無限ルーパー   作:泥人形

7 / 9
待 た せ た な
いやごめんて…六章は情報多すぎて纏められなかったんだって…(言い訳)
まあ前話より長いの書いたし許してください(土下座)
あ、因みに今回はマジで全ッ然ループしません、次話ではぶっ殺しまくるから許して………


別つ円卓@無限ループ

 

 存在の証明とは、一体何なのだろうか。

 レイシフトの説明を聞いたときに、そう思ったことがある。

 そもレイシフトとは──元所長の言葉を借りるなら、"魂を用いた時間跳躍と並行移動のミックス"らしい。

 そんな意味不明なことをしている人間が、その人間で有り続けるために世界に対しその存在を証明し続けるのがカルデアスタッフの主な仕事である所謂"存在証明"。

 これを少しでもミスると二度と元の自分には戻れないんだとか。

 取り敢えずスタッフが仕事をミスれば俺が死ぬ、ということは分かったがそれってつまり出来るもんなの?って話である。

 いや既に何回もレイシフトして帰ってきている時点で出来ているという証明にはなっているのだが。

 でもそれって普通に考えておかしくないだろうかと、そう思うのだ。

 だってそれはつまり俺の考えも何もかも、全てあちらの方で()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()ということに他ならないのではないか。

 そう考えDr.に訴えたら爆笑しながら普通に否定された。

 解釈が少し違うよ、と言った彼はざっくり言えばだよ、と説明し始めた。

 自分がいないはずの世界に自分が行くのだから、それを世界のほうがおかしくね?何これ消そ。とかならないように世界に俺はここに元からいるものだぞ!!と騙し続け、尚かつ今いる世界から消えたことによって起こる問題を補正しているのだとかか。

 世界に意志とかってあるんだ…中二病大勝利だな、本来の考えから逸れてそう思ってしまった俺は悪くないと思う。

 

 華麗に論破されたのでちょっとしょんぼりしながらマイルームのベッドへと寝転がる。

 やる気が起きないことを理由にゴロゴロしていれば律儀に(ライダーさんが)毎日更新しているカレンダーが目に入った。

 …もう夏も過ぎるのだな、とそう思う。

 そう、人理を修復するという旅が始まってからもう半年を過ぎ、残すところ4ヶ月もないのだ。

 まあカルデアの外はいつも通り雪が降り積もっているので季節感はゼロなのだが。

 何はともあれ現在は8月半ば、つまりタイムリミットは着実に近づいてきていた。

 焦らない、と言えば嘘になるかもしれない。

 だが俺には「あれ?結構良いペース…案外いけるんじゃね?」といったような勉強してないやつが試験前日に抱くような謎の安心感を抱いていた。

 しかしそれも仕方なし、と言わせてもらいたい。

 なんてったって回収すべき聖杯は残すところ2つなのだ。

 更に言えば残している特異点の内片方は()()()()()()()()

 これには流石の俺もにっこり…という訳でもないが少なくとも過剰なまでの焦りを抱くことはなかった。

 まあ焦りはしないだけで緊張はするのだが、それもまた仕方ないと大目に見てほしいかなって。

 

 再三言ったが、今回のレイシフトは今までに無く危険かつ、イレギュラーなものだ。

 確認のためにも、一度最初から説明させてもらうね。

 招集に応じて始まったミーティング、Dr.が開口一番で放った言葉がこれである。

 周囲の無言を肯定と見て彼は話を進めていく。

 次の特異点は十三世紀エルサレム、飽くまで予測でしかないが十字軍絡みだと思われる。

 充分に気をつけてほしい、と付け加えた後に彼は今回のミーティングの一番重要である部分を口にした。

 "今までの特異点"と"今回の特異点"の差異である。

 今回観測した特異点は"完璧に観測できていない"特異点なのだ。

 今まであれば完全に時代と場所、その状況を完全に観測、把握出来た上でレイシフトを敢行していたが今回はそれが出来ない。

 つまりこちら側で一番大変かつ重要なレイシフトしている人間の存在証明、というやつが非常に困難になる、ということだ。

 もうその時点で行きたく無いな…パスして良い?……と、本来ならぼやいている頃なのだが今回ばかりは事情が違った。

 今回、イレギュラーなのはレイシフト()()()()()()

 第六特異点──このレイシフトに立香くん達は一緒に()()()

 というのも前述の通り、今回のレイシフトの危険性が原因である。

 うかうかしていれば見つけた特異点が手遅れになる可能性と、レイシフトする危険性。

 2つを天秤に賭けたとき、最初Dr.はレイシフトを見送り、次の特異点の捜索並びに見つけた特異点の恒常的な観測をするべきだと提唱し、スタッフたちも同意した。

 それに待ったをかけたのが俺である。

 多少のリスクを飲んででもレイシフトはすべきだと提言したのだ。

 いや別に死にたがりとかそういうわけではない。

 ただ、次の目的地を見つけ、それを知ってしまった以上指くわえて待つ、ということが俺には出来なかっただけである。

 勿論Dr.には駄目だと素気なく断られたがそこは意見を曲げないことに定評のある俺である。

 というかその特異点がこれからもずっとそうであるという可能性もある以上見送りにすべきではないと粘ってみたのだ。

 一個人の命より人理の方が、価値が重いのは測らなくても解る。

 そして立香くんを元の日常に返すのは俺たちカルデアの義務だ。

 であれば俺が行くべきだろう、これは使命であり義務でもある。

 そうゴリ押しした結果今回のレイシフトが決まった訳だ。

 スタッフたちの不安を煽りDr.たちを急かすとかいう卑怯な方法も取ったがまあそれはそれ。

 それに今回はダ・ヴィンチちゃんがサポートを全力でしてくれるらしいしまあ大丈夫であろう。

 いつだって死ぬ覚悟はあるけれども出来れば死にたくないのが人間ってものだ。

 ミーティングは終わり全員が配置につく。

 俺もライダーさん達を連れてコフィンに向かおうとして、引き止められた。

 泣きそうな顔をするDr.に最悪の事を考えて置いてほしいと念を押すダ・ヴィンチちゃん。

 この二人がこんなになるまでに今回の件は非常に危険性が高い。

 なにせ存在証明がほんの少しでもズレてしまえば俺は二度とこちらには帰れなくなるのだから。

 大丈夫だ、覚悟は決まっている。だから、あまり気負うな、これは俺が決めたことだから。

 最悪の場合になったとしても振り返らずに進んでくれ。

 そう告げればダ・ヴィンチちゃんが、わかった。よろしく頼むよ、と言いながら礼装を手渡してくる。

 今までのピッチピチの戦闘服ではなく黒いフードのついた礼装だ。

 いや中には勿論戦闘服は着ているのだが、流石にアレだけだとちょっと恥ずかしいし…それにそろそろ新しい機能が欲しかった。

 ありがとうと言いながら上に羽織っていたら立香くんとマシュが心配そうに、しかしどんな言葉をかければ良いのか分からないような顔するのでガシッと頭を掴んで撫でくり回す。

 何、すぐに終わるさ。心配するなよ。

 ていうか観測が安定して出来るようになったら立香くんたちにも来てもらうんだからね?

 頼むぜ、と笑いながらコフィンに入り、ゆっくりと目を閉じる。

 当然のように身体は震えていた、怖くないわけが無い。

 けれどもやらなければならない、これが一番効率が良くて、最短の道だ。

 俺は主人公じゃない、だけど主人公が進む道くらいは作れるはずだ。

 早まる呼吸をグッと抑え、早鐘を打つ心臓を落ち着かせるように胸を叩く。

 そのままギュッと服ごと握りしめて聞き慣れた女性の声を聞く。

 これを聞くのも最後になるのかもしれないな、そう思いながら意識を過去へと溶かした──

 

 

 ──銀の剣閃が間を断ち切る。

 ハラリと髪の毛が数本落ちて、同時にダラリと冷や汗を流した。

 いや何事?

 眼前に立つ、おそらく剣を振ったであろうお兄さんまで何こいつ…みたいな眼を向けてくるんだけど…

 過去最高の物騒さにビビっていたら後ろからも金属音。

 ぞろりぞろりと鎧を纏った騎士が並んでこちらを不審な目で見ていた。

 …あれ何か見覚え有る顔が…モードレッド!?

 え、ていうことは何、そいつらは"円卓の騎士"…?

 え、何それやばくない?いや論議するまでもなくやばいっしょ。

 というかそう考えると何、このお兄さん一人でこいつら全員相手していたの…?

 そして俺たちはそんなとんでもない場所とタイミングでレイシフトしてしまったの…?

 …ど、どうしよう?

 

 ──何者か。

 ただ一言、女性の声が響いた。

 全身を白銀の鎧に包んだ女性が身の丈ほどもある槍を地に突き刺しこちらを睨めつける。

 それだけで、強烈な重圧感が伸し掛かる。

 全身を撫でるような寒気を握りつぶして、カルデアのものと答えれば彼女はなるほど、と。

 次に、では貴公らは敵である、と呟いた。

 瞬間、剣が靡く。

 音すら置き去りにしたそれは確かに必死の一撃で、されども甲高い音とともに勢いよく弾かれた。

 お、お兄さん…!

 感謝を伝える前に邪魔だ、退け。と吐き捨てられる。

 多量の血を流し、片足一本引きずりながら、そう言ったのだ。

 …あぁ、この人はいい人だ、そう感じると同時に罪悪感が湧いてくる。

 彼はこの瞬間、俺達の為にも戦うと、暗にそう言っているのだ。

 傍目から見ても戦力差は膨大で、戦況は引っくりかえせないと確信できるほどであるにも関わらず。

 それこそ俺達が来ようが来まいが、共に戦おうが戦わまいがこのお兄さんは死んでいたと思えるほどだ。

 それならば俺は俺が逃げることに罪悪感を感じる必要は無いのでは…?

 そこまで考えてライダーさん達に呼びかける。

 ───戦闘態勢!隙見て()()()逃げんぞ!!!

 

 刹那、銀の鎧の騎士は眼前へと姿を現した。

 砂塵を巻き上げながら振るわれた剣は下から跳ね上がるように軌道を描き、反射的にガードに入ったライダーさんの鎖ごと俺の胴を切り裂いた。

 燃えるように真っ白になった思考の中でも辛うじて致命傷ではないと判断して、今にも叫び出したいくらいの痛みを気合で抑えながら血を吐き出す。

 流れるように続いた左上からの一撃をカーミラが弾き、そして現れた紫色の騎士が彼女の首を断ち切った。

 は、ぁ──

 止まる思考を無理矢理回転させる。

 首を失った彼女の身体を蹴り飛ばし、それごと展開した木刀で貫いた。

 血をぶち撒けながら穿たれたそれは確実に騎士の胸を捉え、激しい衝撃が腕を伝う。

 数歩後ずらせた騎士にライダーさんの蹴りが炸裂し、そして次の瞬間赤い雷光が彼女の身体を呑み込んだ。

 動揺する暇を与えず黒い鎧の騎士は抜刀し、鈴鹿がそれを受け流す。

 血を垂れ流しにしながら礼装に手を伸ばし、そして同時に手首から先が転げ落ちた。

 音もなく、ただボトリと呆気なく。

 理解するのに数瞬かかった、理解してから痛みが襲うまで数秒もなかった。

 焼け付くような痛みを絶叫でかき消し礼装を──

 

 刹那、銀の鎧の騎士は眼前へと姿を現した。

 音もなく腕が落ちるとかどういうことなの?

 あいつらやばすぎるんですけど…

 覚悟はしてたけど開幕からこんな詰みの仕方はあんまりじゃないですか…?

 身体に迫る刃に刀を割り込ませる。

 鞘から抜く暇も与えられなかったそれは激しい衝撃とともに俺の身を守り、同時に紫の騎士が空から降ってきた。

 目視して、ガードしようとしてから衝撃で腕が痺れて動かないことに気がついた。

 くそったれがと吐き捨てながら身体を捻り、直後にグンッと裾を引っ張られた。

 お、お兄さん…!

 感動していたら何をやっているんだ馬鹿が!と怒鳴られたが知ったことではない。

 だってこの状況で見捨てたら何か…胸がモヤっとするっていうか…

 まあそんな感じなのだ。

 だから、黙って助けられておけよ。

 最早膝すらガクついてる彼をカーミラへと蹴り飛ばす。

 同時に雷光を纏った剣が振るわれた。

 真上からの一閃、暴力の塊とでも言うべきそれは確かな技量を持って放たれ、鈴鹿に受け流された。

 激しい摩擦音、斜め下へと受け流された騎士へと刀を差し向けそしてまたもや腕が滑り落ちた。

 ズルリと音もなく、しかし痛みを伴って。

 だから、一体何なんだこれ…!

 悲鳴をあげること無く敵を見据える。

 迫ってきている騎士、じゃない。 

 その後ろ、赤い長髪を揺らしながら手に持つ弓の弦を竪琴のように弾き──

 

 刹那、銀の鎧の騎士は眼前へと姿を現した。

 え、何あいつ見えない矢でも撃ってきてんの…?いや矢っていうより刃って感じだけど…

 そんなん回避不可能じゃん…どうすんだよこれ…

 二度見た斬撃を半身そらして紙一重でかわし切る。

 眼を見開く騎士にライダーさんの蹴りが突き刺さり、同時にルーンストーンを直上に投げつける。

 瞬間、爆音。

 色とりどりの光を放ち、爆発したそれは確実に飛んできた騎士に直撃し、その上で無傷でそいつは降り立った。

 ──は?

 高速で振られた剣を反射で躱す。

 銀の直剣は浅く肌を斬りつけ、血を弾く。

 こいつやばすぎ──眼前と迫る切っ先を鈴鹿がカチあげる。

 鋭く高鳴った金属音と共にライダーさんに引き寄せられて、次の瞬間赤い雷光が俺たちを包んだ。

 

 刹那、銀の鎧の騎士は眼前へと姿を現した。

 無理すぎない…?

 サーヴァントの質は互角でも俺とお兄さんという荷物がいる限りどう足掻いても隙すら作れない。

 だとするならばまあ、取るべき選択肢は一つしか無いだろう。

 超短期決戦。開幕だけで何もかも、全てを決める。

 鋭い剣閃を肌を掠めさせながら右手を握りしめる。

 鈴鹿───!

 手の甲に刻まれた紋が赤く輝き、同時に幾百の刀が宙を舞った。

 俺の叫びと同時に姿を表したそれは鈴鹿の掛け声とともに一斉に指向性を定め、少し遅れて激しく降り注いだ。

 称すならばそれは正しく剣の雨で、しかしそれは人を穿つことは無かった。

 弾かれた?防がれた?否。

 鈴鹿は真の意味で俺の意志を理解していた、ということだ。

 動かずとも当たらない剣、しかし彼女の叡智を持って計算し尽くされて放たれたそれは確実に行く手を阻むように地へ突き立っていた。

 言わずとも言わんとしたことが伝わったことに軽く感動を覚えながら、呆けているお兄さんを強引にライダーさんへと放り投げる。

 危なげなくキャッチした彼女は強引に天馬へと彼を乗せ、カーミラを加えた三人を乗せた天馬は鋭く羽ばたいた。

 あるぇ!?置いていっちゃうのん!?

 ……とか思うほど流石に俺もライダーさん達への信頼が無いわけではない。

 数瞬遅れて橙の衝撃が走る。

 響いた振動に軽く呻きながらも俺たちは高速でその場から離脱した。

 

 

 どれだけの間を駆け抜けていただろうか。

 追ってくるような足音は聞こえず、しばらくバクバクと暴れていた心臓もゆっくりと穏やかに鼓動を刻むようになっていた。

 もう大丈夫、何とか逃げ切った、そう確信して、もう降りてきても大丈夫だと、そうライダーさん達を見上げたらまさにその瞬間、天馬は片翼を失った。

 真っ白な体毛とは真逆の真っ赤な血を翼のように激しく吹き出し落下し始め、地に着く前に身体を四等分にされた。

 嘘だろ──そう呟くと同時に、俺の視界は斜めにズレていった。

 

 どれだけの間を駆け抜けていただろうか。

 ───右翼付け根!

 瞬間ライダーさんの釘剣が飛来し、何かにぶち当たって甲高い音を響かせた。

 次いで十字の斬撃──伝えると同時にお兄さんが飛び上がって剣を振るった。

 ───馬鹿かあいつは!?

 凄まじい金属音を響かせながら見えない斬撃を弾いた彼はそのままヒュルヒュルと落下してくる。

 す、鈴鹿ァ!

