無限ルーパー   作:泥人形

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待たせたな(真顔
いやすまんて…ダリフラが…JustBecause!!が…モンハンが面白いのがいけないんだ…


魔霧に沈んだ街@無限ループ

 

 

 目を覚ますと視界に映るのは既に見慣れた、無機質な色をした天井。

 億劫さを投げ捨てる努力をしながら身体を起こし、うんと伸びをしてからいつものように手の甲をみる。

 そこには当然のように三画からなる真っ赤な紋様――令呪が刻まれていた。

 それを一撫でして本物だと確かめてから、やはりこれは夢ではないのだ、と嘆息しながらベッドから降りる。

 確認してからがっかりするのが習慣染みてきたな、と笑いながら真っ白な制服に腕を通した。

 今日は久方ぶりのミーティングだ。朝早くから会議とかちょっと全力で遠慮したいが上司の命令なら仕方ないよね、とまたもため息をつきながら俺は近未来的な扉をスライドさせた。

 

 ごっめーん待ったぁ?とブリーフィングルームの扉を開けば既に俺以外の全員がそろっていた。

 あ、マジで待たせちゃった感じ…? 

 すまねぇ、すまねぇ…と席に座った。

 そんな俺を苦笑いで見ながらDr.が良し、全員揃ったね!と話を始める。

 やはりというか何というか、話の内容は次の特異点を突き止めた、という内容だった。

 彼曰く次の特異点はロンドン。それも今までのように何百年も前というわけではない。

 19世紀。それでも100年以上は過去であるが今までと比べればかなり近代的といえた。

 出発は明日、と伝えられてミーティングは終了となった。

 急だな、とも思うが既に前回の特異点修復から二か月も経っていることを思えば当然ともいえた。

 俺たちにはもう半年ちょっとしか残されていないのだから。

 

 

 レイシフト専用のコフィンに入り、機械的な女性の声を聴きながら目を閉じる。

 相も変わらず俺の手には、ライダーさんの手が握られていた。

 多分全部終わるまで特異点に行くときはこうしてるんだろうな、と思いながら俺の体は過去へと溶けた。

 ――余談だが、ライダーさんは最近目にかけていた帯を外して露出が増えた。

 お陰で目のやり場に困る今日この頃である。

 

 

 

 そこは霧に閉じ込められた街だった。

 周りを見渡して、いつものように立香くんがいないことを確認した。

 どうしていつもはぐれるんだろうな??相も変わらず通信も上手くつながらない。

 最早何かの陰謀なんじゃないだろうか、そう考えながらライダーさんへと駆け寄る。

 今回はライダーさんしか連れてこなかった。

 というより、連れてこれなかったといった方が正しいかもしれない。

 現地で霊脈ってのを探してそこで物資を補給するだけでなく再召喚、といて形をとったほうが魔力的、電力的に効率が良い。というより有限資材でやりくりしなければいけない以上かかり過ぎるコストは無くしたい、という訳だ。

 また、何事も武力で解決できるという訳でもないしいきなり大所帯で現れる、というのもメリットばかりではない、という訳である。

 俺にしては珍しく反対意見で粘ってもみたが数少なくなった職員たちの負担、カルデアとしての有限資材を考えると無理は通せなかった。

 ま、うだうだ考えていても仕方ないか、とライダーさんの隣を歩いていく。

 街はどこもかしこも深く、濃い霧に閉ざされていた。

 魔術で道を照らしだし、しばらく歩いてみるも上手く先が見えない。

 一寸先も闇ならぬ一寸先も霧、って感じ。

 うまいこと言えてねぇな…ちょっと恥ずかしいじゃねぇか…

 赤くなった頬を隠し、妙に重くなったように感じる身体を引きずるように進んでいく。

 …?

 何で身体が重い…いや、これ全身から力が抜けていっている…?

 くそったれが。

 ふざけんな、と全身の魔術回路に魔力を流し込が上手くいかない。

 全力でその場にふんばるが無情にも俺の足は崩れ落ちた。

 おいおい嘘だろ何なんだこれ。

 ライダーさんが必死に俺に呼び掛けてくるが既に声はどんどんと遠くなっていっていた。

 

 

 そこは霧に閉じ込められた街だった。

 久しぶりに意味不明な死に方を…

 原因として考えられるのはこの霧しかないよな。

 ひとまず考え事くらいさせてほしいので家の中に入れさせて貰えないかとノックして回るがどこも無反応。

 そりゃそうか、誰も出たがらねぇよな…

 いやでもこんな物騒な霧の中ならどちらにしろ餓死か何かで住民は死んでいるのでは…?

 どちらとも言えないな、この霧が出始めて日が浅い可能性もある。

 いずれにしろ情報が足りない。

 全身に強化を回してライダーさんに運んでもらう。

 取り合えずどこか合法的に入れるとこを…

 徐々に薄れていく意識を引っ掴んで離さない。

 最早意地だけで意識を保っていたら不意に機械音が耳朶を打った。

 降りると同時に黒鍵を投げ放つ。

 しかしそれは届くことなく途中で情けなく落下した。

 力が足りない――

 ライダーさんの蹴りが決まるのを最後に意識を手放した。

 

 そこは霧に閉じ込められた街だった。

 今回は本格的に無理なんじゃないだろうか。

 全身を強化してからライダーさんに抱きかかえられて駆け抜ける。

 途中で現れた手の長い、白い人型の敵の脇を見向きもせずに抜けていく。

 今そんなもんに関わっている暇はねぇ。

 限界まで強化に注げば一時間はどうにかなるはず。

 それまでにどっか入らなければ。

 もう民家のドアぶっ飛ばして良いんじゃねぇの、と一瞬よぎった思考投げ捨て目を凝らす。

 不意に悲鳴が走った。

 ライダーさんと目を合わせて頷いて、悲鳴のした方角に俺たちは駆けだした。

 

 肉の裂ける音、聞こえなくなった悲鳴。

 行き止まりとなった裏路地が真っ赤に濡れていた。

 間に合わなかった、か…

 こと切れてしまった女性に近寄ろうと踏み出した瞬間右腕が肩ごとずり落ちた。

 は――?

 焼けるような痛みを抑えるように左手で抑えて後ろに跳ぶ。

 追うように迫るナイフをライダーさんが弾いた。

 声を出すことが出来ない、約二か月ぶりに味わう痛みとそれによる死の感触に嫌な懐かしさを覚えた。

 息を整えるのを諦めて礼装を展開しようとするが上手く集中できない。

 今度からは勉強だけじゃなくて死ぬ寸前くらいまでの戦闘訓練も取り入れなきゃいけないな、ぼやけた視界の中そう思う。

 痛い、血が足りない、身体が怠い。只管に激昂するライダーさんの声がもうほとんど聞こえなかった。

 

 肉の裂ける音、聞こえなくなった悲鳴。

 行き止まりとなった裏路地が真っ赤に濡れていた。

 即座に礼装を起動する。

 すっかり手に馴染んだ木刀がしっかりと右手に握らさる。

 最大限上空を警戒する。さっきと同じように降ってきた敵を振り弾いて目を凝らす。

 ナイフを振るっていたのは齢十程度の少女だった。

 まあ今さら見た目で動揺する訳も無いが。

 切り込みの入ってしまった木刀を握りなおした。

 少女は薄く笑って何かを呟いて、またもや姿を消して、目の前で火花が咲いた。

 遅れて金属音が鋭く響く。

 少女のナイフがライダーさんの鎖に防がれていた。

 早い――目で追えないな。

 後ろに下がると同時にナイフと鎖は離れ合い、数瞬遅れて木刀が閃いた。

 追えない速さで降り降ろされたナイフを受け止め弾き、更に叩き込むように両手で振るわれたナイフをライダーさんが鎖でからめとる。

 一瞬動きを止めた少女の片目に深々と木刀を放った。

 ぐちゃり、と柔いものを潰す特有の感触。

 強く響く悲鳴を掻き消すようにライダーさんの蹴りが胸へと入り、勢いよく吹き飛んでいった。

 距離感さえ潰せばあの速さもおさまるだろう、勝利を確信して踏み出す。

 瞬間、ライダーさんが弾けた。文字通り、全身をバラバラにして散った。

 酷い量の血飛沫がまとわりついてくる。

 なん、だこれは。

 動揺を覚えながら木刀を構え、同時に切り落とされた。

 まずい――

 新たな礼装を取り出そうとした左手が宙を舞った。

 続いて酷い痛みと共に倒れこむ、片足が身体から離れていた。

 必死に身体を反転させたその先では、片目の殺人鬼がナイフを振り上げていた――

 

 肉の裂ける音、聞こえなくなった悲鳴。

 行き止まりとなった裏路地が真っ赤に濡れていた。

 宝具、だよな。それにしては魔力を感じなかった…感じ取れなかった、の間違いか?

