて後三秒で良いから前に戻らねぇかな……と切実に思う。

 そしたらライダーさんを回避させられるというのに……

 先ほどと同じように木刀を投げ、躱し、折られる。

 ライダーさんを抱きかかえ追ってくるように振られる剣を緊急回避で無理やり避けた。

 半ば強制的に動く身体は豪快かつ的確に振るわれた剣を避けきり、幹に当たることでその動きを止めた。

 マジ欠陥魔術だよねこれ……いやすごいんだけどさ……

 まあこうなると次の一手が出せないよね、と俺は死を受け止めた。

 

 

 激しい摩擦音と共にライダーさんが勢いよく吹き飛んでいく。

 完全に同じ動きで強化をしようとして、ふと背中が猛烈に重いことに気づく。

 一体何が──? 疑問は発生した瞬間降りかかってきた言葉で解消される。 

 エウリュアレだ。何故か俺がエウリュアレを背負っていて彼女に先を急がされている。

 おいおいおかしいだろ、完全に混乱しきった頭を整理させようと周りを見れば近くにいたのは橙の髪をした少女──立香ちゃん?

 ははぁなるほどね。

 確かに少女が小さいとは言え人一人担いで走り続けることは非現実極まりないわな。

 強化をかけた体で迫る凶刃をギリギリ、運よく避けて急いで立香ちゃんを抱き上げて走りだす。

 いざとなったら彼女の緊急回避で避けてもらうためだ。

 全力で全身に魔力を流して走り抜く。

 振り落とされた剣を理不尽な動きで躱す。

 つんのめるように前方に飛び、立香ちゃんを投げ出し肩にいたエウリュアレも投げ飛ばす。

 木刀をフルパワーで投げ飛ばす。

 近接用とは言え必中のそれは乱回転しながらもヘラクレス目掛けて飛んでいき、しかしあえなく叩き折られた。

 というか多分、突進気味に迫られてるせいで弾かれただけだ、それだけで礼装は砕け折れた。

 当然、勢いを殺すことなく向かってくる彼は、しかし真横からの衝撃に足を止めた。

 天馬──そしてライダーさんだ。

 急いで俺のそばに来るライダーさんと天馬目掛けて振るわれる剣を余裕を持って眺める。

 何故なら時間稼ぎは十分だったから。

 接近してくるヘラクレスの刃を暴風が受け止め黄金の剣を打ち払った。

 設定していた第二ポイント。アークを置いた洞窟の手前にある森林。

 ちょうどアタランテたちと出会ったその場所にいたのは現カルデアにて最強のサーヴァント、アルトリア・ペンドラゴン。

 立香ちゃんが嬉しそうにアルトリア! と呼ぶと彼女は早く先へ、と一言のみ。

 マジかっこよすぎるんだけど……

 彼女一人に任せるのは少しばかり不安だがカルデア内で一番の実力者だ、死ぬことはないだろう、と俺たちは必死に駆けた。

 

 

 やっとの思いで森を抜け後は一直線に突き進むのみ。

 エウリュアレを背負っているせいか極度の緊張のせいか息切れがだんだんと酷くなってくるのを魔術で誤魔化す。

 ついでに立香ちゃんに強化の魔術をかけて後ろに目をやる。

 ──ヘラクレスだ。

 想定よりも少し早い、だけれどもまぁ、間に合うよね

 一つの人影木から降り立ち剣を振るう。それに合わせるように続けて怒涛の如く銃声が鳴り響いた。

 ドレイク、黒髭、アン、メアリーの海賊チーム!

 一緒に戦うのはまだ数度目だというのに抜群のチームワークで上手くヘラクレスを相手取っている。

 流石だなぁ、と息を漏らして先に進んだところで一本の槍が俺の体を貫いた。

 は、ぁ?

 

 鋭く迫る人影と槍を想定よりずっと身軽に躱し、続く第二撃をライダーさんが弾き人影は後方にかなりの距離を開けて下がった。

 なんでこんなに体が軽いんだ、と自分の状態を確認すれば肩にエウリュアレはおらずまた、隣には黒髪の青年が苦しそうに立っていた。

 立香くん──。

 ああもう頭がおかしくなりそうだな、と頭を現状を整理しようと頭を回す。

 

 作戦通りなら俺たちの現在位置は第四ポイント。

 本当ならば最初の猛攻を防いでから上手く離脱したオリオン(アルテミス)とマシュが別ルートから一気に回り込み、元々待機していたアタランテと共にヘラクレスを足止めする予定だった。

 しかし今俺たちの足元には身体を光に溶かしていくアタランテが倒れこんでおり、マシュとオリオン(アルテミス)は既に戦闘不能寸前まで追いやられていた。 

 ──―ヘクトール!思わず声を荒げてそう叫ぶ。

 そう、ヘクトールだ。相も変わらずへらへらと笑いながらこの戦士は俺たちの前へと立ちはだかっていた。

 作戦はバレていた……いや、予測されていた、か?