 叫ぶと同時に放り投げられる俺、キャッチされるお兄さん。

 砂地をザラリと滑っていくマスター、優しく抱えられるサーヴァント。

 普通逆なのでは…?疑問が生じた瞬間であった。

 

 お兄さんはケイと名乗った。円卓の騎士である、とも。

 サー・ケイ。かのアーサー王の兄であり10日間不眠でも戦える騎士。また、「口先一つで巨人の首すら落とす」と自ら自称するほどの饒舌さの持ち主…と言われている人である。

 先程から迂遠にかつさらりとトゲを持った言葉を連ねているので饒舌さに置いては間違いなかったということだけは理解った。

 うるせぇ黙って治されとけや!とカーミラにがっしりと固定してもらいながらカルデアから持参した治癒のスクロールを使い始める。

 いや…本当にカルデアって優秀だな…とすぐさま治っていく傷を見ながら実感する。

 余計なお世話であったが一応借りは返したいと言うのでこの時代で起こっていることや先ほどの仲間割れは何だったのか、とストレートに聞いてみる。

 こういう手合はオブラートに包んだら変化球で返ってくることが多いのである。

 彼は少々躊躇った後に全てを語りだした。

 

 この時代は"偽"の十字軍に支配されかけていて、その隣には何故かエジプト(正確にはエジプト領らしい)があり、それらに対抗するのが現地の人々。

 そこにポッと現れた戦力が円卓の騎士たちらしい。

 マジで意味がわからなくて数回聞き返したのだが全て同じ返答であったことから間違いないのであろう。

 では仲間割れの原因は?と問えば暫くの無言である。

 じっと待っていれば彼はあれは、アーサーでありアーサーではない、かの王の考えに肯定を示すわけにはいかなかった、とそう言った。

 次いで、かの王の考えについても。

 一言で言ってしまえば、かの王の目標は人理の守護だった。

 ただし、それは聖槍ロンゴミニアドに人の魂を保管する、という形であるらしいが。

 ちょっと意味が分からないですねぇ…という顔をしていれば彼は一つため息を吐いた後にこう語りだした。

 一つ先に言っておくが、かのアーサー王は既に人でもなく、また英霊でもない。

 あれは神と化した、と付け加えて。

 聖槍ロンゴミニアドとはそもそも"槍"としての側面と"塔"としての側面が有る。

 まず"塔"としての聖槍は世界の果てに、世界に貫く形で存在するものであり、そこから管理者は人間を見守っており、"槍"としての聖槍は、この"塔"としての聖槍の能力、権能を自在に操れる個人兵装になる。

 では何故これが星に刺さっているのかと言えばだが、俺たちが存在するこの世界は一枚のテクスチャにすぎないという考えがある。

 この一枚のテクスチャである俺たちの世界は知っての通り物理法則に従って成り立っているが、それが乱れないよう、崩れ無いように世界に貼り付けていなければならないからだ。

 そういった役割を持つものを総じて最果ての塔と呼び、これが幾つかあることで世界は成り立っているのだという。

 その上でアーサー王──彼曰く"獅子王"は現在個人兵装として使用している聖槍を"塔"として使用するつもりなのだと。

 塔の中に、厳選した人物のみを保管し、人理の焼却から逃れるのだと。

 それを受容して協力するか、はたまた否定して反乱するかで円卓は2つに別れたのだとか。

 それでサー・ケイ側──つまり反乱側が負けたのだとか。

 今の話を聞いてむしろ反乱しなかった側は一体何考えてんの…?とは思ったが現状それは最悪の中でもまだ希望の有る一手では有ると頭のどこかで理解していた。

 いやそれでも俺は、俺達(カルデア)はそれを真っ向から否定しなければならないのだが。

 そんなことをせずとも人理は守れると、証明しなければならないのだ。

 

 アーサー王を止めたいなら俺達と組むのが合理的なのでは?

 その一言でサー・ケイはしばらく同行することとなった。

 目立った武勇は知らないが、円卓の騎士であると言うだけでかなり戦力であるのは確かだ。

 正直な話助かったと言える。

 といってもこの人数で勝てるとはさらさら思ってはいない。

 サー・ケイが瀕死であったとはいえ俺たちは手も足も出せず、ただ逃げることしか出来なかったのだ。

 ど、どうしよう…とカルデアの方にも確認してみるが返ってくるのは声のようなものが混じったノイズばかり。

 ですよねー…とため息を吐いたとき、それは確かに耳へ届いた。

 擦れる金属音、空間を震わせるような騎馬の音。

 不味い──そう思うのと彼らが姿を表すのはほとんど同時だった。

 地平線を、埋め尽くすほどの軍勢。

 その先頭を走る、いやに金銀に彩られた戦士──

 これ、十字軍か──

 怯んだのは一瞬、逃げるべきだと背中を向ける寸前、それは眼前にいた。

 振りかぶられた剣は、音すら置き去った。

 

 目視した瞬間、それは眼前にいた。

 いや無理すぎ──

 

 目視した瞬間、それは眼前にいた。

 同時に身体は自動的に動き始めた。

 弾けたように後ろに飛び去り、剣はそれで尚首を浅く斬りつける。

 緊急回避で避けきれない──?

 地べたを転がりながら距離を広げる。

 同時に、ガードに入ったカーミラが杖ごと両断された。

 はぁ──?

 悪寒が身体を一瞬で包み込む。

 駆け出そうとした鈴鹿の腰を掴んで強引に引き寄せる、同時に彼女の身体を掠めるように剣が振り抜かれた。

 やばい──やばいやばいやばいやばいやばいやばい!

 こいつは今までとは比べ物にならないほどにやばい!

 圧倒的プレッシャー、あまりの殺意に意識が揺らぐ。

 サー・ケイと騎士が剣を数回カチ合わせて大きく弾かれる。

 朦朧とした頭で令呪を切った。

 二画丸ごと逃走に──

 槍と矢の雨が、降り注ぐ。

 

 目視した瞬間、それは眼前にいた。

 剣は少しだけ首に触れていき、少しの血を滴らせた。

 同時に礼装を起動した。

 フラガラック───!

 因果を逆転させる必中の一撃。

 しかしそれは真正面から()()()()()()()()()

 遅れて片腕がバラけて落ちていく。

 悲鳴を上げたカーミラが、次撃から俺を守るようにアイアンメイデンが展開させて、それごと身体が半ば斬り裂かれる。

 ゴボリと血を吐き出し、鈴鹿とライダーさんの叫びが響いた。

 サー・ケイが剣を振るい、血に塗れた俺は鈴鹿に抱きかかえられて、吼えたけながらライダーさんが宝具を放つ。

 サー・ケイが距離を取ると同時に、流星と化した彼女は確かに戦士へと一撃を与え、しかしその身体を斜めに切り崩された。

 鎧が砕け、血を吐きながらこちらを見た戦士の兜の奥が、光った気がした。

 

 目視した瞬間、それは眼前にいた。

 剣が薄く首を切り裂くと同時にガンドを撃ち放つ。

 赤黒く、雷のように輝くそれはやはり躱されたがそれだけで良かった。

 余計なワンステップを踏ませれば、それだけで取れる手段が増える。

 強引にカーミラを引き寄せる。

 瞬間剣が杖だけを斬り飛ばし、伸びてきた鎖が俺たちを縛って更に後退させる。

 戦うな──

 それだけ叫んで令呪を切った。

 サー・ケイが数回剣をカチ合わせたところに鈴鹿が滑り込む。

 高速で振るわれた斬撃を全て受け流し、同時に宝具を解放させた。

 無数の刀剣は眼の前の死神と、空から降ってきた死の雨とぶつかり合って、その間を縫うように俺たちは空へと羽ばたいた。

 逃げろ、逃げろ、逃げろ。

 ありったけのルーンストーンと猪どもをばら撒きながら高度を上げる。

 こちらを見上げた戦士が徐に剣を鞘に戻す──

 瞬間、全身を悪寒が駆け抜けた。

 反射で今自分に出来る最大の防御を展開。

 橙色光る三重の結界が俺たちを包み込み、そして音もなく半身はずり落ちた。

 

 目視した瞬間、それは眼前にいた。

 後一手だ、後一手が足りない。

 鋭く下がる俺の首を撫でるように薄く斬り裂き、遅れて手の先からガンドが放たれる。

 焼き増しのように全く同じく躱されるのと同時に礼装を展開させた。

 次こそ喰らえよ──振りかぶられた剣と交差するように()()()()()()()ガンドを撃ち放つ。

 初めて、戦士の動揺さが目に見えて、それも当たり前かとひとりごちた。

 いくら俺でも考えなしに撃つわけが無いだろう。

 さっきと同じことをしているのだ、であればどう動くかなどわかりきっている。

 避けられないコースに乗せるように撃ち放つ。

 それだけで吸い込まれるように胴に当たった戦士は一瞬だけ動きを止めた。

 ──カーミラ!

 叫ぶと同時に地面からアイアン・メイデンが現れる。

 くたばりやがれ──アイアン・メイデンが閉まると同時に天馬に飛び乗ろうとして、次の瞬間破砕音が鳴り響いた。

 …早すぎない?

 あいつが強すぎるのかあるいは使い手である俺が雑魚すぎるのか…どちらもですね本当にありがとうございます…

 これはさっきと同じパターン、所謂詰みだ。

 そうため息を吐いた瞬間、()()()()()()()()()()()()

 …は?

 

 かつて米が飛び交う戦場があっただろうか…いや、無い。

 ていうか未来永劫無いであろう風景が目の前を占領していた。

 いや本当に意味わかんねぇな…?

 誰がこんなことをしているのか、食べ物は粗末にしちゃ駄目って教わらなかったのだろうか。

 視力を強化しながら見回せば上半身半裸で米を片手に馬を駆る緑の髪の男が一人。

 くそ強い戦士を米の山に埋めながらそいつは俺の手を引いて逃げるぞ!と大きく叫んだ。

 その声にハッとして、あまりの展開に停止していた思考を回す。

 鈴鹿の宝具を展開させて、降り注ぐ金属の雨をやり過ごしながら叫ぶように指示を出す。

 既に天馬に乗り込んでいたライダーさんとサー・ケイ、鈴鹿を先に飛ばし、カーミラと二人で男の馬に乗る。

 男の担ぐ米俵から流れる米が尾を引くように俺たちは逃げ出した。

 

 逃げて、逃げて、逃げて。

 果たしてどれだけ駆け抜けてきただろうか

 すっかり荒れ果てた大地を超えて、俺達は先の見えない砂漠に降り立った。

 勢いのまま乗せられてしまったがこの男は何者なのだろうか。

 悪人ではないだろう、何となくそう思って名を聞けば彼は己を俵藤太、と名乗った。

 俵…藤太…俵……藤原秀郷じゃねぇか!!?

 龍神に請われて山を七巻き半するほどの大百足を退治した大英雄!全身に無数の眼を持った妖怪──百々目鬼を祓われた大豪傑!不死身とすら言われた平将門を討ち取った大英傑!

 ひえぇぇぇサインください!?とテンションが爆上げになったところで頭をはたかれ冷静さを取り戻す。

 コホン、と一息。

 自己紹介をしながら目的を話していけば、彼はすんなりと力を貸してくれることを承諾してくれた。

 これは今回の聖杯戦争勝利確定ですね…にやけていたらライダーさんに不機嫌になられた、何故だ。

 

 

 噎せ返るような熱気、視界はほんの少し先すら開けないよう砂嵐が埋め尽くしていた。

 ──身体が重い、呼吸がしづらくて、視界がうっすりぼやけていた。

 これ、魔力濃度が高すぎる、このままでは長くは保たない──今までならば。

 そう、今までならばである。

 新しく貰った礼装に魔力を流して起動する。

 それだけで身体が徐々に楽になっていき、呼吸がしやすくなっていく。

 ダ・ヴィンチちゃんに新しい礼装を用意してもらって正解だったな、と己の先見の明に驚きを隠せない。

 ロンドンのことがあってから、そういった環境的なものに対する対策を頼んでいたのだ。

 アメリカでは間に合わなかったが今回のレイシフトには間に合ったって本当に良かった。

 これが無かったら即死だったな、と身を震わせながらカルデアに通信をつなごうとしたが試みは失敗に終わった。

 ノイズの間に声っぽいの混じってくるのちょっと怖いからやめてくれないかな…

 繋がらないなら繋がらないでもう慣れたからさぁ…

 ただでさえ砂嵐の中にいるのに無線機からまで砂嵐の音聞きたくないよ…

 そう愚痴をこぼした瞬間だった。

 ザラザラと変わり映えのしない音の中に混じる明らかな異音。

 風を切り、翼をはためかせる生物の物音──

 警戒すると同時に巨大な腕が嵐の先から現れた。

 不味い──

 躱そうとして砂を蹴り、しかしまるで跳べなかった身体が突然鋭く引き寄せられる。

 鎖が腹に巻き付いている、流石ライダーさん…

 神かよ…と感動していたら落下音が2つ並んで響き、直後に人のものでは無い悲鳴が響かせながらそいつは現れた。

 スフィンクス──!?

 驚きは一瞬、血を吹き出すスフィンクスに向かって矢は放たれた。

 俵藤太が放った一矢は正しく致命の一撃で、あれだけ鳴っていた悲鳴はパタリと止んだ。

 …思いの外呆気なかったな…?

 この程度なら余裕ですな、はっはっは。

 緊張感からすぐさま解放された反動か、ほっと安心しながら笑ったその瞬間視界がブレた。

 遅れて衝撃、身体は激しく真横に吹っ飛び砂を擦って転がった。

 呼吸が出来ない、右半身は麻痺ったように動かなくって、言葉を発そうとすればゴボリゴボリと血が溢れてくる。

 俺の名前を叫ぶ鈴鹿、その奥に幾つもの影が立ち並んでいた。

 逃げろ、そう叫ぶことも出来なくて。

 俺の意識はゆっくりと沈んでいった。

 

 この程度なら余裕──だったら良かったんだけど、な!

 全力で前に飛び込む、足元を掠めるように拳が通り過ぎ、同時に幾つもの影が降り立った。

 逃走は───不可能。

 あまりの数の多さに辟易しながら頭を回す。

 この短時間に二回も宝具を使わせているせいで鈴鹿の消耗は激しい、無理にもう一度宝具を展開させてここでいなくなられても困る。

 逃走すると言ってもこの環境じゃ逃げ切れない。 

 だが、正直戦力的には勝てる、頭の冷静な部分がそう言った。

 とはいっても当然長くは保たない、何時も通りの短期決着。

 五分で終わらせる。

 ここに来てからもう逃げてばっかりでいい加減うんざりしていたんだ。

 全部ぶっ飛ばしてやる。

 ──令呪を切った。

 二画残った令呪の片方が燃えるように輝き消える、同時にライダーさんの魔力が爆発的に膨れ上がった。

 酷い砂嵐の中、ライダーさんは空へと翔け上がり──そして光となった。

 轟音が響き渡る、爆発するかのように膨れ上がった砂塵もお構いなしにサー・ケイは飛び出した。

 視界は全く開けていないはずなのに、剣が振るわれた直後に悲鳴が鳴り響き、間髪入れず放たれた矢が脳天をぶち抜く。

 何この人達…砂嵐×爆風+砂塵の中でも見えてるの…?

 怖すぎるんですけど…

 流石…と震えていたら突然グンッ、と視界がブレて足が地から離れる。

 だからあれだけ俺を投げるなと──!?

 上手く受け身を取りながら転がっていくのと同時に響く悲鳴。

 これは…あれですね、俺を助けるために投げたんじゃなくて単純に邪魔だから投げられましたね…

 いや結果的に助かるし正しい判断なんだけどさぁ…何か、こう…寂しいものがありますね…

 せめて退けろくらい言ってほしかった、そう思った頃には全てのスフィンクスはその場から姿を消していた。

 

 サーヴァントが一人増えただけで戦いの幅の広がりようが凄すぎる、いや、俵藤太の立ち回りがうまいのか。

 何はともあれ誰も傷つくこと無く終わって良かった、そう思いながら歩を進めればそれは姿を現した。

 そう──ピラミッドである。

 正確に言うならば、それは巨大なピラミッドを中心に展開された街───いや、国だった。

 えぇ…こんな砂嵐のど真ん中に何でこんな立派な国が…と思ったが砂嵐はとうに消えていた。

 というよりは国を中心に砂嵐が展開されているのだ。

 つまりあの砂嵐はこの国を守る結界のようなものなのだ。

 それであればあのスフィンクス共も説明がつく。

 あれはこの国の番犬的な存在なのだろう。

 そこまで考えてふと思う。

 俺たちその番犬殺しまくっちゃったんだけど…お、怒られないよね?

 

 周りの人々に聞いてまわればこの国のトップの名前はすぐに聞き出せた。

 ファラオ・オジマンディアス──ラムセス二世の方がわかりやすいだろうか──とその側近、女王ニトクリス。

 えぇ…いやどっちもファラオじゃん…

 どうして二人もいるんだ…どうなっていやがる…

 若干混乱してしまったがつまるところこの国で一番偉いのはオジマンディアス、次にニトクリスなのだろう。

 何でニトクリスがオジマンディアスより下なの…?とは思わざるを得ないが成した功績や知名度でいけばオジマンディアスの方が圧倒的に上である。

 そこら辺の関係なのだろう、と思い取り敢えずそこに忍び込むにはどうすればよいか、と頭をひねった。

 

 ──翌日、俺達は城──というより神殿内部で朝飯を頂戴していた。

 いや意味が分からないな?と思うかもしれないが俺だって動揺しているのだ。

 先日適当なところで寝泊まりしようと思ったらやたらごつい兵士に連れられ豪勢な部屋に泊まらされて流れるように食事タイムに入ったのだ。

 一連の流れがあまりにスピーディかつ快適すぎて思わず流されてしまったが一体どういうことなのだろうか。

 ここまで饗されると何か…怖いんですけど…

 若干震えながら食べきればファラオがお呼びだ、と連行される。

 完全に相手のペース過ぎるがこんなところで抵抗しても仕方がない。

 それにこちらには複数のサーヴァントがいる。

 出会って即死ということもないだろう。

 現状まだ問題ない、そう判断して兵士の後を追った。

 

 通された玉座内部は主に金で彩られていた。

 若干の眩しさを感じてゔっと眼を細めれば上から声が降ってくる。

 ふと見上げればそこには絶世、といってもいいほどの美青年──直感的に、彼がオジマンディアスであると察した。

 その黄金の眼差しは俺の全てを見透かしているようで、目を逸らしそうになったのを気合で抑える。

 きっとこの人は既に俺のことを測り始めている、何となく、そう思わせられたのだ。

 彼はつらつらと言葉を並び立てていく。

 ざっくりまとめてしまえば長旅ご苦労、旅人は饗すようにしている主義だからお前らも饗してやったわ、みたいな。

 そんな軽いノリだったのん…と思っていたら彼は思っていたよりも遅かったな、この特異点の戦争は直に終わるぞ、と呟き黄金の杯──聖杯をヒラヒラと見せつけた。

 この世界には既に果てが近づいてきている、とも付け加えて。

 ───それだけで、鼓動は急に速さを上げた。

 この人──どこまで知っている?