 まあいい、次は使わせない。

 降ってくるタイミングでバックステップ、展開していた矢を放って更に下がる。

 何てこと無さそうに処理して少女は掻き消え、同時にライダーさんが俺を引っ張った。

 ナイフが鼻先を掠めて振り抜かれて、こびりついた血が頬にはねる。

 ライダーさんの短剣が閃き、何度も金属音が響いて霧に沈んだ道を明るく照らしだした。

 礼装を展開しなおして木刀を握りしめる、同時にライダーさんへと念話を送る。

 走り出す、限界まで強化した身体で勢いよくスピードをつけて、ライダーさんの背中へ、その先へ向けて突き出した。

 ライダーさんは背中に目が付いているだろうかと疑わせるくらい完璧なタイミングで上空へと飛び跳ねた。

 空振りした少女に木刀が迫り、しかし貫くことはなかった。

 紙一重で木刀は空を刺した。

 やらかした――酷く歪んだ笑みを浮かべて少女はナイフを振り上げ、けれども振り下ろすことなく不自然に動きを止めた。

 石化の魔眼――!

 ライダーさんによって作り上げられた一瞬の間。

 踏み出していた左足を軸に半回転、軸を右足に変えて素早くもう半回転しながら野球のバットのように、木刀を勢いよく振りぬいた。

 重く、鈍い感覚が腕全体に広がっていく。

 血を散らしながら後退した少女の腹にライダーさんのつま先がめり込んだ。

 こほっ、と空気が吐き出されて更に吹き飛んでいく。

 地面を跳ねて転がる少女を追い詰めるべく地を蹴り、そして沈むように倒れこんだ。

 ライダーさんが驚愕を浮かべてこちらを見る。

 だめだ、前を見てくれ――

 そう思ったときは既に遅く、ライダーさんの胸を銀色に光るナイフが貫いていた。

 吐き出される血塊。叫ぼうにも声が出ず、真っ赤に濡れたナイフはそのまま俺の頭を刺し貫いた。

 

 肉の裂ける音、聞こえなくなった悲鳴。

 行き止まりとなった裏路地が真っ赤に濡れていた。

 先手必勝、必中の呪いのかかった弓矢を取り出し矢を絞る。

 いい加減黙って死んでくれ。

 そんな俺の思いを乗せて矢が空を裂く。

 連射された矢を少女は降下しながらも当然のように切り裂いた。

 だけどこれでいい。

 着地のバランスを少しでも崩せればそれだけで隙ができる。

 ライダーさんが素早く空を切った。

 高速で放たれた蹴りをナイフで受け止め地を擦った少女に息をつかせぬ連撃。

 けれども少女は決して当たることなく全て受け、躱していた。

 これじゃさっきと変わらない。

 俺にはあまり時間がない、もうもって10分がいい所だろうか。

 ため息をついて新たに手に入れた礼装を取り出す。

 勿体ぶってここで死に続けても仕方ねぇな。

 それに、いい加減先に進みたい。

 無駄に黄金色に輝く礼装を起動した。

 ――収斂こそ理想の証――

 見知らぬ青年の声が頭に響く。

 同時に不快感や気怠さが拭われていき、全身に炎のような熱さが、剣のような冷たさが広がっていく。

 身体が己のものじゃないような全能感が馴染んでいくのを感じながら弓を静かに構えた。

 ライダーさんと少女が瞬きすら惜しいほどの速さで切り結ぶ。

 何度も火花が散って、金属音が高らかになっていた。

 常時では追いきれないそれを眼に強化を回して静かに見据える。

 いける、今なら追える。

 木刀を形成して割り込むように振るった。

 それを上手くかわして少女は薄く笑う。

 きっと少女は俺が馬鹿なことをしてると思ったのだろう、当然だ、俺は人であってサーヴァントじゃない。戦力としては足手まとい。

 でも今この一瞬だけは違う。限界を超える礼装。

 これで今の俺はほんの少しの間、この数瞬のみ英霊にだって手が届く。

 油断した少女のナイフを連続で叩き落として、更に頭へと振り落とす。

 伝わる衝撃から上手くダメージを逃がされたことを悟った。

 だけど、これで充分。

 残念ながら俺は一人じゃないんだ。全部俺がやる必要はない。

 木刀を戻して弓矢を展開しながら交代するように後ろに下がった。

 動揺と驚愕に動きを鈍らせた少女の、左手首が宙を舞った。

 驚きと苦しみに表情を歪めた少女に、放った矢が胸へと吸い込まれるように突き立った。

 声にならない叫び声を上げた少女に、ライダーさんの渾身の蹴りがぶち込まれる。

 身体をくの字に折り曲げその場に屈して膝を折る。

 見た目が少女だろうがサーヴァント。

 慈悲などいるものか。

 さっきは感じることのなかった、爆発的に高まる魔力に焦りを覚えながらも確実に、ライダーさんは少女の首を刈り取った。

 

 ごとり、と地面に頭が転がった。

 次いで、体と頭が光と化していく。

 この選択は正しかったはずだ、間違ってはないはずだ。

 ろくに話もしなかった少女のなれの果てを見ながらそう呟く。

 礼装を解除して急に来た身体への反動に思わずうめき声を漏らした。

 やばい、調子に乗りすぎた…

 魔術で強化しても尚今の俺ではありえない動きをしたせいで身体が酷く悲鳴を上げる。

 あれしか動いてないのにこのザマは情けなさすぎるだろ…

 酷くふらつき始めた身体を支えられながら何とか女性の亡骸へと近づき状態を確かめる。

 やせ細った体つき、こけた頬、目の下には濃く、大きな隈ができていて目は落ちくぼんでいた。

 これ…しばらくしっかりとしたもの食ってないな…

 素人の自分ですらはっきりとわかるくらい女性は若く、しかして貧相だった。

 ということはつまり彼女は”飢え”を恐れて屋内から出たわけだ。

 そして腹を掻っ捌かれて命を落とした、てところか。

 ――なるほどね。霧が出てから少なくとも人一人が飢えに耐えられなくなるくらいには時間が経っているってわけだ。

 だとしたら他の住民たちも似たり寄ったりなことになっている、と考えるのが普通、か?

 一回試してみるか…

 想像通りでありますように、と予想が当たりませんように、という矛盾する思いを同時に願いながらライダーさんに頼んで近場の扉を蹴り飛ばしてもらう。

 扉は一瞬の抵抗を見せたが呆気なくへこみ、金具ごと奥へと吹き飛んでいった。

 抱えてもらって、一つずつ部屋の中を見て回る。家の中は外より断然空気が良く、多少なりとも体調を吹き返していく。

 家の中には物言わなくなった人だったものが一つ台所に横たわっていた他には何もいなかった。

 素直に喜べはしねぇな、不快さと苛立ちを感じながら一際大きなベッドのある部屋に入り扉を閉める。

 隙間から霧が漏れてこないように布を敷き詰め寝転がると途端に全身が疲労と気怠さに包まれて身動きが取れない。

 ちゃっかり頭を撫でるライダーさんの手をほどくことすらできなかった。

 ちょっとばかし恥ずかしいが今はもう何もできないし、しばらくはこうしているか…

 目を覚ますころには通信が回復していればいいな、もう随分と聞きなれたノイズに失望しながら瞼を閉じた。

 

 