 正確には『何かあるかもしれない』という推測に基づいて逆方面から乗り込んで来ていた、かもしれない。

 立香くんに隙を見て先に行け、と伝えてライダーさんと目を合わせる。

 こういう緊急時用の俺とライダーさんだ。

 何だかんだヘクトールとは俺が決着つけたかったところもあるし丁度良い。

 ノーモーションでライダーさんの魔眼が発動して動きを止める。

 立香くんが駆けだすのをカバーするように礼装を発動した。

 一本の木刀が形成されてヘクトールの槍とぶつかり合う。

 勢いよく打ち合い更に来る連撃を木刀が勝手に反応して俺の腕を操るように打ち合わせた。

 必中の礼装ってくそ便利だよな、と激しく腕が痛むの耐えながらそう思う。

 マスターである俺がサーヴァントの攻撃を受け止められるとは思っていなかったのか、ヘクトールは動揺して少しの隙を作り出す。

 それを見逃すほど立香くんは間抜けではない。エウリュアレと共に脇を抜けていく。

 それでも追おうとするヘクトールを桃色の一本の矢が邪魔をした。

 軽く舌打ちをしたヘクトールが勢いよく振った槍を木刀でガードし、受けきれずに後ろに弾き返される。

 ざざっと土を擦りながら礼装に施された魔術を開放。

 ──応急手当。

 緑色の光がマシュとオリオン(アルテミス)を包んで回復させる。

 もう直ヘラクレスもここに来る頃合いだ。

 混戦だけは避けたい。

 二人にこちらから向かい撃ってもらい、なるべく時間を稼いでほしいと頼む。

 こいつは俺とライダーさんでここから引き離す。

 ヘクトールは一人、しかもさっきまで三人のサーヴァントと戦った後のこいつであれば、ライダーさんとならやれるはずだ。

 立香くんには少しばかり足を止めても構わない、ゆっくり、確実にヘラクレスの視界に映り、上手く誘えるように移動してくれと伝えてもらう。

 

 

 槍と短剣がかち合い火花が散る。

 大きく円形に振り回されたそれを、限界まで姿勢を低くしたライダーさんが躱し、喉元へと短剣を突き出す。

 ごっ! と鈍い音と共に一発の蹴りが腹にめり込みライダーさんが唸ると同時に短剣が首元を切り裂いた。 

 血に視界を覆われ困惑するヘクトールに一頭の天馬が突進し、そのまま空へと持ち上げた。

 勢いよくこの場を離れさせられていくヘクトールが器用に槍を回して天馬へと突き立てる。

 甲高い悲鳴が上がり、暴れながらもフラフラと落下してくる天馬に無理に跨り降りてくるヘクトールにルーンの刻まれた石を投げつける。

 軽い爆音と光が混じり目を潰す。同時にライダーさんが高く跳躍した。

 さっきのお返しとばかりに放たれた鋭い蹴りは頭を的確にとらえて打ちぬいた。

 地に擦るように落ち、サーヴァントと同じように姿を消していく天馬に一言だけ謝った彼女は鋭い目線でヘクトールを見つめた。

 対してあっちはいやぁまいったなぁ、と言葉を漏らしてこちらを睨みつけていた。

 流石にしぶとい、というか今までの攻撃も全て急所をギリギリずらされている。

 ふっ、とライダーさんが姿を消すように動いた。

 気づいた時には既にヘクトールのすぐ目の前。だけれどもヘクトールは見事にそれに反応して見せた。

 ほぼゼロ距離の二人の間で槍の柄と短剣が交差しせめぎ合う。

 これはまた長引くかな、と思った瞬間ヘクトールの体が硬直した。

 石化の魔眼──!

 滑らかに動く短剣がヘクトールの首元へと吸い込まれていく。

 短剣は音もなくヘクトールの命を刈り取り地に伏せさせた。

 ヘクトールが天晴だ、とあの魔女──メディアに気をつけろよ、と言い残して体を空に溶かして消えた。

 

 

 さて、立香くんたちの後を追おうとすると同時に目の前にホログラムのウィンドウが開かれる。

 ドクターだ。一頻り俺とライダーさんの無事を確認した後に滅茶苦茶嬉しそうにピースサインをかましてきた。

 作戦は成功したってことだ。つまりヘラクレスは死んだ!

 やったぜ最高じゃねぇか! と三人で喜び合いながら合流するべく足を速めた。

 

 

 

 島の近くにまで来ていたアルゴー号へと砲弾を放つ。

 ヘラクレスとヘクトールが死んだと悟ったイアソンは慌てふためき逃げ出した。

 船が船だけにかなりの速度だ。弾を撃ち、矢を放つがどれもがあまり意味をなさない。

 ──だけどまあ、それは予想通りだよね。

 アルゴー船の前を阻むかのように一隻の船が水平線の先から現れた。

 女王アンの復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)。ドレイクとマシュ以外の全てのサーヴァントたちを乗せた最高の船の一撃がアルゴー号へと突き刺さった。

 激しい爆音と共に雨の如く矢が降り刺さっていく。

 アルゴー号の真ん中から一人の男の悲鳴が響いていく。

 ──こんな、こんなはずじゃなかった! 今度こそ理想の! 平和な国を作るはずだったのに! 畜生! 畜生!

