無限ルーパー   作:泥人形

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めっちゃ待たせたけどドン引きするくらい長いの書いたから許して(真顔)
※初心に戻り切れなかった。(意訳:あんまり殺れなかった)


狂ったアメリカ&ケルト@無限ループ

 

 

 その日は珍しく雪が降っていなかった。

 とはいっても別に晴れている訳でもなければ雨が降っている訳でもない。

 具体的に言うならば、これから雪か雨でも降りそうな曇り空、といったところだ。 

 まあそれでも、雪山にあることから年がら年中雪が降っているカルデアにしてみればそれは酷く珍しいことだった。

 それは言うなればラッキー。今日は良いことでもありそうだ。

 気持ち悪いくらいには機嫌を良くしながら鼻歌を奏でていたら仮面の取れたカーミラに「え、きもちわる…」みたいな目をされて冷静になった俺は、それでも窓の外を珍し気に眺めながら足音を鳴らすことなく、しかし足早に管制室へと向かっていた。

 ダヴィンチちゃんからの呼び出しである。グッモーニンしたての俺にただ一言「取り合えず来て欲しい」と言い残した彼女…彼…彼女は有無も言わせず回線を切りやがったのである。

 まあいつも温厚かつ冷静なダヴィンチちゃんがあそこまで焦っていたのだ、ただごとではあるまいと短針が10を示す時計を横目に部屋をのっそりと這いだしたのだった。

 まーた特異点でも見つかったのかなぁ、何て考えながらおいっす~と扉を開いたその先には思いの外思いつめた顔をしたドクターとマシュ、そして悩むように何かを考えるダヴィンチちゃんがいた。

 うーん、嫌な予感。

 聞きたくねぇなぁ、と気分を落としながら何かあった?と聞けば目を伏せたままマシュが口を開いた。

 "先輩が、目を覚まさないんです――――――"

 

 

 え、まだ寝てんの?

 良く寝る子だねぇなんて言っていたら違う違う、とダヴィンチちゃんが詳しい説明を始めた。

 彼女曰く、立香くんはほとんど平常の睡眠状態のまま、何故か何をしても目を覚まさない、とのことらしい。

 原因は不明、正直な話こちらからは手の施しようが全く無いとのことだ。

 え?控えめに言ってやばくない?やばいで済ませたくないくらいにはやばいよねそれ?

 どうしようもないじゃん…こわっ…

 だってそれってつまりソロモン側からカルデアへと間接的または直接的な攻撃があったことを意味するということだ。

 ここの座標がばれている…?いやそんなことはありえない、ありえないはずだ。

 ということは何時仕掛けられた…?ロンドンでの最後、あの時そんな素振り、やつは見せたか?

 それともこちらに気づかれることなく立香くんに時限式の何かを仕掛けた…?

 うぅん、と数秒唸って”あり得ないことは無い”という結論にいたる。

 何せ俺を見ただけで地面に強引に伏せさせたのだ。

 あの時に何かしらの魔術を立香くんが掛けられたとしてもおかしなことではない…か?

 一応これからも何かしらできることは無いか探ってはみるが期待はしないでくれ、と締めたダヴィンチちゃんにマシュが様子を見てきます、と管制室を出ていく。

 これはしんどいなぁ、と俺も続こうとしてグイッと手首をドクターに掴まれた。

 何だなんだまだ何かあるのか、という俺にドクターが申し訳なさそうに言葉を吐き出した。

 ――次の特異点が見つかったんだ――

 ジーザス…

 

 

 緊張した面持ちで扉を開く。

 何度やってもどうしても身体が強張るな、そう思いながら俺はゆっくりと幾何学模様の円…所謂召喚サークルの前へと歩き立ち止まる。

 特異点に行く前はいつも召喚しているが、今回の緊張具合は今までのそれではなかった。

 何故なら今回の特異点は、立香くんは置いていく、つまり俺だけが行くからである。

 いや本来なら立香くんの目覚めを待った方が良いんだけどそうも言ってはいられない。

 時間は有限なのだ、今回見つけた特異点がもしかしたらもうすぐ完全に焼却されてしまうかもしれない。

 それだけは避けなくてはならない。

 それにマスターは俺だけと言えどサーヴァントもいる。

 だがそれでも不安が残るから今回はどうしてもあと一人は来てほしいところなのだ。

 頼むぞ、頼むぞ~と念を込めながら石を投げていく。

 積みあがる礼装、礼装&礼装、そして礼装。

 これでもかと言わんばかりに俺の運の無さを具現化させていく慈悲も容赦もない召喚サークルに段々目が死んでいく。

 ついでに俺の後ろに佇む二人もあっちゃぁ…といったような表情だ。

 何か…シンプルに悲しくなってきたんだけど…

 もう良い…こうなったら優秀な礼装来い、叶うならば逃走用にめっちゃ役に立つ系の何か…

 最初とは打って変わりポイポイッとゴミでも投げてんのかと思わせるようにテキトーに投げ込んだ瞬間、爆発的な光が俺を呑み込んだ――

 ――サークルの中心に人影が出来上がる。

 カチャリ、と朱の鞘を片手に女子高生のような制服をきた彼女はにやりと笑い言葉を紡ぐ。

 

 「サーヴァント、セイバー!召喚されて超参上☆みたいなー?」

 

 あ、チェンジでお願いしまーす。

 

 「なんでーーー!?」

 

 

 鈴鹿御前――新しく召喚された彼女は己をそう名乗った。

 え…いやいやまさか…そんな馬鹿な…

 どうか嘘だと言ってくれよ…そんなバリバリリア充してるJKになり切ってるのがあの天女とすら謳われる鈴鹿御前とか…

 現実ってとことん人の夢を砕くようにできてるよな…

 どうすんだよこれ…

 そもそも召喚時のセリフに反射的に帰ってくれ宣言してしまう程拒否反応が出てる相手と一緒に戦っていくとか無理過ぎるでしょ

 現在進行形でうざいノリで構ってくる鈴鹿御前を死んだ目で受け流しながら保管庫へと向かう。

 何でかって?お前の弱り切った霊基を元に戻すためだよ…!!

 だからいい加減そのキラキラしたオーラを俺にぶつけまくってくるのはやめない?

 あまりのうざさに浄化されちゃいそうなんだけど…

 

 

 

 絶望的に相性が合わないであろうサーヴァントを何故このタイミングで引いてしまったのか…まるで意味が分からない…

 そんなモヤモヤを抱えながらレイシフトに入る準備をする。

 そろそろ行かなくては、と制服に袖を通しながら若干身体が強張っているのに気が付いた。

 もう五度目だというのにおかしいな、と思う。

 そう、もう五度目だ、俺は、俺たちは既に四つの特異点を修復してきてるのだ。

 俺は死ねない、死なない。今回も絶対に修復しきってみせる。

 思えば思う程胸の内側がぐるりぐるりと靄が溜まっていくような感覚を覚える。

 そうしてようやく俺は緊張している原因にたどり着いた。

 もう俺は最後の二人のマスターから、最後のマスターになりつつあるのだ。

 未来はもう、誰にも分からない方に進んでいる。

 もしかしたらこの先彼/彼女は目覚めないかもしれないのだ。

 そんな中で俺が失敗してしまったら?本当に死んでしまったら?人理の修復が間に合わなかったら?

 今まで目を背けていた反動なのか今になって急速に不安が心を覆っていく。

 呼吸は自然と早くなり、嗚咽が止まらなくなっていく。

 早鐘を打っていく心臓を抑えるようにぎゅっと左胸を握った。

 加速していく呼吸を宥めるように大きく息を吸って吐く。

 震える足には一発拳を入れて黙らせた。

 大丈夫、大丈夫、大丈夫。

 暗示をかけるように何度も呟いた。

 問題ない、成功すればいいだけだ。サーヴァントも三人いる。

 できないことはない、やれるはずだ、俺でもできるはずだ。

 失敗する訳にはいかない、俺しかいない、俺がやらなければいけない。

 蹲ってしまっていた身体を起こし、ふらりとする足取りをしっかりと直す。

 近くでライダーさんの声が聞こえた。

 時間になっても来ない俺を探しに来たのだろう。

 弱気になっているところなんて見せられない、今俺が折れてしまってはどうしようもないんだ。

 大丈夫、今行くよ。と声をかけてから礼装がちゃんとあるかを確認して、もう一度深呼吸してから俺はドアをスライドさせた。

 

 

 なるべくリラックスするように意識して身体から力を抜いていく。

 そんな俺を不審そうに見てくるライダーさんに誤魔化すように笑いかけた。

 今回は前回のように連れていくのは一人だけ、という訳ではない。

 なるべく節約はしたいが事態が事態だ。

 何かがあっても死ぬ可能性を限界まで下げるために三人とも連れていく。

 レイシフトが初めてでキョロキョロと忙しない鈴鹿御前に少しは落ち着け、と声をかけてレイシフト用の装置に入る。

 いつも通りライダーさんとカーミラの手を握ったところで鈴鹿御前が一瞬呆けたような顔をしたがすぐさま納得したようににやりと笑った。

 何か文句でもあるんですかねぇ…と言おうとした瞬間背中に重みがかかる。

 というか普通に重たいんですけど…ぼそりと呟いたらめちゃめちゃに力をかけられた、解せぬ。

 畜生離れやがれ…!と言い合いしている内に無機質な女性型のアナウンスが流れ始めた。

 あ、ちょ、少しは待ってよ!?

 せめてこいつを引き剥がして―――そう言いかけたところで俺の意識は光に溶けた。

 

 

 

 ――そこは見渡す限り何もない(・・・・)大地だった。

 草木の一本すら生えず、ただ不毛の大地が広がっていて、そしてそんな中一人の男が俺たちの目の間に立っていた。

 黒に近い灰のフードを被っていて真黒に染まった朱槍を持ち、サソリのような尾をふらりふらりと揺らしている男だった。

 一目見ただけで分かる。

 こいつはヤバい(・・・)

 つぅ、と冷や汗が垂れると同時に何者だ、と聞き覚えのあるような声で問われる。

 カルデアの者だ、人理の修復に来た、とそう答えながらじりり、と後退した。

 何だ、じゃあ敵か。

 そう聞こえた瞬間巨大な槍が腹を穿つ。

 際限なく血が溢れ出す。

 ライダーさんが悲鳴を上げて、鈴鹿と並んで突っ込みカーミラが俺の体から槍を抜く。

 血が、止まらない。

 歪み切った視界の中で、特攻した二人から血が舞うのが見えた――

 

 ――そこは見渡す限り何もない(・・・・)大地だった。

 そうだね…あそこまで躊躇が無いとは思わなかったよね…

 カルデアの者と名乗るのはやめようか…下手したらそれだけで殺しにかかられる。

 誰かと問われ、人に名を尋ねるときはまず自分が名乗るべきでは?と震える声でそう返すと同時に身を翻す。

 朱槍が地に突き立ち砂塵が舞う。

 俺を庇うようにライダーさんが前に出て鈴鹿御前が勢いよく踏み出た。

 金属同士がぶつかり合う、甲高い音が響く。

 一瞬の攻防の末に鈴鹿御前の体が仰け反った。

 出来上がる隙、差し込むように突き出された槍の前にカーミラのアイアンメイデンが防ぐように現れ、しかしそれごとぶち抜かれた。

 丁度胸のど真ん中、ああ、あれはもう助からないな。

 頭の冷静な部分がそう言い俺は反射的に令呪を発動させていた。

 頼む、ライダーさん。

 既に身体を失いかけていた鈴鹿御前もまとめて流星が全てを砕く――!

 激しい衝撃が身体を揺らし、煙がゆらりとたなびいた。

 これなら流石に無傷ではいられまい、ここで一気に片付ける。

 礼装を抜こうとして、しかし突然煙の向こうから投げられたそれに俺は気を取られざるを得なかった。

 首を貫かれた一人の女性…いや、ライダーさん。

 はぁ…?

 一体何が、そう思うより先に身体が飛び退いた。

 しかしそれでも間に合わず、飛来してきた槍は右足の先を消し飛ばす。

 ぐらりと体制が崩れる俺をアイアンメイデンを壁のように出現させながらカーミラが引きずり寄せる。

 だがそれすらお構いなしと言わんばかりに放たれたそれは俺を庇ったカーミラごと俺たちを穿ちぬいた。

 

 ――そこは見渡す限り何もない(・・・・)大地だった。

 え…ちょ、完全にこれラスボスだよね…?