 激しい物音に目が覚めた。

 いつの間にか顔にかけられていた布を剥ぎ、多少気怠さは残るものの痛みの引いた身体を起こして周りを見渡せばライダーさんがいない、それだけで大体の状況を把握した。

 この物音――戦闘音とライダーさんの不在、この二つが合わされば馬鹿でもわかるだろう。

 階下から響いてくる金属音に焦りを覚えながら窓からそろりと身体を出す。

 思っていたよりずっと長く眠っていたようで、霧に覆われた街はその暗さをより深くしていた。

 今何時だよ…浮かんできた疑問を振り払いながら音の響く真下を見て絶句した。

 俺の身長よりもでかい機械がけたたましい駆動音立てて鎮座してるではないか。

 え、何あの少年心を擽られるロボット…

 漢のロマンやん…と思わず見入っていたのを一際強い金属音で引き戻される。

 おっとあぶねぇまたアホを丸出ししていた…

 自動で動く人形を相手取るライダーさんの位置を確認、予想しながら礼装を開放しつつ飛びあがる。

 狙うはでかぶつ、あれだけでかければ避けられることもないだろう。一撃で仕留めて見せる。

 九字兼定――真っ赤な鞘に納められた刀を抜き放ち、魔力で強化してから頭に当たる部分へ落下しながら刺しこんだ。

 鋼鉄のボディは僅かな抵抗を見せたが仮にも概念礼装、その上で微力ながら強化している刀の前では障害にすらならず易々と鍔まで刺さり、動きを止めた。

 ばちり、ばちりとショートしたような音が鳴り始めて火花が飛び散り始めた。

 あ、ちょっとまずいやつですねこれ…

 思いのほかあっさりと抜けない刀を力づくで引き抜き鞘にしまってから足場を強く蹴った。

 瞬間、爆音。

 熱気が背中に達したと感じた瞬間景色が急速に流れた。

 激しい風圧が身体にかかる。

 耳元で金属が擦れる音が響いていた。

 流石ライダーさん…助けに入るタイミングが完璧すぎる…

 最近良く増えてきたライダーさんの小言を聞き流しながら次はどうするかを考える。

 考えなしで出てきてしまったからどうしようもないんだよなぁ、と若干焦りだした瞬間目の前にホログラムの映像が投射された。

 映し出されたのは立香ちゃんとマシュだった。

 どうやら霊脈もきっちり見つけてカルデアとのパスも繋いで更には協力者まで見つけたらしい。

 ちょっと優秀すぎない…?君たち現地の人と仲良くなるの早すぎでしょ…これがリア充…

 全力で爆睡をかましていたことに罪悪感をほんのり感じながらそちらに合流するとだけ伝えてDr.に座標を教えてもらう。

 何だか気持ち薄くなった気のする霧の中をライダーさんに抱えてもらって突っ切った。

 

 

 

 指定された座標にあったのはまあ、どこにでもありそうな感じのマンション。

 そこから指示された部屋に入れば立香ちゃんがやっと来てくれた!と言わんばかりの表情でこっちこっち、と俺の腕を引っ張り始めた。

 随分と元気だな、と誘導されたそこには二人の女性――いや、アルトリアが二人…?

 いやそんなまさか、と目を擦って良く見ればアルトリアとアルトリアに外見はよく似た、けれども全く違う女性がそこにいた。

 アルトリアと比べてややきつい目つきに綺麗な金の髪、白と赤の二色で彩られた重厚な鎧を身にまといかっこよさげな剣をぶら下げている。

 見た目からして性格きつそうだなぁ、と思うが現在そんな彼女は非常にきまずそうな、どうしたらいいのか分からないと言ったような曖昧な表情でうろたえていた。

 何かあったのだろうか、いや、何かあったんだな、と確信を抱いてアルトリアを伺えば彼女は見るからに不機嫌、と言うか極端に鎧の彼女を視界に入れないようにしているのが見て取れた。

 えぇ、何なのこの状況は…いきなり意味が分からなすぎるんですけど…

 俺にどうしろと言うのだ、と困惑していたら扉の奥から細身の男性がお茶菓子を持ってこちらに挨拶を飛ばしてきた。

 にこやかにこちらに笑みを向けてるけど誰だお前は(真顔)

 

 

 ヘンリー・ジキル、と彼は名乗った。

 ジキル…ジキル?え、ちょ、もしかしてジキル博士とハイド氏…?

 思わず声に出すと彼は目を丸くして俺を見た。

 ハイドを知ってるのか?と聞かれても…いや、知ってるけど何?本当にジキル博士なの…?

 にわかには信じがたいんだけど…というか信じたくねぇ…

 いや、これが神話や伝説、伝承のような現実かどうかが曖昧なものなら俺も「へぇ~本当だったんだぁ~」くらいで済ませるのだがジキル博士とハイド氏に関しては話が違う。

 だってこれって確か1900年辺りに出版された小説だし何なら著者まで判明している。

 考えられるとすればモデルとなった人物、とか…?そんな話聞いたことないけどな…

 …いや、待てよ?確かこの時代は19世紀後半…小説は既に出版されているはずだ。

 ちょっと探してみるか…?一瞬そう考えてすぐに却下する。そんな暇俺にあるわけないだろう。

 俺は考えることを諦め、他の人の自己紹介を頼んだ。

 特にそこの目の泳ぎまくってる鎧の女の子気になりすぎるんだけど…

 それもそうだ、と立香ちゃんが促せばその彼女は自分のことをモードレッドと名乗った。

 …あぁ、なるほど。通りで気まずそうな顔しちゃう訳だよ… 

 なんてったってモードレッドはかのアーサー王伝説でも特に主要な人物。

 円卓の騎士でありながらアーサー王に反旗を翻した叛逆の騎士――いや、叛逆の王とでも呼ぶべき存在。

 何故なら彼――彼女はアーサー王に反抗の意志を持つもの全員を味方にしてその指揮をとったのだ、ある意味王ともいえるだろう。

 それによりブリテンという国は崩壊し、相討ち気味とはいえアーサー王も亡くなった。

 そしてそのアーサー王本人――アルトリアが今この場にいるのだから彼女にしてみればたまったものではないだろう。

 まあ一番たまったものではないのはアルトリアだとは思うけど。

 モードレッドに対しあまりにも塩対応なアルトリアに苦笑をこぼしてこれで協力者は全員か、と聞けばまだまだいるという。

 どうせそいつらも英霊なのだろう、英霊は基本的にギャップが効きすぎたやつしかいないため残りの紹介は後にして取り合えず現状を教えてくれと問えば彼は笑顔で承諾した。

 ついでに残りは部屋の奥で充電中だとか休息をとっているだとかなんとか。

 充電…?

 意味わかんない単語が混じった気がするけど華麗にスルーして話を促した。

 

 

 霧が出たのは三日前―ジキルはそれを口切りに彼の調べた情報を話し始めた。

 いやちょっと待って三日?たった三日なのん?

 俺がどや顔で決めたあの推理は一体…あの女性は霧とは全く無関係な理由で痩せ細っていたってことになっちゃうし不法侵入(不本意)を決めたあの家にあった死体は一体…

 もしかしてあれは今回の件とは関係のない独立した殺人事件だったのでは…

 何それこわっ、と身震いしながら話を聞けば目下どうにかしなければならないことが三つあるという。

 まず一つ目は当然この街を覆う謎の霧。

 二つ目に来るのが外に出た人を殺して回っているという切り裂きジャック。

 そして三つ目が大量にいるに関わらず一つ一つが面倒なくらいの戦闘力をもつ機械群――通称不明の怪機械

 ふぅん、へぇ、ほぉん…ジャック・ザ・リッパー、ねぇ…

 多分それあの少女…認めたくない…非常に認めたくはないが恐らくはそう、だよな…英霊だったし女性切り殺してたし…切り殺されまくったし…

 こっそりとライダーさんと目を合わせたら彼女もぎこちなさげに頷いて返す。

 多分ジャック・ザ・リッパー俺たち倒したわ、と伝えれば驚きの声と共にどんな相手だったか問い詰められたので、ああ、うん幼女だったよ、とだけ伝えて今度はそっちで何があったか聞きたい、と無理矢理話題の変更をした。

 こら、マシュとジキル博士、無駄に食いついてくるんじゃない、Dr.もうるさいぞ。

 

 立香ちゃんたちは想像の倍以上の働きをしていた。

 具体的に言うなら片手では数え切れないほどの味方を見つけ、サーヴァントを三騎ほど倒していた。

 ちょっと有能すぎないだろうか…

 薄々思っていたがもしかして俺って必要ないのでは…よぎった思考を払っていたら今度はヘルタースケルターや霧の正体のヒントがないか時計塔に行くと言うではないか。

 時計塔――え?時計塔あるの?あ、そっかここロンドン…

 は?でも魔術師は全員死んでる可能性が非常に高いとか冗談よせよ…たった三日であの化け物の巣窟が落ちるか?