 俺はまだ()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 だと言うのにその口ぶりでは、俺がレイシフトしてきたカルデアの人間で、その目的すら把握しているようではないか。

 たらりと汗が流れた、この特異点は今までのそれとは一線を画する。

 それが分かった、分からされてしまった。

 ……でもまあ、それはそれで好都合か。

 説明する手間も省ける、ラッキーラッキー。

 そう何度も心中で反復させて落ち着きを取り戻し、口を開く。

 ───じゃあ単刀直入に。貴方の力が必要だ、手を貸してくれ。

 

 オジマンディアスがスッと眼を細め、俺を見る。

 俺の後ろにいた鈴鹿に単刀直入過ぎる!?素直か!と小声で叫ばれるが知ったことではない、そもそも嘘をついたところで見透かされるのが見えている。

 それならば最初から要件だけ告げてしまった方が早いだろう、大体俺たちには悠長にしている時間はないのだ。

 元より余裕はないと思って動いてはいたが、この特異点はでかい歪みが多すぎる。

 暴れまわる十字軍、広がるエジプト領、ついでに円卓フルメンバーである。

 ついでに聖杯はオジマンディアスが保持している、と。

 意味不明である。

 取り敢えずこの特異点は既に聖杯を回収すればそれで終わり、という話ではないということだ。

 だがそれならそれで聖杯持ちとは協力関係にありたい。

 というか円卓と十字軍とはもう敵対しちゃってるし、現地の人々の他には頼れるのはもうここしかないのだ。

 つまり俺は別におかしなことは言っていない、何ならこの場で取れる最善手を繰り出しただけとも言える。

 オジマンディアスを見据えれば彼はしばし眼を瞑り、そして全身を震わせながら()()し始めた。

 え、えぇ…人がそれなりに緊張しながら言ったというのに笑いで返すとかこの人失礼すぎない?

 マジで言ってる?冗談にしては面白すぎるんだけど、と涙目で尚笑い続け彼は言葉を続けた。

 あまりに現実離れした夢見る才能だけはあるそうだ、余には無い才能である、と。

 ライダーさんが一歩踏み出て、肩を掴んで止める。

 どうして、という表情で俺を見るライダーさんより更に一歩踏み出た。

 ──俺は本気だよ。

 そんな俺を見下すように、口の端を歪めて、そして彼の首はズルリと斬り離された

 はぁ──?

 遅れて、王の威光が走り、しかし一瞬姿を現した下手人はするりと消えた。

 次いで俺へと目が移り、光が玉座を塗りつぶした。

 

 どうして、という表情で俺を見るライダーさんより更に一歩踏み出た。

 え、いや今の何?何なのあの通り魔みたいなやつ??

 完全に俺らの味方だと思われてまとめて消されたんですけど???

 とばっちりにも程があるっていうか、あのオジマンディアスの首を落とすって何?

 しかも首が落ちていながら動くってなんなの?サーヴァントですから、で説明ができるレベルじゃないんですけど…

 短時間に詰め込まれた情報に閉口していたらやはり彼の首がズルリと落ちた。

 あ…あー…

 光が、視界を埋め尽くす。

 

 どうして、という表情で俺を見るライダーさんより更に一歩踏み出た。

 ──走り出す。

 全力で地を蹴って礼装を展開した。

 先の二度はどちらも首を狙われていた。

 そこだけガードすれば一撃目は防げるだろ──

 光が身体を貫いた。

 幾条もの光が全身を消し飛ばす──

 

 どうして、という表情で俺を見るライダーさんより更に一歩踏み出た。

 いやそりゃそうだわ。

 大して信用も出来ないやつが武器出して迫ってきたらそりゃ殺される。

 当たり前過ぎる…だというのに気づけなかったとか…

 焦りすぎるな、と己に言い聞かせて強く叫んだ。

 ───逃げろ!

 ただそれだけを叫んで、しかし彼ははぁ?と表情を顰めた。

 瞬間、玉座は闇夜に包まれた。

 さっきとは違う───いや、怯むな。

 間に合え、間に合え、間に合え。

 しかし祈りは届かず、オジマンディアスの首は綺麗に斬り落とされて、次いで光が全てを埋め尽くした。

 

 どうして、という表情で俺を見るライダーさんより更に一歩踏み出た。

 …ど、どうするべきなんだこれ…

 憂さ晴らしなのか、見られていたのが癪だったのか、それとも暗殺者の仲間だと思われたのか。

 確かな理由は察せないがオジマンディアスが殺られるところをただ見ていれば殺される。

 だが殺されないように行動しても結局彼に殺される。

 思いの外詰みでは…?

 ──敵だ!

 そう叫んでグッと力を込めた。

 オジマンディアスが不審な目で俺を見て、そして──

 ──そして、夜が来る。

 光り輝く神殿内を真闇に染めて、死神は現れた。

 怯えるな、震えるな、臆するな。

 常に首元に刃を感じる程の殺気、いや、既に首が落ちていると錯覚するほどの殺気を飲み込んで駆け出した。

 右から左へ、平行の一撃。

 防げ無いことはないはずだ。

 礼装も魔術もフルで展開して最短最速で玉座まで走り抜ける。

 赤い2つの光がゆらりと靡き、同時に刀を王座に突き立てた。

 剣が振り抜かれる寸前、光が飛び出した。

 

 どうして、という表情で俺を見るライダーさんより更に一歩踏み出た。

 あの王様反射で攻撃しまくるのやめろよぉ!

 俺ごと撃退しようとするのよくない…

 顔を顰めるオジマンディアスへと全身全霊で駆け出して、同時に闇夜が全てを包み隠した。

 防ぐのは不可能──なら無理矢理にでも躱させる。

 今ここでオジマンディアスを失うわけにはいかないのだ。

 赤い光が揺れ動き、同時にオジマンディアスの首を掴み強烈な拳が腹にねじ込まれた。

 衝撃に眼の前が明るくなって、血が吐き出す。

 それでも掴んだ手をそのまま引き寄せて、同時に剣が走る。

 ──血と光が、全てを覆う。

 

 どうして、という表情で俺を見るライダーさんより更に一歩踏み出た。

 うん、これ無理(ガチ)。

 俺では守れない、かといってライダーさん達では一瞬反応が遅れてしまう。

 そしてその一瞬でオジマンディアスの首が落ちるのだ。

 そこまで考えて、ふと思った。

 俺が撃退する必要無くない…?

 オジマンディアスは気づくことすら出来ず首を断たれていた。

 だからこそ気づかせようと、気づかせられないなら助けないとと躍起になったがそうではない。

 気づかせなくても良い、ただ反撃させられればそれで良いのだ。

 まあ、何だ。

 つまりはタイミングを見計らえ、ということである。

 ──聞けよ太陽王、俺には、何度死んでもやり遂げる覚悟がある、自信がある、力がある。

 力を貸せ、()()()()()()()()()()

 ──瞬間莫大な極光が迸り、闇夜とともに現れたそれを問答無用で弾き飛ばした。

 オジマンディアスが目を見開いてそいつを見る。

 二本の大きな角をあしらった髑髏の仮面を被り、髑髏の甲冑を身に纏った巨大な戦士。

 身の丈程の剣を両手に持ち、二、三歩程後ずさってからするりと動き出した。

 ──首だ!頭を下げろ!

 反射的にオジマンディアスが動き出す、放たれた斬撃は確かに彼の身体に傷をつけたが致命傷には至らなかった。

 はじき出すように飛び出たオジマンディアスの加勢をするようにサー・ケイと俵藤太が飛び出して、前に出ようとする俺をライダーさんが引っ張った。

 すっこんでろってことですねごめんなさい…

 頭を冷やしながら横を見れば、あのオジマンディアスが薄っすらと汗を流す。

 それを見てやはりあの戦士はオジマンディアスよりずっと格上であることを悟った。

 きっと、ここにいる全員でかかっても敵わない。

 痛みと重圧で呼吸が浅くなる、それでも力を込めて立ち上がる。

 こんなところで終わるわけにはいかない、怖がるな、恐れるな、前を向け。

 真っ赤に光る両の眼を見据えてどれだけ経っただろうか、ほんの数瞬だったかもしれないし、けれども何時間だったかのようにも感じられた。

 ──天命が──そいつはそう何かを呟いて、元からそこには何も無かったかのように霧散した。

 …た、助かった…?……上手くいった、やってみせた!

 伸し掛かっていた重圧が消えて、緊張感と入れ替わりに安堵が全身を満たし、少し遅れて意識は暗転した。

 

 

 ──目を覚ます。

 ふわりとした感触が気持ちよくって、何度か寝たまま転がってからハッと飛び起きた。

 ここは何処だ?あれからどうなった?

 目まぐるしく駆け回る疑問を上手くアウトプットできず暫く呆けた顔でいればガチャリと扉が開き、そこからライダーさんが現れた。

 お、ライダーさん丁度良かった。

 ここはどk──

 飛びつかれた。

 ついでにペタペタとあちこちを触られ大丈夫かどうかを何度も確認される。

 …心配性が過ぎないだろうか…

 そうは思ったが正直心配されて悪い気もしなければむしろ心配させてしまって申し訳無いという気持ちが先にくる。

 ご、ごめんねぇ…と謝っていれば鈴鹿にカーミラ、俵藤太にサー・ケイと続々と部屋にサーヴァントたちが戻ってくる。

 いや、一気に入ってきすぎじゃね?

 

 まあ察してはいたと言うかなんというか、取り敢えずここはオジマンディアスの神殿内であった。

 わちゃわちゃと身体を触られ心配されながらも事情を聞き出していく。

 どうも丸々5日間ぶっ倒れていたらしい、道理で身体がすっきりしている訳だぜ…

 因みに俺がぶっ倒れた後オジマンディアスは俺の頑張りを讃えて一室与えてくれたとかなんとか。

 やっぱり懐が深いやつは違うな…とフッカフカのベッドを押しながら立ち上がる。

 じゃあ行こうか。

 どこへかってお前…そりゃ勿論オジマンディアスのところだろうよ。

 お礼とか話とか、多分しなくちゃいけないから…

 

 玉座へ向かえば見張りの兵はどうぞどうぞと道を開けてくれる。

 何か…ちょっと気分が良いな…なんて思いながら扉を開き、金に染められた玉座へ足を踏み入れる。

 前回はいなかった褐色の女に頭を下げながら真ん中まで行けば定位置に座ったオジマンディアスから声が降ってくる。

 まあざっくりとまとめてしまえば大儀であったな!さんきゅ!みたいな感じだった。

 もっと厳かで語彙豊かな台詞ではあったが脳内ではそう変換されてしまう自分を恨みながら、それで何だが、と話を切り出す。

 協力はしてくれんの?と。

 直後、褐色の女が不敬です!?と叫んだが知ったことではない。

 ここで協力を取り付けられるか否か、死活問題なのである。

 オジマンディアスは今度は笑いもせずに、目を細めて俺を見て言った。

 ──余は余の権限で民を救うまで、それ以外のことなど知りはせぬ、と。

 ……絶句である。

 こいつここまでさせておいてそんなこと言うの…?

 いや俺が勝手にしただけとも言えるんだけどさぁ…!

 それでも何でこの人ほどの実力者がそう簡単に逃げに走ってしまうのか、それがわからなかった。

 円卓も十字軍も、魔術王も全て強力で強大で、規格外かもしれない、それは認める。

 だとしても、これだけ尊大で、強大な力を持ち、聖杯すら所持している彼が、どうしてこんなところで逃げ腰になるのか。

 ──どうせ逃げるくらいなら力を貸せよ、俺が全部救ってやるから、民も砂漠も時代も世界も、何もかも!

 俺に託してみせろよ、お前の首すら守った俺を、今この時だけで良い、信じてみせろ、お前の前にいるこの俺は、世界を救うべくしてやってきた人間だ!

 気づけば叫んでいた、そんな俺の言葉を最後まで聞き取ってその上で彼は笑って言ったのだ。

 ではその証拠を見せてみろ、と。

 お前がこの世界を、時代を救えるという証拠をもってこいと。

 ──この時俺は初めて理解した、この人は既に俺を見下し十把一絡げとしては見ていなかったということを。

 今まさに、彼は俺を測っていたのだ。

 少しの沈黙の後に分かったと、そう答えて頭を回す。

 次の目的は既に決まっていた。

 先程の暗殺者の打倒、もしくは協力の取り付け。

 これさえ出来れば彼の王も力を貸さざるを得ないのは確かだったからだ。

 あれの実力は獅子王、オジマンディアス、十字軍を見た上で言わせてもらうがその全てを凌駕していたのだ。

 であればそれを倒すか協力さえできればこの時代は救えたも同然と言えた。

 と言ってもあの暗殺者は正しく神域の達人だった。

 敵対すれば間違いなく勝ち目は無いだろう。

 つまり今の所協力してもらうしか道はないのだ。

 でもそもそもあれって誰なんだろう、と思い聞けば返答はニトクリスから返ってきた。

 あれは恐らく北の山にいるハサン・サッバーハ、その一人でしょう、と。

 

 RPGばりに目的地が転々としやがるな、そろそろ本来の目的忘れちゃうよ?

 そんなことを考えながらスフィンクスに跨がり風を切る。

 一先ずハサン達に話をつけに行くことにしたのだ、俺達は。

 というのもハサン・サッバーハという英霊とはたくさんいるのだ。

 つまり代々ハサン、という名前を引き継いだ暗殺者達が存在しているということである。

 その内の一人であることは確かであろうとオジマンディアスからもお墨付きを貰ったのだから疑う余地は無い。

 とりあえずハサンの内の誰かに話をつけることが出来れば自ずとさっきのやばいハサンにも出会えるだろうという安易な考えである。

 まあ仮に出会えたとしてもそこからどうするかは全く考えてはいない──というわけでもなかったりするのだ。

 といってもちょっとしたことではあるのだが。

 先程の戦闘についてである。

 クソ強かったとかは置いておいて、引っかかったのは彼の引きの良さである。

 ループ前では彼は首を断ち、それで尚生きているオジマンディアスを見た上でトドメを刺すことはなかったのだ。

 それで今回は俺たちが一撃防いだだけで撤退。

 何かしらの意図が存在していたのは傍目から見ても確かだった。

 それが取っ掛かりになってくれれば御の字である。

 まあどちらにせよ協力してもらうしか無いわけだし、上手く行けば良いなぁと思いつつ行ってくるわ、と言えば彼らは気前良くスフィンクスを貸してくれた。

 あれだけ大見得切っておいて貸してくれとか何かダサい…というかオジマンディアスも良くキレなかったなとは思うがまあラッキーだった、そう思おう。

 にしても気前よく貸してくれのは良いけど滅茶苦茶目立つなこれ…

 見つかったら面倒なんだけど…まあ良いかと思ったその時、声が聞こえた。

 耳を澄ます。荒れた砂漠の中でも冷静に、どんな音でも聞き逃さぬよう細心の注意を払って耳を澄ませた。

 ──────!────!?

 微かに風に乗って聞こえてきたのは女性の声だった。

 それを塗り潰すような戦闘音も聞こえてくることから戦っているのだと予想がついた。

 向かうことを悩みはしなかった。弾かれるように声のする方に駆け出した。

 この砂漠のど真ん中で誰かが何かと戦っている、それだけで理由は充分だった。

 円卓なら叩き潰す、十字軍でも叩きのめす、どちらでもなければただ助ける、それだけだ。

 まあでも野良のサーヴァントとかだったら良いなぁ、そう思いながら俺たちは砂塵を突き抜けた。

 

 ──いやぁぁあぁ!もう来ないでよ!お願いあっち行ってもうやだ誰かたすけてぇぇぇぇぇ!!!

 一人の女性が砂漠のど真ん中で化物の群れと追いかけっこをしていた。

 といっても時折ドンッと重い一撃をかまして群れごと吹き飛ばしてはいる。

 ……悲鳴を上げている割には思いの外余裕なのでは…?

 正直面倒そうな予感しかしなくて関わりたくないんですけど…

 でもここでスルーするのもな、と思いふぅ、と一息ついてから藤太とサー・ケイ、それから鈴鹿に声を掛ける。

 さて、一気に片付けようか。

 

 殲滅とも言えるそれは、殊の外抵抗されたがやはりあっさりと終わった。

 露と消えていく奴らを踏み越えながら酷く号泣している女性へと声をかければ彼女は涙を止め処無く流しながらこちらを仰ぎ見た。

 ──ふと、ドクンと心臓が高鳴った。

 この砂漠の上でも艶やかさを失わない烏の濡れ羽色の髪に純白の肌、クリアな紅い眼差しはまるで宝石のようで、一瞬息が止まった。

 ドスッと割と重めな一撃が脇腹に入り意識が戻る。

 ライダーさん何で殴った…!?

 人に見惚れたのは何時以来だろうか、鈍く響く痛みに顔を顰めながら名前を聞けば彼女はこう答えた。

 ──玄奘三蔵。

 ……!!?

 

 玄奘三蔵──つまり()()()()

 勉強するまでもなく知っている、それほどまでの大偉人。

 国禁を破り、死の道とすら呼ばれたシルクロードを突っ切りインドから経典を持ち帰った偉人。

 世界というスケールで見ても彼──彼女を知らないものはまずいないだろう。

 でもまさか…こんな鼻水と涙で顔面くっしゃくしゃにしたこの人が三蔵法師とかそんなことある???