 錯乱したかのように叫び続ける彼をメディアがあなたを守ります、と優しく宥め、そして聖杯をねじ込んだ。

 イアソンの体が捻じれ、醜い肉の柱へと姿を変えていく。

 その姿を見ながらメディアが言霊を紡いでいく。

 顕現せよ、七十二柱の魔神。序列三十──海魔フォルネウス。

 

 

 醜悪かつ巨大な黒々とした肉の柱が船に根付くように現れた。

 雲へと届くかと言わんばかりの巨体から質量の持ったガスのようなものがモブを取り込み爆裂する。

 場に動揺が走り、ドクターがその名に混乱し始めた。

 一瞬にして伝播した動揺はすぐさまパニックを呼んだ。

 サーヴァントたちが戦闘準備するも慌てる船員たちが邪魔で上手く動けない。

 不意に二丁の銃声が響いた。

 黒髭とドレイクだ。

 二人の偉大なる船長は声を高らかに上げた。

 銃が当たるなら倒せるさ!

 ここまでの分の借り、きっちり利子付きで返してやれ! と。

 一斉に落ち着きを取り戻すどころか、湧き立ち始めたモブを船室に蹴り込みながら、ライダーさんが呼応して勢いよく短剣を叩きつけるように突き刺し鋭く引き裂く。

 何だ、血もちゃんと赤いじゃないですか。何て言っちゃうライダーさん超クール……。でもその血をなめて嘔吐いてるのは超かっこ悪い……

 自分自身を囲むように爆発が起き真っ黒な色をした爆風が辺りに広がり、それを暴風が掻き消した。

 続いて二刀のカトラスが柱の至る所に付いている目玉を潰すように叩き切り、守るために動き出したメディアをアンの銃弾とアルテミス(オリオン)の矢が同時に貫いた。

 ま、ここまでサーヴァントが多ければどうにかなっちゃうもんだよね。

 船に張り付くようにあった根のようなものを各々が断ち切り、撃ちぬいていく。

 無差別に起こる爆発や衝撃をマシュの大盾とその宝具が避ける。

 船から切り離された魔神柱に二隻の船の砲弾が降り注いだ──。

 

 

 消えゆく間際、メディアが黒幕について言葉を漏らす。

 魔術師として最高峰まで上り詰めた彼女をもってさえ「勝てない」と言わしめ敗北を認めさせるほどの魔術師。

 だからこそ星を集めなさい、とそして続けて俺を見てあまり『それ』に頼りすぎると戻れなくなりますよと、そう言った。

 そして最後に彼女は狂った愛情をイアソンに向けながらあなただけは守りたかったと言い残して消えていった。

 

 

 徐々に船員たちが姿を消していく。

 終わりだ、この特異点は修正されたのだ。

 ずっと張っていた緊張が緩んで思わずしりもちをついた。

 ふと船首を見ればドレイクやエウリュアレ達と立香くんにマシュが別れを告げているしドクターはダビデと話し込んでいる。

 相変わらずどこの特異点でも深いコミュニティ作るなぁ、なんて思いながら後ろに倒れて寝転がる。

 同時に人影が俺の頭を覆った。

 ──黒髭。

 マジで今回は色々と世話になったな、ありがとう。と述べたらぐっと手を引っ掴まれて起き上がらされる。

 何だ、と上手く力が入らない足でプルプル立つとドンッと胸に拳を当てられ楽しかった、次もできるなら共に戦いてぇな、と良い笑顔で言われる。

 もちろんだ、と拳を当ててそう言いにやりと笑う。

 ついでに召喚された暁には存分に語り合おうでござる、なんて語尾に草を生やしながら彼はすぅっと姿を消した。

 あいつマジでどっからオタク知識仕入れてんだろ……疑問を抱えながら座りなおそうとしてまたも腕を引っ張られた。

 何なんだよ座らせろよ……そう思って前を見たらそこにいたのはアン・ボニーとメアリー・リード。

 次こそは財宝を手に入れるんだ、チャンスをくれるよね?

 当然、手伝ってくれますわよね?

 有無を言わさない迫力でそう詰め寄る二人。財宝も手に入れられず、あまり活躍できなかったのが悔しいみたいだった。

 勿論だ、と笑いながら腕をぶつけ合わせる。

 期待している、そう言い残して二人は消えた。立香くんたちも別れを告げ終わったようだ。

 涙ぐむ二人と俺を満面の笑みでドレイクは手を振りながら見送っていた。

 

 

 ──Order Complete──  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カーミラさんの扱いについては本当に申し訳ないと思っている。でも好きだよカーミラさん。

へへっ、こっそり文章整形等しました。
直したとは思うけどそれでも変なところあったらこっそり教えてくれな。

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