 いや、落ちるか。知らんうちに人理を焼いた敵が相手だしな…

 まあ全滅してても書類等は残っているだろうから骨折り損にはならない、か。

 どうやら明日の朝に出発とのことなので話はこの辺で切り上げ早々に休みとなった。

 

 

 濃い霧の中を走り抜けていく。

 そんな俺の口元にはマスクがつけられていた。

 大した効果は望めないが、それでも無いより増し、ということでつけている。

 因みに立香ちゃんは何故か霧の影響を全く受けないらしい、本当に君一般人?

 何か盾の英霊であるマシュと直接契約結んでるからその加護があるんじゃないかみたいな仮説を立てているらしいのだがどうにも曖昧らしい。

 何にしろ羨ましすぎるな、と呟いた瞬間ライダーさんがしゅんとしてしまい、昨晩しれっと召喚していたカーミラが若干不機嫌になったためこれ以上は深く聞かないと心に誓った。

 だからいい加減私じゃ不満だって言うのかしら?みたいな視線を当ててくるのをやめるんだ元アイドル。

 いい加減その呼び方はやめなさいよぉぉぉ!と叫びながらわらわらと集まり始めた自律して動くマネキンやホムンクルスを宙から呼び出した小型のアイアンメイデンに封じ込めたり長く伸ばした爪で切り裂いていく。

 ナチュラルにアイアンメイデンを多用してる辺りこの女やばいわ、いやサーヴァントは皆やばかったな、と自己完結しながら進んでいけば案外あっさりと時計塔の地下へとたどり着いていた。

 

 

 案外じめっとしてるなぁ、という感想を抱きながら手当たり次第に扉を開けていく。

 中々お目当てのものがないなぁ、とじれったさを感じながら本棚を漁ろうとした瞬間棚から飛び立った本が勢いよく火やら氷やらを飛ばしてきた。

 は?

 咄嗟に横にいた立香ちゃんを押し飛ばして自分も横に跳び跳ねた。

 炎が弾け、氷が足元を凍らせる。 

 少しだけ掠ったのかズボンの端が少しだけ焼けていた。

 びっくりはしたがこの程度なら余裕だな、俺はもっと熱い火を知ってるぞ、と何時ぞやのフランスに想いを馳せながらカーミラの後ろへ回る。

 こちらには複数のサーヴァントいるだけあって鎮圧はすぐに済んだ。

 本が襲ってくるとかここは地獄かよ、と震えながら次々と本棚を漁っていたら突然ぐらり、と視界が揺れた。

 やばい――

 当然のようにやってきた吐き気に倒れこむ、ぐるぐると視界が回って既に焦点は定まらない。

 カーミラの声が聞こえたのを最後に俺は意識を手放した。

 

 案外じめっとしてるなぁ、という感想を抱きながら手当たり次第に扉を開けていく。

 身体の強化を怠っていたとはいえ時間をかけすぎたか。

 全身に強化を回してさっき見たところを無視させて周りを奥へ奥へと急かす。

 途中から本以外に、ヘルタースケルターまでもが出てきたがやばげな薬を飲んだジキル博士がハイド氏と化してバーサーカーの如く暴れまわり事なきことを得た。

 ていうかマジであんな豹変するんだな…あの薬を使えば誰でもああなるのだろうか。

 誰でも使えるならちょっとほしいかもしれない。

 あ、でも人目も憚らずヒャッハァー!とか叫ぶのはちょっとご免被りたいな。

 そんなことを考えている間にも本や機械は湧いて出てくるのだが危機感を抱くほどのことは無く俺たちは次々と歩を進めた。

 どれだけ進んだろうか、不意に渋めな声が朗報をもたらした。

 やっと見つけたのか、じゃあさっさと持って帰ろうぜ、と口を開こうとした瞬間Dr.が悲鳴を上げるように声を上げた。

 何?動体多数?

 数瞬遅れて意味を理解すると既に部屋の前はヘルタースケルターや浮遊する本でいっぱいになっていた。

 どうしてこういう手合いのやつらはいつもくそ面倒なタイミングで出てくるんだろうな?

 少しは空気を読めよ、とルーンストーンを投げつけ起動。

 同時に複数投げられたそれは一つ一つが輝き色を放ち、辺りを光で染め上げた。

 それを薄目で確認しながらすぐに下がる。

 こういう時調子をこくと俺ってばすぐ死ぬからな。

 代わりに前に出たアルトリアの一撃を口火に今回来ていたサーヴァントたちは全員――いや、書庫で資料を読み漁っている”アンデルセン”を抜いた全員が各々の戦いを始めた。

 

 

 ハンス・クリスチャン・アンデルセン、という人物を知っているだろうか?

 知らなかったとしても彼の紡いだ作品はきっと知っているだろう。

 人魚姫、裸の王様、みにくいアヒルの子、マッチ売りの少女。

 どれも世界中で愛読されているといっても過言ではない作品を作り上げた人物だ。

 そしてそんな彼は今、幼い子供の姿で資料を読みふけっていた。

 そう、幼い子供の姿で、である。

 まあ、これにはしっかりとした理由があるそうで、Dr.曰く英霊というのはその人の最盛期であった姿で召喚されるとかなんとか。

 つまり彼の最盛期は少年時代だったという訳だ。

 70歳まで生きていて最盛期がショタ時代だったとか色々報われねぇな…

 どんまい、と思いながら接してたらくそ渋い声で毒を吐かれまくったのは記憶に新しい。

 少年の姿でありながら声だけは大人顔負けの渋さというギャップに動揺し、更に吐かれまくった毒に普通に傷ついたのは言うまでもないだろう。

 ちくしょう…絶対言い負かしてやるからな…と負けん気を煮えたぎらせながら書類を読み漁る。

 本当ならばちょいちょい前に出てサポートでもしようと思っていたのだがカーミラにすっこんでろ雑魚が、と言われてしまっては仕方がない。

 あれだけいれば負けることも無いだろうし、と自分を納得させてせめて役に立とうと資料を読み漁っているわけである。

 因みになぜ持ち出さないのかと言えば魔術師によって持ち出せないよう罠がしかけてあるとかなんとか。

 面倒なことをしてくれる、とは思うが厳重に閉じられていたおかげでこの書庫だけは霧が入ってきておらず身体の回復ができた。

 寝転がるのは行儀が悪いが一応資料を読み進めてはいるし、重要そうな書類はアンデルセンに丸投げなので問題ないない。

 あれ、もしかして俺ってば大して役立ってない?

 まさかまさか、と汗をだらだらと流しながら読み流していく。

 この時ほど英語を死ぬほど勉強しといて(させられて)よかったと思うことはこの先無いだろうな、なんて思いながら。

 

 

 一際大きな爆発音、それに伴って届く叫び声と共にアンデルセンは目当ての資料を読み終わり、俺もまた手に持っていた資料を読み終わった振りをして棚に戻した。

 …うるせぇ!日本語ほど流暢に読めねぇんだよ…!

 この短い間でこんな分厚いの読み切れるわけがないだろう…!