 マジで宝具受けてノーダメージとかふざけてるだろ…

 再度問われる言葉に有無も言わさず力で返す。

 開幕宝具だ、消し飛べくそが。

 ダメ押しだ、と全員に令呪によるバックアップを発動する。

 巨大な魔力で編まれたカーミラの宝具が男を閉じ込める。

 同時にそれは無数の槍で砕き散らされ、そして鈴鹿御前がにやりと笑った。

 文殊智剣大神通――彼女がそう唱えるや否や宙には無数の剣が全て、あの男へと向けて放たれた。

 360度全方角から飛来するそれをしかしそいつは全てさばききる。

 ――だが、それでもまだ予想の範囲内だ。

 こっちにはまだとっておきがいる。

 高く、高く高く、どこまでも天高く昇った流星は、綺羅星の如く垂直に落下してきた。

 男は未だ鈴鹿御前の宝具を捌いている。

 避けようも防ぎようも無い。

 ―――死ね。

 蒼色の流星は、過たず男へと激突した―――

 激烈な破壊音と暴風、全てが晴れたそこに、男はやはり立っていた。

 だが流石に無傷とはいかなかったか、被っていたフードは吹き飛び左腕は酷く焼き焦げ身体は血にまみれていた。

 やれる、今なら潰しきれる。

 すぐさま礼装を抜いて、そこで俺は動きが止まってしまった。否、止めてしまった。

 その男は、あまりにも見覚えがあったから。

 事故同然で発動したレイシフト、一番初めの特異点。

 反転したアーサー王がいたあの世界で俺たちを助けてくれた人。

 ――クー・フーリン。

 いや、分かってはいた。そもそもサーヴァントと言うのは召喚される際余程強烈な記憶でもない限り次に持ち越されることはない。

 それに見たところクラスも違うの、あのクー・フーリンは俺の知る彼ではない。

 理解はしているがそれを処理しきるには少しの時間を要さざるを得なかった。

 だがそれを見逃す彼ではない。

 投げられた朱槍は真っすぐに俺の胸を穿ちぬいた。

 

 ――そこは見渡す限り何もない(・・・・)大地だった。

 うーん、まさかのクー・フーリン。

 もうキャスニキと呼ばせては貰え無さそうだな…ふへっと笑ってそう思う。

 いや笑ってる場合じゃないわ、いや本当に。

 正直な話全員の宝具を受けて尚全然戦えるだけの余裕があるとか本当に洒落になっていない。

 逃げあるのみ、だな。

 ではどうやって逃げるのか、それが問題である。

 礼装全部使いきっても逃げ切れる気がしないんだよな…

 しかしそれでもやるしかないのだ。

 やらなければならない、他の誰でもなく俺がやらなければならないのだ。

 ふらりとやってきた吐き気を抑え込んで前を向く。

 もう三度聞いた問いに、静かに答える。

 ――死にさらせ。

 答えると同時に発動した三重結界がまるで紙のように破られ紙一重で鈴鹿御前が朱槍を受けとめた。

 目と鼻の先で刀と槍が交差する。

 一瞬だけできた隙、間に合うかどうかはほぼ運任せだった。

 指先からガンドを放たれる。

 赤いような黒いようなそれはクー・フーリンの首元を掠めて飛んでいく。

 だがそれで充分だった。カルデアの礼装魔術は優秀すぎるくらいに優秀だ。

 掠っただけでそれは効果を齎す。

 酷く驚いたように目を見開くクー・フーリンを余所に令呪を発動させる。

 ――俺を連れて、逃げろ!

 ライダーさんが俺を肩に担ぎ走り出し、鈴鹿御前とカーミラがそれに続く。

 今にも動き出しそうなクー・フーリンに向かって煙幕代わりにルーンストーンを勢いよくぶちまけた。

 色とりどりの閃光、爆発。

 多少の足止めにはなったのか、既に彼の姿は遠目で何とか見える程度だった。

 しかしそれでも足は緩めず突っ走ってもらう。

 瞬間、赤い閃光がカーミラの胸を撃ちぬいた――

 違う、槍だ、クー・フーリンの、朱槍――

 令呪を発動してカーミラの傷を癒す。

 同時に鈴鹿にカーミラを背負うように伝えて礼装を発動していく。

 おら、暴れてこい――! 

 礼装から勢いよく猪どもを解放していく。

 爆音と共に猪どもは走り去っていき、数分の後に礼装が砕け散る。

 だけど足止めにはなったはずだ、それに、もうだいぶ遠くまで来た。

 何とか撒けたか…

 ――何だ、もう終わりか?

 ほっと息を漏らしながら得た安堵はすぐさま崩れ去った。

 もう、追い付かれた――!?

 逃走のみに令呪を使ったんだぞ、ありえない、ありえない、ありえない。

 真っ白になった思考を取り戻させるようにライダーさんがクーフーリンの槍を弾く。

 力負けして後ずさるライダーさんは俺を鈴鹿御前の方に投げ捨て、逃げなさい、とそう言った。

 つまり彼女は足止めをする、ということだ。

 相手が並みのサーヴァントなら、安心して任せられたかもしれない。

 何なら撃退までしてくれることすら望めた。

 しかし今回は相手が違う。

 あれは間違いなく聖杯持ち(・・・・)だ。

 ライダーさんでも、逃げ切れるだけの時間を稼げるかどうか分からない。

 判断しきれない俺を余所にカーミラが杖を突きながらほら、行きなさい、と背中を押す。

 俺もそこまで鈍くはない、カーミラもまたライダーさんと時間を稼ぐと言っているのだ。

 迷いは一瞬だった。令呪を発動させて二人を強化した後に鈴鹿御前に背負われる。

 任せた、と一言だけ伝えて駆けだした。

 激しい戦闘音は、みるみると遠ざかっていきやがて聞こえなくなった。

 

 

 息を切らすころに到着したのは小さな街だった。

 カルデアとの通信を何度も試みるがまあいつものように繋がらない。

 いや、正確に言えばいつもよりはちゃんと繋がっているが声があまりに遠い。

 さっさと回線を安定させないといけないな…

 まあでもその前に身体を休めたいな、と何も考えずに入った瞬間一発の銃声が響いた。

 足元から煙が上がる、わざと外された…

 鈴鹿御前が俺を守るように前に出る。

 ここは敵だらけかよ…軽く舌打ちしたところで声だけが響いた。

 ――君たちは、敵か味方か――

 

 

 響いたのは若い男の声だった。

 つーか敵か味方かって随分アバウトな聞き方だな…

 だがどちらかと聞いたということは少なくとも味方になれる可能性がある、ということだ。

 どう答えるべきか幾らか悩み、そして少なくとも敵ではない、そう伝える。

 思案するような間が空き、上から何かが降ってきた。

 金の短髪にガンマンのような恰好をした少年がギラリと銃を向ける。

 君たちは東でも西でもない、ということでいいのかい?

 そう尋ねた少年にまず東とか西とかどういうことなん?と、彼の問いにまず問われている意味が分からない俺は悉くはてなマークを浮かべていく。

 噛み合わない会話。

 呆れ果てていく少年。

 流石に敵ではないだろう、と奥から出てきた緑づくめの男の言葉によって俺たちは彼らに事情の説明を受けることになった。

 

 

 この時代は三つの勢力に分断されていた。

 クーフーリンオルタ率いるケルト軍。

 大統王なる存在率いる機械兵士軍。

 そしてこいつら、レジスタンス。

 といっても他二つに比べればレジスタンスは戦力不足もいいところらしい。

 ということでうちに来なよ、と金髪の少年が手を差し出した。

 まあ話を聞いた感じレジスタンスに入った方が良い気はする…つーかここで他のとこいくわなんて言ったら撃ち殺されるよね…?

 流石にこんなところで死ぬわけにもいかない。二つ返事で入ることを決めて手を握りよろしくしようとしたところで自己紹介タイムが始まった。

 

 

 金髪の方はビリー・ザ・キッド。

 緑の方はロビン・フッド。

 彼らは簡潔にそう名乗った。

 ほーん、キッドにロビン、ねぇ…

 いやちょっと待ったとんでもないビッグネームじゃねぇか!?

 あんまりにもさらっと言うから思わず流しちゃうところだったじゃん…

 ついでにレジスタンスにはもう一人サーヴァントがいるらしい。

 名前はジェロニモ。うーん、聞いたことあるような無いような…

 まあ思い出すのは今でなくても良いか、そう結論付けて今後どうするのかを話し合う。

 俺としてはさくっと聖杯を回収したい。そんでもって話を聞く限りやはり聖杯を持っているのはクーフーリンだ。

 なら大統王とやらと手を結ぶことはできないのか?

 難しいがやってみる価値はある。けれどもその前にもう一つ見せたいものがある、と俺たちを一件の家の中へと案内した。

 

 

 そこには、酷く衰弱した一人のサーヴァントがいた。

 燃ゆるような赤い髪に鋭い瞳。体中にある酷い傷跡。

 名を、ラーマと言った。

 驚きに目を見開く。

 ラーマと言えば大英雄といっても過言ではないだろう。

 インドにおける二大叙事詩の内の一つ、ラーマーヤナの主人公である。

 そもそもの話インドの神話はぶっとんでるのが多い、その中の主人公である、実力は破格といっていいだろう。

 どうか治すことはできないだろうか、と言われ状態を詳しく見ていくが傷はあまりに深く、生きていることが不思議なくらいだと言わざるを得ない。

 ドクターたちに持たされた治療用スクロールを使い多少の回復は見せるがあまり変わったようには見えない。

 鈴鹿御前曰く、これはただの傷ではなく呪いのようなものだ、と言う。

 呪いの主、つまりクーフーリンをぶっ殺すのが一番早い、とかなんとか。

 そもそもラーマが生きているのはこの時代がぐらついているからだとか。

 本来死んでなければいけないほどの傷を受けて尚生きているのはこれのお陰であると。

 おぉ…いきなり頭の良さげなところ見せやがって…お前に抱いていた印象がらっと変わったぞ…

 照れくささを隠すように見栄を張る鈴鹿御前をはいはいと流し、そして他に方法は?と尋ねる。

 何故なら正直な話今戦っても勝てる気がしない、というか殺される未来しか見えないからである。

 しかし鈴鹿御前は頭を捻る。良い案は無さそうだ。

 参ったなぁ、手詰まりか、そう思ったところで聞きなれた電子音が鼓膜を刺激した。

 やっと繋がった!とDr.が喜色を浮かべる。

 こんなに直ぐに繋がるなんて珍しい、と目を見開いていたらダヴィンチちゃんがどや顔をしていた、シンプルに腹が立つ。

 だがまあそれも置いておいて現状を説明しようとしたところで事態は把握してると先手を打たれた。

 通信はできなかったもののモニタリングはギリギリできていたらしい。

 俺一人のサポートに全員が全力を尽くしたからだとかなんとか。

 むしろそこまでされないとモニタリングすらできない俺って何なのだろうか…確実に呪われている…

 とまあ、そんな俺はさておき、Dr.たち曰く、そこまでぐらついている世界ならばラーマにかかっている呪いの因果もまたぐらついているはずらしい。

 何かで強化させることができれば呪いは解けるはずだと。

 何かでって何で…という話なのだが生前のラーマを知っているやつがいれば何とかなりそうとかなんとか。

 お前の知り合いとか来てないの?敬うのが面倒になった俺はそんな風に雑に言えば彼の妻もまたここにきているという。

 え…でもそれって大丈夫なの?

 ラーマの妻と言えばシータ以外にはあり得ない。

 だがこの二人は叙事詩通りなら互いに”喜びを分かち合えることはない”という呪いをかけられているのだ。

 そしてその呪いによってラーマはシータを追放し二度と会えなくなった。

 …サーヴァントと言うのは伝承や物語がそのままスキルや宝具、また彼らを縛る呪いにもなりうる。

 もしこの呪いがサーヴァントである彼らをも縛るとしたらそれは果たして上手くいくのだろうか?

 若干の不安が頭をよぎるがぐっと押し込める。

 取り合えずラーマとシータを会わせることで意見が一致したが同時に問題も浮上してきた。

 まずは町の警護、他のレジスタンスの連中でもどうにかなるがやはりサーヴァントがいないと苦しい。

 次にシータのいる場所を把握できていない、これでは動くに動けない。

 うーん、詰みじゃね?誰もがそう察した瞬間であった。

 仕方ないから近くの町を制圧しつつ情報集め、かな…

 まあ、そうなるよね…と言った具合で会議は終了した。

 

 誰かに呼ばれている。

 何度も身体を揺すられていることに気づきようやく身体を持ち上げた。

 疲れてるから…もう少し寝させろよ…と不快感丸出しな眼で俺を起こそうとしていた鈴鹿御前を見る。

 だがそんな視線を意にも解さず早く、敵が来た、と短くそう言う…

 マジかよ…ごめん…

 すまんかった、と謝り魔術礼装を手早く着込み外に駆けだした。

 方角と距離をDr.から聞き遠見の魔術で見る。

 …めちゃくちゃ多いな…一つの街を制圧するにしては多すぎる。

 だがこちらには三人の戦えるサーヴァントがいる。勝機は十分だ。

 それにロビンが俺なら罠だけで6割は削れる、とどや顔で言い放っていたからきっと大丈夫だろう。

 接敵するまでもう少し、俺は静かに礼装の刀を握りしめた。

 

 

 硝煙が燻り怒号と金属音が跳ねまわる。

 ここに来てからやっとこさまともな実戦である。

 さっきはいきなりボス戦だったからね…

 気を取り直していこう、と再度柄を握りしめて鋭く抜刀。

 甲高く、耳に残る鋭い金属音が鳴り響き、俺の刀だけが吹き飛ばされた。

 …は?

 振り切ろうとした右手が痺れている。

 真っ白に染まった思考と共に振りかぶられた槍が真っすぐ俺を貫いた。

 

 硝煙が燻り怒号と金属音が跳ねまわる。

 ちょっと待って、強くない?

 何?何なの?こちとら魔術で身体を強化した上、武器に礼装を使用しているんだぞ?

 おかしいだろ…

 取り合えず普通に打ち合ったら力負けするということは分かった。

 俺は学習するんだ…!