 嘘だと言ってくれないだろうか、割と真剣にそう願ったが彼女は訂正する様子もなくお礼を述べながら涙を拭っていた。

 現実とは無情、はっきり分かんだね…

 取り敢えず手で拭うのはよくない、とハンカチを取り出し久々の女子力アピールをしたその時だった。

 ──咆哮が、全てを揺るがす。

 

 漆黒の鱗に砂漠の熱気すら上塗りする火気。

 チロリと口から溢れた炎はそれだけで己を焦がし尽くすものだと察することが出来た。

 ──ていうか──お前──フランスの──!?

 突然現れたそれは正しくフランスで見た邪龍、ファブニールそのものだった。

 死の記憶がフラッシュバックする、燃える記憶は微かに身体を震わせる。

 何でこんなところに──?と震えた声で呟けば、隣にいた三蔵がさっき召喚失敗して出てきた挙げ句襲いかかってきたやつ──!?と叫んだ。

 この人もしやトラブルメーカーなのでは?そう思うと同時にそいつは大きく炎を吐き出した。

 瞬間、身体がグンと引かれて視界がブレる。

 炎が大地を舐め尽くして行くより早く身体は後ろに下がり、すれ違うようにライダーさんが飛び立った。

 遙か上空から、星のごとき一撃が叩き込まれる。

 炎を吐き出し続けていた巨大な口は強制的に閉ざされて、行き場を失った炎が体内で爆発を起こした。

 二度、三度と身体は大きく震え、やがて牙の隙間から黒煙が漏れ出しグラリとファブニールは態勢を崩した。

 それに合わせるように弓はしなり、矢は放たれる。

 正確無比かつ強力なその一射は誤ること無く脳天へズプリと突き立って、グルリと眼球を裏返したファブニールは失墜した。

 ドシンと激しい衝撃と共に落下してきたそれは、やがて霞へと姿を変える。

 前回と違って何をするまでもなく倒されたそれが、何だか酷く哀れに見えた。

 

 事情を話せばあっさりと協力してくれることになったお師匠──何故か三蔵法師から弟子にしてあげるわ!今度からはお師匠様と呼びなさい!と言われた──がスフィンクスの上ではしゃいで落ちそうになるのを必死で掴んだりしている内に俺達は砂漠を抜けた。

 大地が死んでいるのではと錯覚してしまうほどの荒れ地に降り立ち、俺たちは一先ず北へと向かう。

 褐色の女──ニトクリスから大体の事情は聞いていたからだ。

 西には砂漠が広がっており、東には聖地エルサレム──つまり十字軍と現地の人々がぶつかり合い、円卓の騎士たちが召喚された場所がある。

 現地の人々はつい最近十字軍に破れ、聖地を奪われたが少なくとも皆殺しにはならず逃げたものも多いとのことだ。

 それはつまりポッと出の十字軍と違い大きな拠点があるということだ。

 はっきりと確認できたわけではないがまあ北の山脈でしょう、という彼女の言葉に従い進んでいるわけである。

 砂漠を抜けてもかまうこと無くスフィンクスに跨がりグングンと進む、見つかる可能性は低いと見積もっての行動だ。

 俺の予想通りであるならば、今頃円卓の騎士と十字軍は聖地でぶつかり合っている頃だからである。

 つい先日俺たちは聖地付近で円卓から命からがら逃げ出し、そうして聖地に向かう十字軍からも逃げたのだ。

 まさかほんの一日二日程度であれだけ人数と強者達の戦いが終わることはないだろう。

 今はまだ、ある程度目立っても目につくことはない。

 そう踏んでの行動だ、といっても山の近くまで来たら流石に降りなければならないが。

 初見でエジプト側のやつ、侵攻しに来たか!?とか思われても洒落にならない…いや、逆か?

 むしろ攻撃された方が話は早いのでは?見つけられないのであれば見つけてもらえば良い、逆転の発想である。

 何か無茶苦茶頭悪い気がするが、これ以外ではこの辺で現地の人を見つけて誘導してもらうくらいしか無いのだ。

 死体ならあちらこちらに落ちているが未だに現地の生存者を見たことが無いので今の所はあまりいい案とは思えない。

 なるはやで頼むぞ…!とスフィンクスに語りかけながら俺たちは風を切った。

 因みにハサンってのは複数いるらしい、皆ハサンとか頭がこんがらないのだろうか。

 

 スフィンクスに乗りながらわざとらしく山をグルリと見回してみても拠点らしきものは見つからなかったし、攻撃されることもなかった。

 明らかにこちらには気づいているだろう、しかし見つからないという絶対の自信があるのだろう、事実、それは当たっている。

 どうしようかなーと思っていれば鈴鹿が提案が有る、と口を開いた。

 スフィンクスに乗ってるんだし、エジプトの名前を借りてしまおう、と彼女は言った。

 ……あぁ、なるほど。

 そうか、その手もあったか、と思うと同時に首を傾げる。

 え、どうやって?

 魔術の一つでも使えば良いだろう、馬鹿か、という罵倒をサー・ケイから言われてハッとする。

 そうだよ魔術が有るじゃねぇか!

 ゆっくりと適当なところに降り立ってもらい、手をメガホンのように口に当てて魔術を発動した。

 拡声魔術、ここに来て俺の努力の成果を見せるときが来るなんてな…やはり何事も日々の積み重ねが大事なんだってことですね…

 エジプトの使いの者である、話をしに来た、とどストレートに、かつ大音量で山々へ響かせながら進んでいく。

 反応が無かろうが関係ない、何なら夜中でもこの声を響かせ続けてやるぜ、とはた迷惑なことを考えていれば不意にライダーさんが獲物を閃かせた。

 キン、軽いものが弾かれる金属音。

 乱回転して黒いナイフが地を転がった。

 次いでどこからか響いてくる謎の声。

 ───釣れた。

 

 響いてくる音の出処はまるで掴めなかった。

 どこからもしていないようにも思えるし、どこからでもしているようにも思える。

 だが少なくとも敵意よりは不信感や疑問が勝っていることがわかった時点で第一関門は突破といったところである。

 最初から敵意マシマシだとやりづらいなんてレベルではないのだ。

 何用か、と響く声に繰り返すようにエジプトの使いであり、同盟を結びに来たと返す。

 重ねるように不利益は無いと思うが、と伝えれば暫くの沈黙が辺りを包んだ。

 何のために?手を組む理由が無い、と響く声。

 理由はある、俺達はほんの少しでも力を、知恵を必要としているからだ。

 何故なら俺たちは───この時代を、救いに来たから。

 

 最後の言葉に何を思ったのか、声の主は動揺したような声を漏らしたがやはり信用がならないと返した。

 ですよねー、と思ったがここで引いたら後が無い。

 仕方ない、取っておきの秘策を出すか…

 深呼吸してから声を張り上げる。

 ──俺達と手を組めば、毎日腹一杯になるまで飯を提供しよう、何なら今すぐにでもだ!

 ──はぁ?

 そう漏れた声にすかさずパチンと指を鳴らす。

 不意に笑った俵藤太が任せておけ、と魔力を練り上げて、大きく叫ぶ。

 美味しいお米がドーン!ドーン!

 瞬間、綺羅びやかなお米が俵から吹き出、多くの人の声、ついで声の主の非常に動揺した声が響いた。

 これは──勝ったな…

 

 まあそもそもエジプトと山の民側の間にはそれほどの軋轢は無かった。

 互いに無干渉だったとも言える。

 これがもう少し情勢が進み戦闘等が激烈化していれば話は別だったかもしれないが今回はそうとはならなかった。

 早い段階で動き出せたのはラッキーだったな、と思いつつ木陰から姿を現した呪腕のハサンと名乗る男の後を米俵を担ぎながら村へと入っていく。

 上から見ても全く視界に入らなかったというのに村はそれなりの規模を誇っていた。

 いやめっちゃでかいな…何故見つからなかったのか…

 唸っていればハッハッハ、と笑って呪腕のハサンが我々は隠れることに秀でていますからなぁと自慢気に言い張る。

 まあアサシンだし当然か、と思い進んでいけば肌の焼けた好青年にはじめまして、よろしくな!と握手される。

 えぇ…めっちゃフレンドリーなんですけど誰ですか、そう問えば彼はこう答えた。

 サーヴァント・アーチャー、アーラシュ・カマンガーだ、と。

 ………は?

 俺は思わず米俵を地面に落とした。

 

 アーラシュ・カマンガー。

 英語表記すれば”アーラシュ・ザ・アーチャー”

 西アジアに於いて弓兵とはすなわち彼こそを指し示す。

 知っている人は案外少ないかもしれないが、彼こそは古代ペルシャにおける伝説の大英雄であり、六十年にわたって続いたペルシャ・トゥルク間の戦争を一矢で終わらせた救世の勇者だ。

 そう、たった一矢、されどそれは究極の一矢であった。

 その一矢は大地を割り、両国に国境を作り、本人は引き換えに五体を四散した。

 正しく大英雄、大英傑。

 興奮より先に畏れが来るほどで、軽くどもっていたら快活に笑われて、そう緊張しなさんな!と肩を叩かれる。

 接しやすいタイプでよかった、と手を握り返しながら米を置いていく。

 村人たちもぞろぞろと集まってきたところだし折角だ、宴にしようぜ、と誰かがそういった。

 そう言えば俵藤太も笑い、またも宝具を開放した。

 

 おにぎりを頬張りながら呪腕のハサンの対面に腰掛ける。

 隣にライダーさんが座るのを確認して口を開いた。

 ──すまん、ぶっちゃけ嘘ついた、俺達はエジプトの使いではない。

 瞬間、呪腕のハサンの腕がピクリと動き、しかし努めて冷静に詳しく聞いても?と低い声で唸るようにそういった。

 素直に助かった、とそう思った。

 彼が冷静な人物であってよかった、ほっと一息つきながら事情を説明していく。

 といってもカルデアのこととこっちに来てからの流れを話していくだけなのだが。

 

 途中から参加したアーラシュにも分かるように、話をすればするほど呪腕のハサンからの殺気はスルスルと引いていった。

 しかしオジマンディアスの首を狙いに来た暗殺者の話で、彼の雰囲気はガラリと変わった。

 何か分かるか?と聞けば彼はそれは恐らく初代様でしょう、と答えた。

 初代…初代ハサン?何かすごかったりするの…?

 疑問を浮かべればそれはもう、と食い気味に彼は答えた。

 歴代ハサンの中でも初代様だけは圧倒的であり、絶対的な存在である。

 歯向かおうなど愚行の極みでも有ると。

 やっぱり?明らかに強者オーラ放ってたもんねあれ…

 まあでもそれなら尚更話をしにいかなきゃならなくなったな。

 それだけの力を持っていてあそこで引いたのはやはりおかしい。

 俺たちごと仕留められた筈なのだ。

 呪腕のハサンは次いで、初代様は天命を司るとも言った。

 初代ハサンにとってサーヴァントも人も総てが平等の存在であり、彼の刃の前では一つの命に過ぎないのだと。

 自らの力で殺すのではなく、彼に相対したものは自らの運命に殺されるのだとか。

 …何かよくわかんないな…?

 俺たちがいない時点の運命ではオジマンディアスの首は落とされていて、俺達が介入したことにより運命が変わったとか…?

 そこまで考えたが途中で意味不明になったのでやはり直接話すべきだな、とうんうんと頷きながら道案内を頼めないかと聞いてみる。

 サー・ケイの話が本当であれば、円卓が勝とうが、十字軍が勝とうがこの時代に未来は無い。

 これ以上人々を苦しめる訳にはいかない、早々に蹴りはつけるべきだ。

 あんた達だけじゃ戦力不足だろうし、そう思わないか?

 そう問えば彼はほんの少しだけ悩む素振りを見せてから任せてほしいと承諾して握手を求めてきた。

 差し出された左手は、微かに震えていた。

 

 翌日、早速行こうと思ったところで呪腕のハサンに待ったをかけられた。

 ハサンというのサーヴァントは数多くいるらしく、今日はそれらの会合があるからその後にしてほしいとのことだった。

 まあどちらにせよ山の民と協力するのであれば全てのハサンに許可を取ってもらわねばなりませんしな、と笑う呪腕にじゃあ仕方ないな、と笑みを返す。

 正直誤算ではあったがそれは嬉しい誤算だった。

 思っていたよりも広い村ではあったが、戦力としては乏しすぎると思っていたが、他にも複数村があり、呪腕のようなサーヴァント達がいるのであれば話は別だ。

 戦力としても大いに期待できるというものだ。

 …まあそれも俺が信用を買えるかどうかなのだが。

 何とか上手く行けば良いなぁと思いながら村の集会場へと足を運んだのであった。

 

 ハサンと名乗る暗殺者達は呪腕を除いて合計五人いた。

 思っていたよりも多いな、というのが素直な感想である。

 所感でも広いとすら思った村がこの山に後五つあるということなのだから。

 当然では有るが、彼ら彼女らから歓迎の意は伝わって来ない、というか誰だてめぇ…みたいな殺伐とした雰囲気すら感じる。

 呪腕の方から俺達の説明をしてもらい、取り敢えず殺気は収められたが、百貌のハサンと名乗った女性はさらりと信用ならないな、と吐き捨てた。

 ですよねー…という感想しか出てこないがそれはそれ、え、ちょっと信用してくださいよぉとか言ってたら尚更信用ならんわと他のハサンにすら言われてしまった。

 確かに今のは軽率すぎたな…と反省しながら懐から一枚、書類を取り出して前に出す。

 自己強制証明(セルフギアス・スクロール)

 魔術師の世界においても最も容赦の無い呪術契約の一つであり、これを以て結ばれた契約を破った場合契約者を死に至らしめる呪いが強制的に掛けられるとかいうイカれたアイテムである。

 ただしその効果は裏返せば絶大な信用になる。

 だからこそ此処でこれを使う、制限は掛けられるが何、元より裏切るつもりが無いので心配はいらないってもんである。

 俺は山の民を対象とした殺害、傷害の意図、及び行為をこの時代に於いて禁則とする、みたいな文を書き連ねこれでどうだと見せつける。

 俺はあんたらの信用を買うために命を張る、人理の救済を使命とした俺がそれをすることにどれだけの意味が込められているのか、どうか分かって欲しいと頭を下げた。

 沈黙が降りる、何時間にも感じられたそれは分かった、分かったもう良い頭を上げろ、という女性の声で破られた。

 本当に良いの…?と恐る恐る頭を上げれば私も問題ない、俺も、私もと賛同の意見が湧いてくる。

 やったぜ、と内心思い、それを顔に出さないように努力していたがそれはある一言で破られた。

 ───我々と闘いその力を見せてもらえたならばな、と。

 ……んん!??

 

 さぁということで始まりましたハサン's対カルデア一派。

 殺す殺されるつもりでやってほしいけど実際そうしちゃったら不味いから峰打ち程度でやってね、とかいう中々難しい条件の闘いが今始まろうとしています。

 …いや本当勘弁してくださいなんだけどなぁ…と遠い目をしていたら頑張れよ、といい笑顔でアーラシュに言われてしまった。

 頑張るけどさぁ…!頑張ってもらうけどさぁ…!

 何で…何で闘いなの…サーヴァントは皆血の気が多すぎるよぅ…

 嫌だなぁとため息を吐きながら六人のハサンと相対するように立ち並ぶ。

 こちらの戦力としてはライダーさんにカーミラ、鈴鹿に堅苦しい呼び方やめてー!と迫ってきた三蔵、つい先日フルネームで呼ぶのを止めろと言ってきた藤太、いい加減サーとか付けなくて言いわと言ってくれたケイである。

 ぶっちゃけ純粋な戦闘力であればこちらの方が圧倒的に有利を取っていた。

 後は連携、俺の指示にかかっているということだ。

 といってもまあ、全員が全員歴戦の猛者なことからちょっとしたフォロー程度にはなるが。

 他には俺自身が狙われても数秒保たせられるよう準備しておく、くらいのもんである。

 礼装を展開しながら彼らの後ろに下がる、アーラシュが投げたコインが地に落ちるのを合図に全員が鋭く動き始めた。

 

 勝敗はあっさりと決した。

 言わずもがな、こちらの勝利である。

 勝利ではあるが──そもそも考えても見れば彼らは全員暗殺者…つまりアサシンなのである。

 クラス上最も正面からの闘いを苦手とするクラスだ。

 何度か接近されてヒヤリとはしたが概念礼装や魔術礼装に助けられながらやり過ごすことが出来たし、実際"殺す"ということに特化している存在にこの形式の闘いは何から何までこちらの有利だったということだ。

 その上でいやぁ参った参った、だったり和やかな感想を口にしているハサン達を見て、あれ?この人達実は滅茶苦茶お人好しなのでは?と思わざるを得なかった。

 

 表向きだけのような闘いを終え、一応という形で契約を結んだ俺達は晴れて彼ら山の民と協力関係を結ぶことに成功した。

 静謐のハサン、百貌のハサン、煙酔のハサン、震管のハサン、影剥のハサン。          

 全員の自己紹介をしあった後に、これからどう動くのかという会議を始める。

 取り敢えず第一目標としては初代様とやらに会いたいんだが、と言えば場が凍りついたがまあそれはそれ。

 え、ちょ、マジ…?みたいな空気が流れたが最終的には呪腕の他に一人──煙酔のハサンが案内をすることになり、それからの話は戻ってきてからということになって会議は一旦の終りを迎えた。

 

 

 翌日、村の周りの化物共を軽く一掃した後に、俺達は村の守りをアーラシュとカーミラに任せて初代ハサンの元へと向かった。

 往復で丸二日かかるという初代ハサンが住まう場所──名をアズライールの廟といった。

 ひぇぇ…と思わず声が出てしまいそうになるような深い谷に落ちていかないよう、細い谷をそろりと渡りながら丸一日。

 俺達は巨大な寺院にたどり着いていた。

 敵がいるような感じもせず、魔力の有無も感知できず、だけれどもただただ深い恐怖がそこに渦巻いていた。

 全身の震えが、抑えようとしても止まらない。

 全身が、全霊がここから逃げろと叫んでいた。

 瞬間、音が聞こえた。ヒュルリと風が渦巻く音。

 気づけば俺達の前には"死"があった。

 "死"そのものとすら思える実態のない、魔力のような、煙のような"何か"がそこにいた。

 呼吸が浅くなる、もう既に死んでいるのでは、と錯覚してしまいそうな程の濃密な殺気に気が狂いそうになる。

 震える足をグッと握れば俺を安心させるようにお師匠とライダーさんが肩を掴む。

 俺の後ろでハサン達がひれ伏し、煙──初代ハサンが声を発した。

 汝らの声は届いていた、この時代、この時、この一瞬における汝の意志は認めている、と。

 だけどこの廟に入る人間は皆死ななきゃいけないから、死者として戦って生をもぎ取れ、と。

 いや意味不明なんだけど…もうちょっと分かりやすく…と思っていたら煙酔のハサンが初代ハサンに呼ばれて祭祀を委ねるとだけ告げて姿を消した。

 否、()()()()()()()()()()()()

 煙酔の翁の首とお前たち、天秤はどちらかを召し上げる、彼はそういった。

 つまりそれって煙酔のハサンを──?