 そんな俺のことを察したのか憐みの目を向けるアンデルセンの頭をぐしゃぐしゃと押し付けながら部屋を出た。

 扉の先ではすっかり敵はいなくなり、ハイド氏は消え、代わりに肩で息をするジキル博士とあまり疲れた様子の見えないサーヴァントたち、それにマシュを労っている立香ちゃんがいた。

 何事も無かったようで良かった。こちらも目当てのものは読み切ったしさっさと帰ろう、と拠点へと足を向けた。

 

 

 マンション――アパルトメントと言うらしい――について一息ついた後にDr.に促されてアンデルセンは資料について話を始めた。

 小難しく色々と並べていくが要するに『聖杯戦争』と『英霊召喚』というのは同じシステムでありながら全く別物のジャンルであり、『聖杯戦争』は人間が利を求めたもの、それに対して『英霊召喚』は”一つの巨大な敵”に対して”人類最強の七騎”をぶつける、というものらしい。

 ふぅん、なるほどなぁ、と思いながら俺と同じことを思ったのかモードレッドが呟いた。

 それ、ヘルタースケルターの大量発生とか霧と関係なくね?と。

 それを当然だ、俺の個人的興味だし、と堂々と言い放ったアンデルセンはとてもいい笑顔をしていたとだけ言っておこう。

 まあいつもならブチ切れていたかもしれないが今回は珍しく一回しか死ななかったので許してやろう。

 俺ってば寛大…と自画自賛をしていたら一応の解析結果が出た、とDr.が言葉を続けた。

 どうやらヘルタースケルターは一つの存在ではなく何かの一部――簡単に言うならば”何者かの宝具”らしい。

 え、何それやば…チートやん…いや、宝具は基本全部チート級だったね…

 周りがじゃあ本体を叩けばいいんだな!とざわつき始めたがその本体はどこだよ、と話は振出しに――なったと思ったらそうはならなかった。

 前髪で目を隠し、金色の機械的な角を生やした少女が本体の居場所を辿ることが出来るというではないか。

 最初からそうしろ、と遠い目になったがきっと今まではできない理由があったのだろう。

 …ところでその子誰?ん?フランケンシュタイン?え?あの少女が?あ、もしかして戦闘時は大男になるみたいな?

 …違いますか、そうですか…

 世の中は不思議に満ち満ちてるんだな、そう再確認して俺は考えることを諦めた。

 

 それじゃあ行ってくる、と立香ちゃんたちは霧の中へと踏み出していった。

 本体ってやつを叩きにいったわけだ。

 最初はもちろんついていく気満々だったのだが先ほどギリギリまで外にいたことで身体が弱っていたのもあり待機を言い渡された訳である。

 何とか反論しようとしたがライダーさんは既にソファに座り俺の目を見ながらポンポンと自分の膝を叩いているしカーミラは行く気ゼロ、と言った感じで化粧を直し始めやがったので断念せざるを得なかった。

 まあ、それだけではなく拠点を守る者が残らないと危ない、という理由もあったのだが。

 だってジキル博士は俺以上に疲労しているしアンデルセンたちはそもそも戦闘に適していない。

 サーヴァントでありながら俺より弱いとか希少種ってレベルじゃないよな…

 珍しいものを見る目でアンデルセンを見ていたら不意に毒と共に質問が飛んできた。

 ――お前はなんだ?

 あまりにも真っすぐな眼で問われたそれに、俺は息が詰まった。

 それは間違いなく人では無い”何か”を見る眼で、俺の思考を一瞬停止させた。

 普通の素人魔術師だ、と苦笑いをしながら答えるもしばらく彼は俺を見据え、軽く鼻で笑った。

 その割には随分とアンバランスなやつだ、そう言い残して彼は読書へと戻った。

 どのサーヴァントにも似たようなことを言われるなぁ、どこをどう見たら俺を変だと思うのだろうか。

 どう見ても一般人、とは言わないが少なくとも全然真っ当な考えを持ってるくそ雑魚魔術師、くらいだと思うんだけど…

 真っ黒に塗りつぶされた中二の時代なら喜んで受け取れたかもしれない言葉を今は完全に持て余していた。

 俺はただ死にたくないだけ…なはずなんだけどなぁ。

 例えば今回の霧だってそうだ。

 この旅は、あらゆるところに死が潜んでいる。

 むしろさくっと死なない立香くん/ちゃんがおかしいのだと言わせてもらおう。

 まあそれも主人公補正ってやつなのかな、と皮肉気に笑って目を閉じる。

 外への警戒はカーミラに任せているし少しくらいは許されるだろう、と俺は意識を手放した。

 

 

 ゆさゆさと身体を揺すられる感触に目を覚ます。

 今回俺寝すぎなのでは…?

 ゆっくりと身を起こして窓の先を見れば不思議にも霧は徐々に晴れつつあった。

 さ、さすが立香ちゃん…もう解決したのね…

 それじゃあ今回の特異点ももう終わりだろうか、ずっと寝てた気しかしなくて若干の罪悪感を滲ませつつDr.へと回線を繋ごうとした瞬間目の前にホログラムのDr.が現れた。

 彼は酷く焦っている様子で今すぐ外に出てほしいとかなんとか。

 何々どうしたの、少しは落ち着けよ、と上着を羽織りながら経緯を聞いていく。

 ざくっと言えば地下にいた魔神柱を倒したら何かやばげなサーヴァントが出てきちゃってそれがロンドンの霧の密集してるところに着いちゃったらイギリスがやばい、みたいな。

 しかもついさっき外に出てきちゃったらしい。

 立香ちゃんたちで止められなかったやつを止められるだろうか。

 別に俺が劣っている優れている、とかいう話ではなく単純に戦力の差を考えてそう思う。

 こちらにいるのはライダーさんにカーミラ、後はまともにサーヴァントとやり合うには不安が残るやつらばかりだ。

 正直無理何てレベルじゃないんだけど…まあやるだけやるか。

 礼装の出し惜しみもしなければある程度はもつ…もてばいいなぁ。

 弱気になりながら空へと走る雷を見た。

 

 赤く染まりつつある空に、青白い雷が昇っている。

 そんな空へ悠々と向かって歩く姿を視界に入れると同時に魔術礼装”カルデア戦闘服”に施された魔術――ガンドを撃ち放つ。

 赤黒い光を放ちながら飛んだそれは背中へとぶち当たってから虚しく飛散して、そいつはゆるりとこちらに振り向いた。

 効いてない――?

 何でか知らんが無効化されたか、舌打ちしながら距離をとるとその男が笑う。

 瞬間、視界が焼けた。

 

 赤く染まりつつある空に、青白い雷が昇っている。

 今までにない死に方…あまりにも一瞬で本気で何が起こったかわからなかったんだけど…

 まあ大体当たりはつけてるが、最終確認だ。

 弓矢を取り出しざまに撃ち放つ。 

 連続で穿たれた木製のそれはやつに近づいた瞬間微かな火花とともに脆く崩れ去った。

 やはり雷、常に身に纏っているのか。

 それは少々…いやかなり厄介だ。

 こちらにはそれをぶっ飛ばすほどの威力を出す手段を持つものがいない。

 強いて言うならライダーさんの宝具…だが当たってくれるだろうか。

 どう考えてもやつの攻撃手段は雷、そして雷は速い。

 例えばほら、こんな風に。

 音より早く届いた光は俺の全身を焼き焦がした。

 

 赤く染まりつつある空に、青白い雷が昇っている。

 種が分かっても攻略のしようがないんですけどこれ…

 リミテッドゼロオーバーを使ったとしても何度も耐えられないのは確定的だし三重結界でもすぐに壊されそうな勢いだ。

 悟られる前に速攻で叩き潰すのが最善、か。

 令呪を持って命ずる──

 ライダーさんの魔力が爆発的に上昇し、彼女の宝具が顕現する。

 流星と化した彼女は光に迫る速さで衝突した。

 同時に重ねて令呪をきる。

 カーミラが薄く笑って巨大なアイアンメイデンを作り上げた。

 爆発音と共に鋼鉄の処女はその腹を開け、ギリギリ退避したライダーさんを逃し、雷を纏っていた男のみを飲み込んだ。

 瞬間、雷音、爆発。 

 砕けたアイアンメイデンの隙間から高笑いが響き、青白く燃える雷が天馬を焼き尽くした。

 躊躇うことなくガンドを撃ち放つ。

 その光は今度は消されることなくその男の動きを止めた。

 雷が俺の足元で燻っている。

 ほんの数瞬躊躇っていたら死んでたな、冷や汗を垂らしながら礼装を起動する。

 長い銃身を戸惑うことなく構え、スコープに姿が映った瞬間撃ち放つ。

 爆音と衝撃と共に鮮やかに色付けされながら飛来した銃弾は当たることなく雷に掻き消されたが注意をそらすことが出来た。

 それだけで充分だ。

 カーミラの宝具から逃れたとはいえまだ近くにいたライダーさんのつま先が顔にめり込み吹き飛ばす。

 瓦礫を散らしながら吹き飛んだ男の全身をライダーさんが鎖で雁字搦めにしてこちらに引き戻す。

 ぐんっと勢いよくこちらに戻ると同時に雷鳴と共にライダーさんに雷が走った。

 痙攣しながらもこちらに投げ飛ばそうとしてガクリと彼女の身体が崩れ落ちる。

 刀を手に持ち、強化を足に回して飛びついた。

 ほとんど解けた鎖の間を縫うように刀を振るう。

 確かな肉感を感じ、ぬるりとした液体が身体を汚す。

 落ちた身体を更にカーミラが引き裂こうとして稲妻が駆け巡った。 

 カーミラが光に包まれ血を伝って俺を焼き焦がす。

 足と礼装にのみ強化を回していたせいもあって身体が崩れていった。

 