 鞘に入れたまま振りかぶられた槍を受け流す。

 相手が上手いのか、はたまた俺が下手なのか歪な音を立ててスライドさせた槍を片足で踏みつけ地に押し付ける。

 一瞬動きを止めた男のこめかみに柄を打ち付けてから抜刀。 

 同じ軌道を描いて首を切り捨て…れない!?

 刃は半分ほどまでしか食い込まず、獣のように吠えた男の槍がずるりと俺の胸を突き貫いた。

 

 硝煙が燻り怒号と金属音が跳ねまわる。

 何だこれ、何だこれ…

 何だよあいつ…何で一発頭に貰っておいてすぐに次の攻撃に対応できるんだよ…

 化け物じゃねぇか…

 片手に刀を、もう片手に木刀を握り走り出す。

 振り下ろされた槍を刀で受け流して勢いよく木刀をぶち込む。

 魔力で強化をしたそれは眼球ごと頭を貫いた。

 迷うことなくそれを手放して勘だけでその場から飛び退こうとして右足を槍が深々と貫き地に食い込んだ。

 焼けるような痛みを感じる間もなく数本の武器が身体を飛び出した。

 

 硝煙が燻り怒号と金属音が跳ねまわる。

 速攻だ、速攻で片を付けていく。

 両手足にのみ強化を回して対峙する。

 振りかぶられた槍をいなして脳天へと刀を突き立てた。

 強化されたそれはほとんど感触を俺に伝えることなく貫き音も無くそのまま身を引き裂いた。

 瞬間何かが熱を残して腹を抜けていく。

 ドプリ、と色濃い赤があふれ出た。

 咄嗟に片手で抑え乱暴に刀を振り回し弾き飛ばされる。

 突き出された槍は、すぐに俺の視界を埋め尽くした。

 

 硝煙が燻り怒号と金属音が跳ねまわる。

 これ倒す云々より先に鈴鹿御前と合流した方がいいやつだよね(真顔

 いや既にはぐれてた上に見失ってるんだけどさ…

 仕方がないのだ、確かにロビンは敵の6割がたを排除したがそれでも尚混戦になるほどに敵は多かった。

 それに加え敵は所謂"ケルト兵"。一人一人が俺と同じかそれ以上の実力だ。

 一瞬一瞬が死を孕んでいる。

 ルーンストーンを周りにばら撒き爆発させる。

 即座に展開したヒュドラダガーで浅く肌を切りつける。

 この礼装ならばこれだけで充分なのだ。

 ヒュドラの毒はかつてヘラクレスすら蝕んだ猛毒。

 サーヴァントにすら通用するこれはケルト兵の命を一瞬でかっさらう。

 だけどこれ扱いが難しいんだよね…リーチ短いし…

 大きく振られた槍を躱しながらダガーを戻して刀を展開しなおし頭を貫く。

 噴き出す血がかかるのも気にせず引き抜きながら鈴鹿御前を見つけ出す。

 思いのほか近い。彼女も彼女で俺の元に来ようとしていたが群がるケルト共に阻まれ上手くいっていないようだった。

 まあそれでもあっさりと確認できたのはラッキー、そう思ったことで一瞬気が緩んだのか、酷い衝撃と共に槍が俺の腹を貫いた。

 槍を掴み引き寄せ頭を切り落とす。

 次いで槍を引き抜こうとして頭にがつりと衝撃が走った。

 視界が安定しない、鈴鹿御前の怒声が聞こえた気がした――

 

 硝煙が燻り怒号と金属音が跳ねまわる。

 まあ五、六回のコンティニューなんて当然ですよね?

 首を撥ねた死体を盾のようにして刃を受け止めその上から強化した刀で貫く。

 苦し気にくぐもった声を耳に入れながらルーンストーンを口にねじ込み爆破。

 四散した肉体と血飛沫を背に礼装を銃に入れ替えて放つ。

 弾丸が額を撃ち抜くと同時に数本の槍が胸を貫いた。

 

 硝煙が燻り怒号と金属音が跳ねまわる。

 分かってたけどやっぱり正攻法じゃ無理だよね(真顔

 ケチケチしてても仕方ないな、と令呪を直ぐに切る。

 蹴散らせ、鈴鹿御前――!

 瞬間、彼女の魔力が爆発的に膨れ上がる。

 ―音に聞こえし大通連―

 無数に別れた剣は空に群がり、雨の如く"敵のみ"を穿ちぬいた。

 さっきも見たけどマジでえげつねぇなこいつの宝具…

 思わず真顔になりながら、それでも彼女を労おうと肩を叩いたその時レジスタンスの一人が大きく叫んだ。

 敵の援軍――

 馬鹿じゃん…

 ショックで遠のく意識を引っ掴んで取り戻す。

 俺の名前を呼ぶビリーとロビンの目を見て強く頷く。

 瞬時に振り返りビリーが逃げるぞ!と号令を出し礼装を取り出そうとした俺は鈴鹿御前に担がれた。

 自分で走れるから降ろせ…!

 そう途中まで言ったところで担いだ方が早い、と言葉を被せられた。

 ぐぬ…確かに…

 でもそれならもう少し優しく持ってくれない?肩が鳩尾に刺さるんですよ…

 お前らサーヴァントと違ってこちとらただの人間なんだから…やわなんだぜ…?

 そう言えば文句が多いわね、と一蹴されて勢いよく風を切り始めた。 

 くっ…こんな時ライダーさんならもっと優しく丁寧に持ってくれるというのに…!

 あのカーミラですらもう少し丁重に扱ってくれるというのに…!

 文句を重ね続けた結果両腕で前に抱きかかえられた。

 いやこれ所謂お姫様抱っこ…

 無駄に恥ずかしいからやめない?そう提案するも無言で却下。

 俺は両手で顔を隠した。

 おう、Dr.、笑い声もれてっからな、戻ったら覚えてろよ…

 ――そんな茶番をしていたからだろうか、先頭を走っていた俺たちはそれに気づくのが遅れた。

 乾いた銃声は空に響き、腹が血で濡れる。

 眼前にはいつかのロンドンを想起させるような機械化兵士の群れ。

 一難去ってまた一難…ってところか。

 いや難来すぎじゃね?

 機械化兵士たちの間から出てきた英霊と思われる男を見ながら俺はゆっくりと血を吐いた。

 

 

 ――そんな茶番をしていたからだろうか、先頭を走っていた俺たちはそれに気づくのが――

 いや今度は遅れないから。

 熱が昇っている顔から手を離して素早く礼装を展開させた。

 来るとこが分かってりゃ弾くことくらいはできる。

 展開させた礼装――アゾット剣をそっと腹を守るようにそっと置く。

 同時に激しい銃声が響き、金属音と軽い衝撃が身体に走った。

 上手く弾けたな…すぐに身を起こして地面に立つ。

 Dr.が急に魔力反応が出てきた!?と動揺しているのを聞き流しながら俺たちを囲むように軍を展開させている機械化兵士たち、その奥を睨みつけた。

 流石の俺もいい加減わかる。

 このいやーな感じの悪寒はあれだ、サーヴァント。

 はて、今度はどんな凶悪なのが出てくるんだろうか、できれば大したことないやつだといいなぁ…

 いや英霊に大したことのないやつなんていない、か。

 くそったれが、英雄なんて大層なもんならささっと世界を救ってくれよな、何て思っていたら、現れたのは巨大な槍を持つ白い髪の美男子だった。

 

 深く、美しい緑の眼をしたその男は突然の非礼を済まない、と一言詫びた後に自分たちに着いてきてほしいとのたまった。

 いや、正確に言うのならば”カルデアから来た俺たち”に来てほしい、と。

 俺たちのことを知っている…?

 何だか嫌な予感がするな…

 ひしひしと感じる悪寒を振り払いながら条件がある、と伝える。

 何、そんなに難しいことではない。

 ――すぐそこの町の奪還に協力してくれ。

 

 

 カルナ、と名乗ったその男はしばしの熟考の後にどちらにせよ通り道か、と呟き協力を引き受けた。

 …おん?カルナ…?

 とんだビッグネームじゃん…ラーマと並ぶぞ…

 アメリカだというのにどうしてこんなにインドの英霊が集まっているんだ…

 もう少しビリーとかを見習ってほしい。

 というかこんなのを手下にしてる大統王何者だよ…

 絶対やばいやつじゃん…

 あぁ、会いたくねぇなぁ、そんなことを思いながら急遽組まれたレジスタンス・機械化兵連合は占領されかけていた町へと突撃をかけた。

 

 

 一瞬の出来事だった。

 街を埋め尽くさんばかりに数を増やしたケルトの兵どもは一瞬にしてその姿を消し飛ばされた。

 ”施しの英雄カルナ”インド二大叙事詩の一つ『マハーバラタ』にて語られる大英雄。

 不死身とすら謳われた彼はまさしく最強の名が相応しい英雄だった。

 いや本当マジでやばいってあいつ、蟻か何かかお前ら…と現実逃避したくなりそうになるほどいたケルト兵を眼に見える速さで消し飛ばしていくのだ。

 何だよ目からビームとか…不覚にもときめいたじゃねぇか…

 まあとりあえず絶対に敵に回してはいけないな、と心に刻んだ俺は圧し掛かるプレッシャーに具合を悪くしてゆっくりとため息を吐いた。

 

 

 今だけはレジスタンスに手を出さない、という条件を付けくわえた後に彼らと別れた俺と鈴鹿御前が案内されたのはホワイトハウス…ではなくアメリカにはあるまじき城塞だった。

 え…何これ…大統王とか言うくらいだから当然住居はホワイトハウスしかないよな…ふふ、まさかあのホワイトハウスに踏み込めるとは…!とか内心ワクワクしていた俺の気持ちを返してほしい。

 物々しい機会兵たちの横を通り過ぎ武骨ながらもしっかりとした作りの城に入り込んだ俺たちは一等大きく豪勢な部屋、つまり玉座まで案内され少しの待機を言い渡された。

 すぐ来るからちょっと待ってて、とか雑過ぎない?俺たちがここで暴れだしたら、とか考えないのだろうか、とも思ったがあのカルナがいる時点でそんな心配も杞憂だな、と一人納得する。

 少々癪ではあるけれども…と苛立ちを抑えていたところで待たせたな!と居室を震わせるほどの大声が響いた。

 

 そこにはいたのはライオンだった。

 もっと正確に言えばライオンの頭を持った人間…英霊だった。

 えぇ…何なのこいつ…流石に予想外すぎるんですけど?

 ライオン頭の英雄なんていたっけ…?

 動揺する俺を余所にその男は自らを”トーマス・アルバ・エジソン”と名乗った。

 う、嘘だ!絶対嘘じゃん!えぇぇぇ信じたくねぇ…

 マジで?本当の本当にあの発明王なの?

 カルデアに来てから無駄に知識をため込みすぎたせいでギャップが凄い…

 英霊ってのは本当に想定の斜め上をぶっちぎるやつが多いな。

 けれども今回ばかりはちょっと信用しづらいんだよなぁ…通信機越しのDr.ですらエジソンとライオン…?と頭を捻っているレベルなのだ。

 うぅむ…と唸っていたらエジソンの後ろにいた小柄な女性が"彼は正真正銘、トーマス・アルバ・エジソンよ"と語った。

 いや誰だお前は(真顔

 そんな俺の心の声が漏れていたのだろうか、彼女は少し笑った後にエレナ・ブラヴァツキーだと言った。

 …あぁ、"ブラヴァツキー夫人"か。

 マハトマとかハイアラキだとかに接触したとされる神智学の祖。

 でたらめだとかインチキだとか言われていた記録もあった気がするがこうして英霊としてこの場にいる以上恐らくそれは本当のことだったのだろう。

 元から小柄なのが大男であるエジソンと並んでいることで更に小さく見える。

 ただでさえ強烈すぎるインパクトを持ってきたエジソンの後だと何か…印象を薄く感じてしまうな。

 なんて失礼なことを考えていたらさっさと本題に入りましょうか、とさくっと話が始まった。

 因みになぜカルデアのことを知っているかと言えばテスラに煽り混じりで教えられたらしい。何やってんのあいつ…

 

 端的に言えば仲間になれ、という話だった。

 エジソン側もまた戦力が圧倒的に足りていないとか何とか。

 兵たちを全員20時間以上働かせてようやく均衡を保ってはいるが一時的なものでしかなく、若干競り負けてすらいる、と。

 まあ、ここまでなら全然おっけーだった。超ブラックじゃん…こわ…労基に訴えんぞ…となるだけで、まあ協力しようか、となるところだった。

 問題なのはこの後だったのだ。

 エジソンはこう語った。

 "人理を修復する気はない"と。

 それだけでもうはぁ?何言ってんのお前、死ね?案件な俺に彼は慌ててこう付け加えた。

 "人理焼却は防ぐつもりだ"と。

 少しの時間を要して俺はその言葉の意味を理解した。

 つまりこいつはあれだ、"アメリカ"という国、時代しか守らないと言っているのだ。

 この時間以外の時代を滅ぼしてこの時代だけは守る、とそう言っているのだ。

 …こいつは自分が言っている意味をちゃんと理解できているのだろうか?