 いや自己強制証明ぅぅぅぅ!と思っていたら気にするなと軽い感じで言われた。

 それは無理なのでは…?

 そう言う前に、煙──否、初代ハサンはその身を翻した。

 

 煙酔in初代は間を縫うように、眼前へと迫り黒の短刀を振りかぶった。

 反射でそれを片手で受け止めて、同時に拳を振りかぶる。

 当然のように魔力を込めていたそれは白い髑髏を模した仮面に突き刺さり、派手な音ともに吹き飛ばしてしまった。

 瞬間、やべぇと思った。

 脊髄反射で反撃しちゃったんですけどぉー!?

 ど、どどどどどうしよう…受け止めた左手から血が溢れててクソ痛いしこの後更なる痛み(不可避)が襲いかかってくるとか鬱なんですけど…

 ひぇぇぇ…と身体を震わせていること実に数秒、俺の身体に変化は訪れなかった。

 痛みどころか痒みも無いのである、一体どういうことなのだろうか、ライダーさんと刃を交えている煙酔を見ながら思う。

 …まああの初代とやらが何かしたのであろう、さっきの気にするなっていうのも実のところ(俺が何とかしたから)気にするな、の意かもしれないし。

 少なくとも何かしらの細工がされたに違いないのは確かだったので、気にすること無く煙酔を殺すなよ!とだけ叫んで礼装を起動した。

 

 煙酔in初代ハサンは元の煙酔とは考えられない程の挙動で戦闘を繰り広げた。

 恐らく元の煙酔には到底不可能な動きで、そうする度に煙酔の身体は悲鳴をあげているようにも見えた。

 まあそれを複数で袋叩きにしたわけだが。

 結局中身の初代ハサンがどれだけ強かろうとも身体が煙酔の時点で、今の煙酔に出せる限界までしか出ないわけである。

 それはそれで厄介ではあったが、多少苦労したというだけであっさりと屈服することには成功した。

 頼むから殺すなよ!頼むぞ!?と叫んでいたお蔭でボロ雑巾の如しではあるが煙酔はその霊基を保っていた。

 生きていればそれで良しである、回復ならカルデアから持ってきたスクロールがあるから…と治癒を掛けていく。

 すると煙酔の身体から抜け出てきたそれが生をもぎ取れとは言ったけどさぁ…普通片方だけじゃん…両方とか気が多いわ…まあでも良いや、許す!と彼は実態を露わにした。

 煙が人の形を象って、神殿内で見たあの時の姿が造り上げられる。

 ───よくぞ我が廟に参った。山の翁ハサン・サッバーハである。

 以前のときほどの威圧感は感じなかった、いや、恐らく彼が意図的にそれを抑えているのだろう。

 二歩前に出て、頭を下げる。

 ──どうか力を貸してほしい、今のままではこの時代の修正はまず不可能、ほんの一時でいい、貴方の力をお借りできないか。

 仮面のその奥の表情は読み取れなかったが、彼はしばらく黙ってから言葉を発した。

 曰く、天命を変える者、狙いは獅子王の首、これに間違いはないか、と。

 天命を変える者ってなんだ…俺のこと?俺のことなの…?

 聞き返せば、左様、と当然のように返されるので黙り込み、口を開く。

 俺の狙いは飽くまで特異点の修復、そうすることでこの時代が修復されるのであればその通りだ。

 確かに何故人であるアーサー王が神になっているのか、人を護りたいと言っているのにこの時代を滅ぼすようなやり方をしているのか、それは正直分からない。

 何か複雑な理由があるかもしれない、酷く大切な何かがあるのかもしれない。

 だから取り敢えず話がしたい、その神様と話をしてそれから、それから───やっぱり獅子王を、殺すと思う、殺せるまで、繰り返すと思う。

 だって俺は、"この世界"を救わなければならないから。

 俺の答えに彼は無言で頷いて、では、と言葉を続けた。

 お前はもう少し識るべきである、と。

 人理の綻び、そしてその始まり、これが叶った時、我は戦場に現れよう。

 ──天命を告げる剣として。

 …何を調べればそれ分かるんでしょうか…そう問えば彼は砂漠の中に異界あり、と答えた。 

 太陽王ですら手の届かぬ領域に、汝らに必要な知識はある。

 砂に埋もれし知識の蔵が、そこに眠っている、と。

 

 では呪腕の翁、首を出せ、と初代ハサンはそう言った。

 ………いやちょっと待って?何いきなりどうしたの?

 どうやったらそんな流れるように処刑ムーブに入れるの?

 呪腕も当然のように首を出すから一瞬反応が遅れたんですけど…

 全身でストップを掛けにいった俺に初代は言った。

 ──我が面は翁の死、我が剣は翁の裁き。

 山の翁が膿み、堕落し、道を違えた時、我はその前に現れる。

 どの時代のハサンも、最後には我を見ている。

 我が面をみたものこそ真の翁であり、時代のハサンに救いを求めるということは己に翁である資格が無いと宣言するに等しい。

 翁の面を剥奪するのだ。

 いやそんな当然ですよ?みたいなトーンで言われても困るんですけど…

 ていうか何?呪腕も分かってて自ら道案内請け負ってくれたの?

 そういうことは先に言っておいてくれないと困るんですけど、情報共有ちゃんとしようや…

 戦力はほんの少しでも失いたくないんだよ!という俺の意志が前面に現れ呪腕に捲し立てたら初代が教えてなかったの…って若干呆れていた。

 お前は生前から諦観するのが早すぎる、と。

 面をあげよ、既に恥を晒した貴様に上積みは許されない、責務を果たせ。

 そう言って彼は剣を仕舞い込んだ。

 早く行けと、そう言って。

 

 血を垂れ流しっぱなしだった左手をグルグル包帯で巻きながら、いやぁ全員無事で良かったねぇ…と煙酔を背負いながら歩いていたら突然モスキート音が響いた。

 要するにばかでかい"キーン"とした音が両耳を鳴り貫いたのだ。

 ぐおぉぉぉ…!?と叫ぶように唸って倒れ込む、煙酔が背中を滑り落ちてグァッと声を上げた。

 すまん…と思いながら既に音の止んだ耳を抑えながら立ち上がろうとすれば今度は非常に聞き慣れた声が、無線機から聞こえてきた。

 ど、ドクター!やっっっっと繋がったのか!

 きゃっほう、とテンションを上げていればあちらも一安心、といったように息を吐き、しかしそこで違和感を感じた。

 ダ・ヴィンチちゃんいなくね…?

 どうしたの?と聞けば彼はハハハと苦笑いしながらこう言った。

 立香くん達と一緒にレイシフトをした、と。

 ──えぇ?

 

 それはつまり観測は安定した、ということだ。

 てことは、何かしらの変化がこちらで起こったと考えて然るべきである。

 ドクターとの回線を維持しながら立香くんたちへと回線を開けば、ダ・ヴィンチちゃんの声がいの一番に飛び込んできた。

 ───大丈夫かい!?怪我はない?ご飯はちゃんと食べてる?また無茶してないだろうねぇ!?

 ……あんたは俺の親か何かなの?そう思ったがこうも心配されると何だかむず痒い。

 嬉しさと照れくささが、混じり曖昧な返答をすれば立香くんとマシュの声が入り込む。

 ──先輩無事ですか!?生きてる!?現状は!?

 うんうん、心配してくれるのは嬉しいけど取り敢えず落ち着こう、な?

 ダ・ヴィンチちゃんと同じような言葉を繰り返す彼らに少し笑いながらそう言った。

 

 彼らは正しく数分前にレイシフトしてきたばかりであった。

 どこかと問えば砂漠の手前の荒野らしい、ということは西側か…そう思うと同時に閃いた。

 さっき初代が言ってたところ、立香くん達に探してもらえば良くね…?

 おいおい天才かよ、己の発想に震えが止まらねぇぜ…

 何とか探してみる、と元気のいい返事を貰ったことに気を楽にしながら、このタイミングで起こった何かしらの変化について考える。

 ただただ偶然観測が安定しただけなのかもしれないが、俺には一つ気になることがあったのだ。

 即ち、それは円卓と十字軍との戦争。

 あの勢いであれば俺達がレイシフトしてきたその日の内、または次の日にでもぶつかり合ったものだと考えていいだろう。

 それからもう一週間は優に過ぎているのだ。

 英霊と英霊との闘い、互いに籠城する場所も無い以上決着はついてもおかしくはないだろうと思うのだ。

 それだけでも確認したいんだけどと言ってみれば、それがそのまま村に戻ってからの目的となった。

 聖地での戦いの行く末、個人的には円卓が勝った気がするけど、どうなのだろうか。

 ケイに聞けばさぁな、と返ってきたがその眼は彼らの敗北をまるで疑ってはいなかった。

 

 全体的に(主に俺と煙酔)疲れはあったようで、村に戻るまでに俺達は一日と半日を費やした。

 この間に立香くん達は流石の優秀さで初代の言う知識の蔵とやらの場所に見当をつけていた。

 知識の蔵──それの正体は"アトラス院"だった。

 その名をダ・ヴィンチちゃんから聞いた時、素直に聞かなきゃ良かった、とそう思ってしまったのを覚えている。

 アトラス院──別名:巨人の穴蔵。

 ()()()()()()()()()兵器を保持すると言われるイカれた魔術師集団である。

 えぇ…何でそんなもんが砂漠に埋まってるんだよ…意味不明だよ…何で?

 そう聞いたが流石のダ・ヴィンチちゃんもそれは分からない、だから取り敢えず行ってくるね☆と言い残して回線を切った。

 ドクターに聞けば、砂漠地帯は無線は繋がらないが未だバイタル等は安定しているのでまず問題ないだろうとのことだった。

 まあ無事なら良いんですよ無事なら…でもなるべく早く出てきてね…

 そんなところに行かせたことを後悔しながら村で休息を摂る。

 出来れば早いところ出立したかったが、まずは休んで、それから計画を練って行動しなさい、とカーミラに怒られた結果である。

 モソモソとご飯を食べて、寝っ転がってみれば、思いの外意識はすぐさま落ちた。

 

 朝日の光が窓を通して突き刺さる。

 まさかあのまま朝まで寝てしまうとは…眠気の残る身体を無理に起こせばお師匠がおはよう、と手を挙げる。

 そろそろ御飯の時間だから呼びに来てあげたの、と言われ暫し呆けた後に身だしなみを整え小屋を出る。

 皆でご飯を食べながら話し合えば、彼らは俺の寝ている内に既に情報を得ていた。

 というのも、俺が爆睡している内にこの村に何人かの難民が逃げ込んできたらしいのだ。

 その人達曰く聖地での争いは終結したらしい、そして今聖地には巨大な白亜の城が立っているそうだ。

 それを聞いて俺達はすぐさま察した。

 その城──いや、その塔は間違いなくロンゴミニアドである、と。

 やはり円卓が勝ち、そして獅子王は間違いなく計画を進め始めた。

 一応煙酔と百貌が確認と、あわよくば立香くん達の回収をしに山を降りているらしいし行動を起こすならそっちの確認が取れてからかな、とそう思った時に回線が開いた。

 立香くん達である。

 結構アトラス院に居たみたいだし、話を聞こうか、そう言えば彼らはゆっくりと頷き見てきたもの、知ってきたことを語り始めた。

 

 アーサー王の最期について知っているものはそう多くもないだろう。

 多大な伝説を残した偉人といえども、その最後はあっさりと、また無残なものであった。

 円卓の騎士モードレッド率いる叛乱軍によるブリテンの崩壊、最終決戦の地であったカムランの丘にて彼の王は相討ち気味に倒れた。

 己がもう助からないと悟ったアーサー王は円卓の騎士であったベディヴィエールにエクスカリバーを湖の乙女に返還するよう頼み、それが叶った時息を引き取り妖精郷アヴァロンに向かったとされている。

 ───だが、この時代ではそうではなかった。

 理由は定かではないが、この時代の彼の王は死ぬことができず、アーサー王ではない"何か"へと変質してしまった。

 それが獅子王の正体であると。

 マジ…?そんなことまで分かるの?アトラス院すげぇ…と唸ったがそこで思う。

 え、それって倒せるもんなの…?

 俺の言葉に沈黙が訪れ、え、何これやばくね?と思ったその時沈黙は破られた。

 ──私にお任せください。

 通信の先から聞き慣れない男の子の声がした。

 銀の義手を持った長身の騎士。

 は、お前誰?俺がそう言う前に後ろにいたケイが酷く驚いた声を上げた。

 ───サー・ベディヴィエール!?

 ……え、はぁ?

 

 聞けば立香くん達はスフィンクスと戦ってた際に彼に助けられたらしい。

 それから一緒にアトラス院に入りここまで一緒にやってきたんだ、ね、ベディ、と立香くんは笑う。

 こっちに来てほんの数日でそんな信頼できる仲間を作るとか相変わらずだな立香くん…と最早呆れたような眼を向ける。

 ケイもサー・ベディヴィエールもどちらも何故貴方がここに?といった様子なのでこれは一回会わせて話し合わせてほうが良いかもな、とそんな感想を抱きながら他に何かあった?と聞けば彼らは勿論、と得た情報を語り始めた。

 この時代の観測が中々上手くいかなかった原因である。

 分かってしまえば何てことはない、一言で言うのであればこの特異点は既に手遅れになりかけていたから、それだけである。

 この時代は既に元の時代から離れすぎていて、最早この世界にはどこにも存在しない場所になりつつあった。

 以上である。

 ゴリ押ししてでもレイシフトして結果的には正解だったな、と息を吐く。

 ちょうど良くハサン達が山を降りているから彼らの案内のもと村まで来て欲しい、と伝えハサン達が使用しているルートを記したマップを送る。

 彼らがこっちに戻ってくるのにだって時間がかかる、といっても後一日もすれば辿り着くだろう。

 そこで一度顔合わせしてから行動だな。

 全員にそう伝え、村の周りの害獣駆除へと乗り出した。

 

 後日、二人のハサンに連れられた立香くんたちと俺達は合流を果たした。

 何か助けてきたとか言って大量の人を連れてきたもんだからビックリしたがまあそれはそれ。

 ご飯的な意味でも受け入れは余裕であるし、そもそもこの合流の目的はどちらかと言えば円卓の騎士である二人の合流である。

 立香くんの召喚している方のアーサー王とも出会うこととなり彼はギョッと目を見開いていたし、サー・ベディヴィエールも照れくさそうに眼を伏せていたがまあそれはそれ。

 ケイは彼についてこう言ったのだ、サー・ベディヴィエールはあの時召喚されていなかった、と。

 円卓の騎士でありながらあの場には居なかったサー・ベディヴィエール、それはつまり彼は獅子王の召喚に応えなかったということに他ならない。

 だと言うのに何故この場に?何故今更?といった疑問が浮かぶのは至極当然であった。

 相対して、すぐにこの人は無茶をしているな、というのが分かった、分かってしまった。

 取り繕ってはいるが顔色は悪く、足取りは確かなようでいて少しふらついている。 

 確認してみても確かに英霊ではあったので英霊でもこんなになるんだな、という感想を抱きながら彼らの会話を聞いていた。

 彼…ベディヴィエールはケイに対しお久しぶりです、とまるで何事もなかったかのように、ただ旧友と再会したかのようにそう言った。

 ケイは挨拶を交わした後に不意をつくように銀の義手を掴みこれは何だと、そう聞いた。

 そう、彼がサー・ベディヴィエールであれば()()()()()()()()()()()()のだ。

 円卓の騎士ベディヴィエールは()()でありながら他の騎士の三倍の強さを誇ったと言われる騎士であるからだ。

 彼はそれをヌァザの右腕であると言った、魔術師マーリンから託されたとも。

 マーリンを好まないケイは嫌そうな顔をしてそうか、とそれ以上の追求をしなかった。

 ヌァザの腕とかそんな軽い感じで渡されるもんなの…?と思ったが特にその辺の掘り下げがなかったことからマーリンという存在が何でもありなんだろうなぁ、という感想を抱く。

 その先を聞かれなかったサー・ベディヴィエールの少し安心したような顔が、少し印象的だった。

 

 何だかんだと話し合いを重ねれば動き出すのは翌日になっていた。

 とりあえずこの村に待機するのが立香くん達、オジマンディアスのところへ向かうのが俺達、といったざっくりとした作戦ではあったが。

 無事初代ハサンからの協力を取り付けた今、オジマンディアスも力を貸してくれるだろう。

 その確認が取れたその時が、円卓を攻める時である。

 だから正確にはただの待機ではなく戦闘準備、ついでに初代ハサンへの連絡。

 各村から戦える人員を集めてもらい、全員で山を降りてきてもらい、それでオジマンディアスの協力の下一気に叩き潰す。

 円卓と十字軍の戦いが終わってからまだ日は浅い、円卓もまだ迎撃体制が完全に整っているとは言えないだろう。

 正しく好機、今此処で叩き潰すのが最善最良の選択だった。

 

 山を降り、荒野を渡る。

 その間俺は一度確認した円卓の戦力についてケイに聞き直していた。

 サー・ガウェイン、サー・ランスロット、サー・トリスタン、サー・モードレッド、サー・ガレス、サー・アグラヴェイン。

 円卓の騎士はこの六人に間違いない、と。

 だが十字軍との戦いで誰か一人くらいは削れていてもおかしくはないだろうな、とも言った。

 まあこの六人だけであれば正直、十字軍との戦いで良くても相討ちで全員消えていたであろう、だが獅子王は騎士を生み出せるらしいのだ。

 それが無限かどうかまでは分からない、だが調査してきた百貌と煙酔曰く、英霊には届かないまでもそれに迫るほどの力は持っていると見て間違いないと、そう言っていた。

 そんなやつらがポコポコいる所に襲撃かけるとか普通に考えれば却下である。

 しかし今回ばかりは話が違う。

 少なくとも同等程度の力は保有しているであろうオジマンディアスの助力があれば、その成功は現実味を帯びてくるのだ。

 それに今は、初代ハサンの助力の約束も取り付けてある。

 彼が課した条件は既にクリア済みだ、上手くことが進んでいればそろそろ──

 そう思ったところで回線が開く、相手は立香くんで、内容はちょうど良くキングハサンの助力を確定してきたというものだった。

 ……ん?キングハサン…?いや何それ…?そう尋ねれば彼は初代ハサンがなんて呼んでも良いっていうから…分かりやすいあだ名を…とそう言った。

 この子恐れ知らずにも程がありすぎないしかもキングハサンって…いや分かるけど…!込めたい意味は伝わってくるけども…!