 赤く染まりつつある空に、青白い雷が昇っている。

 かなり上手くいったと思ったが詰めがあまかった…いや、どうしようとも無理じゃね?

 そもそも一撃当たったら即死亡ってのが良くない、全身に強化を回して常にリミテッドゼロオーバー発動するとか…?

 無茶したらしただけ反動が返ってきて死にますね…

 これが比喩的な意味での死なら全然笑顔で使うのだが物理的に死んでしまうので却下。

 全令呪積み込んでライダーさんで消し飛ばす、か?

 物は試し、と令呪三画を使いライダーさんを限界まで強化する。

 ぶっ飛ばせ──

 神々しくすらある光を纏ったライダーさんは雷を薙ぎ払いながら衝突した。

 地を剥がし、全てを粉砕しつくしたそれは一筋の稲妻に切り裂かれた。

 身体を半分無くしたその男は紫とも青とも、赤ともいえる巨大な雷をもって全てを焼き、消し飛ばした――

 

 赤く染まりつつある空に、青白い雷が昇っている。

 絶望しかねぇ…

 あれだけの宝具を受けて尚生きてられたらもう完全にお手上げだ。

 どうしたものか、何度も回すが思考は空回る。

 焦りにかられそうになるのを必死に抑えて震える手で礼装を引っ掴んだ。

 気づかれる前に、確実に、完璧に仕留める――!! 

 令呪を使った流星が流れると同時にスコープをのぞき込む。

 大体この辺だと当たりをつけて引き金を引いた。 

 砂煙を巻いて届いたそれはしかし消し炭にされて崩れ落ちる。

 瞬間腹の開いた鋼鉄の処女が男の後ろから身体を現し、しかし高速で回る紫電の輪に刻まれ砕かれた。

 雷光が、全てを嘗め尽くす。

 

 赤く染まりつつある空に、青白い雷が昇っている。

 何度も深く呼吸を繰り返す。

 心臓は激しく脈を打ち、思考がまとまらない。

 早くしろ、と己を急かして必死に考えるが打開策が何も浮かばないままやつの姿は現れた。

 くそ、くそったれが。

 どうしろっていうんだ。

 今までの焼き増しのように令呪を使うと、今までと違い、ライダーさんは地を蹴り天高くから落下するように宝具を炸裂させた。

 閃光と土煙が巻き起こり、二人の姿を覆い隠す。

 今までと違う展開──

 呆気にとられる前に頭を動かせ、と己を叱咤する。

 姿の見えない今できることはなんだ。

 ぱっと思いついたそれを吟味することなく展開する。

 鋭い音と共に矢が放つ。

 必中ってマジ便利…見えなくても当たるから本当最高ですわ…

 俺の滅茶苦茶な打ち方にも関わらず真っすぐ煙の中にたたずんでいるだろう男に矢は飛び、届いたかと思った瞬間激しい雷が地も煙も何もかもを吹き飛ばした。

 天馬の断末魔が響き渡る。ライダーさんとのパスはまだ切れてない。

 ライダーさんの安否を確認。やられたのは天馬だけでライダーさん自身はそこまででも無いそうなので魔術でライダーさんの応急手当のみ行う、同時にカーミラの手から緑色の光弾が高速で放たれた。

 雷を纏ってこちらに歩み寄ってくるそいつは光弾をものともせず無効化しゆっくりと腕をこちらに向けた。

 来る──

 バチリ、と雷が嘶き身を焦がす――はずがそれは目の前の鉄塊に阻まれた。

 カーミラのアイアンメイデンが俺の目の前に落ちていた。

 流石カーミラ…惚れる…

 最高かよ、と急いでその場を離れようとして腕を掴まれカーミラの後ろに強引に引き寄せられた。

 一体何を…手を離して動揺を見せた瞬間雷音が響いた。

 俺の眼前でカーミラが焼かれていく。

 激情にかられかけたのを気合で押し込み令呪をきった。

 令呪一角に込められた莫大な魔力がライダーさんの全てを強化する。

 高笑いをしていたその男は轟音とともに真横に蹴り飛ばされ、建物にその体を激しく擦りつけた。

 宝具を使われる前に仕留めなければ――

 カーミラを抱きかかえてライダーさんへと叫ぶ。

 一瞬の躊躇もなくライダーさんは鎖を鳴らしながら短剣を投げ放った。

 しかしその切っ先の届く寸前でそれは炭化した。

 ライダーさんが焦りを眼に宿して俺たちの前に素早く立ちはだかる。

 神の雷だとその男は叫び、俺たちの視界を覆いつくし――そして背後から現れた雄たけびと黄金の雷に祓われた。

 

 金の髪を靡かせたグラサン男と狐耳を生やした着物の女が並び立つ。

 グラサン男は斧のような武器を肩に担いでゴールデンに参上だぜ!とか何とか叫び、狐耳の女は呆れたようにやれやれとため息をついていた。

 どう見てもサーヴァント、助けてくれたことから敵では無さそうだが如何せん怪しすぎた。

 令呪をきってカーミラを回復させながら、取り合えず名乗れよ、と立ち上がろうとして身体が傾いた。

 晴れつつあるものの残留していた霧、それが周りより濃いところで戦闘をしすぎたせいで早くも限界を迎えていた。

 あまりにタイミングが悪いな…

 内心で罵倒を吐き散らかしながら倒れこみ、それをめちゃめちゃ筋肉質な腕で支えられた。

 ぐっと勢いよく持ち上げられて今度は細く冷たい何かが俺の頭に触れた。

 途端に身体から不快感が取り除かれていく。

 もやのかかっていた視界が開けていき、蓋をされたような聴覚が音を取り戻していく。

 頭に触れていたのは狐耳の女の手のひらだった。

 こういうのは柄じゃないんですけどねぇ、と彼女は俺の頭から手を離して言った。

 正体はわからんが取り合えずこいつらは味方だと信じて動くか、どうせ裏切られたら死ぬだけだし。

 それに何より俺は恩は売られたらどうしても感謝してしまうし信じちゃう人間なのだ。

 ありがとう、と感謝を述べれば気にしないでくださいまし、とツンとする狐耳の女と対照的にグラサン男は構わない、と豪快に笑ってからそれじゃあ第二ラウンドの始まりだぜ!と金の稲妻を煌めかせた。

 