 あんまりにも意味が無さすぎると思うんですけど…

 エジソンは"人理を焼却しようとしているやつが与えた聖杯"で"人理を焼却しようとしているやつ"からこの時代を守る、と言っているのだ。

 …最高に頭悪いじゃん…本当にあのエジソンなのだろうか…

 100回失敗しても101回目で成功すればいい、という言葉があるが今回ばかりは何度やっても無意味だ。

 成功が最初から無いのは無意味以外の何物でもない。

 Dr.もまたエジソンの言い分に"己の正しさのみを信じて国を動かした人は碌な目に合わないんだよなぁ"と批判の言葉を漏らした。

 何か…セリフに随分重みがこもってんな…と思いつつも歴史を鑑みればまあその通りなのだ。

 と、いうことで、その話は断らせてもらおう。

 …と言いたいところではあったがグッと呑み込んだ。

 何故なら俺には"断る"という選択肢は最初から存在しないのだ。 

 カルデアだけではクー・フーリン率いるケルトに勝ち目が無い。

 レジスタンスと組んでも勝利が見えない。

 だから、エジソン側と組んで勝ちを掴むしかないのだ。

 もっと正確に言うならばレジスタンスと、エジソンたちが組んでくれないといけないのだ。

 それほどまでに、敵は大きく、強い。

 それにまああれだ、英霊三人に囲まれて"いやお断りだわ"とか言えるほど死にたがりじゃないんで…

 でもここであっさりとおーけーしちゃうのもあれなんだよな…

 仮にも俺はカルデアから人理の修復目指してここにきているのだ。

 立香くんならばしっと断っちゃうんだろうなぁ、そこまで考えてやっぱり俺は立香くんにはなれないわ、とカルデアとの通信機を破壊した。

 Dr.の動揺したような声がかすれて消える。

 すまんなDr.そう呟いてから俺はゆっくりとエジソンの手を取る。

 鈴鹿御前が驚いた声と共に俺の肩に手をかけるがその手をそっと掴んで目を合わせる。

 今は俺に従ってくれ。

 俺の意志は上手く伝わったのかは分からなかったが鈴鹿御前ははぁ、とため息を吐き手を引いた。

 エジソンが嬉しそうに笑い握手した手をぶんぶんと振る。

 ブラヴァツキー夫人が残念そうに俺を見るのが、少し印象的だった。

 

 

 ここに来てざっと一週間と四日、状況は思いのほか最悪だった。

 確かにギリギリのところで均衡を保っているとは言っていたがもう少しいい勝負をしていると思っていたのが間違いだった。

 マジでギリギリのギリだよこれ…

 というか日を追うごとに劣勢になっていってますねぇ…

 毎日の戦果報告を聞くだけで頭痛がするレベル。

 協力することになってからもう一週間は経ったがこのままじゃ普通に負けちゃうんですけど…

 そもそも敵ってどこから湧いてきてんの?と聞けば敵の持つ聖杯で無限に生産されているとかなんとか。

 いや無理じゃん…

 それだというのにエジソンは根拠のない自信に満ち溢れているし何なんだろうか。

 そしてそんな彼がおかしいと分かっておいて何も言わずに従っているカルナにブラヴァツキー夫人。

 なに…何なのこれは…戦う以前に内部に問題抱えすぎでしょ…

 どう考えても先にこっちを解決しないとダメな奴じゃん…めんっどくせぇ…

 この意味わかんない状況どうすればいいと思う?鈴鹿御前に聞けば私にはお前のことが一番意味わかんねぇわ、とそっぽを向かれた。

 え…めっちゃ塩対応…

 何でそんなに怒っているのだろうか、やっぱカルデアの使命を無視して協力していることだろうか。

 許してくれないかなぁ、無理だよねぇ…

 でもあの何かに取り憑かれた(・・・・・・・・・)かのようなエジソンに正気を取り戻させるにはぶったたくのが一番早いと思うんだよなぁ…

 今のままだと話すら通じない感じだし。

 そうなってくると俺一人だと荷が重いなんてレベルじゃない、荷に潰されるレベル。

 まあでも今はまだ行動に起こすべき時ではない。

 そうだな…せめて協力してくれるサーヴァントが一人欲しいところだろうか。

 ということであれだね、うん。

 ブラヴァツキー夫人に味方になってもらおう。

 

 エジソン一緒にぶん殴ってくんない?

 素面でそう言い放った俺に彼女は紅茶を勢いよくぶちまけた。

 ちょ、なまぬる…

 カルデアの真っ白な制服が若干茶色に染まっちゃったじゃねぇか…

 戦闘用の服に着替えればいいとは言うがあれピッチピチでちょっと恥ずかしいんだよ…

 いや戦闘時は絶対着るんだけどね?

 おっと話がずれてしまったな、と謝罪と共に渡されたタオルで顔を拭きながら返答を待つ。

 そんな俺を見て彼女は何を思ったのか貴方ねぇ…と何故か説教が始まった。

 曰く、そんなことを突然言われて協力する奴はいない、と。

 曰く、何ならその場で殺されても文句は言えない、と。

 いやまあ、そんなことは分かってはいるけど…

 これ以外に平和的な方法が無いじゃん?

 それに加えて俺は別にエジソンをぶっ殺すって言ってる訳ではないのだ。

 妙に狂ってしまっているエジソンの頭ぶっ叩いて正気にさせる手伝いをしろと言っているのだ。

 充分考慮した結果なので是非検討いただきたく…と今さらながら下手に出まくり敬語を使ってみたが絶望的に似合わないからやめろ言われた、解せぬ。

 だが結果として彼女は協力するとは言ってくれた。

 最高の結果である。

 やったぜ!とその場で叫んだらやめなさい!と一喝されたがそれはご愛嬌。

 つーかこんなあっさりと上手くいくなら通信機潰した意味なかったね…

 カルデアをちゃんと裏切ったからね!というパフォーマンスのつもりでやったのだがやっぱりその場の思い付きはダメだなぁ…反省しながら俺は自室…ではなく鈴鹿御前の元へと向かった。

 いやほら、いつまでも拗ねられてるもあれだし、ね?

 

 よう鈴鹿御前!いるぅ!?と、緊張していることを忘れようと無理にテンションを上げて彼女の部屋の戸を力強く開ける。

 あん?と不機嫌に対応されるも想定内だ、と自分に言い聞かせて口を開く。

 エジソンをぶん殴るから着いてこい、と。

 瞬間、彼女は酷く目を見開いた挙句JK設定を忘れてしまったようで間延びも無くふざけも混じらない言葉でどういうことかと説明を求めてきた。

 お前はカルデアを裏切り人理の修復を諦めたのでは?と。

 うぅん、無駄なパフォーマンスが無意味な勘違いを引き起こしちゃったやつだよこれ…

 あれのお陰でエジソンや一般兵士たちとはすぐに打ち解けることに成功したが彼女の信頼を地にたたきつけちゃったみたいだからなぁ…

 プラスマイナスで若干のマイナスだよ…

 だがまあ、俺がカルデアを裏切るわけがないのだ。

 というか俺に誰かを裏切るような根性とか無いから、いやマジで。

 真顔でそう言い放てば彼女は口をぽっかりと開いて動きを止めてしまった。

 え、何それ驚きすぎじゃない?

 どんだけ薄情な奴だと思われてたんだよ俺…

 あまりの悲しさに涙をこぼしそうになっていたらそれならそうと先に言ってよ!?と肩を掴まれぶんぶんと身体を揺らされる。

 だって…この城どこで誰が聞いてるかも分らんし、それに念話もあのブラヴァツキー夫人ならジャックしかねないと思って…

 一応ちゃんとした理由ありきで動いてたんだよ…と言えばぐぅぅ、と唸りあーだのこーだの言うがいやでも…とすぐに自己解決していく。

 この女結構面倒くさいな…そう思ったがそれ以上に聡明で、尚且つくそ真面目ちゃんだな、と認識した。

 マジで何でJK!とかやってるんだろう。多分今の自分を冷静に思いつめたら「私何やってんだろう…」って死にたくなっちゃうタイプの子だよこれ。

 数多の黒歴史を持つ自分から言わせてもらおう、やめとけ…その設定だけはやめとけ…

 何、JKなるものを否定しているわけではないのだ。

 そのカテゴリに収められる人間たちは他から見れば輝かしく見えるのも間違いではないし、それに憧れるも悪くはない。

 だけどさぁ…そんな本来の自分を押し殺してまでそれになり切るのって何か意味あるの?と思うのだ。

 人は変わろうと思ってすぐ変われるものでも無いのだ。

 いや、変わろうと努力するのは良いんだけどその結果出来上がった自分を受け止め切れず目を逸らしちゃうくらいならやめとけって話だ。

 最高の恋がしたいとか何とか言ってたけれどそんな無理して作った自分を好きになった相手と最高の恋ってやつはできるの?

 本当の自分ってやつを好きになってくれた相手の方が良くない?

 …あれ何の話してたんだっけ…

 いつの間にか英霊に説教染みたことを語るぱっとしない男がいた、俺である…

 や、やべー、調子乗り過ぎちゃったやつだよこれ…

 接しやすくするためにも元の冷静真面目そうな性格の方が良いなぁ、という俺の願望も見え隠れしちゃってるし…

 殺されても文句言えねぇよ…と土下座をかまそうとした瞬間鈴鹿御前の目の端から涙がポロリと零れた。

 あ、あぁぁぁ…泣かせちゃったよ…

 おいおいどうすんだよこれ、もう死は免れないよ?と頭の中がサイレンがけたたましく鳴りまくる。

 同年代(の外見)の女子が泣いてる場面とか遭遇したこと無いからどうしていいのか分からないんですけど…

 あたふたと動揺する俺を余所に彼女はどんどんと涙を流していく。

 お、おおおお落ち着け、これだけ言っておいてあれだけど俺の価値観、考えでしかないから、ね?落ち着いて?

 落ち着いてよぉぉぉ!と心中叫びながら動揺していたら目元を服の袖で拭いまくるのが目に入る。

 取り合えずハンカチ渡しておくか…

 俺の見事な女子力を見せつけながらそっと渡せば流れるように奪い取りズビーッ!と鼻をかんだ。

 お?もしかして喧嘩売られてる??

 とことん付き合うぞ?と思うも未だに目を赤くはらした彼女を見ればそんな気もどこかに行ってしまう。

 まあ泣かせたの俺だしな…

 そうしてしばらく泣かせっぱなしにした後にようやく彼女は泣き止んだ。

 ハンカチとか既にデロッデロである。

 ここじゃ洗濯できないし持って帰るころにはもう駄目になってるねあれ…

 しかし数少ない自宅からの持参品だ、カルデア自慢の科学力でどうにかしてもらおう。

 そんなことを頭の隅で考えながら鈴鹿御前と目を合わす。

 そしてそのまま土下座をしようとしたところで彼女は言った。

 私は本気でJKをリスペクトしているしこの生き方に誇りを持つようにしている、と。

 しかし俺のせいで不安が生まれてしまった、どうしてくれる、と。

 まあ何事も他人に口出しされまくると不安になるよね…うんうんわかるわかる。

 わかるわかる~、じゃないし!と拳を一発貰ったところで俺はゆっくりとこう言った。

 いやJKって別に全員が全員ギャルギャルしいわけじゃないし…

 別に物静かで真面目なJKもありじゃん…才色兼備、だけど陰のあるアンニュイなクラス委員長、とかどうよ?最高に性癖に刺さらない?

 そんなJKいたら思わず惚れちゃうって!絶対!惚れる!

 今なら俺の意見をゴリ押せるのでは?とさっと訪れた天啓に身を任せて口走る。

 いや言ってることは全て本音だし彼女のことを考えてはいるから…いや、勿論俺の接しやすさを第一に考えているのは否定できないんだけど…

 そんな俺を何故か鈴鹿御前はぽかんと見ていた。

 え、何その意外…!みたいな目つきは…

 そして徐にお前のこと信じていいの?みたいなこと言いだすのやめない?

 そうやって決定権を他人に託して良かったことなんてほとんどないんだぜ…

 目を遠くしながら言えば若干引かれながらもそれもそうね、と一人納得した彼女はしばらく悩んだのちにふんっ、と鼻息を漏らした。

 結果からいけば彼女は少しばかり自分の在り方を見直してみるらしい。

 まあ直せとは言わないしお好きなように…と、いやいや、だからこんな話をしにきたんじゃねーんだよ。

 こんな話!?雑に扱うなよ!?みたいなことを言われるが実際おまけみたいなものなのだ。

 というかほとんど口から出まかせみたいなものだったし…

 まあなんだ、俺の用件はただ一つ。最初に言ったことだけだ。

 ――エジソンを、ぶん殴るぞ。

 

 ブラヴァツキー夫人…いや、エレナはカルナはこちら側に着くことは無いだろう、と言った。

 まあ流石の俺もそれくらいは分かる。彼は決して自分が味方すると決めた存在を裏切るような真似はしないだろう。

 だけどまあ、別に敵対するという訳ではないのだ。

 強いて言うなら俺は戦争の結果を鑑みて陳情しにいくにすぎない。

 何、すぐに終わるさ、任せてくれ。

 

 足取りは軽く、カルナの部屋の扉をノックしてから押し開ける。

 ここにきてからカルナと話すことは少なくはなかった。

 もっと言えばこうして部屋に来ることも初めてではなかったりするのだ。

 よう、今良いか?と尋ねればもちろんだ、と返ってくる。この男は基本的に人を拒まない。

 ついでに言えば遠回しな物言いをしてもズバッと要点を切り抜いてくる男だ。

 ということでちょっとオブラートに包んで話を切り出した。

 明日、エジソン――大統王に陳情を申し出に行く。既に劣勢に押し込まれている上に市民の限界も近い、そのことを含めて事細かく改善されるように幾つか提案してくるつもりだ。

 この気持ちは中々に譲れない、それなりに長引くだろうし熱くなりすぎて少々うるさくなるかもしれないんだ。

 それでもこの話だけは邪魔されたくないし、決着をつけてしまいたい。

 だからさ、その間誰も入ってこれないように見張り番しててくれない?