 流石立香くん…俺の予想の斜め上をぶっちぎって生きていやがる…と笑いながら通信を切り、砂漠へと足を踏み入れた。

 

 砂漠も砂嵐もすっかり慣れたもので、そこら辺を蔓延る化け物たちを薙ぎ払いながら神殿に向かっていく。

 今回はハサン達の作成した地図を元に最短ルートを叩き出しているので迷うこと無くサクサクと進んでいけた。

 という訳で神殿である。

 予測していたよりもずっと早く着いたがまあ好都合。

 最早顔パスで神殿内に入れた俺達はそのまま兵士へと頭を下げつつ玉座へと歩を進めた。

 見上げれば、当然ように彼はそこに居た。

 視線を下げればニトクリスがまさか本当に戻ってくるとは、みたいな顔して見てくる。

 いやそりゃ戻ってくるよ…あんたらの助力が無いと戦いにならないんだから…

 スッと見上げて口を開く。

 ───彼の暗殺者、初代ハサン・サッバーハからの助力を得ることには成功した。

 証拠は……そう思ったところでふと思う。

 ──証拠なんて無ぇな、と。

 ………証拠は!無いけど!本当だから!信じて!お願い!

 俺は土下座した、いとも軽く流れるように地に頭をこすりつけた。

 し、信じてぇー!

 

 渾身の土下座だった、証拠もなく弁舌で誤魔化せるほどの話力が無い俺には素直に信じてくださいと叫ぶ他にはなかったのだ。

 頭を下げると同時にお前は馬鹿かとガスっと蹴られ持ち上げられる。

 協力を取り付けたことは事実なのだからもっとドシッと構えろ、下手に出るなと睨まれる。

 お前とあいつは飽くまで対等で無くてはならないのだから、と。

 そう言われてハッとする、思わずひれ伏す方向で考えていたぜ…

 あぶねぇ…と佇まいを直してキッと見る。

 そんな俺を珍妙なものを見る目で見た後オジマンディアスは笑って言った。

 良い、良い、と。

 証拠はないなら証明してみせよ、と。

 は?何を…?と問えば勿論、と。

 お前達の力を、だ。

 オジマンディアスは不敵に笑って聖杯を掲げた。

 悪寒が走る、クー・フーリン・オルタと姿が一瞬重なって見えて、やばいと感覚がそう叫んだ。

 礼装を展開する、同時に聖杯は光り輝き神殿内を光で埋め尽くした。

 

 光が晴れた頃には、オジマンディアスはその姿を醜悪な黄金の化物──魔神柱に変質させていた。

 えぇ…趣味悪…ほら見ろニトクリスも唖然とした顔で震えちゃってるじゃん…

 アモン・ラーと名乗ったそれが口上を上げてる最中に銃を撃ち放つ。

 ドンッと音を立ててそれは確かに肉を貫いたがその小さな傷はすぐさま再生を果たした。

 …嘘じゃん…え、再生とかあり?ありなの?

 ライダーさん達と顔を会わせて数秒、コクリと頷き俺はすぐさま後ろへ下がった。

 令呪は使わない、だが最大火力で叩きのめす、再生する暇も無いくらいの速さでミンチにしてやる。

 

 動き出しは早かった。

 展開された幾百の剣は立体的に魔神柱を囲み、貫いた。

 間髪入れずお師匠が走り出す、地を割る勢いで駆け出した彼女は渾身の一撃を叩き込んだ。

 激しい爆裂音が響き、魔神柱は身体をくの字に曲げて苦悶の声を絞り出す。

 まだだ、まだ足りない。

 ケイが走り出し深々と一閃、次いで突き刺さっている刀を使いそのまま斬り裂いていく。

 反抗するように、魔神柱の周りで爆発が起こった。

 魔力をそのまま爆発させたような、荒っぽいそれは確かに彼を吹き飛ばし、上手く受け止めると同時に巨大な星が駆け抜けた。

 神殿内に爆音が響き渡る。

 まだ、まだ仕留め切れてない。

 生半可な傷ならすぐに治されてしまう、それだけは避けたかった。

 ──走り出す、既に駆け出し剣を振るい切っていたケイとライダーさんの裾を引っ掴んで思いっきり引き寄せて射線を空けさせる。

 瞬間、矢が走る。

 緑の光が尾を引くように、宙に軌跡を残して飛んだそれはアモン・ラーの身体ど真ん中にぶち当たり、勢いよく貫いた。

 アモン・ラーは激しい悲鳴を上げながら、その姿を現した時と同じようにその身から強烈な光を生み出した。

 神殿内を、光が埋め尽くす──

 

 光が晴れれば、玉座にはオジマンディアスが悠々と座ってこちらを見ていた。

 え、えぇ…!?なんで生きてんの…?

 俺の疑問に彼は当然だろと言わんばかりの表情で余は神々の王だからな、と鼻で笑った。

 うーん…意味不明…

 良くわからないよ、と言った顔を見せてみるが彼は意にもかいせず良く戦った、と俺達を褒め称えた。

 神を気取る獅子王を相手取るに不足はない、と。

 良いだろう、認めよう。

 余が共に肩を並べるだけの勇者であると、貴様の言う、世界を救うものである、と。

 そら、持っていけ、と彼はまるで石ころみたいに聖杯を投げてよこした。

 こんなもんがあったから柄でもないことに執心したのかもな、と付け加えて。

 柄でもないこと…?疑問を抱けばお師匠が気づいてなかった?と小声で言った。

 彼もまた、獅子王と同じような方法で己の民だけでも救おうとしていたのだ、と。

 え、えぇ…いや、えぇ…?なんでそんなこと分かるのん…?

 純粋な疑問をぶつければ彼女は御仏的な勘だという、何だそれは。

 何でこう…目に見えない雰囲気的なものから細かいことまで察知できるんだ…困惑しながらオジマンディアスを見上げれば彼は不機嫌そうにフン、と息を吐いた。

 あれは図星って顔ですね間違いない…

 まあ協力してくれるんだしその心配も最早無くなった、後は攻め込むだけである。

 じゃあちょっと詳しい話をしようか、と俺達はその場で会議を始めた。

 

 砂漠地帯では通信ができない…というよりは酷く安定しない。

 ノイズが走り全く会話ができない、しかし通信自体はできていた。

 オジマンディアスとの協定が上手く言ったら一度のみ通信を繋げる、断られたら一度繋げ切り、もう一度繋ぐ、イレギュラーな事態が起きたら三度繋ぐ、という風な約束をしていた俺達は当然、一度だけ繋いでみせた。

 未だ完璧な態勢を整えられていないはずの円卓にはすぐさま攻撃を仕掛けたい、それはオジマンディアスにも納得できたのか概ね俺達が立ててきた計画に沿った形で作戦は纏まった。

 オジマンディアスとの協定により借り受けたスフィンクス軍団──オジマンディアス曰く神獣兵団──を左右からぶつけ陽動に、本命は正門からぶち抜くとかいう大雑把な作戦である。

 決行日は四日後、山から降りてくる立香くん達と合流しそのままどれだけ急いで進軍しても辿り着くのが四日後であるからだ。

 という訳で俺達はもう行きますね、とそう言った時、激しい揺れが俺達を襲った。

 次いで激しい爆音、微かな悲鳴と大地が抉れるような異常音が木霊した。

 何だ────!?

 神殿から飛び出て見れば、豊かに広がっていた砂漠の都は巨大なクレーターを幾つか作り、そこにあったはずのものは一切合切、何もかも消し飛んでいた。

 一体、何、が──

 誰かが空だ、空を見ろ、と叫んだ。

 つられて見れば、空には極光が走っていた、ちょうど聖都のある方向から、弾丸のように発射された光が、四方八方に撃ち出されていた。

 それは勿論、北の山にも。

 こちらの動きを悟られたのか、だとしたら何時、どのタイミングで──

 光が迫る、空から、極光が落ちてくる。

 傍目から見てもそれは宝具級の一撃だった、防ぎようがない、そう思った瞬間、エジプトの空には巨大な鏡が突如現れた。

 光を受け止め、弾く。

 幾つも降ってきたそれを鏡は難なく防いで見せた。

 えぇ…何あれすごい…助かった…ほっと一息つくと同時にハッと思う。

 山の方は──

 北を見れば、山の方向には幾つも光が落ちていた。

 奥歯を噛みしめる、浅く早くなる呼吸をそのままに、ただ只管に無事を祈ることしか、俺にはできなかった。

 

 あんなものがあっちにあるとかもう無理なのでは…?

 一発きりの攻撃であればまだ希望は持てた、だがあれだけの質量攻撃を幾重にも放ってきたのだ。

 もし仮にあんなものを戦闘中にも放たれてみろ、一瞬で塵だ。

 どうしようもできない、敵を見誤っていた、勝ち目が──

 パチン、と頬を張られる。

 お師匠が何時になく真剣な眼差しで俺を見据えた。

 諦めるな、と。

 諦めることは誰だって簡単にできる、でも、だからこそ諦めてはいけない。

 貴方が背負っているものは、そう簡単に投げ出して良いものなの?投げ出せるものなの?

 貴方は時代を、世界を救うのでしょう、それならば、こんなところで逃げてはいけない。

 だから、だからね、もう少し頑張ってみない?

 お師匠は慈愛の笑みを浮かべて言った。

 その眼差しは力強くて、励まされるようで、不思議にも何とかしなければ、という心に火を付けた。

 

 というかあれを無限に撃てるなら最初からずっと撃ちっぱなしだっただろ、冷静になれ。

 ケイの非常に冷静な言葉でそう言われればそうだな…と納得し立ち上がる。

 作戦は変えない、無限ではないにせよ、あれがまた発射されることも無いとは言い切れないのだ。

 であれば時間をかければかけるほどこちらは不利になる。

 あの後通信が開かれたことから少なくとも無事であることは確かめることができた、ならばやはり作戦通りに進むしか無いと思ったのだ。

 まあ砂漠を抜ければ通信は繋がるし、それ次第でもあるが…

 それでも取り敢えずは作戦通りに動きたい、という俺の意志に応えて、彼は神獣兵団を貸し出してくれた。

 進軍である、あと数日、それで全てを決める。

 覚悟を新たに俺達は砂漠へと踏み出した。

 

 砂漠を出て、通信を繋ぐ。

 あちらの被害は思っていたよりもずっと少なくはあったがしかし確かな被害が出ていた。

 具体的言えば複数ある村の内一つが消し飛んだ、主に利用させてもらっていた呪腕のところでは無かったが、それでも呪腕は悔しそうに、絞り出すようにそういった。

 戦える人員は殆ど集まっていたが故に進軍に関しては問題なかったがそれでも戦えない人たちが百単位で殺された。

 もっと早く動くべきだった、そう思う気持ちにこれでも最速だった、と言い聞かせる。

 努めて冷静に、同じように動き出していたあちら側に合わせて作戦通りに進める。

 荒れた大地は、やはり光が落ちていてあちらこちらに巨大なクレーターが刻み込まれていた。

 

 日は沈み、辺りはすっかり夜の帳が落ちた。

 あれから数日、俺達は聖都付近まで歩を進めていた。

 聳え立つ白亜の城、それを見てケイがポツリと言葉を漏らした。

 あまりにもキャメロット城に似すぎている。

 細部は違うが全体的に見ればあれはキャメロット城そのものである、と。

 ふぅん…え、だから何?問題でもあった?

 そう問えば彼は暫し悩んだ後にもし、仮にだぞ、と口を開く。

 あれがもしキャメロット城を模倣していて、その特性すらも備えていたとすれば、俺達にあれを突破する術はない、と。

 ……うん!?どういうことだそれは!?ここまで来ておいて何その新情報!?

 慌てふためく俺にケイはゆっくりと言った。

 キャメロット城は心ある者のみを通す、強いだけの攻撃では決して砕けることはない。

 つまり善なるものの攻撃しか通らない、そういうことだ。

 …ここまで来てそんなことが判明するとかある…?

 いやチートなんてものじゃないでしょそれ、ズルくない?

 正門をぶっ飛ばすほどの力を持っていて尚かつ善なるもの…?

 俺の中で善の代表といえば立香くんとマシュな訳だけどあの二人に正門をぶっ飛ばすなんてことは不可能だ。

 不安が内心を埋め尽くしていく、そもそも根っからの善人なんているものか──

 そう思ったところで誰かの手が頭押し付けグリグリと撫で回す。

 ──お師匠?

 彼女は笑って私に任せておきなさい、可愛いお弟子のためにお師匠様がとっておき見せちゃうんだから!とそう言った。

 

 ──時は来た。

 神獣兵団は左右から奇襲を掛けて派手に注意を引き、その間に俺達は正門へと迫る。

 既に先程の話は共有していて、立香くん達は俺達のフォロー、道を空けてもらいながら素早く駆ける。

 一気に叩き割る、そう思い動いていれば突然、闇夜は取り払われて太陽が中天へと上りだした。

 これは──?

 眼の前には銀の鎧を纏う騎士、ケイがガウェインだと叫んだ。

 サー・ガウェイン、彼は逸話通りであれば日中三倍。つまり太陽が出ている内は彼の騎士は全ての能力に置いて普段の三倍の力を誇るということだ。

 何でか知らんが太陽が顔を出してきた今彼は最強に近い能力を保持しているということに他ならない。

 やばいかも…一度、二度と剣を交え何とかいなすケイを見る。

 長くは保たない──その時だった。

 晩鐘の音が、鳴り響く。

 北の空から嵐がやってきた、聖都を呑み込むように、巨大な髑髏を模した嵐が太陽すらもかき消していく。

 ──来た。

 キングハサン、最高のタイミングだ。

 聖都から放たれる矢は全て嵐に阻まれ、サー・ガウェインの能力をあざ笑うように太陽を覆い隠す。

 そうして振るわれた剣は最強の暗殺者にいとも容易く弾かれた。

 

 脇を抜ける、お師匠が凄まじい勢いで魔力を練り上げていく。

 戦いが長引けば苦しんで死んでいくだけの人が増えていく、それは仏門的にもよろしくないから。

 だから、後はお願い。

 お師匠は俺にそう言い一人駆け出した。

 善なるものしか通さぬのなら、慈悲の(こころ)で推し通る。

 ──破山一拝、釈迦如来掌

 傷一つつかない正門に、御仏の心が叩き込まれる。

 激しい衝撃だった、爆裂音が響き渡って白亜の正門は木っ端微塵に粉砕し尽くした。

 

 その一撃は正しく渾身の一撃で、文字通り捨て身の一撃だった。

 倒れ込み光と化していく彼女の身体を抱き起こして馬を駆る。

 突然弟子認定されて何この人変人…とか思いはしたが、何だかんだ世話にはなった。

 ていうか捨て身の一撃とか聞いてないし、何それふざけてんの?

 お師匠にはもう少し頑張ってもらわないとなんですけど、嫌味のように言えば彼女は少しだけ笑ってごめんねと謝った。

 また出会えたら、その時はもっと助けてあげられるし、活躍してあげるから、だから。

 もう一度出会えるように、世界を、救ってね。

 ふわりと笑って彼女は消えた、その身を光の粒へと変えて消滅した。

 ──任せろ

 小さく呟いて、俺達は走り出した。

 

 立香くん達が正門から入り込む、その後に続こうとして、赤雷が奔った。

 ──モードレッド!

 叫ぶと同時にケイとモードレッドの剣がぶつかり合って火花を散らす。

 瞬間、バチリと稲妻が鳴る。

 直感的に不味いと思った、一歩踏み込みケイの肩を掴んで引き寄せる。

 直後彼女の剣からは巨大な赤雷が迸った。

 溜めもなしに宝具───!?