 雷同士がぶつかり合って、激しく戦場を散らしていく。

 Dr.曰く散々俺を殺した奴はニコラ・テスラだという。それに対しグラサン男は坂田金時と名乗りを上げてその戦いは更に苛烈さを増していった。

 どちらも勉強するまでもなくメジャーな人物じゃねぇか…

 通りでそんなバチバチと雷出せまくっちゃう訳だ。

 といっても勝負は互角、というには些か坂田金時が有利に立ちすぎていた。

 それもそのはずだ、ライダーさんの渾身の蹴りが防御をぶち抜いて決まってるんだ。

 効いてないはずがない、骨を折るどころか粉砕しているだろう。

 実際ニコラ・テスラは浮かべていた不敵な笑みを焦りを感じさせる険しい目つきへと変貌させている。

 ざまあみろってんだ。

 礼装を展開させて強く弓矢を引き絞る。

 こちらに来てから常に侵食するように体に張り付いていた霧は今この時だけ完璧に無くなっていた。

 狐耳の女――玉藻の前と名乗った彼女の呪術だかで霧を避けているとか何とか。

 妖怪じゃん…と呟いたら笑顔で青筋を浮かべて胸倉掴まれ良妻狐、と訂正するよう迫られた。

 それはちょっと厳しい、と断ると何でですかー!とキャンキャン鳴かれたので妥協して神様だと訂正した。

 いや神様だとしてもおかしい気はするけど…とは思ったが良く考えてみればステンノもエウリュアレもいたのだから他の神がいるのも特段不思議なことではない。

 神様がいることそれ自体がおかしいとかそういう無粋なことはスルーである。

 散々俺を殺したテスラとの戦いは既に佳境を迎えていた。

 弱弱しく散る雷ごとライダーさんの鎖が身体を縛り上げ、それでもピクリと動いた手先を矢で穿つ。

 予想外だと目を見開いたテスラに、黄金色の雷を巻き散らした斧を振り下ろされた。

 激しい爆裂音が響き、電気が散り切った頃にはテスラはもうほとんど消えかけていて、最後によくぞ倒した勇者たちよ!とか何とか笑いながら完全に宙へと溶けていった。

 これでやっと終わりか、早く帰りたい、と座り込んだら人間だってのにやるじゃねぇか!と金時にばしばし背中を叩かれる。

 シンプルに痛いからやめてくれないだろうか、目で訴えようとしたらDr.が悲鳴染みた声をあげた。

 あ、これ終わってないやつですね。

 聞きたくねぇ、と耳を塞ごうとしてDr.に聞いてくれよぅ!と叫ばれた。

 

 

 バッキンガム宮殿、その丁度真上に霧が渦巻くように集まっていた。

 街から霧が完全に晴れたのは助かったけど明らかにあれから何か出てくるよな。

 確信しながらそれの元へ駆けていく。

 といっても俺は己の足で走っているわけではなく礼装であるバイクに乗っているのだが。

 いやだって俺のダッシュのスピードに合わせてたら手遅れになるかもしれないじゃん…

 Dr.からの連絡で立香くんたちは既に宮殿の近くまで行っているらしいし早めに合流したい。

 もう視界に小さく映る立香くんたちを見据え、不安を抱えながら俺はぎゅっと礼装を握った。

 

 

 突然、霧の中から半端ではない魔力と同時に嵐のような一撃が地面へと突き刺さった。

 強烈な暴風に煽られるも強引にスピードを上げてぶち抜く。

 立香くんたちの元へと跳ね上げられた瓦礫を踏み砕き、摩擦音をがなり立てながら目の前へと止まる。

 続けて玉藻の前の妖術…呪術が俺たちを守るように瓦礫を粉砕した。

 今度はどんな奴が出てくるんだろうな、と一周回ってテンションを高くしながら空を見上げる。

 そこには邪悪ともいえる魔力を滲み出した槍を持つ女性が馬に跨っていた。

 立香くんたちと一緒に行動していたモードレッドが一言”父上…”と呟きアルトリアが呆然と口を開けていた。

 この二人の様子から空にいるあの女性は間違いなく”アーサー王”なのだろう。

 しかしそこで口を開けているアルトリアとは違う存在――言うなれば彼女はアルトリアのIFの存在なのだ。

 あったかもしれないアルトリアの未来の姿、その存在が召喚されたのだろう。

 そんなことあり得るのかって言われたら自信を持ってある、と答えられる。

 ダヴィンチちゃんの~きっと役に立つ☆英霊講座~でそんなことも起こりうるって言ってたしな。

 俺は案外勉強熱心なのだ。

 まあ、命がかかってる時限定だけれども。

 冷や汗を流しながら呆けるなよ、と己の臆病さを掻き消すように叫ぶ。

 呆気に取られていたアルトリアとモードレッドははっとしたように剣を構え、そんな俺たちをじろり眺めてから彼女は一言も発することなく槍を振るった。

 

 鋭く振るわれた槍を金時が力づくで跳ね返す。

 若干のパワー負けをした彼は二、三歩よろめき、その金時を踏み抜こうとした黒の騎馬をカーミラの光弾とライダーさんの鎖が押しとどめる。

 その隙に離脱した金時を追おうとした彼女を今度はモードレッドが立ちはだかろうとして激しい風圧に身体を浮かされた。

 態勢が不安定になった彼女の胸を貫かんとばかりに振るわれた槍を何とかガードしたものの派手に建物へと突っ込まされた。

 追いうちだけはさせない。

 それだけを考えて玉藻の前の援護の元矢を放つ。

 いくつも撃たれたそれは一つ一つの鏃が火を帯びていたり冷気を漂わせていた。

 しかしそれを見向きもされず、ただ圧倒的な暴風で蹴散らされる。

 上手く連携を重ねないと攻撃が届かないな…

 軽く舌打ちをした瞬間玉藻の前に身体を引っ張られ、同時に迫ってきていた槍で肩が抉れる。

 痛みに叫ぶことを耐えながら応急手当を自分にかける。

 羽虫を払うように振るわれた二撃目をライダーさんが強引に逸らし、アルトリアの一撃が彼女の肌を掠めた。

 つぅ、と血が滴り爆音と共に全員が暴風に吹き飛ばされた。

 強かに身体を打ち付け何度も咳き込みながら立ち上がる。

 あれは反則だろ、と睨んだ瞬間槍が俺の胸を貫いた。

 

 鋭く振るわれた槍を金時が力づくで跳ね返す。

 まさか俺を狙ってくるとか予想外…

 玉藻の前の支援を受けながら矢を放ち、すぐに木刀に持ち替え身体をずらす。

 俺より早く反応した木刀が砕けながらも槍の軌道を変え、玉藻の前の呪術による火やら氷やらが降り注ぐ。

 先ほどと同じように暴風が吹きすさんだ。

 瞬間、周りを確認してから立香くんのいる方へ、正確にはマシュのいる方へと風に乗るように跳んだ。

 変わることなくまたも俺を追撃してきた彼女の攻撃をマシュが受け止める。

 守りを主体としているだけあって上手く受けているものの直ぐに弾き上げられた。

 まずい――礼装を展開しきる前に放たれた槍は割り込んできたモードレッドに逸らされた。

 耳を塞ぎたくなるような金属の摩擦音が響き、よろけたモードレッドを左手で掴み投げ、マシュの盾を持ち直した槍で地にめり込ませた。

 展開しきったリミテッドゼロオーバーにより強化した身体で次のアクションを起こされる前に眼前に現れて礼装の刀を振るう。

 それは上手く躱されたが隙を作ることには成功した。

 駆けてきたライダーさんの蹴りが馬を蹴り上げぐらついたところでまたも強烈な暴風が遅れて来ていた金時と玉藻の前も含めて吹き飛ばす。

 咄嗟にのばされたライダーさんの鎖を掴み、ライダーさんの元へ跳んでいく。

 すぐに礼装を解除し痛む身体を誤魔化しながら刀を構えた。

 次はどう動く、荒れた呼吸のままねめつけたら今度は彼女は槍を天にかざし叫び声を上げた。

 すると空から何と言うべきか、幽霊、いや悪霊、はたまた霊魂とでも言うべきなような禍々しい存在が辺りから溢れるように出現し始めた。

 えぇ、何それ…

 物理攻撃全然通らなそうじゃん…どうすんだよ…と舌打ちしたら玉藻の前の呪術が霊魂を狙い撃ちにした。

 火や氷が幽霊どもを消し飛ばしていく。

 それでも溢れてくるそれを任せてください、と彼女は言い、それを手伝うようカーミラに頼み俺たちは再度彼女へと向き合った。

 

