いつもと変わらない平和な日常、とある一般家庭に新たな一つの生命が産まれた。
別段裕福でなし、貧しいわけでもない、どこにでもあるありふれた家庭に。
母親は腹を痛めて産んだ自分の子の誕生に涙を流し喜んだ。
父親は初めてできた息子との触れ合いと将来の希望に胸を弾ませた。
……その赤子がどのような存在かも知らずに。
その家庭に産まれた赤子は生まれた時から『特別』だった。
産声を一切あげず、ただひたすらに人の顔をじっと見つめた。
泣かせようとお尻を叩いても痛がる素振りさえ見せず叩いた人物をじっとその目で捉え続ける。
医者はそんな赤子を不気味な赤ん坊、悪魔の生まれ変わりではないかと罵った。
親はその言葉に反感を覚えたが、時が経つにつれ医者の言葉が正しいのではないか、本当に悪魔なのではないかと赤子に疑心を抱く。
泣かないのはいい。観察するようにじっと見つめるのもいい。
だがその目に潜む赤い匣はなんだ。
赤い線で囲われた匣が、赤子の左目には棲んでいた。
その異なる物に見られるとひどく気分が悪くなる。
まるで心をのぞき見られているような、自分の全てを見透かされているような、そんな気分に。
赤子は成長し少年へ。
成長する事に少年は特殊性を表し始める。
少年はいかなる嘘も見抜き、いつだって真実のみを言い当てた。
誰だって一つくらい隠し事を持っている。
だが少年の前には秘密など意味をなさず、建前という壁をすり抜け心を暴く。
そんな少年に人々は恐れを抱いた。
自分の罪を暴かれるのではないか、隠した本当の自分をを知られるのではないか、と。
いつしか少年は化物と呼ばれ始めた。
化物は人で
化物には人権などなかった。
外を歩けば石の雨。内に隠れれば暴力の嵐。
まともな食事は与えられず、体は傷つき、心は欠けた。
休めるところなどどこにもない。
救いなどどこにもない。
化物に味方なんていなかったのだ。
自分は所詮化物。
彼の心が壊れたとき、少年は本物の化物だと証明された。
焼け付く世界。ぽっかりと大穴を開けたアスファルト。
抉り取られ倒壊した建物。
引き裂かれ、焦げ付き、倒れ伏す人々。
そして返り血を浴びて真っ赤になった少年《化物》。
町一つという大規模な殺戮。
聞こてくるのは人々の
化物の瞳には生きた人間は映らない。
この町には人間なんていない。
いるのはたった
化物の目に映るのは地獄絵図。
地獄なんて瞳に映らないけど、あるとしたらきっとこんな景色を言うんだろう。
霞んだ瞳で町を見上げ、匣に映るのは曇天の空。
化物は力尽き、屍の町で一人眠った。
今更孤独なんてないけど、
それでも大切な、何かを失った
これから語るのは俺の物語。
取るに足らない、化物の生きた証。