 一応、万が一が無いようにエレナ達も連れて行くんだけどやっぱり少し不安だろう?頼むよ。

 薄っぺらいオブラートだな、むしろそれ本当に包めてる?と自分で言っておいて突っ込みたくなるような話に彼は少しの思考の後に良いだろう、と頷いた。

 いい結果を期待している、と変わらぬ表情のまま言い放つカルナにサンキュー!と礼してからまた少しだけ話して部屋を出る。

 上々の結果だ、早速報告だぜ!とエレナに伝えればえぇ…何こいつマジかよ…みたいな色んな感情の織り交ぜられた表情で見つめられた。

 その理解できない生物を見る眼やめない?ねぇ…と抗議するも華麗にスルー、その後何もなかったように話を詰めていたらそういえば、とぽつりと彼女が言葉を漏らした。

 言ってたっけ?と前置きしてから彼女は言った。

 何かこっちに一人サーヴァントを連れ戻しているところらしい

 …ん?いやちょっと待ってもう一人いるの?何それ聞いてない。

 あ、やっぱり?と彼女は軽く笑った、いや笑いどころじゃねーから。

 

 もう一人のサーヴァントは"ナイチンゲール"と言った。

 言わずもがな、”あの”白衣の天使!ナイチンゲールである!

 うっひょうこれは期待が高まる!と思ったのも束の間、彼女はぶっちぎりでイカれたサーヴァント、つまるところバーサーカーであった。

 いやマジで何なのあの人…

 人の面見た瞬間”治療!”とか叫んで顔面掴んできたんですけど…

 いやあちこちについた傷を放置してたのが許せなかっただけらしいんですけどね?だとしても勢いが激しいなぁって…

 まあ何はともあれやる気があるのも非常に高ポイントだ。

 だけどやる気がありすぎるのもどうかと思うの…

 だからピストル磨きながら執拗に俺を急かすのをやめない?

 こういうのはタイミングってものがあるんだよ…

 まだ全然準備が整ってないからね…

 俺のハイレベルなトーク力で宥めること数日。

 一緒に戦闘しに行った結果あなたは…と考え込んだ後に貴方も治療対象ですと言い始めてめたくそに虐められたがそれはそれ、これはこれ。

 治してみます!!と本気で宣言する彼女から全力で逃げつつやってきた決行日。

 寝ぼける俺を必死に起こそうとする鈴鹿御前と、シャキッとしなさい!と窘めるエレナ、そして早く起きろとビンタをかましてきたナイチンゲールとともに玉座の扉を押し開けた。

 因みにビンタした後はそっと冷えピタを貼られた、アフターケアもばっちりかよ…

 

 じゃあよろしく、とカルナに告げてからグッと扉に力を籠める。

 ギィィ、とそれっぽい音をあげながら開いた扉の先に彼はいた。

 獅子の頭を持った天才、トーマス・アルバ・エジソン。

 彼はゆるりとこちらに振り向き、そしてぱっと笑ってどうかしたかねと尋ねてきた。

 ちょっと話させてくれ、と三人を片手で制して前に出る。

 まあ、その、なんだ。

 今日はちょっと聞きたいことがあってきたんだ。

 ふむ?と不審な表情をするエジソンにかまいもせずに問いかけた。

 お前は今自分がやっていることを理解できているのか?

 本当に今のままでどうにかできるって信じているのか?

 なあ、よしんばケルトに勝てたとして、そのあとたかが聖杯で守り切れるって、そう思うか?

 俺には上手くいくとは到底思えない。

 いや、断言させてもらう、無理だ。

 けどそんなの言われるまでもなくあんたなら分かっているんじゃないのかよ?

 おい、何とか言えよエジソ――

 返答は言葉ではなかった。

 分かっている、そんなことは分かっているのだ、だがそれでも私は止まるわけにはいかないのだ!

 エジソンは泣くようにそう叫びを上げた。私がこの国だけは守らねばならぬのだ、と雄たけびをあげるのだ。

 その姿はまさしく狂気的で、文字通り取り憑かれたように、何かに突き動かされるように、彼は吠え猛った。

 

 爆音と共に加速した彼の拳が紙一重のところで頬を掠り抜ける。

 バチリ、と雷特有の音が鼓膜を打つと同時に激しい銃声が音を塗り替えた。

 ぐぅ、と彼が唸ると同時に背中を鈴鹿御前に掴まれ後ろに放り投げられる。

 ってうおぉぉ!?ざっけんなお前!?

 何とか受け身を取りながらゴロゴロと床を転がり態勢を整える。

 俺を避難させたかったとはいえ乱暴すぎない?

 隣に立つエレナがほら起きて、と見向きすらせずに言う。

 お前らはただの人である俺を何だと思っているんだ…?とも思うが口には出さずに立ち上がって戦況を見定める。

 ふむ…余裕だな。

 まあ当然ではあるのだが。 

 そもエジソンという人物には戦闘に関する逸話等存在すらしないのだ(ついでに言えば獅子に関しても)。

 今でこそ何故かあんななりであれだけの力を振るっているがこと殺し合いの経験で言えば俺の方が上だと言えるレベルだ。

 それ故に、戦況を操りやすい。

 その上でエレナの魔術によるサポートにも加わっているのだ、見ていて冷や冷やとはするものの完全に手玉に取ることが出来ていた。

 分かりづらく、しかし確実に気づかれるような細かな隙をわざと作りだしてからカウンター。

 動揺を隠すように雷が嘶き打ち消すように銃声が鳴り響く。

 返す刀で翻った剣の峰がエジソンの頭を打ち抜いた。

 ふらりと覚束ない足取りになった彼を追い撃つようにナイチンゲールが銃床が真っ白な獣毛に覆われたこめかみをぶち抜いた。

 カハッと空気の抜けたような声がエジソンから漏れ出たのを聞き逃すことなく二人は同時に彼を蹴り飛ばした。

 

 壁にもたれかかって息を荒くした彼の首元、その数ミリ横を刀が通り強い音と共に壁に突き刺さる。

 気を抜くことなく銃を構えるナイチンゲールの肩を叩き力を抜かせる。

 俺たちは確かにエジソンをぶん殴りに来たが決して倒しに、殺しに来たわけではないのだ。

 だからほら、鈴鹿御前も、殺気抑えろ。

 よーしよしよしよし、と頭を撫で繰り回してからバシッと弾かれた片手を擦りながらエジソンへと語りかける。

 そら、少しは浮いた熱も落ち着いたかよ。

 馬鹿みたいに叫び散らしていた彼はいくらか理性の宿した目をこちらに向け、しかしそれでも私は止まる訳にはいかないのだ、私が守らねば…とうわ言のように呟いた。

 こうなれば超人薬を…と震える手で懐から取り出した液体の入った瓶をスッと奪い取る。

 こんなもんに頼ったところで、だろ。少しは落ち着けよ、と飽くまで冷静にそう諭す。

 それを取り返す力もないのか彼は片手で幾らか空を掴み、そして軽く床を叩いた。

 ここで私が戦わねば誰が戦うのか!?私が!私こそが踏みとどまらなければ誰がこの国を守るというのか!

 私は、この国を行く末を託されたのだ!私の全てを傾けてでも、この国だけでも救わねばならぬのだ!と。

 託された…?少し引っかかったがそれはすぐに解消された。

 エジソンは、過去現在未来における”全て”の大統領に力と信念を託されたのだそうだ。

 つまりそれこそがエジソンの力の源の大半であり、彼を突き動かす”何か”であった、ということだ。

 何それこわ…というかそんなことできんだ…とあまりの驚きに思考を停止させられていたところをナイチンゲールの言葉がすっぱ抜いた。

 その割にあまりにも非合理的ですね、と彼女は言った。

 どういうことだと低い声を出すエジソンに彼女は続けて言った。

 ――勝てない。かのケルトの戦士たちは生まれてから死ぬまでを戦いに捧げた化け物だ。

 この時代の人間たちが抗うには差がつきすぎている。ましてや彼らは敵の持つ聖杯を元に無限に生み出されている。

 故に勝てない、勝てるはずがない。

 無限に繁殖する彼らに数で勝負する、という発想が既に間違っている。

 確かに大量に生産する、より安価で良いものを普及させるのが貴方の才能だ、だからこそ貴方はムキになってしまい、結果的に劣勢に追い詰められているです。

 有限の資材しかない上に同じ戦いをすれば勝つことはできない、当然のことでしょう。

 容赦なく、ナイチンゲールはズバズバとエジソンの心内を暴いていった。

 曰く、貴方のその願いは貴方個人のものではない、と。

 呪いのように残った大統領たちの願いであり貴方のものではない。

 イ・プルーリバス・ウナム。アメリカとは多数の民族から成立した国家であるあなた方はあらゆる国家の子に等しい。

 であるならばあなた方には世界を救う義務がある、そこから目を逸らして自分のことばかり考えるから貴方は苦しむのです。

 そして――――そんなんだから、かのニコラ・テスラに敗北するのです。

 最後のセリフが余程効いたのか、エジソンは一度ぐるりと目を回した後に断末魔のように高らかに鳴いて完全に倒れ伏した。

 …うん、俺いらなかったね…?

 ビクビクと痙攣しているエジソンに心なし柔らかく声をかける。

 そんでお前、結局どうしたいんだ?ん?何?自分が間違っていたことは認めるって?よーしよしよし、良い判断だ。

 やっとスタートラインだな、こっからが本番だ。

 一仕事終えたぜ…と汗を拭えばボソリと彼が弱音を漏らす。

 ここまで――ここまで市民を犠牲にしてきてやっとスタートか、手厳しいな、これは…これから、私はどうすれば良いのだろうか、としおしおうなだれる。

 えぇ…うっそじゃんお前自分の在り方すら忘れちゃったの?俺ですらそんなん学ぶまでもなく知ってたレベルなんだけど…

 仕方ないなぁ…と頭をかくとエレナがすっと前に出て言い放った。

 いつも通りで良いじゃない、と。いつも通り、失敗しても次に挑戦する。百回失敗したなら百一回目に挑戦する。

 何度も何度も繰り返して、周りに散々苦労を掛けて、そうしてちゃっかり立ち上がるのが貴方の生き方で、あなたの長所よ、と。

 そうだな…その通りだ、最終的に上回れば良い、が私であった…!としかしそれでも私は負け猫だとうじうじとし続けるエジソンにはぁ、とため息をつく。

 何だこいつめんどくーな、もう一発殴れば良いのかこれ?と思って袖を捲り上げればポン、と肩を叩かれた。

 カルナ――

 扉越しに全てを聞いていたであろう彼は優しくも厳しく彼を諭した。

 お前は道にこそ迷ったがそれでも目指していたのは正しいものだった、と。

 何かを打倒することでしか世を照らせなかった英雄(俺たち)と違って発明で人を救ってきて、最終的に世界を照らす光となっただろう、と。

 その希望、成果を糧にもう一度立ち上がれ、現状は最悪だが終わりではない、と。

 どうして英雄ってのはこうもかっこいいことを憶することも照れることもなく言えるんだろうな?

 何はともあれエジソンは再び立ち上がった。

 迷惑をかけた!と謝る彼に二人(エレナとカルナ)は友人なのだから構わないと笑った。

 その光景を前にふと吐き気がした。

 ふらりとする俺をどうしたのかと鈴鹿御前に支えてもらう。

 果たして俺は人理の焼却を阻止し、友人とまた笑い合うことはできるのだろうか、それを考えるだけで不安で押しつぶれそうだった。

 

 最終的にエジソンは完全に復活した上に俺を副大統領(仮)みたいなやつに任命した。

 彼曰く大統領には常に優秀な副大統領がいるものだ…(キリッ)ってな感じらしい。

 まあ気分は悪くないけどちょっと荷が重いですね…立香くんと変わりたい…

 そういえば彼はどうなったのだろうか、できればさっさと助けに来てもらいたいものだな、と宛にならない希望を少しだけ考えてか円卓に座る。

 エジソン曰く作戦会議だ。

 …と言ってもやるべきことは一つしかない。

 簡潔に言うのであれば戦力の増強、つまるところ野良のサーヴァント探しである。

 幾つかの発見情報もあるしそれを元に俺が動くこととなった。

 本当なら城でぐーたらしていたくもあるのだが、実際の所俺がこの城でやれることが限りなく少ないのだ。

 というか最早皆無なまである。

 故にサーヴァント探しなのだ。

 地図を広げてこの辺は敵に占領されているだとかあの辺はレジスタンスが多いだとか云々話を詰めていく。

 最終的にこの街に最初に行こう!なんて話が決まったその直後だった。

 階下から響く爆音、そしてそれなりの大きさを持つ扉が砕かれんばかりの勢いで開け放たれた―――

 ――立香君?

 

 彼は如何にも激怒していた。

 それは俺に対してなのかはたまたエジソンに対してなのか。

 そこは分からないが取り合えず彼は酷く激昂していた。

 ついでに何か見慣れないサーヴァントが扉の先からわらわらと溢れてくる。

 良く見ればレジスタンスのサーヴァント…ビリーやロビンも混ざってるし絶対あれ他のも現地のサーヴァントたちだよね?というかラーマ君しれっと混ざってるけどどうしたお前治ったの?