 円卓はどいつもこいつも卑怯すぎない!?

 動揺する俺達を嘲笑うように彼女は剣をもう一度振り上げて、そして飛来した矢が彼女の肩を貫いた。

 アーラシュ──!

 彼は笑って先に行きなと促した、させるものかと叫んだ彼女を米俵が吹き飛ばす。

 拙者も残ろう、と藤太が言った。

 ──任せた、必ず後を追ってこい。

 それだけ伝えて走り出す、すぐに追いつくから安心しろ、とアーラシュが笑った。

 

 正門を抜けた先は、美しく整理された城下町が広がっていた。

 流石聖都──そう思ったのも僅かですぐさま酷く濃厚な血の匂いがすることに気づいた。

 城内に入ったのは俺達の他には立香くん達だけ。

 嫌な予感がする、Dr.に現状は!?と聞けば城下町にはハサン達が残って交戦中の筈だと言った。

 だとしたらこれはちょっと不味いのでは?己を急かして走る。

 ちょうど城下町の真ん中、大きな噴水があるそこで五人のハサン達は血の池に沈んでいた。

 嘘だろ、いくらなんでも早すぎる──

 瞬間、鋭い剣閃。

 眼前まで迫ってきたそれは寸でのところで差し込まれたケイの剣によって弾かれた。

 甲高い金属音を高鳴らして離れ合い、同時に琴のような音が──

 

 瞬間、鋭い剣閃。

 眼前まで迫ってきたそれは寸でのところで差し込まれたケイの剣によって弾かれた。

 甲高い金属音を高鳴らして離れ合い、音を聞きながらケイを引っ掴んで全力で姿勢を下げる。

 ま、間に合った…また上半身と下半身をバイバイさせる気はねぇんだよ…!

 ルーンストーンを投げつけながら下がれば、爆風を物ともせずに紫色の甲冑の騎士が飛び込んできた。

 振り降ろされた剣を鈴鹿がいなす、ケイがサー・ランスロット、サー・トリスタン、と二人の騎士の名を呼んだ。

 円卓の騎士、それも二人。

 ここは仕留めていかないと駄目っぽいな、と礼装を展開した。

 彼らとケイは、鋭く視線を交わしはしたが、互いに何も言わなかった。

 きっと彼らの間の話し合いはとうに済んだことなのだ。

 視線を外し、今度は俺に向けて彼らは口を開く。

 今のを躱すとは、お見事です、とトリスタンが言い、ランスロットが何故歯向かってくるのか、と顔を歪めて言った。

 いくら十字軍との戦いが終わった後だとしても、我々円卓の騎士は万全の状態だ、獅子王から祝福(ギフト)も授けられている。

 貴公らでは我々には敵わない、投降するべきだ。

 そも、我々の目的も人々の守護であるのだから、闘う必要はあるまい?と。

 は?舐めてんの?

 俺達は世界を救わなければならないのだから、その獅子王様がやろうとしていることを看過する訳にはいかない。

 そもそもお前らだっておかしいとは思わないの?それは人道に反しているとは思わないのか?

 聖槍に人を押し込んで、それでこの時代だけでも人理の焼却から逃れて、それは結局護ったってことになるって本気で思ってんの?

 我が王に反するわけにはいかないってか?我が王をまた裏切る訳にはいかないって?自分たちの生前の悔みを晴らすために、今を生きている人間を、その先の未来を捨てろってか?

 ──冗談じゃねぇ、死人が、生きようと藻掻く人間の邪魔をしてんじゃねぇよ。

 

 動き出しはどちらも同じだった。

 鈴鹿がランスロットと剣を交え、音と共に走る真空の刃をケイが弾いた。

 現状見えない刃に対抗できるのは同じ円卓のケイだけだ。

 トリスタンの対処をケイに、その援護にカーミラを任せてランスロットから先に崩す。

 鈴鹿の援護にライダーさんを回す、あの二人ももうそれなりに一緒に戦ってきた仲だ。

 そんじょそこらの英霊よりずっと連携が取れている。

 超高速で行われる剣戟を二人でいなし、弾き合い、苛烈に攻め立てる。

 鈴鹿の刀は確かに肌を斬り裂いている筈なのに、ライダーさんの格闘は確かにダメージを与えているはずなのに、ランスロットには傷一つつかない。

 いくら何でもおかしい、英霊だから、で済む話ではない。

 それでも二人は攻め立てて、鎖がランスロットの身体を縛り鈴鹿が刀を振るう。

 瞬間、ダメ押しのようにライダーさんの目が光った。

 石化の魔眼──!

 決まったと、そう思った。

 しかし彼はほんの少しも、ほんの数瞬すらも止まること無く、鎖を砕き、振り降ろされた鈴鹿の刀ごと彼女を断ち切った。

 はぁ──?

 二対一で成り立っていた均衡はあっさりと崩れた、血しぶきを上げながら倒れる鈴鹿ごと、彼はライダーさんへと剣を突き立てた。

 ──走り出す、瞬間片脚はいとも簡単に斬り落とされた、音もなく飛んできた不可視の刃によって。

 カーミラが作り出したであろう無数の拷問器具は粉々に斬り砕かれて、彼女は血にまみれていた。

 二人でもいなしきれない、いや、そもそもこいつらが、いかに高名な円卓とは言え異常なまでに強すぎる。

 先のモードレッドもガウェインもそうだ。

 こいつらの強さには何かしらのギミックが──

 

 動き出しはどちらも同じだった。

 令呪をきる。

 出し惜しみをしている場合ではない。

 本気で殺す、全身全霊、何もかもを掛けなければこいつらは倒せない。

 魔力は爆発的に膨れ上がった、幾百の刀がランスロットを覆うように宙を舞う。

 しかしランスロットは全方向から飛来するそれを全て弾いてみせた。

 ──想定通り。

 鈴鹿の宝具は仕留めるために展開したんじゃない、躱せないようにその場に縫い止めるためのものだ。

 ──全ては幻想の内、けれど少女はこの箱に──

 直後、刀ごと呑み込むように巨大なアイアンメイデン──幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)は展開された。

 躱そうと派手に動けば串刺しで、かと言って逃げなければカーミラの宝具で串刺しだ。

 ランスロットが焦りを面に出した。

 助けを求めるように視線を変えて、同時に弓矢を放つ。

 必中の呪いがかけられたそれは過たずトリスタンへと飛来した。

 当然のように撃ち落とされたが、それで良い。

 それだけでランスロットの手助けには入れないようにケイが邪魔できる。

 幻想の鉄処女が、刀ごとランスロットを呑み込んだ。

 骨を砕き、肉を貫く音が響き渡り、そして幻想の鉄処女は粉々に斬り砕かれた。

 莫大な魔力で形成された、蒼の輝きが迫りくる───

 

 動き出しはどちらも同じだった。

 あの宝具エグすぎない…?範囲が広すぎるんですけど…

 俺とか一瞬で塵だよあんなの…

 カーミラの宝具だと駄目だな、そう思って令呪をきる。

 同じように刀は宙を舞い、動き出したトリスタンへと矢を放つ。

 トリスタンの動きを牽制しているケイを横目に、蒼い星は流れ落ちる。

 直上から放たれたそれは弾かれた刀ごとランスロットを叩き潰した。

 真っ赤な血が辺りを染める、追い打ちをかけるように残った刀は彼の身体を針の筵に仕立て上げた。

 そら、次はお前だ。

 トリスタンへと展開し直した銃を向ける。

 瞬間、剣が走った。

 隣に居たカーミラが俺を突き飛ばす、同時に彼女の首は容易くとんだ。

 ランスロット──

 全身から血を垂れ流し、その上刺さっている刀を抜きもせず剣を振り抜いたランスロットは正しく鬼のようで、一瞬思考が止まる。

 呆けるなとケイが叫び、ハッとした時には遅く。

 蒼の光は放たれた──

 

 隣にいたカーミラが俺を突き飛ばす、同時に彼女の首は容易くとんだ。

 ──動きを止めるな、頭を回せ!

 ダンッと一歩踏み出る、ライダーさんと鈴鹿は間に合わない。

 令呪を使っても、宝具を阻めない。

 だから、俺が仕留める。

 魔力を練り上げる時間すら与えてなるものか。

 概念礼装を幾つも展開する。

 全身に炎のような熱さが、剣のような冷たさが広がっていく。

 今の俺は、英霊にも手が届く。

 必ず殺す、確実に、完璧に。

 フラガラック───────!

 剣が腹に突き刺さる、同時にフラガラックは既に砕けていた鎧から除く肌、それも傷がついている部分を的確にぶち抜いた。

 ゴボリと血が溢れる、見ればランスロットの眼からは既に光が消えかけていた。

 ──俺の勝ちだ、何度でも言うぞ、お前は、お前たちは間違っている。

 密着した状態で言えば彼は血を吐き出しながらもそれを認めた。

 申し訳無い、と目を伏せて、どうか我が王を、止めてくれと。

 そう言い彼は身体を解かして消えた。

 

 身体は崩れ落ちる、痛みと失血で意識が飛びそうだった。

 ここで倒れてはいけない、まだやるべきことが残っている。

 その意志だけで気を保てばトリスタンはああ、悲しいことだ、と言った。

 ランスロット卿はやられてしまいましたか、ですが貴方はもう動くことすらままならないでしょう、と。

 そんな貴方を庇いながらこの先へ進むのは自殺行為にも等しいと。

 馬鹿を言え、カルデアの技術力をなめんじゃねぇぞ。

 治療スクロールはすぐさま身体を癒やし、傷を塞ぐ。

 血を一気に無くしすぎたせいか軽いめまいがするし、傷は表面上塞がったように見えるだけで激しく動けば傷口は開くだろう。

 それでも、今はそれで充分だった。

 ここまで治れば、まだ戦える。

 次はお前だ、トリスタン。

 

 真空の刃が弦を弾く音とともに鳴り撃ち出される。

 そのほとんどをケイが弾き落とし、漏れた刃を鈴鹿の剣の束が弾いた。

 刃が不可視であろうが関係ない、飛び抜けた叡智を持つ鈴鹿であれば残りの少なくなった刀でもある程度ルートを絞って予測できる。

 まあそれに、もうそれの攻略法は見えた。

 ありったけのルーンストーンを地にばらまく。

 ダメージにはならないことは分かっている、だからこれはそのためのものじゃない。

 トリスタンが弦を鳴らすと同時にルーンストーンを起爆させる。

 爆発は大地を抉り、砂や草を大いにばらまいた。

 そうすればほら、真空の刃であればそれはもう不可視ではない。

 そこにあるものなのであれば、砂を斬り裂いてくるそれは姿を現す。

 まあだからといって躱せるかといえばそうではないのだが、それは俺一人であればの話である。

 ライダーさんが俺の身体を引き寄せる、同時に魔術礼装を起動した。

 くたばりやがれ。

 ガンドと呼ばれる魔術は弾かれたように勢いよく宙を飛び、粉塵を突き抜けてトリスタンの肩を掠めていった。

 それだけで充分、ケイの剣は振るわれて、トリスタンは片腕を失って、しかし反撃の如く放たれた斬撃を防いだケイは弾き飛ばされた。

 勢いよく飛び退いた彼は血の池を滑りながら後退する。

 同時に、魔力が練り上げられる。

 不味い──

 気づいた時にはもう遅い、彼の騎士は魔力を練り上げきって、己の弓に手を翳した。

 瞬間、彼の胸から腕が生えた。

 黒と赤が入り混じったような腕が、トリスタンの心臓を掴み上げて握りつぶす。

 何が起こったのかもわからず倒れたトリスタンと入れ替わるように、ハサン──呪腕のハサンが立ち上がった。

 血を吐き出しながらも、この時を待っていたと彼は笑った。

 そして、自分は使い物にならないから、先に行ってくれとも。

 どう見ても、彼の傷は治しようが無かった、死んでないほうが不思議なくらいの傷だったのだ。

 眼を伏せてありがとう、とそう言えば彼は謙遜したようにいえいえ、と。

 どうか先に進んで──全てを救ってくだされ、とそう言った。

 

 ライダーさんに背負われて前へと進む。

 Dr.に聞けば、立香くん達は既に獅子王と交戦中で、その前に円卓の騎士アグラヴェインをアルトリアが相討つ形で打倒しているという。

 つまり残った円卓の騎士は後二人。

 ガレスにガウェイン。

 ガウェインはキングハサンが相手しているがガレスは分からない。

 それに、円卓の騎士でなくとも、この城を守る騎士は異常なまでに強い。

 その前に早く決着をつけなければ、そう思って足を早めれば、背後から金属音が鳴り響いた。

 誰だ──そう思って振り返ればそこにいたのはガウェイン、ただ一人だった。

 …は?お前はキングハサンが戦ってたんじゃ…何故ここに。

 そう問えば私は見逃された。私の天命はあそこではないと、そう言われ見逃されたと彼は言った。

 ……あぁ、そういうこと…そう言えばあの人そういう存在でしたね…

 キングハサン、その人の力ではなく相対したものの運命に殺されるんだとか。

 良くわからないが少なくとも、キングハサンという存在は、そこで死ぬ運命にあるものをそこで殺すだけの存在なのだろう。

 つまりガウェインの運命は、正門前でキングハサンの手によって殺されるものではなく、ここで俺達に殺される運命だった、というわけだ。

 異論はいらない、真実はこれだけでいい。

 

 何故獅子王に付き従うのか、獅子王が言う守護は、真の救いじゃない。

 本当は分かってんじゃないの?そう問えば彼は吠えるように言った。

 そんなことは関係がない、と。

 生前、王の右腕でありながら私怨を捨てきれず結果的に王の死を招いた私に、王は言ってくれたのだ。

 何をしても良い、聖都から離れようが、私を討とうが、好きにするが良い、と。

 その歓び、貴公らにわかるものか!

 ブリテンの円卓は滅び、また我らの世界は滅んだ。

 だがその上で王はこの世界を守護するとお決めになられたのだ。

 我が剣は既に騎士王のものにあらず、獅子王のものである。

 生前のような愚かな真似はもうできない、さぁ剣を抜け。

 分かっているだろうが容赦はしない、ケイにそう言って、ガウェインは剣を抜き放った。

 

 剣はぶつかり合って弾き合う。

 連続する金属音が広間を埋め尽くしていた。

 鈴鹿、ケイ、ライダーさんによる高速連携攻撃を完璧に受け流し、その上で攻撃にすら転じるガウェイン。

 どう見てもこちらの分が悪かった。

 人数に差はあれど、こちらは全員がかなりの消耗をしている。

 それに反してガウェインは多少の傷はあれど、祝福(ギフト)ってやつの効果か、特段消耗もしている様子を見せずに剣を振るう。

 流麗にして剛健。

 一撃一撃が必殺とも言えるそれは三人の英霊を相手に圧倒するほどだった。

 ライダーさんの鎖を膂力のみで砕き、ケイの剣を難なく弾き、鈴鹿の攻撃を先読みしているかのように躱し返す刀で剣が跳ねる。

 見れば見るほど隙が無いことを思い知らされる、完成された闘技を大きく上回った能力で振るわれる。

 部下を連れてすら来ず、単身でやってきた意味がここに来てようやく分かった。

 最初から必要ないのだ、彼ほどの力があれば、むしろ味方は邪魔なのである。

 不意に、大きく放たれた剣が鈴鹿を刀ごと叩き切る、それと同時に穿たれたライダーさんの釘剣は首に突き刺さり、しかし浅く傷をつけただけに終わった。

 ──嘘だろ。

 ランスロットやトリスタンも異様なまでの頑健さを誇っていたがガウェインはその比じゃない。

 ライダーさんほどの英霊がトップスピードで放った剣が人体の急所とも言える首に突き立ち、浅い傷ができた程度で済むとか異常にも程がある。

 人の皮被った化物かよ…

 ドロリと血を流す鈴鹿の身体を抱き寄せすぐさま応急回復をかける。

 彼女も伊達に英霊ではない、斬られる瞬間身体を引いていたのか思っていたよりも傷は浅く、それだけで傷はある程度塞がった。

 不幸中の幸いだった、だがそれはこの戦況に何一つ影響を与えない。

 このままでは勝てない、そのことがはっきりと分かってしまう。

 ループするまでもない。

 どう動いてもあの能力差では()()()()()()()()