 暴風を伴った槍を聖剣が弾き返す。

 どうしても出来てしまう隙をフォローし合うようにもうモードレッドの剣が差し込まれる。

 チャンスが出来ても風で全員飛ばされるってのが問題だな…

 あの竜巻みたいな風をどうにかしなければ、そこまで考えて閃いた。

 上からならいけるんじゃね?と。

 ただ上から飛び込むのが俺ではだめだ、彼女を怯ませる一撃を持った人じゃないと。

 そう考えると俺とライダーさん以外…一番はやっぱり金時かな…

 リミテッドゼロオーバーと両手足強化すれば金時くらいならぶん投げられる。

 全員にそれを伝え、モードレッド達に少しばかり頑張ってもらう。

 防戦一方の現在を打ち砕いてもらわねば。

 ということでモードレッドとアルトリアのあまりよろしくないコンビネーションの間にライダーさんに割り込んでもらう。

 振るわれた槍を受け流し石化の魔眼で一瞬、いや、それにすら満たない程の時を止めた隙にモードレッドの剣――宝剣クラレントとアルトリアの剣――聖剣エクスカリバーが同時に閃いた。

 交差して振るわれたそれを彼女はやや遅れてガードし派手に後退した彼女は予想通りの位置で動きを止めた。

 何故なら彼女の足元には俺が即席で刻んだルーン魔術がある。

 これがただの魔術ならそれこそ、ライダーさんの魔眼以上に効き目をなさないだろうがこれは概念礼装を用いたものだ。

 一瞬程度なら停められる。

 流星と化したライダーさんが地を削って彼女へと飛び、そして今まで以上の暴風が全てを薙ぎ払った。

 同時に両手で金時を投げ飛ばす。

 ライダーさんの手から手綱が放れ、急降下した天馬はしかしまたも力強く羽ばたいた。

 天馬を踏み台のように更に金時は跳ね上がる。

 黄金の雷鳴が闇を裂く。

 雄叫びを上げながら放たれた彼の究極の一撃は真上から彼女へと叩き込まれた。

 

 雷と煙が燻るそこを見据える。

 流石にあれを受けては一溜りもないだろう。

 それでもこの目で見るまでは死を認める訳にはいかず目を凝らした瞬間、今までの暴風とは違い、明らかに攻撃として放たれた風の塊が俺の身体を打ち消した。

 

 雷と煙が燻るそこを見据える。 

 全然生きてるじゃねぇか…!

 すぐさま地を這うように身体を伏せ、頭上すれすれを殺意を持った風が通り抜けていく。

 煙の晴れたそこでは馬が倒れ伏し、彼女自身も血を垂れ流しながら金時と武器を弾き合っていた。

 今仕留めてやる――

 弓矢を引き絞り、撃ち放つ。

 金時を弾き飛ばした彼女はこちらに睨みつけ、片腕でそれを受け止め槍を振るった。

 瞬間身体が消し飛んだ。

 

 雷と煙が燻るそこを見据える。

 こっちに注意を向けさせてはいけない…いや、近距離で叩くか?

 やるなら今しかない、そう感じてリミテッドゼロオーバーを起動、風を避けるように飛び跳ね高速で迫る。

 勢いよく突き出した刀は鎧に抵抗されながらも胸元を無理矢理貫いた。

 ごぼり、と血を吐き彼女は俺の頭に触れ、そして力なく滑り落ちた。

 テスラのように、よくぞ倒してくれたといわんばかりの笑顔で彼女は空へと溶けた。

 

 

 翌日、俺たちは疲れの抜けきらない身体を引きずるように地下へと潜っていた。

 というのも立香くんたちはあまりの急展開に聖杯を回収し忘れたのだ。

 うっそだろお前、とも思ったがあの状況なら仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。

 それにこの一晩で妙に仲良くなってしまった金時と玉藻の前と話す時間が増えたのはラッキーと言えばラッキーだった。

 まあそれももう終わりなのだが。

 既に俺たちは最深部まで到達していて、ちょうど聖杯を回収したところなのだ。

 あいも変わらず美しくも禍々しいなぁなんて思いながらさっさと帰ろうぜ、と皆に促す。

 ここの雰囲気はあまり好ましくない、何というか、個人的主観なのだが嫌な予感をさっきから感じるのだ。

 ほら早く早く、そう皆を急かしていた時、聞きなれない声がこの広い地下空間に響き渡った。

 同じに先ほどまで鮮明だったDr.との通信が途切れ途切れになる。

 本当に嫌な予感ってのはいつでも当たりやがるな。

 くそったれが、と地下空間の一番奥底、そこから現れた白髪に茶の肌をした男を睨みつけた。

 

 その男は”ソロモン”と名乗った。

 ソロモン――旧約聖書に登場する魔術の祖、と謳われた古代イスラエルの王。

 72の魔神を従え人類に魔術を齎した魔術王。

 その男はうろたえる俺たちを興味なさげに見つめ、カルデアを脆く、容易く崩れる哀れな船だと言い、人理を滅ぼすと宣言した。

 そうさせるとでも?という立香くんの挑発のような言葉を鼻で笑い、自らの宝具を対人理宝具だと言った。

 そこまで聞いて、俺はアンデルセンの話を思い出していた。

 『英霊召喚』とは抑止力の召喚であり、一つの巨大な敵―文明を滅ぼさんとする終わりそのもの―へと立ち向かう人類最強の七人を呼ぶもの。

 本来の『英霊召喚』により呼び出されるのは七つの属性の頂点に達した天の御使い。

 ここまで話してソロモンはその全てを肯定した上でこう言った。

 ”我こそは王の中の王、キャスターの頂きに立つ者”

 ”グランドキャスター 魔術王ソロモン”である、と。

 そこまで言い、しかし彼は何もすることなく帰る、と背中を向けた。

 はぁ?散々言っておいてそれかよ、冗談よせよな、お前が全ての元凶なんだろ?

 聖杯四つも取られて慌てて出てきちゃったんだろ?

 折角だ、おら、ここで死んで行けよ。

 リミテッドゼロオーバーを展開して刀を持つ。

 力強く地を踏み、跳ぼうとして見えない力で地に伏せさせられた。

 威勢だけは良いな、と値踏みするようにじっくりと俺を見てから酷く嘲笑った。

 続いて聖杯なぞ一つも六つも変わらない、と。

 俺の身に降りかかっている魔術を玉藻の前が何とか解除し、倒れ伏した俺を金時が助け起こしてくれた。 

 それで尚ふらつく俺を立香君が支えてくれながらソロモンに何故こんなことをするのかと叫んだ。

 こんなことをして楽しいのか、と。

 ソロモンは醜悪に表情を歪め、楽しくないわけがない、笑った。

 死を克服できず、死に恐怖を持つお前らが滑稽でならない、と。

 そこまで言って俺を薄目で見、お前は少しばかり特殊だが、と更に笑った。

 そうして彼は未来には一切の希望がないのだからあきらめろ、と。

 そして立香くんにここで全て放棄するのが一番楽だと言い残して姿を消した。

 

 ソロモンが現れてから俺たちを襲っていた重圧感が霞と消える。

 同時に金時たちは姿を光へと変えつつあった。

 あまりにぱっとしない終わり方だったな、色々疑問が出来上がってしまった。

 また考えなきゃいけないことが増えちまったじゃねーかと頭を抱えていたら勢いよく持ち上げられた。

 ちょ、何だやめろよ金時。

 しかし彼はそんな俺の制止を無視して豪快に笑った後にいつでも力を貸すから呼んでくれよな!とグラサンをキラッと光らせた。

 期待している、と返せば楽しみにしていろ、とそう言いあんたもそうだろ、フォックス。と玉藻の前へ呼び掛ける。

 彼女は眉間にしわを寄せ、在り方は気に食わないがその魂と意志は認めて差し上げます、と呼ばれたその時は力くらいは貸しましょう。

 そう言い一早く姿を消した。金時もじゃあ待っているからな、と姿を溶かす。

 立香くんたちも粗方言葉を交わし終えたようだ。

 アンデルセンが呼ばれたとしても俺は役に立たんからな、と必死に説明していたのが面白かったと言わせてもらおうか。

 誰よりも先にあいつを呼び出してやろうか、何て考えながら俺たちは元の時代へと姿を消した――。

 

 

 ――Order Complete――

 

 




マジ無駄に主人公成長するせいで全然殺せなかったから初心に返って次は安易に殺りまくります(真顔)

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