 色んな意味で困惑していたら立香くんは俺を見て少し悲しげな顔をしてから先輩を返せー!!!と叫んだ。

 先輩――つまるところ俺である。いや俺の方が立香先輩!まじかっけぇっす!と敬った方が良いのは百も承知なのだが先にカルデアに来ていた、ということだけで彼には先輩と呼ばれていたりするのだ。マシュが立香くんのことを先輩と呼ぶので実は若干紛らわしいな、と思っていたりいなかったり。

 まあでもこれはあれですね…確実の僕の無駄なパフォーマンスがとんでもない勘違いを引き起こしていますね…

 落ち着いて話を聞いてほしい、と制止をするも今助けるから!と話を聞かない立香くん。

 うぅん…こいつぁ参ったぜ…!

 立香くんが快復したのはとても喜ばしいのだがこの状況は割と深刻である。

 何が深刻って後で関係者各位に土下座をして回らなければならないってことだよね。

 いや本当憂鬱だな…

 本当…マジでごめんね…俺…微塵も操られてないんだ…洗脳とか一切なし、ここまで全て自分の意志です…

 え、じゃあガチで裏切っちゃったの…と動揺する立香くんとマシュにいやいや違う違う違うからぁ!?と軌道修正をかけること十数回。

 何とか話を理解してくれた二人と、更には通信機越しのカルデアの皆にごめんなさい…と謝る。

 最早土下座である、もうね、申し訳なさがやばい。

 何ともあっさり許されただけに罪悪感が残り続けるのだがいい加減頭を上げないと変な空気になってしまうな…とゆっくりと頭を上げた。

 

 

 その場には圧巻するほどのサーヴァントがいた。

 というか立香くんの連れてきたサーヴァントが多すぎる。

 ネロ、エリザベート、ロビン、キッド、ジェロニモ、アルトリア、マルタ、マシュ、ラーマ、スカサハ。

 元からいた三人を引いても七人て…立香くんのコミュ力がヤバすぎる。そしてエリザベートまた呼ばれたのか、縁ありすぎでしょ…

 ていうかとんでもないビッグネームをさらりと混ぜてくるのやめない?スカサハとかマジ大物ってレベルじゃないんですけど…

 何だか面白いものを見つけたぜと言わんばかりの目線を送ってくる彼女によ、よろしく…なんてどもりながら挨拶してから席へとつこうとしてすっ…と俺の真横に人影が現れた。

 ―――!?

 ヒェッと声が出かけたところで姿をようやっと確認できた。

 …ライダーさんである。ただいま戻りました、とか冷静な感じに言ってるけど今とんでもないスピードだったし若干息が切れてるな?

 ちょっと面白いわ…と思っていたら普通に走ってカーミラがやってきた。その姿に吹いてしまった俺は悪くないと言わせてもらいたい。

 

 

 これからどうするかを話す前に立香くんたちの話を聞けば彼らは既に数度のサーヴァントとの戦闘をしていた。

 もっと言えばサーヴァントを一人倒していた、仕事早すぎない?

 ラーマを治してサーヴァントを一人撃退して更には三体のサーヴァントと戦闘を繰り広げて退かせてるとか手際が良すぎるなんてレベルではない。

 なに、立香くんループでもしてんの?その手腕に逆に恐れを感じるんだけど…

 しかし皆のお陰だよ、何て爽やかに笑う彼にそんなことを言えるわけも無く、ただ何がとは言えないが変わったなぁ、というぼんやりとした印象を立香くんに抱えたまま会議へと進んだ。

 

 会議は順調とはいかなかった。

 問題は二つ。

 一つはこの聖杯戦争は陣取りゲームみたいなものであるということ。

 敵が支配した地域が広ければ広い程このアメリカの地、時代にとって異物であるケルトの存在が大きくなりやがてこの時代が崩壊してしまうということ。

 そしてもう一つが、シンプルに敵の大将が強すぎるということだ。

 俺としては初耳だったのだが敵さんの大将はクー・フーリンオルタだけでなくコナハトの女王・メイヴまでいるとのことだ。

 彼女もまたケルト神話に出てくる一人である、ざっくばらんに言ってしまえば世界で自分が一番美しいと信じている清楚系ハイパービッチ…みたいな感じ。

 生前ではクー・フーリンオルタとは敵対していたはずなんだが…

 まあ事実は事実として受け入れなければなるまい。

 因みにこの話を聞いてカーミラがふぅん…と意味ありげに深く頷いていた。

 その顔を見てみなかったことにしようと己に言い聞かせました、まる。

 

 

 しかしここで問題になってくるのが聖杯を持っているのは彼女の方である可能性の方が高い、というところだ。

 つまりケルト兵を無限に生産しているのは彼女であり、そしてクー・フーリンオルタは素であれだけの力を持っているということ。

 もしこの場でいる全員で挑めば勝ち目が見えるがそれはこの聖杯戦争の性質上不可能なのだ。

 それに敵にほかにもサーヴァントがいるのは確認済みだ、黒い肌に青く燃える弓を携えた男を見たと機械兵から聞いている。

 素晴らしいことに写真まで撮ってきたのでそれを見せたところカルナが彼はアルジュナだと、そして自分が相手すると言った。

 まあ当然のことだ、そいつが本当にアルジュナならば相手はカルナ以外ありえないだろう、実力的にも、因縁的にもだ。

 他には三体のサーヴァント――かの竜殺しベオウルフにフィアナ騎士団団長フィン・マックール、同じくフィアナ騎士団のディルムッドオディナ――にサーヴァントには敵わないがそれでも強力かつ無限に湧いてくるケルト兵がいる。

 機械兵だけでは到底かなわない、量で負けている以上質で勝負するしかないのだ。

 ざっくりと言うならばこれ以上相手に領土を取らせないようにする防衛組と敵を討つ攻撃組に別れるのだ。

 そしてできることならばカルナとアルジュナが戦っているところをクー・フーリンオルタたちに邪魔されないよう引き離したい。

 しかしどうやって?というところで会議がストップしそうになったところで「わしがやろう」と女性の声が響いた。

 スカサハである。クー・フーリンの師匠でもある彼女は確かにうってつけの存在だった。

 じゃあ頼むわ、と二つ返事で返して会議を進める。彼女が言いださなかったらこっちから指名する予定だったしちょうど良かったのだ。

 マシュと立香くんが抗議したそうにしているので先んじで彼女なら大丈夫だろう、ね?と問いかけるように言っておく。

 当たり前だろう、わしだぞ?と自信満々に宣言したことで二人は口を閉じ、恙なく会議は進んだ。

 何かスカサハから含むような視線をもらっているけどスルースルー。

 

 最終的に作戦開始は三日後とし、攻撃組と防衛組の振り分けは立香くんと俺に任された。

 マスターだから仕方ないとは言え大任である、正直胃が痛い。

 立香くんですら具合悪そうな顔をしているのできっと考えていることは同じだろう。

 自分のこの采配がミスだったらどうしよう、ということだ。

 全く、こういう一番責任が問われるところがあるから嫌なんだよなぁ…とブルーのまま会議は終わった。

 場に残ったのは立香くんと俺だけである。

 俺と契約しているサーヴァントも含め全員には一旦退室してもらったのだ。

 扉がゆっくりと閉まりきるのを見届けてからふぅ、と息を吐いてからだらりと姿勢を崩す。

 何だかこうやって二人で話すのは久しぶりだな?何て声をかけてから何気ない会話が当分続いた。

 

 彼が眠っていた一週間、その間に彼はちょっとした冒険をしてきたらしい。

 良く知らん男と二人で脱出不可能な牢獄を脱獄してきたとか何とか。

 彼曰くその男のお陰でちょっとは成長できたと実感していると。

 ソロモンの仕掛けたその罠により結果的に成長するとか逞しいなこの子…

 ていうかその男は結局何だったんだ…とか色々と疑問は残ったがまあそこまで深く聞く必要も無いかな、と感じてようやく本題を切り出した。

 すなわちどう振り分けるかだ。

 途端に自信なさげにな表情になる立香くんに不安がるなよ、と務めて冷静に言う。

 俺たちはマスターだ。サーヴァントは俺たちに従い全力を尽くしてくれる。

 俺たちが不安がっていたら彼ら彼女らも不安になっちゃうかもしれないだろう?

 頼ってもいい、縋ってもいい、けれども決して自分の出す指示に対しての不安を見せてはいけない。

 それにあれだ、俺もいるんだから責任は二等分、だろ?

 俺が全責任背負うなんて言うつもりは無い、だから一緒に背負おうぜ。

 二人でも背負っても重すぎなくらいだけどな、何て笑えば彼は覚悟を決めなおしたようにうなずいた。

 

 すっかりと日は沈み、やることを済ませてから一人ゆっくりと城の塀を歩いていく。

 成功するにしろ、失敗するにしろ三日後には俺はここに戻ってくることはできないのだ。

 だからということでもないのだがいつまで経っても眠気が襲ってこないのを理由にこうして一人でいるのだ。

 自分のいた時代と違って星が良く見えるな、と柄にも無いことを思っていたら後ろから、見つけたぞ、と声がした。

 殺気や敵意とはまた別物、しかし明らかな戦意を感じて大きく飛び退くと同時にスカサハの拳が俺の鼻を掠めた。

 いや地味に痛いんだけどなに?なんなの?

 鼻を押さていたら彼女は勝手に語り始めた。

 俺は他の魔術師や立香くんと比べてもまた異質だと。

 それにマスターというよりは戦士だな、とも言った。

 まあ確かにマスターなんて柄ではないと思うけど…だからなに?と問えば彼女はクスクスと絵になるように笑いを携えてこういった。

 "面白そうだから暇つぶしがてら、この三日だけ修行をつける"と。

 …は?

 

 ちょっとふざけんなよぉぉぉぉぉぉぉ!?

 突然拳が降ってくるとかいう強烈なモーニングコールを受けて目が覚めた俺はすたこらさっさと城内を駆けまわった後に訓練場で組み手をやらされていた。

 昨晩スカサハはそのままふっと姿を消したのでてっきり冗談だと思っていたらこの始末である。

 ライダーさんたちに助けてもらおうとしたらあっさりとスカサハに言い包められて頑張ってくださいね、と手まで振られた。

 ちくしょう…!

 しかも何が質悪いっていきなりスタートしちゃうところもそうだけど最高に痛いしギリギリ死なないラインを熟知しているせいで苦痛レベルが非常に高い所だ。

 正直めっっちゃ痛い、涙ぐむレベル。

 こうなりゃやけくそだ、と礼装まで使っているが掠りすらしねぇ。

 そして回避しようにも避けられる確率が二分の一、というところだ。

 多分躱せるか躱せないかみたいなギリッギリの攻撃をしてきているのだ、彼女は。

 お陰で身体のあちこちが痛すぎる、しかし痛みで倒れた傍から回復させられるもんだから疑似ループしてる気分になってくるまである。

 その度にちょくちょく煽られるので怒りをエネルギーに変えているが如何せんどうにもならない。

 というか時間が経つごとに明らかに攻撃が激しくなっているよね?

 お陰で倒れる頻度がくそ高いんですけど…

 振り下ろされた脚を骨が砕けるのも構わず片手で受け止め流す。

 そうして作った隙に木刀を振るうが手首を叩かれ呆気なく落としてしまう。

 直後に砕けた腕を回復させられてから彼女はふと攻撃をやめて大きくため息をついた。

 え、なに?何かあった?と動けずにいたらスカサハは至って静かに言った。

 おい小僧、ふざけるなよ、と。

 

 

 超スパルタな彼女が怒気を露わにして問うのだ。

 己の身を顧みず攻撃するのはなぜかと。

 普通なら動けなくなるような痛みにすら表情を変える程度でいるのはどうしてかと。

 その戦い方はまるで、まるで死を前提に戦っているようだと。

 それは人の戦い方ではない、と。

 その言葉に俺は反論することができなかった。

 パクパクと幾度か口を開いてそしてやがて閉じてしまった。

 正しくその通りなのだ。

 意識しないようにしていた、けれどもとうに気づいていたのだ。

 いつかの魔女の言葉を思い出す。

 きっと俺は既に依存しきっているのだ、このループに。

 それは即ちもう常人ではないということを意味していて、途端に不快感が胸を占めていく。

 スカサハはまだ気づいていないだろう、事実一目で理解したのはソロモンくらいだ。

 だがそれを理解されるのも時間の問題だろう、彼女は魔術についても異様なまで造詣が深い。

 まあ隠すようなことでもないし、と思ったが何て言ったものかと悩んでいたら不意に頭を持ち上げられた。

 至近距離にスカサハの顔がある。

 彼女はじっとりと俺の眼を覗いていた。

 無駄に緊張する…と動けずにいたらすっと手を離され彼女は納得したようにふん、と唸った。

 そういうことか、と独り言ちたスカサハは一呼吸置いた後にその戦い方は禁ずると言った。

 それについてどうこう言うつもりはないが、少なくともわしの前でそれは許さん、と。

 それ以上人間から離れたくないだろう?とも付け加えて。

 当たり前だ、と二つ返事で返せばにやりと笑ってそら立て!続けるぞ!と吠えた。

 いや、休憩はもう少ししたいかなって…だめ?だめかぁ…

 

 作戦決行日はすぐにやってきた。

 修行飯修行睡眠修行みたいなアホな生活のせいで一瞬に感じたまである。

 きっちり睡眠とご飯の時間を取らせてくれる辺りは配慮を感じる。

 その逆でシャワーとかの時間が激短かったのには配慮は感じなかった…

 飴と鞭の切り替えが激しすぎるんだよ、と愚痴を漏らしながら出発である。

 この三日で振り分けも納得できる形で終わらせられた。

 攻撃組は俺、ライダーさん、カーミラ、鈴鹿御前にラーマとエリザベート、ビリーとスカサハ、カルナ、ナイチンゲール。

 防衛組が立香くん、マシュ、マルタにアルトリア、エジソンとエレナにネロ、ロビン、ジェロニモ。

 俺と立香くん、どちらが攻める側に着くかは悩んだが最終的にじゃんけんで決めてしまったのは内緒だ。

 くそぅ…あのときパーを出していれば…!