 俺が指示したのでは遅すぎる、かといって俺が動いたところで速さが、力が足りない。

 打開策は出てこない、このまま全員殺される未来しか見えない。

 事実、鈴鹿が抜けたこの数秒でライダーさんは片腕を落とされた。

 同じ円卓であるケイが居なければ既に俺すら殺されていただろう。

 そして、そのケイですら長くは保たない。

 それが分かってしまう、理解できてしまう。

 お師匠に託された、呪腕に託された、カルデアに、世界を託されたのに。

 未来が、もう、見えな──

 ポン、と肩に手を置かれる。

 そんな如何にも絶望してますみたいな顔するのをやめて、と鈴鹿に窘められる。

 いやお前現状をわかっているのか──

 そう言いかけて、口を塞がれた。

 理解ってる、だから、私に全てを賭けて。

 彼女は薄く笑ってそう言った。

 その眼に冗談や偽りはなく、本気であることが見て取れる。

 震える声で分かった、とそう返す。

 手の甲の紋様が熱く輝きそれがそのまま鈴鹿の力になる。

 そうして彼女に言われるままに城内のガラスを魔術で破壊した。

 ガウェインが血迷ったかと叫び、同時にケイとライダーさんを見た。

 一瞬、視線が合う。

 それだけで彼らは俺の言いたいことを完璧に理解した。

 一言で言えばそれは時間稼ぎ。

 勝利するための時間稼ぎ、それが必ずどちらかは死ぬことが分かっていて、それでも彼らは引き受けた。

 魔力を練り上げながら、鈴鹿は口上を述べていく。

 ──これなるは、菩薩が鍛えし小通連。抜かば知恵は文殊が如く──

 ガウェインの動きは攻勢を増した、激しく振るわれる一撃を流すように受け、またライダーさんの血霧が視界を覆う。

 ──これなるは、菩薩が鍛えし大通連。抜かばその数雨を超え──

 ケイの剣が弾かれる、素早く振るわれた剣を阻むが如くライダーさんの鎖が片腕だけを絡め取り、一瞬の硬直を作り出す。

 ──これなるは、水龍の尾より取りし顕明連。抜かば虚空を斬りし、億なる世を覗く──

 振り落とされたケイの剣を鞘で受け止め受け流す、ライダーさんの釘剣が鍔迫り合って叩き折られた。

 ──三振揃いて三明剣、兜率天の名のもとに、世を見渡し邪を浄げ──

 ライダーさんの身体が斜めに崩れ落ちる、瞬間石化の魔眼が、一瞬にも満たない時間だけガウェインを止めた。

 ──宝具重複展開──三千大千世界──恋愛発破・天鬼雨──

 瞬間、鈴鹿の刀は普段の倍の数を以て空へと現れた。

 同時に、鈴鹿の姿は立烏帽子を被り、徐々に巫女のような装束へと変わっていく。

 ケイを下がらせながら一振りの刀を日に翳し、そして彼女は一歩踏み出た。

 合わせるようにガウェインは剣を振り抜いた。

 圧倒的な力、目にも留まらぬ速さで振り降ろされたそれを彼女はほんの少し身体をそらしたただけで躱しきる。

 続く二閃、三閃、それすらも彼女は()()()()()()()()()()()()()()その全てをくぐり抜けた。

 ──一閃。

 彼女の放った斬撃はガウェインの防御をすり抜けるように斬り裂いた。

 鎧ごと斬り裂いたそれは彼の肉体にまで傷をつける。

 瞬間、刀は殺到した。

 恐ろしい速さと物量で放たれていくそれをガウェインは()()()()()()

 彼ほどの能力であればただ放たれるそれに対処することは幾らでも可能なはず、だというのに鈴鹿の宝具は彼の動きを知っているかのごとく地に、身体に、突き立った。

 鋼とすら思えた彼の騎士の肉体に、徐々に深く刀がめり込んでいく。

 ここに来てガウェインは初めて動揺を露わにした。

 戦いとは鍛え上げられた肉体とスキルだけで決まるものではない。

 揺れ動いた精神は彼に大きな隙を作り上げた。

 見逃すはずもなく刀は空を駆る。

 動揺したとは言えガウェインも一流の英霊、彼はすぐさま片腕を犠牲に生き残る判断を下して左腕を盾に、弾けるように跳び出た。

 瞬間、彼の上半身と下半身は別たれた。

 とっさに下されたガウェインの動きを見通して、彼女はルートをなぞるように刀を振り抜いたのだ。

 ありえない、と彼は言った。鈴鹿はそれを聞いて尚宙を舞う刀で地に縫い止めるように串刺した。

 同じ過ちは繰り返せないから、と、そう呟いて。

 天命とは良く言ったものですね、お見事です。

 ガウェインは掠れた声でそう言って、剣を固く握ったまま、その身を光へと還した。

 

 ガウェインが消えると同時に、鈴鹿は気が抜けるように倒れ込んできた。

 その頭からは既に立烏帽子は消えていて、服装もまたいつもの制服姿に戻っている。

 少し無理をしすぎたかも、そう言って全身から力を抜いた彼女はもう限界まで消耗しきっていた。

 呼吸は浅く、指一つ動かすのさえ苦労なようで、全身をそのまま預けてくる。

 ごめん、ごめん、ありがとう。

 そう言えば彼女は何で謝るし、と少し笑った。

 ほら、早く行きなさい、後もうひと踏ん張りでしょ、と続けて。

 信じているからね、と言って鈴鹿は姿を消した、今さっきまで感じていた重みが消えていく。

 立てるか?と手を差し伸べたケイに、勿論と応えて手を掴む。

 さて、残すはラスボス戦のみ。

 立香くん達の助けに、早くいかなければ。

 

 玉座扉を蹴り開ける、瞬間莫大な魔力の奔流が俺達の身体を押し阻めた。

 聖槍は開放されていた。放たれた究極の一撃は、しかし彼女──マシュ・キリエライトによって防がれていた。

 何か見たこと無い宝具使ってるんだけど何あれ…そう呟けばケイは軽く呆然としたように言った。

 あれはキャメロット城そのもの、あぁ、やはり彼女の中にはあいつが居たか、と。 

 あいつ…?疑問を浮かべれば彼は言う。

 サー・ギャラハッド、アーサー王より最も偉大な騎士と称され、また聖杯探索にて聖杯を見事見つけた最も穢れの無い騎士。

 そんな彼──彼女の宝具がキャメロット城か、当然だな、と笑った。

 白亜の城は持ち主の心によって変化する。

 その心に一点の迷いもなければ決して崩れはしない。

 倒すための騎士ではなく、その善き心を示す騎士。

 ぴったりだな、と言って彼は俺を連れて前に踏み出た。

 そら、時代を、世界を救うぞ、と。

 

 俺達の登場に獅子王は来たか、と笑った。

 いや、どちらかと言えば俺達、というよりはケイに対し、彼女はそう言った。

 応えるように、ケイは剣を抜き放つ。

 円卓の騎士として、騎士王の剣として、俺は貴様を討つ。

 そう宣言した彼に、サー・ベディヴィエールが並び立つ。

 援護を頼む、と彼らはそう言った。

 

 ──剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)

 サー・ベディヴィエールは早々に己の宝具を開放した。

 白金に輝く義手を、まるで星々の輝きのように光らせて、獅子王に見せつけるように振りかざす。

 しかし彼の王はそれに対抗するでもなく、ただその光を見て眼を見開いた。

 私はその輝きを知っている、私はそれを、知っている──?

 そうして彼女はこう言った。

 円卓の騎士であるサー・ベディヴィエールに対し、何者であるか、と。

 それにサー・ベディヴィエールは失望するでもなく、目を伏せるでもなく、円卓の騎士、その一人でありますと応え、次いで立香くん達と俺を見た。

 あなた達のおかげで此処までこれた、これまでの全ての厚意に感謝を、そして一つのお詫びを。

 私は──獅子王の変質の理由を知っていた。

 黙っていたことを、許してほしい、と。

 瞬間、Dr.が観測反応がおかしい!?と慌て始めた。

 サー・ベディヴィエールを指して、霊基反応も無ければ、魔術回路も人並み──彼は、英霊ではなく人間である、と。

 その言葉に、彼はその通りであると応えた。

 マーリンの魔術で全てを騙していました、アガートラムも、また同じ。

 これはヌァザの腕ではありません。

 これは、これは──貴方が、騎士王であった時に扱った聖剣である、と。

 私は罪を犯した、聖剣を、湖に返せなかった。

 その結果王は死ぬことさえできず、手元に残った聖槍を携え彷徨える亡霊の王へと変質してしまった。

 そして、その罪を償うために、私はこうして貴方を探し続けていたのです。

 ──エクスカリバーは所有者の成長を止める、つまり彼は1500年もの間、彼の王を探し求めていたということだ。

 その重みが、思いがどれほどのものであるか、予想すらできない。

 貴方は私に復讐しなくてはならない、だが私は円卓の騎士、ベディヴィエール、善なるものとして、悪である貴方を討たなければならない。

 さぁ、行きましょう、と彼はそう言った。

 

 聖槍の一撃を、マシュの大盾が振り弾く。

 出来上がった隙にケイの剣が振り抜かれ、しかしそれは紙一重で躱された。

 地を割るが如く踏み込んだマルタの一撃が、聖槍によって阻まれ、吹き飛ばされる。

 瞬間、聖剣は振るわれた、その輝きは聖槍を押しきり彼女を大きく後退させる。

 ──展開した礼装を撃ち放つ。

 決定打どころか傷一つ付けられないのは分かっている、だがこの攻撃はそのためのものではない。

 彼女の動きをワンテンポずらす、それだけで高度な戦いをしている彼らは動きやすくなる。

 必中の呪いがかかった矢は彼女の顔めがけて飛来し、掴まれ折られる。

 それと同時に、金の十字架が振るわれた。

 圧倒的な重量を誇るそれはしかし片手で受け止められて、投げられる。

 だがそれで良かった、ほんの少しでも視界を覆うことが出来れば──

 二振りの剣が閃いた、金と銀の輝きは彼女の首を断つように振るわれて、しかし聖槍によって阻まれた。

 大きく弾かれた二人を無視し、宙を転がるマルタへと聖槍が迫り、寸ででガードに入ったマシュごと大きく吹き飛ばした。

 二人まとめて壁にめり込み瓦礫に埋まる。

 不味い──マシュとマルタの名を叫ぶ、同時に、聖槍から黄金の魔力が放出された。

 それは立香くんの身体を巻き込み、瓦礫ごと全てを塵に返す。

 やば──

 ケイが弾かれ、ベディヴィエールは叩き潰される。

 渦巻くように放たれた聖槍は、全てを無へと還した。

 

 二人まとめて壁にめり込み瓦礫に埋まる。

 ──走り出す。

 立香くんに令呪を使えと叫びながら概念礼装すら用いて全身を強化した。

 聖槍から放たれた魔力の前に、三重結界を展開する。

 数秒の拮抗を以て、それは破られた。

 視界を埋める極光は、しかし俺の身体を消し滅ぼさない。

 揺れる視界、助かったと叫ぶマルタに強引に立香くんのもとに投げ飛ばされて、何とか受け身をとる。

 何で君たち英霊は俺をそんなに投げ飛ばすのん…?

 加速したマルタはケイへと迫る聖槍を割り込むようにガードして食い止める。

 よろけていたサー・ベディヴィエールは雄叫びを上げて聖剣を振るう。

 一撃、浅くはあるが獅子王を光が斬り裂いた。

 血を流しながら、獅子王は大きく後ろへ跳んだ。

 形振りは構っていられないか、そう言って彼女は聖槍を構えた。

 瞬間、信じられないほどの魔力が聖槍へと渦巻くように集まっていく。

 黄金の魔力はその大きさを勢いよく膨らませ、近づくことすら敵わない。

 そしてその光を、俺は見たことがあった。

 あれは、あの日降ってきた光だ。

 直感的にそう思う、各地に飛ばしたあれを、一点に凝縮して彼女は撃ち放つつもりなのだ。

 もう、止められようがない、あまりの魔力の奔流に、一歩も前に進めない。

 マシュは宝具の展開準備に入ったが、あれはこの場ごと全てを消し飛ばす。

 特性関係なく、あれは全てを塵へと返す、あれはそれほどの力を持っていた。

 あぁ、これは無理、理性も本能も同時に言ったその時だった。

 ──おっといきなり修羅場か、良し、俺に任せておけ。

 遅れてやってきた、大英雄アーラシュ・カマンガーが笑って前に出た。

 

 ──陽のいと聖なる主よ

 令呪のバックアップを受けて、彼は弓を携え魔力を練り上げる。

 ──あらゆる叡智、尊厳、力をあたえたもう輝きの主よ

 聖槍の光は止まること無く渦巻いていき、しかし彼の魔力も負けること無く膨らんでいく。

 ──我が心を、我が考えを、我が成しうることをご照覧あれ

 莫大な魔力の奔流は、互いにぶつかり合って空間を軋ませる。

 ──さあ、月と星を創りし者よ

 獅子王は聖槍を少しだけ引き、魔力を整え纏め始めた、無作為に撒き散らされていた魔力は聖槍へと収束していく。

 ──我が行い、我が最期、我が成しうる"聖なる献身(スプンタ・アールマティ)"を見よ

 アーラシュが、矢を番えて力強く引いた、魔力の差はほとんど存在しない。

 ──この渾身の一射を放ちし後に、我が強靭の五体、即座に砕け散るであろう!

 彼は後ろに居た俺に、頼んだぜと笑った後に、下がってな、と言った。

 ──流星一条(ステラ)ァァァァァァ!!

 両者の魔力は同時に解き放たれた。

 凄まじい衝撃と爆音と共に、黄金の魔力は互いにぶつかり合って、空間を歪ませる。

 白亜の床は砕け始め、壁や天井はその総てが吹き飛んだ。

 同時に展開されたマシュの宝具の後ろにいて尚、その衝撃は空間を通して伝わってくる。

 煙が晴れた頃、アーラシュの姿は光へと消えていて、獅子王が呆然とした姿で彼を見た。

 彼の王の究極とも言えた一撃は、伝説の英雄の決死の一撃によって防がれた。

 後は頼んだぜ、と言った彼の言葉が蘇る。

 ケイの名を叫んだ、同時に立香くんはサー・ベディヴィエールの名を叫ぶ。

 これで終わりだ、これで全てを終わらせる。

 魔力の大半を失った獅子王に、二人の騎士が迫った。

 

 銀の剣閃が、二度三度と聖槍を防ぎ、ついにその腕を弾きあげる。

 瞬間、金の閃光は弾け輝いた。

 アガートラムではなく、エクスカリバーとして放たれたそれは聖槍を折り、獅子王の身体を呑み込み、全てを打ち砕く。

 義手から剣へと戻った聖剣は、彼の王へと返される。

 1500年の時を経て、聖剣は返還された。

 とうの昔に限界を迎えていたサー・ベディヴィエールの身体は、この戦いの影響で手足が土塊のように砕け、崩れ落ちる。

 それでも彼は和やかに言った。

 勇ましき騎士の王、ブリテンを救った偉大なお方。貴方こそ、我々にとっての輝ける星。

 我が王、我が主よ、今こそ、いいえ、今度こそ、この剣をお返しいたします。

 その言葉によって、獅子王───いや、騎士王は全てを思い出した。

 身体が崩れていくサー・ベディヴィエールの身体を抱きとめ、見事、と。

 我が最期にして最高の忠節の騎士よ。

 聖剣は確かに還された、誇るが良い、と。

 貴卿は確かにそなたの王の命を果たしたのだ、と。

 サー・ベディヴィエールはそれを聞いて笑った。

 笑って、砂へと還っていった。

 

 騎士王は、彼の騎士を見送った後に聖剣を携え振り抜いた。

 聖剣は手元にある、王に歯向かうものを生かして返す道理は無い、と彼女は高らかに宣言し、そして馬鹿か、と一人の騎士に罵られた。

 お前は挑戦を受けて、負けたんだ。

 いい加減認めて、賛辞でも送れ、と。

 ケイは何時になく穏やかな表情で、騎士王へとそう言った。

 暫し騎士王は呆然として、少しだけ笑って聖剣を地に突き刺した。

 私の最後の空元気だというのに、そう言った王にケイはもう休めと和やかに言った。

 同時に、俺達の身体が光へと代わっていく。

 Dr.が特異点の崩壊を確認したと連絡が入る。

 聖槍は無くなり、聖杯は既に回収済みだった。

 聖都そのものがこの時代にはありえないものだから、時代の修復力は今までよりずっと早いから気をつけて、と伝えられる。

 どうやら、どちらにしても再戦は不可能のようですね、と彼女は言って、残念だったな、とケイが笑った。

 それに少しだけムッとした後に彼女は、では手土産を一つ、と口を開いた。

 私は、神霊と化したことで魔術王と同じ視界を得ました。

 彼の思惑、その最終目的も理解できた。

 魔術王ソロモン。その居城となる神殿は正しい時間には存在しません。

 魔術王の座標を示すものは第七の聖杯のみ。それのみが、魔術王がその手で自ら過去へ送ったもの故に。

 つまりそれは、ソロモンの生きた時代より更に前の時代にあるということです。

 魔術王はこう言ったでしょう、聖杯など、一つも六つも変わりはしない、と。

 つまりそれは、七つ目の聖杯に至った時、驚異とみなすということなのです。

 七つの聖杯を手に入れたら、ということではない。

 七つ目の聖杯こそ魔術王の絶対なる自信。

 それが復元されない限り、人理焼却は止められないでしょう、と。

 それを聞いて、Dr.が歓喜の声を上げた。

 それだけの情報があれば、時代の割り出しができる!と。

 礼には及びません、と彼女は言った後に俺達を見てこう言った。

 カルデアのマスターたちよ、この度の戦い、私から謝罪はしません、と。

 私は私の行いを、今でも正義であったと信じているから。

 護る手段や正しさ、善の有り様。

 そういったものは個人によって異なるものです。

 ──だから、貴方達は貴方達が正しいと、善いと信じる道を突き進んでください。

 きっと貴方達は、魔術王の居城を見る位置まで辿り着くでしょう。

 次の聖杯、最後の特異点は今までをずっと上回る巨悪がいるでしょう。

 ともすればそれは、魔術王すら上回る大魔。我ら人類の原初の罪。

 星を集めなさい、人間の悪性、どのような闇にも負けぬ煌く星を。

 強制退去が始まる、意識を集中して、というDr.の声が響く。

 さらば、私は──私達は、理想と共に滅びます。

 そう言った騎士王の隣にはケイが居て、早く帰れと言う。

 さようなら、と手を振れば、彼らは穏やかな笑みを浮かべてこちらに手を振った。

 

 

 ──Order Complete──

 

 




一ヶ月くらいかけて書いたからもしかしたらどっか矛盾とか生じてるかも。
チェックはしてるけどどろにんぎょうの頭はスカスカなので誤字とかも含めてその時はこっそり教えてください(土下座)
後はあれだ、いっぱい褒めて応援してくれ(乞食)
そしたらすぐ次投稿する(努力をする)から。

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。