 と、まあそんなこんなで出陣である。

 立香くんが不安そうに見てくるので心配するな、としかし何かあった時はよろしく頼むとだけ伝える。

 因みにスカサハは出陣と同時に先に行ってしまった、あの女、自由すぎる。

 

 

 出陣してから更に三日経った。

 それなりに小競り合いはあったがこちとら全軍の半分をほどを引き連れてきている上にサーヴァントがたくさんいるのだ。

 そこらのケルト兵では話にならない。

 いつかのローマを思い出すな、なんて思いながら進んでいたところで先頭を進むカルナから連絡が入った。

 二十キロ先に敵の大軍を発見、遠目だがアルジュナを確認できたと。

 ではここからの主役はカルナだ、俺たちはその戦いの露払いだ。

 ドクターにこれより本格的な戦闘が始まると伝えて概念礼装を纏う。

 敵の姿がゆっくりと視界に入ってくる。

 真っ白な服装に黒い肌。

 蒼く輝く巨大な弓を携えたあの男がアルジュナか、と写真と照らし合わせて確信を得る。

 カルナがガチャリ、と槍を持ち上げた。

 アルジュナがグッと矢を引いた。

 蒼い炎と紅い炎、二つがぶつかり合って激しく弾けたのを合図に両軍は激突した。

 

 彼らの戦いはまさしく天災のそれだった。

 多少の露払いを覚悟していたがそんなことが必要ないと分からされるほどその戦いは激しく、誰をも近寄らせなかった。

 だがまあ、やることは変わらない。

 この軍の大将に据えてあるラーマの怒号のような指示を魔術を通して末端にまで拡散させる。

 これもスカサハの修行の賜物である、ついでにカルデアの科学力。

 因みに俺は軍師的なポジション、本当は大将に…みたいな案もあったのだが全力で拒否らせてもらった、恐れ多すぎるわ…

 

 一際大きな爆発と轟音。

 蒼と紅が乱れ合ってついに蒼が失墜した。

 カルナとアルジュナ、二人の戦闘はついに終わりを見せた。

 カルナの勝利だ。

 膝をついた彼にカルナの槍が振り下ろされ、そして真っ赤に染まった槍がカルナをぶち抜いた。

 ――え?

 カルナもアルジュナも目を見開いた。

 嘘だ、あり得ない、いくらなんでも早すぎる。

 しかし現実は無情で、そこにはクー・フーリンオルタが立っていた。

 

 彼がそこにいるということはつまりスカサハは敗北したということだ。

 参ったな、いや本当に参った。

 もう少し踏み込んだところで遭遇したかった。

 現状では少し不利だ。

 全員が疲弊している。

 ビリーが銃を放つと同時にエリザベートにカルナを回収させる。

 高速で行われた銃撃にやはり彼は反応しきった。

 弾かれた銃弾が地に埋まる。

 ちょ…割と絶体絶命だな…

 そんな俺をつまらなそうに見てクー・フーリンオルタはグッと槍を握った。

 アルジュナがカルナは私の獲物だと言ったはずだ、と抗議をするも知るか、と一蹴される。

 それを見ながら舌打ちをして令呪を切ろうとした。

 カルナの傷を――?

 ふと、その必要はないと言わんばかりに誰かに肩を叩かれた。

 気づけば俺もクー・フーリンオルタもその周りを深い霧が覆っている。

 瞬間ロンドンを思い出して口を塞ぐが不快感は感じない。

 そんな俺が面白かったのか男の快活な笑い声が響いた。

 そいつはうたたねしていたらいつの間にかこんなところにいた、と。

 皆の頼れるマーリンさんが助けてあげるよ、何て言い始めた。

 マーリンと言えば一人しか思い当たらない。

 かのアーサー王伝説にて登場する夢魔とのハーフの魔法使いである。

 相手を煙に巻いて何とかするのは得意なんだ、とごちゃごちゃ並び立ててマーリンは必殺の槍を無効化した。

 何か無性に腹立つけどすげぇ…!

 おっとそろそろ時間が来てしまった、何て言って彼はすぐに消えていったがその時間は充分以上の役目を果たした。

 血にまみれたカルナが太陽を背に槍を振るう。

 『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』!!

 光と化した炎がクー・フーリンオルタを包み込んで巨大な爆発を作り出す。

 激しい轟音の後にカルナは後は任せたと、そしてアルジュナに何かを言い残してから消えていき、そして爆炎の中から姿を現すクー・フーリンオルタに俺は息をのんだ。

 全身を爛れさせるほどの大火傷。

 今ならやれる――

 そう思う前から身体は動いていた。

 今が千載一遇のチャンスだ。

 必中の矢をつがえ、放とうとして手首を叩かれ矢を取り落とす。

 今のは、鞭…?

 誰だと見ればクー・フーリンオルタの隣には一人の女性が立っていた。

 桃色の髪に純白の服装。

 間違いなくメイヴだ。

 いやなタイミングで出てくるものだ、これでは追うに追えない。

 先ほどからケルト兵が増えてきている、それも彼女の力なのだろう。

 ここは追うより戦線に助けに入った方が吉と考え来るならワシントンでやってやる、と撤退していくクー・フーリンオルタの言葉に歯噛みしながらも見送った。

 

 戦闘はようやっと収まりを見せた。

 ケルト兵はほぼ全滅、しかしこちらの損害も軽微なものではなかった。

 およそ3割がやられ、カルナもまた消えた。

 しかしその代わりというべきかアルジュナが力を貸すという約束をしてくれた。

 カルナが消えた今俺たちと敵対する意味も無いとかなんとか。

 今すぐは無理だが必ず償いはする、と。

 所詮口約束、だが彼は決して約束を違えないだろう、という確信を得た俺はどこかに消えていくアルジュナを見送った。

 その日の夜、防衛組からの定時連絡を聞く。

 やはりケルト兵はこちらよりもあちらへと戦力を割いたらしい。

 今のところ平気ではあるがこれが続くとなると徐々に撤退せざるを得ないとのことだ。

 そうなってくるとこちらも急ぐ必要が出てくる。

 今のうちに少しでも…と逸る俺をラーマが冷静に宥める。

 休憩をしっかりとらねば活躍できるときに全力を出せない、と。

 その他のサーヴァントたちにも休め休めと布団に押し込まれ仕方なく目を閉じた。

 

 おら急げ急げ!と全速力で前進していく。

 ケルト兵の他にもシャドウサーヴァントが出始めたがそれは防衛側も同じこととのことだ。

 なおさら早くいかなければならない。

 幸いにもホワイトハウスは目の前だ。

 あまりにも数が多い所は一点突破してからいくらか軍を割いて足止めしてもらって先に進む。

 これの繰り返しで既にビリーにエリザベートが離脱していた。

 一気に踏み込め、とラーマが叫ぶ。

 ホワイトハウスを固める多数の軍勢に炎が走り道ができる。

 そこを一気に駆け抜けてどう足止めするかと考えたところで任せて、と彼女は言った。

 信じているから、任せたから、と背を向けた鈴鹿御前が言う。

 彼女の宝具は対軍宝具、多数の敵にはうってつけだ。

 ごめん、とは言わない、任された、すぐに終わらせると告げた俺に満足そうにうなずいた彼女を後にホワイトハウスへ駆け込んだ。

 

 

 ホワイトハウスは魔力によるものなのか、異界と化していた。

 大地は荒れに荒れ、嫌な魔力が吹き荒れている。

 そしてその中央にコナハトの女王、メイヴと狂王クー・フーリンオルタは佇んでいた。

 すっかり傷を癒した彼が思いのほか早かったな、と言った。

 はは、そうだろ、そんでもってすぐに終わらせてやるよ。

 グッと力を籠める俺の前にナイチンゲールが出て静かに口を開いた。

 貴方は病気です、自殺するか負けておけ、と。

 そんな彼女をクー・フーリンオルタは笑い飛ばした。

 戦いを好みながらも決して表情を変えなかった彼が笑って言うのだ。

 俺も大概だがお前も相当狂っていると。

 それにかかった病は不治の病だとも。

 それ見て黙っていられなかったのかメイヴが黙れ、と。

 彼は私の最強の王だと言ったのだ。

 ――あぁ、そうか、そういうことなのか、とそんなやりとりを見てようやく納得した。

 あのクー・フーリンは戦闘に愉悦を抱かぬようにしているのだ。

 きっとメイヴは聖杯にこう願ったのだ。

 クー・フーリンを自分に並び立つほどの王にしてくれ、と。

 だから彼の知る限りでの王に倣って動くのだ。

 それは即ち愚王。

 後を考えず今のみを考える究極の力を持つ王。

 それがきっとクー・フーリンオルタなのだ。

 違うか?と尋ねればメイヴが激昂の儘に黙れと叫んだ。

 

 激情にかられたメイヴが飛び出して鞭を振るう。

 同時にアイアンメイデンが飛び出てそれを弾いた。

 カーミラは口早に言った。

 私より美しいとか思いあがるんじゃないわよ、と。

 ならばその間余はあいつとやらせてもらおう、とラーマがクー・フーリンオルタへと向いた。

 ライダーさんをナイチンゲールとラーマの援護に、俺はカーミラの援護へと二手に別れた。

 

 

 振るわれる鞭を光弾で弾き、アイアンメイデンを滑らせていく。

 ガバリと口を開いたそれを身を翻して避けていくメイヴを執拗にアイアンメイデンが迫っていく。

 それを鞭で掴み投げ返すと同時にメイヴはこちらへ一気に踏み込んできた。

 風を切って振るわれた脚を杖で受け止め押し返す。

 至近距離で放たれた鞭に片手をからめとられたカーミラはかかった、と笑った。

 絡まっている鞭を強く掴んで思いっきり引っ張る、引っ張られないように踏ん張った彼女の後ろからアイアンメイデンが姿を現した。

 メイヴの反応は一瞬遅れた。

 回転するように躱そうとした彼女は片手を巻き込まれて左腕を失った。

 苦し気な悲鳴が響き、同時にカーミラの体が斜めに浮いた。

 まだ鞭から手を離してない――⁉

 メイヴに強く引っ張られたカーミラは同じように左腕に強烈な一撃をもらった。

 バキリと骨が折れた音がする、同時にガンドを放った。

 カーミラが回復はいらない、と叫んで杖で硬直したメイヴの顔をたたきつけ、光弾で打ち倒す。

 カハ、と息が抜けた彼女はそれでも的確に鞭を放った。

 高速で放たれたそれはカーミラの体を打ち付け最後にぐるりと首を締めあげた。

 ぎりり、と聞こえてきそうな程に力の込められたメイヴに静かに矢を放つ。

 必中の呪いつきだ、死んどけ。

 彼女は反射的に片手で矢を受けた。

 同時に鞭が緩む。

 助かったわ、とカーミラが言うと同時に大量のアイアンメイデンがメイヴを囲み、しかし彼女はそれが分かっていたかのように避けた。

 彼女の眼が不思議な色に輝いている。

 ――愛しき人の未来視(コンフォボル・マイ・ラブ)と彼女は言った。

 一時的な未来視を可能にするその宝具を以て彼女は易々と俺の懐へと踏み込んだ。

 黄金に輝く蜂蜜酒を浴びせられる。

 その香りで一瞬にして意識が飛びそうになった俺は反射的に己に刃を突き立てた。

 

 彼女の眼が不思議な色に輝いている。

 最後のあれは言われなくとも分かる。

 魅了の伝説のある蜂蜜酒だ。

 あんなもんを俺が近距離で、しかもあのメイヴに浴びせられて良く数瞬意識が持ったものだ。

 あれ以上遅かったら確実にやつの支配下に置かれていた。

 だがあれならいくらでも避けようがある。

 こちらでタイミングを計るからそれに合わせてアイアンメイデンを、とカーミラに伝える。

 メイヴがカーミラと俺の攻撃を完璧に避け切って懐へと踏み込んでくる。

 ――3

 近づかれないようにルーンストーンを投げつけ爆発、それと同時にごろりと転がった。

 ――2

 それすらも予期していたように俺を追尾してきた彼女に矢を放つ。

 ――1

 当然途中で圧し折られたそれを捨てながら彼女は俺へと片手を差し出した。

 ――0!

 瞬間片手を掴み、アイアンメイデンが口を開く。

 きっと彼女が見ている未来は俺が未来を知っていない時の未来なのだろう。

 だからこそ未来を知っている俺が動くことによって未来はいくらでも変わるのだと思ったがやはり当たった。

 その証拠に彼女は想定外だと目を見開いた。

 ではさらば、コナハトの女王。

 ギイィ、とアイアンメイデンが閉じて、鮮血が隙間から零れ落ちて、しかしそれは内側から破壊された。

 彼女の体は血にまみれているし、もっと言うならば既に死に体だ。

 野球のバットのように杖を振るったカーミラに派手にその身体を飛ばされ、クー・フーリンオルタの横へと落下した。

 一瞬、戦闘がやむ。

 激しい金属音と共にいったん離れたラーマとライダーさんが俺の横へ来る。

 ラーマはよくやった、あと一息だと言った。

 そう、あと一息、しかしそれがあまりにも遠く感じた。

 

 メイヴはかすれた声で役割を果たしたわ、と誇らしげに言った。

 そんな彼女にクー・フーリンオルタはそうだな、よくやったと褒め称える。

 やればできる女だ、と。

 メイヴはそれが聞きたかった、それだけで救われた、と涙を流して体を光に溶かし始めた。

 …ん?いや待て役割ってなんだ。

 そう問えば彼女は私の伝説を知っているか、とのたまった。

 当たり前だろう、メイヴと言えばあれだ、二十八人の戦士(クラン・カラディン)

 クー・フーリンを倒すための戦士たちだ。

 それを召喚するってか?

 それはちと困る、さっさとやるか、と意気込めば彼女は高らかに笑った。

 見当違いも甚だしいと。

 そして同時にドクターが叫んだ。

 防衛組の拠点で二十八の魔神柱が現れた、と。

 ――そういうことかよ。

 

 メイヴは俺の悔しそうな顔を愉悦に歪めて見た後ふわりと消えた。

 クー・フーリンオルタは残念そうにいい女には縁がねぇな、と一人ごちた。

 その言葉には理性が伴っていて、メイヴを倒したことで彼に理性が戻っているのが分かった。

 しかしクー・フーリンオルタはそれをわかっていながらもさて、殺し合うか、と宣った。

 聖杯は渡さねぇ、これは誓い(ゲッシュ)だ、と。

 時代すら取れるもんを俺にだけに使ったその心意気だけは買わねぇとな、と。

 まったく勘弁してくれよ…

 はぁ、とため息をついて俺は木刀を構えた。

 

 火花が飛び散りライダーさんが後ずさる。

 クー・フーリンオルタは時間が経つごとにその強さを増していた。

 聖杯が彼を強化しているのだ。

 短期決戦、いつもそれしかない気がするな、と笑みが浮かんだ。

 

 剣と槍がせめぎ合って弾き合い、銃声が鋭く響き渡る。

 間を縫うようにカーミラの光弾とライダーさんの短剣が駆け巡り動きを止めていく。

 徐々にではあるが押していた。

 何よりラーマがすさまじく強い、その上ナイチンゲールが暴れるように動き回り、それを二人のサーヴァントが後押ししているのだ。

 いける、と頭のどこかで思った。

 思ってしまったのだ。

 それは一瞬の隙を生んでしまって、気づいた時には槍が俺の眼前を支配していた。

 

 いける、と頭のどこかで思った。

 同時にそう簡単に行くか!?と身体を捻る。

 頬を掠めて槍がすり抜けていった。

 落とし損ねた、とカーミラが謝るのを気にするなと礼装を展開した。

 出し惜しみは無しだ。

 ルーンストーンを投げ放つ。

 先ほどから使っているそれをまたかと無効化しようとした彼が一瞬驚愕に目を見開いた。

 当然だろう、何故ならそれはあのスカサハが直々に刻みなおした古代ルーン魔術の石だ。

 直撃を浴びて足を止めた彼の体をライダーさんの鎖が雁字搦めにして一瞬だけの隙を作り上げる。

 同時に令呪を切って更にガンドを放った。

 胸の中央に当たったそれは更に数秒だけの時間をラーマに与えた。

 爆発的に膨れ上がった魔力が鋭く練り上げられる。

 ―――羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)

 ようやく硬直の溶けたクー・フーリンオルタに不滅の刃が襲い掛かった。

 

 激しい爆音、爆炎。

 まさしく必殺の一撃であったそれはクー・フーリンオルタに防御する暇すらなく直撃した。

 流石に生きていられないだろう、と思ったがそれでも気を緩めずに見据えた瞬間無数の棘がラーマを貫いた。

 はぁ――?

 驚くと同時に朱槍が飛び、俺を押しのけたカーミラがそれに貫かれる。

 前だけ見て進め、と彼女は言い残して消えていく。

 やられた、と睨みつけた爆炎の中からほとんど砕け散った棘の鎧を纏うクー・フーリンオルタが姿を現した。

 ラーマを貫いた後に機能を停止したのかその鎧は完全に砕き散って光に溶ける。

 動揺したライダーさんはそれでも数度武器をかち合わせた。

 令呪を切ってラーマを回復させる。

 一画では足りずに二画、それでもようやっと立てる程度のラーマを下がらせて勢いよく前に出た。

 ここで仕留める。

 幾度も切り結び、しかし横合いに吹き飛ばされるライダーさんと入れ替わるようにナイチンゲールが躍り出る。

 幾度も銃声が響き、槍が頬を掠め弾が空を貫く。

 しばらくの拮抗の後に彼女はクー・フーリンオルタに一発蹴りをぶち込んでから激しく薙ぎ払われた。

 同時に鋭く前へと踏み込む。

 後、三歩。

 届け―――! 

 されどそれは届くことは無く。

 必中必殺の槍は俺の胸へと吸い込まれるように貫いた。

 

 後、三歩。

 放たれた槍を身を捩るように躱し、しかし躱しきれずに胸を貫いた。

 

 後、三歩。

 全身の強化を足だけに回して素早く接近。

 くたばれ、と叫んだ俺の頭を赤い閃光が貫いた。

 

 後、三歩。

 必中の槍を片手で受け止める。

 それでも尚止まらぬそれは抵抗させることなく俺の首を引き裂いた。

 

 後、三歩。

 避けられることは当然なく、それは胸を貫いた。

 ライダーさんの悲鳴がいやに耳にこびりついた。

 

 

 後、三歩、

 あまりに遠いその距離は赤い閃光があらゆるルートで襲い掛かる死の道だった。

 死するという運命は既に決まっていた。 

 死へのレールに乗ってしまっていたのだ。

 降りることは許されず、加速度的に死へと突き進むばかり。

 血を滴らせて朱に染まった槍が、あらゆる形で俺を死へと誘った。

 だけど、それでも俺は諦める訳にはいかないのだ。

 今ここで終われば勝ちの目は無くなってしまうのだ。

 やらなければ、ドクターの悲鳴を耳に残しながら俺は死へと踏み出した。

 

 

 死んで、死んで、死んで、死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで―――死に尽くした。

 果たして何度繰り返しただろうか。

 十を超えてからは数えるのを諦めた。

 もう狂ってしまいたいと思う程に繰り返し、されど狂う訳にはいかないのだと己を何度も律し続け、そうして、ここまでしてようやく、"因果は捻じれ狂った"

 定められた運命は道を外した。

 進むべきレールはついに砕け落ちた。

 殺すことを確定された朱槍は右脇を掠って地を穿つ。

 油断――いや、殺したと確信していたクー・フーリンオルタは驚愕に目を見開いた。

 ――礼装、連続起動、重複展開。

 バラリバラリと礼装が身を纏っていく。

 一歩踏み込むごとに加速する俺は自身の体の悲鳴をすらも忘れて狂王の喉笛へと牙を向けた。

 フラガラック―――!

 それでも彼は辛うじて身を逸らした。

 だけれどもその動きはどうにも見たことがあるような気がして、何となく次の動きに予想がついて。

 それで半ば反射的に軌道を変えて、加速した。

 フラガラックが喉を食い破る寸前、正しく驚愕、といった面を彼は顔に張り付けた。

 そこでようやっと気がついた。

 今の動きはスカサハと同じものなのだ。

 彼、クー・フーリンはスカサハの弟子である。

 つまりはそういうことなのだ。

 ありがとうございます、と心の中で呟いて。

 そして次の瞬間フラガラックは彼の命を食らいつくした。

 

 首を抉り飛ばして鮮血が散る。

 あふれ出たそれを全身に被り勝利を確信した。

 途端に全身から力が抜けた、その場にへたりこんで、それでも聖杯を強く握りしめる。

 勝った、勝った、勝った!

 俺の傍に倒れ伏すクー・フーリンオルタを見てやってやったぞこんちくしょう!と腕を振り上げる。

 だけどそこで違和感を覚えた。

 何でまだ彼は消えていない?

 背筋がひやりとして反射的に飛び退こうと力を込めようとして失敗する。

 彼の手が俺の手ごと聖杯を掴む。

 半ば義務的に彼はその聖杯をもって雄たけびを上げた。

 瞬間、俺の体が吹き飛ばされてライダーさんに抱き留められる。

 そうして次に俺の視界に入ってきたそれは、ハルファスと名乗った巨大な魔神柱だった。

 

 絶望。

 今の心境を現すのはその言葉以外に見当たらなかった。

 俺は満身創痍でラーマは瀕死、ライダーさんも摩耗している。

 エリザベートと鈴鹿御前も戻ってきたがどちらも疲弊しきっている。

状況はどう言いつくろっても最悪だった。

 ふらふらと全身から力が抜けてどうしようもない。

 もう駄目だ、と頭の中でそんな言葉が反響する。

 ドクターの声援が耳を通り抜けて入ってこない。

 終わりだ、終わったのだと腕を下ろしかけた瞬間バァン!と背中を叩かれた。

 何だなんだ!?と驚けばナイチンゲールが立ちなさい、と言った。

 私たちは治療しに来たのです、あれが最後の病魔でしょう、さあ立ちなさい、と。

 あれの後で貴方も治して差し上げますから、とも。

 ……いやぁ最後のはいらないかなぁ。

 必要ですとも、と言い張る彼女に負けじといらねぇぇ!と叫びながら己を奮い立たせる。

 そうだ、やるしかないのだ。

 礼装を起動させ直して強く握る。

 諦めてはならないのだ。

 やってやる、と構えたと同時に蒼い爆炎が柱を包んだ。

 轟音と共にその柱が呑まれていく。

 …?

 すいません、お待たせしました、と声がかかる。

 アルジュナ――!

 超助かった…‼

 というか今のでほとんど仕留めたも同然だな…?

 その巨大な体躯をぼろぼろと崩しながらそいつはギラリと目を輝かせてすぐさま撃ち抜かれた。

 せっかく出したやる気を無駄にされた苛立ちというか虚しさのようなものを銃弾に乗せているかのように乱射するナイチンゲール。

 何か言うまでも無く魔神柱は悲し気に消え去っていった。

 ドクターの歓声が響き、あちらも魔神柱が消えたとはしゃぐ。

 後から聞いた話だが防衛側には何とロンドンで出会ったあのテスラもいたとかなんとか。

 あのエジソンと協力したらしい…見てみたかった…。

 

 ナイチンゲールが姿を溶かしながら次に会ったときは意地でも貴方を矯正します、と眼を爛々と光らせながらそう言う。

 それはいらないわ、と真顔で返しながらそれでも助かった、と手を差し出す。

 感謝はいりませんと言いつつもグッと握った彼女は今まで見たことも無い華やかに笑った後にすっと目を細めた。

 この先たくさんの苦難があるでしょう、それでもあきらめてはならない、と。

 嗚咽を踏みにじり、諦めを叩き潰して、そうして前に進み続けなさい。

 それが人に許された唯一の歩き方なのだから、と。

 夢ではなく、願いを持って戦い続けてください。

 そう言い残して彼女は消えた。

 ラーマはこの戦いには誇れることがいくつも出来た。

 お主のような戦友も出来たしな、と笑いながら肩を叩き、また会おう!と言い残して彼は消え去った。

 エリザベートがにやりと笑って俺の前に来る。

 竜のような牙をチラ見させながら今度も中々大活躍だったじゃない?

 もっと褒めてくれて良いのよ?何て言いだした。

 よしよし助かった助かった、また次もよろしくな、とすらすら言っておけばテキトーに言ってんじゃないわよ!?と叫びだす。

 わがままだなぁ…頭に手を置き本当にありがとう…!と真顔で言えば彼女は顔を真っ赤してやればできるじゃない!あんたも中々だったわよ!と言い残して消えていった。

 ちょろいなぁ、あのドラ娘…

 さて、帰ろうかライダーさん。

 片手を差し出すとギュッと心なしか強く握られた。

 私も今回頑張りましたよ、何て言いだしてさりげなく頭を差し出すのだ。

 何この可愛い生物?やばすぎるでしょ…

 ライダーさんもありがとうな、と手を置くと同時に身体が光に透けていった。

 帰ったらカーミラも褒め倒さないとな、と思いながら。

 

 

 ――Order Complete――

 

 

 

 

 

 




一応推敲はしたけど何日か分けて書いたから変なところが無いとは言い切れないので見つけた時は優しくこっそり教えてください(白目
※次はもっと長くなると思うとやる気がしぼむどろにんぎょうでした。でも次こそ殺りまくる、絶対にだ、絶対に!
因みに更新してない間に主人公の絵を頂いてもりもりやる気がでました、みんなもっと褒めてくれてもいいのよ?()

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